説明

タンパク質複合体およびその製造方法

【課題】タンパク質抗原の変性を極力抑制しつつ、該抗原を好適に精製することが可能な包埋タンパク質抗原、およびその製造方法を提供する。
【解決手段】分子中にシステイン残基を2個以上有するタンパク質抗原を疎水化多糖類に包埋させる包埋タンパク質抗原の製造方法。該疎水化多糖類への包埋の前または後に、前記タンパク質抗原を精製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質複合体およびその製造方法、より詳しくは抗癌タンパク質ワクチンのタンパク質抗原およびその製造方法に関する。本発明は、分子中に2個以上のシステイン残基を有する抗癌タンパク質ワクチンの癌特異的タンパク質抗原およびその製造方法に特に好適に適用可能である。一つの態様において、本発明は、例えば、癌精巣抗原(CTA)のごとく分子中に2個以上のシステイン残基を有する抗癌タンパク質ワクチンの癌特異的タンパク質抗原のシステイン残基を酸化的スルホ化することにより保護して、効率よく精製する製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明は、分子中にシステイン残基を2個以上有するタンパク質について、特に制限なく適用することが可能であるが、説明の便宜のため、上記した癌精巣抗原(CTA)に関連する背景技術について、先ず説明する。
【0003】
癌細胞に特異的に発現する抗原を患者の細胞障害性Tリンパ球(CTL)が認識して攻撃するらしいことが知られ、メラノーマ癌細胞株からMAGE-A1抗原の遺伝子配列がGene Transfection Approachによって初めて同定された(非特許文献1;van der Bruggen P, et al., Science; 254:1643-7(1991))。このMAGE−A1遺伝子に由来するプローブを含むコスミドでDNAライブラリに対してハイブリダイズすることによって、新たに11種の密接に関連したMAGE ファミリーが同定された。(非特許文献2;De Plaen E,et al.,Immunogenetics;40:360−9(1994))。これらの12種のMAGE−A遺伝子の局在はX染色体のq28領域に同定された(非特許文献3;Rogner UC,et al.,Genomics.29:725−31(1995))。
【0004】
その後も癌精巣抗原(CTA)はSEREX法(例えばSahin, U.ら (1995) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92, 11810-3、 Chen YTら(1997)Proc Natl Acad Sci U S A.;94:1914-8、 Tureci Oら(1996)Cancer Res. 56:4766-72を参照)等によって引き続き発見された。これらのCTAの多くは正常細胞では精巣細胞内にしか存在せず、癌細胞に高頻度で発現することが明らかになった。こうした性質からCTAは、癌ワクチンの理想的な標的抗原といわれている。実際、CTLがこのCTA陽性細胞を認識するエピトープ(8−10残基のアミノ酸よりなるオリゴペプチド)を抗原としたペプチドワクチンの開発がこれまで数多くなされている。
【0005】
しかしながら、CTLだけを活性化させてもワクチン効果としては不充分であることが多く、更にはヒト白血球抗原(HLA)のタイプによってその認識エピトープは異なるため、ペプチドワクチンの臨床応用には限界があると考えられている。これに対して、CTAの全長もしくは部分長を抗原とするタンパク質性ワクチンでは、抗原中にCTLの認識エピトープだけでなくヘルパーT細胞の認識エピトープも含むことにより様々なタイプのT細胞を同時に活性化でき、また、異なるHLAに対応する認識エピトープも複数含む、いわゆる多価性ワクチンとして機能し得ることが知られている。
【0006】
タンパク質性ワクチンでは、癌特異的抗原の抗原提示細胞(例えば樹状細胞)への効率的な送達を図るため、あるいは癌特異的抗原の安定化を図るために、癌特異的抗原をリポソーム等の高分子キャリアに包埋して用いることがある。そうした高分子キャリアの一種として、プルランなどの多糖類にコレステロールなどの疎水性基を付加して得られる疎水化多糖類(例えばCHP)の会合体がある。CHPは、これに癌特異的抗原全体を包埋させることによって、抗原提示細胞に抗原提示させやすくする性質を有し、しかもCHP内にて癌特異的抗原を保護することで製剤としての安定性を向上させる効果も有する。(特許文献1;WO98/09650号公報)このような高分子キャリアとしては、ISCOMATRIXアジュバントも知られている。(特許文献X;WO2005032475)
【0007】
包埋剤となる高分子キャリアとしては、周知のもの、たとえばリポソームやイスコマトリックスも含まれる。
【0008】
リポソームはこのような目的には一般的に使われるもので当業者には周知のものであり、リン脂質とそれ以外のコレステロールや様々な物質と組み合わせたり、また抗体や磁性粒子などを用いて目的とする標的部位に集中する機能を付与してDDSシステムに使われているが、たとえば白血病細胞のブタノール抽出物を含むワクチン(Shibata R.ら、(1991年)Int J Cancer. May 30; 48(3):434-42)や膜タンパクからのワクチン(Sunamoto J.ら、(1990年)Ann NY Acad Sci.613:116-27)を参照することができる。
【0009】
イスコマトリックスもがん抗原を包埋してワクチンにすることができる公知の物質で、サポニン、コレステロールおよびリン脂質から構成されている。オーストラリアのCSL社で開発が進められていて既に臨床試験の報告が出されている。(たとえば、Butts C.ら、(2005年) J Clin Oncol. 20;23(27):6674-81や、North S.ら、(2005年) Expert Rev Vaccines. 4(3):249-57、Davis D.ら、(2004年) P Natul Acad Sci.101(29)10697 を参照することができる。)
【0010】
上記CTAなどの癌特異的抗原は組換え大腸菌によって発現させて製造することが出来るが、医薬品としてのグレードの品質を確保するためには、通常は、いくつかの精製工程を経ることが必要となる。His−Tagと呼ばれる、ヒスチジンが複数個並んだ配列で金属イオンとキレートを形成するタグを癌特異的タンパク質のN末端またはC末端に付加し、ニッケルイオンの固定化カラムを用いて癌特異的タンパク質をアフィニティー精製することが多い。(Skerra A.ら、Biotechnology (1991年)Mar;9(3)273-8やCrowe J ら、Methods Mol Biol. (1994年);31:371-387.参照)しかしながら、CTA等癌特異的抗原タンパクにはシステインのチオール(−SH)基が配列の中に複数存在することが多く、タンパク質分子間でジスルフィド(−S−S−)結合して多量体を形成する傾向がある。
【0011】
一部のタンパク質では、リフォールディング操作によって分子内架橋させることで性状改善、すなわち単量体化を図り、純度の良いタンパク質として精製することが出来る。しかし、CTA等癌特異的抗原タンパクでは分子内ジスルフィド結合を形成し難く、リフォールディング操作によっても単量体が得られにくい傾向にある。このため、CTA等癌特異的抗原タンパクを精製するに際しては、下記のような種々の問題点がある。
【0012】
(1)システインを含むタンパクは精製工程中に濃縮されると分子間スルフィド結合によって縮合が進み、多量体を形成して収率が低下してしまう。
【0013】
(2)チオール基を有するタンパク質は、一般に不安定で、医薬品として使用する場合には品質安定性上にも課題がある。
【0014】
(3)ワクチン製剤のタンパク抗原の場合、チオール基を保護して精製しようとする時、抗原提示されるエピトープのチオール基が復元されなくてはならない。(即ち可逆的保護でなくてはならない。)
【0015】
NY−ESO−1というCTAを抗原としたワクチンの製造では、非還元SDS−PAGEでは多量体の割合をコントロールできず、還元SDSでのみ品質管理を行い、8M尿素で変性させたまま原薬としている(非特許文献4;Preparative Biochem & Biotech,35:119−134,2005)。しかし、製剤化の段階で尿素を除去する必要があり、恐らくこの操作で多量体形成が再発するために、キャリアであるISCOMATRIXアジュバントに包含すると普通のタンパク質では40nmのナノ粒子になるところをNY−ESO−1の場合には2000nmの巨大な凝集体になったとの報告(非特許文献5;Clin Cancer Res,10:2879−2890,2004)がある。
【0016】
上記した問題を解決する試みとして、MAGE−A3というCTAに2−メルカプトエタノールで還元した後にヨウ化アセトアミドを作用させてカルボキシメチル化によってチオール基をブロック保護する方法が考案された(特許文献2;WO99/40188公報)。このようなチオール基を選択的に保護する方法として、ヨード酢酸やヨウ化アセトアミドなどによるカルボキシメチル化が一般に行われている。しかしながら、この方法では非可逆的にチオール基をブロックしてしまうためシステインを含むタンパク抗原エピトープの場合には同エピトープを失活させてしまう欠点を有する。
【0017】
また、大腸菌を宿主としたシステイン含有組み換えたんぱく質の製造にはREDOX試薬(グルタチオン-グルタチオン酸化体或いはシステイン-システイン等)による再構成(リフォールディング)が必要とされるが、ある種のタンパク質、例えば、GM-CSF(非特許文献6;Behring Inst Mitt.1988 Aug;(83):246−9)やインスリン(非特許文献7;J Biol Chem.1992 Jan 5;267(1):419−25、非特許文献8;Anal Chem.1992 Mar 1;64(5):507−11)の製造などでは亜硫酸ナトリウムとテトラチオン酸ナトリウムを作用させてスルフィド(−SH)基をスルホ(−SSO3)化して精製した後にリフォールディングするという方法も報告されている。
【0018】
スルホ化は免疫グロブリンなどに用いられて当業者には周知の方法である。(例えば、乾燥スルホ化人免疫グロブリン献血ベニロンーI 添付文書参照)
【0019】
【特許文献1】WO98/09650号公報
【特許文献2】WO99/40188公報
【0020】
【非特許文献1】van der Bruggen P,et al.,Science;254:1643−7(1991)
【非特許文献2】De Plaen E,et al.,Immunogenetics;40:360−9(1994)
【非特許文献3】Rogner UC,et al.,Genomics.29:725−31(1995)
【0021】
【非特許文献4】Preparative Biochem & Biotech,35:119−134,2005
【非特許文献5】Clin Cancer Res,10:2879−2890,2004
【非特許文献6】Behring Inst Mitt.1988 Aug;(83):246−9
【0022】
【非特許文献7】J Biol Chem.1992 Jan 5;267(1):419−25
【非特許文献8】Anal Chem.1992 Mar 1;64(5):507−11
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
本発明の目的は、上記した従来技術の欠点を解消したタンパク質複合体およびその製造方法を提供することにある。
【0024】
本発明の目的は、さらに詳しくは、タンパク質抗原の分子間ジスルフィド結合形成による凝集を生じせしめることなく高収率で精製し、複合体を形成するタンパク質抗原の複合体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明者は鋭意研究の結果、分子中にシステイン残基を2個以上有するタンパク質のチオール基をスルホ化してからカラムクロマトグラフィー等の方法によって単量体を維持しつつ精製し、しかる後に、疎水化多糖類等の微粒子形成物質と複合体を形成させ、さらに必要なら複合体中のスルホ化タンパク質を還元することで上記目的を達成できることを見い出した。
【0026】
本発明のタンパク質複合体の製造方法は、上記知見に基づくものであり、より詳しくは、分子中にシステイン残基を2個以上有するタンパク質を包埋剤と複合体化させるタンパク質包埋剤複合体の製造方法であって;前記包埋剤への包埋の前に、前記タンパク質のシステイン残基を修飾して精製することを特徴とするものである。
【0027】
本発明によれば、分子中にシステイン残基を2個以上有するCTA等癌特異的タンパク質抗原を安定な単量体として高収率で得ることが出来る。
【0028】
本発明によれば、更に、疎水化多糖類等高分子キャリアに包埋させる前または後に還元して、タンパク質分子間のジスルフィド結合を形成することなくスルホ化リコンビナント癌特異的タンパク質抗原のチオール基を復元させることが出来る。
【0029】
本発明者の知見によれば、本発明において、分子中にシステイン残基を2個以上有する癌特異的タンパク質抗原を、酸化的スルホ化することにより、該癌特異的タンパク質抗原が安定化されて、該タンパク質抗原の分子間結合形成が効果的に防止され、これにより、タンパク質抗原単量体を収率高く精製することが可能となるものと推定される。
【0030】
これに対して従来のCTA(タンパク質抗原の一種)等の癌特異的抗原の精製方法においては、本発明者の知見によれば、多くの癌特異的抗原が奇数個のシステイン残基を含んでおり、これらシステインは分子内ジスルフィド結合を形成せずチオール基のままで存在しているか、または分子間でジスルフィド結合を形成してCTAの多量体形成に寄与しているものが一定量存在するため、このようなチオール基の存在が癌特異的抗原の収率の良い精製を阻害していたものと推定される。
【0031】
本発明は、ErbB−2タンパク質などの癌遺伝子産物および腫瘍血管の抗原タンパク質(VEGFR)などにも適用可能である。
【0032】
本発明は、例えば、以下の態様を含む。
【0033】
[1] 分子中にシステイン残基を2個以上有するタンパク質を包埋剤と複合体化させるタンパク質包埋剤複合体の製造方法であって;
【0034】
前記包埋剤への包埋の前に、前記タンパク質のシステイン残基を修飾して精製することを特徴とするタンパク質複合体の製造方法。
【0035】
[2] 前記包埋剤が疎水化多糖類である[1]に記載のタンパク質複合体の製造方法。
【0036】
[3] 前記包埋剤がリポソームである[1]に記載のタンパク質複合体の製造方法。
【0037】
[4] 前記包埋剤がイスコマトリックスである[1]に記載のタンパク質複合体の製造方法。
【0038】
[5] 前記修飾が可逆的である[1]〜[4]のいずれかに記載のタンパク質複合体の製造方法。
【0039】
[6] 前記修飾がスルホ化である[1]〜[4]のいずれかに記載のタンパク質複合体の製造方法。
【0040】
[7] 前記タンパク質が、癌精巣抗原(CTA)である[1]〜[6]のいずれかに記載のタンパク質複合体の製造方法。
【0041】
[8] 前記癌精巣抗原(CTA)が、組換え大腸菌を用いて発現されるリコンビナント精巣抗原である[7]に記載のタンパク質複合体の製造方法。
【0042】
[9] 前記タンパク質の精製後、包埋剤との複合体化の前に精製したタンパク質をスルフィド結合還元剤で還元する工程を含む[1]に記載のタンパク質複合体の製造方法。
【0043】
[10] 前記タンパク質を包埋剤と複合体化させた後複合体をスルフィド結合還元剤で還元する工程を含む[1]に記載のタンパク質複合体の製造方法。
【0044】
[11] 前記修飾をタンパク質にチオ硫酸塩とテトラチオン酸塩を作用させて、該タンパク質のチオール基をスルホ化させて保護する[6]に記載のタンパク質複合体の製造方法。
【0045】
[12] 前記精製をクロマトグラフィーで行う[1]に記載のタンパク質複合体の製造方法。
【0046】
[13] 疎水化多糖類(A)と、これに包埋された、分子中にシステイン残基を2個以上有するスルホ化リコンビナント精巣抗原(B)とを少なくとも含むことを特徴とする包埋タンパク質抗原。
【0047】
[14] 前記スルホ化リコンビナント精巣抗原が還元されてなる[13]に記載の包埋タンパク質抗原。
【0048】
[15] 疎水化多糖類(A)と、これに包埋されたスルホ化リコンビナント精巣抗原(CTA)とを少なくとも含むことを特徴とするCHP−CTAワクチン。
【0049】
[16] 前記スルホ化リコンビナント精巣抗原が、還元されたスルホ化リコンビナント精巣抗原(CTA SH)である[15]に記載のCHP−CTAワクチン。
【0050】
[17] 前記リコンビナント精巣抗原が、MAGE Al,MAGE A2,MAGE A3,MAGE A4,MAGE A5,MAGE A6,MAGE A7,MAGE A8,MAGE A9,MAGE A10,MAGE A11,MAGE A12,MAGE B1,MAGE B2,MAGE B3,MAGE B4,MAGE C1,MAGE C2のMAGE ファミリーから1ないし複数選択されたCTAである[15または16]に記載のCHP−CTAワクチン。
【0051】
[18] 前記リコンビナント精巣抗原が、NY−ESO−1、LAGE ファミリー、GAGE ファミリー、SAGE ファミリー、XAGE ファミリーから1ないし複数選択されたCTAである[15または16]に記載のCHP−CTAワクチン。
【0052】
[19] 前記リコンビナント精巣抗原が、His−Tagを付加したHis−Tag−CTAである[15または16]に記載のCHP−CTAワクチン。
【発明の効果】
【0053】
上述したように本発明によれば、癌特異的タンパク質抗原の重合多量体化を極力抑制しつつ、該タンパク質抗原の好適な精製を可能とする癌特異的タンパク質抗原およびその製造方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0054】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ本発明を更に具体的に説明する。以下の記載において量比を表す「部」および「%」は、特に断らない限り質量基準とする。
【0055】
(抗癌タンパク質ワクチン)
本発明の抗癌タンパク質ワクチンは、分子中にシステイン残基を2個以上有する癌特異的タンパク質抗原を疎水化多糖類等高分子キャリアに包埋させることによって製剤化される。
【0056】
(チオール基の復元)
本発明において、タンパク質抗原はスルホ化されたまま疎水化多糖類等に包埋してよいが、疎水化多糖類に包埋する直前に還元してもよく、或いは疎水化多糖類に包埋させた後に還元することが出来る。この還元方法に関しては2mM以上の2-メルカプトエタノール、ジチオスライトール、システインなどを作用することで達成できる。
【0057】
(高分子キャリア)
本発明において使用すべき高分子キャリアは、リポソーム、疎水化多糖類、イスコマトリックス等癌特異的タンパク抗原の疎水性部分を包埋してナノゲル形成性を有するものである限り、任意の高分子キャリアを特に制限なく使用可能である。
【0058】
疎水化多糖類(「疎水化多糖類集合体微粒子」を包含する意味で用いる;以下同様)は、例えば、Akiyoshi et al.,Macromolecules,6,pp.3062−3068,1993; Akiyoshi et al.,J.Proc.Japan.Acad.,71,71B,p.15,1995; 特開昭61−69801号公報、特開平3−292301号公報、特開平7−97333号公報等に記載された、それ自体公知の方法で製造することができる。
【0059】
疎水化多糖類における多糖類は、糖残基がグリコシド結合した高分子である限り、特に限定されない。多糖類を構成する糖残基としては、例えば、グルコース、マンノース、ガラクトース、フコース等の単糖類、または二糖類またはオリゴ糖類などの糖類に由来する残基を用いることができる。糖残基は1,2−、1,3−、1,4−または1,6−グリコシド結合していてもよく、その結合はα−またはβ−型結合のいずれであってもよい。また、多糖類は直鎖状でも分枝鎖状のいずれでもよい。糖残基としてはグルコース残基が好ましく、多糖類としては、天然または合成由来のプルラン、デキストラン、アミロース、アミロペクチン、又はマンナン、好ましくはマンナンまたはプルランなどが使用可能である。
【0060】
疎水基は特に制限されず、包埋(ないし封入)される抗原の分子量や等電点に応じて封入率の高いものを選択できる。ワクチン製剤としての安全性の観点から、疎水基としては代謝されて安全な1本鎖及び2本鎖のアルキル基またはステロール残基を100単糖あたり1〜5個(重量比で5%以下)導入したものが望ましい。
【0061】
ステロール残基としては、例えば、コレステロール、スチグマステロール、β−シトステロール、ラノステロール、エルゴステロール残基などが挙げられるが、ワクチン製剤としての安全性の観点からは、コレステロール残基を用いることが望ましい。また、アルキル基としては、好ましくは炭素数20以下、さらに好ましくは炭素数10〜18のアルキル基を用いることができ、これらは直鎖又は分岐鎖のいずれであってもよい。
【0062】
好適な疎水化多糖類の一態様としては、例えば、多糖類を構成する糖単位100個あたり1〜5個の糖単位の1級水酸基が下記式(I):
【0063】
−O−(CH2mCONH(CH2nNH−CO−O−R(I)
(式中、Rはアルキル基またはステロール残基を示し;mは0または1を示し;nは任意の正の整数を示す)で表されるものを挙げることができる。ここで、アルキル基又はステロール残基としては好ましくは上記のものを用いることができ、nは好ましくは1〜8である。なお、疎水化多糖類としては、特開平7−97333号公報に記載されたようなリンカーを介して結合したものであってもよい。
【0064】
(好適な高分子キャリアの具体例)
より具体的には、本発明においては、下記のような疎水化多糖類(A)を用いることが好ましい。
【0065】
(1)CHP(コレステロール疎水化プルラン)
(2)CHM(コレステロール疎水化マンナン)
(3)ISCOMATRIX
【0066】
上記のCHP、CHM等としては、必要に応じて、市販品(例えば、日本油脂株式会社から商業的に入手可能な製品で、分子量6万、10万等のもの;糖残基100個当たり、1.6個程度のコレステロールが存在する)を利用することもできる。
【0067】
(タンパク質抗原)
本発明において、上記した疎水化多糖類等高分子キャリアに包埋させるべき癌特異的タンパク質抗原としては、その分子中にシステイン残基を2個以上有する癌細胞に特異的に発現するタンパク質抗原を用いる。
【0068】
(好適な抗原)
本発明においては、上記の癌特異的タンパク質抗原として、例えば、以下のものが好適に使用可能である。
【0069】
(1)癌精巣抗原(CTA)
(2)組換え大腸菌を用いて発現される組み換え癌精巣抗原
例えば、MAGE−Al,MAGE−A2,MAGE−A3,MAGE−A4,MAGE−A5,MAGE−A6,MAGE−A7,MAGE−A8,MAGE−A9,MAGE−A10,MAGE−A11,MAGE−A12,MAGE−B1,MAGE−B2,MAGE−B3,MAGE−B4,MAGE−C1,MAGE−C2のMAGEファミリーから1ないし複数選択された癌精巣抗原;
【0070】
NY−ESO−1、LAGE ファミリー、GAGE ファミリー、SAGE ファミリー、XAGE ファミリーから1ないし複数選択された癌精巣抗原;
【0071】
(3)ErbB−2タンパク質などの癌遺伝子産物および腫瘍血管の抗原タンパク質(VEGFR)など
【0072】
(4)上記(1)、(2)または(3)の抗原にHis−Tagを付加したHis−Tag−癌特異的抗原
【0073】
(疎水化多糖類による抗原の包埋方法)
疎水化多糖類と抗原との複合体は、尿素等の変性剤存在下に疎水化多糖類と抗原とを室温で混合した後に、限外ろ過またはゲルクロマトグラフ法で変性剤を除去することにより製造することができる(Nishikawa,Macromolecules,27,pp.7654−7659,1994)。或いは変性剤なしでも疎水化多糖類と抗原とを50−60℃で混合するだけでも製造可能である。このようにして得られた疎水化多糖類と抗原との複合体は、そのまま本発明のワクチン製剤として用いることができるが、必要に応じて常法に従ってろ過滅菌等の操作を施すことも可能である。
【0074】
(疎水化多糖類と抗原との複合体による免疫)
本発明により製造可能なワクチン製剤は、他の公知のワクチン製剤等と同様に、その所定量を動物に投与することによって該動物を免疫することができ、同様にしてワクチン製剤の力価を評価することができる。本発明のワクチン製剤の投与経路は皮下または皮内注射が一般的である。免疫感作に必要な本発明のワクチン製剤の投与量は適宜決定できるが、例えば、通常投与量としては抗原として50〜1500μg/回程度好ましくは100〜600μg/回の量を目安とし、投与は3〜30回行うのが適当である。また、GM−CSF、IL−2、CpGやOK−432のごとき免疫賦活剤を併用することも効果的である。
【0075】
なお、本発明のワクチン製剤を製剤化する際には、それ自体公知の通常使用され得る製剤、担体及び希釈剤を、採用される投与経路にしたがって適宜使用することができる。
【0076】
(リコンビナント抗原の製造)
組換え大腸菌の調製は一般的なプラスミドにCTAのDNAを組み込むことで達成される。CTAのDNA配列は公知であり(米国特許第5342774号等)、バイオ製造業者にとって容易に達成できる。
【0077】
(抗原のスルホ化)
システイン残基の修飾法の1例として、スルホ化を例として説明する。
【0078】
本発明において、分子中にシステイン残基を2個以上有する癌特異的タンパク質抗原のスルホ化に際しては、例えば、スルホ化条件として、8M 尿素または6Mグアニジン存在下、30−3000mM(好ましくは200−500mM)の亜硫酸ナトリウム、6−600mM(好ましくは30−100mM)のテトラチオン酸を10〜50℃で作用させることが好ましい。
【0079】
(スルホ化タンパク抗原の純度確認方法)
スルホ化したタンパク抗原の純度は逆相HPLCまたは電気泳動でチェックすることが出来る。この安定性は、例えば中性緩衝液中で60℃、10分間加熱しても電気泳動で1バンドであることで確認できる。スルホ化保護をしていない場合には重合体・多量体と考えられる高分子のバンドが増加してくる。(後述実施例 に対応する電気泳動パターンを参照)
【0080】
スルホ化以外にも、グルタチオン化などシステインのーSH基を可逆的に修飾することができる方法は利用可能である。
【0081】
(疎水化多糖類への包埋方法)
包埋方法の1例として、CHPを用いる場合について説明する。
CHPに包埋させる方法は、それ自体は既に公知の方法(例えば、WO98/0650公報)を使用することができる。この包埋方法の概略は、6〜8M尿素または6Mグアニジンなどの変性剤溶液にCHPを溶解させ、もしくはCHPを水または緩衝剤溶液に溶解させて、タンパク質1に対して重量比10-20倍量のCHPを混合し、限外ろ過またはゲルろ過などの方法で製剤処方緩衝液に交換し、必要に応じて無菌ろ過処理する方法である。GHPの溶解は常温で十分であるが、加温下に行っても差し支えない。CHPの分子量は、50−100kdが望ましい。また、CHPは、例えば日本油脂株式会社から市販されている。
【0082】
リポソームやイスコマトリックスとの複合体化については前述の文献などを参照すれば、当業者にとっては容易に実施することが可能である。
【0083】
(複合体の粒度分布の測定)
本発明の疎水化多糖類(A)と、タンパク抗原(B)との複合体の粒度分布は粒度分布計(DRI)を用いて確認することが出来る。(実施例 図8参照)
【0084】
(包埋されたことの確認)
包埋は、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー;例えば、後述する「CHP包埋化」の記載を参照)によりチェックすることができる。GPCチャートにおいて、CHPおよび癌特異的抗原タンパク質それぞれのピークが、包埋により完全にCHPピークの位置に移動することで、この「包埋」を確認することが出来る。本発明において、この「包埋」の収率は95%以上であることが望ましく、更には99%以上が好ましい。
【0085】
(好適な「コレステリル多糖−抗原分子」の組合せスクリーニング)
上記したような包埋の確認方法(GPC)を利用して、本発明において「コレステリル多糖−抗原分子」の組合せを探索するためのスクリーニングテストに使用することができる。このようなスクリーニングにおいては、「包埋」の収率を求めることができる。本発明においては、この「包埋」の収率は95%以上であることが望ましく、更には99%以上が好ましい。
【0086】
(包埋後の抗原活性)
包埋後の抗原活性を検定する方法は種々あり得るが、例えばin vitroで、抗原提示細胞とキラーまたはヘルパーT細胞を組み合わせた実験系で測定できる。すなわち、包埋タンパク質抗原を例えば樹状細胞などの抗原提示細胞に取り込ませ、その抗原提示細胞によるキラーT細胞の活性化を、インターフェロンγを測定対象とするELISA法(Enzyme-linked immunosorbent assay)やELISPOT法(Enzyme-linked-ImmunoSPOT)で確認することができる。こうした実験系では、抗原活性を観測することが可能である。
【0087】
(ワクチン)
本発明の包埋タンパク質抗原は、ワクチンとして使用することができる。このワクチンは、いわゆる「抗原医薬」であるため、通常は、いわゆる「抗体医薬」より、一桁以上少ない量で免疫の効果を得ることができる。
【0088】
(好適なワクチンの態様)
本発明において、好適なワクチンの態様は、以下の通りである。
(1)組換え大腸菌を用いて発現される組み換え癌特異的タンパク質抗原(以下「SH抗原」という)に亜硫酸塩、テトラチオン酸塩を作用させて得られるスルホ化組み換え癌特異的タンパク質抗原(以下「スルホ化抗原」という)を精製し、スルホ化リコンビナント精巣抗原を疎水化多糖類に包埋させたCHP−スルホ化抗原ワクチン。
【0089】
(2)上記(1)のスルホ化組換え癌精巣抗原を還元したCHP−SH抗原ワクチン。
【0090】
(3)上記(1)または(2)の組換え癌特異的タンパク質抗原が、MAGE−Al,MAGE−A2,MAGE−A3,MAGE−A4,MAGE−A5,MAGE−A6,MAGE−A7,MAGE−A8,MAGE−A9,MAGE−A10,MAGE−A11,MAGE−A12,MAGE−B1,MAGE−B2,MAGE−B3,MAGE−B4,MAGE−C1,MAGE−C2のMAGEファミリーから1ないし複数選択されたCTAであるCHP−CTA スルホ化抗原ワクチンまたはその還元体であるCHP−CTA SH抗原ワクチン。
【0091】
(4)上記(1)または(2)のリコンビナント精巣抗原が、NY−ESO−1、LAGE ファミリー、GAGE ファミリー、SAGE ファミリー、XAGE ファミリーから1ないし複数選択されたCTAであるCHP−CTA スルホ化抗原ワクチンまたはその還元体であるCHP−CTA SH抗原ワクチン。
【0092】
(5)上記(1)または(2)のリコンビナント癌精巣抗原が、His−Tagを付加したHis−Tag−CTAであるCHP−His Tag CTA スルホ化抗原ワクチンまたはCHP− His Tag CTA SH抗原ワクチン。
【0093】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0094】
製造例1
(1)His−Tag−MAGE−A4の組み込みとシードストックの調製
下記配列:
Forward primer: 5’-GGATCCATGTCTTCTGAGCAGAAGAGT-3’
Reverse primer: 5’-AAGCTTCTCATGCTCAGACTCCCTC-3’
【0095】
をプライマーとして、メラノーマ細胞株SK−MEL−37由来のRNAに対してRT−PCRを実施し、その結果、両端にBamHI部位(GGATCC)および HindIII部位(AAGCTT)を有するMAGE−A4の全長cDNAを得た(米国コーネル大学医学部のDr. Yao-Tseng Chenにより実施)
【0096】
このc-DNAをHis−Tag融合タンパク質発現用のpQE9ベクター(キアゲン)に組み込み、pQE9/MAGE−A4プラスミドを得た(米国コーネル大学医学部のDr. Yao-Tseng Chenにより実施)。これをCompetent cell M15 [pREP4](キアゲン)に導入した菌株をDr.Kuzushima(愛知県がんセンター)より提供を受けた。
【0097】
発現が確認された形質転換株について、培養プレート上のシングルコロニーを採取して50mLのLB(25 μg/ml カナマイシンおよび100 μg/ml アンピシリンを含む)培地に接種し16時間培養した。菌体を集めて培地を抗生物質を含まないLB培地に交換した後、終濃度20%となるようグリセロールを添加し−80℃で保存した(シードストック)。このシードストックを抗生物質(25ug/mL カナマイシン, 100ug/mL アンピシリン)含有LB培地に接種し培養を行い、培養後遠心分離にて抗生物質含有培地を除去し,抗生物質不含LB培地で洗浄し培地交換した後,40%グリセロール水溶液と等量で混合し-80℃に保存,MCBとした。
【0098】
(2)培養
抗生物質不含LB培地 10Lに対してMAGE−A4MCB を5 mL接種した。37℃、250rpm、1vvmで6-15時間前培養を行い、LB培地200Lに対して前培養液を10L接種し、30℃、60rpm、1vvmで培養を開始した。OD600が約1になったらIPTGを終濃度0.3mmol/Lで添加し、誘導を開始し、DO制御は攪拌により約60%(約4.5ppm)以上に保持して、誘導開始から5hr後、培養を終了した。
【0099】
(3)菌体回収と菌体破砕
デュラポア PVDF GVPP 0.22μm(Vスクリーン)0.5 m2の平膜(Millipore)を用いて、使用菌体濃縮(約6-10倍)後、同量の20mmol/L Tris-HCl(pH8.0)バッファーを3回以上添加し、菌体洗浄を行い、菌体を湿重量で800g、20Lの菌体スラリー液を得た。菌体は冷蔵または冷凍で保存した。
【0100】
解凍した菌体に20mM Tris-HCl ( pH 8.0 )12L を加えて懸濁させて菌体スラリー液を調製し、高圧ホモジナイザーを用いて10,000 psiにて透明になるまで破砕した。ゼーター電位フィルター キュノ バイオキャップ2000 ( 60M/120M 2700cm2 )(Cuno)および 除菌フィルター ステラシェア ( 0.2μm、10i nch 8600cm2 )(Cuno) を 直列に接続し ≦0.39L/min ( 上記 フィルター 1set 当り )で破砕液をろ過して、デブリスを除去し清澄化した。
【0101】
図1に得られた破砕液上清の電気泳動パターンを示す。
【0102】
図1(菌体破砕のパス回数と可溶化)は、MAGE−A4組換え大腸菌を培養して得られる菌体破砕液の還元SDS−PAGEで破砕液上清にMAGE−A4が存在することを示す。
【0103】
図1中の記号の意味は、以下の通りである。
M: 分子量マーカー; PC: 陽性対照; CS: 培養上清; S: 上清; P: 沈殿
【0104】
製造例2
(アフィニティカラムクロマト)
Ni-NTAカラム(QIAGEN Ni-NT agarose、25cm径、約4L)を用いて破砕ろ液からMAGE−A4たん白を分離した。次の通りステップ溶出にて実施する。 ( 流速56cm/h )
【0105】
【表1】

【0106】
溶出開始後、A280のピークを分取した。
【0107】
得られた溶出液の電気泳動パターンを図2に示す。
【0108】
図2はHis−Tag−MAGE−A4発現大腸菌の菌破砕液とそれをNi−NTAアフィニティカラムで粗精製した画分の還元SDS−PAGEで、1回の精製で95%以上の純度のMAGE−A4が得られることを示す。
【0109】
ミリポア ペリコン2 ウルトラセルPLCGC 10K 0.1m2 × 1枚の平膜(Millipore)を用いてNi-NTAカラム溶出プール液を約5mg/mLまで濃縮し、濃縮後8倍量以上の20mM Tris-HCl ( pH 8.0)にてバッファー交換を行い、イミダゾールを除去した。
【0110】
実施例1
上記濃縮液に終濃度 8Mになるように 尿素を添加20mM Tris-HCl (pH 8.0) を用いてメスアップしながら溶解した後、終濃度で60mMテトラチオン酸二水和物と300mM亜硫酸ナトリウム を順に加え 室温で一晩撹拌した。反応液を10mM リン酸ナトリウムバッファー 8mol/L 尿素(pH 8.0)で平衡化したSephadex G-25 Coarse(GEヘルスケア) 25cm径 約12Lに通してバッファーを交換した。
【0111】
実施例2
実施例1の反応を8M尿素の代わりに6Mグアニジン存在下でも行ってみた。
結果は、図3(粗精製His−Tag MAGE−A4とそのスルホ化保護体の非還元SDS−PAGE)に示すように8M尿素の場合も6Mグアニジンの場合も一つのバンド(49kd)に収束した。
【0112】
実施例3
実施例1で得た「粗精製His−Tag−MAGE−A4」を用いて、以下の実施例3〜実施例8の実験を行った。
【0113】
図3は粗精製His−Tag−MAGE−A4とそのスルホ化保護体の非還元SDS−PAGEで保護反応前の粗精製MAGE−A4が非還元状態では多量体(60−110kd)や構造異性体(38−48kd)の集合であることを示すとともに、スルホ化保護反応をすることによって一つのバンド(49kd)に収束することを示す。
【0114】
これはSH体と考えられるバンド(45kd)よりも僅かに大きな分子容積となっている。この保護体はH22による酸化で変化する傾向が見られたが、熱や凍結融解には未保護のHis−Tag MAGE−A4と比べて安定であることが示された(図4)。
【0115】
図4(粗精製His−Tag−MAGE−A4とそのスルホ化保護体の過酷条件で処理したときの非還元SDS−PAGE)は、保護する前には加熱によって高分子化凝集するのに対してスルホ化保護体が熱や凍結融解に安定であることを示す。
【0116】
実施例4
(陰イオンクロマト)
10mM リン酸ナトリウムバッファー 8mol/L 尿素(pH 8.0)で平衡化したDEAE Sepharose Fast Flow 13cm径 約2L(GEヘルスケア)にてさらに精製した。カラム操作は以下の通り、グラジエント溶出で行った。流速は、アプライおよび洗浄25cm/h、その他75cm/hにて実施した。
【0117】
【表2】

【0118】
実施例5
(ハイドロキシアパタイトカラムクロマト)
ペリコン2 ウルトラセルPLCGC 10K 0.1m2×1枚の平膜(Millipore)を用いてDEAE溶出プール液を約3mg/mLまで濃縮し、濃縮後 6倍量以上の1/2 D-PBS 8mol/L 尿素にてバッファー交換脱塩を行った。これを1/2 D-PBS 8mol/L 尿素 で平衡化したHA ULTROGEL 10cm径 約3L (ポール)に載せ更に精製した。
【0119】
クロマトの条件は、次の通りグラジエント溶出にて実施した。流速は、平衡化から溶出25cm/h、その他40cm/hにて実施した。
【0120】
【表3】

【0121】
菌体破砕液上清(総タンパク量57g)からの各精製ステップでの不純物プロファイルを下記の表に示す。Ni−NTA粗精製タンパクから効率的にエンドトキシン、宿主由来タンパク、DNAなどの不純物が除去されていることが示された。
【0122】
【表4】

【0123】
実施例6
(CHP包埋化)
こうして得られたスルホ化保護His−Tag−MAGE−A4に重量比12倍のCHP 60Tまたは100T(日本油脂社製)を6M尿素存在下、または6M尿素+2‐メルカプトエタノール(2ME)存在下に混合した。これを一度緩衝液で希釈した後、限外ろ過によって濃縮・希釈を繰り返すことによって緩衝液交換とともに過剰の試薬を除去した。得られた原液を無菌ろ過した後にバイアルに分注しワクチン製剤とした。
【0124】
得られた「CHPとタンパク質を混合した直後のSE−HPLCチャート」において、UV(280nm)検出で9.7分に現れるタンパク質ピークは認められず、CHPのピークに一致して6.5分に移動した。14.1分のピークは尿素のピークであった。
【0125】
他方、希釈・濃縮によって緩衝液を交換(尿素の除去)後の「SE−HPLCチャート」においては、14.1分の尿素ピークが消え、6.5分のCHP−His−Tag−MAGE−A4ピークが認められた。
【0126】
実施例7
(ワクチン効果の確認)
こうして得られたCHP−His−Tag−MAGE−A4ワクチンの免疫活性を以下のようにELISPOT法を用いて確認した。
【0127】
Day−7にHLA−A24陽性健常人ドナーより末梢血を採取し、抗CD14抗体をコートしたマグネットビーズ(Miltenyi社)を用いてCD14陽性単球細胞を分離し、GM−CSFとIL−4の存在下で培養した。これらCD14陽性単球細胞は培養中に樹状細胞に分化するが、Day 1にこれらを回収し、1×106 個/mLの濃度になるように培地に懸濁した。
【0128】
この樹状細胞にCHP−His−Tag−MAGE−A4 (7.5〜11 μg 蛋白質/mL), CHP−His−Tag−Her2 (20 μg 蛋白質/mL)またはMAGE−A4由来HLA−A24拘束性抗原ペプチド(p143, 10 μg/mL)を添加し、37°C、5% CO2で3時間インキュベートした。 これらの細胞を新しい培地で洗浄した後、あらかじめ抗ヒトIFN−γ抗体をコートして10% ウシ胎児血清含有培地でブロックしたELISPOTプレート(ミリポア)に5×104 個/ウェルの濃度で播種した。これに様々な濃度のMAGE−A4−CTLクローン2−28(Ref. Miyahara Y.ら、 Clin Cancer Res. 2005 11(15):5581−9.)を添加し、 37°C、5% CO2で培養した。
【0129】
24時間後に0.01%Tween−20を含むリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄し、ビオチン化抗ヒトIFN−γ抗体を添加して4℃で一晩インキュベートした。0.01%Tween−20含有PBSで洗浄後、ストレプトアビジン標識アルカリフォスファターゼを加え、室温で1時間半反応させた。さらに0.01%Tween−20含有PBSで洗浄後、アルカリフォスファターゼ用の発色基質(バイオラッド)を添加し、発色反応を数分間行った。プレートを蒸留水で洗浄して発色反応を停止し、得られたIFN−γ特異的スポットをカウントした。
【0130】
得られた結果を、図6、図7に示す。図6、7において、CHP-His−Tag−MAGE−A4投与群では陰性対照(Non−treatまたはCHP−His−Tag−Her2投与群)に比べてより多くのIFN−γスポットが認められ、CHP−His−Tag−MAGE−A4が樹状細胞に取り込まれてCTLを活性化させていることが確認された。
【0131】
実施例8
(サイズ分布の測定)
包埋生成物のサイズ分布を測定した。測定条件は、以下の表5に示す通りである。
【0132】
【表5】

【0133】
測定結果を、図8のグラフに示す。
【図面の簡単な説明】
【0134】
【図1】図1はMAGE−A4組換え大腸菌を培養して得られる菌体破砕液の還元SDS−PAGEで破砕液上清にMAGE−A4が存在することを示す。
【図2】図2はHis−Tag-MAGE−A4発現大腸菌の菌破砕液とそれをNi−アフィニティカラムで粗画分の還元SDS−PAGEで、1回の精製で95%以上の純度のMAGE−A4が得られることを示す。
【図3】図3は粗精製His−Tag-MAGE−A4とそのスルホ化保護体の非還元SDS−PAGEである。保護反応前の粗精製MAGE−A4が非還元状態では多量体(60−110kd)や構造異性体(38−48kd)の集合であることを示すとともにスルホ化保護反応をすることによって一つのバンド(49kd)に収束することを示す。
【図4】図4は粗精製His−Tag−MAGE−A4とそのスルホ化保護体の過酷条件で処理したときの非還元SDS−PAGEである。図4は、保護する前には加熱によって高分子化凝集するのに対してスルホ化保護体が熱や凍結融解に安定であることを示す。
【図5】DEAEカラムによる精製チャートである。ここで溶出ピークが2本認められたが、SDS−PAGE,RPCでは区別がつかず、コンフォメーションの違いによるものと推測された。
【図6】CHP−His−Tag−MAGE−A4のELISPOTアッセイ結果を示すチャートである。Negative Control(Non−treat,CHP−Her2)に比べて有意に多くのINF−γスポットが認められ、CHP−MAGEがDCに取り込まれてCTLを活性化させていることが確認された。
【図7】CHP−MAGE−A4のELISPOTアッセイ結果を示すチャートである。Negative Control(Non−treat,CHP−Her2)に比べて有意に多くのIFN−γスポットが認められ、CHP−His−Tag−MAGE−A4が樹状細胞に取り込まれてCTLを活性化させていることが確認された。
【図8】表2に示した、包埋生成物のサイズ分布(定ピーク強度による)を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子中にシステイン残基を2個以上有するタンパク質を包埋剤と複合体化させるタンパク質包埋剤複合体の製造方法であって;
前記包埋剤への包埋の前に、前記タンパク質のシステイン残基を修飾して精製することを特徴とするタンパク質複合体の製造方法。
【請求項2】
前記包埋剤が疎水化多糖類である請求項1に記載のタンパク質複合体の製造方法。
【請求項3】
前記包埋剤がリポソームである請求項1に記載のタンパク質複合体の製造方法。
【請求項4】
前記包埋剤がイスコマトリックスである請求項1に記載のタンパク質複合体の製造方法。
【請求項5】
前記修飾が可逆的である請求項1〜4のいずれかに記載のタンパク質複合体の製造方法。
【請求項6】
前記修飾がスルホ化である請求項1〜4のいずれかに記載のタンパク質複合体の製造方法。
【請求項7】
前記タンパク質が、癌精巣抗原(CTA)である請求項1〜6のいずれかに記載のタンパク質複合体の製造方法。
【請求項8】
前記癌精巣抗原(CTA)が、組換え大腸菌を用いて発現されるリコンビナント精巣抗原である請求項7に記載のタンパク質複合体の製造方法。
【請求項9】
前記タンパク質の精製後、包埋剤との複合体化の前に精製したタンパク質をスルフィド結合還元剤で還元する工程を含む請求項1に記載のタンパク質複合体の製造方法。
【請求項10】
前記タンパク質を包埋剤と複合体化させた後複合体をスルフィド結合還元剤で還元する工程を含む請求項1に記載のタンパク質複合体の製造方法。
【請求項11】
前記修飾をタンパク質にチオ硫酸塩とテトラチオン酸塩を作用させて、該タンパク質のチオール基をスルホ化させて保護する請求項6に記載のタンパク質複合体の製造方法。
【請求項12】
前記精製をクロマトグラフィーで行う請求項1に記載のタンパク質複合体の製造方法。
【請求項13】
疎水化多糖類(A)と、これに包埋された、分子中にシステイン残基を2個以上有するスルホ化リコンビナント精巣抗原(B)とを少なくとも含むことを特徴とする包埋タンパク質抗原。
【請求項14】
前記スルホ化リコンビナント精巣抗原が還元されてなる請求項13に記載の包埋タンパク質抗原。
【請求項15】
疎水化多糖類(A)と、これに包埋されたスルホ化リコンビナント精巣抗原(CTA)とを少なくとも含むことを特徴とするCHP−CTAワクチン。
【請求項16】
前記スルホ化リコンビナント精巣抗原が、還元されたスルホ化リコンビナント精巣抗原(CTA SH)である請求項15に記載のCHP−CTAワクチン。
【請求項17】
前記リコンビナント精巣抗原が、MAGE Al,MAGE A2,MAGE A3,MAGE A4,MAGE A5,MAGE A6,MAGE A7,MAGE A8,MAGE A9,MAGE A10,MAGE A11,MAGE A12,MAGE B1,MAGE B2,MAGE B3,MAGE B4,MAGE C1,MAGE C2のMAGE ファミリーから1ないし複数選択されたCTAである請求項15または16に記載のCHP−CTAワクチン。
【請求項18】
前記リコンビナント精巣抗原が、NY−ESO−1、LAGE ファミリー、GAGE ファミリー、SAGE ファミリー、XAGE ファミリーから1ないし複数選択されたCTAである請求項15または16に記載のCHP−CTAワクチン。
【請求項19】
前記リコンビナント精巣抗原が、His−Tagを付加したHis−Tag−CTAである請求項15または16に記載のCHP−CTAワクチン。

【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−277202(P2007−277202A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−108668(P2006−108668)
【出願日】平成18年4月11日(2006.4.11)
【出願人】(504420618)株式会社イミュノフロンティア (4)
【Fターム(参考)】