説明

タウロウルソデオキシコール酸の調製のための方法

本発明は、タウリン酸ナトリウムの水溶液と、クロロギ酸アルキルとウルソデオキシコール酸の混合酸無水物のアセトン溶液との反応によって得られる懸濁液中に存在する不純物の選択的沈殿の工程を含む、タウロウルソデオキシコール酸を調製するための新規の方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タウロウルソデオキシコール酸を調製する新規な方法、胆管の障害および機能不全の治療に有用な物質に関し、該方法は、タウリン酸ナトリウム(sodium taurinate)の水溶液と、クロロギ酸アルキルとウルソデオキシコール酸の混合酸無水物のアセトン溶液との反応によって得られる懸濁液中に存在する不純物の選択的沈殿の工程を含む。
【背景技術】
【0002】
イタリア特許第1197330号明細書は、第3級塩基の存在下でのウルソデオキシコール酸とクロロギ酸アルキルとの反応によりタウロウルソデオキシコール酸の混合酸無水物の調製を記載しており、該混合酸無水物をタウリンのアルカリ性水溶液と反応させてタウロウルソデオキシコール酸のナトリウム塩を得ている(特許文献1参照)。引き続く塩酸の添加および減圧濃縮による溶媒の除去が、タウロウルソデオキシコール酸を含有する残渣を得ることを可能にする。エタノールを用いる残渣の再懸濁および引き続く濾過が、溶液中にタウロウルソデオキシコール酸を残留させると同時に、未反応のタウリンおよび塩化ナトリウムを除去する。次いで、前記タウロウルソデオキシコール酸が不溶性である溶媒の添加によって、該溶液からタウロウルソデオキシコール酸を沈殿させる。沈殿物中の溶媒含有量を減少させるために、最後に生成物を水中に溶解させ、溶媒中で再沈殿させる。
【0003】
欧州特許第400695号明細書は、第3級塩基の存在下でタウリンとウルソデオキシコール酸の混合酸無水物との反応によって得られる溶液の精製プロセスを用いる、タウロウルソデオキシコール酸の調製を記載している(特許文献2参照)。タウロウルソデオキシコール酸のナトリウム塩に対する鉱酸(塩酸のようなもの)の添加を回避するために、方法は種々の精製工程を含み、タウリンと混合酸無水物との反応から生じる溶液を、最初に強カチオン交換樹脂を、第2に弱アニオン交換樹脂を、順次通過させる。この方法において、未反応の第3級塩基および塩酸塩類が除去され、同時に未反応のタウリンおよびウルソデオキシコール酸が既知の方法により排除される。この方法は遊離のタウロウルソデオキシコール酸を遊離させるための鉱酸の添加を含まない。しかしながら、イタリア特許第IT1197330号明細書に既に記載されている最終精製手順(すなわち濾過された溶液の乾燥状態までの濃縮、エタノールを用いる再懸濁、アセトンを用いる濾過および沈殿、水中への再溶解およびアセトン中での再沈殿)なしに実施されない(特許文献1参照)。
【0004】
欧州特許第629634号明細書は、大量の有機溶剤およびカチオン性樹脂の使用を必要とする、タウロウルソデオキシコール酸を製造するための方法を開示している(特許文献3参照)。
【0005】
欧州特許第272462号明細書は、ウルソデオキシコール酸のタウリンアミドのカルシウム塩を製造するための方法を開示している(特許文献4参照)。
【0006】
イタリア特許第1167038号明細書は、タウロウルソデオキシコール酸のナトリウム塩の塩基性溶液の沈殿、前記ナトリウム塩のメタノール中への再溶解、およびそのようにして得られるメタノール溶液の5℃における気体状HClによる処理を含む、タウロウルソデオキシコール酸を製造するための方法を開示している(特許文献5参照)。
【0007】
したがって、可能な限り最少の含有量の不純物を伴う生成物を高収率で得ることを可能にし、室温で実施され、低コストであり、溶媒、反応剤および装置の取り扱いが容易である、タウロウルソデオキシコール酸を製造するための方法に対する要求が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】イタリア特許第1197330号明細書
【特許文献2】欧州特許第400695号明細書
【特許文献3】欧州特許第629634号明細書
【特許文献4】欧州特許第272462号明細書
【特許文献5】イタリア特許第1167038号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
驚くべきことには、タウロウルソデオキシコール酸のアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩の懸濁液に対して、特定の当量数の酸を添加し、引き続いて、得られる懸濁液を特定の期間にわたって放置し、該懸濁液を濾過し、および有機溶媒を添加することによって、著しく純粋な形態のタウロウルソデオキシコール酸を選択的に沈殿させることが可能であることを見いだした。
【0010】
したがって、本発明はタウロウルソデオキシコール酸を調製するための方法であって、以下の工程:
a) タウロウルソデオキシコール酸のアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩の水性懸濁液を得る工程と;
b) 0.8〜1.4当量の酸を添加する工程と;
c) 得られる懸濁液を、10〜180分間にわたって放置する工程と;
d) 懸濁液を濾過する工程と、
e) 有機溶媒を添加して、引き続くタウロウルソデオキシコール酸の沈殿を行う工程と
を含む方法を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
タウロウルソデオキシコール酸のアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩(好ましくはナトリウム塩)の水性懸濁液は、第3級塩基の存在下での、クロロギ酸アルキル(好ましくはクロロギ酸エチル)とウルソデオキシコール酸の混合酸無水物と、タウリンのアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩(好ましくはナトリウム塩)との反応により得られる。タウリンおよびアルカリ金属またはアルカリ土類金属の塩酸塩を沈殿させるために、前記懸濁液に対して0.8〜1.4当量の酸を添加する。好ましくは0.9〜1.2当量、さらにより好ましくは1〜1.1当量の酸が添加される。酸は、塩酸、硝酸、酢酸、硫酸またはそれらの混合物の中から選択され、塩酸が特に好ましい。水中の酸の濃度は、30質量%より大きく、水中の酸の濃度が32質量%と40質量%との間であることが好ましく、水中の酸の濃度が32質量%と36質量%との間であることがさらにより好ましい。タウリンおよびアルカリ金属またはアルカリ土類金属の塩酸塩の選択的沈殿を行うために、得られる溶液を、好ましくは15℃と30℃との間の温度において、10分と180分との間の期間にわたって放置する。特に、15分と120分との間の期間が好ましく、20分と60分との間の期間がさらにより好ましい。
【0012】
タウリンとアルカリ金属またはアルカリ土類金属の塩酸塩との混合物が濾別されたならば、有機溶媒を添加することによってタウロウルソデオキシコール酸を沈殿させる。前記有機溶媒は、好ましくは1質量%以下の水含有量を有する。有機溶媒は、好ましくは、アセトン、テトラヒドロフラン、C2〜C8エーテル類、C2〜C8酢酸エステル類およびそれらの混合物のような極性有機溶媒である。C2〜C8エーテル類は好ましくはエチルエーテルであり、C2〜C8酢酸エステル類は好ましくは酢酸エチルである。特に好ましい溶媒はアセトンである。あるいはまた、有機溶媒は、クロロホルム、塩化メチレンまたはそれらの混合物のような非極性有機溶媒であってもよい。
【0013】
タウロウルソデオキシコール酸は2分子の水とともに結晶化し、沈殿に使用された多くの百万分率(ppm)の有機溶媒も、この結晶水中の捕捉されたままとなる。
【0014】
よって、得られたタウロウルソデオキシコール酸を脱イオン水中に溶解させることによって、追加の精製工程を実施する。溶解は、好ましくは、最大で60分の期間で、かつ65℃未満の温度において実施される。生成物の損失を回避するために、溶解のために可能な限りの最小量の水を使用することが必要である。したがって、水溶液を、全ての酸が溶液中に移行するような温度まで加熱する。それにより、タウロウルソデオキシコール酸:水の最良の質量比は、タウロウルソデオキシコール酸の乾燥質量に対して0.1と1との間、好ましくは0.4と0.6との間、さらにより好ましくは約0.48であることが観察された。
【0015】
全てのタウロウルソデオキシコール酸が溶解した際に、該溶液を減圧下に配置し、溶液中に溶解した溶媒を留去するとともに、その温度が十分に迅速に降下するようにする。
【0016】
2つの操作に対して、湿潤収率は、反応中に導入したウルソデオキシコール酸の90%と110%との間である。真空乾燥後、乾燥された生成物の収率は、反応中に導入されたウルソデオキシコール酸の量の68%と82%との間である。
【0017】
本発明の好ましい実施形態によれば、タウロウルソデオキシコール酸のアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩の水性懸濁液は、クロロギ酸C1〜C4アルキルとウルソデオキシコール酸の混合酸無水物のアセトン溶液と、タウリン酸のアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩の水溶液の反応によって得られる。好ましくは、タウリン酸のアルカリ金属塩はタウリン酸ナトリウムであり、および/またはクロロギ酸C1〜C4アルキルはクロロギ酸エチルである。
【0018】
本発明の方法は、交換樹脂(カチオン性樹脂のようなもの)の使用の必要なしに、高純度の生成物を高収率で得ることを可能にする。さらに、本発明の方法は、室温において実施され、低コストであり、溶媒(水のようなもの)および反応剤(水性酸のようなもの)の取り扱いが容易である。特に、本発明の方法は、鉱酸による単純な酸性化によって、TUDCAのアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩の水溶液から、粗精製のTUDCAを得ることを可能にする。なぜなら、塩化物およびタウリンのような不純物が水溶性であるからである。
【0019】
以下の実施例は、本発明をより詳細に説明するが、それによって本発明の範囲を制限する意図を有するものではない。
【実施例】
【0020】
(実施例1)
タウロウルソデオキシコール酸ナトリウム塩の懸濁液の調製
95.6kgのタウリンおよび30.9kgの苛性ソーダフレークを導入し、最小量97%、186kgの脱塩水を添加し、懸濁液を温度を約15℃に維持しながら約30分間にわたって撹拌することによって、タウリン酸ナトリウムの溶液を調製する。この方法により、タウリン酸ナトリウムの溶液を得る。
【0021】
次に、250kgのウルソデオキシコール酸、64.9kgのトリエチルアミン、および69.4kgのクロロギ酸エチルから出発して、タウロウルソデオキシコール酸の混合酸無水物を合成する。ウルソデオキシコール酸および1500リットルのアセトンを、10℃未満の温度において、反応器に導入する。残留減圧の下、懸濁液に対してトリエチルアミンを添加し、温度を<0℃に降下させる。懸濁液の温度が<0℃の際に、約15分間をかけてクロロギ酸エチルを導入する。添加が完了したならば、得られた混合酸無水物を約20分間にわたって撹拌する。続いて、トリエチルアミン塩酸塩を遠心分離し、アセトンで洗浄する。
【0022】
混合酸無水物が入っている反応器中へ、タウリン酸ナトリウムの溶液を導入する。
【0023】
粗精製タウロウルソデオキシコール酸(TUDCA)の調製
加水分解の終了約30分後に、87kgの濃塩酸(33%(質量/質量))を添加する。懸濁液の撹拌を60分間にわたって継続する。塩化ナトリウムおよびタウリンの沈殿が起こる。懸濁液を遠心分離する。
【0024】
濾過した溶液に対して、約2300リットルのアセトンを添加する。約60分後に、粗精製のTUDCAが沈殿し始める。
【0025】
撹拌を12時間にわたって継続する。
【0026】
遠心分離により、粗精製のTUDCAを分離する。
湿潤収量:約350kg
【0027】
クロマトグラフィー量の粗精製のTUDCAの測定は、以下の結果を示す。
不純物:<0.3%;タウリン:<0.5%;ウルソデオキシコール酸:<0.5%;塩化物:<1%
【0028】
(実施例1)
純粋なタウロウルソデオキシコール酸の調製
反応器中に1100リットルの脱塩水を導入し、撹拌しながら約80℃まで加熱する。695kgの実施例1によって得られる湿潤、粗精製のタウロウルソデオキシコール酸を第2の反応器中に導入し、その中にあらかじめ加熱された1100リットルの水を導入する。懸濁液を60℃の温度まで加熱する。この時点において、反応器をゆっくりと減圧する。さらなるアセトンが留出しなくなったならば、蒸留を終了し、真空を窒素で置換し、溶液を約0℃まで冷却する。懸濁液の撹拌を0℃と5℃との間の温度において64時間にわたって継続する。
【0029】
次いで、精製されたTUDCAを、遠心分離によって回収し、各遠心分離バッチに関して生成物を約50リットルの脱塩水で洗浄する。
湿潤収量:400kg
【0030】
次いで、湿潤生成物を50℃の最大温度において減圧下で乾燥する。
【0031】
クロマトグラフィー量の精製されたTUDCAは、以下の特性を示す。
タウリン:<0.2%;ウルソデオキシコール酸:<0.5%;不純物:<0.3%、塩化物:<500ppm;アセトン:<500ppm
【0032】
HPLCによる含有量は、98.5%超である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程:
a) タウロウルソデオキシコール酸のアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩の水性懸濁液を得る工程と;
b) 0.8〜1.4当量の酸を添加する工程と;
c) 得られる懸濁液を、10〜180分間にわたって放置する工程と;
d) 懸濁液を濾過する工程と、
e) 有機溶媒を添加して、引き続くタウロウルソデオキシコール酸の沈殿を行う工程と
を含むことを特徴とするタウロウルソデオキシコール酸を調製するための方法。
【請求項2】
前記タウロウルソデオキシコール酸のアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩の水性懸濁液は、クロロギ酸アルキルとウルソデオキシコール酸の混合酸無水物と、タウリンのアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩との反応によって得られることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記水性懸濁液は、クロロギ酸C1〜C4アルキルとウルソデオキシコール酸の混合酸無水物のアセトン溶液と、タウリン酸アルカリ金属塩の水溶液の反応によって得られることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記タウリン酸のアルカリ金属塩はタウリン酸ナトリウムであり、および/または前記クロロギ酸C1〜C4アルキルはクロロギ酸エチルであることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項5】
工程b)において、0.9〜1.2当量の酸を添加することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
工程b)において、1〜1.1当量の酸を添加することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記酸は、塩酸、硝酸、酢酸、硫酸またはそれらの混合物の中から選択されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記酸は30質量%より大きい水中の濃度を有することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記酸は32質量%と40質量%との間の水中の濃度を有することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記酸は32質量%と36質量%との間の水中の濃度を有する塩酸であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項11】
工程c)の懸濁液は、15分と120分との間の期間にわたって放置されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項12】
工程c)の懸濁液は、20分と60分との間の期間にわたって放置されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項13】
工程c)の温度は、15℃と30℃との間であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記有機溶媒は、1質量%以下の水分含有量を有することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記有機溶媒は、極性有機溶媒であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記極性有機溶媒は、アセトン、テトラヒドロフラン、C2〜C8エーテル類、C2〜C8酢酸エステル類、およびそれらの混合物の中から選択されることを特徴とする請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記極性有機溶媒は、アセトンであることを特徴とする請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記有機溶媒は、非極性有機溶媒であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記非極性有機溶媒は、クロロホルム、塩化メチレン、トルエンおよびそれらの混合物の中から選択されることを特徴とする請求項18に記載の方法。
【請求項20】
得られるタウロウルソデオキシコール酸の脱イオン水中での溶解および引き続く再結晶による追加の精製工程を含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項21】
脱イオン水中での溶解を65℃未満の温度で実施することを特徴とする請求項20に記載の方法。
【請求項22】
脱イオン水中での溶解を最大で60分の期間にわたって実施することを特徴とする請求項20に記載の方法。
【請求項23】
タウロウルソデオキシコール酸:脱イオン水の質量比は、タウロウルソデオキシコール酸の乾燥質量を基準として0.1から1までの範囲内であることを特徴とする請求項20に記載の方法。
【請求項24】
タウロウルソデオキシコール酸:脱イオン水の質量比は、タウロウルソデオキシコール酸の乾燥質量を基準として0.4から0.6までの範囲内であることを特徴とする請求項23に記載の方法。

【公表番号】特表2010−525003(P2010−525003A)
【公表日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−504601(P2010−504601)
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【国際出願番号】PCT/EP2008/053531
【国際公開番号】WO2008/128844
【国際公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【出願人】(506194313)プロドッティ キミチ エ アリメンタリ ソシエタ ペル アチオニ (2)
【Fターム(参考)】