説明

タイヤトレッド用ゴム組成物及び空気入りタイヤ

【課題】氷雪路面に対する凝着摩擦力を従来にも増して向上することにより、雪上性能や氷上性能といった低温運動性能を向上することができるタイヤトレッド用ゴム組成物を提供する。
【解決手段】ジエン系ゴム100質量部に対して、ガラス転移点が−90〜−30℃の架橋されたジエン系ポリマー粒子であるポリマーゲル1〜50質量部と、リグニン誘導体(リグニンスルホン酸塩)0.1〜10質量部を配合してなるタイヤトレッド用ゴム組成物である。また、該ゴム組成物を用いてなるトレッドを備えた空気入りタイヤである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤのトレッドに用いられるタイヤトレッド用ゴム組成物、及びそれを用いた空気入りタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
氷雪路面は一般路面に比べて著しく摩擦係数が低下し滑りやすくなるので、スタッドレスタイヤやスノータイヤなどの冬用タイヤ(ウインタータイヤ)においては、材料面から様々な工夫がなされている。
【0003】
例えば、種子の殻や果実の核を粉砕してなる植物性粒状体や、酸化亜鉛ウィスカ等の無機フィラーを、トレッドゴムに添加し、引っ掻き効果により氷上摩擦性能を向上させる方策がある。しかしながら、このような引っ掻き効果のある粒子は、多量に配合すると耐摩耗性が悪化するという問題があり、それ単独では、雪上性能や氷上性能といった低温運動性能について、最近のより高い要求を満足することは難しい。
【0004】
また、熱膨張カプセルをトレッドゴムに添加して凝着摩擦力を向上させる手法もあるが、熱膨張カプセルはゴム組成物の混合時のせん断力により潰れるおそれがあり、設計通りの効果を得ることは難しい。リサイクルされたゴム粉である回収ゴムを利用する手法もあるが(下記特許文献1参照)、凝着摩擦力の向上が不十分である。
【0005】
低温運動性能を向上するための手法として、トレッドゴムの低温弾性率を低下させる手法があり、低温弾性率を低下させることにより、接地面積を増大させ、それにより凝着摩擦力を高めることができる。
【0006】
下記特許文献2,3には、平均粒径40〜200nmの架橋されたゴム粒子であるポリマーゲルとともに、平均粒径10〜1000μmの植物性粒状体(例えば、胡桃粉砕物)又は平均粒径10〜500μmの多孔質性炭化物粉末(例えば、竹炭粉末)を配合することが開示されている。これらの文献では、植物性粒状体や多孔質性炭化物粉末を比較的多量に配合することで、引っ掻き効果や吸水効果を向上しつつ、それに伴い高くなる低温弾性率を、ポリマーゲルを配合することで下げ、それにより接地面積を大きくすることを意図している。これにより、凝着摩擦力を向上して低温運動性能を向上することができるが、更なる性能向上が要求される場合がある。
【0007】
一方、下記特許文献4には、タイヤの転がり抵抗を改善するために、ジエン系ゴムに、リグニンスルホン酸塩等のリグニン誘導体を配合することが開示されている。この文献では、リグニン誘導体がカーボンブラックやシリカなどの補強剤の分散性を向上させることで、乾燥路面での制動性能や操縦安定性、耐摩耗性等を損なうことなく、タイヤの低燃費化が図れる点が記載されているが、上記ポリマーゲルと併用することによる凝着摩擦力の向上による優れた低温運動性能については開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−047957号公報
【特許文献2】特開2009−051941号公報
【特許文献3】特開2009−051942号公報
【特許文献4】特開2009−108308号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、以上の点に鑑み、氷雪路面に対する凝着摩擦力を従来にも増して向上することにより、雪上性能や氷上性能といった低温運動性能を向上することができるタイヤトレッド用ゴム組成物、及びそれを用いた空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、特定のガラス転移点を持つポリマーゲルとともにリグニン誘導体を配合することにより、氷雪路面に対する凝着摩擦力を向上させて、低温運動性能を顕著に向上できることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明に係るタイヤトレッド用ゴム組成物は、ジエン系ゴム100質量部に対して、ガラス転移点が−90〜−30℃の架橋されたジエン系ポリマー粒子であるポリマーゲル1〜50質量部と、リグニン誘導体0.1〜10質量部を配合してなるものである。また、本発明に係る空気入りタイヤは、かかるゴム組成物を用いてなるトレッドを備えたものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、特定のガラス転移点を持つポリマーゲルを配合することにより、低温弾性率を下げて凝着摩擦力を向上させることができ、更に該ポリマーゲルをリグニン誘導体と併用することにより、凝着摩擦力を更に向上して低温運動性能を顕著に向上することができる。しかも、転がり抵抗性能を改善して低燃費性化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例と比較例についての氷上制動性能と低燃費性の関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施に関連する事項について詳細に説明する。
【0015】
本実施形態に係るゴム組成物において、マトリクスを構成するゴム成分としてはジエン系ゴムが用いられる。なお、該ジエン系ゴムとしては架橋されていない原料ゴムが用いられ、当然のことながら、架橋されたジエン系ポリマー粒子である後記ポリマーゲルは、該ゴム成分としてのジエン系ゴムには含まれない。該ジエン系ゴムとしては、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレン−イソプレン共重合体ゴム、ブタジエン−イソプレン共重合体ゴム、スチレン−イソプレン−ブタジエン共重合体ゴムなど、タイヤトレッド用ゴム組成物において通常使用される各種ジエン系ゴムが挙げられる。これらジエン系ゴムは、いずれか1種単独で、又は2種以上ブレンドして用いることができる。
【0016】
上記ゴム成分として、好ましくは、天然ゴムと他のジエン系ゴムとのブレンドを用いることであり、特に好ましくは、天然ゴム(NR)とブタジエンゴム(BR)とのブレンドゴムを用いることである。その場合、BRの比率が少なすぎるとゴム組成物の低温特性が得難くなり、逆に多くなりすぎると加工性の悪化や耐引き裂き抵抗性が低下する傾向になるので、NR/BRの比率は、質量比で30/70〜80/20、更には40/60〜70/30程度であることが好ましい。
【0017】
本実施形態に係るゴム組成物には、ガラス転移点(Tg)が−90〜−30℃の架橋されたジエン系ポリマー粒子(ゴム粒子)であるポリマーゲルが配合される。このようなガラス転移点の低いポリマーゲルを用いることにより、マトリクスゴムの低温弾性率を下げることができ、接地面積を増大させることで、氷雪路面に対する凝着摩擦力を向上することができる。
【0018】
ポリマーゲルは、ゴム分散液を架橋することにより製造することができるゲル化ゴムであり、ゴムゲルと称することもできる。該ゴム分散液としては、乳化重合により製造されるゴムラテックス、溶液重合されたゴムを水中に乳化させて得られるゴム分散液などが挙げられ、また、架橋剤としては、有機ペルオキシド、有機アゾ化合物、硫黄系架橋剤など挙げられる。また、ゴム粒子の架橋は、ゴムの乳化重合中に、架橋作用を持つ多官能化合物との共重合によっても行うことができる。具体的には、特開平10−204225号公報、特表2004−504465号公報、特表2004−506058号公報、特表2004−530760号公報などに開示の方法を用いることができる。
【0019】
ポリマーゲルを構成するジエン系ポリマーとしては、例えば、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ニトリルゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)などの各種ジエン系ゴムが挙げられ、これらはいずれか単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。好ましくは、ポリブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴムを主成分とするものである。
【0020】
ポリマーゲルのガラス転移点(Tg)は−90〜−30℃であるが、より優れた低温運動性能を得る上で、−90〜−50℃であることが好ましく、より好ましくは−90〜−70℃である。ガラス転移点が−30℃よりも高いと、低温運動性能の改善効果において、後述するリグニン誘導体との十分な相乗効果が得られない。なお、ポリマーゲルのガラス転移点は、ベースとなるジエン系ポリマーの種類と、その架橋度により調整することができる。ガラス転移点は、JIS K7121に準拠して示差走査熱量測定(DSC)を用いて測定される値(昇温速度20℃/分)である。
【0021】
該ポリマーゲルは、平均粒子径(DIN 53 206によるDVN値)が40〜200nmであることが、より優れた低温運動性能を得る上で好ましい。平均粒子径は、より好ましくは50〜150nmである。
【0022】
該ポリマーゲルは、トルエン膨潤指数Qiが16未満であることが好ましい。トルエン膨潤指数は、より好ましくは1〜15であり、更に好ましくは3〜8である。トルエン膨潤指数Qiが大きすぎると、粒子が柔らかくなり、強度や耐摩耗性が損なわれる。また、ポリマーゲルは、ゲル含量が94質量%以上であることが好ましい。ゲル含量がこれよりも小さいと、ポリマーゲルの弾性率が低下する傾向にあり、これを配合するゴム組成物にも影響する。
【0023】
ここで、トルエン膨潤指数及びゲル含量は、ポリマーゲルをトルエンに膨潤させた後、乾燥させることにより測定される。すなわち、ポリマーゲル250mgを、トルエン25mL中で、24時間、振とう下に膨潤させ、20000rpmで遠心分離してから、濡れ質量を秤量し、次いで70℃で質量一定まで乾燥させてから、乾燥質量を秤量する。ゲル含量は、使用されたポリマーゲルに対する乾燥後のポリマーゲルの質量比率(%)である。また、トルエン膨潤指数は、Qi=(ゲルの濡れ質量)/(ゲルの乾燥質量)により求められる。
【0024】
該ポリマーゲルとしては、リグニン誘導体のヒドロキシル基と相互作用可能な官能基で変性されたものを用いることが好ましい。これにより、ポリマーゲルの粒子表面に存在する官能基がリグニン誘導体のヒドロキシル基と相互作用することにより、ポリマーゲルの分散性をより向上させて、ポリマーゲルによる凝着摩擦力の向上効果を高めることができる。官能基としては、ヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基等が挙げられるが、好ましくはヒドロキシル基(OH基)である。すなわち、ポリマーゲルとしては、ヒドロキシル基を有する化合物で変性されたものを用いることが好ましい。このような化合物(変性剤)としては、例えば、特表2004−506058号公報に記載されているように、ヒドロキシブチルアクリレート又はメタクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート又はメタクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート又はメタクリレートなどのヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0025】
該ポリマーゲルの配合量は、上記ゴム成分であるジエン系ゴム100質量部に対して、1〜50質量部であり、より好ましくは5〜25質量部である。ポリマーゲルの配合量が少なすぎると、低温運動性能の向上効果が不十分となる。逆に配合量が多すぎると、耐摩耗性を損なうおそれがある。
【0026】
本実施形態に係るゴム組成物には、リグニン誘導体が配合される。上記ポリマーゲルとともにリグニン誘導体を配合することにより、リグニン誘導体がポリマーゲルに物理的に吸着し、また特にポリマーゲル表面にヒドロキシル基等の官能基がある場合には、該官能基と化学的ないし物理的に結合し、またリグニン誘導体の強い親水性と負への帯電により、安定な分散を保持する分散剤として働く。すなわち、リグニン誘導体を配合することにより、ポリマーゲルの分散性を向上することができるので、マトリクスゴムの低温弾性率を下げるというポリマーゲルの効果を高めることができ、よって十分な接地面積を確保して、氷雪路面に対する凝着摩擦力を一層向上することができ、低温運動性能を顕著に向上することができる。また、ポリマーゲルの分散性を向上することで、転がり抵抗を低減することができ、低燃費化を図ることもできる。また、リグニン誘導体はポリフェノール構造を有しているため、ポリフェノールの抗酸化性の効果により、ゴム組成物の耐酸化劣化性を改良することができ、加硫ゴムの硬度変化を抑制することができる。
【0027】
該リグニン誘導体としては、リグニンスルホン酸塩が好ましく用いられる。これにより、フェノール性のヒドロキシル基とともに、スルホン酸基を有するので、上記ポリマーゲルの分散性をより向上することができる。なお、リグニン誘導体は、サルファイトパルプ法により得られたものでもよく、また、クラフトパルプ法により得られたものであってもよいが、好ましくはサルファイトパルプ法から得られたリグニンスルホン酸塩を用いることである。リグニンスルホン酸塩としては、リグニンスルホン酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、アルコールアミン塩等が挙げられ、これらの少なくとも一種を含んで使用することができる。好ましくは、リグニンスルホン酸のアルカリ金属塩及び/又はアルカリ土類金属塩であり、例えば、カリウム塩、ナトリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、リチウム塩、バリウム塩などが挙げられ、これらの混合塩でもよい。
【0028】
リグニンスルホン酸塩は、単糖類或いは多糖類などの糖類を含むものでもよい。糖類としては、木材成分のセルロース、またセルロースの構成単位であるグルコース、またはグルコースの重合体、例えば、ヘキソース、ペントース、マンノース、ガラクトース、リボース、キシロース、アラビノース、リキソース、リボース、タロース、アルトロース、アロース、グロース、イドース、デンプン、デンプン加水分解物、デキストラン、デキストリン、ヘミセルロースなどをそれぞれ挙げることができる。リグニンスルホン酸塩中の糖類の含有量は、0〜50質量%であることが好ましく、より好ましくは40質量%以下である。また、精製により糖類を除去したモノであってもよい。
【0029】
該リグニン誘導体の配合量は、上記ゴム成分であるジエン系ゴム100質量部に対して、0.1〜10質量部であり、より好ましくは0.3〜5質量部である。リグニン誘導体の配合量が少なすぎると、低温運動性能の向上効果が不十分となる。逆に配合量が多すぎると、耐摩耗性を損なうおそれがある。
【0030】
本実施形態に係るゴム組成物には、カーボンブラックやシリカ等の無機充填剤を配合することができる。無機充填剤としては、カーボンブラック、シリカの他に、酸化チタン、クレー、タルク、炭酸カルシウムなどが挙げられるが、これらの中でも、カーボンブラック及び/又はシリカを用いることが好ましく、より好ましくは、シリカ単独、又は、シリカとカーボンブラックの併用である。シリカとしては、例えば湿式シリカ(含水ケイ酸),乾式シリカ(無水ケイ酸)等が挙げられるが、中でも湿式シリカが好ましい。
【0031】
無機充填剤の配合量は、特に限定されないが、上記ゴム成分であるジエン系ゴム100質量部に対して20〜150質量部であることが好ましく、より好ましくは30〜100質量部である。また、シリカを配合する場合、その配合量は、前記ジエン系ゴム100質量部に対して10〜100質量部であることが好ましく、より好ましくは20〜70質量部である。
【0032】
シリカを配合する場合、シランカップリング剤を更に配合することが好ましい。シランカップリング剤としては、公知の種々のシランカップリング剤を用いることができ、例えば、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2−トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィドなどのスルフィドシラン、3−オクタノイルチオ−1−プロピルトリエトキシシラン、3−プロピオニルチオプロピルトリメトキシシランなどの保護化メルカプトシランを用いることができる。シランカップリング剤の配合量は、シリカ100質量部に対して2〜25質量部であることが好ましく、より好ましくは2〜10質量部である。
【0033】
本実施形態にかかるゴム組成物には、更に、種子の殻又は果実の核を粉砕してなる植物性粒状体、及び/又は、植物の多孔質性炭化物の粉砕物を更に配合してもよい。これらの植物性粒状体や多孔質性炭化物の粉砕物を併用することにより、その引っ掻き効果や吸水効果によって、氷上性能を更に向上することができる。
【0034】
上記植物性粒状体としては、胡桃(クルミ)、椿などの種子の殻、あるいは桃、梅などの果実の核を公知の方法で粉砕してなる粉砕品を用いることができる。これらはモース硬度が2〜5程度であり、氷よりも硬いので、氷上路面に対して引っ掻き効果を発揮することができる。
【0035】
該植物性粒状体は、ゴムとのなじみを良くして脱落を防ぐために、ゴム接着性改良剤で表面処理されたものを用いることが好ましい。ゴム接着性改良剤としては、例えば、レゾルシン・ホルマリン樹脂初期縮合物とラテックスの混合物を主成分とするもの(RFL液)が挙げられる。
【0036】
植物性粒状体の平均粒径は、特に限定されないが、引っ掻き効果を発揮するとともにトレッドからの脱落を防止するため、100〜600μmであることが好ましい。なお、平均粒子径は、レーザ回折・散乱法により測定される値であり、下記実施例では、光源として赤色半導体レーザ(波長680nm)を用いる島津製作所製のレーザ回折式粒度分布測定装置「SALD−2200」を用いて測定した。
【0037】
上記多孔性炭化物の粉砕物は、木、竹などの植物を材料として炭化して得られる炭素を主成分とする固体生成物からなる多孔質性物質を粉砕してなるものであり、中でも竹炭の粉砕物(竹炭粉末)はその特有の多孔質性により優れた吸着性を発揮することから、氷上路面に発生する水膜を効果的に吸水、除去することができる。
【0038】
竹炭の原料となる竹材としては、孟宗竹、苦竹、淡竹、紋竹などの各種の竹のほか、千鳥笹、仙台笹などの笹も含まれる。竹炭粉砕物は、窯を用いて竹材を蒸し焼きにして炭化して得られた竹炭を、公知の粉砕機(例えば、ボールミル)を用いて粉末状に粉砕することにより得ることができる。
【0039】
上記多孔性炭化物の粉砕物の平均粒径は、特に限定されないが、10〜500μmであることが好ましい。なお、平均粒径は、上記と同様、レーザ回折・散乱法により測定される値である。
【0040】
これら植物性粒状体や多孔性炭化物の粉砕物を配合する場合、その配合量は、両者の合計量で、ジエン系ゴム100質量部に対して、0.3〜20質量部であることが好ましく、より好ましくは1〜10質量部である。
【0041】
本実施形態に係るゴム組成物には、上記した成分の他に、軟化剤、可塑剤、老化防止剤、亜鉛華、ステアリン酸、加硫剤、加硫促進剤など、タイヤトレッド用ゴム組成物において一般に使用される各種添加剤を配合することができる。加硫剤としては、硫黄、硫黄含有化合物等が挙げられ、特に限定するものではないが、その配合量は上記ゴム成分であるジエン系ゴム100質量部に対して0.1〜10質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5〜5質量部である。また、加硫促進剤の配合量としては、上記ゴム成分であるジエン系ゴム100質量部に対して0.1〜7質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5〜5質量部である。
【0042】
本実施形態に係るゴム組成物は、通常のバンバリーミキサーやニーダーなどのゴム用混練機を用いて、常法に従い混練することで調製される。このようにして得られるゴム組成物は、空気入りタイヤの接地面を構成するトレッドゴムに好適に用いられ、より好ましくは、スタッドレスタイヤ、スノータイヤなどの冬用タイヤ(ウインタータイヤ)のトレッド部のためのゴム組成物として好適に用いられ、常法に従い、例えば140〜180℃で加硫成形することにより、該トレッド部を形成することができる。空気入りタイヤのトレッド部には、キャップゴムとベースゴムとの2層構造からなるものと、両者が一体の単層構造のものがあるが、接地面を構成するゴムに用いられるので、単層構造のものであれば、当該トレッドゴムが上記ゴム組成物からなり、2層構造のものであれば、キャップゴムが上記ゴム組成物からなる。
【実施例】
【0043】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0044】
バンバリーミキサーを使用し、下記表1に示す配合(質量部)に従って、常法に従いタイヤトレッド用ゴム組成物を調製した。詳細には、まず、第一混合段階で、ジエン系ゴムに対し、硫黄及び加硫促進剤を除く他の配合剤を添加し混練し、次いで、得られた混練物に、最終混合段階で、硫黄と加硫促進剤を添加し混練して、ゴム組成物を調製した。表中の各成分は以下の通りである。
【0045】
・NR:RSS#3
・BR:JSR(株)製ハイシスブタジエンゴム「BR01」
・カーボンブラック:東海カーボン(株)製「シーストKH」(N339、HAF)
・シリカ:東ソー・シリカ(株)製「ニップシールAQ」
・シランカップリング剤:ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、デグサ社製「Si75」
・パラフィンオイル:(株)ジャパンエナジー製「JOMOプロセスP200」
【0046】
・ポリマーゲル1:ラインケミー社製「マイクロモルフ30B」(BRをベースとするポリマーゲル、Tg=−80℃、トルエン膨潤指数Qi=5.9、ゲル含量=97質量%、平均粒子径=130nm、ヒドロキシル基変性品)
・ポリマーゲル2:ラインケミー社製「マイクロモルフ3B」(SBRをベースとするポリマーゲル、Tg=−60℃、トルエン膨潤指数Qi=5.9、ゲル含量=97質量%、平均粒子径=60nm、ヒドロキシル基変性品)
・ポリマーゲル3:ラインケミー社製「マイクロモルフ4B」(SBRをベースとするポリマーゲル、Tg=−15℃、トルエン膨潤指数Qi=6、ゲル含量=96質量%、平均粒子径=60nm、ヒドロキシル基変性品)
・リグニン誘導体:リグニンスルホン酸ナトリウム、日本製紙ケミカル(株)製「バニレックスN」
【0047】
・竹炭粉砕物:孟宗竹の竹炭(宮崎土晃株式会社製「1号炭」)をハンマーミルで粉砕し、得られた粉砕物をふるいにより分級した竹炭粉末(平均粒径=100μm)
・植物性粒状体:クルミ殻粉砕物(株式会社日本ウォルナット製「ソフトグリップ#46」)に対し、特開平10−7841号公報に記載に方法に準じてRFL処理液で表面処理を施したもの(処理後の植物性粒状体の平均粒径=300μm)
・ステアリン酸:花王(株)製「ルナックS−20」
・亜鉛華:三井金属鉱業(株)製「亜鉛華1種」
・老化防止剤:住友化学(株)製「アンチゲン6C」
・ワックス:日本精鑞(株)製「OZOACE0355」
・加硫促進剤:住友化学(株)製「ソクシノールCZ」
・硫黄:鶴見化学工業(株)製「粉末硫黄」
【0048】
得られた各ゴム組成物について、硬度を測定した。また、各ゴム組成物を用いてスタッドレスタイヤを作製した。タイヤサイズは185/65R14として、そのトレッドに各ゴム組成物を適用し、常法に従い加硫成形することによりタイヤを製造した。得られた各タイヤについて、耐摩耗性、氷上制動性能(氷上性能)、低燃費性(転がり抵抗)を評価した(使用リムは14×5.5JJ)。各測定、評価方法は次の通りである。
【0049】
・硬度:JIS K6253に準拠したデュロメータ タイプAにより、160℃×20分で加硫したサンプル(厚みが12mm以上のもの)について、−5℃での硬度を測定した。
【0050】
・耐摩耗性:上記タイヤを2000ccの4WD車に装着し、2500km毎に左右ローテーションさせながら10000km走行させて、走行後の残溝の深さを測定した。残溝は4本の平均値である。比較例1の値を100とした指数で表示し、指数が大きいほど耐摩耗性が良好であることを示す。
【0051】
・氷上制動性能:上記タイヤを2000ccの4WD車に装着し、氷盤路(気温−3±3℃)上で40km/h走行からABS作動させて制動距離を測定し(n=10の平均値)、制動距離の逆数について比較例1の値を100とした指数で表示した。指数が大きいほど制動距離が短く、制動性能に優れることを示す。
【0052】
・低燃費性(転がり抵抗指数):上記タイヤを、空気圧230kPa、荷重4.4kNとして、23℃の室温の条件の元で、転がり抵抗測定用の1軸ドラム試験機にて、80km/hで走行させたときの転がり抵抗を測定した。転がり抵抗の逆数について比較例1の値を100とした指数で表示した。指数が大きいほど、転がり抵抗が小さく、低燃費性に優れることを示す。
【0053】
【表1】

【0054】
結果は表1に示す通りであり、ポリマーゲルを配合せずにリグニン誘導体を配合した比較例2,3では、コントロールである比較例1に対し、氷上性能の改善効果は小さかった。また、リグニン誘導体を配合せずにポリマーゲルを配合した比較例4,6では、氷上性能の改善効果は見られたものの、不十分であった。比較例5では、ポリマーゲルを増量することにより、氷上性能は大幅に改善したが、耐摩耗性が大きく損なわれていた。一方、ガラス転移点が規定値よりも高いポリマーゲルを用いた比較例7,8では、比較例4〜6に対し、配合量を合わせて比較した場合、氷上性能の改善効果に劣っていた。また、比較例9では、ポリマーゲルとリグニン誘導体を併用したものの、ポリマーゲルのガラス転移点が高く、そのため氷上性能の向上効果に相乗効果は見られなかった。すなわち、比較例1を基準として、比較例9での氷上性能の改善幅を、比較例3の改善幅及び比較例8の改善幅と比べたところ、相加的な効果しか得られなかった。
【0055】
これに対し、特定のガラス転移点のポリマーゲルとともにリグニン誘導体を併用した実施例1〜8であると、耐摩耗性を大きく損なうことなく、氷上性能が大幅に向上しており、また低燃費性も向上していた。より詳細には、比較例1を基準として、実施例1の氷上性能の改善幅を、比較例2の改善幅及び比較例4の改善幅と比べたところ、相加的な効果を超える相乗効果が得られた。同様に、比較例1を基準として、実施例2の氷上性能の改善幅を、比較例2の改善幅及び比較例6の改善幅と比べたところでも、相乗効果が得られていた。また、竹炭粉砕物と植物性粒状体を更に併用した実施例7,8では、氷上性能において更なる改善効果が得られた。
【0056】
図1は、上記実施例及び比較例についての氷上制動性と低燃費性の関係を示したグラフであり、グラフ中の右上に行くほど両性能のバランスに優れたことを意味する。図示されるように、実施例1〜8は比較例1〜4及び6〜9とは両性能のバランスの点で顕著な効果上の相違が見られる。なお、比較例5は、これら両性能の点では実施例1〜8と同等の効果が認められたが、上記のように耐摩耗性が大きく損なわれており、実用上の効果の相違は明白である。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明に係るゴム組成物は、空気入りタイヤのトレッドに用いることができ、特に、スタッドレスタイヤやスノータイヤ等の冬用タイヤ(ウインタータイヤ)に好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエン系ゴム100質量部に対して、ガラス転移点が−90〜−30℃の架橋されたジエン系ポリマー粒子であるポリマーゲル1〜50質量部と、リグニン誘導体0.1〜10質量部を配合してなるタイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項2】
前記ポリマーゲルが、ヒドロキシル基を有する化合物で変性されたジエン系ポリマー粒子であることを特徴とする請求項1記載のタイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項3】
前記リグニン誘導体が、リグニンスルホン酸塩であることを特徴とする請求項1又は2記載のタイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のゴム組成物を用いてなるトレッドを備えた空気入りタイヤ。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2012−219241(P2012−219241A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−89408(P2011−89408)
【出願日】平成23年4月13日(2011.4.13)
【出願人】(000003148)東洋ゴム工業株式会社 (2,711)
【Fターム(参考)】