説明

タイヤ用ゴム組成物

【課題】未加硫時のゴム粘度の増加を抑制するようにしながら、加硫後に高いゴム硬度が得られるようにしたタイヤ用ゴム組成物を提供する。
【解決手段】カルボキシル基を含有するスチレンブタジエンゴムを20重量%以上含むジエン系ゴムに、カルボジイミド基、オキサゾリン基、アジリジン基から選ばれる少なくとも1つの官能基を有する化合物を配合したゴム組成物であり、前記化合物を、前記カルボキシル基含有スチレンブタジエンゴムの配合量の1〜50重量%にしたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ用ゴム組成物に関し、さらに詳しくは、未加硫時のゴム粘度の増加を抑制するようにしながら、加硫後に高いゴム硬度が得られるようにしたタイヤ用ゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、空気入りタイヤには操縦安定性が優れることが求められるため、トレッド部を構成するタイヤ用ゴム組成物は、ゴム硬度を高くすることが行われている。ゴム硬度を高くするためには、カーボンブラックなどの充填剤を増量することや、オイル成分の配合量を減量すること等が行われる。しかし、このような方法によるゴム組成物の高硬度化は、加硫後のゴム硬度は高くなるものの、未加硫ゴムの粘度が増大するため加工性が悪化するという問題があった。
【0003】
また、特許文献1は、ゴム組成物中にカルボキシル基を含有するスチレンブタジエンゴムを配合することにより、加硫後のゴム硬度を高くすることを提案している。しかし、この方法によるゴム組成物の高硬度化も、未加硫ゴムの粘度が大幅に増大し加工性が悪化するという問題があり、しかも、加硫後のゴム組成物の高硬度化効果は必ずしも十分であるとはいえなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−256513号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、未加硫時のゴム粘度の増加を抑制するようにしながら、加硫後に高いゴム硬度が得られるようにしたタイヤ用ゴム組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成する本発明のタイヤ用ゴム組成物は、カルボキシル基を含有するスチレンブタジエンゴムを20重量%以上含むジエン系ゴムに、カルボジイミド基、オキサゾリン基、アジリジン基から選ばれる少なくとも1つの官能基を有する化合物を配合したゴム組成物であり、前記化合物を、前記カルボキシル基含有スチレンブタジエンゴムの配合量の1〜50重量%にしたことを特徴とする。
【0007】
また、本発明のタイヤ用ゴム組成物は、空気入りタイヤのトレッド部に好ましく使用することができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、カルボキシル基を含有するスチレンブタジエンゴムを20重量%以上含むジエン系ゴムに、カルボジイミド基、オキサゾリン基、アジリジン基から選ばれる少なくとも1つの官能基を有する化合物を配合するときに、この官能基を有する化合物の配合量を、カルボキシル基含有スチレンブタジエンゴムの配合量の1〜50重量%にしたことにより、未加硫時のゴム粘度の増加を抑制するようにし、良好な加工性を確保しながら、加硫後のゴム硬度の向上を更に大きくすることができる。このためこのようにして得られるゴム組成物は、トレッドゴムに適用することにより空気入りタイヤの操縦安定性を向上することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のタイヤ用ゴム組成物において、ゴム成分はジエン系ゴムであり、そのジエン系ゴムはカルボキシル基を含有するスチレンブタジエンゴム(以下、「カルボキシル基含有SBR」という。)を必ず含むようにする。カルボキシル基含有SBRを配合することにより、トレッドゴムとして使用した場合には、加硫後のゴム硬度が高くなるため、空気入りタイヤの操縦安定性が向上する。なお、本発明において、ゴム硬度とはJIS K6253に準拠しデュロメータのタイプAにより温度20℃で測定した加硫後のゴム組成物の硬さをいう。
【0010】
本発明において使用するカルボキシル基含有SBRは、カルボキシル基を含有するスチレンブタジエンゴムであり、好ましくはスチレンブタジエンゴム中のポリブタジエンセグメントがカルボキシル基を含有するものであればよく、ポリブタジエンセグメントとカルボキシル基を含有する化合物とが反応したものでもよい。また、より好ましくはポリブタジエンセグメントの末端を除くブタジエン単位とカルボキシル基を含有する化合物とが反応したものであるとよい。
【0011】
カルボキシル基含有SBRは、通常の方法で製造されたものを使用すればよく、市販品を使用してもよい。カルボキシル基含有SBRの製造方法としては、例えば前述した特許文献1に記載された方法を例示することができる。
【0012】
ジエン系ゴムにおけるカルボキシル基含有SBRの配合割合は、20重量%以上、好ましくは30〜100重量%、より好ましくは40〜100重量%にする。カルボキシル基含有SBRがジエン系ゴム中の20重量%未満であると、ゴム硬度を高くする効果が十分に得られない。なお、ジエン系ゴム及びカルボキシル基含有SBRは、オイル成分を含有してもよい。この場合、ジエン系ゴム及びカルボキシル基含有SBRの配合量は、オイル成分を除いた各ゴム成分の正味の配合量とする。
【0013】
本発明において、ジエン系ゴムはカルボキシル基含有SBRのみで構成してもよく、またカルボキシル基含有SBRと他のジエン系ゴムを共に用いてもよい。カルボキシル基含有SBRを除くジエン系ゴムとしては、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴムから選ばれる少なくとも1種であるようにする。好ましくは天然ゴム、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴムがよい。このようなジエン系ゴムは、単独又は複数のブレンドとして使用することができる。
【0014】
本発明において、カルボキシル基含有SBRと共に、カルボジイミド基、オキサゾリン基、アジリジン基から選ばれる少なくとも1つの官能基を有する化合物を配合することにより、タイヤ用ゴム組成物の未加硫時のゴム粘度の増加を抑制すると共に、加硫後のゴム硬度の向上を更に大きくすることができる。このため未加硫ゴムの粘度の増大を防止することにより加工性を確保しながら、加硫後のゴム硬度を高くし、トレッドゴムに使用すると空気入りタイヤの操縦安定性を向上することができる。すなわち、ジエン系ゴムにカルボキシル基含有SBRだけを配合したのでは、ゴム硬度が高くなるものの、未加硫ゴムの粘度が大きくなり加工性が悪化する。本発明では、カルボキシル基含有SBRと、カルボジイミド基、オキサゾリン基、アジリジン基の少なくとも1つを有する化合物とを共に配合することにより、未加硫ゴムの粘度が大きくなるのを抑制しながら、加硫後のゴム硬度を大きくすることができる。この理由は定かではないが、カルボキシル基含有SBRと、カルボジイミド基、オキサゾリン基、アジリジン基の少なくとも1つを有する化合物との相互作用により、ゴム組成物の系内の乱れが適正に補正されるためと推測される。また、カルボキシル基との反応性を有するヒドロキシ基、アミノ基などの他の官能基を有する化合物を共存させたときと比べ、カルボジイミド基、オキサゾリン基、アジリジン基を有する化合物を共存させた方が、未加硫ゴムの粘度の増大を抑制する効果が優れる。
【0015】
カルボジイミド基、オキサゾリン基、アジリジン基から選ばれる少なくとも1つを有する化合物の配合量は、カルボキシル基含有SBRの配合量の1〜50重量%、好ましくは5〜30重量%である。カルボジイミド基、オキサゾリン基、アジリジン基から選ばれる少なくとも1つを有する化合物の配合量が1重量%未満であると、未加硫時のゴム粘度が増大するのを抑制することができない。また、カルボジイミド基、オキサゾリン基、アジリジン基から選ばれる少なくとも1つを有する化合物の配合量が、カルボキシル基含有SBRの配合量の50重量%を超えると、加硫後のゴムの硬度は高くなるものの、未加硫時のゴム粘度の増加を抑えることができない。
【0016】
カルボジイミド基、オキサゾリン基、アジリジン基から選ばれる少なくとも1つを有する化合物としては、カルボジイミド基、オキサゾリン基、アジリジン基を有する化合物の他、これら化合物を単量体にした重合体、これら化合物と他の単量体とからなる共重合体、及び任意の主鎖骨格を有する重合体をカルボジイミド基、オキサゾリン基、アジリジン基により変性した化合物を例示することができる。主鎖骨格を有する重合体としては、例えばポリスチレン、ポリ(メタ)アクリレート、ポリオレフィン及び各種の低分子炭化水素鎖等を例示することができる。
【0017】
カルボジイミド基、オキサゾリン基、アジリジン基から選ばれる少なくとも1つを有する化合物としては、市販品を使用してもよい。また、通常の重合及び変性方法により製造してもよい。カルボジイミド基を有する化合物としては、例えば日清紡社製カルボジライトV−05等を例示することができる。また、オキサゾリン基を有する化合物としては、例えば日本触媒社製エポクロス RPS−1005等を例示することができる。また、アジリジン基を有する化合物としては、例えば日本触媒社製ケミタイト PZ−33、同ケミタイト DZ−22E等を例示することができる。
【0018】
本発明のタイヤ用ゴム組成物に、カーボンブラック及び/又は無機充填剤を配合することによりゴムの強度を高くする。無機充填剤としては、例えばシリカ、クレー、マイカ、タルク、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム等が例示される。なかでもシリカが好ましい。無機充填剤の配合量は、ジエン系ゴム100重量部に対し好ましくは10〜150重量部、より好ましくは30〜100重量部にするとよい。無機充填剤の配合量が10重量部未満の場合には、ゴム強度を十分に高くすることができない。また、無機充填剤の配合量が150重量部を超えると混練が極度に困難になると共に、ゴム粘度が急激に高くなるため好ましくない。
【0019】
本発明のゴム組成物にシリカを配合することによりグリップ性能、特にウェットグリップ性能を向上させることができるため好ましい。シリカとしては、通常タイヤ用ゴム組成物に配合されるシリカ、例えば湿式法シリカ、乾式法シリカあるいは表面処理シリカなどを使用することができる。また、ジエン系ゴムの補強性を得るためにシリカとシランカップリング剤とを共に配合することが好ましい。
【0020】
また、カーボンブラックの配合量は、ジエン系ゴム100重量部に対し好ましくは10〜120重量部、より好ましくは20〜100重量部にするとよい。カーボンブラックの配合量が10重量部未満の場合には、ゴム強度を十分に高くすることができない。また、カーボンブラックの配合量が120重量部を超えるとゴム粘度が急激に上昇するため好ましくない。カーボンブラックとしては、窒素吸着比表面積(NSA)が好ましくは10〜300m/g、より好ましくは30〜200m/gのものを使用するとよい。カーボンブラックの窒素吸着比表面積が10m/g未満の場合には、ゴム強度を十分に高くすることができない。窒素吸着比表面積が300m/gを超えると未加硫時のゴム粘度を抑制しながら加硫後のゴム硬度を高くすることが困難になる。カーボンブラックの窒素吸着比表面積(NSA)は、JIS K6217−2に準拠して求めるものとする。
【0021】
タイヤ用ゴム組成物には、上述したカーボンブラック及び無機充填剤以外にも、加硫又は架橋剤、加硫促進剤、老化防止剤、可塑剤、加工助剤、カップリング剤などのタイヤ用ゴム組成物に一般的に使用される各種添加剤を配合することができ、かかる添加剤は一般的な方法で混練してゴム組成物とし、加硫又は架橋するのに使用することができる。これらの添加剤の配合量は本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。このようなゴム組成物は、公知のゴム用混練機械、例えば、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール等を使用して、上記各成分を混合することによって製造することができる。
【0022】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、空気入りタイヤのトレッド部として好適に使用することができる。また、本発明のタイヤ用ゴム組成物をトレッド部に使用した空気入りタイヤは、未加硫時のゴム粘度の増加を抑制し、良好な加工性を確保するため空気入りタイヤの品質安定性を高くすると共に、加硫後のゴム硬度を向上するので操縦安定性が優れる。
【0023】
以下、実施例によって本発明をさらに説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0024】
表1,2に示す配合からなる14種類のタイヤ用ゴム組成物(実施例1〜7、比較例1〜7)を、硫黄、加硫促進剤を除く成分を1.8Lの密閉型ミキサーで5分間混練し放出したマスターバッチに、硫黄、加硫促進剤を加えてオープンロールで混練することにより調製した。
【0025】
得られた14種類のタイヤ用ゴム組成物のゴム粘度(ムーニー粘度)を下記に示す方法で測定した。次いで、得られたタイヤ用ゴム組成物を所定形状の金型中で、160℃、20分間プレス加硫して加硫ゴムサンプルを作製し、下記に示す方法でゴム硬度を測定した。
【0026】
ゴム粘度
得られたゴム組成物の粘度を、JIS K6300−1に準拠して、ムーニー粘度計にてL型ロータ(38.10mm系、5.54mm厚)を使用し、予熱時間1分、ロータの回転時間4分、100℃、2rpmの条件で測定した。得られた結果を「ムーニー粘度」として表1,2に示した。この粘度が小さいほど加工性が優れることを意味する。
【0027】
ゴム硬度
得られた加硫ゴムサンプルのゴム硬度を、JIS K6253に準拠しデュロメータのタイプAにより温度20℃で測定した。得られた結果を表1,2に示した。このゴム硬度が高いほど操縦安定性が優れることを意味する。
【0028】
【表1】

【0029】
【表2】

【0030】
なお、表1,2において使用した原材料の種類を下記に示す。
SBR:スチレンブタジエンゴム、日本ゼオン社製Nipol 1723、ゴム成分100重量部に対しオイル分37.5重量部を含む油展品。
変性SBR:カルボキシル基含有SBR、スチレンブタジエンゴム(LANXESS社製Buna VSL5025−0)を原料ゴムとして、その500gを4リットルのシクロヘキサンに溶解させ、これに3−メルカプトプロピオン酸6.25gおよびジラウロイルパーオキサイド0.25gを加えて80℃で5時間反応させた。その後、バルカノックス4020(バイエル社製)2.5gを加えて溶媒を除去し、乾燥させることによりカルボキシル基含有SBR508gを調製した。このカルボキシル基含有SBR100重量部に対しオイル分37.5重量部を添加・混合し油展したカルボキシル基含有SBRを得た。
CB:カーボンブラック、窒素吸着比表面積93m/g、東海カーボン社製シーストKH
シリカ:エボニックデグッサ社製ULTRASIL VN3GR
化合物A1:オキサゾリン基を有する化合物、日本触媒社製エポクロスRPS−1005
化合物A2:カルボジイミド基を有する化合物、日清紡社製カルボジライトV−05
化合物A3:アジリジン基を有する化合物、日本触媒社製ケミタイトPZ−33
化合物B:ヒドロキシル基を有するポリビニルアルコール、クラレ社製クラレ ポバールPVA−505
オイル:昭和シェル石油社製エキストラクト4号S
酸化亜鉛:正同化学工業社製酸化亜鉛3種
ステアリン酸:日油社製ビーズステアリン酸YR
老化防止剤:フレキシス社製サントフレックス6PPD
ワックス:大内新興化学工業社製サンノック
カップリング剤:シランカップリング剤、エボニックデグッサ社製Si69
硫黄:鶴見化学工業社製金華印油入微粉硫黄
加硫促進剤:大内新興化学工業社製ノクセラーCZ−G

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシル基を含有するスチレンブタジエンゴムを20重量%以上含むジエン系ゴムに、カルボジイミド基、オキサゾリン基、アジリジン基から選ばれる少なくとも1つの官能基を有する化合物を配合したゴム組成物であり、前記化合物を、前記カルボキシル基含有スチレンブタジエンゴムの配合量の1〜50重量%にしたタイヤ用ゴム組成物。
【請求項2】
空気入りタイヤのトレッド部に使用される請求項1に記載のタイヤ用ゴム組成物。

【公開番号】特開2010−168492(P2010−168492A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−13367(P2009−13367)
【出願日】平成21年1月23日(2009.1.23)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】