説明

タマネギ状の炭素保護層を有するFePt−Cベースの磁気記録媒体

【課題】 タマネギ状の炭素保護層を有するFePt−Cベースの磁気記録媒体を提供する。
【解決手段】 黒鉛状炭素の薄い層によって保護された複数の磁性粒を有する磁気データ記録用の磁気媒体である。黒鉛状炭素の層は、タマネギの皮に類似した方式によって形成されており、且つ、炭素の単一の単原子層として構築することができる。黒鉛状炭素の薄い層は、磁性粒をカバーするか又は部分的にカプセル状に包むグラフェンの層として又はフラーレンとして形成することができる。黒鉛状炭素の層は、腐食及び損耗に対する優れた保護を提供し、且つ、磁気的性能の改善のために磁気的間隔を大幅に低減する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気データ記録に関し、且つ、更に詳しくは、物理的な損傷及び腐食に対する保護を改善するための保護層として黒鉛状炭素の層を有する磁気媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気ディスク駆動装置と呼ばれる組立体は、コンピュータの主要コンポーネントの1つである。磁気ディスク駆動装置は、回転する磁気ディスクと、この回転する磁気ディスクの表面に隣接してサスペンションアームによって支持された書込み及び読取りヘッドと、サスペンションアームを揺動させて、読取り及び書込みヘッドを、回転するディスク上の選択された円形トラックの上方に配置するアクチュエータと、を含む。読取り及び書込みヘッドは、エアベアリング表面(Air Bearing Surface:ABS)を有するスライダ上に直接的に配置される。スライダがエアベアリング上に載置された際に、書込み及び読取りヘッドは、磁気インプレッション(magnetic impression)を回転するディスクに対して書き込むと共に回転するディスクから磁気インプレッションを読み取るために利用される。読取り及び書込みヘッドは、書込み及び読取り機能を実現するためにコンピュータプログラムに従って動作する処理回路に対して接続されている。
【0003】
読取り及び書込みヘッドと媒体の磁気記録層の間の磁気的間隔は、磁気記録システムの性能に大きな影響を及ぼすパラメータの1つである。但し、磁気記録システムが長く且つ信頼性の高い寿命を有することを保証するには、腐食から、並びに、磁気ヘッド又はスライダとの接触などの損傷から、磁気記録層を保護しなければならない。このような腐食又は損傷を防止するために、磁気ヘッドには、保護被覆層が設けられている。これらの層は、損傷及び腐食に対するなんらかの保護を提供することができるが、これらの厚さが磁気的間隔を増大させ、その結果、性能が低下する。更には、これらの層は、高温においてその状態が変化し、且つ、その結果、危険な状態になりうる材料から構築されている。従って、高温に暴露された場合にも、記録層の強力な保護を提供することが可能であり、且つ、磁気的間隔を極小化することも可能である磁気媒体に対するニーズが依然として存在している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Robertson著、Mat Sci Eng R 37、129〜181(2002)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、複数の磁性粒と、複数の磁性粒のうちのそれぞれの磁性粒上に形成された黒鉛状炭素の複数の層と、を含む磁気データ記録用の磁気媒体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
黒鉛状炭素の層は、グラフェンの層であってよく、且つ、個々の磁性粒をカバーするか又は部分的に収容するフラーレンとして形成することができる。これらの磁性粒は、黒鉛状炭素の層内に個々に収容することも可能であり、或いは、この代わりに、いくつかの磁性粒を黒鉛状炭素層の単一の組内に収容することもできる。個々の磁性粒は、黒鉛状炭素の層によってのみ、相互に分離することが可能であり、或いは、非磁性分離体により、相互に分離することもできる。
【0007】
黒鉛状炭素の層は、磁性粒用の唯一の保護層であってもよく、或いは、この代わりに、1つ又は2つの追加の保護層を黒鉛状炭素層上に被覆することもできる。但し、このような追加の保護層を設ける場合には、黒鉛状炭素によって提供される保護に起因し、保護層の厚さを大幅に低減することができる。
【0008】
これらの黒鉛状層は、タマネギの皮に類似した方式によって個々の磁性粒上に形成することができる。これらの黒鉛状層の存在は、腐食及び物理的な損耗に対する保護を大幅に改善し、且つ、有利には、ディスク駆動装置システムの磁性粒と磁気ヘッドの間の磁気的間隔をも低減する。この結果、磁気的性能及び信頼性が大幅に改善される。
【0009】
本発明のこれらの及びその他の特徴及び利点については、その全体を通じて同一の参照符号によって同一の要素を示している添付図面との関連において提供される好適な実施形態に関する以下の詳細な説明を参照することにより、明らかとなろう。
【0010】
本発明の特性及び利点並びに好ましい使用形態について更に十分に理解するために、縮尺が正確ではない添付図面との関連において提供される以下の詳細な説明を参照されたい。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明を実施してもよいディスク駆動装置システムの概略図である。
【図2】本発明の一実施形態による磁気媒体の一部分の拡大断面図である。
【図3】本発明の別の実施形態による磁気媒体の図2のものに類似した図である。
【図4】本発明の別の実施形態による磁気媒体の図2のものに類似した図である。
【図5】本発明の別の実施形態による磁気媒体の図2のものに類似した図である。
【図6】本発明の別の実施形態による磁気媒体の図2のものに類似した図である。
【図7】本発明の別の実施形態による磁気媒体の図2のものに類似した図である。
【図8】本発明の別の実施形態による磁気媒体の図2のものに類似した図である。
【図9】本発明の別の実施形態による磁気媒体の図2のものに類似した図である。
【図10】本発明の別の実施形態による磁気媒体の図2のものに類似した図である。
【図11】黒鉛状層を有する媒体及びこのような黒鉛状層を有していない媒体のX線光電子分光法のグラフである。
【図12】黒鉛状層を有する媒体及びこのような黒鉛状層を有していない媒体の時間に伴う潤滑油厚さ及び結合比率のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下の説明は、本発明を実施するための現時点において想定される最良の実施形態に関するものである。この説明は、本発明の一般的な原理を例示することを目的として行われ、且つ、本明細書において特許請求されている発明の概念を限定することを意味するものではない。
【0013】
まず、図1を参照すれば、本発明を実施するディスク駆動装置100が示されている。図1に示されているように、少なくとも1つの回転可能な磁気ディスク112が、スピンドル114上に支持されており、且つ、ディスク駆動モーター118によって回転する。それぞれのディスク上における磁気記録は、磁気ディスク112上の同心データトラックの環状パターン(図示せず)の形態を有する。
【0014】
少なくとも1つのスライダ113が磁気ディスク112の近傍に配置されており、それぞれのスライダ113は、1つ又は複数の磁気ヘッド組立体121を支持している。磁気ディスクが回転するのに伴って、スライダ113は、ディスク表面122の上方において半径方向を内向きに且つ外向きに運動し、この結果、磁気ヘッド組立体121は、磁気ディスクの異なるトラックにアクセスすることが可能であり、そこで、望ましいデータが書き込まれる。それぞれのスライダ113は、サスペンション115によってアクチュエータアーム119に装着されている。サスペンション115は、スライダ113をディスク表面122に対して付勢するわずかなスプリング力を提供する。それぞれのアクチュエータアーム119は、アクチュエータ手段127に装着されている。図1に示されているアクチュエータ手段127は、ボイスコイルモーター(Voice Coil Motor:VCM)であってよい。VCMは、固定磁界内において運動可能であるコイルを有し、コイルの運動の方向及び速度は、コントローラ129によって供給されるモーター電流信号によって制御される。
【0015】
ディスクストレージシステムの動作の際には、磁気ディスク112の回転により、スライダ113とディスク表面122の間に、上向きの力又は揚力をスライダに対して作用させるエアベアリングが生成される。従って、エアベアリングは、サスペンション115のわずかなスプリング力を相殺し、且つ、通常動作の際に、わずかな実質的に一定の間隔だけ、ディスク表面から離れて、且つ、そのわずかに上方において、スライダ113を支持する。
【0016】
ディスクストレージシステムの様々なコンポーネントの動作は、アクセス制御信号及び内部クロック信号などの、制御ユニット129によって生成される制御信号によって制御される。通常、制御ユニット129は、論理制御回路、ストレージ手段、及びマイクロプロセッサを有する。制御ユニット129は、ライン123上の駆動モーター制御信号及びライン128上のヘッド位置及びシーク制御信号などの様々なシステム動作を制御するための制御信号を生成する。ライン128上の制御信号は、スライダ113をディスク112上の望ましいデータトラックに最適に移動及び位置決めするための望ましい電流プロファイルを提供する。書込み及び読取り信号は、記録チャネル125を経由して、書込み及び読取りヘッド121との間において、伝送される。
【0017】
図2は、本発明の一実施形態による磁気媒体202の拡大断面図である。媒体は、基板204を含む。基板は、ガラス又はSiの円板から形成することが可能であり、且つ、ヒートシンク層(図示せず)を含むことができる。基板204上には、テクスチャ層(texturing layer)206を形成することができる。テクスチャ層206は、NiTa/Cr/MgOやNiTa/MgOなどの多層であってもよいが、Pt、TiN、又はTiC、RuAlなどの様々な材料を使用することもできよう。
【0018】
磁気書込み層208がテクスチャ層206上に形成されている。この書込み層208は、高保磁力を有すると共に磁気異方性を有する磁性材料の個別の磁性粒210を含んでおり、この結果、これらの磁性粒は、層204、206、208のプレーンに対して略垂直の方向に磁化することが可能であり、且つ、高温においても消磁されることなしに、時間の経過に伴ってこの方向において磁化された状態に留まることができる。この目的を実現するために、個々の磁性粒210は、FePt−Xなどの材料から構築することが可能であり、ここで、Xは、Ag、SiO、O、N、Au、Cu、又はPdである。テクスチャ層206と書込み層208の磁性粒210の間には、FePt−Xの磁性粒の正しい結晶方位による分離を支援する薄いFePtシード層205が存在してもよい。
【0019】
磁性粒210は、黒鉛状炭素の非常に薄い層212によってカバー及び保護されている。炭素は、黒鉛、グラフェン(黒鉛の単一の単原子層である)、ナノチューブ(円筒形状に巻き付けられたグラフェンのシート)、及びフラーレン(球などの閉じた形状に巻き付けられたグラフェンのシート)などの様々な形態をとることができる。フラーレンは、多層化させ、これにより、いくつかの同心球状シェルとして形成されたタマネギの皮に似た形態を有することができる。ナノチューブ及びフラーレンは、(鞘の中の豆のように)その内部にナノ結晶を収容するフラーレンケージなどのように、ナノ材料をカプセル状に包むことができる。グラフェン、ナノチューブ、及びフラーレンは、触媒による又はその他のタイプの物理−化学的プロセスにより、金属ナノ材料の表面に製造することができる(例えば、フラーレンは、その内部においてナノ結晶と合成することも可能であり、或いは、金属シードの周りにおいて又はその上部において成長することもできる)。
【0020】
黒鉛状層212は、磁性粒210を保護するための優れた損耗及び腐食抵抗力を提供するタマネギ状の皮として形成されたフラーレンである。更には、図示されるように、黒鉛状層212は、更に詳細に後述するように、磁気データ記録システム内の磁気媒体上において現在使用されている潤滑剤との良好な適合性をも有する。
【0021】
腐食生成物の成長と高粗度が、ハードディスク駆動装置内の磁気媒体の表面において遭遇する一般的な問題点である。酸化に対する保護並びに磁気媒体上における平坦な表面の実現及び維持は、ダイアモンド状炭素(Diamond Like Carbon:DLC)の薄膜(通常、35Å未満)を媒体に被せることによって現在は実現されており、これを炭素保護膜と呼んでいる。この解決策の欠点は、炭素保護膜が、ヘッド内の磁気センサと磁気媒体の磁気記録層の間の磁気的間隔を増大させ、これにより、(特に、相対的に小さな書込み磁界及び読出し信号において)性能の損失が生じるという点にある。更には、磁気媒体の磁気記録層と炭素保護膜は、通常は、異なる薄膜成長法により、順番にディスク上に堆積されている。例えば、まず、磁性層を多層として反応性マグネトロンスパッタリングによって成長させ、且つ、次いで、炭素保護膜をイオンビーム堆積によって堆積させている。これは、ディスクを1つの堆積装置から別のものに移動させるステップを必要とし、この結果、更なる時間と製造費用が必要となる。実際に、媒体及び炭素保護膜の堆積には、いくつかの別個の堆積ステーションが必要であり、この結果、ディスク生産のスループットが低下する。
【0022】
本発明は、これらの制限及び課題のすべてを克服する。本発明は、炭素原子分離体の存在と、FePt−Cベースの熱アシスト記録(Thermally Assisted Recording:TAR)媒体の堆積の際の高温と、を活用して炭素保護膜を形成する。高温において、炭素分離体は、図2を参照して上述したように、タマネギ状の黒鉛状構造体212を形成し、これらの構造体は、磁性粒210をカプセル状に包み、且つ、これにより、保護膜として機能する。タマネギ状の黒鉛状保護膜212を有するFePt−CベースのTAR媒体は、有利には、単一のステップにより、或いは、恐らくは、いくつかの追加のステップを伴って、製造することができる。
【0023】
磁性粒210及び黒鉛状保護層212は、単一ステッププロセスにより、或いは、恐らくは、非常に適合性の高い又は同一の材料及び堆積法を使用するマルチステッププロセスにより、形成することができる。タマネギ状の炭素保護膜は、腐食に対する保護を提供する。FePtベースの磁性粒210上におけるFeOx形成は、ヘッドのクラッシュ及び回復不能なディスクの損傷などのディスク駆動装置の障害を引き起こす可能性がある。タマネギ状の炭素層の安定した腐食防止層212は、ディスク表面上における鉄酸化物FeOxの成長を防止するのに有用である。
【0024】
又、タマネギ状の炭素保護膜212は、表面のパッシベーションをも提供する。空気−表面境界において安定した黒鉛状保護層を生成することにより、媒体表面は、化学的に安定した状態(ガス及び汚染物質に対する相対的に低い化学的反応性)となる。但し、この層は、依然として、潤滑層の吸収に対応することができる。
【0025】
又、タマネギ状の保護層は、熱的安定性をも提供する。熱アシスト記録の際には、(媒体のCurie温度及び記録物性に応じて)500〜600℃以上のピーク温度を有する熱パルスが、ディスクのダウントラックビット長及び線形回転速度によって決定される数ナノ秒のレベルの期間にわたって印加される。この温度過渡現象の持続時間は、非常に短く、且つ、それぞれのビットは、ディスク駆動装置の予想寿命を通じてカウントされた際に、合計で数秒にわたってこれらの過渡現象に暴露されることになるが、この高温に対する暴露は、炭素保護膜を劣化させると共に早期の駆動装置の障害の尤度を増大させることになる。提案しているタマネギ状の黒鉛状保護膜の更なる利点は、製品において現在使用されている通常のダイアモンド状炭素又は無定形炭素のものとは異なる炭素自体の微細構造によって付与される。黒鉛は、すべての炭素同素体における熱力学的基底状態である。これは、時間の経過に伴って、特に、材料が高温に暴露された際に、そのsp3結合炭素からsp2結合炭素への変換である黒鉛化を経験する無定形ダイアモンド状炭素とは対照的に、黒鉛状炭素の微細構造が変化しないことを意味している。200〜300℃を上回る温度処理によってダイアモンド状炭素を黒鉛状炭素に変化させることができることを実験が示している(非特許文献1)。材料が開始時点において黒鉛状である場合には、熱過渡現象は、黒鉛状炭素の微細構造に対してまったく又はほとんど影響を及ぼさない。従って、提案しているタマネギ状の保護層は、熱アシスト記録の場合に、通常の炭素保護膜よりも安定しており、且つ、従って、早期のディスク駆動装置の障害を防止するのに有用である。
【0026】
図2は、一実施形態を示しており、この場合に、黒鉛状シェル212は、磁性粒210と環境の間における唯一の保護体である。これらの層212は、非常に薄くすることができるため(それぞれの層は、グラフェンの単一の原子層である)、磁性粒210と磁気ヘッド121の間の間隔(図1)は、非常に小さい。磁界の強度(媒体からの又は書込みヘッドによって生成されるもの)は距離に伴って指数的に低下するため、この間隔の低減により、磁気記録システムの性能が大幅に向上する。
【0027】
次に図3を参照すれば、本発明の別の実施形態においては、炭素保護膜302などの更なる保護層をタマネギ状の層212上に設けることができる。この層302は、無定形ダイアモンド状炭素又は無定形炭素であってよい。層302は、余分な熱からの保護、良好な摺動性、更なる腐食防止保護、及び平坦化を提供する。層302は、図2の実施形態と比較して、結果的に磁気的間隔の増大をもたらすが、タマネギ状の黒鉛状層212の存在により、層302は、層212を伴うことなしに可能であるものよりも格段に薄く構築することができる。
【0028】
図4を参照すれば、別の実施形態においては、2つの追加の保護被覆層402、404を設けることができる。第1層は、無定形ダイアモンド状炭素又は無定形炭素などの炭素保護膜402であってよく、且つ、第2層404は、SiN、SiC、TiSiN、TiSiC、ZrN、ZrO、又はZrBなどの材料であってよい。第1下部層402は、更なる腐食防止保護及び平坦化を提供することができる。上部層404は、熱に対する保護及び良好な摺動性を提供している。
【0029】
図2〜図4は、それぞれの磁性粒210がタマネギ状の黒鉛状層212内に収容されている実施形態を示している。図5に示されている本発明の別の実施形態においては、複数の磁性粒502を黒鉛状炭素のタマネギ504内に収容することができる。更には、これらの磁性粒502は、非磁性分離体材料506によって相互に分離することも可能であり、この非磁性分離体材料506は、C、SiO、TiO、TaO、SiC、SiN、TiC、TiN、BN、これらの混合物、又はなんらかの類似の材料などの酸化物、炭化物、又は窒化物であってよい。
【0030】
更には、この多磁性粒構造には、図6に示されている炭素保護膜602などの更なる保護層を、或いは、炭素保護膜702及びSiN、SiC、TiSiN、TiSiC、ZrN、ZrO、又はZrBの保護層704などの2つの更なる保護層を、設けることもできる。
【0031】
図8は、更に別の実施形態を示しており、この場合に、個々の磁性粒802は、非磁性分離体材料804によって相互に分離されている。図8に示されているように、黒鉛状炭素806の層を磁性粒802上に形成することができる。これらの層806は、磁性粒802及び分離体804を形成した後に、磁性粒802の上部における後続の高温における炭素の堆積によって形成することが可能であり、これは、触媒効果によるグラフェン状の炭素の形成に結び付く。このグラフェン状の層からなる追加の層806は、表面を平坦化させ、且つ、腐食に対する保護に有用である。
【0032】
任意選択により、炭素保護膜の層902を図8の構造に対して適用することにより、図9に示されている構造を得ることもできる。又、SiNx、SiC、TiSiN、ZrN、ZrOx、ZrBなどの第2保護層1002を炭素保護膜902上に適用することにより、図10に示されている構造を形成することもできる。
【0033】
黒鉛状炭素のタマネギ状の層によってカバーされた磁性粒を有する磁気媒体は、腐食及び損耗に対する優れた保護を提供する。図11は、このような層を有していない媒体との比較において、タマネギ状の黒鉛状保護層を有する磁気媒体におけるX線光電子分光法(XPS)の結果を示している。図11において、ライン1102は、タマネギ状の黒鉛状層を有する媒体の結果を示しており、ライン1104は、このような層を有していない媒体の結果を示している。観察することができるように、炭素層内においてカプセル状に包まれた分離された磁性粒を有するFePtAgC薄膜のFe2p3/2スペクトルにおいては、Feは、その初期の金属化学的状態にあるが、保護炭素層を伴わないFePtのテクスチャ化連続薄膜の場合には、Feは、部分的に酸化され、自然表面酸化物を有する。
【0034】
更には、タマネギ状の黒鉛状層は、図12によって示されているように、現在使用されている潤滑剤との優れた適合性をも提供する。図12において、正方形としてグラフ内に示されているデータポイントは、望ましいタマネギ状の黒鉛状層を有する媒体のデータポイントを表しており、円として示されているデータポイントは、このような保護層を有していない媒体のデータを表している。図4は、黒鉛状層を有する媒体が磁気ディスク駆動装置内において現在使用されている従来の潤滑油(ZTMD)と適合性を有することを示している。潤滑油が塗布されたすべてのディスクは、30mN/m周辺の相対的に低い表面エネルギーを有しており、これは、現在のディスク製品に共通している。低い表面エネルギーは、汚染物質の吸着を低減するための要件の1つである。一方、ディスクの表面は、潤滑剤が効果的に結合されるように十分な反応性を有している。ZTMDは、すべての薄膜に対して非常に良好に接着し、一週間後に計測される結合比率は、95%を上回る。
【0035】
以上、様々な実施形態について説明したが、これらは、限定としてではなく、一例としてのみ提示されたものであることを理解されたい。当業者には、本発明の範囲に含まれるその他の実施形態も明らかとなろう。従って、本発明の広さ及び範囲は、上述の例示用の実施形態のいずれによっても限定されるものではなく、添付の請求項及びそれらの均等物によってのみ規定することを要する。
【符号の説明】
【0036】
100 ディスク駆動装置
112 磁気媒体
113 スライダ
114 スピンドル
115 サスペンション
118 駆動モーター
119 アクチュエータアーム
121 磁気ヘッド
122 ディスク表面
123 ライン
125 データ記録チャネル
127 アクチュエータ手段
128 ライン
129 制御ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気データ記録用の磁気媒体であって、
複数の磁性粒と、
前記複数の磁性粒のうちのそれぞれの磁性粒上に形成された黒鉛状炭素の複数の層と、
を有する磁気媒体。
【請求項2】
前記黒鉛状炭素の複数の層のそれぞれは、炭素の単一の原子層である、請求項1に記載の磁気媒体。
【請求項3】
前記黒鉛状炭素の複数の層のそれぞれは、グラフェンの層である、請求項1に記載の磁気媒体。
【請求項4】
前記黒鉛状炭素の層は、フラーレンである、請求項1に記載の磁気媒体。
【請求項5】
前記黒鉛状炭素の複数の層は、前記複数の磁性粒のそれぞれを部分的に収容する、請求項1に記載の磁気媒体。
【請求項6】
前記黒鉛状炭素の層は、前記磁性粒を相互に分離する、請求項5に記載の磁気媒体。
【請求項7】
前記磁性粒は、非磁性分離体材料により、相互に分離される、請求項1に記載の磁気媒体。
【請求項8】
前記複数の磁性粒の少なくともいくつかは、黒鉛状層の単一の組により、一緒にカバーされる、請求項1に記載の磁気媒体。
【請求項9】
前記黒鉛状炭素の複数の層は、前記磁性粒を保護する単一の保護層であり、その上部に形成されたその他の保護層が存在していない、請求項1に記載の磁気媒体。
【請求項10】
前記グラフェンの複数の層上に形成された非磁性保護被覆を更に有する、請求項1に記載の磁気媒体。
【請求項11】
前記黒鉛状炭素の複数の層上に形成された第1及び第2保護層を更に有する、請求項1に記載の磁気媒体。
【請求項12】
前記黒鉛状炭素の複数の層上に形成されたダイアモンド状炭素又は無定形炭素の層を更に有する、請求項1に記載の磁気媒体。
【請求項13】
前記黒鉛状炭素の複数の磁性粒上に形成された第1及び第2層を更に有し、前記第1層は、ダイアモンド状炭素又は無定形炭素を有し、前記第2層は、SiNx、SiC、TiSiN、ZrN、ZrOx、又はZrBを有する、請求項1に記載の磁気媒体。
【請求項14】
前記黒鉛状炭素の複数の層は、タマネギの皮のように、相互に上下に形成される、請求項1に記載の磁気媒体。
【請求項15】
磁気データ記録システムであって、
ハウジングと、
前記ハウジング内に回転自在に取り付けられた磁気媒体と、
アクチュエータと、
前記磁気媒体の表面に隣接して運動するように前記アクチュエータと接続された磁気ヘッドと、
を有し、
前記磁気媒体は、
複数の磁性粒と、
前記複数の磁性粒のうちのそれぞれの磁性粒上に形成された黒鉛状炭素の複数の層と、
を更に有する、システム。
【請求項16】
前記黒鉛状炭素の複数の層のそれぞれは、炭素の単一の原子層である、請求項15に記載の磁気媒体。
【請求項17】
前記黒鉛状炭素の複数の層のそれぞれは、グラフェンの層である、請求項15に記載の磁気媒体。
【請求項18】
前記黒鉛状炭素の複数の層のそれぞれは、フラーレンである、請求項15に記載の磁気媒体。
【請求項19】
前記黒鉛状炭素の複数の層は、前記複数の磁性粒のそれぞれを部分的に収容する、請求項15に記載の磁気媒体。
【請求項20】
前記磁性粒は、非磁性分離体材料によって相互に分離される、請求項15に記載の磁気媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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