説明

タッチ式入力装置

【課題】指でなぞった際に指が操作面のどの位置にあるかを触知覚的に認識可能なタッチ式入力装置を提供する。
【解決手段】タッチ式入力装置1は、操作面に複数の凸部11或いは凹部を有し、凸部11或いは凹部が所定の方向に向かうにつれて面積が変化する表面プレート10と、表面プレート10の背面に配置され、ユーザーの指がタッチされた操作面の位置を検出するセンサ20と、を備える。ユーザーは表面プレート10の操作面を指でなぞった際に、凸部11の大きさの変化により、指が操作面のどの位置にあるかを触知覚的に認識することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タッチ式入力装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、触知覚に関する研究が盛んに行われるなか、触覚インターフェースに関する研究も多く見られるようになった。しかし、その操作面は平滑であることが多く、触感覚を与える操作面は少ない。触感覚を与える操作面に関し、例えば、特許文献1,2の発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−194863号公報
【特許文献2】特開平11−194872号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1及び特許文献2に開示されている装置では、一定の大きさの凸部が一定のピッチで配置されているため、指でなぞった場合、どの位置をなぞっているかを触知覚的に認識することはできない。
【0005】
本発明は上記事項に鑑みてなされたものであり、その目的は、指でなぞった際に指が操作面のどの位置にあるかを触知覚的に認識可能なタッチ式入力装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るタッチ式入力装置は、
操作面に複数の凸部或いは凹部を有し、前記凸部或いは前記凹部が所定方向に向かうにつれて面積が変化する表面プレートと、
前記表面プレートの背面に配置され、ユーザーの指がタッチされた前記操作面の位置を検出するセンサと、を備える、
ことを特徴とする。
【0007】
また、前記凸部或いは前記凹部が前記所定方向に向けて一定の間隔で配置されていてもよい。
【0008】
また、前記凸部或いは前記凹部が前記所定方向に向けて複数の領域に区分けされ、それぞれの領域内の前記凸部或いは前記凹部の面積が等しくてもよい。
【0009】
また、前記凸部或いは前記凹部の面積が関数に基づいて変化していてもよい。
【0010】
また、対数関数的に前記凸部或いは前記凹部の面積が変化していてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るタッチ式入力装置では、指でなぞった際に指が操作面のどの位置にあるかを触知覚的に認識可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】タッチ式入力装置の斜視図である。
【図2】タッチ式入力装置の平面図である。
【図3】図2のA−A’断面図である。
【図4】タッチ式入力装置の分解斜視図である。
【図5】図4のA−A’断面を示し、感圧式センサの仕組みを説明する図である。
【図6】タッチ式入力装置の使用状況を説明する平面図である。
【図7】タッチ式入力装置の使用状況を説明する断面図である。
【図8】他の形態に係るタッチ式入力装置の部分断面図である。
【図9】他の形態に係るタッチ式入力装置の部分斜視図である。
【図10】実施例においてドット領域とドット直径との関係を示すグラフである。
【図11】実施例において、図11(A)はサンプル1A〜1Dを用いて心理尺度を求めた結果を説明する図であり、図11(B)はサンプル2A〜2Dを用いて心理尺度を求めた結果を説明する図である。
【図12】実施例においてドット領域とドット直径の変位との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図を参照しつつ、本実施の形態に係るタッチ式入力装置について説明する。本実施の形態に係るタッチ式入力装置1は、図1に示すように、表面に配置されユーザーが指で触れて操作する表面プレート(以下、単にプレートとも記す)10と、プレート10の背面に配置されたセンサ20を備える。
【0014】
プレート10は、ユーザーの指が触れる操作面に、複数の凸部11を有している。プレート10は、硬質樹脂や軟質樹脂等、種々の素材から形成され、タッチ式入力装置1の使用用途に応じて適宜設定される。凸部11は、プレート10の操作面に、格子状に配置されている。凸部11は、スクリーン印刷等、種々の手段によって形成される。
【0015】
凸部11は、図2に示すように、プレート10の一方の端部から他方の端部に向かうにつれ(図面上、左から右に向かうにつれ)、面積が大きくなっている。
【0016】
本実施の形態では、凸部11は、円柱形状である。そして、領域a〜領域jの10領域に区分けされ、一つの領域内の凸部11の直径がいずれも等しい円柱形状に形成されている。そして、領域aから領域jへ向かうにつれ、凸部11の面積が徐々に大きくなっている。
【0017】
また、図3に示すように、配置される凸部11の周期(プレート10の長手方向における凸部11同士の間隔P)は一定である。また、凸部11の高さHはいずれも等しく形成されている。
【0018】
センサ20は、ユーザーがタッチした指の位置を検出可能な公知のセンサが用いられる。センサ20の一例として、例えば、感圧式センサや静電容量式センサが挙げられる。
【0019】
ここで、センサ20が感圧式センサ20である場合の一例を図4の分解図、図5の断面図に示している。感圧式センサ20は一例として、固定基板26上に、ITO(Indium Tin Oxide)等を素材とする導電性フィルム21、23が二枚重ねて貼り合わされ配置された構造である。導電性フィルム21、23の間に小さな絶縁性のスペーサ25が配置され、導電性フィルム21、23の間に隙間が空けられている。また、それぞれの導電性フィルム21、23の両端には、電極22a、22b、24a、24bが接続されている。本実施の形態では、導電性フィルム21のX軸方向の両端部に電極22a、22bが配置され、導電性フィルム23のY軸方向の両端部に電極24a、24bが配置されている。そして、電極22a、22b間、電極24a、24b間にはそれぞれ電圧が印加されている。
【0020】
制御部30は、センサ20に接続され、また、不図示の駆動装置等に接続している。制御部30は、センサ20で検出されたユーザーの指40の位置情報に基づいて、駆動装置等へと指令を送る。
【0021】
図6に、上記感圧式センサ20を用いた場合のタッチ式入力装置1の使用状況を示している。図6に示すタッチ式入力装置1は、例えば、車内のエアコン等の温度調節に関するものであり、凸部11の面積が小さい方がCold、凸部11の面積が大きい方がHotとなっている。
【0022】
ユーザーが指40でタッチ式入力装置1の操作面をCold−Hot方向(例えば、ColdからHotへ(図面上左から右へ))になぞる。プレート10の凸部11の面積が徐々に大きくなっているので、ユーザーは指40でなぞることにより、Cold−Hot間の所望の位置を指40で知覚することができる。なお、この状態では、導電性フィルム21、23の間の空間が保持されるので、電流は流れない。
【0023】
そして、プレート10の所望の位置をユーザーが指40で押圧する。すると、図7に示すように、センサ20では、上下の導電性フィルム21、23が接触し、電流が流れる。接触した位置によって、上下の導電性フィルム21、23それぞれに接続されている電極22a、22b間、電極24a、24b間にかかる電圧が変わる。この電圧を測定することで、導電性フィルム21、23が接触した位置からタッチ式入力装置1の各辺までの距離が求められ、指40で押圧した位置の座標が検出される。そして、この検出された位置情報に基づいて制御部30から送風温度を調節するコンプレッサー等の駆動装置へ指令が送られる。
【0024】
このように、タッチ式入力装置1は、複数の凸部11が徐々にその面積が変わっている操作面を備えるので、ユーザーは操作面を見なくても、操作面のどの位置を指40で触れているかを触知覚的に認識できる。どの程度の温度に設定したかを容易に認識できる。
【0025】
本実施の形態に係るタッチ式入力装置1は、上述した車内におけるエアコンの調節装置への適用のほか、音響装置の音量調節、電磁調理器具における温度調節、パーソナルコンピュータ等におけるパッド式の入力デバイスなど、ユーザーが指でなぞって操作を行い得る種々の装置に適用可能である。
【0026】
なお、上記では、感圧式センサ20を用いた場合について説明したが、静電容量式センサを用いた場合、指40がコンデンサとして機能し、操作面に接触する指40の位置にて静電結合が生じ、電流値が変化するので、指40で押圧せずとも、指40の動きと停止した位置情報が検出される。また、上記ではセンサ20として、X−Y座標を検出する二軸型について説明したが、タッチ式入力装置1を一次元的にのみ調節が必要な各種装置に適用する場合、一軸型のセンサであればよく、上記の例ではX軸方向の長さを検出する形態であればよい。
【0027】
凸部11の面積の変化のパターンは、徐々に変化していれば、いずれのパターンによる変化であってもよく、関数に基づいて変化していてもよい。関数に基づく変化として、例えば、比例関数的に変化、指数関数的に変化、対数関数的に変化等、種々のパターンが挙げられる。なかでも、対数関数的に凸部11の面積が変化していることが好ましい。後述の実施例から、ユーザーが指でタッチ式入力装置1をなぞった際に、自然な感覚を知覚させやすい。ここで、自然な感覚とは、例えば、長さが10であるプレート10に対し、凸部11が10の領域に区分けされて順に面積が変化した10段階調節可能なタッチ式入力装置1である場合、例えば3段目、8段目の領域の凸部11を知覚した際に、プレート長さの3/10、8/10にそれぞれ該当するような感覚である。
【0028】
また、上記では、所定方向に向けて複数の領域に区分けし、各領域内の凸部11の面積が等しく、領域順に凸部11の面積が変化しているパターンについて説明したが、領域に区分けすることなく、プレート10上の凸部11が関数に沿って面積が変化していてもよい。
【0029】
また、凸部11の先端部は、平面状でも、図8に示すように曲率を有していてもよい。
【0030】
また、凸部11の形状は、真円柱、楕円柱等の円柱形状のほか、角柱形状、多角柱形状など、種々の形状であってもよい。
【0031】
また、凸部11の高さが等しければ、凸部11の高さの制限はない。
【0032】
また、上記では、プレート10の操作面に凸部11が配置された例について説明したが、図9に示すように、プレート10の操作面に凹部12が形成された形態であってもよい。この場合、凹部12の形状についても、円柱形状のほか、角柱形状、多角柱形状など、種々の形状であってもよい。
【0033】
また、感圧式センサや静電容量式センサなどでは、一般的に表面に保護シート等を備えているが、この保護シートがプレート10で代用された形態であってもよい。
【実施例】
【0034】
種々の面積変化パターンの凸部或いは凹部(以下、これらをドットとも記す)を形成したプレートを準備し、ドット面積の変化について被験者試験を行った。
【0035】
無色透明な樹脂プレート上に、シルクスクリーン印刷によって、複数の円柱形状の凸型或いは凹型のドットを形成した。ドットは、プレートの長手方向に沿って10領域(領域をドット領域と記す)に区分けして、順にドットの直径(面積)が変化するよう形成した。また、ドットの周期(プレートの長手方向のドット間の間隔)は1mmの一定にした。準備した8種のプレート(サンプル1A〜1D、サンプル2A〜2D)のドット直径(面積)の変化パターン等を表1及び表2にそれぞれ示す。
【0036】
【表1】

【0037】
【表2】

【0038】
また、ドット領域それぞれに形成されたドットの直径を図10に示す。図10に示すように、ドット領域1からドット領域10に向けて順にドットの直径が大きく(ドットの面積が大きく)なっている。
【0039】
被験者は21〜22歳の右利き男性10名とし、右手の示指によるなぞり動作を行い、4種のプレート(サンプル1A〜1D)を評価するよう教示した。各被験者には、ドット直径が大きい方から小さい方へなぞらせた。また、同様に、サンプル2A〜2Dについても行わせた。
【0040】
凹凸が自然に変化しているかについて、シェッフェの一対比較法により順位付けを行った。実験は、凹凸の視覚情報を遮断するため、プレートを白いスチレンボードで覆った箱の中に2列に配置し、被験者から見て奥側を基準プレートとして、手前に配置したプレートを+3(自然である)〜−3(不自然である)の7段階で評価し、口頭で回答してもらった。
【0041】
なお、プレートの呈示順序はいずれもランダムとし、途中、触覚順応を避けるため5分以上の休憩を挟んで行った。
【0042】
サンプル1A〜1D、及び、サンプル2A〜2Dについて、心理尺度を求めた結果を図11(A)、図11(B)に示す。図11(A)がサンプル1A〜1D、図11(B)がサンプル2A〜2Dの結果である。
【0043】
ドットタイプによって、自然に感じるドット面積の変化パターンが異なることがわかった。しかしながら、いずれについても、最も自然と感じるドット面積の変化パターンは、対数関数的に変化したパターンであり、サンプル2A〜2Dにおいては、対数と指数(1.5)及び対数と線形の間は0.5%水準の有意差がそれぞれ認められた。
【0044】
続いて、ドットの弁別閾値を検証した。ドット面積の変化パターンが異なる4種のプレート(サンプル3A〜3D)を上記同様に準備した。なお、ここでは、弁別閾値をより詳細に検証すべく、ドット領域数を24にして形成した。準備した4種のプレートのドット直径の変化パターン等を表3に示す。
【0045】
【表3】

【0046】
4種類のプレートを刺激として、ドットの弁別閾値を調べた。なぞり方向は、ドット直径の小さい方から大きい方へなぞる上昇系列と、ドット直径の大きい方から小さい方へなぞる下降系列として、被験者には各系列で4種類のプレートをランダムに3回ずつ呈示した。そして、被験者には、凹凸が変化したと感じた位置でなぞり動作を停止して回答してもらい、指が停止した位置を記録した。そして、上昇系列及び下降系列で示された弁別閾値(指が停止したプレートの位置のドットの直径)を加算平均した。
【0047】
加算平均して得られた弁別閾値はそれぞれサンプル3Aの場合は直径0.82mm、サンプル3Bの場合は直径0.53mm、サンプル3Cの場合は直径0.75mm、サンプル3Dの場合は直径0.90mmであり、ドット直径の変化パターンごとに弁別閾値が異なっていた。
【0048】
そこで、ドットの直径の変化量に着目し、ドット領域数が24であるサンプル3A〜3Dの、ドット領域数とドット直径の変位量との関係をグラフ化し、得られた弁別閾値を当てはめてみた。その結果を図12に示す。図12の縦軸の変位は、ある領域内のドット直径と、その領域に隣接する他の領域のドット直径との差を表している。
【0049】
ドット直径の変化パターンが線形変化(サンプル3A)及び指数変化(n=0.7)(サンプル3C)の場合、弁別閾値の直径は約0.8mmと近似しており、ドット直径の変位量は約0.05mmとほぼ同じであった。一方、ドット面積の変化パターンが対数変化(サンプル3B)及び指数変化(n=1.5)(サンプル3D)の場合、弁別閾値のドット直径はそれぞれ0.5mm、0.9mmと大きく異なるものの、ドット直径の変位量はともに約0.05mmであった。したがって、いずれの変化パターンについても、ドット直径の変位量は約0.05mmと同様の結果が得られた。この結果から、弁別閾値は、ドット直径、即ちドット面積の変位量に依存することが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明に係るタッチ式入力装置は、車内におけるエアコンの調節装置、音響装置の音量調節装置、電磁調理器具における温度調節装置、パーソナルコンピュータ等におけるパッド式の入力デバイスなど、ユーザーが指でなぞって操作を行い得る種々の装置に適用可能である。
【符号の説明】
【0051】
1 タッチ式入力装置
10 表面プレート(プレート)
11 凸部
12 凹部
20 センサ(感圧式センサ)
21 導電性フィルム
22a、22b 電極
23 導電性フィルム
24a、24b 電極
25 スペーサ
26 固定基板
30 制御部
40 指

【特許請求の範囲】
【請求項1】
操作面に複数の凸部或いは凹部を有し、前記凸部或いは前記凹部が所定方向に向かうにつれて面積が変化する表面プレートと、
前記表面プレートの背面に配置され、ユーザーの指がタッチされた前記操作面の位置を検出するセンサと、を備える、
ことを特徴とするタッチ式入力装置。
【請求項2】
前記凸部或いは前記凹部が前記所定方向に向けて一定の間隔で配置されている、
ことを特徴とする請求項1に記載のタッチ式入力装置。
【請求項3】
前記凸部或いは前記凹部が前記所定方向に向けて複数の領域に区分けされ、それぞれの領域内の前記凸部或いは前記凹部の面積が等しい、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のタッチ式入力装置。
【請求項4】
前記凸部或いは前記凹部の面積が関数に基づいて変化している、
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のタッチ式入力装置。
【請求項5】
対数関数的に前記凸部或いは前記凹部の面積が変化している、
ことを特徴とする請求項4に記載のタッチ式入力装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−114651(P2013−114651A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−263403(P2011−263403)
【出願日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 日本人間工学会 第52回大会事務局、日本人間工学会第52回大会講演集 人間工学 第47巻 特別号、平成23年6月6日
【出願人】(000125347)学校法人近畿大学 (389)
【Fターム(参考)】