説明

ソーラーヒーティングのためのゾルゲルに基づく吸収体被覆の製造法

以下の工程:ゾルゲル技術により支持体をチタン前駆体溶液で被覆し、二酸化チタン薄膜を作製する工程、及び被覆された支持体を熱処理し、前記薄膜を熱分解及び結晶化する工程を含む、太陽光吸収体被覆の製造法において、チタン前駆体溶液を、被覆の前に、熱処理された薄膜が10%〜80%の銀質量割合を有するような量で銀イオンと混合し、かつ薄膜の熱分解及び結晶化を薄膜の可視光照射下に行うことを特徴とする方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゾルゲル法に基づいており、かつ薄膜を十分に任意の支持体上に施与することのできる、ソーラーヒーティングのための吸収体被覆の製造法に関する。
【0002】
太陽集熱器は、可視光を吸収し、かつこの電磁エネルギーを熱に変換することにより、入射する太陽放射を利用している。この熱は一般に蓄熱性の流動媒体に放出され、流路を経て蓄熱リザーバーに供給される。太陽集熱器面は、典型的には、管中に導かれた蓄熱媒体への良好な熱輸送を保証するために、導管が溶接された、被覆された銅−又はアルミニウム薄板からなる。
【0003】
最終的に達成可能な有効熱は、本質的に集熱器被覆の吸収能に依存し、前記吸収能は、理想的には全ての太陽光スペクトルの光に関して高くなければならない。しかしながら、そのように取得された熱は同時に赤外線スペクトルにおいて過度に放射されてはならない。従って、被覆に対して、付加的に、約2000ナノメートルを上回る波長領域内でのわずかな放射能力が必要とされ、該放射能力には、前記スペクトル領域内での高い反射率が付随する。
【0004】
上記の要求に相応する吸収体被覆はすでに市販されており、かつ選択的と呼称されている。大表面的な作製は、高度に最適化された被覆装置において、例えば連続する銅帯上への例えば物理蒸着(PVD)により可能であり、その際、毎時数m2の被覆面を達成することができる。更に、スパッター法及びCVD/スパッター法の組み合わせも公知である。しかしながらこれは、多大な装置費用を伴う高真空プロセスである。他の情報に関しては、ここで、刊行物Fachinformationszentrum Karlsruhe 発行、BINE InformationsdienstのBINE projektinfo 5/99が指摘される。
【0005】
頑強で、永続的に接着し、熱的及び化学的に長時間安定な被覆は、公知の通りゾルゲル被覆法によっても作製可能である。このような方法の利点は、装置及びプロセス制御に対する要求がわずかであることに加え、組成及び薄膜構造に関して使用可能な材料が極めて多様であること、ほぼ任意の非平面的な面を被覆できること、エネルギー需要が比較的わずかであること、及びとりわけ、他の公知の方法を用いた場合には是認できないか又はほぼ是認できない費用を伴って実現可能であるような多機能薄膜を、種々の被覆工程を組み合わせて作製できることである。従って、ゾルゲル法を用いた太陽光吸収体被覆の作製が今日まであまり注目されてこなかったことは、極めて驚異的に思われる。
【0006】
現在公知である唯一の例外であると共に最も近い従来技術は、特許明細書DE−C2 10121812であり、該特許明細書は浸漬被覆による選択的な吸収体被覆の製造法の特許権を保護している。これに関して、マグネシウム含有アルミニウム薄板上にチタン含有酸化物薄膜が形成され、該酸化物薄膜はいわゆる選択的吸収構造要素を含むのが望ましい。しかしながら、前記刊行物からは、この「構造要素」がどのような特性及び起源であるのが望ましいのかが明らかでない。このため、まず、具体的に、支持体の二酸化チタン被覆を吸収体と考えることができるのではないかという疑いが生じる。しかしながら、実験結果(図1も参照のこと)は明らかにこれと矛盾している。従って、ここでMg−Al−支持体との具体的な関連が発明の本質であり、かつ、支持体表面自体の酸化が −恐らく硝酸の混入により?− 生じ、記載された吸収体効果が達成されるものと想定される。これが正しければ、ここでは、古典的なゾルゲル被覆ではなく、化学的な表面処理が用いられたことになる。それはともかく、DE−C2 10121812の教示には、該特許明細書に記載された被覆が、複数の −又はましてや十分に任意の− 支持体のための太陽光吸収体被覆であり得ると信ずるに足りる理由が存在しない。
【0007】
従って本発明の課題は、薄膜を公知のゾルゲル被覆法(吹き付け、浸漬、スピン)を用いて種々の支持体、特に銅、アルミニウム、特殊鋼又はガラス上に形成させることのできる、ソーラーヒーティングに有利な吸収体被覆の製造法を示すことである。
【0008】
前記課題は、請求項1記載の特徴を有する太陽光吸収体被覆の製造法により解決される。従属請求項は有利な実施態様を示す。
【0009】
本発明による方法は、前駆体溶液の使用下に二酸化チタン薄膜で支持体を被覆し、その際、該薄膜をゾルゲル法を用いて支持体上に施与し、かつ引き続き熱処理するという自体公知の慣用の方法であるが、今や、以下の2つの本発明による工程が拡張されている:
−前駆体溶液を、被覆の前に、事後の乾燥したTiO2/Ag薄膜中の銀質量割合が10%〜80%、特に有利に50%〜70%となるように、(例えば硝酸銀溶液の形の)銀イオンと混合すること;
−被覆された支持体に、熱処理全体(乾燥及び結晶化)の間に、可視光を(有利に25W/cm2〜70mW/cm2の範囲内の光出力密度で)照射すること。
【0010】
本発明による前記方法の効果は、被覆の吸収能が、可視光(約400〜700nm)に関しては著しく増加し、かつ、引き続く近赤外線スペクトルに関して、即ち、極めて幅広いスペクトル領域内で低下傾向を示すことであり、その際、前記効果は本質的に使用される銀濃度に依存する。10%〜80%の銀質量割合を有する薄膜に対して実験を実施し、その際、50%〜70%の範囲が特に良好な結果をもたらすことが判明した。
【0011】
上記の作用は以下の図により明確に示される:
図1は、反射率R、透過率T及び吸収能Aの測定値を有する、ガラス支持体上の純粋なTiO2薄膜(アナタース形、厚さ100nm)に関する光度測定の結果を示し;
図2は、銀の質量割合70%を有し、かつ光下で熱分解及び結晶化されたTiO2/Ag薄膜(100nm)に関する、比較のための図1と同一の測定を示し;
図3は、銅支持体上の銀の質量割合70%を有するTiO2/Ag薄膜(100nm)の反射測定を示す。
【0012】
図1から明らかであるように、純粋な二酸化チタン薄膜は太陽光吸収体としては不適当である。100nmのTiO2で被覆されたガラス板の透過能、反射能及び吸収能(T、R、A)が示されている。ガラス板自体を被覆なしでも測定したため、示された測定値をここから補正し、かつ薄膜特性と理解することができる。純粋なTiO2は、約2700nmまで、入射した光出力の約80%を透過し、残りを反射する。吸収は赤外線において2700nmを超えてはじめて10%を上回る。
【0013】
同じガラス板を、本発明の教示により、厚さ100nmの薄膜TiO2/Ag(銀質量割合70%)で被覆し、上記の通りに測定した。図2から、前記薄膜が可視光波長領域(約400〜700nm)内で良好に光の70〜80%を吸収し、残りの大部分を反射し、わずかな光のみを透過することがわかる。この、純粋なTiO2とは根本的に相違する挙動は、より高い波長になるにつれて幾分"正常化"し;2000nmで、T:R:Aの比は本発明による薄膜に関して約55:35:10であるのに対し、TiO2に関して約80:15:5であることがわかる(図1を参照のこと)。
【0014】
本発明による被覆をソーラーヒーティングに適用する場合、前記被覆を、通常は金属薄板、特に銅、アルミニウム及び特殊鋼上に施与することができる。この場合、窒素雰囲気又はフォーミングガス雰囲気を準備するのが望ましい。それというのも、さもなければ、材料が酸化し、良好な付着が損なわれ得るためである。図3は、銅薄板上の厚さ100nmのTiO2/Ag薄膜(銀質量割合70%)に関する反射率測定の結果を示す。反射率は可視光スペクトルにおいて約10%であるか又はそれどころか10%未満であり、約2300nmまでゆっくりと増加して約20%となる。2300nm以降、反射率は強度に増加し、3000nmで約60%となる。技術的な理由から(測定範囲の制限)、反射率を3000nmを上回って追跡することはできなかった。しかしながら、例えば本発明により被覆された銅薄板が、まさに選択的な太陽光吸収体に要求される特性を示すことはすでに明らかである。
【0015】
ソーラーヒーティング被覆の場合、光学的特性の他に、更に、支持体への付着並びに気候的極限下での化学的及び熱的安定性(例えば強力な太陽光入射における蓄熱媒体の停滞)も重要である。純粋な二酸化チタンは前記条件を抜群に満たす。これについては、銀の添加によってもほとんど変わらないが、TiO2−Ag−複合薄膜は抗菌性であり、かつ防汚特性を有する。これは、不所望な汚損 −例えば菌類培養− に対する有利な防御と解釈することができる。当然のことながら、ゾルゲル法は他の公知の方法のように、深さに依存した材料分布、つまり例えば薄膜厚に関する銀勾配をも可能にする。従って、間接的に金属支持体を介して光を吸収するが、他方では、薄膜表面に向かうにつれてより一層少ない銀を有するため、表面自体は純粋なTiO2からなる吸収体薄膜が考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】反射率R、透過率T及び吸収能Aの測定値を有する、ガラス支持体上の純粋なTiO2薄膜(アナタース形、厚さ100nm)に関する光度測定の結果を示す図。
【図2】銀の質量割合70%を有し、かつ光下で熱分解及び結晶化されたTiO2/Ag薄膜(100nm)に関する、図1と同一の測定を示す図。
【図3】銅支持体上の銀の質量割合70%を有するTiO2/Ag薄膜(100nm)の反射測定を示す図。
【実施例】
【0017】
実施例
ゾルの調製
0.6モルの溶液200mlを調製するために、2−メトキシエタノール20ml及びアセチルアセトン(Hacac)をガラスビーカー中に装入する。その後、チタン−イソプロポキシドを添加する。この混合物を30分間撹拌する。
【0018】
第二の溶液として、2−メトキシエタノール20mlを水と混合する。30分間撹拌した後、水を含有する溶液をチタン−アセチルアセトン−錯体に添加し、更に30分間撹拌する。
【0019】
銀溶液のために、2−メトキシエタノール20mlをガラスビーカー中に装入する。その後、AgNO3及びピリジンをこれに添加し、その後、この錯体を同様に30分間撹拌する。その後、この銀溶液を、安定化及び加水分解したチタン溶液に添加することができる。有利に、薄膜形成特性の改善のために、ゾルに、更に、ポリエチレングリコール400 4gを添加する。
【0020】
30分間撹拌した後、溶液に2−メトキシエタノールを充填して200mlにし、引き続き濾過する。
【0021】
用いた化学量論:
−Ti−isoprop.:Hacac:H2O=1:0.5:4(モル)
−AgNO3:ピリジン=1:15(モル)
【表1】

【0022】
被覆の作製
試料の製造をスピンコーティング、浸漬被覆又は吹き付けにより行う。一般に、作製された薄膜は厚さ100nmである。熱分解を350℃で行う。熱分解の間、薄膜に恒常的に照射しなければならない。熱分解後、試料は、未照射の試料に比べて明らかに濃色であると認められる。その後、温度を500℃に高め、光下で上記のように30分間結晶化させる。熱処理を最高で500℃までの温度に制限することによって、本質的に多結晶質のTiO2がアナタース形で生じることが保証される。これは、ここに記載された方法のために特に有利であるものと考えられる。
【0023】
試料への照射を、実験室実験において、慣用の白熱灯(60W、100W)を用いて行い、その際、ランプを試料の方に向け、かつ約10〜20cmの間隔で配置した。ランプは全可視スペクトルにおける光を放出し、かつ熱放射を生じた。同様に、試料に、有利に約550nmの波長の緑色レーザーを照射することも可能である。入射された光出力密度を試料の位置で測定することにより、光が有利に25〜70mW/cm2で入射するのが望ましいことが判明した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程:
ゾルゲル技術により支持体をチタン前駆体溶液で被覆し、二酸化チタン薄膜を作製する工程、及び
被覆された支持体を熱処理し、前記薄膜を熱分解及び結晶化する工程
を含む、太陽光吸収体被覆の製造法において、
チタン前駆体溶液を、被覆の前に、熱処理された薄膜が10%〜80%の銀質量割合を有するような量で銀イオンと混合し、かつ
薄膜の熱分解及び結晶化を薄膜の可視光照射下に行うことを特徴とする方法。
【請求項2】
個々の薄膜を約100ナノメートルの厚さで作製する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
熱処理された薄膜の銀質量割合が50%〜70%である、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
熱処理を500℃までの温度で行う、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
複数の薄膜を重ねて配置し、その際、個々の薄膜の銀含分が異なっている、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
薄膜に白熱灯を照射する、請求項1から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
薄膜への照射を25〜70mW/cm2の光出力密度で行う、請求項1から6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
薄膜を金属支持体上に施与し、かつ、窒素−又はフォーミングガス雰囲気下で熱処理する、請求項1から7までのいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
金属支持体が、銅、アルミニウム又は特殊鋼の少なくとも1の金属を含有する、請求項8記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2009−541698(P2009−541698A)
【公表日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−515700(P2009−515700)
【出願日】平成19年6月19日(2007.6.19)
【国際出願番号】PCT/DE2007/001090
【国際公開番号】WO2007/147399
【国際公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(508375550)ザイラス ベタイリグングスゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング ウント コンパニー パテンテ イー コマンディートゲゼルシャフト (4)
【氏名又は名称原語表記】ZYRUS Beteiligungsgesellschaft mbH & Co. Patente I KG
【住所又は居所原語表記】Berliner Str. 1, D−12529 Schoenefeld/Waltersdorf, Germany