説明

タンク開口形成装置

【課題】シリンダ等の作動部材を設けることなく切断残片を保持可能にすることができ、構造を簡易化すると共に小型化したタンク開口形成装置を提供する。
【解決手段】下穴3dに対する係合軸部21の挿入時には、下穴3d内周面に対する摺接により係合ボール27を弾性部材29の弾性力に抗して放射方向内側へ移動して挿入を可能にすると共に、下穴3dに挿入された係合軸部21の係合ボール27が下穴3dの下面より下方に位置した際には、係合ボール27を弾性部材29の弾性力により放射方向外側へ移動して下穴3dの下面に係合可能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンク、特に車両用燃料タンクにゲージやセンサ等の各種部品を取付けるための開口を形成するタンク開口形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
タンク、特に車両用燃料タンクにゲージやセンサ等の各種部品を取付けるための開口を形成する際には、切断残片がタンク内に落下して汚れるのを防止するため、開口形成作業の終了時に、切断残片をタンク外部へ確実に取出すように開口形成作業する必要がある。
【0003】
切断残片の取出しを可能にするタンク開口形成装置としては、例えば特許文献1に示すタンク孔明け装置が知られている。該タンク孔明け装置は、タンクの所定個所に各種部品を装着するための孔(開口)を開穿するドリルユニットに、スピンドルを回転中心として所定距離を隔ててカッタ刃を装着すると共にスピンドルの下方部に、スピンドルの軸心に沿って上下動するピストン、該ピストンの下部に固設されたピストンロッド、該ピストンロッドを囲繞するように下向き且つ等間隔で枢着された複数のアームからなり、アームには枢着部近傍の内側に突起部を突設すると共に該アームの下端部を外側に突設して爪部が形成され、更に、前記ピストンロッドにカム溝を設けて前記アームの突起部をこのカム溝に係合し、前記ピストンの上下動によりアームの突起部が押し上げ若しくは押し下げられて、アームの下端部が縮径若しくは拡径する膨拡機構部を設け、予め前記タンクの所定位置に開穿されている下孔に膨拡機構部を挿入して貫通させると共に膨拡機構部を拡径して該下孔の下面部を支持し、スピンドルと一体に回転するカッタ刃をタンクの表面に当接して所定径の孔を開穿し、更に前記カッタ刃が切り抜いた切断残片を前記膨拡機構部にて保持するように構成される。
【0004】
上記した従来のタンク孔明け装置の膨拡機構部にあっては、下穴の下面部を支持するアームを拡径または縮径するピストン及びピストンロッドにより構成されるシリンダを設け、該シリンダをスピンドルに遊嵌されたエアーパイプから供給される圧縮空気により作動させるように構成される。
【0005】
しかし、上記タンク孔明け装置にあっては、膨拡機構部の構造が複雑化して大型化するため、ある程度の大きさの下穴が形成されたタンクにしか孔を形成することができなかった。即ち、タンクに小径の孔を形成する際には、形成される孔に応じて下穴も小径になり、大型化した膨拡機構部にあっては、小径の下穴に挿入して貫通させることが困難で、所望の大きさの孔を形成できなかった。
【0006】
また、上記膨拡機構部のエアーパイプは、スピンドルに遊嵌され、スピンドルの回転時には、回転しないように構成する必要がある。このため、上記タンク孔明け装置の膨拡機構部は、タンクの下穴内に挿入して貫通させた後にアームを拡径作動して下穴の下面部を支持させることにより回転抵抗を与え、この状態でスピンドルを回転して孔明け動作を実行しても、エアーパイプが回転しないように構成している。
【0007】
このため、タンクに孔を形成するに先立って下穴に対する膨拡機構部の挿入動作及びアームを拡径して下面部を支持する支持動作を行う必要があり、孔形成作業に時間がかかって作業効率が悪かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許3618693号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
解決しようとする問題点は、従来のタンク孔明け装置の膨拡機構部にあっては、アームを拡径動作させるシリンダ等の作動部材を必要とするため、膨拡機構部が複雑化して大型化し、小径の孔を形成することが困難な点にある。また、回転するカッタ刃により孔の形成する際には、ドリルユニットのスピンドルに対して膨拡機構部を回転止めする必要があり、孔形成に先立って膨拡機構部のアームを下穴周縁の下面部に支持させなければならず、孔形成に時間がかかって作業効率が悪い点にある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、回転駆動されるスピンドルの軸線から軸線直交方向に所要の距離をおいて設けられる切断刃を、上記スピンドルを中心に回動してタンクの部品取付け部に形成された下穴を中心に所要の内径の開口を形成するタンク開口形成装置において、上記スピンドルの軸端部に対して基端部が回転可能に軸支され、該スピンドルの軸線と一致して軸線方向へ所要の長さで延出し、上記下穴に挿入可能な外径の係合軸部と、該係合軸部の下部に上記軸線と直交する放射方向へ延出し、外周側が小径状に形成される支持孔内に放射方向へ移動可能で、かつ抜け止めされて一部が外周面側へ突出可能に装着される係合ボールと、上記支持孔内に装着され、上記係合ボールを放射方向外側へ付勢する弾性部材とを備え、下穴に対する係合軸部の挿入時には、下穴内周面に対する摺接により係合ボールを弾性部材の弾性力に抗して放射方向内側へ移動して挿入を可能にすると共に下穴に挿入された係合軸部の係合ボールが下穴下面より下方に位置した際には、係合ボールを弾性部材の弾性力により放射方向外側へ移動して下穴下面に係合可能にすることを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、シリンダ等の作動部材を設けることなく、下穴に対する突入により切断残片を保持可能にすることができ、構造を簡易化すると共に小型化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】タンク開口形成装置により開口が形成されるタンクの部品取付け部を示す部分斜視図である。
【図2】本発明に係るタンク開口形成装置の概略を示す全体斜視図である。
【図3】タンク開口形成装置の中央縦断面図である。
【図4】タンク開口形成装置における係合構造を示す一部分解斜視図である。
【図5】タンク開口形成初期状態を示す説明図である。
【図6】タンク開口形成途中状態を示す説明図である。
【図7】タンク開口形成終了時の状態を示す説明図である。
【図8】タンク開口から切断残片を抜き出す状態を示す説明図である。
【図9】切断残片の取り外し状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、下穴に対する係合軸部の挿入時には、下穴内周面に対する摺接により係合ボールを弾性部材の弾性力に抗して放射方向内側へ移動して挿入を可能にすると共に下穴に挿入された係合軸部の係合ボールが下穴下面より下方に位置した際には、係合ボールを弾性部材の弾性力により放射方向外側へ移動して下穴下面に係合可能にすることを最良の実施形態とする。
【実施例1】
【0014】
以下、実施例を示す図に従って本発明を説明する。
先ず、本発明に係るタンク開口形成装置1により開口7が形成される部品取付け部3が設けられたタンクとしての車輛用燃料タンク5を説明すると、図1に示すように車輛用燃料タンク5は、異なる複数枚の合成樹脂シートを積層した合成樹脂製で、その上面には、該車輛用燃料タンク5に装着される、例えばゲージや各種センサ、燃料ポンプ等の各種部品に応じた個数の部品取付け部3が形成される。
【0015】
上記部品取付け部3は、所要の外径及び高さで外周面に雄ねじ3aが旋設され、上面が上面板3bで閉鎖された筒状部3cからなる。そして上記上面板3bの中央部には、所要深さで、中央部に所要の内径からなる下穴3dが予め形成された凹所3eが設けられる。そして上記開口7は、上記上面板3bを筒状部3cの内周面に沿って切断して形成される。
【0016】
図2乃至図4に示すように、上記上面板3bに開口7を形成するタンク開口形成装置1は、例えば少なくとも三次元方向へ移動制御される産業用ロボットのアーム(いずれも図示せず)の先端部に取付けられ、アームを移動制御して車輛用燃料タンク5の部品取付け部3に開口7を自動的に形成する。
【0017】
上記タンク開口形成装置1の本体(図示せず)には、スピンドル9が回転可能に軸支され、該スピンドル9には、本体に設けられた電動モータ11の回転軸が駆動連結される。上記スピンドル9は、電動モータ11の駆動により所要の回転数で回転される。
【0018】
上記スピンドル9には、回転体13が固定され、該回転体13には、スピンドル9を回転中心として放射方向へ延出する刃物取付けアーム15が設けられる。該刃物取付けアーム15の先端部には、上記スピンドル9の軸線と一致する図示する下方へ延出し、両刃または片刃の刃先を有した切断刃17が取付けられる。
【0019】
なお、上記刃物取付けアーム15と反対側の回転体13には、バランサ部材19が取付けられ、スピンドル9を中心に刃物取付けアーム15側と反対側の重量が一致するように調整される。
【0020】
上記回転体13の中心部には、スピンドル9に一致する軸線を有した中心軸体19の基端部が軸受19aを設けて回転可能に軸支される。該軸受19aとしては、スラスト方向及びラジアル方向の双方の荷重を受けるアンギュラ軸受が適している。
【0021】
上記中心軸体19の先端部には、上記下穴3d内に挿入可能な外径で、かつ下穴3dの軸線長さより長い係合軸部21が設けられている。即ち、係合軸部21は、中心軸体19より小径で、所要の軸線長さからなり、該中心軸体19の先端部に固定された固定軸23の外周面にねじ止めされる一対の取付け軸体25と、各取付け軸体25に形成された支持孔25a内に抜け止めされて挿入される係合ボール27により構成される。
【0022】
各取付け軸体25は、下穴3dに挿入可能な外径及び固定軸23にほぼ一致する軸線長さで、中心部に上記固定軸23が挿嵌される空間部を有した円柱体を半割した形状からなる。また、各取付け軸体25に形成される支持孔25aは、上記軸線と直交する放射方向へ延出し、上記軸線を中心とする45度位置及び135度位置にそれぞれ形成される。
【0023】
各支持孔25aは、内周から外周に向かって係合ボール27が移動可能な内径で、かつ外周側が若干、小径に形成されて係合ボール27を抜け止めする。上記支持孔25a内に装着された係合ボール27は、放射方向外側へ移動された際に、取付け軸体25の外周面から一部が突出するように装着される。
【0024】
また、各支持孔25aにおける係合ボール27の内側には、圧縮ばね、ゴム等の弾性部材29がそれぞれ装着され、各係合ボール27は、それぞれの弾性部材29の弾性力により放射方向外側へ移動するように付勢される。
【0025】
なお、各取付け軸体25は、固定軸23の外周面に対して互いの合わせ面を一致させた状態でねじ31により固定される。また、固定軸23の先端には、抜け止め部材33がねじ止めされ、固定軸23に装着された取付け軸体25が抜け出すのを規制する。
【0026】
次に、上記のように構成されたタンク開口形成装置1による開口7の形成作用を説明する。
先ず、タンク開口形成装置1における係合ボール27の初期状態に付いて説明すると、各取付け軸体25の各支持孔25a内に装着された係合ボール27は、弾性部材29の弾性力により放射方向外側へ付勢され、その一部が取付け軸体25の外周面から突出している。
【0027】
次に、上記したタンク開口形成装置1により部品取付け部3に開口7を形成するには、作業ロボットのアームを移動制御してタンク開口形成装置1を、その係合軸部21及び下穴3dの軸線が互いに一致するように移動させた後、下穴3d内に対して係合軸部21を、切断刃17の刃先が上面板3bの上面に当接又は近接する位置まで挿入させる。係合軸部21が下穴3d内を通過する際には、各支持孔25a内の係合ボール25は、下穴3dの内周面に対する摺接により弾性部材29の弾性力に抗して放射方向内側へ移動し、下穴3d内に対して係合軸部21を挿入可能にさせる。(図5参照)
そして係合軸部21が下穴3d内を通過した後にあっては、各支持孔25a内の係合ボール25は、弾性部材29の弾性力により放射方向外側へ移動し、下穴3dの下面側に位置して係合可能な状態になる。(図6参照)
【0028】
次に、上記状態にてタンク開口形成装置1をスピンドル9の図示する軸線下方向へ所要の圧力で加圧しながら電動モータ11を駆動してスピンドル9を中心に切断刃17を回動することにより上面板3bに開口7を形成するための切断を開始させる。
【0029】
そして切断刃17による上面板3bの切断の進展により該上面板3bに開口7が形成されると、凹所3e及び切断された一部の上面板3bを含む切断残片3fは、一部が取付け軸体25の外周面から突出し、下穴3dの下面側に位置する係合ボール27により保持可能な状態に保たれる。(図7参照)
【0030】
なお、係合軸部21が挿嵌される下穴3dを含む切断残片3fは、その自重により落下する場合があるが、その場合であっても、一部が取付け軸体25の外周面から突出する係合ボール27が下穴3dの下面に係合することにより係合軸部21から切断残片3fが抜け出すのを規制し、保持状態を保つことができる。
【0031】
上記開口7から切断残片3fを取出すには、上記開口形成作業後に作業ロボットのアームを移動制御してタンク開口形成装置1を部品取付け部3から離脱する方向へ移動制御させる。このとき、上記軸線上方へ移動する係合軸部21が下穴3d内に挿入された切断残片3fは、上記軸線上方へ移動する係合軸部21に対して取付け軸体23の外周面から外側へ突出する係合ボール25の一部が下穴3dの下面に係合して抜け止めされて保持状態が保たれるため、上記係合軸部21の移動に伴って開口7から外部へ取出される。(図8参照)
【0032】
そして上記係合軸部21から切断残片3fを取り外すには、タンク開口形成装置1を、例えば待機位置まで移動制御し、該待機位置に配置された平面ほぼU字型の取外し治具41の腕部41a間に中心軸体19を、該腕部41aの下面に対して切断残片6fの上面板3bが相対するように位置させる。そして該状態にてタンク開口形成装置1を図示する中心軸体19の軸線上方向へ移動して腕部41aに切断残片3fを圧接させる。
【0033】
上記圧接により各係合ボール25は、切断残片3fにおける下穴3dの下面及び内周面に対する摺接に伴って弾性部材27の弾性力に抗して放射方向内側へ移動し、下穴3d内から係合軸部21の抜け出しを可能にさせる。そして上記下穴3d内から係合軸部21を抜け出させることにより該係合軸部21による切断残片3fの保持を解除して離脱させる。(図9参照)
【0034】
本実施例は、下穴3d内に係合軸部21を挿入した際には、係合ボール27を弾性部材29の弾性力に抗して放射方向内側へ移動して上記挿入を可能にすると共に係合ボール27が下穴3dの下方に位置した際には、弾性部材29の弾性力により係合ボール27を放射方向外側へ移動して下穴3dの下面に係合可能にさせることにより係合軸部21による切断残片3fの保持を可能にし、上面板3bに開口7が形成された際に、切断残片3fが車輛用燃料タンク5内に落下して汚すのを防止することができる。
【0035】
また、開口7の形成後においては、弾性部材29の弾性力により放射方向外側へ移動した係合ボール27により係合軸部21による切断残片3fの保持状態を保ち、切断残片3fを係合軸部21に保持した状態で車輛用燃料タンク5外へ取出すことができる。
【符号の説明】
【0036】
1 タンク開口形成装置
3 部品取付け部
3a 雄ねじ
3b 上面板
3c 筒状部
3d 下穴
3e 凹所
3f 切断残片
5 タンクとしての車輛用燃料タンク
7 開口
9 スピンドル
11 電動モータ
13 回転体
13a バランサ部材
15 刃物取付けアーム
17 切断刃
19 中心軸体
19a 軸受
21 係合軸部
23 固定軸
25 取付け軸体
25a 支持孔
27 係合ボール
29 弾性部材
31 ねじ
33 抜け止め部材
41 取外し治具
41a 腕部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転駆動されるスピンドルの軸線から軸線直交方向に所要の距離をおいて設けられる切断刃を、上記スピンドルを中心に回動してタンクの部品取付け部に形成された下穴を中心に所要の内径の開口を形成するタンク開口形成装置において、
上記スピンドルの軸端部に対して基端部が回転可能に軸支され、該スピンドルの軸線と一致して軸線方向へ所要の長さで延出し、上記下穴に挿入可能な外径の係合軸部と、
該係合軸部の下部に上記軸線と直交する放射方向へ延出し、外周側が小径状に形成される支持孔内に放射方向へ移動可能で、かつ抜け止めされて一部が外周面側へ突出可能に装着される係合ボールと、
上記支持孔内に装着され、上記係合ボールを放射方向外側へ付勢する弾性部材と、
を備え、下穴に対する係合軸部の挿入時には、下穴内周面に対する摺接により係合ボールを弾性部材の弾性力に抗して放射方向内側へ移動して挿入を可能にすると共に下穴に挿入された係合軸部の係合ボールが下穴下面より下方に位置した際には、係合ボールを弾性部材の弾性力により放射方向外側へ移動して下穴下面に係合可能にするタンク開口形成装置。
【請求項2】
請求項1において、係合軸部は、スピンドルに対して基端部が回転可能に軸支される中心軸体と、該中心軸体の下部に固着され、下部にスピンドルの軸線と直交する放射方向へ延出し、外周側に小径部を有した支持孔が形成された取付け軸体と、上記支持孔内に放射方向へ移動可能に挿入される係合ボールと、支持孔内に挿入された係合ボールを放射方向外側へ付勢する弾性部材とからなるタンク開口形成装置。
【請求項3】
請求項2において、取付け軸体は、下部にスピンドルの軸線と直交する放射方向へ延出し、外周側に小径部を有した支持孔が形成された半割円筒状からなる一対の取付け軸体を固着して軸状としたタンク開口形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−115955(P2012−115955A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−268731(P2010−268731)
【出願日】平成22年12月1日(2010.12.1)
【出願人】(506329292)スターテクノ株式会社 (45)