説明

ソーベント

吸収剤組成物を製造する方法であって、(i)溶液またはスラリーから銅化合物層を支持材料の表面上に塗布するステップと、(ii)コーティングされた前記支持材料を乾燥させるステップとを含み、前記乾燥した支持体上の銅化合物層の厚さが、1〜200μmの範囲である方法を開示する。前記前駆体は、1種以上の硫黄化合物を塗布し、前記銅化合物を硫化させてCuSを形成することにより、液体または気体から重金属を除去するのに適した吸収剤に転換される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ソーベント(吸収剤・吸着剤)に関し、より詳細には、流体流から水銀、砒素およびアンチモンのような重金属を捕集するのに適した金属硫化物吸収剤に関する。
【背景技術】
【0002】
水銀は、炭化水素または他のガスおよび液体流のような流体流で少量存在する。また、砒素も、炭化水素流で少量存在し得る。水銀は、その毒性に加え、アルミニウム熱交換器およびその他処理装置の故障をもたらすことがある。したがって、プロセスフローシート内の流体流から可能な限り早期に、これらの金属を効率的に除去する必要がある。
【0003】
米国特許第4094777号には、水銀を含む天然ガス流から水銀の吸収のための硫化銅を含む予備硫化された吸収剤の使用が開示されている。その吸収剤は、粉末化された水酸化炭酸銅(塩基性炭酸銅ともいう)のような銅化合物を支持または分散材料、例えば、セメントと混合し、押出物またはグラニュールを形成することにより製造される。あるいは、前記吸収剤は、アルミナ球状体のような支持体に硝酸銅のような銅の可溶性化合物の溶液を含浸させることにより製造される。前記グラニュール、押出物または支持体内の銅化合物は、硫化水素を用いたり、水や有機溶媒に溶解した硫化物の溶液を用いて硫化される。
【0004】
微粒子状の炭酸銅を微粒子状の支持体またはセメントと結合すると、効果的な吸収剤が提供されるが、その銅の相当部分は、最終押出物またはグラニュール内で使用不可能な状態で残ることがある。現在、銅は高価な金属であり、グラニュール化または押出された製品で見られる、重金属への高い吸収力を維持するより低水準の銅を有する吸収剤を提供することが好ましい。硝酸銅が含浸された材料のような含浸材料は、十分な硫化のために、高い硫化温度または銀化合物の添加が必要な場合があるが、いずれも好ましくない。
【発明の概要】
【0005】
本発明者らは、既存の製造経路における問題点を克服する方法を見出した。
【0006】
したがって、本発明は、吸収剤組成物を製造する方法であって、(i)溶液またはスラリーから銅化合物の層を支持材料の表面上に塗布するステップと、(ii)コーティングされた前記支持材料を乾燥させるステップとを含み、前記乾燥した支持体上の銅化合物の厚さが、1〜200μmの範囲である方法を提供する。
【0007】
前記方法は、1種以上の硫黄化合物を塗布し、前記銅化合物を硫化させて硫化銅(II)のCuSを形成するステップをさらに含むことができる。
【0008】
また、本発明は、この方法により得られる吸収剤組成物であって、支持材料の表面上に層形態の硫化銅化合物を含む吸収剤組成物を提供する。
【0009】
さらに、本発明は、プロセス流体から重金属を除去する方法であって、重金属を含むプロセス流体を前記硫化された吸収剤と接触させることを含む方法を提供する。
【0010】
用語「吸収剤(sorbent)」は、吸着剤(adsorbent)および吸収剤(absorbent)を含む。
【0011】
本願で使われる用語「重金属」は、水銀、砒素、鉛およびアンチモンを含むが、本発明の吸収剤は、流体流から水銀および砒素、特に、水銀を除去するのに特に有用である。
【0012】
前記銅化合物は硫化できなければならない。すなわち、硫黄化合物と反応して硫化銅(II)のCuSを形成できなければならない。適切な銅化合物は、水酸化炭酸銅、硝酸銅、硫酸銅、酢酸銅、およびそれらのアミン錯体、すなわち、炭酸銅アミン、硝酸銅アミン、硫酸銅アミン、酢酸銅アミン、硫化銅(II)および酸化銅のうちの1種以上である。好ましい銅化合物は、塩基性炭酸銅のような炭酸銅化合物である。硝酸銅および硫酸銅は、任意の後続する硫化ステップの間にHNOまたはHSO化合物を発生するためより好ましくない。
【0013】
グラニュール化または押出された製品とは異なり、本発明の吸収剤の銅含量は比較的低く、好ましくは、非硫化材料に存在する銅の場合、0.5〜20重量%、より好ましくは0.75〜10重量%、最も好ましくは0.75〜5.0重量%の範囲である。この水準は、グラニュール化された材料内の銅の半分未満、一部の場合には1/3未満であるが、驚くべきことに、その効果は水銀捕集の面で当該製品に匹敵する。
【0014】
本発明において、吸収剤の銅を除いた硫化可能な全体の金属含量は5重量%未満であることが好ましい。これは、プロセス流体が遊離水(free water:自由水)を含む場合、使用中に溶解再析出および凝集の結果として圧力降下の増加および不活性化をもたらさないように、十分に低水準に合致する水溶性金属硫酸塩が形成されるようにするためである。好ましくは、前記硫化された吸収剤の銅を除いた全体の金属硫化物含量は1重量%未満、より好ましくは0.5重量%未満、特に0.1重量%未満である。汚染物質の金属硫化物は、硫化カルシウム、硫化亜鉛、硫化鉄、硫化ニッケル、硫化クロムおよび硫化マグネシウムのうちの1種以上であり得る。これらは、前記銅化合物または支持物質の汚染により導入可能である。汚染物質の金属硫化物の低水準は、高純度の銅化合物および支持体を選択し、前記組成物から汚染物質の金属化合物を除外することにより達成可能である。
【0015】
前記銅化合物は、支持体の表面上に層形態で存在する。前記乾燥した物質において、層の厚さは1〜200μm(マイクロメートル)の範囲であるが、好ましくは1〜150μm、より好ましくは1〜100μm、特に1〜50μmである。厚さが薄いほど、塗布された銅の使用はより効率的になる。硫化すれば、一般的に層の厚さは銅化合物に応じて変化しないか、少し薄くなる。本発明の吸収剤の銅化合物層は容易に十分に硫化可能である。
【0016】
前記支持材料は、セラミックまたは金属であり得るが、好ましくは、アルミナ、水和アルミナ、チタニア、ジルコニア、シリカもしくはアルミノシリケート、またはこれらのうちの2種以上の組合せのような酸化物支持体を含む。好ましくは、前記支持体は、得られる層の表面積が最大化できるように比較的高い表面積および孔隙率を有する。前記支持体は、好適には10〜330m・g−1、好ましくは100〜330m・g−1、より好ましくは130〜330m・g−1のBET表面積を有する。その孔隙体積は、好ましくは0.3〜0.9cm・g−1、より好ましくは0.4〜0.9cm・g−1である。前記支持体は、マクロポーラス(巨大多孔性)、メソポーラス(中間多孔性)またはマイクロポーラス(微細多孔性)であり得るが、巨大多孔性、すなわち50nm超の平均孔径を有することが好ましく、もしくは、中間多孔性、すなわち2〜50nmの範囲の平均孔径を有することが好ましい。前記材料において、孔隙体積の50%以上は前記孔隙に起因することが好ましい。巨大多孔性材料が本発明で有用であるが、その理由は、前記材料はその表面上に銅化合物を維持しようとする能力があるからである。そのBET表面積は、窒素物理吸着法(nitrogen physisorption)を用いて簡便に測定することができる。また、孔隙体積も窒素物理吸着法を用いて測定してもよいが、本発明では、孔隙体積が比較的大きいため、水銀孔隙率測定法(mercury porosimetry)を用いることがより好適であり得る。さらに、孔径もこの手法を用いて測定することができる。
【0017】
好ましい支持体は、ガンマ、シータおよびデルタアルミナのようなアルミナである。特に好ましい具体例において、前記支持体は、ガンマアルミナである。
【0018】
本発明において、前記銅化合物は支持体の表面に塗布される。前記支持体が多孔性の場合、前記銅化合物の一部は、前記支持体の表面にあるか、それに近接する孔隙に入ることができる。しかし、前記乾燥およびコーティングされた支持体での銅化合物層の厚さは1〜200μmの範囲で残っていなければならない。
【0019】
前記支持体は、発泡体、モノリスまたはハニカムの形態で提供されるか、構造体化パッキング(structured packing)上のコーティングの形態で提供され得る。このような支持体は、球状のグラニュール化された吸収剤と比較して吸収剤容器での圧力降下を減少させる。特に、適切な発泡支持体がEP−A−0260826号に記載されている。あるいは、前記支持体は、それを介して延びる2〜10のホールを有するもので、分葉または縦溝を有し得る円筒体、球状体、リング状体(例えば、ラシヒリング)、三分葉体および四分葉体からなる群より選択される成形微粒子単体の形態であり得る。高強度とともに、圧力降下の減少を提供する成形支持体が好ましい。4つのホールを有する円筒体、およびリング状体が特に好ましい。
【0020】
微粒子状の成形単体は、1〜50mmの範囲の幅、直径または長さ、および0.5〜5の範囲の縦横比(すなわち、幅または直径/長さ)であり得る最小寸法を有することが好ましい。3〜10mmの範囲の直径または幅を有する単体が工業的規模の吸収剤の用途に好ましいが、1〜5mmの単体も使用可能である。
【0021】
前記銅化合物の層は、複数の方法により支持体上に形成できる。一具体例において、塩基性炭酸銅のスラリーを塗布することにより、例えば、支持体を水性または非水性であり得るスラリーで浸漬または噴霧することにより炭酸銅の層が形成される。前記塩基性炭酸銅は、商業的に入手できるか、アルカリ性炭酸塩沈殿剤を用いて銅塩溶液から塩基性炭酸銅を沈澱させた後、洗浄して、当該アルカリ性金属塩を除去することにより新たに製造することができる。前記塩基性炭酸銅は、好ましくは、水性の液体媒質に分散される。その固体含量は10〜30%であることが好適であり得る。アルミナまたは水和アルミナゲルのようなバインダー材料がその層に含まれていてもよく、前記分散液の粉砕(milling)および混合のような他の通常のウォッシュコート製造手法を用いて、支持体のコーティング前に所望の粒度を達成することができる。前記支持体は、これをスラリー分散液に浸漬させるか、炭酸銅化合物のスラリー分散液を支持体上に噴霧することによりコーティングされ得る。複数の浸漬および/または噴霧が使用可能である。前記スラリーは、10〜95℃以上、または、好ましくは10〜50℃の温度範囲で支持体に塗布可能である。本発明者らは、前記スラリーのpHが吸収剤の硫黄保持力(capacity)に影響を与え、水銀吸収力に影響を与えることができることを確認した。前記塩基性炭化銅スラリーのpHは5〜9の範囲であることが好ましい。
【0022】
また、他の具体例において、前記銅化合物の層は、銅アミン化合物の溶液を支持体上に塗布し、それと同時にまたはその後に、前記支持体を50〜200℃の温度まで加熱することにより形成される。銅アミン化合物は、塩基性炭酸銅、酢酸銅または硝酸銅のような銅化合物を、周知の方法を用いて、選択的にアンモニア塩の存在下にアンモニア水溶液に溶解させることにより形成できる。例えば、Cu:NHのモル比が、好ましくは少なくとも1:4となるように、塩基性炭酸銅を炭酸アンモニウムと濃アンモニア溶液に溶解させることができる。前記溶液を加熱すると、アンモニアが放出され、支持体の表面上に銅化合物が析出する。含浸手法とは異なり、接触状態の銅アミン化合物を不安定化する、加熱された支持体を使用すると、支持体を介して引き続き銅が拡散するよりは、支持体の表面上に銅化合物の層が形成される。本発明において、前記加熱された支持体には、炭酸銅アミンを含む溶液が噴霧されることが好ましい。あるいは、前記支持体は、浸漬前またはその後に加熱されながら、銅アミン化合物溶液に浸漬されて除去されてもよいが、これはより好ましくない。銅アミン化合物の溶液で支持体のスラリーを形成することは好ましくないが、その理由は、加熱時に相当量の支持されない銅化合物が溶液から沈澱除去され得るからである。好ましい方法において、前記支持体は50〜200℃の範囲の温度まで加熱され、銅アミン化合物の溶液、好ましくは銅アミン化合物、好ましくは炭酸銅アミンの溶液が前記加熱された支持体上に噴霧される。こうすれば、アンモニアが放出されながら、支持体の表面上に銅化合物の薄く砕けやすい層が直ちに形成される。
【0023】
前記コーティングされた支持体は、硫化前に乾燥して硫化反応を妨害し得る任意の溶媒、例えば、水が除去される。しかし、その乾燥温度は、銅化合物のバルク分解を回避するために、好ましくは200℃未満、より好ましくは150℃未満に維持される。前記コーティングされた支持体は、空気中にて、1〜16時間、約70〜105℃で乾燥することが好適であり得る。
【0024】
前記乾燥していないかまたは乾燥した材料は、例えば、これを空気または不活性ガスで250〜500℃の範囲の温度まで加熱することにより焼成されて銅化合物を酸化銅(II)に転換させることができるが、これは必須ではない。その理由は、本発明者らは、析出した銅化合物が前記追加のステップなしにも直接硫化できることを確認したからである。
【0025】
銅化合物を硫化銅(II)のCuSに転換する硫化ステップは、通常の方法を用いて実施できる。したがって、前記硫化ステップは、前記層の硫黄化合物を、硫化水素、アルカリ金属硫化物、硫化アンモニウム、元素硫黄および多硫化物から選択された硫黄化合物と反応させることにより実施できる。硫化水素を含む気体混合物を使用することは、多硫化物のような硫黄化合物または硫黄溶液のような他の物質を用いることより極めて容易かつ迅速である。前記気体混合物は、必要な場合、硫化カルボニルまたは揮発性メルカプタンのような他の硫黄化合物を含むことができる。前記硫化化合物は、他の気体との混合物として使用されることが好ましい。窒素、ヘリウムまたはアルゴンのような不活性気体がその過程を調整するための便利な手段である。二酸化炭素を使用してもよい。前記硫化気体混合物は、水素および一酸化炭素のような還元気体がないことが好ましいが、前記気体は、硫化ステップが150℃未満、特に100℃未満で行われる場合には存在することができる。硫化水素は0.1〜5容積%の濃度で気体流内の炭化銅層に提供されることが好ましい。1〜100℃の範囲の硫化温度が使用可能である。
【0026】
前記硫化ステップは硫化剤が通過する硫化容器で現場外(ex−situ)で前記乾燥した吸収剤前駆体組成物に対して実施できるか、前記硫化ステップは原位置で(in situ)実施できるが、この場合、吸収剤前駆体は、吸収剤が重金属を吸収するために用いられる容器に設けられて硫化される。原位置の硫化は、硫化剤流を用いて達成できるか、重金属含有流が硫黄化合物を含む場合には、その重金属含有流自体を用いて達成できる。このような同時的な硫化および重金属の吸収が起こる場合、存在する硫黄化合物の量は、使用される硫黄化合物および金属化合物の形態に応じて異なる。一般的に、重金属濃度(v/v)に対する硫黄化合物(硫化水素と表示)濃度(v/v)の割合として定義される濃度比は、前駆体を十分に硫化させるために、少なくとも1、好ましくは少なくとも10である。供給流内の硫黄化合物の初期濃度が、重金属濃度に対する硫黄化合物の所望の比を設定するために必要な水準より低い場合、その硫黄化合物の濃度は、任意の適切な方法を用いて増加させることが好ましい。
【0027】
本発明にかかる吸収剤は、処理される流体が遊離水を含む場合、予備硫化されることが好ましい。また、予備硫化(pre−sulphiding)は、硫化ステップで発生し得る吸収剤の体積および強度の変化に伴う問題を回避する。
【0028】
硫化された吸収剤は、好適には10〜330m・g−1、好ましくは100〜330m・g−1、より好ましくは130〜330m・g−1の範囲のBET表面積および0.3〜0.8cm・g−1、より好ましくは0.4〜0.7cm・g−1の孔隙体積を有する。
【0029】
本発明は、重金属、特に、水銀および砒素、より特に水銀を含む液状および気体状流体を処理するために使用できる。一具体例において、前記流体は炭化水素流である。前記炭化水素流は、ナフサ(例えば、5個以上の炭素数および204℃以下の最終常圧沸点を有する炭化水素を含むもの)、中間蒸溜物または常圧ガスオイル(例えば、177〜343℃の常圧沸点範囲を有するもの)、真空圧ガスオイル(例えば、343〜566℃の常圧沸点範囲)、残渣(566℃超の常圧沸点)、または、例えば、触媒改質により前記供給原料から製造された炭化水素含有オイルのような精製炭化水素流であり得る。また、精製炭化水素流には、FCC工程で用いられる「サイクルオイル」のようなキャリア流および溶媒の抽出で用いられる炭化水素がある。また、前記炭化水素流は、未精製オイル流(特に、未精製オイルが比較的硬質の場合)または、例えばタールオイルまたは石炭の抽出から製造される合成未精製流であってもよい。気体状炭化水素、例えば、天然ガスまたは精製パラフィンまたはオレフィンは、本発明の方法を用いて処理することができる。特に、オフ−ショア(off−shore:海洋、海上)未精製オイルおよび海洋天然ガス流が本発明の吸収剤を用いて処理可能である。また、ガソリンまたはディーゼルのような汚染した燃料も処理可能である。あるいは、前記炭化水素は、天然ガス液体(NGL)または液化石油ガス(LPG)のような凝縮液、液化天然ガス、または石炭層メタン、埋立地ガスおよびバイオガスのようなガスであってもよい。
【0030】
本発明により処理可能な非炭化水素流体としては、炭酸飲料、強化オイル回収工程、炭素の捕集および貯蔵で使用可能な二酸化炭素、コーヒーのカフェイン除去、香味料および芳香剤抽出、石炭の溶媒抽出用溶媒などがある。洗浄工程および乾燥工程で用いられるアルコール(グリコールを含む)およびエーテル(例えば、トリエチレングリコール、モノエチレングリコール、RectisolTM、PurisolTMおよびSelexolTM)のような流体も、本発明の方法により処理可能である。また、水銀が酸ガス除去装置で用いられるアミン流から除去できる。植物性および魚類油のような天然油脂も、選択的にバイオディーゼルを形成するための水素化およびエステル交換のような追加処理後、本発明の方法により処理可能である。
【0031】
処理可能な他の流体流としては、分子篩の排出ガスのような脱水装置の再生ガス、またはグリコール乾燥器の再生からのガスがある。
【0032】
また、前記吸収剤により処理可能な流としては、重金属および硫黄化合物をすべて含むもの、例えば、特定の天然ガス流、または水銀および砒素の吸収を達成するために硫黄化合物が添加された水銀および/または砒素含有流を挙げることができる。
【0033】
本発明は、流体が、好ましくは0.02〜1容積%の低水準で遊離水を含む場合に特に有用である。5%容積%以下のより高水準が短期間許容できる。本発明の吸収剤は、水に長期間露出させた後、乾燥ガス、好ましくは、窒素のような乾燥不活性ガスを用いてパージングすることにより簡単に再生できる。
【0034】
好ましくは、水銀の吸収は、150℃未満、好ましくは120℃未満の温度で行われるが、この温度では、全体の水銀吸収力が増加する。4℃程度の低い温度が本発明で良好な効果のために使用可能である。好ましい温度範囲は10〜60℃である。
【0035】
前記水銀は、水銀元素または有機水銀化合物の形態であり得る。本発明は、水銀元素を除去するうえで特に効果的であるが、他の形態の水銀も短期間に除去できる。一般的に、気体供給流内の水銀の濃度は、0.01〜1100μg/Nm、より一般的には10〜600μg/Nmである。
【0036】
使用において、前記吸収物質が吸収容器に配置され得、重金属を含む流体流がその吸収物質を通過する。好ましくは、前記吸収剤は、周知の方法により1つ以上の固定層の形態で容器内に配置される。1つ以上の層が使用可能であり、それら層は組成が同一または異なっていてもよい。前記吸収剤を通過する気体の時間当たりの空間速度(gas hourly space velocity)は一般的に使用される範囲であり得る。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明を下記の実施例を参照してより詳細に説明する。特に言及しない場合、下記の分析ツールを用いた。
i)硫黄。硫黄含量に対する分析は、燃焼およびその後の二酸化硫黄の赤外線測定によりLECO SC632を用いて行った。
ii)BET表面積および孔隙構造の分析。これは、通常の窒素物理吸着法を用いて測定した。試料をBET表面積および等温測定に先立ち、窒素パージを用いて140℃で1時間排気させた。
iii)水銀孔隙率測定法。試料を、水銀の導入前に、増加する圧力下、115℃で16時間乾燥させ、孔隙体積を測定した。
iv)銅含量。CuをICP−OESを用いて測定し、通常の標準方法を用いて計算した。
v)炭酸銅の厚さ。層厚さは電子探針微細分析法(EPMA)を用いて測定した。試料を樹脂内に配置し、研磨および真空炭素コーティングした後、20kVの加速電圧でイメージを採取した。
【0038】
実施例1:塩基性炭酸銅のウォッシュコート
ウォッシュコートの製造:塩基性炭酸銅(81g)およびSasol社製Disperal P3[高純度の分散性アルミナバインダー](9g)を、210gの脱塩水に添加した。そのスラリーを高速混合器で混合し、粉砕して、所望の粒度を得た。粉砕後、pHは5.9で、粒度(d90)は4.4ミクロンであった。
【0039】
噴霧コーティング:100gのガンマ、デルタ−シータまたはアルファアルミナ球状体(1mm直径)をホイルライニングされたパンコータ内にロードし、12gのウォッシュコートを噴霧した。その支持体を25〜65℃で引き続き維持した。
【0040】
前記コーティングされた支持体を105℃で16時間乾燥させた。前記乾燥した材料の銅含量は2.53〜3.66重量%であった。
【0041】
硫化:60mlのコーティングされた材料を、Nで1%のHSを用いて十分に硫化させた。前記気体の流量は1時間当たり42リットルで、その硫化は周囲温度および圧力で行った。
【0042】
前記硫化された材料の場合、25〜50μmの銅層厚さが観察された。
【0043】
実施例2:炭酸銅アミン[Cu(NH(CO)]
炭酸アンモニウム(46.18g、0.294mol)を適切に加熱しながら、アンモニア溶液(100ml、1.8mol)に溶解させた。水酸化炭酸銅(20.22g、9.98gのCu、0.17mol)を前記炭酸アンモニウム/アンモニア溶液に添加して撹拌し、溶解させた。得られる溶液は、93.1g.L−1の銅を含むことが測定された。
【0044】
ガンマ、デルタ−シータまたはアルファアルミナ球状体(1mm直径)を50℃、80℃または150℃まで加熱し、前記炭酸銅アミン溶液を噴霧した。
【0045】
そのコーティングされた支持体を105℃で16時間乾燥させた。その乾燥した材料の銅含量は0.98〜1.46重量%であった。
【0046】
前記コーティングされた材料を実施例1の方法を用いて硫化させた。
【0047】
前記乾燥したガンマアルミナ支持材料上の銅層厚さをEPMAで測定した結果、各場合ごとに約47μmであった。前記乾燥したデルタ−シータ支持体は41μmの銅層厚さを有し、前記乾燥したアルファアルミナ支持体は28μmの銅層厚さを有していた。
【0048】
前記実験を120℃でガンマアルミナ支持体に対して繰り返したが、実施例1の方法を用いた硫化前に、350℃で2時間焼成して炭酸銅層を酸化銅に転換させた。その焼成された材料の銅含量は3.33重量%であった。
【0049】
その硫化された酸化物材料上の銅層厚さは20〜40μmの範囲であることが観察された。
【0050】
実施例3:炭酸/酢酸銅アミン
酢酸アンモニウム(22.64g、0.294mol)をアンモニア溶液に溶解させた。
【0051】
塩基性炭酸銅[Cu(OH)2CO](221g/mol、Alfa Aesar)(20.22g、9.98gのCu、0.17mol)を撹拌しながら、少量ずつ添加した。
【0052】
アルミナ支持体のガンマアルミナ球状体(1mm直径)を150℃まで加熱し、前記炭酸/酢酸銅アミン溶液を噴霧した。
【0053】
そのコーティングされた支持体を105℃で16時間乾燥させ、350℃で2時間焼成した。その焼成された材料の銅含量は0.78重量%であった。
【0054】
その焼成された材料を実施例1の方法を用いて硫化させた。
【0055】
その乾燥したガンマアルミナ支持体上の銅層厚さは10μmであった。
【0056】
実施例4:水銀静止試験
水銀元素が飽和された30mlのn−核酸を30mlの純粋な核酸に希釈し、300−700ppb(w/v)のHg濃度を得て、PTFE磁気撹拌棒を備えた100mlの円錐状フラスコに移し、5分間、中間速度のセット(setting)上で撹拌した。0.50gの各々の試験材料を秤量し、前記円錐状フラスコに添加した。その懸濁液を中間速度のセット上で20分間撹拌し、微粒子の形成を回避した。その懸濁液の試料を20分ごとに採取し、水銀元素定量のためのPSA変形のヒューレットパッカード社製6890GC上で原子蛍光法で分析した。一次速度定数のk(min−1)を、反応時間に対するln(Hg/Hg)のプロット(plot)の勾配として測定した。
【0057】
実施例1〜3の方法により製造した試料を前記方法を用いてテストした。その結果は、以下のとおりである。
【0058】
【表1】

【0059】
最良の結果は、ガンマアルミナ上に塩基性炭酸銅のスラリーを噴霧した場合に得られた。その材料に露出した時間に応じた水銀の濃度は、以下のとおりである。
【表2】

【0060】
材料1を商業的に入手可能なグラニュール化された銅−亜鉛酸化物/アルミナ水銀吸収剤と比較分析して多孔性を評価した。
【0061】
【表3】

【0062】
本発明により製造された製品の場合、BET表面積の差が明らかに確認できる。孔隙構造の測定のために、水銀孔隙率測定法は、中間孔隙の場合により適切であり、N物理吸着法とともに、孔隙構造をより明確に示す。
【0063】
【表4】

【0064】
材料1は、このような測定による中間多孔性である。
【0065】
実施例5:流テスト
材料1および6、および比較のための商業的に入手可能なグラニュール化された銅−亜鉛酸化物/アルミナ製品を、1%のHS/Nで飽和されるように硫化させた。25mlの前記硫化された吸収剤を管状の実験室規模の吸収容器(内径19mm)に装入した。水銀元素が約1.2ppm(w/v)まで飽和されたN−核酸を周囲温度(約25℃)および7.0hr−1の液体時間当たりの空間速度(LHSV)で前記層に通過させた。反応器の出口ラインから試料を採取し、PSA変形のヒューレットパッカード社製6890GC上で原子蛍光法で分析し、水銀のレベルをモニタリングした。テスト終了時、その層を真空により9個の同じ不連続亜層(sub−bed)に排出し、ICP−放出分光分析法により全体の水銀含量(w/w)を分析した。
【0066】
すべての材料は750時間テストに用いたが、出口流において、一貫性のある水銀スリップが観察されなかった。回収した材料の分析結果を、以下に示す。
【0067】
【表5】

【0068】
材料1は、前記商業的に入手可能な製品と比較して、4.5〜5重量%のHgにおいて、入口層で優れた水銀の捕集を示す。また、そのプロファイルは鋭かったが、大部分の水銀が入口の2つの層により除去され、その残りの層は水銀を微量水準に低下させるのに用いられた。材料6は、約2.5重量%のHgで飽和に逹し、別のプロファイル形状をもたらすものと見られる。
【0069】
実施例6:pHの影響
1mmのガンマアルミナ球状体上に塩基性炭酸銅のスラリーウォッシュコートを噴霧コーティングすることにより、実施例1の方法により2つの吸収剤を製造した。その2つの銅含量は、約3.6重量%と実質的に同一であった。唯一の違いは、塩基性炭酸銅スラリーウォッシュコートのpHであった。材料1の場合、pHは6.0〜6.5であった。材料11の場合、pHは噴霧コーティング用スラリーを薄くするために、水酸化テトラメチルアンモニウムを用いて上昇させた。
【0070】
硫化時の炭酸塩の100%転換率を仮定すると、2つの材料の場合、1.8重量%の硫黄がロードされなければならない。しかし、達成される実際の硫黄ロード量は、材料1の場合に1.57%のS(87%の転換率)で、材料11の場合には0.69%のS(38%の転換率)であった。
【0071】
流(flowing)試験の間、層プロファイルは非常に異なっていたが、材料11の場合、以下のとおり、入口層で飽和に逹したように見えた。
【0072】
【表6】

【0073】
pH6〜6.5の材料は、pH10で用いられた材料より優れていることが確認された。
【0074】
実施例7:巨大多孔性材料
ウォッシュコートの製造:実施例1の方法により塩基性炭酸銅ウォッシュコートスラリーを製造した。
【0075】
コーティング:15mmの外径、0.4m/gの表面積および0.09cm/gの孔径を有するリング形態の巨大多孔性アルファアルミナ支持材料を用いた。30gの前記アルミナ支持体をウォッシュコートスラリーに10分間浸漬させ、その表面をコーティングした。そのコーティングされた支持体を105℃で16時間乾燥させた。そのコーティングされたリング形成体を1〜2mmの粒度に粉砕した。その乾燥した材料の銅含量は3.5重量%であった。
【0076】
硫化:20mlの前記粉砕された材料を、Nで1%のHSを用いて十分に硫化させた。前記気体の流速は1時間当たり42リットルで、前記硫化は周囲温度および圧力で行った。
【0077】
得られる材料を、実施例5の方法による流試験でn−核酸からの水銀の除去に対してテストした。その材料は750時間テストで用いたが、出口流において、一貫性のある水銀スリップが観察されなかった。回収した材料の分析結果を、以下に示す。
【0078】
【表7】

【0079】
そのプロファイルは鋭かったが、大部分の水銀が入口の2つの層により除去され、残りの層は水銀を微量水準に低下させるのに用いられた。
【0080】
実施例8:気体相テスト
実施例1の方法により硫化された吸収材料を製造した。その硫化された吸収剤の銅含量は約2重量%であった。
【0081】
気体相で水銀を捕集するための吸収剤の能力を、以下のように測定した。4mlの吸収材料を5mmの内径のガラス反応器に装入した。約17ppb(w/v)の水銀元素を含む窒素を大気圧および周囲温度で400hr−1のGHSVで前記吸収材料上で下向くように通過させた。この条件下、テストを1173時間行った。テスト終了時、反応器を純窒素ガスでパージングした後、反応器から吸収材料を放出した。その吸収剤を酸分解後、ICP−OES分析により水銀含量に対して分析した。その結果は、層を通した鋭いプロファイルとともに、2重量%未満の水銀の捕集を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸収剤組成物を製造する方法であって、
前記方法が、
(i)溶液またはスラリーから銅化合物の層を支持材料の表面上に付与し、
(ii)被覆された前記支持材料を乾燥することを含んでなり、
前記乾燥した支持体上の銅化合物層の厚さが、1〜200μmの範囲である、方法。
【請求項2】
前記銅化合物層の厚さが、1〜150μm、好ましくは1〜100μm、より好ましくは1〜50μmの範囲である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記吸収剤が、0.5〜20重量%の銅を含んでなる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
銅を除いた、前記吸収剤における全体の硫化可能な金属含量が、5重量%未満である、請求項1〜4の何れか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記銅化合物が、水酸化炭酸銅、硝酸銅、硫酸銅、酢酸銅、それらのアミン錯体、硫化銅(II)および酸化銅のうちの1種以上を含む、請求項1〜4の何れか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記支持材料が、アルミナ、水和アルミナ、チタニア、ジルコニア、シリカもしくはアルミノシリケート、またはこれらのうちの2種以上の混合物を含んでなる、請求項1〜5の何れか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記支持材料が、アルミナである、請求項1〜6の何れか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記支持体が、発泡体、モノリスまたはハニカムの形態、或いは構造体化パッキング上の被覆物の形態である、請求項1〜7の何れか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記支持体が、それを介して延びる2〜10のホールを有する円筒体、球状体、リング状体、三分葉体および四分葉体からなる群より選択される成形微粒子単体の形態である、請求項1〜7の何れか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記支持体が、10〜330m・g−1のBET表面積と、および0.3〜0.9cm・g−1の範囲の孔隙体積を有してなる、請求項1〜9の何れか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記支持体が、マクロポーラスおよび/またはメソポーラスである、請求項1〜10の何れか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記銅化合物の層が、前記支持体を塩基性炭酸銅のスラリーに浸漬し、或いは、前記スラリーを噴霧することにより形成される、請求項1〜11の何れか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記スラリーのpHが、5〜9の範囲にある、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記銅化合物の層が、
銅アミン化合物の溶液を支持体上に塗布し、それと同時にまたはその後に、
前記支持体を50〜200℃の範囲の温度まで加熱することにより形成されてなる、請求項1〜11の何れか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記銅アミン化合物が、炭酸銅亜鉛を含んでなる、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記支持体が、50〜200℃の範囲の温度まで加熱され、その加熱された支持体上に銅アミン化合物の溶液が噴霧されてなる、請求項14または15に記載の方法。
【請求項17】
前記乾燥および被覆された支持体を焼成し、銅化合物を酸化銅(II)に転換することをさらに含んでなる、請求項1〜16の何れか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記層に1種以上の硫黄化合物を塗布し、
前記銅を硫化し、硫化銅(II)を形成することをさらに含んでなる、請求項1〜17の何れか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記硫黄化合物が、硫化水素である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
請求項1〜17の何れか一項に記載の方法により得られる、吸収剤前駆体組成物。
【請求項21】
請求項18または19に記載の方法により得られる吸収剤前駆体組成物であって、
支持材料の表面上にCuSを含む層の形態において、硫化された銅化合物を含んでなる、組成物。
【請求項22】
前記硫化された吸収剤内における、銅を除いた金属硫化物の全体量が1重量%未満である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
プロセス流体から重金属を除去する方法であって、
前記流体を、請求項20に記載の吸収剤組成物、または請求項1〜17の何れか一項に記載の方法により製造された吸収剤組成物と接触することを含んでなり、
前記流体が、1種以上の硫黄化合物、好ましくは硫化水素を含んでなる、方法。
【請求項24】
プロセス流体から重金属を除去する方法であって、
前記流体を、請求項21または22に記載の吸収剤、または請求項18または19に記載の方法により製造された吸収剤と接触させることを含んでなる、方法。
【請求項25】
前記重金属が、水銀および/または砒素である、請求項23または24に記載の方法。
【請求項26】
前記流体が、炭化水素流である、請求項23〜25の何れか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記重金属を含む流体が、0.02〜5容積%の範囲の量で遊離水を含んでなる、請求項23〜26の何れか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記流体が、オフショア炭化水素流、または炭化水素脱水装置からの再生流である、請求項23〜27の何れか一項に記載の方法。

【公表番号】特表2013−502310(P2013−502310A)
【公表日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−525208(P2012−525208)
【出願日】平成22年8月10日(2010.8.10)
【国際出願番号】PCT/GB2010/051318
【国際公開番号】WO2011/021024
【国際公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【出願人】(590004718)ジョンソン、マッセイ、パブリック、リミテッド、カンパニー (152)
【氏名又は名称原語表記】JOHNSON MATTHEY PUBLIC LIMITED COMPANY
【Fターム(参考)】