説明

タンパク質および核酸の連続的指向性進化

本発明は、連続的指向性進化を利用する、核酸およびタンパク質を進化させる一般化可能な方法を開示する。本発明は、望ましい機能依存性の方式で、核酸を細胞から細胞へ伝達する方法を開示する。その望ましい機能および核酸の細胞から細胞への伝達の結合は、核酸の連続的な選択および変異を可能にする。別の局面において、本発明は、核酸鎖を最初の細胞から2番目の細胞へ、機能依存的な方式で伝達し得る、連続的指向性進化システムのキットおよびシステムを開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願への相互参照)
本願は、「continuous directed evolution of proteins and nucleic acids」と題された2008年9月5日に出願された米国仮特許出願第61/094,666号の優先権の利益を主張し、この米国仮特許出願の全体の内容は、本明細書中に参考として援用される。
【0002】
政府支援
本発明は、国立衛生研究所助成金番号NIH RO1 GM 065400により支援された。政府は本発明に一定の権利を有する。
【0003】
発明の分野
本発明は、核酸およびタンパク質を多様化する方法に関する。具体的には、本発明は核酸およびタンパク質を進化させる連続的な方法を開示する。
【背景技術】
【0004】
発明の背景
タンパク質および核酸は、利用可能な機能性の小さな画分しか用いない。タンパク質および核酸を改変してその機能性を多様化することに現在大きな関心が存在する。分子進化の努力は、開始分子の関連した変異体へのインビトロにおける多様化を含み、それから望ましい分子を選択する。核酸およびタンパク質ライブラリーにおいて多様性を生じるために使用する方法は、ゲノム全体の変異誘発(非特許文献1)、ランダムカセット変異誘発(非特許文献2)、誤りがちのPCR(非特許文献3)、および相同組換えを用いたDNAシャッフリング(非特許文献4)を含む。多様化後、新規または増強された性質を有する分子を選択し得る。
【0005】
配列相同性を有さない規定された部位で組換えが起こることを可能にする方法が記載された。例えば、それぞれの望ましいクロスオーバーをコードする合成オリゴヌクレオチドを用いることによって、無関係のタンパク質をコードする遺伝子の組換えが可能である(非特許文献5;および非特許文献6)。この戦略は、多様化後に機能を保存する高い可能性を生じ得るが、多くの、より少ない組換え部位(many fewer sites of recombination)、および従って、クロスオーバー部位をランダムに産生した場合よりも、より少ない新規構造しか入手可能でない。あるいは、2つのタンパク質をコードする遺伝子の単一の非相同的クロスオーバーを可能にする方法が開発され(非特許文献7;および非特許文献8)、そして得られた遺伝子を断片化および相同的に組換えすることによって、さらなる非相同的組換えのイベントを得ることができる(非特許文献9)。得られるクロスオーバーの数を増強する努力にも関わらず、非相同的組換えによってタンパク質を多様化する既存の方法は、これまで中程度の数の組換えイベントしか生じなかった(タンパク質をコードする配列において500塩基対(bp)あたり3つまたはより少ない、活性なタンパク質をコードする配列の間ではさらにより少ないクロスオーバー(500bpあたり1つまたは2つ)(非特許文献10)。
【0006】
研究室が連続的進化の様々な局面を探索したが、一般化可能な、連続的指向性進化システム(continuous directed evolution system)は報告されなかった。例えば、Joyce研究室は、最近RNAリガーゼリボザイムの連続的進化を報告した。しかし、彼らのシステムは、タンパク質機能性を進化させるために一般化できず、そしてそれが選択し得るリボザイム活性の型に厳しく制限される(非特許文献11)。Loeb研究室は、colE1プラスミド開始点の下流の配列を選択的に多様化する、誤りがちのポリメラーゼI変異体を作製し、そしてそれをazneotramに耐性のベータラクタマーゼを進化させるために使用した(非特許文献12)。しかし、信頼できる連続的変異誘発は達成されず、選択は遅くて、不連続の回(discrete round)で行われ、そして耐性遺伝子単独をコードする構築物ではなく細胞全体が選択の対象であった。Bamford研究室は、P.aeruginosaにおいて、保有状態(carrier−state)RNAウイルスphi6のゲノムへ、ベータラクタマーゼ遺伝子をクローニングした(非特許文献13)。RNAウイルスゲノムおよびベータラクタマーゼ遺伝子の誤りがちの複製は、4継代以上セフォタキシム耐性に関して選択されたライブラリーを生じた。変異誘発は連続的であったが、継代および従って選択は、遅く、そして不連続であり、ライブラリーは細胞から細胞へ伝達されず、そして細胞が選択の対象であった。それに加えて、Church研究室は、最近、核酸による細菌細胞の反復の(iterative)形質転換を自動化する、MAGEシステムを記載した(非特許文献14)。しかし、望ましい機能に関するスクリーニングまたは選択の内因性の手段は存在しない;すなわち、機能的変異体は、不連続の介入なしには選択されない。そのようであるため、MAGEは、従来の指向性進化技術に対して重要な利点を提示するが、真に連続的ではなく、そして本発明よりかなり遅く、そしてライブラリーのサイズにおいてより制限されたままである。
【0007】
よって、核酸およびタンパク質を進化させる連続的な、一般化可能で、有効な方法に対するニーズが存在する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Hartら、Amer.Chem.Soc.(1999)、121:9887−9888
【非特許文献2】Reidhaar−Olsonら、Meth.Enzymol.(1991)、208:564−86
【非特許文献3】Caldwellら(1992)、PCR Methods Applic.(1992)、2:28−33
【非特許文献4】Stemmer(1994)Nature(1994)、370:389−391
【非特許文献5】O’Maille(2002)J.Mol.Biol.321:677−91
【非特許文献6】Tsuji(2001)Nuc.Acids Res.29:E97
【非特許文献7】Sieber(2001)Nat.Biotechnol.19:456−60
【非特許文献8】Ostermeier(1999)Nat.Biotechnol.17:1205−9
【非特許文献9】Lutz(2001)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 98:11248−5317
【非特許文献10】Kawarasaki(2003)Nuc.Acids Res.31:el2618
【非特許文献11】Wright MC、Joyce JF(1997)、Science 276:614−617
【非特許文献12】Camps M、Naukkarinen J、Johnson BP、Loeb LA(2003)、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 100:9727−9732
【非特許文献13】Makeyev EB、Bamford DH(2004)、J.Virol.78:2114−2120
【非特許文献14】Wang HHら(2009)、Nature 460:894−898
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
1つの局面において、本発明は、一般化可能な、連続的指向性進化の方法を開示する。本発明は、機能依存的な方式で核酸を細胞から細胞へ伝達する(passing)方法を開示する。その細胞が核酸を別の細胞から受け取ることができるかぎり、あらゆる細胞の型を使用し得る。本発明において有用な、細胞の間で核酸を伝達する様々なシステムは、例えば最初の宿主細胞および2番目の宿主細胞の間の接合(conjugal)伝達(接合);ファージまたはウイルス感染、ここで最初の宿主細胞は機能的核酸を封入し、そして2番目の宿主細胞への侵入を提供し得る;および最初の細胞からの機能的核酸の排除(例えば分泌または溶解)、ここで裸の核酸鎖が2番目の宿主細胞によって取り込まれる、を含む。いくつかの実施態様において、そのシステムは、重要なファージ遺伝子を、ライブラリー機能および続く選択のリポーター遺伝子として利用する。
【0010】
1つの局面において、本発明は、進化させる少なくとも1つの機能的核酸鎖を最初の宿主細胞へ導入すること;最初の宿主細胞内で機能的核酸鎖を複製すること;機能的核酸鎖を変異させること;および少なくとも1つの変異機能的核酸鎖を2番目の宿主細胞へ導入することを含む、核酸の連続的進化の方法を提供する。本方法の工程を繰り返して、進化した核酸を生じ得る。その核酸鎖は、宿主細胞に対して外来性または内因性であり得る。その宿主細胞を、原核細胞、真核細胞、および細菌細胞からなるグループから選択し得る。
【0011】
宿主細胞を操作して、発現した核酸鎖の選択された機能に関してスクリーニングし得る。選択された機能の制限しない例は、例えば標的タンパク質結合、標的DNA結合、標的RNA結合、転写活性化、結合形成触媒、結合切断触媒、タンパク質分解、RNAトランススプライシング、組換え、部位特異的ヌクレアーゼ活性、およびインテインスプライシングを含む。
【0012】
いくつかの実施態様において、スクリーニングの工程は、少なくとも1つのバクテリオファージ(abacteriophage)ディスプレイシステム、抗生物質耐性、およびレポーター遺伝子の発現を含み得る。別の実施態様において、その宿主細胞はさらに、1つ又は複数のファージパッケージングシグナルおよびファージ複製シグナル(「増殖シグナル」または「増殖コンポーネント」)が機能的に無力にされたファージゲノムを含むヘルパープラスミド;および機能的な発現した核酸鎖に反応して1つまたは複数の無力にされたシグナルを提供し得るアクセサリープラスミドを含み得る。1つの実施態様において、その機能的核酸鎖は、進化させる遺伝子および増殖コンポーネントをコードする2番目の遺伝子を含み得る。増殖コンポーネントは、最初の宿主細胞において、機能的核酸鎖の複製のために必要であり得る。その増殖コンポーネントはまた、2番目の宿主細胞へのその機能的核酸鎖の導入のために必要であり得る。
【0013】
ファージ増殖シグナルは、例えば遺伝子IIタンパク質(g2p)、遺伝子IIIタンパク質(g3p)、または遺伝子VIタンパク質(g6p)の少なくとも1つの不活化によって機能的に無力にし得る。いくつかの実施態様において、そのヘルパープラスミドおよびアクセサリープラスミドは、単一のプラスミドに存在し得る。またいくつかの実施態様において、糸状ファージゲノムは、M13ファージゲノム、fdファージ(page)ゲノム、flファージゲノム、ZJ/2ファージゲノム、Ec9ファージゲノム、AE2ファージゲノム、HRファージゲノム、δAファージゲノム、およびIkeファージゲノムから成るグループから選択される。
【0014】
いくつかの実施態様において、変異機能的核酸鎖を2番目の宿主細胞へ導入する工程はさらに、最初の宿主細胞を培養する工程を含み、ここでその最初の宿主細胞は、機能的核酸鎖によってコードされるファージミド核酸分子をファージ粒子へパッケージングし得る。他の実施態様において、変異機能的核酸鎖を2番目の宿主細胞へ導入する工程はさらに、2番目の宿主細胞へ、パッケージングされたファージミド核酸分子を含む糸状ファージ粒子を導入し、その進化させる核酸鎖を2番目の宿主細胞へ導入する工程を含み、ここでその2番目の宿主細胞は、ヘルパープラスミドおよびアクセサリープラスミドを含む。
【0015】
いくつかの実施態様において、機能的核酸鎖を変異させる工程はさらに、変異機能的核酸鎖によってコードされる進化タンパク質を発現する工程を含む。
【0016】
いくつかの実施態様において、機能的核酸鎖を変異させる工程は、変異誘発剤を導入する工程を含む。その変異誘発剤を、ヌクレオチドアナログ、ヌクレオシド前駆体、アルキル化剤、架橋剤、遺伝毒性物質(genotoxin)、および放射線照射から成る群から選択し得る。好ましい実施態様において、その変異誘発剤は、化学的変異原である。本発明において有用な化学的変異原の制限しない例は、例えば、3−クロロ−4−(ジクロロメチル)−5−ヒドロキシ−2(5H)−フラノン(MX)(Cas no.77439−76−0)、O,O−ジメチル−S−(フタルイミドメチル)ホスホロジチオエート(phos−met)(CAS no.732−11−6)、ホルムアルデヒド(CAS no.50−00−0)、2−(2−フリル)−3−(5−ニトロ−2−フリル)アクリルアミド(AF−2)(CAS no.3688−53−7)、グリオキサール(CAS no.107−22−2)、6−メルカプトプリン(CAS no.50−44−2)、N−(トリクロロメチルチオ)−4−シクロヘキサン−1,2−ジカルボキシミド(カプタン)(CAS no.133−06−2)、2−アミノプリン(CAS no.452−06−2)、メチルメタンスルホネート(MMS)(CAS no.66−27−3)、4−ニトロキノリン1−オキシド(4−NQO)(CAS no.56−57−5)、N4−アミノシチジン(CAS no.57294−74−3)、アジ化ナトリウム(CAS no.26628−22−8)、N−エチル−N−ニトロソウレア(ENU)(CAS no.759−73−9)、N−メチル−N−ニトロソウレア(MNU)(CAS no.820−60−0)、5−アザシチジン(CAS no.320−67−2)、クメンヒドロペルオキシド(CHP)(CAS no.80−15−9)、エチルメタンスルホネート(EMS)(CAS no.62−50−0)、N−エチル−N−ニトロ−N−ニトロソグアニジン(ENNG)(CAS no.4245−77−6)、N−メチル−N−ニトロ−N−ニトロソグアニジン(MNNG)(CAS no.70−25−7)、5−ジアゾウラシル(CAS no.2435−76−9)、およびt−ブチルヒドロペルオキシド(BHP)(CAS no.75−91−2)を含む。
【0017】
いくつかの実施態様において、その宿主細胞を操作して、SOS変異誘発損傷(lesion)バイパスタンパク質(SOSmutagenizing lesion−bypass protein)を誘導的に発現し得る。そのSOS変異誘発損傷バイパスタンパク質(SOS mutagenizinglesion−bypass protein)は、例えばポリメラーゼVおよび活性化recAを含み得る。他の実施態様において、その宿主細胞は、誤りがちのDNAポリメラーゼサブユニットを誘導的に発現し得る変異促進性プラスミドを含む。
【0018】
いくつかの実施態様において、アクセサリープラスミドは、ヘルパープラスミドから1つまたは複数の無力になったシグナルを誘導的に発現し得る。
【0019】
いくつかの実施態様において、その方法はさらに、変異した核酸鎖を単離する工程を含む。
【0020】
1つの実施態様において、本発明による連続的進化システムは、4つの生物学的な構成成分を含み得る:(i)宿主細胞;(ii)宿主細胞に存在し、ファージ複製、パッケージング、または感染構成成分(「増殖コンポーネント」)以外の全てのファージタンパク質をコードする、「ヘルパーファージミド」;(iii)これもまた宿主細胞に存在し、欠損した増殖コンポーネントの遺伝子を発現する、「アクセサリープラスミド」;および(iv)進化させるタンパク質または核酸のライブラリーのメンバーを発現する「選択ファージミド」。宿主細胞の選択ファージミドによる最初の感染後、その宿主細胞に変異誘発を行う。変異誘発の結果として、新しい選択ファージミドが進化する。「高適応(high−fit)」ファージミドは、アクセサリープラスミドからの増殖コンポーネントの発現と同じように、多様化したライブラリーメンバーをコードし、そして増殖のために必要な全ての成分を含む新しいファージ粒子の中に複製し得る。その新しいファージ粒子は、新しい細胞へ感染し、適応選択ファージミドのさらなる複製をもたらし得る。対照的に、低い適応度のファージミドは、欠損した増殖コンポーネントの発現を誘導できないライブラリーメンバーをコードし、そしてこのコンポーネントを欠くファージ粒子中にパッケージングされる。これらの増殖欠損ファージ粒子は非感染性であり、そして従って低適応度ファージミドは増殖できない。増殖コンポーネントの発現は、多くの以前に開発されたn−ハイブリッド戦略を用いて、ある範囲のタンパク質結合、核酸結合、または反応触媒のイベントと関連し得るので、このシステムは、関心のある広く様々なタンパク質または核酸活性へ適用可能である潜在力を有する。
【0021】
別の局面において、本発明は、核酸鎖を最初の細胞から2番目の細胞へ、機能依存的な方式で伝達し得る、連続的指向性進化システムのキットおよびシステムを開示する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、g3p発現および適応選択ファージミドの複製を誘発するファージミドの選択を示す。
【図2】図2は、セルスタット、自動化弁のシステムを連結する培養容器を示し、その中で連続的進化が起こり得る。そのセルスタットは、2×10細胞/mLの一定の細胞密度で維持された宿主細胞培養物からの未感染宿主細胞一定の供給(「タービドスタット」)、ならびに液体形態の化学的変異原の一定の供給を受ける。
【図3】図3は、連続的進化システムにおける選択ストリンジェンシーを示す。
【図4】図4は、Zif268−Hinリコンビナーゼ部位のPCRに基づく選択を示す。
【図5】図5は、ジンクフィンガー結合ドメインを進化させるための、選択ファージミドpZF−Sel、およびアクセサリープラスミドpZF−Accの使用を説明する。
【図6】図6は、遺伝子IIIを進化させるための、遺伝的選択ファージミドおよび遺伝的アクセサリーファージミドの使用を説明する。
【図7】図7は、糸状バクテリオファージの生活環を示す。
【図8】図8は、4つの生物学的構成成分を有する連続的進化システムを示す:(i)宿主E.coli細胞(示していない);(ii)全ての宿主細胞に存在し、g3p以外の全てのファージタンパク質をコードするヘルパープラスミド(HP);(iii)全ての宿主細胞に存在し、活性なライブラリーメンバーに反応して遺伝子IIIを発現するアクセサリープラスミド(AP);および(iv)進化させるタンパク質または核酸のライブラリーを発現する選択ファージミド(SP)、それは複製され、分泌ファージ粒子へパッケージングされる。
【図9】図9は、遺伝子IIIに関連し、そして進化させ得る、異なるタンパク質活性または核酸活性を示す。
【図10】図10は、構成的プロモーターから遺伝子IIIを発現する、ポジティブコントロール偽選択ファージミド(SP+)、および遺伝子IIIを欠くネガティブコントロール選択ファージミドを示す。SP+ファージミドは、8時間の連続的増殖後、10倍の富化を実証した。
【図11】図11は、パリンドロームまたは非パリンドロームである中央のジヌクレオチド配列を認識する、リコンビナーゼ酵素による組換え後の、できた配列組合せ産物を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明で使用される用語は、一般的に、分子生物学の当業者によって一般的に受け入れられる標準的な定義に一致することが予期される。下記に列挙したような、少数の例外が、本発明の範囲内でさらに定義された。
【0024】
「進化した」という用語は、それらが発展した親核酸またはポリペプチドの構造的特徴または要素および/または機能的活性の少なくともいくらかを保持する、新しい核酸およびポリペプチドの産生をもたらす変化の過程を指す。いくつかの例において、進化した核酸またはポリペプチドは、親と比較して増加したまたは増強された活性を有する。いくつかの例において、その進化した核酸またはポリペプチドは、親と比較して減少したまたは抑制された活性を有する。
【0025】
「非相同的」という用語は、2つの核酸配列が、標準的な宿主細胞、特にE.coli細胞において、お互いに組換えできない十分な数の差を有する2つの核酸配列を指す。「インビトロにおいて非相同的」という用語は、2つの核酸配列が、一般的にStemmer(Nature(1994)、370:389−391)において記載された組換え方法のような、インビトロにおける組換え方法を用いて組換えできない、十分な数の差を有するその2つの核酸配列を指す。
【0026】
「シャッフルされた」という用語は、適当な参照ポリマー、例えば親分子に関して、再配列された(rearranged)、再配向された、挿入された、または欠失した少なくとも1つの断片を有する分子を指す。「シャッフルされた」核酸は、本明細書中で述べられたあらゆるシャッフリング手順のようなシャッフリング手順によって産生された核酸である。シャッフリングされた核酸は、例えば人工的な、および場合により再帰的な方式で、2つまたはそれを超える核酸(または文字列(character string))を組換えすることによって(物理的にまたは実質的に)産生される。いくつかの(しかし全てではない)シャッフリング実施態様において、スクリーニングするプールの多様性を増すために、選択の前に複数回の組換えを行うことが望ましい。その過程全体を場合により反復して繰り返す。文脈に依存して、シャッフリングは、組換えおよび選択の過程全体を指し得る、またはあるいは、単にその過程全体の組換え部分を指し得る。
【0027】
「核酸」、「核酸鎖」、および「ポリヌクレオチド」という用語は、リボヌクレオチドまたはデオキシリボヌクレオチドのいずれかの、あらゆる長さのヌクレオチドの多量体形態を指す。これらの用語は、1本鎖、2本鎖、または3本鎖DNA、ゲノムDNA、cDNA、ゲノムRNA、mRNA、DNA−RNAハイブリッド、またはプリンおよびピリミジン塩基、または他の天然、化学的、生化学的に改変された、非天然または誘導体化ヌクレオチド塩基を含むポリマーを含む。そのポリヌクレオチドのバックボーンは、糖およびリン酸基(典型的にはRNAまたはDNAで見出し得るような)、または改変または置換糖またはリン酸基を含み得る。あるいは、そのポリヌクレオチドのバックボーンは、ホスホラミデートのような合成サブユニットのポリマーを含み得、そして従ってオリゴデオキシヌクレオシドホスホラミデート(P−NH)または混合ホスホラミデート−ホスホジエステルオリゴマーであり得る(Peyrottesら(1996)Nucleic Acids Res.24:1841−8;Chaturvediら(1996)Nucleic Acids Res.24:2318−23;Schultzら(1996)Nucleic Acids Res.24:2966−73)。ホスホロチオエート結合を、ホスホジエステル結合の代わりに使用し得る(Braunら(1988)J.Immunol.141:2084−9;Latimerら(1995)Molec.Immunol.32:1057−1064)。それに加えて、2本鎖ポリヌクレオチドを、適当な条件下で相補鎖を合成し、そして鎖をアニーリングすることによって、または適当なプライマーによってDNAポリメラーゼを用いて相補鎖をデノボ合成することによって、化学的合成の1本鎖ポリヌクレオチド産物から得ることができる。
【0028】
以下は、核酸鎖の制限しない例である:遺伝子または遺伝子断片、エキソン、イントロン、ゲノムRNA、mRNA、tRNA、rRNA、リボザイム、cDNA、組換えポリヌクレオチド、分枝ポリヌクレオチド、プラスミド、ベクター、あらゆる配列の単離DNA、およびあらゆる配列の単離RNA。核酸鎖は、メチル化ヌクレオチド、およびヌクレオチドアナログのような改変ヌクレオチド、ウラシル、フルオロリボースおよびチオアートのような他の糖および結合基(group)、およびヌクレオチド分枝を含み得る。そのヌクレオチドの配列は、非ヌクレオチド成分によって中断され得る。核酸鎖は、標識成分の結合によるように、重合後にさらに改変され得る。本定義に含まれる他の型の改変は、キャップ、および1つまたは複数の天然に存在するヌクレオチドのアナログによる置換である。
【0029】
「変異誘発核酸」は、例えば親核酸と比較した変異誘発核酸における1つまたは複数のヌクレオチド残基の改変、欠失、再配列(rearranging)、または置換によって、親核酸(例えば天然に存在する核酸のような)と比較して、物理的に変化した核酸である。
【0030】
「転写(transcribed)」核酸は、親核酸をコピーすることによって産生される核酸であり、ここでその親核酸は、コピーされる核酸と異なる核酸の型である。例えば、DNA分子のRNAコピー(例えば古典的な転写の間に起こるような)、またはRNA分子のDNAコピー(例えば古典的な逆転写の間に起こるような)は、その用語が本明細書中で意図されるような「転写核酸」であり得る。同様に、ペプチド核酸を含む人工的な核酸を、親またはコピーされた核酸のいずれかとして使用し得る(および人工的ヌクレオチドを、親分子またはコピー分子のいずれかへ組み込み得る)。例えば、適当なポリメラーゼを用いて、またはインビトロにおける人工的化学的合成法、または合成および酵素的方法の組合せを用いて、コピーを行い得る。
【0031】
「インビトロ翻訳試薬」は、インビトロにおける翻訳に必要または十分な試薬、またはインビトロ翻訳反応の速度または程度を調節する、またはその反応が作用するパラメーターを変化させる試薬である。例は、リボソーム、および網状赤血球溶解物、細菌細胞溶解物、その細胞画分、アミノ酸、t−RNA等のような、リボソームを含む試薬を含む。
【0032】
「増殖コンポーネント」および「増殖シグナル」という用語は、交換可能に使用され、そしてファージの複製、パッケージング、または感染に必要な、1つまたは複数のタンパク質または核酸を指す。増殖コンポーネントは、ファージパッケージングシグナルまたはファージ増殖シグナルを含み得る。
【0033】
「シグナルが機能的に無力化される」という語句は、特定の機能が不活性であるように変化したシグナル伝達経路を指す。例えば、ファージ増殖シグナルは、その経路の1つまたは複数の遺伝子の不活化、または重要な要素の結合の阻害によって無力化され得る。「ファージパッケージングシグナル」は、ファージパッケージングタンパク質によって認識される一連の残基を指す。「ファージ増殖シグナル」は、ファージの増殖に関わる遺伝子および機能的RNAを含むよう意図される。例えば、ファージパッケージングシグナルを、ヘルパープラスミドにおいて無力化して、選択ファージミドのみがパッケージングおよび輸送される(exported)ことを保証し得る。選択は、ファージ増殖に失われた必須遺伝子の存在に基づいて起こり得る。不活化は、例えば短縮化(truncation)、欠失、改変によって、または必須の遺伝子内の1つまたは複数の停止コドンの導入によって起こり得る。いくつかの実施態様において、抗生物質耐性マーカーのような選択可能マーカーが含まれる。例えば、ファージ増殖を、1つまたは複数の遺伝子IIIタンパク質(g3p)、遺伝子VIタンパク質(g6p)、遺伝子VIIタンパク質(g7p)、遺伝子VIIIタンパク質(g8p)、または遺伝子IXタンパク質(g9p)遺伝子の不活化によって無力化し得る。好ましい実施態様において、1つまたは複数の遺伝子IIタンパク質(g2p)、遺伝子IIIタンパク質(g3p)、または遺伝子VIタンパク質(g6p)を不活化し得る。
【0034】
「機能的核酸鎖」は、選択された機能を提供し得る核酸鎖を指す。選択された機能の制限しない例は、標的タンパク質結合、標的DNA結合、標的RNA結合、転写活性化、結合形成触媒、結合切断触媒、タンパク質分解、RNAトランススプライシング、組換え、部位特異的ヌクレアーゼ活性、およびインテインスプライシングを含む。
【0035】
「翻訳産物」は、核酸の翻訳の結果として産生された産物(典型的にはポリペプチド)である。「転写産物」は、核酸の転写の結果として産生された産物(例えば場合によりmRNAを含むRNA、または例えば触媒または生物学的に活性なRNA)である。
【0036】
「ランダム」という用語は、確率分布によってイベントが決定される状態を指す。その分布は、例えば開始材料の相対的濃度に依存して、偏りを含み得る。例えば、1つの実施態様において、その親核酸鎖は別の種と比較して偏った量の1つの種を含み得る。そのような開始材料のプールから産生される断片の混合物のライゲーションはやはりランダムであり得る。
【0037】
本明細書中で使用される「オリゴヌクレオチド」という用語は、長さが約5から140ヌクレオチドの核酸ポリマーを指す。
【0038】
本明細書中で使用される「タンパク質」という用語は、機能および/活性を有するアミノ酸の配列を指す。タンパク質の活性の例は、酵素活性、キナーゼ活性、および結合活性を含むがこれに限らないが、それらを当該分野で公知の様々な分光学的、放射性、または直接結合アッセイによって示し得る。例えば、生物学的活性のための試験キットおよびアッセイのコレクションに関してSigma Aldrichを参照のこと。
【0039】
「結合する」および「結合」という用語は、2つの分子の見かけの解離定数が少なくとも0.1mMである物理的相互作用を指す。結合親和性は、約10μM、1μM、100nM、10nM、1nM、100pM、10pM、未満等であり得る。「リガンド」という用語は、関心のある分子が特異的および安定に結合し得る化合物を指す。
【0040】
本明細書中で使用される場合、「ベクター(またはプラスミド)」は、その発現または複製のいずれかのために、異種のDNAを細胞へ導入するために使用する別の要素(discrete element)を指す。そのようなビヒクルの選択および使用は、当業者に周知である。発現ベクターは、そのようなDNA断片の発現に影響を与え得る、プロモーター領域のような調節配列と操作可能に連結したDNAを発現し得るベクターを含む。従って、発現ベクターは、適当な宿主細胞への導入の際に、クローニングされたDNAの発現をもたらす、プラスミド、ファージ、組換えウイルスまたは他のベクターのような、組換えDNA構築物または組換えRNA構築物を指す。適当な発現ベクターは、当業者に周知であり、そして真核細胞および/または原核細胞において複製可能であるもの、およびエピソームのままであるものまたは宿主細胞ゲノムへ組み込まれるものを含む。
【0041】
本明細書中で使用される場合、「プロモーター領域またはプロモーターエレメント」は、それに操作可能に連結したDNAまたはRNAの転写を調節するDNAまたはRNAの部分を指す。そのプロモーター領域は、RNAポリメラーゼ認識、結合、および転写開始のために十分である特異的配列を含む。プロモーター領域のこの部分は、プロモーターと呼ばれる。それに加えて、そのプロモーター領域は、このRNAポリメラーゼの認識、結合、および転写開始活性を調節する配列を含む。これらの配列は、シス作用性であり得る、またはトランス作用因子に反応性であり得る。調節の性質に依存して、プロモーターは構成的または調節性であり得る。原核生物において使用するために企図される代表的なプロモーターは、バクテリオファージT7およびT3プロモーター等を含む。
【0042】
本明細書中で使用される場合、「操作可能に連結したまたは操作可能に結合した」は、プロモーター、エンハンサー、転写および翻訳停止部位、および他のシグナル配列のような、ヌクレオチドの調節性およびエフェクター配列とDNAの機能的関係を指す。例えば、プロモーターに対するDNAの操作可能な連結は、そのようなDNAの転写が、そのDNAを特異的に認識、結合し、そして転写するRNAポリメラーゼによって、そのプロモーターから開始されるような、DNAおよびプロモーターの間の物理的および機能的関係を指す。発現および/またはインビトロ転写を最適化するために、過剰の、潜在的な不適切な代替の翻訳開始(すなわちスタート)コドン、または転写または翻訳のレベルのいずれかにおいて、発現に干渉するまたは抑制し得る他の配列を排除するために、クローンの5’非翻訳部分を除去、追加、または変化させることが必要であり得る。あるいは、コンセンサスリボソーム結合部位(例えばKozak、J.Biol.Chem.266:19867−19870(1991)を参照のこと)を、スタートコドンのすぐ5’側に挿入し得、そして発現を増強し得る。そのような改変の望ましさ(または必要性)は、経験的に決定し得る。
【0043】
「変異誘発剤」という用語は、化学的変異原または、例えばUV、ガンマ線照射、X線、および高速中性子を用いた照射であり得る。化学的変異原は、化学的性質によって、例えばアルキル化剤、架橋剤、遺伝毒性物質等に分類される。本発明によって、ここに列挙されていない他のものと同様、以下の化学的変異原が有用である。N−エチル−N−ニトロソウレア(ENU)、N−メチル−N−ニトロソウレア(MNU)、塩酸プロカルバジン、クロラムブシル、シクロホスファミド、メチルメタンスルホネート(MMS)、エチルメタンスルホネート(EMS)、硫酸ジエチル、アクリルアミドモノマー、トリエチレンメラミン(TEM)、メルファラン、ナイトロジェンマスタード、ビンクリスチン、ジメチルニトロソアミン、N−メチル−N’−ニトロ−ニトロソグアニジン(MNNG)、7,12−ジメチルベンゾアントラセン(DMBA)、エチレンオキシド、ヘキサメチルホスホラミド、ビスルファン(bisulfan)。本発明において有用な化学的変異原はまた、例えば亜硫酸水素ナトリウム、亜硝酸、ヒドロキシルアミン、ヒドラジンまたはギ酸を含み得る。ヌクレオチドまたはヌクレオシド前駆体のアナログである他の薬剤は、ニトロソグアニジン、5−ブロモウラシル、2−アミノプリン、5−ホルミルウリジン、イソグアノシン、アクリジン、およびN4−アミノシチジン、N1−メチル−N4−アミノシチジン、3,N4−エテノシチジン、3−メチルシチジン、5−ヒドロキシシチジン、N4−ジメチルシチジン、5−(2−ヒドロキシエチル)シチジン、5−クロロシチジン、5−ブロモシチジン、N4−メチル−N4−アミノシチジン、5−アミノシチジン、5−ニトロソシチジン、5−(ヒドロキシアルキル)−シチジン、5−(チオアルキル)−シチジンおよびシチジングリコール、5−ヒドロキシウリジン、3−ヒドロキシエチルウリジン、3−メチルウリジン、O2−メチルウリジン、O2−エチルウリジン、5−アミノウリジン、O4−メチルウリジン、O4−エチルウリジン、O4−イソブチルウリジン、O4−アルキルウリジン、5−ニトロソウリジン、5−(ヒドロキシアルキル)−ウリジン、および5−(チオアルキル)−ウリジン、1,N6−エテノアデノシン、3−メチルアデノシン、およびN6−メチルアデノシン、8−ヒドロキシグアノシン、O6−メチルグアノシン、O6−エチルグアノシン、O6−イソプロピルグアノシン、3,N2−エテノグアノシン、O6−アルキルグアノシン、8−オキソ−グアノシン、2,N3−エテノグアノシン、および8−アミノグアノシンおよびその誘導体/アナログを含む。適当なヌクレオシド前駆体の例およびその合成が、USSN20030119764においてさらに詳細に記載される。一般的に、これらの薬剤を複製または転写反応に加え、それによって配列を変異させる。プロフラビン、アクリフラビン、キナクリン等のような挿入剤も使用し得る。1つまたは複数の化学的変異原の使用は、広い範囲の核酸変化の産生を可能にする(遺伝子のコード領域、遺伝子のイントロン領域、または5’または3’近位および/または遠位領域の関係内における(within the context of)DNA部分の拡大または欠失、点変異、変化した反復配列のような、しかしそれに限らない)。いくつかの実施態様において、その化学的変異原を、3−クロロ−4−(ジクロロメチル)−5−ヒドロキシ−2(5H)−フラノン(MX)(CAS no.77439−76−0)、O,O−ジメチル−S−(フタルイミドメチル)ホスホロジチオエート(phos−met)(CAS no.732−11−6)、ホルムアルデヒド(CAS no.50−00−0)、2−(2−フリル)−3−(5−ニトロ−2−フリル)アクリルアミド(AF−2)(CAS no.3688−53−7)、グリオキサール(CAS no.107−22−2)、6−メルカプトプリン(CAS no.50−44−2)、N−(トリクロロメチルチオ)−4−シクロヘキサン−1,2−ジカルボキシミド(カプタン)(CAS no.133−06−2)、2−アミノプリン(CAS no.452−06−2)、メチルメタンスルホネート(MMS)(CAS no.66−27−3)、4−ニトロキノリン1−オキシド(4−NQO)(CAS no.56−57−5)、N4−アミノシチジン(CAS no.57294−74−3)、アジ化ナトリウム(CAS no.26628−22−8)、N−エチル−N−ニトロソウレア(ENU)(CAS no.759−73−9)、N−メチル−N−ニトロソウレア(MNU)(CAS no.820−60−0)、5−アザシチジン(CAS no.320−67−2)、クメンヒドロペルオキシド(CHP)(CAS no.80−15−9)、エチルメタンスルホネート(EMS)(CAS no.62−50−0)、N−エチル−N−ニトロ−N−ニトロソグアニジン(ENNG)(CAS no.4245−77−6)、N−メチル−N−ニトロ−N−ニトロソグアニジン(MNNG)(CAS no.70−25−7)、5−ジアゾウラシル(CAS no.2435−76−9)、およびt−ブチルヒドロペルオキシド(BHP)(CAS no.75−91−2)から成る群から選択し得る。
【0044】
本発明を、以下の小区分においてより詳細に記載する:
I.連続的指向性進化のシステムの概説
指向性進化は、タンパク質およびRNAの望ましい性質において顕著な改善をもたらしたが、従来の方法は、試験するライブラリーのサイズおよび選択の回数(number of round)を厳しく制限する。1つの実施態様において、本発明は、機能的タンパク質およびRNAの連続的多様化および選択を可能にするために、バクテリオファージ生活環の進化的潜在力を利用することによって、これらの制限を克服する一般的なシステムを提供する。
【0045】
インビボにおける指向性進化の成功は、ライブラリーのサイズおよび行う選択の回数に強く依存する(Voigt CA、Kauffman S、Wang Z(2000)Adv Prot Chem 55:79−160)。両方の因子は、インビトロで調製されたライブラリーを、選択のための細胞へ伝達する形質転換工程によって制限される。本発明は、インビボにおいて連続的なライブラリー多様化および選択を行うことによって、これらの制限を克服するためにデザインされたシステムである。
【0046】
従来のインビボ指向性進化実験において、進化させる遺伝子は、誤りがちのPCRまたはDNAシャッフリングによって多様化され、細菌細胞へ形質転換され、そして最も適応した変異体が、選択またはスクリーニングによって同定される。これらの生き残り(survivor)を単離、培養、およびDNA抽出し、そして配列決定して「勝ち残った(winning)」配列を同定し、それを次いでもう一度進化に供する。各回は、数日から数週間を必要とし、形質転換工程によって約1010ライブラリーメンバーまでに制限され、そして当業者による集中的な労働を必要とする。
【0047】
本発明は、選択下で遺伝子を連続的に多様化し、そして最も適応する変異体を連続的に選択することを選んで、不連続の、回ごとのアプローチを放棄することによって、これらの問題を回避する。バクテリオファージが宿主細菌の連続流に感染する方式でライブラリーを複製し、ここでその宿主細胞は機能的ライブラリーメンバーのみが感染及び複製することを可能にするように操作される。従って、そのライブラリーはバクテリオファージの生活環が許す限り迅速に進化し得、サイズを制限する形質転換工程全体を回避し、そして自動的に進化を続けるために新しい増殖培地のみを必要とする。
【0048】
例えば、本発明の1つの実施態様において、進化させる遺伝子を、パッケージングし得、輸送し得、およびファージのように宿主細胞に感染し得るファージミドベクターへクローニングし得る、図1を参照のこと。全ての必要なファージ遺伝子を含む宿主細胞を、タービドスタットにおいて定常増殖期で増殖させる、図2を参照のこと。宿主細胞の連続的な流れをラグーン(lagoon)へポンプで入れ、ここでそれらにファージミドを感染させる。そのファージミドは新しい細胞へ感染することによって複製し、一方その細胞自身はそれらが複製し得るよりも速く希釈される(Husimi Y(1989)、Adv Biophys 25:1−43)。変異誘発剤(mutagen−inducing agent)の添加または誤りがちのポリメラーゼの誘導が、その系における唯一の複製エレメントであるファージミドを選択的に変異誘発させる。糸状ファージの10分間の産生時間、高いファージ密度、および量れる(scalable)容積が、1011メンバーまでのライブラリーが、24時間の過程で>100回の多様化および選択を受けることを可能にする。
【0049】
そのシステムは、その機能が感染工程に重要なファージタンパク質の産生に関連し得るあらゆる遺伝子を進化させ得る。糸状ファージカプシドは、宿主細胞へ感染するためのファージ遺伝子IIIタンパク質(g3p)の存在を必要とし、g3pの存在下で感染性が10倍超増加する。宿主細胞は、最初はその遺伝子IIIのコピーを発現せず、従ってg3p産生を誘導し得る(望ましい機能性に合わせた選択依存的方式で)ファージミドのみが、サイクルを続け得る子孫を産生する。いくつかの場合において、リコンビナーゼによる反転工程(inversion step)または小分子依存性のリボスイッチが、感染の前にgIIIの発現を完全に防止するために必要であり得る。g3p産生を強力に誘導し得るライブラリーメンバーが、複製ができないものを犠牲にして複製する。他の実施態様において、ファージ増殖シグナルを、遺伝子IIタンパク質(g2p)、遺伝子IIIタンパク質(g3p)、または遺伝子VIタンパク質(g6p)の少なくとも1つの不活化によって、機能的に無力にし得る。
【0050】
本発明の1つの局面を、図1の概略ダイアグラムとして示す。本発明の1つの実施態様は、以下の構成要素を有する連続的進化システムを含み得る:(i)宿主細胞;(ii)宿主細胞に存在し、増殖コンポーネント以外の全てのファージタンパク質をコードする「ヘルパーファージミド」;(iii)これも宿主細胞に存在し、遺伝子IIIタンパク質(g3p)のような失われた増殖コンポーネントについての遺伝子を発現する「アクセサリープラスミド」;および(iv)進化させるタンパク質または核酸のライブラリーのメンバーを発現する「選択ファージミド」。そのヘルパーファージミドおよびアクセサリーファージミドはまた、単一のファージミドの一部でもあり得る。
【0051】
本発明のさらなる局面において、その宿主細胞に変異誘発を行う。化学的変異原、変異促進性酵素(誤りがちのポリメラーゼ)のような、しかしこれに限らない、当業者に公知の方法によって、変異誘発を宿主細胞において誘発し得る。そのシステムにおける唯一の複製エレメントは関心のある遺伝子を有するファージミドであるので、高い変異誘発率が可能である。例えば、ラグーンまたは培地へ連続的に送達される高用量の化学的変異原によって、これらのレベルを達成し得る。塩基アナログ変異原はすぐに効果があるが、アルキル化変異原は、変異誘発を生じさせるためにE.coliにおけるSOS反応の誘導を必要とする。SOS反応の完全な誘導は、誤りがちの損傷バイパス(lesion bypass)ポリメラーゼVの産生および活性化を含み、最初のDNA損傷の20〜40分後にのみ起こる(Opperman T、Murli S、Smith BT、Walker GC(1999)、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 96:9218−9223)ので、本発明は、アラビノースへの曝露の際に関連エレメント(umuD’、umuC、recA730)をすぐに発現する変異誘発プラスミドを利用する。さらに、本発明の1つの実施態様は、dnaQ926のような、主な複製ポリメラーゼのドミナントネガティブプルーフリーディングサブユニットを誘導するオプションを有し、それはファージミド複製の間の天然の変異誘発率を劇的に増加させる(Fijalkowska I、Schaaper R(1996)、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 93:2856−2861)。変異誘発の結果として、新しい選択ファージミドが進化し得る。
【0052】
従来の指向性進化の大きな問題は、インビトロまたはインビボに関わらず、いかなる機能的変異体も含まないライブラリーが全部失われ、たとえ機能性がわずか数変異離れて位置するとしても、その成果が消耗してしまう(the effort wasted)ことである。本発明は、「切り換え可能な」遺伝的浮動を可能にすることによって、この問題を克服する。これを、例えば、アンヒドロテトラサイクリン調節滴定プロモーターからの誘導性発現によるように、全てのライブラリーメンバーに「フリーの」増殖コンポーネントを提供し、全ての変異体が宿主細胞に感染することを可能にすることによって達成し得る。十分な、しかし最適なレベルより低い「フリー」増殖コンポーネントを提供することによって、生じる任意の機能的変異体は、わずかにより多くの失われた増殖コンポーネントを産生し、より多くの感染性子孫を産生し、そしてその集団を受け継ぐ。
【0053】
本発明の別の局面は、進化したタンパク質または核酸のライブラリーの選択された機能に関するスクリーニングを含み得る。タンパク質または核酸のライブラリーの進化後、選択ディスプレイシステムを、本発明によるライブラリーと組み合わせて使用し得る。選択ディスプレイシステムの例は、当業者に公知であり、そしてバクテリオファージ、選択増殖培地(抗生物質耐性)、リポーター遺伝子またはタンパク質蛍光の発現(すなわち蛍光タンパク質発現およびLacZ/X−gal青色/白色の色変化)およびリボソーム結合部位(RBS)の翻訳に影響する様々な強さを利用することであり得るがこれに限らない。本発明の好ましい選択システムは、バクテリオファージシステムである。大きなライブラリーの望ましいメンバーを単離するための選択プロトコールは、ファージディスプレイ技術によって典型的に表されるように、当該分野で公知である。ファージに基づくディスプレイシステムの利点は、それらが生物学的システムであるので、単に細菌細胞において選択されたライブラリーメンバーを含むファージを増殖させることによって、選択されたライブラリーメンバーを増幅し得ることである。さらに、ポリペプチドライブラリーメンバーをコードするヌクレオチド配列は、ファージまたはファージミドベクターに含まれるので、配列決定、発現、および続く遺伝的操作は比較的簡単である。
【0054】
1つの実施態様において、そのバクテリオファージシステムを選択のために使用し得る。「高適応」ファージミドは、アクセサリープラスミドから失われた増殖コンポーネントを発現すると同様、多様化したライブラリーメンバーをコードし得、そして増殖のために必要な成分を全て含む新しいファージ粒子へ複製し得る。新しいファージ粒子は、新しい細胞へ感染し得、適応選択ファージミドのさらなる複製をもたらす。対照的に、低い適応度のファージミドは、失われた増殖コンポーネントの発現を誘導できないライブラリーメンバーをコードし、そしてこのコンポーネントを欠くファージ粒子へパッケージングされる。これらの増殖欠損ファージ粒子は、非感染性であり、そして従って低い適応度のファージミドは増殖できない。進化させるタンパク質または核酸のライブラリーの発現は、多くの以前に開発されたn−ハイブリッド戦略を用いて、ある範囲のタンパク質結合、核酸結合、または反応触媒のイベントと関連し得るので、このシステムは関心のある広く様々なタンパク質活性または核酸活性に適用できる可能性を有する。
【0055】
本発明の別の実施態様において、個々のクローンを単離し得る。例えば、実験の終わりにセルスタットに存在するバクテリオファージ粒子は、宿主細胞に感染し得る、あるいはそのDNAは宿主細胞へ形質転換され、そしてその細胞を、適当な選択マーカー、例えば抗生物質の存在下で培地を含むプレートにおいて増殖し得る。各コロニーは、進化したタンパク質または核酸のライブラリーをコードする個々のDNA配列を示す。進化したDNA配列を、標準的な手法によって宿主細胞コロニーから単離し得る。進化したDNA配列を次いで、可溶性ポリペプチドの発現のために、真核細胞または原核細胞発現ベクターへクローニングし得る。
【0056】
II.ファージディスプレイの概説
ファージディスプレイは、様々なポリペプチドをディスプレイするためにバクテリオファージを利用する。ディスプレイタンパク質を、バクテリオファージコートタンパク質と、共有結合、非共有結合、および非ペプチド結合で連結し得る。例えば米国特許第5,223,409号、Crameriら(1993)Gene 137:69およびWO01/05950を参照のこと。その連結は、コートタンパク質に融合した様々な成分をコードする核酸の翻訳によって起こり得る。その連結は、柔軟なペプチドリンカー、プロテアーゼ部位、またはストップコドンの抑制の結果として組み込まれたアミノ酸を含み得る。
【0057】
例えばLadnerら、米国特許第5,223,409号;Smith(1985)Science 228:1315−1317;WO92/18619;WO91/17271;WO92/20791;WO92/15679;WO93/01288;WO92/01047;WO92/09690;WO90/02809;de Haardら(1999)J.Biol.Chem.274:18218−30;Hoogenboomら(1998)Immunotechnology 4:1−20;Hoogenboomら(2000)Immunol Today 2:371−8;Fuchsら(1991)Bio/Technology 9:1370−1372;Hayら(1992)Hum Antibod Hybridomas 3:81−85;Huseら(1989)Science 246:1275−1281;Griffithsら(1993)EMBO J 12:725−734;Hawkinsら(1992)J Mol Biol 226:889−896;Clacksonら(1991)Nature 352:624−628;Gramら(1992)PNAS 89:3576−3580;Garrardら(1991)Bio/Technology 9:1317−1377;Rebarら(1996)Methods Enzymol.267:129−49;Hoogenboomら(1991)Nuc Acid Res 19:4133−4137;およびBarbasら(1991)PNAS 88:7978−7982において、ファージディスプレイが記載される。
【0058】
ファージディスプレイシステムは、Ff糸状ファージ(ファージfl、fd、およびM13)ならびに他のバクテリオファージ(例えばT7バクテリオファージおよびラムドイドファージ;例えばSantini(1998)J.Mol.Biol.282:125−135;Rosenbergら(1996)Innovations 6:1−6;Houshmetら(1999)Anal Biochem 268:363−370を参照のこと)に関して開発された。
【0059】
ファージディスプレイ技術、すなわち組換えタンパク質およびペプチドをディスプレイするための糸状ファージの使用は周知であり、そして複雑なライブラリーから望ましい機能または改善された特徴を有するタンパク質およびペプチドを選択するために使用し得る。ファージディスプレイは、原核宿主システムにおける抗体断片のクローン選択によって、ヒト抗体を単離するために広く使用される。M13、flおよびfdファージを含むFfグループ由来の糸状ファージが通常使用される。E.coliにおいてウイルスコートタンパク質と関心のあるタンパク質の融合物を発現する、組換えファージおよびファージミドの産生を指示し得るベクターが開発され、そして広く入手可能である。ファージディスプレイのために使用されるベクターの2つの広いカテゴリー:ファージおよびファージミドが存在する。
【0060】
タンパク質がファージでディスプレイされる場合、組換えディスプレイタンパク質をコードする遺伝子は、ファージゲノムに含まれる。結果として、ファージ粒子は、組換えタンパク質をディスプレイし、そして組換えファージゲノムを含む。ファージミドの場合、組換えタンパク質は、複製、パッケージングおよび/または感染のためにファージに必要な遺伝子も含むプラスミド(ファージミド)において、g3pのような遺伝子との融合としてコードされる。そのようなファージミドを有する細菌は、大量の組換えディスプレイタンパク質を産生するが、そのファージミドを有する細菌が、機能的なファージを作製するために必要な全ての他のタンパク質を供給するヘルパーファージも含まなければ、ファージを作製できない。
【0061】
ヘルパーファージは、いくつかの改変を有する通常のFfファージであり得る:そのパッケージングシグナルは重度に無力化され得、それらはさらなる複製起点を含み得、そしてそれらは抗生物質耐性遺伝子を有し得る。無力化されたパッケージングシグナルは、細菌中で単独である場合、ヘルパーファージがファージ粒子を作製することを妨げないが、最適なパッケージングシグナルを有するファージミドの存在下では、そのファージミドがヘルパーファージに先立ってパッケージングされ得る。結果として、ファージミド調製物は、表現型および遺伝子型の両方において異質性(heterogeneous)であり得る。よって、ディスプレイされたタンパク質は、野生型(ヘルパーファージ由来)または組換え(ファージミド由来)のいずれかであり得、そしてパッケージングされたゲノムは、ファージまたはファージミドのいずれかであり得る。
【0062】
ファージディスプレイ、例えばファージベクターのために適当な核酸が記載された。例えば、Armstrongら(1996)Academic Press、Kayら編、35−53頁;Coreyら(1993)Gene 128(1):129−34;Cwirlaら(1990)Proc Natl Acad Sci USA 87(16):6378−82;Fowlkesら(1992)Biotechniques 13(3):422−8;Hoogenboomら(1991)Nucleic Acids Res 19(15):4133−7;McCaffertyら(1990)Nature 348(6301):552−4;McConnellら(1994)Gene 151(1−2):115−8;ScottおよびSmith(1990)Science 249(4967):386−90を参照のこと。
【0063】
ファージミド。ファージディスプレイの代替の形態(configuration)は、ファージミドベクターを使用する。ファージミドシステムにおいて、典型的には6000ヌクレオチドより短い長さのディスプレイタンパク質をコードする核酸が、プラスミドにおいて提供される。そのプラスミドはファージの複製起点を含み、そのプラスミドを有する細菌細胞に、ヘルパーファージ、例えばM13K01を感染させた場合、そのプラスミドはバクテリオファージ粒子へ組み込まれる。しかし、ファージミドは、安定なファージ粒子を産生するために十分なファージ遺伝子のセットを欠く。これらのファージ遺伝子は、ヘルパーファージによって提供され得る。典型的には、そのヘルパーファージは、遺伝子IIIおよびファージ複製およびアセンブリーに必要な他のファージ遺伝子のそのままのコピーを提供する。ヘルパーファージは欠損した起点を有するので、ヘルパーファージゲノムは、野生型起点を有するプラスミドと比較してファージ粒子に効率的に組み込まれない。例えば米国特許第5,821,047号を参照のこと。ファージミドゲノムは、ライブラリーのメンバーが感染した細胞を選択するために、選択可能なマーカー遺伝子、例えばAmpまたはKanを含み得る。
【0064】
ファージベクター。ファージディスプレイの別の形態は、発現した場合に感染性ファージ粒子を産生するために十分なファージ遺伝子のセット、ファージパッケージングシグナル、および自己複製配列を含むベクターを使用する。例えば、そのベクターは、ディスプレイタンパク質をコードする配列を含むように改変されたファージゲノムであり得る。ファージディスプレイベクターはさらに、制限酵素消化部位を含む複数のクローニング部位のような、外来性核酸配列を挿入し得る部位を含み得る。例えばファージベクターにおいてディスプレイタンパク質をコードする、外来性の核酸配列を、リボソーム結合部位、シグナル配列(例えばM13シグナル配列)、および転写ターミネーター配列に連結し得る。
【0065】
ファージディスプレイシステムは、典型的にはFf糸状ファージを利用する。糸状ファージを用いた実行において、例えば、そのディスプレイタンパク質は、ファージコートタンパク質アンカードメインへ物理的に結合する。ディスプレイタンパク質と、同じアンカードメインを有する別のポリペプチド、例えばコートタンパク質の内因性コピーとの同時発現は、粒子の表面における発現に関する競合を生じる。
【0066】
タンパク質ディスプレイに使用し得るファージコートタンパク質は、(i)遺伝子IIIタンパク質のような、糸状ファージのマイナーコートタンパク質、および(ii)遺伝子VIIIタンパク質のような、糸状ファージの主要コートタンパク質を含む。遺伝子VIタンパク質、遺伝子VIIタンパク質、または遺伝子IXタンパク質のような、他のファージコートタンパク質との融合物も使用し得る(例えばWO00/71694を参照のこと)。
【0067】
これらのタンパク質の一部(例えばドメインまたは断片)も使用し得る。有用な部分は、例えばその融合タンパク質が、選択手順の間中、粒子に留まるように、ファージ粒子へ安定に組み込まれるドメインを含む。1つの実施態様において、遺伝子IIIタンパク質のアンカードメインまたは「スタンプ(stump)」ドメインを使用し得る(例えば代表的な遺伝子IIIタンパク質スタンプドメインの記載に関して米国特許第5,658,727号を参照のこと)。本明細書中で使用される場合、「アンカードメイン」は、遺伝子パッケージ(例えばファージ)に組み込まれるドメインを指す。典型的なファージアンカードメインは、ファージコートまたはカプシドへ組み込まれる。
【0068】
別の実施態様において、遺伝子VIIIタンパク質を使用し得る。例えば米国特許第5,223,409号を参照のこと。成熟、全長遺伝子VIIIタンパク質を、ディスプレイタンパク質に連結し得る。
【0069】
ファージディスプレイシステムはまた、異種アミノ酸配列を、ファージコートタンパク質またはアンカードメインへ物理的に結合するために、タンパク質融合を使用し得る。例えば、そのファージは、シグナル配列、異種アミノ酸配列、およびアンカードメイン、例えば遺伝子IIIタンパク質アンカードメインをコードする遺伝子を含み得る。
【0070】
進化した核酸鎖をスクリーニングするために、他のシステムを使用することも可能である。選択ディスプレイシステムの例は、当業者に公知であり、そしてバクテリオファージ、選択増殖培地(抗生物質耐性)、リポーター遺伝子またはタンパク質蛍光の発現(すなわち、蛍光タンパク質発現およびLacZ/X−gal青色/白色の色変化)、および翻訳に影響を与える様々な強度のリボソーム結合部位(RBS)の利用であり得るがこれに限らない。
【0071】
本発明において有用な、細胞間で核酸を伝達する様々なシステムは、例えば最初の宿主細胞および2番目の宿主細胞の間の接合(conjugal)伝達(接合);ファージまたはウイルス感染、ここでその最初の宿主細胞は、機能的核酸を封入し、そして2番目の宿主細胞への侵入を提供し得る;および最初の細胞からの機能的核酸の排除、ここでその裸の核酸鎖は2番目の宿主細胞によって取り込まれる、を含む。いくつかの実施態様において、そのシステムはライブラリー機能性および続く選択のためのリポーター遺伝子として必須のファージ遺伝子を利用する。
【0072】
III.段階的指向性進化の制約
細胞において通常行われるような指向性進化は、(i)関心のある遺伝子を、配列変異体のライブラリーへ多様化すること;(ii)得られた遺伝子ライブラリーをインビボ発現に適当なベクターへサブクローニングすること;(iii)細胞の集団をベクターライブラリーで形質転換すること;(iv)得られた細胞をスクリーニングまたは選択にかけること;(vi)生き残った細胞を回収し、そしてそのベクターを抽出すること;および(vii)これらの生き残った遺伝子を、工程(i)から始まる指向性進化の新しいサイクルにかけること、の段階的な工程を含む。指向性進化のこの形式は、多くの成功した適用を支持したが、その段階的な性質が、いくつかの根本的な制約を課す。
【0073】
これらの制約のいくつかは、「適応度地形」として知られる理論的モデルを考えることによって最も良く視覚化し得る。所与のタンパク質または核酸の適応度は、この地形におけるその高さによって示され、類似の配列はお互い近くに位置する。高い適応度の密接に関連する配列は、山の範囲として示され、一方低い適応度の配列は谷である。指向性進化実験の目的は、地形の点をクラスターへうまく多様化し、そして選択によって閾値高度より下の配列を排除することによって、適応度地形において最も高いピークを発見することである。ライブラリーメンバーの生存は、理想的には高度の増加をもたらす、適応度地形において取ったステップを示す。適応度地形において最も高いピークを発見する機会は、最も大きな可能性のあるライブラリーを各回で探索し、そして適応度の山頂までの道においてできるだけ多くのステップを取る場合に最大化される。
【0074】
いくつかの因子が、従来の段階的な指向性進化の各回において探索し得る配列スペース(ライブラリーサイズ)の量を制約する。従来のインビボ選択は、インビトロ多様化およびDNAの細胞への形質転換によって連結されるインビボ選択の交互のサイクルを使用するので、ライブラリーサイズは、形質転換効率によって制限される。結果として、インビボライブラリーは、めったに10−1010配列を超えない。1015までの異なる種のインビトロライブラリーが報告されたが、インビトロにおいて高い複雑性(>1010変異体)のタンパク質ライブラリーの作製は、今まで100アミノ酸より短いペプチドに制限されてきた。それに加えて、インビトロ選択は、主に結合または共有結合/脱着(detachment)に関する選択に限られ、そして典型的には複数の代謝回転触媒に関する選択はできず、一方生きた細胞において選択し得る活性の範囲は、顕著により広くあり得る。
【0075】
従来の指向性進化法はまた、妥当なセットの実験において行い得る選択の回数が制限される。1回の進化の間の、増殖、抽出、特徴づけ、クローニング、および生き残ったライブラリーメンバーをコードする遺伝子の変異誘発は、集合的に顕著な達成(effort)(典型的には数日から数週)を必要とする。さらに、指向性進化実験を損ない得る混入源が、これらの操作の間に進化遺伝子プールにしばしば入る。従来の指向性進化を効率的に行い得る回数は、多くの場合混入DNAの増殖によって制限される。これらの考慮が、段階的インビボ指向性進化の試みにわたって取り得る進化的工程の数を制限する。
【0076】
ライブラリーサイズおよび取り得る進化的工程の数における制約を受けることに加えて、従来の指向性進化アプローチは、容易に最適以下の配列でトラップされる。進化する集団が、全体ではなく局所の最大である適応度ピークに達する場合、全体的な最高へ向けて局所的なピークを離れることは、非常に困難であり得る。この問題を、中程度の適応度しか必要としない条件下で複数回の進化を行い、それによって適応度地形にわたる広く水平的な移動を促進することによって解決し得る。しかし、移動の間に横断し得る距離は、再び各ライブラリーにおいてアクセスし得る異なる配列の数によって、および進化の各回に関連する時間および混入リスクによって制限される。
【0077】
IV.インビボにおいてタンパク質および核酸の連続的指向性進化を可能にする広く適用可能なシステムの開発
原則的に、段階的な指向性進化が直面する上記の困難に、連続的、自立的な方式で進化分子の変異、選択、および増幅を行うことによって取り組み得る。タンパク質または核酸によって媒介される広い範囲の機能に対して適用し得る、インビボ連続的進化システムの実行は、関心のある遺伝子の多様化が細胞内で起こること、およびより高い適応度の配列が優先的に複製され、そして次世代の細胞へ伝達されることを必要とする。真に連続的な指向性進化システムの開発が直面する上記の困難の多くに、ウイルスの生活環の重要な特徴を利用することによって取り組み得る。本発明のインビボ指向性進化システムは、進化遺伝子の選択、維持、および増殖を行うために細胞を使用する。本発明の1つの局面において、バクテリオファージの生活環を、真に連続的な指向性進化のための枠組みとして使用した。このシステムは、指向性進化が、現在の方法を用いては近づけない、広い範囲の結合および触媒問題を解決することを可能にする。
【0078】
実施例は、遺伝子III発現によって媒介される、連続的な多様化、選択、および増幅を可能にするセルスタットシステムの能力を実証する。この連続的進化システムの重要な性質を分析し、そしてそのシステムを最初の進化課題(task)において試験した。具体的には、代表的なシステムを使用して、(i)セルスタットの多様化速度を、化学的変異原の濃度と関連付けた;(ii)連続的進化選択のストリンジェンシーを調節し得るメカニズムを開発した;および(iii)E.coliにおいてリコンビナーゼ酵素を進化させることによって、完全なシステムを検証した。
【0079】
本発明の連続的進化システムは、あらゆる所定の瞬間において約1012配列のライブラリーをサンプリングし得、標準的な方法によって作製されたインビボライブラリーの最大サイズに対して少なくとも100倍の増加を示す。それに加えて、進化遺伝子を合成、輸送、感染、および複製するために必要な約15分の保存的(conservative)推定は、ウイルスの連続的進化システムが、1日あたり従来の指向性進化の約100回と同等の多様化、選択、および増幅工程を実施することを意味する。進化効率のそのような顕著な増加は、困難な問題に対する非常に稀な解決に、数日の時間スケールで達することを可能にする。
【0080】
V.連続的進化の変異誘発および選択ストリンジェンシーの調節
変異誘発率に関するコントロールは、成功する指向性進化に重要である。高い最初の変異率は、各回において横断する配列スペースの距離を増加させることによって、配列の探索を増強する。しかし、高い変異率はまた、集団の急および狭い適応度ピークからの転落を生じ得る。従って、選択の初期に高い速度で多様化し、そして後に変異誘発を減少させること、または中程度の変異誘発のより長い期間を、集中した変異誘発の短い期間で中断することが有用であり得る。実施例1は、メチルメタンスルホネート(MMS)によって媒介される連続的変異誘発を支持する、セルスタットシステムの能力を実証する。セルスタットシステムを出入りする宿主細胞および化学的変異原の連続流が、変異誘発率のリアルタイムの調整を可能にする。様々な変異原濃度および時点における、選択下にない選択ファージミド中に存在するDNA(クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ遺伝子のような)の配列決定によって、化学的変異原濃度および多様化率の間の関係を探索し得る。1時間あたりの変異率対MMS濃度を関係付ける、得られた検量線を使用して、続く実験における変異誘発率を設定し得る。
【0081】
本発明において記載された連続的進化システムの実行は、進化させる機能と、M13g3pのような増殖シグナルまたはコンポーネントの発現との連結に基づく。g3pは、感染性のファージ/ファージミドを産生するために必要であるので、機能の増加は、1つの細胞から別の細胞への伝達の改善をもたらし、それを超えてさらなるg3pが感染を増加させない理論的な最大まで、より高い機能に関して連続的に選択する。しかし、g3pの発現はまた、Fピリ線毛の退縮および続く感染への抵抗性をもたらす、膜の撹乱をもたらす。従って、進化させる核酸を有するファージまたはファージミドによる感染の前のg3pの漏出性発現は、増殖を阻害する。顕著な伝達に必要なg3pの量は、ピリ線毛の退縮を生じる量をはるかに超える。ファージまたはファージミドにリコンビナーゼ酵素をコードする遺伝子を含み、そしてアクセサリーにおいてg3p発現カセットを反転することによって、この問題を克服し得る。感染後のリコンビナーゼの発現は、カセットを反転し、そしてg3pの発現を可能にし、g3p転写の完全なオフからオンへのスイッチを提供する。あるいは、小分子依存性のリボスイッチを、g3p配列の前に結合して、その小分子の非存在下における翻訳を防止し得る。セルスタットへの小分子の添加は、セルスタットにおける到着およびファージ/ファージミドによる感染の前の、早期の(premature)g3p発現を防止する。どちらの方法も、産生されるg3pのレベルを劇的に抑制する。
【0082】
顕著な感染性ファージ産生のために大量のg3pが必要であるので、非常に強力なプロモーターが必要である。1つの実施態様において、T7 RNAポリメラーゼを、十分なタンパク質を産生するために使用し得る。ファージまたはファージミドにコードされるリコンビナーゼによって触媒される、リコンビナーゼによる反転工程は、ファージ/ファージミドの増殖のために十分なg3pの供給源を提供し得るが、機能的ファージミドがさらに多く産生することによって利益が得られるには殆ど十分ではない。リコンビナーゼオプションに対する代替として、もし進化させる遺伝子が、ファージゲノム全体と共に含まれるなら、ファージ感染の際に活性化するpsp(ファージショック)プロモーターを使用し得る。
【0083】
連続的進化システムにおける多様化の性質を調節することに加えて、選択ストリンジェンシーを調節する手段も開発された。上記で記載されたように、進化配列の平面的ドリフトを促進することによって局所的な適応度ピークトラップを回避することは、選択ストリンジェンシーに対する注意深い調節を必要とする。記載したシステムにおいて、適応度は最終的に、全ての子孫ファージを感染性にするために十分な増殖コンポーネントを産生する能力によって決定される。増殖コンポーネントの産生は、翻訳を必要とし得るので、宿主細胞が提供するアクセサリープラスミドに存在するリボソーム結合部位(RBS)の強さも、選択ストリンジェンシーを調節するために使用し得る(図3)。低い翻訳率を代償するためには高いレベルの転写が必要であるので、弱いRBS配列は、高いストリンジェンシーの選択をもたらす。従って、弱いRBS配列は、連続的進化後により高い平均適応度を有するライブラリーメンバーを生じる。逆に、翻訳開始において高度に有効であるRBS配列は、低いストリンジェンシーの選択を示し、そして従って進化後により低い平均適応度値を生じるはずである。
【0084】
RBS配列を同定し得、異なる翻訳効率を有するRBS変異体の公知のリストから選択し得、それは異なる選択ストリンジェンシーを生じる。これらの候補RBS配列を、その標的配列が遺伝子IIIプロモーターの上流に位置するDNA結合ドメイン(DBD)に融合した酵母Gal11を発現する、アクセサリープラスミド、APrbsにおけるg3pのような、増殖コンポーネントの遺伝子の上流に置き得る。酵母Gal4サブユニットを発現するSPrbsのような選択ファージミドを、アルファサブユニットのような、RNAポリメラーゼ(RNApol)のサブユニットに融合し得る。例は、他の方法で弱い遺伝子IIIプロモーターにRNApolを動員し、そして遺伝子IIIの転写を推進する(drive)、Gal4およびGal11タンパク質の間のよく特徴付けられた相互作用である。連続的進化の間、SPrbsによってコードされるGal4−RNApol融合物のような選択ファージミドに、変異誘発および選択を行い得る。連続的進化の後、そのシステムからの変異体を回収し、そしてそのコードされた変異体を、例えばAPrbsと同一であるが、遺伝子IIIの代わりにlacZを含むリポーター構築物(AP−LacZ)を用いることによってアッセイし得る(図3)。そのような例において、標準的な定量的β−ガラクトシダーゼアッセイを使用して、異なるRBS配列を用いて進化したGal4−RNAPol変異体によって達成された転写活性化の平均レベルを決定し得る。これらのレベルは、各RBSによって与えられた選択ストリンジェンシーを示す(定義によって)。選択ファージミド適応度レベルに影響を与える動的な範囲の外側の翻訳開始活性を有するRBS配列は無視し、一方進化結果(outcome)に影響を与えるRBS配列を、それらが与える選択ストリンジェンシーに基づいてランク付けする。
【0085】
本発明の連続的指向性進化システムをまた、化学的変異原濃度が多様化率を決定する、およびアクセサリープラスミドRBS配列が選択ストリンジェンシーを決定する方法を特徴付けるために使用し得る。
【0086】
VI.操作したジンクフィンガーDNA結合ドメイン
A.概説
遺伝的にコードされたタンパク質ドメインを用いて、リコンビナーゼ、ヌクレアーゼ、または転写制御因子を、実質的にあらゆる関心のある遺伝子へ標的化する能力は、ゲノミクス、ゲノム操作、および遺伝子治療研究を著しく進歩させる。本発明の前には、この能力は実現しない夢のままであった。単一のジンクフィンガードメインはDNAの3塩基対を認識する。6モジュールのオリゴマーは、18ヌクレオチド配列−ヒトゲノムにおいて唯一の部位を示すのに十分長い配列−を、強力な結合親和性で認識し得る(Kd=約1nMまたはそれより良好)。
【0087】
人工的ジンクフィンガードメインがDNA標的化の一般的な解決を示すためには、いくつかの困難を克服しなければならない。64個の可能なDNAヌクレオチドトリプレットのうち17個に結合し得るモジュラージンクフィンガードメインは、まだ報告されていない。さらに、各要素トリプレットを認識することが公知であるモジュールを融合することによる、ジンクフィンガーオリゴマーの単純なアセンブリーは、機能的結合ドメインを産生するが、ジンクフィンガーの不完全なモジュラリティーのために、そのオリゴマーは、あらゆる他の非標的配列で結合させるよりも顕著により強力に、標的配列で結合させる必要は必ずしもない。ファージディスプレイまたは細菌ツーハイブリッドシステムを用いる段階的な指向性進化法が、高い親和性の結合に関してオリゴマージンクフィンガーを最適化するために使用された。各モジュールが3つのDNA塩基対の幾何学的パラメーターをわずかに超えて延長するための、6個のモジュールの単純な融合は、低い結合を生じるので、6モジュールのジンクフィンガーオリゴマーを作製する場合には、進化的アプローチが特に重要である。従って、あらゆる望ましいDNA配列に関して高い親和性および高い特異性を有するジンクフィンガードメインを産生する、有効および用意に受け入れられる方法の開発は、著しい困難のままである。
【0088】
一旦適当なジンクフィンガーが産生されたら、それを、転写調節、エンドヌクレアーゼ活性、またはリコンビナーゼ活性のような、関心のある機能を与え得るさらなるタンパク質ドメインに連結しなければならない。単純な結合がいつも十分であるとは限らないので、このアプローチを用いて有効な配列特異的酵素を産生することは、ジンクフィンガードメインおよび触媒ドメインが相互作用する方法を最適化するために、さらなるスクリーニングまたは選択を必要とする。そのようなハイブリッド酵素産生の困難の増加は、いくつかの有望な遺伝子治療アプローチに対する大きな障壁である。
【0089】
本発明の連続的指向性進化アプローチの強さは、(i)指向性進化の効率を劇的に増強すること、および(ii)進化圧を標的配列における結合および触媒に向けて、ならびに非標的配列における結合および触媒に対して同時にかけることを可能にすることによって、ジンクフィンガーDNA結合ドメインおよびジンクフィンガー標的化リコンビナーゼの産生が直面する上記の困難に取り組む。
【0090】
B.Tn3ファミリーセリンリコンビナーゼ酵素
全てのリコンビナーゼ酵素が、ジンクフィンガードメインとの融合による標的化に適当なわけではない。例えば、チロシンリコンビナーゼCre、Flp、およびλインテグラーゼ、ならびにΦC31およびより大きなセリンインテグラーゼは、組み込まれた触媒ドメインおよびDNA結合ドメインを有する。結果として、これらのリコンビナーゼについてのDNA特異性は、DNA結合ドメインのジンクフィンガードメインによるモジュラー置換によって変化させることができない。しかし、セリンリコンビナーゼのTn3ファミリーの特異性は、柔軟なリンカーによって別の触媒ドメインに結合したDNA結合ドメインによって決定し得る。この配置は、Tn3リコンビナーゼを、DNA結合ドメインの置換による再標的化のために理想的にする。Tn3リコンビナーゼの近縁、γδは、哺乳類細胞において活性であり、このファミリーはヒトにおける標的化遺伝子治療に有用であり得ることを示唆する。Zif268−Tn3は、ジンクフィンガー標的化リコンビナーゼ酵素として報告され、それに加えてGordleyら(Gordley RMら(2007)、J.Mol.Biol.367:802−813)は、Reczfの指向性進化を記載した。
【0091】
連続的指向性進化のスピードおよびパワーを使用して、ジンクフィンガーリコンビナーゼ(およびおそらく他のハイブリッドジンクフィンガー標的化酵素)が、実質的にあらゆる望ましいDNA配列に対する活性を、数日のタイムスケールで進化させることを可能にし得る。
【0092】
C.実質的にあらゆる望ましいDNA配列を特異的に標的化し得るジンクフィンガーDNA結合ドメインおよびリコンビナーゼ酵素を進化させるための、連続的指向性進化システムの適用
機能亢進(hyperactive)Hinリコンビナーゼ(H107Y)も、ジンクフィンガーによるDNA結合を用いてDNA配列を標的化するために適当であり得る(図4)。Hinリコンビナーゼは、ジンクフィンガー認識配列を含む部位に、有効に再標的化し得、そして組換えの間に切断される中央のジヌクレオチドのすぐ前にあるプリンに対する優先以外は、配列の必要条件を有さない。本発明の連続的進化システムを使用して、RWWYテトラヌクレオチド(R=AまたはG;W=AまたはT;Y=CまたはT)、約16塩基対ごとに起こるモチーフを含む、あらゆるDNA配列において結合または組換えを触媒し得る、ジンクフィンガーDNA結合ドメインおよびジンクフィンガー標的化リコンビナーゼ酵素の両方を、迅速に生成し得る。
【0093】
D.ジンクフィンガードメインおよびジンクフィンガー標的化リコンビナーゼ酵素の連続的進化および特徴付け
それぞれ異なるDNAトリプレットに結合し得る、異なるジンクフィンガードメインの操作における著しい進歩にも関わらず、現在どのジンクフィンガーモチーフも、CTCまたはTNNトリプレットのいずれも標的化できない。この限界が、多くの関心のある潜在的な配列を標的化することを阻害している。たとえこの問題が克服されたとしても、連鎖状ジンクフィンガーオリゴマーの特異性および有効性は、多くの場合中程度のままである。本発明の連続的進化システムを、高度に特異的および有効なジンクフィンガードメインおよびジンクフィンガー標的化Hinリコンビナーゼを迅速に生成するために適用し得る。
【0094】
実質的にあらゆる望ましいDNA配列特異性を有するジンクフィンガー結合ドメインを進化させるために、図5に示すRNAポリメラーゼのアルファサブユニットとの融合物として3つのジンクフィンガーライブラリーを発現するpZF−Selのような、選択ファージミドを使用し得る。pZF−Selに付随するアクセサリープラスミドの例は、pZF−Acc(図5)であり、それは遺伝子IIIのプロモーター領域の近くに、望ましい9塩基のジンクフィンガー標的部位を含む。ランダムなヌクレオチドのライブラリーが、pZF−Accにおける標的部位を囲み得る。pZF−AccおよびpZF−Selを含む細胞は、もしジンクフィンガーライブラリーメンバーが標的配列へ結合し得るなら、g3pを発現し得る。pZF−Accにおける標的部位を囲むランダムなヌクレオチドは、標的自身ではなく標的部位の近くの配列に結合することによって、遺伝子III発現を活性化するジンクフィンガーの生存を退ける(図5)。ジンクフィンガー結合部位および遺伝子IIIの開始部位の間の距離が、1−ハイブリッド発現を活性化するために重要であり、そして従ってより遠位の部位におけるジンクフィンガー結合は、pZF−Selの生存をもたらさない。標的配列以外のDNAの結合に対して進化圧を発揮するために、非標的配列を、遺伝子IIIの後、および遺伝子IIIアンチセンス方向に向いた弱いプロモーターの近くに置くことができる(図5)。これらの非標的部位に結合するジンクフィンガードメインは、遺伝子IIIのアンチセンス方向における転写を誘導し、遺伝子IIIの発現を減少させ、そして特異性の低いジンクフィンガーをコードする選択ファージミドの増殖を阻害する。2つの反対向きのプロモーターの強さは、標的親和性対特異性の進化圧のバランスを調節するために変動し得る。
【0095】
ジンクフィンガー標的化リコンビナーゼ酵素の進化は、類似の方式で進行し得る。進化の例を、図6で見ることができ、ここでリコンビナーゼ進化のための選択ファージミドは、結果において例示されるHinリコンビナーゼ変異体と融合したジンクフィンガーライブラリーを発現するpRec−Selである(実施例2)。リコンビナーゼ進化のためのアクセサリープラスミドは、pRec−Acc(図6)であり、それはその組換えがアクセサリープラスミドの一部を反転するように位置する望ましい組換え標的部位を含む。反転は、プロモーターを、遺伝子IIIの転写を推進する正しい方向へ配置する。対照的に、非標的部位を用いた組換えは、プロモーターの切除をもたらし、遺伝子IIIの発現を阻害し得る。選択ファージミドおよびアクセサリープラスミドの組合せは、望ましいリコンビナーゼ特異性に有利であり、そして望ましくない特異性に不利な進化圧を同時に適用し得る。それに加えて、リコンビナーゼの進化は、反転に基づくオフからオンへの選択の組み込みのために、早期の発現を実証しない。重要なことに、本発明は、タンパク質の安定性、DNA結合親和性、標的部位における触媒活性、および望ましくない部位における非活性(non−activity)を含む、多くの重要な、そして潜在的に相互作用する性質の同時進化を可能にする。
【0096】
ジンクフィンガーおよびリコンビナーゼ進化の両方に関して、最初に24時間(従来の指向性進化の約100回と同等)のような延長した時間に対して、強いRBSを用いて低い選択ストリンジェンシーを課して、配列スペースの水平的探索を促進し得る。次いで選択ストリンジェンシーを連続的に増加させて(raised)、「山頂発見(summit−finding)」高ストリンジェンシー(弱いRBS)アクセサリープラスミドで終わり得る。最初の変異率を、ファージミド複製のイベントあたり約5×10−3変異のような、比較的高レベルに設定し、そして選択ストリンジェンシーが増加するにつれて連続的に変異率を減少させ得る。ファージミド集団を定期的にサンプリングし得、そしてコードされたライブラリーメンバーの活性を、リポーター構築物を用いて評価し得る。リポーター構築物は、アクセサリープラスミドと同様であるが、増殖コンポーネントの代わりにlacZのようなリポーター遺伝子を含み得る。標準的なLacZ青色/白色スクリーニングを使用して、成功したリコンビナーゼを含むコロニーを同定し得る。進化したジンクフィンガー標的化リコンビナーゼ酵素の活性を、確立した方法を用いて、インビボおよびインビトロにおいて特徴付け得る。
【0097】
親Hinリコンビナーゼのような、連続的進化から出現したリコンビナーゼを、ダイマーとして活性であるように選択し得る。例えば、ホモダイマーは、形式[9塩基配列]−N−RWWY−N−[9塩基逆相補体]の配列を標的とし得、式中、N=A、C、T、またはG;R=AまたはG;Y=CまたはT;およびW=AまたはTである。しかし、あらゆる2つの進化したジンクフィンガーリコンビナーゼは、ヘテロダイマーを形成して、形式X−N−RWWY−N−Zの標的DNA配列を組換えすることができ、式中、XおよびZは2つの異なる9ヌクレオチド配列である。2つのそのような認識配列が、正確に22塩基対離れたような(1012のランダムな塩基対のうち1つ)、設定した距離離れて存在する希少性は、哺乳類ゲノムにおいて単一の部位を標的化するために十分である。それに加えて、この極端な標的配列の希少性はまた、ホモダイマーのリコンビナーゼの基質が、ゲノムにおいて偶然にはめったに存在しないことを示し得、そして従ってヘテロダイマーのリコンビナーゼを、ホモダイマー形成を除外する必要なく使用し得る。重要なことに、あらゆる個々のリコンビナーゼは高度に特異的であり得るが、ジンクフィンガーリコンビナーゼ進化に適当な、潜在的な認識部位(RWWY)は、平均16塩基対ごとに1つ存在する。
【0098】
E.連続的進化システムの分析
上記で記載された連続的進化システムは、ライブラリーメンバーによる増殖コンポーネントの発現の結果としてのみファージの増殖を可能にするようデザインされる。変異誘発は、セルスタット全体に起こり、そして従ってライブラリーメンバーをコードする遺伝子だけでなく、(i)宿主細胞ゲノム;(ii)アクセサリープラスミド;(iii)ヘルパーファージミド;および(iv)選択ファージミドのライブラリーをコードしない領域にも影響し得る。本発明の連続的進化システムのデザインの特徴は、これらの因子それぞれが、選択ファージミド増殖に影響する能力を最小限にする。
【0099】
宿主細胞は、それら(しかしその感染ファージではなく)が複製し得るよりも速く、セルスタットを通過するので、特定の宿主細胞のゲノムにおける変異は、連続的進化の間に増殖できず、そしてファージミドの増殖に短期間しか影響できない。同様に、新しいアクセサリープラスミドが、新しい宿主細胞それぞれによって提供されるので、アクセサリープラスミドの変異(遺伝子IIIの転写を増加させるもののような)もまた、増殖できず、そしてライブラリーメンバーの長期間の生存に影響できない。宿主細胞ゲノムおよびアクセサリープラスミドと異なり、ヘルパーファージミドは、パッケージングされ、そして他の細胞へ導入され得る。しかし、全ての新しい宿主細胞は「野生型」ヘルパーファージミドと共にあらわれる(come)ので、任意の変異体ヘルパーファージの影響は、すぐに希釈される。さらに、ヘルパーファージミドは、遺伝子IIIの部分を有さず、そして選択ファージミドと顕著な相同性領域を有さないので、ヘルパーファージミドの変異は、それ自身では適応しないライブラリーメンバーの生存を可能にできない。ライブラリーメンバーをコードしない選択ファージミドの領域に変異が起こるので、いくつかの選択ファージミドが決定するパラメーターが、連続的進化の間に変化し得る。例えば、ライブラリーメンバーの発現の増加を促進する変異は、増殖の利点を与え得る。しかし、不活性なライブラリーメンバーの発現レベルを単純に増加させることは、システムにおける生存をもたらすことができず、そして従って、機能的ライブラリーメンバーのみが、発現レベルにおける潜在的な差にも関わらず増殖する。
【0100】
いくつかの実施態様において、それ自身では増殖コンポーネントを産生できないが、同じ宿主細胞中の他の選択ファージミドの増殖コンポーネントを生成する能力を利用して生存する、「寄生」選択ファージミドを使用し得る。幸運なことに、g3pのようないくつかの増殖コンポーネントの産生は、さらなるファージによる感染を阻害し、そして従って増殖コンポーネントを産生し得るファージミドを有する宿主細胞は、寄生的侵入に対して天然に抵抗性である。この抵抗性が不完全である場合には、生存ファージミドの大部分が、真に活性なライブラリーメンバーを示す限り、生存配列の小さい画分が適応度地形を平面的に横切って移動することを可能にすることによって、寄生選択ファージミドの小さいサブ集団が、連続的進化から利益を得ることができる。寄生選択ファージミドの、真に適応するファージミドに対する依存性は、前者が後者無しには存在できないことを保証する。
【0101】
まとめると、注意深くデザインされた選択ファージミドおよびアクセサリープラスミドを使用して、連続的指向性進化を、テイラーメイドの配列特異性を有する、ジンクフィンガーDNA結合ドメインおよびジンクフィンガー標的化リコンビナーゼ酵素の迅速な生成へ適用する。
【0102】
当業者は、上記で記載した実施態様に基づいて、本発明のさらなる特徴および利点を認識する。よって、本発明は、添付の特許請求の範囲によって示されるものを除いて、特に示されたまたは記載されたもの、および下記で述べる実施例によって制限されない。本明細書中で引用された全ての出版物および参考文献は、本明細書中でその全体として参考文献に明確に組み込まれる。
【実施例】
【0103】
本発明を、制限すると解釈されるべきでない以下の実施例によってさらに説明する。以下の実験を、本発明の様々な局面を実証するために行った。
【0104】
実施例1:連続的指向性進化システムのデザインおよび試験
糸状バクテリオファージの生活環(図7)は、一般的な連続的指向性進化システムの理想的な枠組みを表わす。糸状ファージは、その宿主を溶解しない;その代わり、宿主細菌は、宿主細胞の増殖速度の減少という犠牲を払って、連続的にファージを分泌する。感染は、宿主細胞のFピリ線毛およびTolA受容体へ接触するために、ファージ遺伝子IIIタンパク質(g3p)を必要とする。g3pを産生できないファージは、野生型ファージより10倍以上感染性が低い。
【0105】
本発明の連続的進化システムは、4つの生物学的構成要素:(i)宿主E.coli細胞;(ii)全ての宿主細胞に存在し、g3p以外の全てのファージタンパク質をコードする、「ヘルパーファージミド」;(iii)全ての宿主細胞に存在し、活性なライブラリーメンバーに反応して遺伝子IIIを発現する「アクセサリープラスミド」;および(iv)進化させるタンパク質または核酸のライブラリーを発現し、複製されそして分泌されるファージ粒子へパッケージングされる「選択ファージミド」を含む(図8)。それに加えて、ヘルパーおよびアクセサリープラスミドを、単一のプラスミドに組み合わせ得る。新しい宿主細胞は、g3pを含むファージ粒子によってのみ感染され得る。適応選択ファージミドは、アクセサリープラスミドからg3pの発現を誘導するライブラリーメンバーをコードし、そして従ってg3pを含むファージ粒子へパッケージングされる。これらのg3pを含むファージ粒子は、新しい細胞に感染し、適応選択ファージミドのさらなる複製をもたらし得る(図9)。対照的に、低い適応度の選択ファージミドは、g3pの発現を誘導できないライブラリーメンバーをコードし、そしてg3pを欠くファージ粒子へパッケージングされる。これらのg3p欠損ファージ粒子は非感染性であり、そして従って低い適応度の選択ファージミドは増殖できない。多くの以前に開発されたn−ハイブリッド戦略を用いて、遺伝子IIIの発現を、ある範囲のタンパク質結合、核酸結合、または反応触媒イベントに連結し得るので、このシステムは、広く様々な関心のあるタンパク質または核酸活性に対して適用できる潜在力を有する(図9)。
【0106】
このシステムを実行するために、自動化弁のシステムと連結した培養容器から成る、「セルスタット」を構築し、その中で連続的進化が起こり得る。セルスタットは、2×10細胞/mLの一定の細胞密度で維持された宿主細胞培養物(「タービドスタット」)から未感染の宿主細胞、ならびに液体形態の化学的変異原の一定の供給を受け取る(図2)。セルスタットはまた、その容積を一定に維持するために廃棄物を排出する。セルスタットにおいて、適応タンパク質または核酸をコードする選択ファージミドが常に複製し、新しい宿主細胞に感染し、そして変異し、一方適応しない選択ファージミドは複製せず、そして迅速に廃棄物へ失われる。従ってセルスタットはいくつかの重要な機能を提供する:(i)それは進化するライブラリー配列を含むファージミドが複製し得る環境を提供する;(ii)それは化学的変異原が、ライブラリーメンバーをコードする遺伝子を連続的に多様化することを可能にする;(iii)それはg3p依存的な方式で選択ファージミドの増殖を支持する;そして(iv)それは進化する培養物を常に新しい宿主細胞および培地で希釈し、そしてその過程で適応しない選択ファージミドおよび古い宿主細胞を除去する。
【0107】
その結果は、セルスタットがこれらの4つの機能をそれぞれ達成する能力を実証する。遺伝子IIIを構成的プロモーターから発現する、ポジティブコントロール偽選択ファージミド(SP+)、および遺伝子IIIを欠くネガティブコントロール選択ファージミド(図10)を構築した。3つのセルスタットに、1000:1の比のSP−対SP+を播種した。最小培地において、初期の指数関数的増殖期で維持した宿主E.coli細胞を、タービドスタットから各セルスタットへ、1時間あたり0.75セルスタット容積の希釈率で、ポンプで入れた。そのファージミドを24時間連続的に培養し、1時間ごとにサンプルを取り、そして回収した選択ファージミドの制限酵素消化およびDNA配列決定による分析にかけた。希釈の速度と一致した速度で、SP−量の一定の減少が観察され、6時間後、制限酵素消化分析によって顕著な量のSP−は検出されなかった。対照的にSP+の集団は、最初に3時間において見えるようになり、そして安定に増殖して6〜8時間以内に選択ファージミドの>99%を占めた(図10)。これらの結果は、そのセルスタットシステムは、遺伝子IIIを発現する、最初は希少なメンバーに関して、連続的に混合ファージミド集団を富化し得ること、およびg3p産生をもたらさないファージミドは、連続的な希釈によって効率的に失われることを実証する。
【0108】
そのシステムの、遺伝子プールを連続的に変異誘発する能力を試験するために、SP+ファージミドを含むセルスタットに、顕著な変異誘発を誘発することが予測されるが、ほとんどの宿主細胞が、複製およびファージを排出するために必要な約15分間生存することを可能にする濃度である、0.5mMの化学的変異原メチルメタンスルホネート(MMS)に曝露させた。それに加えて、天然のSOS反応の誘導に必要な時間のために、多様化プラスミドをMMSと共に使用した。24時間までの様々な長さの時間の後、ファージミドを単離し、そしてDNA配列決定を行った。セルスタット培養の1時間あたり1塩基対あたり、0.1%〜0.3%の平均変異誘発率に対応する配列が、選択ファージミドの非必須領域で観察され、連続的により長いインキュベーション時間は、より高い変異頻度をもたらす(表1)。対照的に、遺伝子IIIの必須領域または選択ファージミドの単離に必要な抗生物質耐性遺伝子(kan)において、変異は観察されなかった。さらに、選択ファージミドからの変異は、24時間後、MMSを欠くセルスタットにおいて増殖しなかったことが観察された(表1)。これらの結果は、化学的変異誘発によるセルスタット培養ファージミド集団の連続的多様化を支持するセルスタットの能力を実証する。
【0109】
【表1】

実施例2:連続的進化のためのリコンビナーゼ適合性の評価
Tn3セリンリコンビナーゼファミリーのリコンビナーゼは、天然にダイマーとしてその認識部位に結合し、組換えの間に切断される中央のジヌクレオチドにおいて触媒ドメインがダイマー化する。天然Tn3DNA結合ドメインを、Zif268ジンクフィンガーで置換することは、Zif268が結合する9ヌクレオチドから成る半分の部位、続くTn3認識配列から受け継いだ10ヌクレオチドの領域および中央のジヌクレオチドのリコンビナーゼ認識をもたらす。しかし、中央のジヌクレオチドに隣接する10個の受け継いだ(inherited)ヌクレオチドのうちいくつがTn3活性のために必要なのかは未知である。進化したジンクフィンガードメインによる標的化のために理想的に適したリコンビナーゼ酵素は、中央のジヌクレオチドに隣接するジンクフィンガープログラム配列の他に最小限の配列必要条件を有するべきである。それに加えて、組換えが起こる方向を制御するために、その酵素によって認識される中央のジヌクレオチドは、理想的には非パリンドロームであるべきである(図11)。Tn3リコンビナーゼは天然にはパリンドロームTA中央ジヌクレオチドを認識するが、密接に関連するHinリコンビナーゼは、天然に非パリンドロームAAまたはTT中央ジヌクレオチドに対して作用し、方向特異的組換えを可能にする。指向性進化達成のための開始点としてHinリコンビナーゼの適合性を評価するために、キメラZif268−Hinリコンビナーゼを生成し、そしてZif268認識配列および中央ジヌクレオチドの間の10個のヌクレオチドの中で、そのDNA配列必要条件を特徴付けた。
【0110】
機能亢進Hin(H107Y、アミノ酸1〜141)の触媒ドメインとZif268を配列GSGGSGGSGGSGTSの柔軟なリンカーによって連結することによって、Zif268標的化Hinリコンビナーゼを作製した。Zif268−Hin発現の誘導は、Stark実験の認識部位と類似の認識部位の組換えをもたらし、2つの反対方向の部位の間のDNA配列を反転させた。反転を確認するために、組換えしたプラスミドを精製および配列決定した。
【0111】
次いで、ジンクフィンガー結合部位および認識半分部位の中央ヌクレオチドの間の10塩基対を無作為化することによって、Zif268−HinDNA組換え部位内の全ての可能な介在配列から成るライブラリーを生成した(図4)。Zif268−Hinリコンビナーゼの基質であるライブラリーメンバーを同定するために、組換え部位のみを増幅するための、PCRに基づく選択を使用した。基質プラスミドは、同じ鎖にPCRプライマー結合部位を含み、PCRによる増幅を阻害する。成功した組換えは、プライマー結合部位の1つを反転し、組換え部位のPCR増幅を可能にする(図4)。この単純なPCRに基づく選択を、可能なZif268−Hin組換え部位のライブラリーに適用した。選択前および後のライブラリー由来のDNA配列の比較が、Zif268−Hin配列許容度(tolerance)の配列ロゴをもたらした(図4)。
【0112】
その結果は、その酵素が、切断部位にすぐ隣接するヌクレオチド(塩基10)がプリンでなければならないことを除いて、Zif268認識部位および中央ジヌクレオチドの間で最小限の配列必要条件を示すことを明らかにした。−RWWY−(式中、R=AまたはG、W=AまたはT、およびY=TまたはC)のこれらの最小限の必要条件は、広い範囲のDNA配列を標的化し得る、部位特異的リコンビナーゼの連続的進化のための有望な開始点として、ジンクフィンガー標的化Hinを確立する。
【0113】
まとめると、糸状バクテリオファージ生活環の特徴および単純な自動化液体操作技術を利用して、連続的進化を支持し得るシステムをデザインした。その結果により、g3p依存性の方式で、連続的に多様化、選択、および増幅を行うセルスタットシステムの能力が証明される。それに加えて、ジンクフィンガー標的化リコンビナーゼ酵素の連続的進化のための、Hin組換え変異体の適合性を、実質的にあらゆる配列特異性で確認した。
【0114】
全ての出版物および参考文献は、本明細書中でその全体として明確に参考文献に組み込まれる。「a」および「an」という用語を交換可能に使用し得、そして本出願において使用する場合「1つまたは複数」という語句と同等である。「含む」(comprising)、「有する(having)」、「含む」(including)および「含む」(containing)という用語は、他に言及されなければ、先の開いた用語として解釈される(すなわち、「含むがそれに限らない」を意味する)。本明細書中における値の範囲の引用は、本明細書中で他に示されなければ、単に、その範囲内に含まれる不連続の値それぞれに個々に言及する略式の方法として働くことが意図され、そして別の値それぞれは、それが本明細書中で個々に引用されたかのように、本明細書中に組み込まれる。本明細書中で記載された全ての方法を、本明細書中で他に示されなければ、または文脈と明らかに矛盾しなければ、あらゆる適当な順番で行い得る。本明細書中で提供される、あらゆるおよび全ての実施例、または代表的な言語(例えば「のような」)の使用は、単に本発明をより良く明らかにするために意図され、そして他に請求されなければ、本発明の範囲の制限を主張しない。いかなる本明細書中の言語も、あらゆる請求されない要素が、本発明の実施に必須であることを示すと解釈されるべきでない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
核酸の連続的進化方法であって、
進化させる少なくとも1つの機能的核酸鎖を第一の宿主細胞へ導入する工程;
該第一の宿主細胞内で該機能的核酸鎖を複製する工程;
該機能的核酸鎖を変異させる工程;および
少なくとも1つの該変異機能的核酸鎖を第二の宿主細胞へ導入する工程
を含む、方法。
【請求項2】
前記宿主細胞が、原核細胞、真核細胞、および細菌細胞からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記機能的核酸鎖は、進化させる遺伝子および増殖コンポーネントをコードする第二のの遺伝子を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記増殖コンポーネントは、前記第一の宿主細胞における前記機能的核酸鎖の複製のために必要である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記増殖コンポーネントは、前記第二の宿主細胞への前記機能的核酸鎖の導入のために必要である、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記変異工程は、前記変異核酸鎖の選択された機能についてのスクリーニングをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記スクリーニング工程は、バクテリオファージディスプレイシステム、抗生物質耐性、およびレポーター遺伝子の発現のうちの少なくとも一つを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記宿主細胞は、
少なくとも一つの増殖シグナルが機能的に無力にされたファージゲノムを含むヘルパープラスミド;および
前記機能的な発現した核酸鎖に反応して1つまたは複数の該無力にされた増殖シグナルを提供することができるアクセサリープラスミド
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記ファージ増殖シグナルは、遺伝子IIタンパク質(g2p)、遺伝子IIIタンパク質(g3p)、または遺伝子VIタンパク質(g6p)のうちの少なくとも1つの不活化によって、機能的に無力にされる、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記ファージゲノムは、M13ファージゲノム、fdファージゲノム、f1ファージゲノム、ZJ/2ファージゲノム、Ec9ファージゲノム、AE2ファージゲノム、HRファージゲノム、δAファージゲノム、およびIkeファージゲノムから成る群から選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記変異機能的核酸鎖を第二の宿主細胞へ導入する工程は、前記第一の宿主細胞を培養する工程をさらに含み、ここで該第一の宿主細胞は、該機能的核酸鎖によってコードされるファージミド核酸分子を糸状ファージ粒子へパッケージングすることができる、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
前記変異機能的核酸鎖を第二の宿主細胞へ導入する工程は、前記パッケージングされたファージミド核酸分子を含む前記糸状ファージ粒子を該第二の宿主細胞へと導入し、その結果進化させる該核酸鎖を該第二の宿主細胞へ導入する工程をさらに含み、ここで該第二の宿主細胞は、ヘルパープラスミドおよびアクセサリープラスミドを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記機能的核酸の変異工程が、前記変異機能的核酸鎖によってコードされる進化タンパク質または核酸を発現する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記機能的核酸の変異工程が、変異誘発剤を導入する工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記変異誘発剤が、ヌクレオチドアナログ、ヌクレオシド前駆体、アルキル化剤、架橋剤、遺伝毒性物質、および放射線からなる群から選択される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記変異誘発剤が、化学的変異原である、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記化学的変異原は、3−クロロ−4−(ジクロロメチル)−5−ヒドロキシ−2(5H)−フラノン(MX)(CAS no.77439−76−0)、O,O−ジメチル−S−(フタルイミドメチル)ホスホロジチオエート(phos−met)(CAS no.732−11−6)、ホルムアルデヒド(CAS no.50−00−0)、2−(2−フリル)−3−(5−ニトロ−2−フリル)アクリルアミド(AF−2)(CAS no.3688−53−7)、グリオキサール(CAS no.107−22−2)、6−メルカプトプリン(CAS no.50−44−2)、N−(トリクロロメチルチオ)−4−シクロヘキサン−1,2−ジカルボキシミド(カプタン)(CAS no.133−06−2)、2−アミノプリン(CAS no.452−06−2)、メチルメタンスルホネート(MMS)(CAS no.66−27−3)、4−ニトロキノリン1−オキシド(4−NQO)(CAS no.56−57−5)、N4−アミノシチジン(CAS no.57294−74−3)、アジ化ナトリウム(CAS no.26628−22−8)、N−エチル−N−ニトロソウレア(ENU)(CAS no.759−73−9)、N−メチル−N−ニトロソウレア(MNU)(CAS no.820−60−0)、5−アザシチジン(CAS no.320−67−2)、クメンヒドロペルオキシド(CHP)(CAS no.80−15−9)、エチルメタンスルホネート(EMS)(CAS no.62−50−0)、N−エチル−N−ニトロ−N−ニトロソグアニジン(ENNG)(CAS no.4245−77−6)、N−メチル−N−ニトロ−N−ニトロソグアニジン(MNNG)(CAS no.70−25−7)、5−ジアゾウラシル(CAS no.2435−76−9)、およびt−ブチルヒドロペルオキシド(BHP)(CAS no.75−91−2)からなる群から選択される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記宿主細胞が、SOS変異誘発損傷バイパスタンパク質を誘導的に発現するように改変される、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記SOS変異誘発損傷バイパスタンパク質は、ポリメラーゼVおよび活性化recAからなる群から選択される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記宿主細胞が、誤りがちのDNAポリメラーゼサブユニットを誘導的に発現することができる変異促進性プラスミドを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記アクセサリープラスミドは、前記ヘルパープラスミドから1つまたは複数の無力になったシグナルを誘導的に発現することができる、請求項8に記載の方法。
【請求項22】
前記方法は、前記変異核酸鎖を単離する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項23】
前記方法は、前記工程を反復する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項24】
前記宿主細胞は、ある細胞から別の細胞へと核酸を運搬するシステムをさらに含み、該システムは、前記第一の宿主細胞および前記第二の宿主細胞の間の接合伝達(接合);該第一の宿主細胞が前記機能的核酸を封入し、該第二の宿主細胞への侵入を提供することができる、ウイルス感染;および該裸の核酸鎖が該第二の宿主細胞によって取り込まれる、該第一の細胞からの該機能的核酸の排除、からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項25】
前記機能的核酸の排除の工程は、分泌または溶解のうちの少なくとも一つを含む、請求項24に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公表番号】特表2012−501656(P2012−501656A)
【公表日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−526268(P2011−526268)
【出願日】平成21年9月8日(2009.9.8)
【国際出願番号】PCT/US2009/056194
【国際公開番号】WO2010/028347
【国際公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(502072134)プレジデント アンド フェロウズ オブ ハーバード カレッジ (92)
【氏名又は名称原語表記】President and Fellows of Harvard College
【Fターム(参考)】