説明

タンパク製剤組成物

【課題】タンパク医薬品の生理活性の持続性が良いタンパク製剤組成物の提供。
【解決手段】下記一般式(1)で表される化合物、タンパク医薬品原体及び水を含有するタンパク製剤組成物。


[式中、Xはイミノ基、酸素原子又は硫黄原子を表す。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク製剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク医薬品水溶液は、物理的及び化学的影響に対して感受性が高く、解決すべき多くの問題を含んでいる。
インターフェロンは、他の蛋白質と同様に、水溶液中で蛋白質分解、酸化、ジスルフイド交換、ラセミ化、オリゴマー化、脱アミド化及びβ−脱離のような化学的不安定化、並びに凝集、沈殿及び吸着のような物理的不安定化を受けやすい。これら不安定化により、対象であるタンパク質の生理活性が失われたり低下する。また、分解生成物は、副作用の危険性があるために、医薬として許容できない。
これらの不安定化を防ぐ方法として、インターフェロン水溶液を特定のpHに維持することが知られている。特にpH5〜6においては共有結合の分解が最も少なく、例えばpHが4.5〜5.5に調節されたインターフェロンαを含有する溶液製剤が知られている(特許文献1)。
【0003】
また、安定化剤を添加する方法も知られている。現在のインターフェロン製剤は、インターフェロンの溶解性を向上させるためにヒト血清アルブミン(HSA)を使用している。しかしHSAの使用には問題点がいくつかある。HSAはヒト血液製剤であるため、ヒトから採取せねばならない。リスクを減らす処置が取られるとはいえ、HSAなどのヒト血液製剤を使用すると、ヒト・ウイルス(例えばHIVやHCV)が混入する可能性がある。したがってインターフェロンの溶解性を向上させるとともに、このタンパク質を安定化させて凝集体が形成されないようにする方法が提案されている。例えば非イオン性界面活性剤を含むインターフェロン水溶液が報告されている(特許文献2)。しかし、サブタイプによってはpH調節や安定化剤の添加により安定化をはかることができるとは限らない。すなわち、わずかなアミノ酸組成の違いや糖等の付加により立体構造等が影響を受け、各サブタイプ間で安定性が異なるからである(非特許文献1)。従って、複数のサブタイプを有するインターフェロン水溶液を安定化することは容易ではない。
【0004】
顆粒状コロニー刺激因子(G−CSF)も他のタンパク質同様に不安定で、外的因子の影響を受けやすく、温度、湿度、酸素、紫外線等に起因して会合、重合あるいは酸化等の物理的、化学的変化を生じ、結果として大きな活性の低下を招く。
【0005】
そこで安定なG−CSF製剤を市場に供給するために種々の処方設計がなされている。例えば、トレオニン、トリプトファン、リジン、ヒドロキシリジン、ヒスチジン、アルギニン、システイン、シスチン、メチオニンから選ばれる少なくとも1種のアミノ酸;少なくとも1種の含硫還元剤;又は少なくとも1種の酸化防止剤;からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む製剤(特許文献3)等が提案されている。また、安定化剤としてポリソルベートなどの界面活性剤を含むG−CSF製剤がある(特許文献4)。
しかし、依然としてこれらの化合物では安定に製剤化することができていないのが現状である。
【0006】
免疫グロブリンは、溶液中で凝集体を形成する傾向が強いことが知られており、その理由から、静脈注射又は皮下注射で使用する前にろ過が必要とされている。タンパク質の凝集体の形成は、非経口の免疫グロブリン製品の開発において、特に免疫グロブリンが高濃度で処方されるとき、長い間問題となってきた。
この問題に対して、100mMのクエン酸ナトリウム、0.05mMのEDTA、pH6.0中とした抗CD4抗体の水性製剤が提案されている(特許文献5)。
また、pH4.8〜約5.5の酢酸緩衝液、界面活性剤、及びポリオールを含む製剤が提案されている。(特許文献6)
しかしながら、これらの製剤では、抗体の濃縮後にタンパク質が若干凝集する問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−283176号公報
【特許文献2】特公昭61−277633号公報
【特許文献3】特許第2577744号公報
【特許文献4】特開昭63−146826号公報
【特許文献5】国際公開第WO97/45140号パンフレット
【特許文献6】米国特許第6,171,586号明細書
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Kathryn C.Zoon,INTERFERON vol 9,Academic Press,p1−12,1987
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、タンパク医薬品の生理活性の持続性が良いタンパク製剤組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記の目的を達成するべく検討を行った結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明のタンパク製剤組成物は、下記一般式(1)で表される化合物及びその塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物(A)、タンパク医薬品原体(a)及び水を含有することを要旨とする。
【0011】
【化1】

【0012】
[式(1)中、Xはイミノ基、酸素原子又は硫黄原子を表す。]
【発明の効果】
【0013】
本発明のタンパク製剤組成物は、長期的に高い生理活性を保つことができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のタンパク製剤組成物は、下記一般式(1)で表される化合物及びその塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物(A)、タンパク医薬品原体(a)及び水を含有するタンパク製剤組成物である。
【0015】
【化2】

【0016】
[式(1)中、Xはイミノ基、酸素原子又は硫黄原子を表す。]
【0017】
タンパク医薬品原体を水溶液中で保存すると、タンパク質が凝集や加水分解等を起こし生理活性(力価)が著しく低下するという問題点があるが、本発明では、特定の化学構造を有する上記の化合物(A)をタンパク製剤組成物に含有させることにより解決できる。
【0018】
一般式(1)で表される化合物として、具体的にはグアニジン、尿素及びチオ尿素が挙げられる。
【0019】
一般式(1)で表される化合物の塩としては、塩酸塩、炭酸塩、ホウ酸塩、硫酸塩及びリン酸塩等が挙げられ、具体的にはグアニジンの塩が挙げられる。
【0020】
化合物(A)としては、生理活性の持続性の観点で、グアニジンの塩及び尿素が好ましく、さらに好ましくはグアニジンの塩、次にさらに好ましくはグアニジン塩酸塩である。
【0021】
本発明のタンパク製剤組成物中に含まれる化合物(A)の含有量(重量%)は、生理活性の持続性の観点から、化合物(A)、タンパク医薬品原体(a)及び水の重量の総和に対し、0.001〜30が好ましく、さらに好ましくは0.01〜10、次にさらに好ましくは0.02〜5、特に好ましくは0.05〜3である。
【0022】
本発明のタンパク製剤組成物中に含まれる化合物(A)の含有量は、生理活性の持続性の観点から、タンパク医薬品原体(a)の重量に対し、1〜1000重量%が好ましく、さらに好ましくは5〜500重量%、次にさらに好ましくは10〜300重量%である。
【0023】
本発明のタンパク製剤組成物は、さらに下記一般式(2)で表される化合物(B)を含有することができる。生理活性の持続性の観点から、(B)を含有することが好ましい。
【0024】
【化3】

【0025】
一般式(2)中、Qはアルキル基を表し、アルキル基中の水素原子の一部が水素原子以外の置換基に置換されていてもよい。
【0026】
Qのアルキル基としては炭素数1〜22のアルキル基が挙げられ、具体的にメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、セチル基、ステアリル基及びベヘニル基等が挙げられる。これらのアルキル基中の水素原子の一部が水素原子以外の置換基に置換されてもよい。
水素原子以外の置換基としては、アミノ基、カルボキシル基、アミド基、エステル基、イミノ基及びヒドロキシル基等が挙げられる。置換基の数は1〜3が好ましく、さらに好ましくは2〜3である。例えばQがブチル基の場合、ブチル基末端の水素原子2つが1つのアミノ基及び1つのカルボキシル基で置換された場合は(B)はアルギニンを表す。
【0027】
化合物(B)としては、アルギニン又はその塩(B−1)、アルギニン誘導体又はその塩(B−2)及びグアニジン誘導体又はその塩(B−3)が挙げられる。
【0028】
アルギニン又はその塩(B−1)としては、アルギニン、アルギニンの無機酸塩(塩酸塩、ホウ酸塩、リン酸塩、ピロリン酸塩、硫酸塩及びケイ酸塩等)及びアルギニンの有機酸塩(ギ酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩、乳酸塩、クエン酸塩、トリメリット酸塩及びピロメリット酸塩等)が挙げられる。
【0029】
アルギニン誘導体又はその塩(B−2)において、アルギニン誘導体は下記一般式(3)で表されるアルギニンのα−アミノ基若しくはα−カルボキシル基又はこれらの両方の基が置換された誘導体である。
α−アミノ基の置換は、下記一般式(4)で表されるN−アルキルカルボニル−アミド基(Y−1)又は一般式(5)で表されるイミノ基(Y−2)への置換であり、α−カルボキシル基の置換は下記一般式(6)で表されるエステル基(Z−1)又は下記一般式(7)で表されるN−アルキルアミド基(Z−2)への置換である。
【0030】
言い換えると、アルギニン誘導体又はその塩(B−2)では、α−アミノ基又はα−カルボキシル基の少なくともいずれか一方が置換されている。すなわち、Yがアミノ基の場合、Zは下記一般式(6)で表されるエステル基(Z−1)又は下記一般式(7)で表されるN−アルキルアミド基(Z−2)であり、Zがカルボキシル基の場合は、Yは下記一般式(4)で表されるN−アルキルカルボニル−アミド基(Y−1)又は下記一般式(5)で表されるイミノ基(Y−2)である。
【0031】
【化4】

【0032】
一般式(3)中、Yはアミノ基、下記一般式(4)で表されるN−アルキルカルボニル−アミド基(Y−1)又は下記一般式(5)で表されるイミノ基(Y−2)を表す。Zは、カルボキシル基、下記一般式(6)で表されるエステル基(Z−1)又は下記一般式(7)で表されるN−アルキルアミド基(Z−2)を表す。
【0033】
【化5】

【0034】
一般式(4)中、R1は、水素原子又は炭素数1〜36の1価の炭化水素基を表し、この炭化水素基はその水素原子の一部が水素原子以外の他の官能基に置換されていてもよい。
【0035】
一般式(4)で表されるN−アルキルカルボニル−アミド基(Y−1)におけるR1の炭化水素基としては、炭素数1〜36の1価の炭化水素基であり、直鎖又は分岐の脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基及び芳香族炭化水素基が含まれる。
直鎖の脂肪族炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ラウリル基、パルミチル基、ステアリル基、オレイル基及びベヘニル基等が挙げられる。
分岐の脂肪族炭化水素基としては、イソプロピル基及びt−ブチル基等が挙げられる。
脂環式炭化水素基としては、シクロヘキシル基、メチルシクロヘキシル基及びシクロヘキシルメチル基等が挙げられる。
芳香族炭化水素基としては、フェニル基、メチルフェニル基、ベンジル基、フェニルエチル基及びメチルベンジル基等が挙げられる。
これらの炭化水素基のうち、生理活性の持続性の観点から、直鎖の脂肪族炭化水素基が好ましく、さらに好ましくはメチル基及びエチル基、最も好ましくはメチル基である。
水素原子以外の置換基としては、アミノ基、カルボキシル基、アミド基、エステル基、イミノ基及びヒドロキシル基等が挙げられる。
【0036】
一般式(4)で表されるN−アルキルカルボニル−アミド基(Y−1)として具体的には、ホルムアミド基、アセチルアミド基、プロピオン酸アミド基、ブチル酸アミド基、ヘキシル酸アミド基、シクロヘキシル酸アミド基、オクチル酸アミド基及びベンゾイルアミド基等が挙げられる。
【0037】
【化6】

【0038】
一般式(5)中、R2とR3はそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜36の炭化水素基を表し、これらの炭化水素基はその水素原子の一部が水素原子以外の他の官能基に置換されていてもよい。
【0039】
一般式(5)で表されるイミノ基(Y−2)において、R2とR3は、R1と同様の炭化水素基が含まれ、これらの炭化水素基はR1と同様に、その一部が他の官能基に置換されていてもよい。
【0040】
一般式(5)で表されるイミノ基(Y−2)としては、メチルイミノ基等が挙げられる。
【0041】
【化7】

【0042】
一般式(6)中、R4は、炭素数1〜36の炭化水素基を表す、又は多価アルコール若しくは糖から1つのヒドロキシル基を除いた残基を表す。
この炭化水素基はその水素原子一部が他の官能基、例えば、ヒドロキシル基、メトキシル基、エトキシル基、ニトロ基及びヒドロキシフェニル基からなる群より選ばれる官能基で置換されていてもよい。
【0043】
一般式(6)で表されるエステル基(Z−1)において、R4が炭素数1〜36の炭化水素基の場合、その炭化水素基は、前記R1と同様の炭化水素基が含まれる。
4が炭素数1〜36の炭化水素基の場合、これらの炭化水素基のうち、生理活性の持続性の観点から、直鎖の脂肪族炭化水素基が好ましく、さらに好ましくはメチル基及びエチル基、最も好ましくはエチル基である。
【0044】
多価アルコールとしては、2価〜3価のアルコールが含まれ、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール及びグリセリン等が挙げられる。
糖としては、グルコース、スクロース、ソルビトール、マンニトール及びトレハロース等が挙げられる。
【0045】
【化8】

【0046】
一般式(7)中、R5は、水素原子又は炭素数1〜36の炭化水素基を表し、この炭化水素基はその水素原子の一部が水素原子以外の他の官能基に置換されていてもよい。
【0047】
一般式(7)で表されるN−アルキルアミド基(Z−2)において、R5が炭素数1〜36の炭化水素基の場合、その炭化水素基としては、前記R1と同様の炭化水素基が含まれ、これらの炭化水素基はR1と同様に、その一部が他の官能基に置換されていてもよい。
5が炭素数1〜36の炭化水素基の場合、これらの炭化水素基のうち、生理活性の持続性の観点から、直鎖の脂肪族炭化水素基が好ましく、さらに好ましくはメチル基及びエチル基、最も好ましくはメチル基である。
【0048】
アルギニン誘導体又はその塩(B−2)がアルギニン誘導体の塩の場合、無機酸塩(塩酸塩、ホウ酸塩、リン酸塩、ピロリン酸塩、硫酸塩及びケイ酸塩等)及び有機酸塩(ギ酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩、乳酸塩、クエン酸塩、トリメリット酸塩及びピロメリット酸塩等)が挙げられる。
【0049】
アルギニン誘導体又はその塩(B−2)の化合物として具体的に、N−アセチルアルギニンエチルエステル塩酸塩が挙げられる。
【0050】
グアニジン誘導体又はその塩(B−3)としては、Qを特に限定するものではないが、具体的にアミノグアニジン(−NH2)、ジシアンジアミド(−CN)、グアニルチオウレア(−C(=S)NH2)、ドデシルグアニジン(−C1225)、エチルグアニジン(−C25)、オクチルグアニジン(−C817)及びビグアニド(−C(=NH)NH2)が挙げられる。ここで、()内はQの官能基を表す。
【0051】
これらのうち、生理活性の持続性の観点で、好ましくは(B−1)及び(B−2)であり、さらに好ましくは、(B−2)であり、特に好ましいのはN−アセチルアルギニンエチルエステル塩酸塩である。
【0052】
本発明の液体洗剤組成物中に含まれる化合物(B)の含有量(重量%)は、生理活性の持続性の観点から、化合物(A)、化合物(B)、タンパク医薬品原体(a)及び水の重量の総和に対し、0.01〜30が好ましく、さらに好ましくは0.03〜10、次にさらに好ましくは0.05〜5である。
【0053】
本発明のタンパク製剤組成物中に含まれる化合物(B)の含有量は、生理活性の持続性の観点から、タンパク医薬品原体の重量に対し、1〜1000重量%が好ましく、さらに好ましくは5〜500重量%、次にさらに好ましくは10〜300重量%である。
【0054】
本発明のタンパク製剤組成物は化合物(A)のみを含有すればよいが、タンパク医薬品の生理活性の持続性の観点から、化合物(A)及び化合物(B)を含有することが好ましい。
【0055】
(A)及び(B)を含有する場合、(A)と(B)との重量比((A)の重量/(B)の重量)は0.1〜20が好ましく、さらに好ましくは0.2〜15であり、特に好ましくは0.5〜10である。
【0056】
本発明における必須成分であるタンパク医薬品原体(a)としては、医薬品と成り得るタンパク質であれば特に限定するものではないが、好ましいものとしてサイトカイン(a−1)、抗体(a−2)、ペプチドホルモン(a−3)、酵素(a−4)及びワクチン(a−5)が挙げられる。
【0057】
サイトカイン(a−1)としては、インターフェロン、インターロイキン、造血因子及び細胞増殖因子が挙げられる。
インターフェロンとして、インターフェロンアルファ及びインターフェロンベータが挙げられる。
インターロイキンとして、インターロイキン1、インターロイキン2、インターロイキン3、インターロイキン4、インターロイキン5、インターロイキン6、インターロイキン7、インターロイキン8、インターロイキン9、インターロイキン10、インターロイキン11、インターロイキン12、インターロイキン13、インターロイキン14及びインターロイキン16が挙げられる。
造血因子として、コロニー刺激因子(CSF)、顆粒状コロニー刺激因子(G−CSF)及びエリスロポエチン(EPO)が挙げられる。
細胞増殖因子として、骨形成因子(BMP)、上皮成長因子(EGF)、線維芽細胞成長因子(FGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、肝細胞成長因子(HGF)及びトランスフォーミング成長因子(TGF)が挙げられる。
【0058】
抗体(a−2)としては、モノクローナル抗体及びポリクローナル抗体が挙げられる。
【0059】
ペプチドホルモン(a−3)としては、インスリン、成長ホルモン及び心房性ナトリウム利尿ペプチドが挙げられる。
【0060】
酵素(a−4)としては、リパーゼ、リゾチーム、ジアスターゼ、カタラーゼ及びトリプシン等が挙げられる。
【0061】
ワクチン(a−5)としては、B型肝炎ワクチン、A型肝炎ワクチン、インフルエンザワクチン、狂犬病ワクチン、コレラワクチン、日本脳炎ワクチン、百日咳ワクチン、三種混合ワクチン及び二種混合ワクチンが挙げられる。
【0062】
上記のタンパク医薬品原体のうち、生理活性の持続性の観点で、サイトカイン(a−1)、ペプチドホルモン(a−3)及び酵素(a−4)が好ましく、さらに好ましくはサイトカイン(a−1)及び酵素(a−4)である。
【0063】
本発明においてタンパク製剤組成物に含まれるタンパク医薬品原体(a)は、効果効能の観点で2種以上を含むことができる。
【0064】
本発明のタンパク製剤組成物に含まれるタンパク医薬品原体(a)の含有量は、生理活性の観点からタンパク製剤組成物の重量に対し、0.001〜0.1重量%が好ましく、さらに好ましくは0.005〜0.05重量%である。
【0065】
本発明の必須成分である水は、滅菌されたものであれば特に限定するものではなく、滅菌方法としては、0.2μm以下の孔径を持つ精密ろ過膜を通した水、限外ろ過膜を通した水、逆浸透膜を通した水、オートクレーブで121℃20分加熱して過熱滅菌したイオン交換水等が挙げられる。
【0066】
本発明のタンパク製剤組成物に含まれる水の含有量は、生理活性の観点から、タンパク製剤組成物の重量に対し、69〜99.9重量%が好ましく、さらに好ましくは95〜99.5重量%、特に好ましくは97〜99重量%である。
【0067】
本発明のタンパク製剤組成物には、上記の化合物(A)及び(B)、タンパク医薬品原体(a)並びに水以外に、界面活性剤(b)、無機塩(c)、糖(d)及びアルギニン以外のアミノ酸(e)を含有することができる。
【0068】
界面活性剤(b)としては、特に限定するものではないが、医薬品用に使用が認められているものとして、ポリエチレングリコール(マクロゴール)、ソルビタントリオレイン酸エステルエチレンオキシド付加物(ポリソルベート80)、塩化ベンザルコニウム(GEM)、ラウリルアルコールエチレンオキシド付加物(ラウロマクロゴール)等が挙げられる。
【0069】
無機塩(c)として、塩化ナトリウム、塩化カリウム、ホウ酸ナトリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、ギ酸ナトリウム、硫酸マグネシウム及び硫酸アンモニウム等が挙げられ、生理活性の観点で塩化ナトリウムが好ましい。
【0070】
糖(d)として、トレハロース、スクロース、デキストリン、シクロデキストリン、マルトース、フルクトース、ヒアルロン酸及びコンドロイチン硫酸等が挙げられる。
【0071】
アルギニン以外のアミノ酸(e)として、グリシン、アラニン、アスパラギン酸、アスパラギン、フェニルアラニン、トリプトファン、チロシン、ロイシン、リシン、ヒスチジン及びそれらの塩等が挙げられる。
【0072】
本発明のタンパク製剤組成物中に含まれる界面活性剤(b)の含有量(重量%)は、生理活性の観点からタンパク製剤組成物の重量に対し0.01〜10が好ましく、さらに好ましくは0.05〜5、次にさらに好ましくは0.1〜3である。
本発明のタンパク製剤組成物中に含まれる無機塩(c)の含有量(重量%)は、生理活性の観点からタンパク製剤組成物の重量に対し0.01〜10が好ましく、さらに好ましくは0.05〜5、次にさらに好ましくは0.1〜3である。
本発明のタンパク製剤組成物中に含まれる糖(d)の含有量(重量%)は、生理活性の観点からタンパク製剤組成物の重量に対し0〜5が好ましく、さらに好ましくは0〜3、次にさらに好ましくは0〜1である。
本発明のタンパク製剤組成物中に含まれるアミノ酸(e)の含有量(重量%)は、生理活性の観点からタンパク製剤組成物の重量に対し0〜10が好ましく、さらに好ましくは0〜5、次にさらに好ましくは0〜3である。
【0073】
本発明のタンパク製剤組成物は、各成分を混合することにより得られ、製造方法は特に限定されるものではない。1例を下記に示す。
(1)水に化合物(A)及び必要により化合物(B)を加え、25℃もしくは4〜10℃の低温で均一になるまで撹拌する。
(2)タンパク医薬品原体(a)以外の成分を所定量添加し均一に溶解させる。
(3)最後にタンパク医薬品原体(a)を添加し溶解させ、タンパク製剤組成物を製造する。
【0074】
本発明のタンパク製剤組成物の使用方法は、従来のタンパク製剤組成物の使用方法と同じでよく、特に限定されるものではない。
【実施例】
【0075】
以下の製造例、実施例、比較例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、特記しない限り、部は重量部を意味する。
【0076】
<製造例1>
N−α−アセチルアルギニン{アルギニンアセトアミド、株式会社エムピーバイオジャパン}12.6部(0.05モル部)、メタンスルホン酸1部及びエタノール92部(2モル部)を均一混合し、80℃で5時間加熱攪拌し、エバポレーターで濃縮後、塩酸(濃度:35重量%)5.2部(0.05モル部)を加え中和した。その後、水から再結晶し、減圧乾燥{60℃、20Pa}して、化合物(B)である{N−α−アセチルアルギニンエチルエステル塩酸塩}を得た。
【0077】
<実施例1〜16>
表1の割合で、4℃に温調された低温室内で配合し、タンパク製剤組成物を作製した。
【0078】
<比較例1〜9>
表2の割合で、4℃に温調された低温室内で配合し、比較用のタンパク製剤組成物を作製した。
【0079】
実施例1〜16及び比較例1〜9で作製したタンパク製剤組成物について、20℃の恒温機内で1ヶ月間密栓保存した後、生理活性を測定し、下記の方法によって求めた活性残存率(%)を表1及び2にまとめた。
【0080】
<骨形成因子の生理活性評価>
骨形成因子(BMP)の生理活性測定は公知の方法(Biochem.Biophys.Res.Commun.172(1990)295−299)と同様に下記の通り行った。
C2C12細胞(ATCC品)を2mMのグルタミン、1mMのピルビン酸ナトリウム、10重量%ウシ胎児血清を含むMEM培地(インビトロジェン社製)中で37℃、10重量%二酸化炭素条件下培養した。24穴プレートに1×105個のC2C12細胞を含む培地を注ぎ培養し、37℃、24時間後に測定試料(20℃で1ヶ月保存した実施例1〜9、実施例16、比較例1〜2又は比較例6の骨形成因子製剤)を含む新しい前述の培地(骨形成因子の濃度:0.001重量%)でそれぞれ培地交換した。4日後、細胞処理溶液(0.1Mのグリセロール、pH9.6、1重量%のNP−40、1mMの塩化マグネシウム、1mMの塩化亜鉛を含む)0.2mLをプレートに加え1時間静置した。静置後プレート上の抽出液50μLを0.3mMのp−ニトロフェニルフォスフェート(シグマ社製)を細胞処理溶液に溶解させた溶液150μLに加え、96穴プレートで37℃で、放置した。マイクロリーダー(和光純薬工業(株)製、サンライズサーモ)で加えた直後の405nmにおける吸光度(C0)を測定し、さらに37℃で30分間放置後にもう一度、37℃で吸光度(C30)を測定し、これらの差(C30−C0)(ΔC)を算出した。
一方、ブランクとして、20℃で1ヶ月保存した実施例1〜9、実施例16比較例1〜2又は比較例6の骨形成因子製剤に変えてそれぞれ作製した直後の骨形成因子製剤を使用したこと以外、上記と同様にして、吸光度の差(C30−C0)(ΔCb)を算出し、次式から活性残存率を算出した。

活性残存率(%)=(ΔC/ΔCb) ×100

その結果を表1及び2に示す。
【0081】
<エリスロポエチンの生理活性評価>
残存率の評価は、試料溶液として20℃で1ヶ月保存した実施例10、実施例13、比較例3又は比較例7のエリスロポエチン製剤を用いて、RP−HPLC分析法(WATERS社製)により算出した。ブランクにはそれぞれ作製した直後のエリスロポエチン製剤を用いた。
エリスロポエチンが変性されない場合は、ピーク面積が大きくなる(ブランクに近い面積になる)。
次式から活性残存率を算出した。

活性残存率(%)=(試料溶液のピーク面積/ブランクのピーク面積)×100

その結果を表1及び2に示す。
【0082】
<インスリンの生理活性評価>
インスリン製剤の残存率の評価は、イオン交換水でそれぞれ50倍希釈した測定試料(20℃で1ヶ月保存した実施例11、実施例14、比較例4又は比較例8のインスリン製剤)を、CDスペクトル(日本分光製「J−820」)で、215nmにおける楕円率θの測定でおこなった。ブランクにはそれぞれ作製した直後のインスリン製剤をイオン交換水でそれぞれ50倍希釈したものを用いて同様に楕円率θを測定した。
インスリンが変性されない場合は、楕円率θが大きくなる(ブランクに近い値をとる)。
次式から活性残存率を算出した。

活性残存率(%)=(測定試料の楕円率/ブランクの楕円率)×100

その結果を表1及び2に示す。
【0083】
<リパーゼの生理活性評価>
測定試料(20℃で1ヶ月保存した実施例12、実施例15、比較例5又は比較例9のリパーゼ製剤)100μLを5mL容の試験管にそれぞれはかりとり、50mMトリス緩衝液(pH=7.0)2mLを加え、さらに5μMのp−ニトロフェニルアセテート(和光純薬工業(株)製)1mLを加えた。
これらの試料溶液の400nmにおける吸光度(A)(トリニトロフェニルアセテートが酵素で分解された生成物の吸収)を紫外可視分光光度計で測定した。ブランクにはそれぞれ作製した直後のリパーゼ製剤を用いて上記と同様にして測定溶液を調製し、400nmにおける吸光度(Ab)を測定した。
リパーゼ(酵素)が変性されずに、活性が保たれて、p−ニトリフェニルアセテートが効率よく分解されている場合は、吸光度が大きくなる(ブランクに近い吸光度になる)。
次式から活性残存率を算出した。

活性残存率(%)=(A/Ab)×100

その結果を表1及び2に示す。
【0084】
【表1】

【0085】
【表2】

【0086】
表1〜2中のタンパク医薬品原体(a)、化合物(A)、化合物(B)は下記のものを使用した。
骨形成因子:R&D社製、「BMP−2」
エリスロポエチン:和光純薬工業(株)製
インスリン:和光純薬工業(株)製
リパーゼ:和光純薬工業(株)製
グアニジン塩酸塩:和光純薬工業(株)製
尿素:和光純薬工業製
アルギニン塩酸塩:和光純薬工業(株)製
ポリソルベート80:三洋化成工業(株)製、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレート
なお、表1及び2中、各成分の割合は、重量%で示した。
【0087】
従来のタンパク製剤である比較例1〜9は、20℃で1ヶ月保存することで生理活性が著しく低下することがわかる。一方、化合物(A)を使用した実施例1〜16のタンパク製剤は、保存中の生理活性低下を低減できることがわかる。また、化合物(B)を併用することで、生理活性をより高く保持できることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明のタンパク製剤組成物は、タンパク医薬品原体を水溶液製剤にする際に使用できる。タンパク医薬品原体としては、サイトカイン、抗体、ペプチドホルモン、酵素及びワクチン等が挙げられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される化合物及びその塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物(A)、タンパク医薬品原体(a)及び水を含有するタンパク製剤組成物。
【化1】

[式中、Xはイミノ基、酸素原子又は硫黄原子を表す。]
【請求項2】
化合物(A)がグアニジン塩酸塩である請求項1に記載のタンパク製剤組成物。
【請求項3】
さらに下記一般式(2)で表される化合物(B)を含有する請求項1又は2に記載のタンパク製剤組成物。
【化2】

[式中、Qは、アルキル基を表し、アルキル基中の水素原子の一部が水素原子以外の基に置換されていてもよい。]
【請求項4】
タンパク医薬品原体(a)がサイトカイン、抗体、ペプチドホルモン、酵素及びワクチンからなる群より選ばれる少なくとも1種のタンパク質である請求項1〜3のいずれかに記載のタンパク製剤組成物。
【請求項5】
化合物(A)の含有量が、化合物(A)、タンパク医薬品原体(a)及び水の重量の総和を基準として0.001〜30重量%である請求項1〜4のいずれかに記載のタンパク製剤組成物。

【公開番号】特開2011−173872(P2011−173872A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−15214(P2011−15214)
【出願日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【出願人】(000002288)三洋化成工業株式会社 (1,719)
【Fターム(参考)】