説明

タイミングベルト及び伝動装置

【課題】長期間に渡って強度を維持することができるタイミングベルトを得る。
【解決手段】タイミングベルトの引張強度は、プーリの最小径(mm)と心線の単位長さ当たりにおけるストランドの上撚り回数(撚り回数・回/inch)によって変化する。最小プーリ径(mm)の小さい厳しい条件下で走行した場合、撚り回数(回/inch)の多いタイミングベルトほど、引張強度が相対的に高いままで維持される。一方、最小プーリ径(mm)が大きく、穏やかな走行条件の下で走行した場合、心線におけるストランドの上撚り回数の少ないタイミングベルトほど、引張強度が相対的に高いままで維持される。上述の傾向を示す評価結果に基づき、最小プーリ径(mm)に対して引張強度が相対的に最も高くなる撚り回数(回/inch)を示す関数が求められる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はタイミングベルト及びこのタイミングベルトを用いた伝動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
タイミングベルトにおいては、一般に、伸びを抑制し、強度を高めるために心線が埋設されている(例えば特許文献1)。心線は、例えば、多数のフィラメントから成る糸を下撚りして得られるストランドを、複数本束ねて上撚りすることにより形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−193039号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
タイミングベルトが、油が付着する環境で使用される場合、油が付着しない環境でのみ使用される場合に比べ、引張強度が大きく低下する傾向にある。特に、タイミングベルトが小径のプーリに掛け回されて使用される場合、タイミングベルトの引張強度は、走行時間の経過とともに大きく低下し易い。
【0005】
そこで本発明は、長期間に渡って強度を維持することができるタイミングベルトおよび伝送装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るタイミングベルトは、プーリ径が40mm以下であるプーリを含む駆動及び従動プーリに掛け回され、油が付着する状態で使用されるものであり、複数のフィラメントから成る糸をRFL溶液に浸漬し乾燥させ、かつ下撚りして得られるストランドを、複数本束ねてさらに上撚りして形成される心線を備え、駆動及び従動プーリの中で最小のプーリ径を有するプーリのプーリ径をx(mm)、上撚り回数をy(回/inch)とするとき、上撚り回数が以下の(1)式を満足することを特徴としている。
−4.3Ln(x)+17≦y≦−4.3Ln(x)+21・・・(1)
【0007】
タイミングベルトは、以下の(2)式を満足するように上撚り回数を決定してもよい。
y=−4.3Ln(x)+19・・・(2)
【0008】
また本発明に係る伝動装置は、上記タイミングベルトと、プーリ径が40mm以下であるプーリを含む駆動及び従動プーリとを備えることを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、長期間に渡って強度を維持することができるタイミングベルトおよび伝動装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本実施形態のタイミングベルトの一部を破断して示す斜視図である。
【図2】タイミングベルトに含まれる心線の内部を拡大して示す斜視図である。
【図3】直径が20mmの駆動プーリを用いた引張強度試験の結果を示す図である。
【図4】直径が30mmの駆動プーリを用いた引張強度試験の結果を示す図である。
【図5】直径が50mmの駆動プーリを用いた引張強度試験の結果を示す図である。
【図6】基準時間走行した状態のタイミングベルトの引張強度比率を示す図である。
【図7】引張強度試験の結果に基づく、最小プーリ径に対する理想的な撚り回数を示す曲線である。
【図8】直径が20mmの駆動プーリを用いた、下撚り回数の異なるタイミングベルトの引張強度試験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明におけるタイミングベルトの実施形態を、図面を参照して説明する。図1は、本実施形態のタイミングベルトの一部を破断して示す斜視図である。図2は、タイミングベルトに含まれる心線の内部を拡大して示す斜視図である。
【0012】
タイミングベルト10は歯ゴム層12、帆布18、背ゴム層20を有する。歯ゴム層12の歯部14および歯底部16の外表面は、帆布18によって覆われている。帆布18は、例えばナイロン繊維から成る織布で形成されている。歯ゴム層12と背ゴム層20とは、例えば水素化ニトリルゴムにより形成されている。
【0013】
歯ゴム層12と背ゴム層20との間には、複数の心線30が埋設されている。心線30はタイミングベルト10の長手方向に平行である。なお、複数の心線30は、互いに接することなく離間して埋設されている。
【0014】
心線30は、例えばガラス繊維を用いて、以下のように製造される。すなわち、図2に示すように、ガラス繊維であるフィラメント32を、例えば200本ずつ収束して1本の糸34とする。フィラメント32の直径は、例えば7〜10μmほどである。糸34を、RFL(レゾルシン−ホルマリン−ラテックス)溶液に浸漬させ、乾燥させる。さらにその後、糸34を3本束ねてZ方向に下撚りをかけ、1本のストランド36を形成する。
【0015】
こうして形成された3本のストランド36を上撚りすることにより、心線30を形成する。この上撚り工程においては、ストランド36に張力をかけながら、下撚りとは反対方向に、すなわちS方向に撚りがかけられる。
【0016】
タイミングベルト10は、伝動装置(図示せず)の内部において、油の付着する環境で使用される。このため、長期間使用後のタイミングベルト10の引張強度は、実際の使用状態を模した試験機(図示せず)により、以下のように評価される。なお、引張強度試験の対象となったタイミングベルト10においては、所定本数の心線30(図1参照)が、ベルト長手方向に沿って互いに接することなく一定の間隔をおいて埋設されている。
【0017】
試験機には、いずれも小径の駆動プーリおよび従動プーリ(いずれも図示せず・プーリ)が設けられている。タイミングベルト10は、駆動および従動プーリに掛け回されて走行する。この試験機においては、それぞれ直径の異なる駆動、従動プーリを選択して使用可能である。
【0018】
試験機には油(図示せず)が供給されている。そして駆動プーリが下側に、従動プーリが上側に配置されている。タイミングベルト10には、試験機の駆動プーリ上を走行するときに油が付着する。この結果、タイミングベルト10は、表面に油が付着した状態で走行する。なお、油の温度は、ヒータ(図示せず)によって適温、例えば100℃前後に保たれる。
【0019】
以下、タイミングベルト10の引張強度試験の結果につき、説明する。図3〜5は、引張強度試験の結果を示す図である。図3では直径が20mm、図4では直径が30mm、
図5では直径が50mmの駆動プーリが、それぞれ使用されている。また、図6は、所定の基準時間(図中ではX時間)走行した状態のタイミングベルト10の引張強度比率を示す図である。
【0020】
なお、引張強度を評価するためにタイミングベルト10を走行させた基準時間は、実際にタイミングベルト10が交換されるまでの目安となる走行時間等を考慮して定めたものである。
【0021】
図3〜6より明らかであるように、引張強度試験は、心線30における3本のストランド36(図2参照)の上撚り回数を、2回(/inch)、4回(/inch)、6回(/inch)および9回(/inch)(図中ではそれぞれ2回撚り、4回撚り、6回撚りおよび9回撚りと示す)に調整した複数のタイミングベルト10のそれぞれについて、上述の試験機の駆動プーリの直径(Φ)を変えて実施された。
【0022】
これらの複数回に渡る引張強度試験においては、駆動プーリの直径とストランド36(図2参照)の上撚り回数に加え、従動プーリの直径を、駆動プーリの直径の2倍となるように変更したこと以外、条件はいずれも同じである。
【0023】
図3〜5における横軸は、タイミングベルト10の走行時間(時間)を示し、縦軸は、タイミングベルト10の引張強度比を示す。これらの図面では、いずれも、2回撚りの場合の引張強度(太線)の初期値を基準とし、この値と、その他の引張強度の結果(2回撚りの走行開始後の引張強度値と4、6、9回撚りの引張強度値)との比率が示されている。また、図6の横軸は、心線30におけるストランド36(図2参照)の上撚り回数(/inch)を示し、縦軸は、基準時間(X時間)走行した状態のタイミングベルト10の引張強度比を示す。
【0024】
これらの試験結果を比較することにより、タイミングベルト10の初期状態においては、心線30の単位長さ当たりにおけるストランド36の上撚り回数(以下、単に撚り回数という)が少ないタイミングベルト10ほど引張強度が高いこと、および、使用に伴っていずれのタイミングベルト10も引張強度が低下することが明らかである。
【0025】
さらに、引張強度の低下は、駆動プーリの直径が小さいほど著しいといえる(図3〜6参照)。これは、小径の駆動プーリが用いられるほど、走行中のタイミングベルト10がより大きな曲率で曲げられ、心線30が疲労することに起因する。
【0026】
そして、所定時間、例えばこの度の基準時間(X時間)走行した状態のタイミングベルト10の引張強度比を比較すると、以下のことが明らかである。すなわち、駆動プーリの直径が20mmと非常に小さく、最も厳しい走行条件の下で使用された場合(図3参照)、心線30におけるストランド36の上撚り回数が多いタイミングベルト10ほど、初期(走行開始直後)の引張強度は低いものの、その後の走行による強度低下が抑制されている。この傾向は、撚り回数が多いほど、心線30のRFL層(段落[0014]参照)内の最大発生応力が小さくなり、RFL層における亀裂の発生等が防止されることによるものと考えられる。
【0027】
これに対し、駆動プーリの直径が50mmと大きく、最も穏やかな走行条件の下で基準時間(X時間)走行した場合(図5参照)、心線30のストランド36の撚り回数の少ないタイミングベルト10ほど、引張強度が相対的に高いままで維持されている。これは、穏やかな走行条件により引張強度がさほど低下せず、初期値、すなわち走行前の引張強度が高いものほど、使用後も引張強度が相対的に高いままであることを示す。
【0028】
そして、直径が30mmの駆動プーリが使用された場合(図4参照)、相対的な引張強度に影響を及ぼす上述の2つの要素、すなわちRFL層内の最大発生応力(段落[0026]参照)と走行前の引張強度(段落[0027]参照)がいずれも関わることにより、基準時間走行時のタイミングベルト10の相対的な引張強度は、撚り回数が4回の場合に最も高くなっている。
【0029】
相対的な引張強度に認められる上述の傾向は、図6に示された、駆動プーリの直径(Φ)ごとの引張強度比が、いずれも異なる撚り回数(/inch)においてピークを有する(例えば、直径が50mmの駆動プーリでは撚り回数が2回(/inch)のときに引張強度のピークが存在し、直径が30mmの駆動プーリでは撚り回数が4回(/inch)のときに引張強度のピークが存在する)ことからも明らかである。
【0030】
図7は、引張強度試験の結果に基づく、最小プーリ径に対する理想的な撚り回数を示す曲線である。
【0031】
図3〜6の試験結果に基づき、基準時間に渡って走行されたタイミングベルト10の理想的な上撚り回数(/inch)、すなわち、基準時間走行後に引張強度が相対的に最も高くなる上撚り回数(/inch)と、最小プーリ径(mm)との関係は、図7の太線の曲線で示される。この曲線は図3〜6の試験結果において、相対的な引張強度が最も高いときの最小プーリ径(mm)と撚り回数(/inch)とを選択してプロットした点を滑らかにつないで得られたものである。最小プーリ径(mm)をx、上撚り回数(回/inch)をyとすると、この曲線は、y=−4.3463Ln(x)+18.935(y=−4.3Ln(x)+19)の関数で表される。
【0032】
なお、最小プーリ径とは、タイミングベルト10が掛け回される複数のプーリ、すなわち本実施形態では駆動および従動プーリのうち、最も径の小さいプーリの直径を意味する。従って、本実施形態における最小プーリ径は、常に駆動プーリの直径である。
【0033】
図3〜7によれば、タイミングベルト10の上撚り回数y(回/inch)は、上述の関数で求められる最適な上撚り回数よりも2(回/inch)程度まで大きい、あるいは小さい範囲内にあれば、引張強度が良好に維持されることが明らかである。例えば、直径が20mmの駆動プーリを用いた試験(図3参照)においては、上撚り回数y=6(回/inch)が最適な値であるものの、上撚り回数y=4もしくは9(回/inch)であっても、y=6(回/inch)とほぼ同じレベルまで引張強度が保たれている。これと同様に、直径30mmの駆動プーリが使用され(図4参照)、上撚り回数y=4(回/inch)が最適値であった場合の上撚り回数y=2もしくは6(回/inch)、直径50mmの駆動プーリが使用され(図5参照)、上撚り回数y=2(回/inch)が最適値である場合の上撚り回数y=4(回/inch)においても、いずれも最適値とほぼ同等レベルまで引張強度が維持されている。
【0034】
以上のことから、上撚り回数y(回/inch)が、図7の斜線で示される領域内、すなわち、上述の関数を示す太線の曲線をy軸方向に+2および−2(回/inch)だけ平行移動した曲線によって囲まれる、−4.3463Ln(x)+16.935≦y≦−4.3463Ln(x)+20.935(−4.3Ln(x)+17≦y≦−4.3Ln(x)+21)の範囲内であれば、タイミングベルト10の強度を長時間に渡り維持できる。なお、図7から明らかであるように、タイミングベルト10が使用される駆動、従動プーリの最小プーリ径が小さいほど上撚り回数を多くすることが好ましいといえる。
【0035】
以上のように本実施形態によれば、油が付着する環境という厳しい条件化で使用されるタイミングベルト10における、最適なストランド36の撚り回数を決定する方法を実現し、かつ、タイミングベルト10の強度を長期間に渡って良好に保つことができる。
【0036】
なお、図8に示すように、心線30におけるストランド36の上撚り回数をいずれも同じ2回/inchとし、糸34(図2参照)の下撚り回数を2回/inch、もしくは9回/inchとした2本のタイミングベルトにつき、直径が20mmの駆動プーリを用いて上述の試験と同様に引張強度試験を実施した。この結果、ストランド36の上撚り回数を変更した上述の試験結果に比べ、タイミングベルトの引張強度の経時変化に大きな差は認められなかった。従って、心線30において、タイミングベルト10の引張強度に大きな影響を与えるのはストランド36の上撚り回数であることが確認された。
【符号の説明】
【0037】
10 タイミングベルト
30 心線
36 ストランド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プーリ径が40mm以下であるプーリを含む駆動及び従動プーリに掛け回され、油が付着する状態で使用されるタイミングベルトであって、
複数のフィラメントから成る糸をRFL溶液に浸漬し乾燥させ、かつ下撚りして得られるストランドを、複数本束ねてさらに上撚りして形成される心線を備え、
前記駆動及び従動プーリの中で最小のプーリ径を有するプーリの前記プーリ径をx(mm)、前記上撚り回数をy(回/inch)とするとき、前記上撚り回数が以下の(1)式を満足することを特徴とするタイミングベルト。
−4.3Ln(x)+17≦y≦−4.3Ln(x)+21・・・(1)
【請求項2】
以下の(2)式を満足するように前記上撚り回数を決定することを特徴とする請求項1に記載のタイミングベルト。
y=−4.3Ln(x)+19・・・(2)
【請求項3】
請求項1に記載されるタイミングベルトと、プーリ径が40mm以下であるプーリを含む駆動及び従動プーリとを備えることを特徴とする伝動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−193861(P2012−193861A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−155627(P2012−155627)
【出願日】平成24年7月11日(2012.7.11)
【分割の表示】特願2008−236962(P2008−236962)の分割
【原出願日】平成20年9月16日(2008.9.16)
【出願人】(000115245)ゲイツ・ユニッタ・アジア株式会社 (101)