説明

ターボ冷凍機の性能評価装置およびその方法

【課題】損失のない理想的な環境下でのCOP特性に対して実際に生じる機器損失分を補正項として与えることにより、目標COPを算出する場合において、蒸発器の性能に応じた損失相当温度差を与えることにより、目標COPの算出精度を向上させることを目的とする。
【解決手段】演算部103は、損失のない理想的な環境下でのCOP特性を表わす式に、実際に生じる機器損失分を補正項として与えた演算式を用いて、ターボ冷凍機が発揮可能な最大のCOPである目標COPを算出する。目標COPを算出するための演算式に、負荷率をパラメータとした関数を用いて算出される蒸発器の熱交換損失を補正項として含めることにより、蒸発器の熱交換損失を目標COPに反映させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ターボ冷凍機の性能評価装置およびその方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ターボ冷凍機の性能を評価する方法として、特許文献1に開示される方法が知られている。特許文献1には、損失のない理想的な環境下でのCOP特性が逆カルノーサイクルに近似している点に着目し、逆カルノーサイクルを表わす式に圧縮機特性を表わす修正係数を加えてターボ冷凍機が発揮可能な最大COP(以下「目標COP」という。)を算出する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−106792号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された目標COPの算出方法は、逆カルノーサイクルの式で表わされた損失のない理想的な環境下でのCOP特性に対して、実際に生じる機器損失分を補正項として与えるという技術思想に基づいている。
特許文献1に開示の方法では、圧縮機による機器損失が相対負荷率をパラメータとする修正係数Cfとして与えられているが、ターボ冷凍機を構成する圧縮機以外の機器、例えば、蒸発器や凝縮器などの熱交換器の損失分については、損失相当温度差Tdという項で一定値として与えられていた。
【0005】
本発明は、損失のない理想的な環境下でのCOP特性に対して実際に生じる機器損失分を補正項として与えることにより、目標COPを算出する場合において、蒸発器の性能に応じた損失相当温度差を与えることにより、目標COPの算出精度を向上させるターボ冷凍機の性能評価装置およびその方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を採用する。
本発明は、圧縮機および熱交換器として蒸発器を備えるターボ冷凍機の性能評価装置であって、損失のない理想的な環境下でのCOP特性を表わす式に、実際に生じる機器損失分を補正項として与えた演算式を用いて、当該冷凍機が発揮可能な最大のCOPである目標COPを算出する演算手段を備え、前記演算式には、前記蒸発器の熱交換損失が前記補正項として含まれており、前記蒸発器の熱交換損失は、負荷率をパラメータとした関数を用いて算出されるターボ冷凍機の性能評価装置を提供する。
【0007】
本発明によれば、損失のない理想的な環境下でのCOP特性を表わす式に、実際に生じる機器損失分を補正項として与えた演算式を用いて冷凍機が発揮可能な最大のCOPである目標COPが算出される。この場合において、該演算式には、蒸発器の熱交換損失が補正項として含められ、かつ、この蒸発器の熱交換損失は負荷率をパラメータとした関数で表わされているので、目標COPの算出に、負荷率に依存する蒸発器の熱交換損失を反映させることが可能となる。これにより、目標COPの算出精度を向上させることができる。
【0008】
上記ターボ冷凍機の性能評価装置において、前記蒸発器の熱交換損失を算出するための関数は、負荷率と前記蒸発器の熱交換損失との関係を冷却水入口温度ごとに求め、該関係から導出されることが好ましい。
【0009】
このように、負荷率と前記蒸発器の熱交換損失との関係を冷却水入口温度ごとに求め、この関係から導かれる関数を用いて蒸発器の熱交換損失を算出するので、信頼性の高い蒸発器の熱交換損失を得ることができる。
【0010】
上記ターボ冷凍機の性能評価装置において、前記関数は、各冷却水入口温度における負荷率と蒸発器の熱交換損失との関係を示す複数の特性を一つの特性に近似した関数で与えられることとしてもよい。
【0011】
これにより、冷却水入口温度、換言すると、遠心式圧縮機の断熱ヘッドにかかわらず、一つの特性を用いて負荷率から蒸発器の熱交換損失を一意的に決定することができる。上記関数は、例えば、負荷率が高いほど蒸発器の熱交換損失が大きくなるような関数である。
【0012】
上記ターボ冷凍機の性能評価装置において、前記損失のない理想的な環境下でのCOP特性は、逆カルノーサイクルを表わす式により表わされていてもよい。
【0013】
このように、損失のない理想的な環境下でのCOP特性を表わす式として、逆カルノーサイクルを表わす式を用いることにより、目標COPの演算式を簡素化することができ、目標COPの算出に要する時間の短縮、処理負担の軽減を図ることができる。
【0014】
上記ターボ冷凍機の性能評価装置において、前記演算式には、前記圧縮機の性能による機械損失が前記補正項として与えられていてもよい。
【0015】
目標COPを算出する演算式に、圧縮機の性能による機械損失が補正項として与えられていることにより、圧縮機による機械損失を目標COPに反映させることが可能となる。これにより、目標COPの算出精度を更に向上させることが可能となる。
【0016】
本発明は、圧縮機および熱交換器として蒸発器を備えるターボ冷凍機の性能評価方法であって、損失のない理想的な環境下でのCOP特性を表わす式に、実際に生じる機器損失分を補正項として与えた演算式を用いて、当該冷凍機が発揮可能な最大のCOPである目標COPを算出する演算工程を備え、前記演算式には、前記蒸発器の熱交換損失が前記補正項として含まれており、前記蒸発器の熱交換損失は、負荷率をパラメータとした関数を用いて算出されるターボ冷凍機の性能評価方法を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、目標COPの算出精度を向上させることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態に係るインバータターボ冷凍機の概略構成を示した図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るインバータターボ冷凍機の性能評価装置が備える機能を展開して示した機能ブロック図である。
【図3】満液式蒸発器における伝熱状態を示した図である。
【図4】冷却水入口温度を変化させたときの負荷率と蒸発器の熱交換性能との関係を示した図である。
【図5】蒸発器におけるチューブと冷媒液の状況を説明するための図であり、図5(a)は負荷率100%のときのチューブと冷媒液の状況を示した図、図5(b)は部分負荷のときのチューブと冷媒液の状況を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明に係るターボ冷凍機の性能評価装置の一実施形態について、図面を参照して説明する。また、本実施形態では、ターボ冷凍機の性能評価装置がターボ冷凍機の制御を行う制御装置に設けられている場合について説明する。なお、以下の説明では、インバータターボ冷凍機を例示して説明するが、本発明に係るターボ冷凍機の性能評価装置は、インバータターボ冷凍機に限られることなく、固定速のターボ冷凍機に対しても適用可能である。
【0020】
図1は、インバータターボ冷凍機1の概略構成を示した図である。インバータターボ冷凍機1は、冷媒を圧縮する圧縮機11、ターボ圧縮機11によって圧縮された高温高圧のガス冷媒を凝縮する凝縮器12、および凝縮器12を経由した液冷媒を蒸発させる蒸発器13、インバータターボ冷凍機1の制御を行う制御装置14を主な構成として備えている。
【0021】
また、インバータターボ冷凍機1には、冷水入口温度Tinを測定する温度センサ30、冷水出口温度Toutを測定する温度センサ31、冷水流量F1を測定する流量センサ32、冷却水入口温度Tcinを測定する温度センサ33、冷却水出口温度Tcoutを測定する温度センサ34、冷却水流量F2を測定する流量センサ35などが設けられている。これら各センサ30〜35の計測値は、制御装置14に送信される。
【0022】
なお、図1に示したインバータターボ冷凍機1の構成は一例であり、この構成に限定されない。例えば、凝縮器12に代えて空気熱交換器を配置し、冷やされた外気と冷媒との間で熱交換を行うような構成としてもよい。また、インバータターボ冷凍機1は冷房機能のみを有する場合に限定されず、例えば、暖房機能のみ、或いは、冷房機能及び暖房機能の両方を有しているものであってもよい。
【0023】
制御装置14は、各センサから受信した測定値や上位システムから送られてくる負荷率などに基づいて圧縮機11の回転数などを制御する機能や、本冷凍機の性能評価を行う機能を有している。
【0024】
制御装置14は、例えば、図示しないCPU(中央演算装置)、RAM(Random Access Memory)、及びコンピュータ読み取り可能な記録媒体等から構成されている。後述の各種機能を実現するための一連の処理の過程は、プログラムの形式で記録媒体等に記録されており、このプログラムをCPUがRAM等に読み出して、情報の加工・演算処理を実行することにより、後述の各種機能が実現される。
【0025】
図2は、制御装置14が備える機能のうち、性能評価に関する機能を展開して示した機能ブロック図である。図2に示されるように、制御装置14は、データ取得部101、記憶部102、演算部103を備えている。
【0026】
データ取得部101は、インバータターボ冷凍機1の運転データを入力データとして取得する。運転データとしては、例えば、温度センサ30により計測された冷水入口温度Tin、温度センサ31により計測された冷水出口温度Tout、温度センサ33により計測された冷却水入口温度Tcin、温度センサ34により計測された冷却水出口温度Tcout、および現在の負荷率等が挙げられる。
【0027】
記憶部102には、インバータターボ冷凍機1が各運転点において性能上出し得る最大COPである目標COPを算出するための演算式などが格納されている。以下、記憶部102に格納されている演算式について説明する。
【0028】
COPct={(Tout+273.15)/(Tcout−Tout+Td)}/Cf
(1)
【0029】
上記(1)式は、逆カルノーサイクルの式で表わされた損失のない理想的な環境下でのCOP特性(以下「実機理想COP」という。)に対して、実際に生じる機器損失分を補正項Cf、Tdとして与えた演算式である。この(1)式を用いることで、目標COPctが算出される。
(1)式において、補正項Cfはターボ圧縮機11の機器特性による機器損失を実機理想COPに反映させるための補正項であり、Tdは蒸発器および凝縮器による損失相当温度差を実機理想COPに反映させるための補正項である。また、Toutは冷水出口温度、Tcoutは冷却水出口温度であり、上記温度センサ31、34の計測値が代入される。
【0030】
補正項Cfは、具体的には以下の(2)式で求められる。
Cf=f(Qfr) (2)
【0031】
ここで、Qfrは以下の(3)式で表わされる。
【0032】
Qfr=Qf/Qr (3)
【0033】
上記(3)式は、ターボ圧縮機11の機器特性に基づいて導出された演算式であり、運転基準点として設定された所定の冷却水出口温度と所定の冷水出口温度との差における所定の負荷率に対する、現在の冷却水出口温度と現在の冷水出口温度との差における現在の負荷率を相対値で表わした相対負荷率Qfrを算定するための演算式である。(3)式において、Qfは現在の負荷率、Qは以下の(4)式で与えられる。
【0034】
Qr=φ/μad1/2・(Had/k1001/2=0.1*(Had/19.4)1/2
(4)
【0035】
(4)式におけるHadは、熱力学の特性から以下の(5)式で与えられる。
【0036】
Had=(-2.7254*10-4Tout2-9.0244*10-3Tout+47.941)*{log10Pc-log10Pe}*1000/9.8067
(5)
【0037】
上記(5)式において、Pcは凝縮器の飽和圧力[MPa]、Peは蒸発器の飽和圧力[MPa]、Toutは冷水出口温度[℃]である。
【0038】
また、補正項Tdは、具体的には以下の(6)式で求められる。
Td=Tde+Tdc (6)
【0039】
(6)式において、Tdeは蒸発器の熱交換損失を考慮した損失相当温度差であり、Tdcは凝縮器の熱交換損失を考慮した損失相当温度差である。ここで、蒸発器の熱交換損失を考慮した損失相当温度差Tdeは、本発明の主たる特徴の一つであり、この導出方法については後に詳細に述べる。また、凝縮器の熱交換損失を考慮した損失相当温度差については、負荷率と損失相当温度差との関係から適切な値を設定し、その値を定数として採用してもよいし、負荷率などをパラメータとして有する所定の関数を用いて算出することとしてもよい。
【0040】
上述のように、記憶部102には、目標COPを演算するために主として機能する演算式の他、これらの演算式で用いられる各種パラメータを演算するための付随的な演算式が格納されている。
【0041】
演算部103は、データ取得部101によって入力データが取得されると、記憶部102から各種演算式を読み出し、これら演算式を用いて現在の運転点における目標COPを算出する。具体的には、演算部103は、上記(2)式から(5)式を用いて現在の運転点に対応する補正項Cfを得るとともに、(6)式を用いて現在の運転点に対応する補正項Tdを得る。そして、得た補正項CfおよびTdを(1)式に代入することで、現在の運転点に対応する目標COPを得る。
【0042】
次に、上記(6)式における蒸発器の熱交換損失を考慮した損失相当温度差の導出方法について、図3から図5を参照して説明する。ここで、本実施形態に係る蒸発器13は、満液式蒸発器であり、膨張弁で減圧された冷媒液が流入され、この冷媒液とチューブ内を通る冷水やブラインとの間で熱交換を行うものである。熱交換により、冷媒液は蒸発し、その蒸発潜熱によりチューブ内を通る冷水やブラインが冷却される。
【0043】
ここで、蒸発器における熱交換の一般的な式を(7)式に示す。
【0044】
Q=K×A×ΔTm (7)
【0045】
上記(7)式において、Qは熱交換量(kW)、Kは平均熱通過率(kW/m・K)、Aは有効伝熱面積(m)、ΔTmは平均温度差(K)であり、以下の(8)式で与えられる。
【0046】
ΔTm=(ΔT1+ΔT2)/2 (8)
ΔT1=冷水入口温度−蒸発温度=Tw1−Te(K)
ΔT2=冷水出口温度−蒸発温度=Tw2−Te(K)
【0047】
上記(7)式において、平均熱通過率K及び有効伝熱面積Aが一定である場合、冷水入口温度Tw1、冷水出口温度Tw2が与えられれば、交換熱量Qに対して蒸発温度Teは一意に決まることが分かる。また、平均熱通過率K及び有効伝熱面積Aが一定である場合、熱交換を行うための伝熱推進力は、冷媒液とチューブ内を流れる冷水またはブラインの温度差となる。そのため、交換熱量Qが大きいほど伝熱推進力、換言すると、前記温度差が必要となる。
【0048】
図3は、上記満液式蒸発器における伝熱状態を示した図である。図3において、蒸発温度は所定値Teで一定である。蒸発器の入口において温度Tw1であった冷水は(図3におけるA点)、蒸発器において冷却水と熱交換が行われることにより徐々に冷やされ(図3における領域B)、蒸発器の出口において温度Tw2まで冷やされることがわかる(図3におけるC点)。冷水出口温度Tw2と蒸発温度Teとの温度差ΔT2が小さいほど、蒸発器の熱交換損失が小さいことを示している。
【0049】
発明者らは、負荷率が大きいほど冷水出口温度Tw2と蒸発温度Teとの温度差ΔT2が大きくなるとの経験上の知見から、蒸発器の熱交換損失は負荷率に依存する、より具体的には、負荷率が高いほど蒸発器の熱交換損失も大きくなるのではないかと考え、負荷率と蒸発器の熱交換損失の関係を検証すべく、実際に実験を行った。
図4は、各冷却水入口温度における負荷率と蒸発器の熱交換損失との関係を示した図である。図4において、横軸は負荷率、縦軸は蒸発器の熱交換損失であり、冷水出口温度と蒸発温度との差分で表わされる。また、図4では、冷却水入口温度を13℃、15℃、20℃、25℃、29℃、32℃としたときのそれぞれの関係を示している。
【0050】
図4に示されるように、負荷率が大きいほど蒸発器の熱交換損失が大きくなることが検証された。
ここで、部分負荷の領域、特に、負荷率20%などの低負荷領域における熱交換損失はもう少し小さい数値(すなわち、図4に示したグラフにおいて、Y軸の値がもう少し小さい値)を示すことが予測されたが、予測に反し、それほど小さい数値を示していないことがわかった。
この点について、検討したところ、負荷率が所定の値よりも低い領域においては、有効伝熱面積が減少することに起因する性能低下が生じることが新たな知見として得られた。
【0051】
例えば、図5(a)に示すように、負荷率が100%のときには、蒸発してガス化する冷媒の体積により冷媒のフロス面が上昇し、全てのチューブが冷媒液に接しながら熱交換が行われる。一方、図5(b)に示すように、部分負荷の場合には、冷媒循環流量および蒸発してガス化する冷媒の量が少なくなり、蒸発器内の冷媒液位が低下するため、冷媒液と接する面積でいうチューブの有効伝熱面積が小さくなる。
【0052】
また、発明者らは、有効伝熱面積の変化に着目し、各運転点における蒸発器の熱交換性能について実験を行った。この結果、ある有効伝熱面積に対して、有効伝熱面積が20%低下すると、交換熱量Qを確保するために必要な平均温度差ΔTmが1.2倍になる、換言すると、熱交換性能が低下することがわかった。
【0053】
以上のことから、図4に示された負荷率と蒸発器の熱交換損失との関係には、有効伝熱面積に依存する熱交換性能の変化も含まれていることがわかった。
【0054】
また、図4に示した各冷却水入口温度における負荷率と蒸発器の熱交換損失との関係を検討すると、冷却水入口温度が変化しても、負荷率が低いほど蒸発器の熱交換損失が大きくなるという傾向は同じであり、かつ、各冷却水入口温度における特性はほぼ重なっていることがわかった。すなわち、負荷率と蒸発器の熱交換損失との関係は、冷却水入口温度に依存せず、よって、一つの関数で表わされることがわかった。
【0055】
以上のことから、各冷却水入口温度における負荷率と蒸発器の熱交換損失との関係を示す特性を近似曲線で表わし、この特性を用いて(6)式における蒸発器の損失相当温度差Tdeを算出することとした。これにより、冷却水入口温度に関わらず共有の特性を用いて蒸発器の損失相当温度差Tdeを求めることができるという利点がある。
【0056】
本実施形態では、各負荷率における各冷却水入口温度の熱交換損失の平均値を算出し、算出した平均値を通る近似式を作成した。近似式は、例えば、以下の(9)式で表わされる。
【0057】
Tde=a*Qf+b (9)
【0058】
(9)式において、Tdeは蒸発器の損失相当温度差、Qfは現在の負荷率、a,bは定数である。また、(9)式では、負荷率をパラメータとした1次関数として表わしたが、多項式で表わされてもよい。
【0059】
次に、本実施形態に係るターボ冷凍機の性能評価装置の作用について説明する。
まず、データ取得部101は、インバータターボ冷凍機1の運転データを入力データとして取得し、取得した入力データを演算部103に出力する。演算部103は、記憶部102に格納されている上記演算式と、データ取得部101から入力された運転データとを用いて、現在の運転点における目標COPを算出する。
【0060】
具体的には、上記(2)式から(5)式を用いて現在の運転点に対応する補正項Cfを得るとともに、(6)式および(9)式を用いて熱交換器の熱交換損失Tdを算出する。より具体的には、(9)式のQfに現在の負荷率を代入することで、蒸発器の損失相当温度差Tdeを算出し、算出した蒸発器の損失相当温度差Tdeを(6)式に代入することで、蒸発器および凝縮器による損失相当温度差Tdを得る。
そして、補正項CfとTdとを得ると、この補正項を(1)式に代入することで現在の運転点に対応する目標COPを算出する。
【0061】
算出されたCOPは、通信媒体を介して図示しない監視装置へ送信される。また、制御装置14では、上述した目標COPの算出処理と並行して、例えば、出力熱量、現在の運転点における実測COP(出力熱量[kW]を消費電力[kW]で除算した値)等が演算されており、これらの演算結果についても通信媒体を介して監視装置へ送信される。
監視装置では、制御装置14から受信した目標COP、実測COP、出力熱量等がモニタに表示され、ユーザにこれらの情報が提供される。
【0062】
以上、説明してきたように、本実施形態に係るターボ冷凍機の性能評価装置およびその方法によれば、従来は定数として与えられていた熱交換器の熱交換損失に対して、負荷率を考慮した蒸発器の熱交換損失を採用するので、目標COPの算出精度を向上させることが可能となる。これにより、ターボ冷凍機の性能評価の精度を向上させることが可能となる。
【0063】
なお、上述した実施形態では、制御装置14がターボ冷凍機の性能評価装置の機能を有している場合について述べたが、ターボ冷凍機の性能評価装置は、単独のシステムとして成立していてもよい。この場合、ターボ冷凍機の性能評価装置は、制御装置14からターボ冷凍機に関する運転データを所定の通信媒体を介して受信し、これらの情報を用いて目標COPなどを算出することとなる。また、本発明のターボ冷凍機の性能評価装置は、ターボ冷凍機の運転制御を監視する監視装置にその機能が内蔵されていてもよい。
【符号の説明】
【0064】
1 ターボ冷凍機
11 圧縮機
12 凝縮器
13 蒸発器
14 制御装置
101 データ取得部
102 記憶部
103 演算部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮機および熱交換器として蒸発器を備えるターボ冷凍機の性能評価装置であって、
損失のない理想的な環境下でのCOP特性を表わす式に、実際に生じる機器損失分を補正項として与えた演算式を用いて、当該冷凍機が発揮可能な最大のCOPである目標COPを算出する演算手段を備え、
前記演算式には、前記蒸発器の熱交換損失が前記補正項として含まれており、
前記蒸発器の熱交換損失は、負荷率をパラメータとした関数を用いて算出されるターボ冷凍機の性能評価装置。
【請求項2】
前記蒸発器の熱交換損失を算出するための関数は、負荷率と前記蒸発器の熱交換損失との関係を冷却水入口温度ごとに求め、該関係から導出される請求項1に記載のターボ冷凍機の性能評価装置。
【請求項3】
前記関数は、各冷却水入口温度における負荷率と蒸発器の熱交換損失との関係を示す複数の特性を一つの特性に近似した関数で与えられる請求項2に記載のターボ冷凍機の性能評価装置。
【請求項4】
前記損失のない理想的な環境下でのCOP特性は、逆カルノーサイクルを表わす式により表わされている請求項1から請求項3のいずれかに記載のターボ冷凍機の性能評価装置。
【請求項5】
前記演算式には、前記圧縮機の性能による機械損失が前記補正項として与えられている請求項1から請求項4のいずれかに記載のターボ冷凍機の性能評価装置。
【請求項6】
圧縮機および熱交換器として蒸発器を備えるターボ冷凍機の性能評価方法であって、
損失のない理想的な環境下でのCOP特性を表わす式に、実際に生じる機器損失分を補正項として与えた演算式を用いて、当該冷凍機が発揮可能な最大のCOPである目標COPを算出する演算工程を備え、
前記演算式には、前記蒸発器の熱交換損失が前記補正項として含まれており、
前記蒸発器の熱交換損失は、負荷率をパラメータとした関数を用いて算出されるターボ冷凍機の性能評価方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−36638(P2013−36638A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−171152(P2011−171152)
【出願日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)