説明

ダイオキシン類及び臭素系ダイオキシン類の低減化方法

【課題】ダイオキシン類及び臭素系ダイオキシン類を比較的簡単な方法により効果的に低減する。
【解決手段】排ガスを急冷することによりダイオキシン類の生成を抑制し集塵装置7で排ガス中のダイオキシン類を含む飛灰を除去するようにしているダイオキシン類の低減化方法であって、集塵装置7入口の排ガス温度を160℃〜180℃に保持することでダイオキシン類の生成を抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイオキシン類及び臭素系ダイオキシン類の生成を比較的簡単な方法にて抑制するようにしたダイオキシン類の低減化方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より廃棄物焼却炉及び電気炉(溶融炉)並びに廃棄物燃料を用いるボイラ等から発生する高毒性有機塩素化合物(ダイオキシン類等)を低減するための種々の方法が提案されている。
【0003】
廃棄物焼却炉等からはダイオキシン類等の有機塩素化合物が排出されていることが知られている。ダイオキシン類対策特別措置法では、ダイオキシン類として、PCDDs(ポリクロロジベンゾ−パラ−ジオキシン)、PCDFs(ポリクロロジベンゾフラン)及びコプラナPCBを定義している。ここで、PCDDsとPCDFsは、これらをまとめて塩素化ダイオキシン類PCDD/Fsと称しており、これまでダイオキシン類というと、一般に塩素化ダイオキシン類PCDD/Fsを指していた。また、ダイオキシン類以外に臭素系ダイオキシン類が知られている。
【0004】
ダイオキシン類は一般的に、ジベンゾ−パラ−ジオキシン或いはジベンゾフランの構造式の水素の一部あるいは全部が塩素のみで置換されたものである。一方、前記ジベンゾ−パラ−ジオキシン或いはジベンゾフランの構造式の水素の一部あるいは全部が臭素のみで置換されたものが臭素化ダイオキシン類であり、この臭素化ダイオキシン類と前記水素の一部あるいは全部が臭素および塩素で置換されたもの(すなわち、臭素と塩素の両方を有する化合物)を含めて臭素系ダイオキシン類と称している。
【0005】
廃棄物焼却炉等から排出される前記ダイオキシン類を低減するためには、先ず、排ガス中に含まれるダイオキシン類を計測する必要があり、従来、ダイオキシン類の計測は、厚生省生活衛生局水道環境部環境整備課による「廃棄物処理におけるダイオキシン類標準測定マニアル」や「JIS K 0311」に準じて行っている。
【0006】
この方法は、排ガスダクトの排ガスをサンプリング排ガスとして真空吸引ファンにより排ガス採取装置に吸引し、排ガスを容器ビン内の水に通した後、吸着剤ホルダの吸着剤に通し、更に容器ビン内のジエチレングリコール等を通すようにしている。所定時間あるいは所定量だけ排ガス採取装置にサンプリング排ガスを通してダイオキシン類を吸着剤に吸着させた後、吸着剤ホルダを取外し別に設けた計測装置に移動して吸着剤からダイオキシン類を抽出すると共に、容器ビン内に捕集されたダイオキシン類を抽出してそれらを分析し、ダイオキシン類の同定・定量を行い、ガスメータによるサンプリング排ガス量からダイオキシン類の濃度を計測する。更に、計測された濃度に基づいて、前記所定時間に排ガスダクトから排出される排ガスのダイオキシン類の総量を推定している。上記排ガス計測方法は、我が国におけるダイオキシン類計測の「公定法」と位置づけられているものであり、排ガス採取方法、試料の前処理方法および分析方法の規格が定められている。又、上記公定法以外のダイオキシン類の計測方法としては、GfA法(ドイツ、GfA社による測定方法)や、ガラス水冷法等が知られている。
【0007】
又、特許文献1には、排ガス温度が水の露点温度以上に保持されるように加熱しながらサンプリングチューブにより吸着剤に導き、吸着剤によりダイオキシン類の吸着を長時間にわたり連続して行い、その後吸着剤を取出して吸着剤に吸着されたダイオキシン類を抽出し、分析・計量することにより、吸着した時間中におけるダイオキシン類の平均濃度を計測する方法が開示されている。
【特許文献1】特開2002−39923号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記特許文献1には、長期間にわたって排ガス中のダイオキシン類の平均濃度を計測する方法が開示されているが、排ガス中のダイオキシン類を低減するための方法については何ら示されていない。
【0009】
また、前記したようなダイオキシン類の計測方法によってダイオキシン類の生成量をある程度正確に計測することができたとしても、廃棄物の燃焼によって生じるダイオキシン類には非常に多くの種類が存在し、更に、ダイオキシン類の生成には燃焼温度、未燃炭素量(燃焼状態との関連が深い因子)、塩素濃度、ガス冷却部及び集塵装置の運転温度等の因子が複雑に絡み合っており、これらの各因子の変動によるダイオキシン類の生成・分解挙動、関連物質との関係挙動によってダイオキシン類の生成は大きく変動するため、実機においてこれらの複雑な生成挙動をすべて把握してダイオキシン類の生成を効果的に低減することは困難である。
【0010】
従来から知られているダイオキシン類の低減化方法としては、廃棄物焼却炉等からの高温の排ガスを急冷することが有効であるとされており、従って、高温の排ガスを集塵装置に供給する手前で約200℃以下に急冷することが行われている。そして、集塵装置の入口部で活性炭を吹き込むことによりダイオキシン類及び重金属類等を吸着し、ダイオキシン類等を含んだ飛灰を集塵装置で除去する方式が一般的である。
【0011】
上記において、集塵装置入口における排ガスの温度を約200℃以下としているのは、集塵装置7に備えられるバグフィルタの使用限界温度が約200℃であり、この温度以上になるとバグフィルタが熱で損傷するためである。一方、集塵装置の下流に脱硝装置が設けられている場合がある。脱硝装置に備えられる触媒は例えば380℃前後で脱硝効果のピークを示すが、ダイオキシン類の二次生成抑制を考慮して、前記した如く200℃以下に冷却した排ガスは230〜250℃付近まで再加熱して脱硝装置に導入している。ダイオキシン類の生成抑制に対しては、排ガス温度を可能な限り低くする方が有利であるが、前記したように冷却した排ガスを脱硝のために再加熱する必要があり、このときの再加熱によるエネルギロスを極力抑える必要性から、前記集塵装置入口の排ガス温度をできるだけ高い200℃に設定することが一般に行われている。
【0012】
一方、ダイオキシン類対策特別措置法では、「政府による臭素系ダイオキシン類の調査、研究の推進」が明文化され、従って今後、臭素系ダイオキシン類についてもその計測及び低減化の必要性が増すことが考えられる。
【0013】
臭素系ダイオキシン類とは、ジベンゾ−パラ−ジオキシン或いはジベンゾフランの構造式の水素の一部あるいは全部が臭素のみで置換されたもの(臭素化ダイオキシン類)と、前記水素の一部あるいは全部が臭素と塩素で置換されたものとを包含したものを指し、この臭素系ダイオキシン類は、塩素化ダイオキシン類に比して光分解し易いという特質があることが分かっているのみであり、その生成メカニズム等の形態は解明されていない。
【0014】
前記臭素化ダイオキシン類は、前記塩素化ダイオキシン類の計測と同じようなサンプリング方法によって計測することができるが、臭素化ダイオキシン類は光分解し易いために光分解を防止した状態での計測が必要であり、このために計測が技術的に面倒で時間と手数を要するという問題がある。因みに、臭素系ダイオキシン類の測定法としては「ポリプロモジベンゾ−パラ−ジオキシン及びポリプロモジベンゾフランの暫定調査方法」が平成14年10月に環境省から発表されている。
【0015】
又、前記したような面倒な計測操作を実施することによって臭素系ダイオキシン類を計測することができたとしても、臭素系ダイオキシン類が生成するメカニズム及び形態が解明されていないために、臭素系ダイオキシン類を有効に低減できる方法が確立されていないのが現状である。
【0016】
本発明は、上記実情に鑑みてなしたもので、ダイオキシン類及び臭素系ダイオキシン類を効果的に低減できるようにしたダイオキシン類及び臭素系ダイオキシン類の低減化方法を提供することを目的としてなしたものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、排ガスを急冷することによりダイオキシン類の生成を抑制し集塵装置で排ガス中のダイオキシン類を含む飛灰を除去するようにしているダイオキシン類の低減化方法であって、前記集塵装置入口の排ガス温度を160℃〜180℃に保持することを特徴とするダイオキシン類の低減化方法である。
【0018】
上記手段において、集塵装置入口の排ガス温度を170℃に制御することは好ましい。
【0019】
本発明は、飛灰中の塩素化ダイオキシン類濃度と臭素系ダイオキシン類濃度を計測して得た相関性に基づき、集塵装置入口の排ガス温度を160℃〜180℃、好ましくは170℃に維持することにより塩素化ダイオキシン類を指標として臭素系ダイオキシン類を同時に低減することを特徴とする臭素系ダイオキシン類の低減化方法である。
【発明の効果】
【0020】
本発明のダイオキシン類の低減化方法によれば、集塵装置入口の排ガス温度を160℃〜180℃に保持することによってダイオキシン類の生成を効果的に低減でき、更に、集塵装置入口の排ガス温度を170℃に制御することにより、ダイオキシン類の生成を更に確実に低減できる。
【0021】
又、本発明の臭素系ダイオキシン類の低減化方法によれば、飛灰中の塩素化ダイオキシン類濃度と臭素系ダイオキシン類濃度を計測して得られた相関性に基づき、集塵装置入口の排ガス温度を160℃〜180℃、好ましくは170℃に維持することにより、塩素化ダイオキシン類を指標として塩素化ダイオキシン類と同時に臭素系ダイオキシン類を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0023】
図1は本発明のダイオキシン類及び臭素系ダイオキシン類の低減化方法を実施する装置の一例を示す概念図であり、先ず、ダイオキシン類(塩素化ダイオキシン類PCDD/Fs)を低減する場合について説明する。
【0024】
図1中、1は廃棄物を焼却する流動床2と二次燃焼室3(後部燃焼過程)及びボイラ1aを有する廃棄物流動床焼却炉である。廃棄物流動床焼却炉1から排出される排ガスは、ボイラ1aに供給する水を加熱するエコノマイザ4を介してガス冷却室5に導入され、スプレー装置6から噴射する冷却水によって急冷された後、排ガス中のダイオキシン類を吸着するための活性炭、及び排ガス中の塩化水素等を吸収するためのCa(OH)2が添加されて集塵装置7に導かれ、バグフィルタ8によって前記活性炭等を含む飛灰が除去される。このとき、前記活性炭を吹き込むことで排ガス中のダイオキシン類は飛灰に補足され、これによって図1の装置の例ではダイオキシン類の総排出量の約99.4%が飛灰に含まれた状態で除去される。そこで、飛灰中のダイオキシン類の濃度をダイオキシン類の排出を示す指標とした。ここで、灰及び飛灰に付記した数値は、焼却施設から排出されるダイオキシン類の総量を100%としたときの比率を示している。
【0025】
前記バグフィルタ8で飛灰が除去された排ガスは、再加熱器9によりNOxおよびダイオキシン類除去に適した温度(例えば230〜250℃)に再加熱された後、触媒が装填された脱硝装置10に導かれて脱硝が行われ、最終的に煙突11から大気に排出される。
【0026】
図1の廃棄物流動床焼却炉のような廃棄物焼却プロセスにおけるダイオキシン類の生成・脱塩素化/分解挙動は、廃棄物の種類及び成分、反応条件(温度、時間、雰囲気等)並びに触媒となる飛灰成分の違い等の影響を受ける。そのため焼却プロセスから排出されるダイオキシン類は多種類の異性体を含むという特徴を有している。このことは、焼却過程において温度、滞留時間あるいは雰囲気等が異なる様々な反応場が存在し、それぞれの部位において特徴的なダイオキシン類の生成・脱塩素化/分解反応が生じていることを示唆する。従って、焼却施設から排出されるダイオキシン類を低減化するには、ミクロ的な視点による生成分解機構のみならず、焼却プロセスフロー全体を視野に入れたダイオキシン類の生成挙動を理解する必要がある。
【0027】
これまで、ダイオキシン類に関する生成・脱塩素化/分解挙動を把握するために、反応温度250〜500℃程度の条件で、実験室規模の実験が行われてきた。しかしながら、集塵装置以降に存在する200℃以下の温度領域におけるダイオキシン類の生成分解挙動については、十分な知見が得られていなかった。そこで、前記廃棄物流動床焼却炉1において、排ガスを急冷して集塵装置7に導入する場合の集塵装置7以降での低温度域におけるダイオキシン類の生成因子を探るべく、集塵装置7入口の排ガス温度とダイオキシン類の生成との関係について調査した。
【0028】
現在、図1の廃棄物流動床焼却炉1のような装置において排ガス処理を行うための集塵装置7には限界温度が200℃以下のバグフィルタ8が一般に採用されており(200℃以上ではバグフィルタ8が熱で損傷する)、このため、集塵装置7入口の排ガス温度が200℃以下になるようにガス冷却室5で排ガスを急冷し、200℃以下に温度を調節した排ガスに活性炭を吹き込むことによってダイオキシン類及び重金属類等を吸着除去させ、この飛灰を集塵装置7で除去する方式が採用されている。
【0029】
焼却排ガス中に含まれる未燃炭素の吸着作用によるダイオキシン類除去の可能性を検討した報告では、バグフィルタ前後におけるダイオキシン類濃度及び同族体バランスの比較から、150℃程度の低温条件においてもダイオキシン類が生成している可能性があることが指摘されている。また、PVCを酸化銅とともに温度200℃で加熱した試験においては、加熱後1週間前後で多量のダイオキシン類が生成したことが報告されている。
【0030】
このように、150〜200℃の低温度域においても未燃炭素、塩素源及び金属化合物を含むダストが長時間加熱されることによってダイオキシン類を生成する可能性があることが示唆されている。しかし、前記したような150〜200℃の低温度域においてダイオキシン類の生成を詳細に調査した報告例はない。
【0031】
そこで、前記低温条件でのダイオキシン類(塩素化ダイオキシン類PCDD/Fs)の生成について、実験的考察を行った。
【0032】
図2に示す如く、SiO2にCuCl2・2H2O(0.5%)、Cu(OH)2(2%)及び炭素源としてのすす(0.2%)を混合したモデル飛灰(以下:MFAと称す)、都市ごみ焼却飛灰(及び炉底灰)を溶融した際に発生した溶融飛灰に炭素源としてすすを0.2%担持させた試料(以下:飛灰+すす)、さらに溶融飛灰に炭素源としてテレフタル酸を0.2%担持させた試料(以下:飛灰+テレフタル酸)の各試料を、夫々250mgとってパイレックス(登録商標)製アンプル21に空気とともに封印し、電気炉内において150〜200℃の温度で1日〜l週間加熱した後に生成したPCDD/Fsを測定した。尚、同時に廃棄物焼却過程で生成する有機塩素化合物の一つであるポリクロロベンゼン類PCBZsを測定した。
【0033】
アンプル21の内径は約10mm、長さ(円筒部分)は約100mmであり、容積は約7.85cm3であった。アンプルに封入された炭素源は約0.5mg(全量を「炭素C=12」として0.042mmol)であり、従ってこれらが完全に酸化するために必要な酸素ガス量は約0.042mmolと見積もることができる。容積約7.85cm3のアンプル内に含まれる空気中の酸素量は約0.07mmolと試算されることから、アンプル内には反応に十分な酸素が確保されていたと判断できる。
【0034】
モデル飛灰MFA、飛灰+すす、飛灰+テレフタル酸の低温加熱試験結果の一覧を、夫々[表1]、[表2]、[表3]に示した。
【0035】
【表1】

【0036】
【表2】

【0037】
【表3】

【0038】
これらには、未燃炭素からPCDD/Fsが生成する最適生成温度領域とされている300〜370℃と加熱時間30〜60分とに基づき、300℃で30分間加熱した場合のPCDD/Fs生成濃度も掲載した。又、前記300℃で30分間試料を加熱した場合、PCDD/Fs生成量は極大に近いレベルになるものと考えられることから、ここでは便宜的にこの値を実験試料の「生成ポテンシャル」と呼ぶことにする。
【0039】
MFAを200℃以下の低温で加熱した場合、図3に示す如く、温度の上昇とともにPCDD/Fs生成量は増加する傾向を示した。このとき、PCDDs及びPCDFsの生成量と増加割合は温度が180℃付近までは小さいが、約180℃を過ぎるとPCDDsは増加傾向を示し、又PCDFsは急激な増加傾向を示した。又、[表1]に示す如く、MFAのPCDDs及びPCDFs生成ポテンシャルは夫々900ng/g及び4600ng/gであり、これに対して200℃で1週間(168時間)加熱した場合の生成比率は夫々約10%及び約6%であった。しかし、図4(A)(B)に示す如く、1週間経過後においてもPCDD/Fs生成量は増加傾向を示した。200℃前後の温度条件においては1週間経過後もPCDD/Fs濃度は上昇傾向にあり、さらに長時間加熱されることによって最終的なPCDD/Fsの収率は増加すると予測できる。
【0040】
飛灰+すすを200℃以下の低温で加熱した場合のダイオキシン類生成量は、[表2]及び図5に示す如く、MFAを加熱した場合と同様に温度の上昇とともに増加する傾向を示した。このとき、PCDDsの生成量及び増加割合は温度が180℃付近までは小さいが、約180℃を過ぎるとPCDDsの生成量は増加する傾向を示し、又、PCDFsの生成量及び増加割合は温度が170℃付近までは小さいが、約170℃を過ぎると増加し、180℃を超えると更に急激に増加する傾向を示した。
【0041】
ダイオキシン類濃度が極めて低い飛灰(原灰)を200℃で1週間加熱した場合のPCDDs及びPCDFs濃度は夫々[表2]に示す如く、3.4ng/g及び2.0ng/gであった。一方、飛灰+すすを200℃で1週間加熱した場合のPCDDs及びPCDFs濃度はそれぞれ220ng/g及び630ng/gであり、原灰のみを同じ条件で加熱した場合の収率と比較して60倍及び300倍であった。従って、原灰に含まれる未然炭素等からのPCDD/Fs生成は、上記試験結果に大きな影響を及ぼさなかったといえる。また、[表2]に示す飛灰+すすのPCDDs及びPCDFsの生成ポテンシャルはそれぞれ470ng/g及び4100ng/gであり、これに対して200℃、1週間加熱後の両者の生成比率は夫々約47%及び約15%であった。従って、PCDD/Fs生成ポテンシャルに対する低温度域での生成比率としては、飛灰+すすはMFAよりも高い傾向を示した。
【0042】
飛灰+テレフタル酸を200℃以下の温度で加熱した場合は、[表3]及び図6に示す如く、PCDDsの収率が温度とともに増加する傾向を示した。このとき、PCDFsの生成量は少なく、温度が増加しても生成量に殆んど変化がなかったが、PCDDsの生成量は温度が170℃付近までは小さいが、約170℃を過ぎると生成量は急激な増加傾向を示した。一方、[表3]において150〜200℃の範囲で加熱温度を変化させたときのPCDFs濃度は0.53〜3.9ng/gであり、原灰のみを加熱した場合の濃度と大差なかった。従って、PCDFs生成はテレフタル酸由来というより、むしろ飛灰に含まれていた微量の未燃炭素の影響と考えられる。前駆物質からPCDDsが選択的に生成する現象は、例えばクロロフェノール類(PCPs)を用いた実験によっても得られている。PCPs及びテレフタル酸はともに1つのベンゼン環に官能基が置換した単環化合物である。従ってこのような単環化合物を起点としたダイオキシン類の生成は、縮合によるPCDDs生成が主要であると推察される。
【0043】
ところで、上記一連の試験から、生成ポテンシャル(300℃における生成量)に対するPCDDs及びPCDFsの生成比率を比較した場合、前者が高い傾向を示した。このことは、200℃以下の低温度域においてはPCDFsよりもPCDDsの方が生成し易いことを示している。
【0044】
さらに、反応場において前記単環化合物が存在する場合はPCDDs生成が選択的に生じ([表3]、図6)、この効果が加わることによってPCDDsの存在比がより高くなる可能性がある。実際に都市ごみ焼却施設から得たバグフィルタ8の灰中或いはバグフィルタ8以降の排ガス中に含まれるPCDD/Fsを分析した場合には、PCDFsと比較してPCDDs濃度が高い場合が多い。この現象は、前記検証における「200℃以下の低温度域においてはPCDFsと比較してPCDDsが生成しやすいこと」及び「この温度域でのバグフィルタ8内部やバグフィルタ8以降の配管内に残留するダスト内で、PCDDs生成が長期間継続していると考えられること」という2つの理由で説明できる。
【0045】
図3、図5及び図6に示した結果からは、各種試料を加熱した試験における特徴的な現象として、反応温度約が160℃〜180℃の範囲、特に170℃を境にしてPCDD/Fsの生成量(あるいは生成速度)が急激に増加することが挙げられる。同様の傾向はPCBZsについてもいうことができ、従ってPCBZsよりも構造的にPCDDsおよびPCDFsに近いコプラナPCBについてもいうことができる。
【0046】
従って、ダイオキシン類(コプラナPCBを含む)を抑制するための集塵装置7のバグフィルタ8の運転温度としては、まず約160℃〜180℃の範囲に設定することが一つの目安となる。ダイオキシン類の生成抑制という点からは、160℃より低温の方が有利といえるが、配管等の腐食の危険性が増えることから、前記温度範囲の下限を160℃程度とすることが妥当である。但し、脱硝装置10の触媒に必要な温度である230〜250℃付近まで排ガスを再加熱する必要から高めの温度を選択することと、図3、図5、図6においてPCDDs、PCDFsのいずれも急激な増加を生じない温度の条件を考慮すると、集塵装置7入口の排ガスの温度を170℃に設定することが最も好ましいことが判明した。
【0047】
ここで、集塵装置7入口の温度を安定して制御するには、集塵装置7の上流側における二次燃焼室3、ガス冷却室5の運転状態を安定させることが前提となる。このように、集塵装置7上流側の運転状態を安定させて集塵装置7入口の温度を例えば170℃に精度良く制御することによってPCDD/Fsの生成を効果的に抑制できることから、ダイオキシン類低減化対策の順序として温度制御レべルを向上することが非常に重要であることが判明した。
【0048】
このために、図1では、集塵装置7の入口部に温度計22を設置し、この温度計22の検出温度に基づいて制御器23により前記スプレー装置6の水スプレー量を調節し、これによって集塵装置7入口の温度を例えば常に170℃に正確に維持できるようにしている。
【0049】
図1の装置によれば、前記温度計22にて集塵装置7入口部の排ガス温度を計測し、この温度計22の検出温度が例えば常に170℃に正確に維持されるように制御器23からの指令によって前記スプレー装置6の水スプレー量が調節される。これによって、集塵装置7入口の排ガス温度は常に170℃に正確に保持されるように制御される。
【0050】
次に、実機飛灰(集塵装置7の除去飛灰)を用いて、前記ダイオキシン類(塩素化ダイオキシン類PCDD/Fs)濃度と臭素系ダイオキシン類濃度の分析試験を実施した。前述したように、臭素系ダイオキシン類は光分解しやすいため、ダイオキシン類の分析は光分解を防止する方法を用いて実施した。このため、臭素系ダイオキシン類の計測には、塩素化ダイオキシン類(PCDD/Fs)の分析に比して手数と時間を要した。
【0051】
そして、上記で得られた塩素化ダイオキシン類濃度と臭素系ダイオキシン類濃度の分析値を図7(A)、(B)、(C)、(D)に示すように比較した。図7(A)はM1CDFs(塩素化ダイオキシン類の一種)とM1BDFs(臭素系ダイオキシン類の一種)とを比較した場合を示し、図7(B)はO8CDF(塩素化ダイオキシン類の一種)とM1BH7CDFs(臭素系ダイオキシン類の一種)とを比較した場合を示し、図7(C)はO8CDD(塩素化ダイオキシン類の一種)とM1BH7CDD(臭素系ダイオキシン類の一種)とを比較した場合を示し、図7(D)はO8CDD(塩素化ダイオキシン類の一種)とD2BH6CDDs(臭素系ダイオキシン類の一種)とを比較した場合を示す。
【0052】
図7(A)、(B)、(C)、(D)における塩素化ダイオキシン類濃度と臭素系ダイオキシン類濃度の比較結果から、塩素化ダイオキシン類と臭素系ダイオキシン類の生成は略比例関係の相関性を有するという知見を得た。
【0053】
尚、前記塩素化ダイオキシン類濃度と臭素系ダイオキシン類濃度を分析した試験の精度を確認するための確認試験を実施した。即ち、同一の実機飛灰を用いて、繰り返し分析を実施し、その結果を[表4]に示した。
【0054】
【表4】

【0055】
[表4]から明らかな如く、繰り返し実施した分析結果の各計測値は誤差が小さく安定しており、従って塩素化ダイオキシン類濃度及び臭素系ダイオキシン類濃度は高い精度で測定されたものであり、よって図7(A)、(B)、(C)、(D)に示した塩素化ダイオキシン類濃度と臭素系ダイオキシン類濃度の比較結果は信頼できるものであった。
【0056】
図7(A)、(B)、(C)、(D)における塩素化ダイオキシン類濃度と臭素系ダイオキシン類濃度の比較から、塩素化ダイオキシン類と臭素系ダイオキシン類の生成は略比例関係の相関性を有するという知見を得たので、前記したように手数と時間を要する臭素系ダイオキシン類の計測をその都度行うことなしに、比較的計測が容易な塩素化ダイオキシン類を指標として臭素系ダイオキシン類の生成量を予測することができる。
【0057】
更に、図3に示したようにPCDD/Fsの生成量は排ガスの温度の上昇とともに増加すること、及び、PCDD/Fsの生成量と増加割合は温度が180℃付近までは小さいが約180℃を過ぎると急激な増加傾向を示すという排ガス温度とPCDD/Fsの生成との関係が得られており、更に、図7(A)、(B)、(C)、(D)によって塩素化ダイオキシン類と臭素系ダイオキシン類の生成の相関性が得られたので、集塵装置7入口の排ガス温度を160℃〜180℃、好ましは170℃に制御して前記PCDD/Fsを低減することによって臭素系ダイオキシン類を同時に低減できることを得た。
【0058】
尚、ここでは、集塵装置7入口の排ガス温度を160℃〜180℃、好ましは170℃に制御することによって塩素化ダイオキシン類と同時に臭素系ダイオキシン類を低減する場合について説明したが、前記図7(A)、(B)、(C)、(D)から塩素化ダイオキシン類と臭素系ダイオキシン類との生成の相関性を得ることができたので、従来から知られている他のダイオキシン類の低減化方法においても塩素化ダイオキシン類を指標として臭素系ダイオキシン類の生成を同時に低減化することができる。
【0059】
前記した如く、飛灰の試料を200℃以下の低温度域で加熱した試験による図3、図5、図6の結果から、ダイオキシン類(コプラナPCBを含む)の生成を低減するには集塵装置7入口の排ガス温度を約160℃〜180℃の範囲に保持することが目安となることを得たので、集塵装置7入口の排ガス温度を160℃〜180℃の範囲で制御することによって、ダイオキシン類(コプラナPCBを含む)の生成を効果的に低減することができる。
【0060】
更に、図3、図5、図6においてPCDDs、PCDFsのいずれも急激な増加を生じない温度を選定すること、及び、脱硝装置10での触媒に必要な温度である230〜250℃付近まで排ガスを再加熱する際の加熱温度幅を小さくするために高めの温度を選定することから、集塵装置7入口の排ガスの温度は170℃とすることが最も好適であることが得られたので、集塵装置7入口の排ガス温度を170℃に制御することによって、ダイオキシン類(塩素化ダイオキシン類PCDD/Fs)の生成を効果的に低減することができ、同時に脱硝装置10のために排ガスを再加熱するのに要するエネルギロスを極力抑えることができる。
【0061】
更に、図7(A)、(B)、(C)、(D)の比較結果から、飛灰中の塩素化ダイオキシン類と臭素系ダイオキシン類の生成が略比例関係をもつという相関性が得られたので、時間と手数がかかる臭素系ダイオキシン類濃度の計測をその都度行うことなしに、塩素化ダイオキシン類濃度を指標として臭素系ダイオキシン類の生成を推定することが可能になった。
【0062】
更に、上記したように塩素化ダイオキシン類と臭素系ダイオキシン類の生成に相関性があることと、図3に示した如くPCDD/Fsの生成量と増加割合は温度が180℃付近までは小さいが約180℃を過ぎると急激な増加傾向を示すという排ガス温度とPCDD/Fsの生成との関係を得たので、集塵装置7入口の排ガス温度を160℃〜180℃、好ましは170℃に制御して塩素化ダイオキシン類の生成を低減することにより、同時に臭素系ダイオキシン類の生成も効果的に低減することができる。
【0063】
なお、本発明のダイオキシン類及び臭素系ダイオキシン類の低減化方法は、上記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明のダイオキシン類及び臭素化ダイオキシン類の低減化方法を実施する装置の一例を示す概念図である。
【図2】試料を封印した試験用のアンプルの説明図である。
【図3】モデル飛灰MFAの場合のPCDD/Fs生成量と反応温度との関係を示す線図である。
【図4】(A)はPCDDs生成量と反応時間との関係を示す線図、(B)はPCDFs生成量と反応時間との関係を示す線図である。
【図5】飛灰+すすの場合のPCDD/Fs生成量と反応温度との関係を示す線図である。
【図6】飛灰+テレフタル酸の場合のPCDD/Fs生成量と反応温度との関係を示す線図である。
【図7】(A)、(B)、(C)、(D)は塩素化ダイオキシン類と臭素系ダイオキシン類の分析値を比較して示したグラフである。
【符号の説明】
【0065】
1 廃棄物流動床焼却炉
5 ガス冷却室
6 スプレー装置
7 集塵装置
22 温度計
23 制御器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排ガスを急冷することによりダイオキシン類の生成を抑制し集塵装置で排ガス中のダイオキシン類を含む飛灰を除去するようにしているダイオキシン類の低減化方法であって、前記集塵装置入口の排ガス温度を160℃〜180℃に保持することを特徴とするダイオキシン類の低減化方法。
【請求項2】
前記集塵装置入口の排ガス温度を170℃に制御することを特徴とする請求項1記載のダイオキシン類の低減化方法。
【請求項3】
飛灰中の塩素化ダイオキシン類濃度と臭素系ダイオキシン類濃度を計測して得た相関性に基づき、請求項1又は2に記載の集塵装置入口の排ガス温度を維持することにより塩素化ダイオキシン類を指標として臭素系ダイオキシン類を同時に低減することを特徴とする臭素系ダイオキシン類の低減化方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2006−51433(P2006−51433A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−234448(P2004−234448)
【出願日】平成16年8月11日(2004.8.11)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年2月12日 岡山大学大学院自然科学研究科教授 田中勝主催の「岡山大学大学院自然科学研究科博士後期課程学位論文発表会」において文書をもって発表
【出願人】(000000099)石川島播磨重工業株式会社 (5,014)