説明

タンタル(V)系酸窒化物を含有する粉体の製造方法

【課題】タンタル(V)系酸窒化物を含有する粉体の製造方法を提供する。
【解決手段】タンタル酸化物粉末を出発原料として、タンタルを窒化させるための窒素成分の供給源となる窒化アルミニウムと、窒化を促進させる鉱化剤としてのアルカリ金属、アルカリ土類金属の塩、或いはそれらの複数種の塩の混合物とを混合した粉体を、窒素雰囲気中、或いは窒素気流中で熱処理することにより、タンタル(V)系酸窒化物を含有する粉体を合成する当該タンタル(V)系酸窒化物の製造方法。
【効果】従来の合成法と比べて、毒性のあるアンモニアガスを使用することなく、より低温・短時間で、タンタル(V)系酸窒化物を含有する粉体を製造する方法を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンタル(V)系酸窒化物を含有する粉体の製造方法に関するものであり、更に詳しくは、赤黄色系顔料、或いは光触媒として注目されている5価のタンタルを含む酸窒化物を含有する粉体を、より安全で且つ省エネルギーな手法で合成することを可能とする当該タンタル(V)系酸窒化物含有粉体の製造方法に関するものである。本発明は、従来の合成法と比べて、毒性のあるアンモニアガスを使用することなく、より低温・短時間で、環境親和性の高い顔料等として有用なタンタル(V)系酸窒化物を含有する粉体を大量に製造することを可能とするタンタル(V)系酸窒化物含有粉体の新規製造技術を提供するものである。尚、本発明の合成方法で得られる粉体の構成結晶相は、X線回折による結晶同定では、窒化タンタル(Ta)として固定されたが、分析電顕(AEM)によるEDX分析の結果、Ta類似結晶構造のアルミニウムを含有するタンタル(V)系酸窒化物であることが明らかとなったことから、本願明細書では、本発明の合成方法で得られる当該粉体をタンタル(V)系酸窒化物と記載することとする。
【背景技術】
【0002】
セラミック、プラスチック、塗料等の着色用顔料として製造されるものの中には、人体にとって極めて有害な金属(カドミウム、セレン、鉛、クロム、コバルト等)が含まれている。これらの有害成分は、使用中及び廃棄処理中に放出され、環境/生物に影響を及ぼすため、その使用に関する規制が年々厳しくなっている。
【0003】
したがって、上記着色用顔料としては、毒性の疑いの少ない成分を含有する顔料を使用することが重要である。タンタルは、毒性がなく、その5価の窒化物や酸窒化物は、環境親和性の高い顔料として、量産化を含めた製造法の研究がヨーロッパを中心に行われている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、先行技術として、例えば、従来の生成物に比べて改善された明度を有する赤色顔料を製造する方法として、700〜1250℃でアンモニアを用いて粉末状タンタル(V)を窒化することによって窒化タンタル(V)顔料を製造する方法が提案されている(特許文献2参照)。
【0005】
また、他の先行技術として、例えば、酸化タンタル(V)、酸化タンタル(V)水和物又は酸窒化タンタル(V)を、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の硝酸塩、塩化物及び炭酸塩を含む系列からの1種以上の水溶性塩の存在下で、アンモニアで窒化する窒化タンタル(V)顔料の製造方法が提案されている(特許文献3参照)。
【0006】
また、他の先行技術として、例えば、酸化物のタンタル(V)化合物として、14〜17重量%の範囲内の水和物含量(aq含量)を有する組成式:Ta・aqの酸化タンタル(V)水和物を使用して、無水アンモニアで750〜950℃で窒化することによって窒化タンタル(V)を製造する方法が提案されている(特許文献4参照)。
【0007】
このように、従来の合成法では、これらの窒化物及び酸窒化物の製造に際しては、酸化タンタルを可燃性且つ毒性のアンモニアガスを大量に長時間流しながら窒化する手法を用いているため、安全及びコスト面において、非常に大きな問題を抱えていた。また、従来の合成法では、アンモニアガスによる窒化反応を十分に進行させるために、一般的に、850〜900℃程度の温度で10時間以上の長時間に亘る熱処理が必要とされていた。
【0008】
したがって、当該技術分野においては、アンモニアガスによる長時間の窒化プロセスを用いないで、より安全並びに低コストで、しかも省エネルギー的な手法で、酸化物のタンタル(V)化合物を窒化してタンタル(V)系の窒化物乃至酸窒化物を製造することを可能にする新しい合成技術の開発が強く求められていた。
【0009】
【特許文献1】特開2000−247646号公報
【特許文献2】特開2000−247614号公報
【特許文献3】特開2000−178012号公報
【特許文献4】特開平6−206710号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、毒性のあるアンモニアガスを使用することなく、しかも、より低温且つ短時間でタンタル(V)系の窒化物乃至酸窒化物を含有する粉体を量産することができる新しい合成手法を開発することを目標として鋭意研究を積み重ねた結果、タンタル酸化物を出発原料として用いて、これにタンタルを窒化させるための窒化成分の供給源としての窒化アルミニウム、及び窒化反応を促進させる鉱化剤としてのアルカリ金属の塩等を混合した粉体を、窒素雰囲気中等の窒素の存在下で熱処理することにより所期の目的を達成し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明は、従来の合成法と比べて、毒性のあるアンモニアガスを使用することなく、より低温・短時間で、タンタル(V)系酸窒化物を含有する粉体を製造する方法を提供することを目的とするものである。また、本発明は、酸化タンタルを、可燃性且つ毒性のアンモニアガスを大量に長時間流しながら窒化する従来の手法を適用することなしに、環境親和性の高い5価の窒化物や酸窒化物を量産することが可能な新しい合成法を開発、提供することを目的とするものである。更に、本発明は、従来の合成法と比べて、安全且つ省エネルギーな手法で、タンタル(V)系酸窒化物を高レベルで含有する環境親和性の高い赤黄色系の粉体を合成することを可能とする当該タンタル(V)系酸窒化物を含有する粉体の新規合成法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)タンタル(V:5価)系酸窒化物を含有する粉体を合成する方法であって、タンタル酸化物粉末を出発原料として、タンタルを窒化させるための窒素成分の供給源となる窒化アルミニウムと、窒化を促進させる鉱化剤としてのアルカリ金属乃至アルカリ土類金属の塩、或いはそれらの複数種の塩の混合物とを混合した粉体を、窒素の存在下で熱処理することにより、タンタル(V)系酸窒化物を含有する粉体を合成することを特徴とする当該タンタル(V)系酸窒化物含有粉体の合成方法。
(2)上記粉体を、窒素雰囲気中、或いは窒素気流中で熱処理する、前記(1)に記載の合成方法。
(3)窒化反応を促進させる鉱化剤として、フッ化カリウム、フッ化ナトリウム、フッ化リチウム、フッ化マグネシウム、又は塩化カリウムを用いる、前記(1)に記載の合成方法。
(4)窒素の存在下で、650〜1000℃の温度域で熱処理する、前記(1)又は(2)に記載の合成方法。
(5)タンタル酸化物と窒化アルミニウムとの反応を利用してアルミニウムとタンタル(V)を含む酸窒化物に変換する、前記(1)に記載の合成方法。
(6)熱処理時間が、1〜6時間である、前記(1)、(2)又は(4)に記載の合成方法。
(7)窒化反応プロセスで、毒性のあるアンモニアガスを使用することなく、タンタル(V)系酸窒化物を含有する粉体を合成する、前記(1)から(6)のいずれかに記載の合成方法。
【0013】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明は、タンタル(V)系酸窒化物を含有する粉体を合成する方法であって、タンタル酸化物粉末を出発原料として、タンタルを窒化させるための窒素成分の供給源となる窒化アルミニウムと、窒化反応を促進させる鉱化剤としてのアルカリ金属乃至アルカリ土類金属の塩、或いはそれらの複数種の塩の混合物とを混合した粉体を、窒素の存在下で熱処理することにより、タンタル(V)系酸窒化物を含有する粉体を合成することを特徴とするものである。
【0014】
本発明では、上記粉体を、窒素雰囲気中、或いは窒素気流中で熱処理すること、窒化反応を促進させる鉱化剤として、フッ化カリウム、フッ化ナトリウム、フッ化リチウム、フッ化マグネシウム、又は塩化カリウムを用いること、窒素の存在下で、650〜1000℃の温度域で熱処理すること、熱処理時間が、1〜6時間であること、を好ましい実施の態様としている。
【0015】
本発明は、タンタル酸化物粉末を出発原料とし、これにタンタルを窒化させるための窒素成分の供給源となる窒化アルミニウムと、窒化を促進させる鉱化剤となる、アルカリ金属並びにアルカリ土類金属の塩、或いはそれらの複数種の塩の混合物を混合した粉体を、窒素雰囲気中、或いは窒素気流中で、650℃から1000℃の温度域で熱処理することにより、タンタル(V)系酸窒化物を含有する赤黄色系の粉体を合成することを主たる特徴としている。
【0016】
本発明では、主に、セラミック、プラスチック、塗料等の着色用顔料として、或いは光触媒として使用されるタンタル(V)系酸窒化物を主成分とする赤黄色系の粉体を、従来の合成法と比べて、毒性及び可燃性の強いアンモニアガスを使用することなく、より低温・短時間且つ安全に合成することが可能である。
【0017】
このように、本発明は、出発原料であるタンタル酸化物粉末を、タンタルを窒化させるための窒素成分の供給源となる窒化アルミニウムを用いて窒化することを主要な特徴とするものである。本発明の手法では、両化合物間において、窒化反応の進行によりタンタル(V)の酸窒化物の生成が期待できる。
【0018】
しかし、単純に、これらの二種類の粉末を混合して、窒素中で熱処理しても、上記窒化反応は進行しないため、本発明では、窒化を促進させる鉱化剤として、アルカリ金属、アルカリ土類金属の塩、或いはそれらの複数種の塩の混合物を、これらに添加した上で熱処理を行う。アルカリ金属の塩としては、例えば、フッ化カリウム、フッ化ナトリウム、フッ化リチウム、塩化カリウム、塩化ナトリウム、炭酸カリウム等、アルカリ土類金属の塩としては、例えば、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム等、が用いられる。
【0019】
これらのうち、特に、アルカリ金属のハロゲン化物が鉱化剤としての効果が高いことが分かった。熱処理温度域は、650〜1000℃で、好適には750℃辺りであり、該温度域の熱処理により、高い彩度を有するオレンジ色を有するタンタル(V)系酸窒化物を主成分とする粉体が得られる。熱処理時間は、熱処理温度にもよるが、1〜6時間程度で十分である。
【0020】
従来の合成法では、出発原料である酸化タンタルの窒化物及び酸窒化物の製造に際して、該酸化タンタルを、可燃性且つ毒性のアンモニアガスを大量に長時間流しながら窒化する手法を用いているため、特に、安全及びコスト面に大きな問題を抱えていた。また、アンモニアガスによる窒化反応を十分に進行させるためには、一般的に、850〜900℃程度の温度で10時間以上の長時間に亘る熱処理が必要とされていた。
【0021】
これに対して、本発明では、タンタル酸化物粉末を出発原料として使用し、これにタンタルを窒化させるための窒素成分の供給源となる窒化アルミニウムと、窒化を促進させる鉱化剤となる、アルカリ金属、アルカリ土類金属の塩、或いはそれらの複数種の塩の混合物とを混合した粉体を、窒素雰囲気中、或いは窒素気流中で、650℃から1000℃の温度域で熱処理することにより、アンモニアガスによる窒化プロセスを採用することなく、タンタル(V)系酸窒化物を含有する赤黄色系の粉体の合成が可能である。
【0022】
本発明は、従来の合成法と比べて、毒性のあるアンモニアガスを使用することなく、しかも、より低温・短時間で、窒化タンタルを含有する粉体を製造することを可能とする新しい窒化物及び酸窒化物の合成法を提供することを実現したものである。得られた窒化タンタルは、環境親和性の高い顔料として、また、光触媒として有用である。
【発明の効果】
【0023】
本発明により、次のような効果が奏される。
(1)本発明では、従来の合成法と比べて、毒性のあるアンモニアガスを使用することなく、より低温・短時間で、タンタル(V)系酸窒化物を含む粉体を製造し、提供することができる。
(2)本発明では、出発原料のタンタル酸化物粉末と、窒素成分の供給源となる窒化アルミニウム、及び窒化を促進させる鉱化剤のアルカリ金属等を混合した粉体を、窒素雰囲気中で熱処理することからなる、タンタル(V)系酸窒化物含有粉体の新しい合成技術が提供される。
(3)本発明は、酸化タンタルを可燃性且つ毒性のアンモニアガスを大量に長時間流しながら窒化する従来の合成法と比べて、安全及びコスト面で大きな利点を有する。
(4)本発明により、有害成分を含まない赤黄色系顔料、或いは光触媒として注目されているタンタル(V)系窒化物乃至酸窒化物を含有する粉体を合成することができる。
(5)本発明は、製造方法が簡便であり、上記タンタル(V)系酸窒化物含有粉体を大量合成する手法として好適に使用することができる。
(6)本発明により、環境親和性の高い顔料として、量産化を含めた製造技術の開発研究が積極的に進められている5価のタンタルの窒化物乃至酸窒化物を、アンモニアガスによる窒化反応を利用しないで合成することが可能な、当該タンタルの窒化物乃至酸窒化物の新規合成技術を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、以下の実施例は、本発明の好適な一例を示すものであり、本発明は、当該実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0025】
酸化タンタル粉末1モルに対して、3.33モルの窒化アルミニウム粉末と0.83モルのフッ化カリウム粉末を混合した粉末を、窒素雰囲気中で熱処理して、タンタル(V)系酸窒化物を含有する粉体を作製した。得られたタンタル(V)系酸窒化物を含有する粉体の構成結晶相とマンセル表色値を表1に示す。タンタル(V)系酸窒化物の生成割合は、850℃をピークに熱処理温度の増加につれて増大する傾向が認められたが、粉体の色は、700〜800℃付近では、オレンジ色、850℃から茶色味が増し、900℃では、Taの生成に伴って、黒味がかった色に変化した。合成粉体中に含まれるタンタル(V)系酸窒化物は、Ta(Ti3O5(ansovite)構造(斜方晶系))と類似の構造を有しており、X線回折計による結晶同定では、Taとして同定されたが、分析電顕(AEM)によるEDX分析の結果、アルミニウムとタンタルの酸窒化物であることが明らかとなったので(図1)、本発明の合成方法で得られた粉体のタンタル(V)系酸窒化物を、以下の表1では、Al−Ta酸窒化物(Ta類似結晶構造)と記載する。
【0026】
【表1】

【0027】
比較例
鉱化剤成分を添加せず、酸化タンタル粉末1モルに対して、3.33モルの窒化アルミニウム粉末のみ混合した試料を、窒素雰囲気中で熱処理した場合、850℃で6時間熱処理しても全く反応は進行しなかった。900℃で6時間の熱処理により極わずかにタンタル(V)系酸窒化物の生成が認められたが、構成結晶相は、主にAlTaOであり、処理粉末の色は、灰色であった。
【産業上の利用可能性】
【0028】
以上詳述したように、本発明は、タンタル(V)系酸窒化物を含有する粉体の製造方法に係るものであり、本発明により、有害成分を含まない赤黄色系顔料、或いは光触媒として注目されている5価のタンタルを含む酸窒化物を含有する粉体を、従来の合成法と比べて、毒性の強いアンモニアガスを使用せず、より低温・短時間で合成することができる。本発明は、目的化合物の製造方法が簡便なことから、タンタル(V)系酸窒化物を含有する粉体を大量合成する手法として好適に使用することが可能である。本発明では、酸化タンタルを、可燃性且つ毒性のアンモニアガスを大量に長時間流しながら窒化する手法を用いないため、本発明は、従来の合成法と比べて、安全及びコスト面で大きな優位性を有する。本発明は、毒性のあるアンモニアガスを使用することなく、しかも、従来の合成法と比べて、より低温・短時間で環境親和性の高い顔料等として好適に使用することが可能なタンタル(V)系酸窒化物を含有する粉体を製造することができる新規合成技術を提供するものとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】分析電顕(AEM)によるEDX分析の結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンタル(V:5価)系酸窒化物を含有する粉体を合成する方法であって、タンタル酸化物粉末を出発原料として、タンタルを窒化させるための窒素成分の供給源となる窒化アルミニウムと、窒化を促進させる鉱化剤としてのアルカリ金属乃至アルカリ土類金属の塩、或いはそれらの複数種の塩の混合物とを混合した粉体を、窒素の存在下で熱処理することにより、タンタル(V)系酸窒化物を含有する粉体を合成することを特徴とする当該タンタル(V)系酸窒化物含有粉体の合成方法。
【請求項2】
上記粉体を、窒素雰囲気中、或いは窒素気流中で熱処理する、請求項1に記載の合成方法。
【請求項3】
窒化反応を促進させる鉱化剤として、フッ化カリウム、フッ化ナトリウム、フッ化リチウム、フッ化マグネシウム、又は塩化カリウムを用いる、請求項1に記載の合成方法。
【請求項4】
窒素の存在下で、650〜1000℃の温度域で熱処理する、請求項1又は2に記載の合成方法。
【請求項5】
タンタル酸化物と窒化アルミニウムとの反応を利用してアルミニウムとタンタル(V)を含む酸窒化物に変換する、請求項1に記載の合成方法。
【請求項6】
熱処理時間が、1〜6時間である、請求項1、2又は4に記載の合成方法。
【請求項7】
窒化反応プロセスで、毒性のあるアンモニアガスを使用することなく、タンタル(V)系酸窒化物を含有する粉体を合成する、請求項1から6のいずれかに記載の合成方法。

【図1】
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