説明

ダイクッション装置とその制御方法

【課題】クッション作動時の損失が少なく、かつ制動動力の回生ができ、クッション作動時に衝撃力を受ける機構部分がなく耐久性が高く、クッション作動に必要な動力を大幅に低減することができるダイクッション装置とその制御方法を提供する。
【解決手段】クッションパッド2を上下動させる電動昇降装置12と、クッションパッドに上向きのクッション力を付加する油圧シリンダ14と、油圧シリンダに作動油を供給又は排出する油圧制御装置20と、電動昇降装置及び油圧制御装置を制御するクッション制御装置30とを備え、電動昇降装置12によりクッションパッド2を位置決めし、油圧シリンダ14と油圧制御装置20によりクッション力の制御と回生を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレス機械のダイクッション装置とその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プレス機械では、スライドを機械的に昇降し、スライドの下降時にスライドの下面に固定された上金型と、スライドの下方に配置された下金型との間に被加工物(ワーク)を挟み込んでプレス加工を行う。
ダイクッション装置は、プレス機械においてプレス加工時にワークにしわ押さえ力(クッション力)を付加する装置である。
【0003】
従来から、プレス機械のダイクッション装置として、種々の方式のものが提案されている(例えば、特許文献1〜4)。
特許文献1は、油圧式であり、油圧シリンダと油圧サーボ弁により、油圧のみでクッション作用を行うものである。
特許文献2は、電動式であり、サーボモータでクッション駆動機構を作動させ、クッション作用を行うものである。
特許文献3は、油圧+電動式であり、油圧シリンダと油圧ポンプ+電動機の組み合わせにより、クッション作用を行うものである。
特許文献4は、リニアモータ式であり、リニアモータにより、クッション作用を行うものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−24600号公報、「プレスの油圧ダイクッション装置」
【特許文献2】特許第3241803号公報、「プレスのNCサーボダイクッション装置」
【特許文献3】特開2006−315074号公報、「プレス機械のダイクッション装置」
【特許文献4】特開2006−272456号公報、「ダイクッション装置」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、従来のプレス機械のダイクッション装置は、(1)油圧式、(2)電動式、(3)油圧+電動式、(4)リニアモータ式に大別することができる。
【0006】
油圧式のダイクッション装置は、クッション速度及びクッション力の制御を油圧サーボ弁によるため、油圧サーボ弁の絞りによる損失が大きく、無駄なエネルギを消費する問題点があった。
【0007】
また、電動式のダイクッション装置は、クッション駆動機構にスライド接触時に衝撃力が発生するため、機構部分の強度及び耐久性の確保が困難であり、かつサーボモータの必要出力が、発生クッション力×スライド速度で決まるため、大出力のサーボモータが必要となる問題点があった。
ここで、「スライド接触時」とは、上金型が下降し下金型と上金型との間で被加工材(ワーク)のプレス成形を開始した瞬間をいう。
【0008】
また、油圧+電動式のダイクッション装置は、クッション動作の制御が油圧ポンプを駆動する電動機の回転制御で行われるため、電動機の所要トルクとして油圧ポンプと電動機の回転慣性を加速するためのモータトルクが必要となる。このため、クッション力の制御追従性を確保するためには、クッション力(圧力)に相当するモータトルクに加えて、油圧ポンプ+電動機の回転慣性を加減速するためのモータトルクが必要であり、大出力の電動機が必要となる問題点があった。
【0009】
また、リニアモータ式のダイクッション装置は、クッション力を発生させるのがリニアモータであり、クッション力に見合ったリニアモータ推力が必要であり、大出力のリニアモータが必要となる問題点があった。
【0010】
本発明は、上述した問題点を解決するために創案されたものである。すなわち、本発明の目的は、クッション作動時の損失が少なく、かつ制動動力の回生ができ、クッション作動時に衝撃力を受ける機構部分がなく耐久性が高く、クッション作動に必要な動力を大幅に低減することができるダイクッション装置とその制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、上金型と下金型の間でワークを加圧してプレス成形するプレス機械のダイクッション装置であって、
前記下金型を支持するクッションパッドを上下動させる電動昇降装置と、
前記クッションパッドに上向きのクッション力を付加する油圧シリンダと、
該油圧シリンダに作動油を供給又は排出する油圧制御装置と、
前記電動昇降装置及び油圧制御装置を制御するクッション制御装置とを備え、
前記電動昇降装置によりクッションパッドを位置決めし、前記油圧シリンダと油圧制御装置によりクッション力の制御と回生を行う、ことを特徴とするダイクッション装置が提供される。
【0012】
本発明の好ましい実施形態によれば、前記油圧制御装置は、油圧シリンダのピストン側と連通する油圧アキュムレータと、
前記油圧シリンダと油圧アキュムレータの間に設置され、油圧シリンダから油圧アキュムレータに流れる作動油の流量を可変制御可能な可変容量ポンプと、
該可変容量ポンプを所定の回転速度で回転駆動するモータジェネレータと、
前記可変容量ポンプをバイパスして油圧シリンダに作動油を流すパイロット制御可能なパイロット逆止弁と、
前記油圧アキュムレータを最低圧力以上に予圧する予圧補給回路と、を備え、
前記クッション制御装置は、クッション作動時に、可変容量ポンプの流量制御によりクッション力を制御し、同時にモータジェネレータからエネルギを回生する。
【0013】
また、クッション作動時に、油圧シリンダから過渡的な高圧作動油を放出する可変流量制御弁を備える。
【0014】
さらに、前記可変流量制御弁を介して油圧シリンダに高圧作動油を補給する高圧補給回路を備える、ことが好ましい。
【0015】
また本発明によれば、上金型と下金型の間でワークを加圧してプレス成形するプレス機械のダイクッション制御方法であって、
前記下金型を支持するクッションパッドを上下動させる電動昇降装置と、
前記クッションパッドに上向きのクッション力を付加する油圧シリンダと、
該油圧シリンダに作動油を供給又は排出する油圧制御装置と、
前記電動昇降装置及び油圧制御装置を制御するクッション制御装置とを備え、
前記電動昇降装置によりクッションパッドを位置決めし、前記油圧シリンダと油圧制御装置によりクッション力の制御と回生を行う、ことを特徴とするダイクッション制御方法が提供される。
【0016】
本発明の好ましい実施形態によれば、前記油圧制御装置は、油圧シリンダのピストン側と連通する油圧アキュムレータと、
前記油圧シリンダと油圧アキュムレータの間に設置され、油圧シリンダから油圧アキュムレータに流れる作動油の流量を可変制御可能な可変容量ポンプと、
該可変容量ポンプを所定の回転速度で回転駆動するモータジェネレータと、
前記可変容量ポンプをバイパスして油圧アキュムレータから油圧シリンダに作動油を流すパイロット制御可能なパイロット逆止弁と、を備え、
(A)クッションパッドの位置決め停止時に、可変容量ポンプの作動油流量をゼロにし、パイロット逆止弁を介して油圧シリンダと油圧アキュムレータを両方向に連通させ、電動昇降装置によりクッションパッドを上下動させて位置決めし、
(B)クッション作動時に、電動昇降装置が自由に上下動できる状態で、可変容量ポンプの流量制御によりクッション力を制御し、同時にモータジェネレータからエネルギを回生し、
(C)クッションパッドの上昇時に、可変容量ポンプの作動油流量をゼロにし、電動昇降装置によりクッションパッドを上昇させ、同時にパイロット逆止弁を介して油圧アキュムレータから油圧シリンダに作動油を流す。
【発明の効果】
【0017】
上記本発明の装置及び方法によれば、電動昇降装置、油圧シリンダ、油圧制御装置及びクッション制御装置を備え、電動昇降装置によりクッションパッドを位置決めするので、クッションパッドを高精度に位置決めすることができる。
また、油圧シリンダと油圧制御装置によりクッション力の制御と回生を行うので、クッション作動時の損失が少なく、かつ制動動力の回生ができる。また、クッション作動時に衝撃力を受ける機構部分がないため耐久性が高く、かつ油圧制御装置における圧力損失が少ないので、クッション作動に必要な動力を大幅に低減することができる。
【0018】
特に、油圧制御装置が、油圧アキュムレータ、可変制御可能な可変容量ポンプ、モータジェネレータ、及びパイロット制御可能なパイロット逆止弁を備える構成により、クッションパッドの位置決め停止時に、可変容量ポンプの作動油流量をゼロにし、パイロット逆止弁を介して油圧シリンダと油圧アキュムレータを両方向に連通させ、電動昇降装置によりクッションパッドを上下動させて位置決めすることにより、油圧シリンダの圧力をクッション自重に相当する圧力(P)に設定して、油圧シリンダをカウンタバランスとして機能させ、電動昇降装置による必要動力を低減することができる。
【0019】
また、クッション作動時に、電動昇降装置が自由に上下動できる状態で、可変容量ポンプの流量制御によりクッション力を制御し、同時にモータジェネレータからエネルギを回生することにより、クッション力の制御と回生を行うことができる。
【0020】
さらに、クッションパッドの上昇時に、可変容量ポンプの作動油流量をゼロにし、電動昇降装置によりクッションパッドを上昇させ、同時にパイロット逆止弁を介して油圧アキュムレータから油圧シリンダに作動油を流すことにより、油圧シリンダの圧力をクッション自重に相当する圧力(P)より高い圧力PからPまで変化させて、電動昇降装置による必要動力を補うことができる。

【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】ダイクッション装置のクッション動作を示す図である。
【図2】本発明によるダイクッション装置の第1実施形態図である。
【図3】本発明によるダイクッション方法の説明図である。
【図4】本発明によるダイクッション装置の第2実施形態図である。
【図5】本発明によるダイクッション装置の第3実施形態図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の好ましい実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0023】
図1は、ダイクッション装置のクッション動作を示す図である。この図に示すように、ダイクッション装置の動作は、位置決め停止状態(A)、クッション時(B)、クッション上昇時(C)の3態様に区分できる。
位置決め停止状態(A)は、スライドの上死点から、上金型が下降し下金型と上金型との間で被加工材(ワーク)のプレス成形を開始する「スライド接触時」までの状態である。
また、クッション時(B)は、スライド接触時から下死点までの状態である。
さらに、クッション上昇時(C)は、下死点からロッキングを経て上死点までの状態である。
【0024】
図1の例では、スライドが下死点通過後、ダイクッションをロッキング(停止)した状態で、ワーク取出装置によりワークの取出しが行われる。ダイクッションは、ワーク取出装置がダイクッション装置から十分に離れてから、ロッキングを終了して上昇を開始する。
【0025】
図2は、本発明によるダイクッション装置の第1実施形態図である。
プレス装置1は、クッションパッド2の上面にクッションピン3を介して支持された下金型4に対し、上下動するスライド5の下面に固定された上金型6を下降させ、下金型4と上金型6との間で被加工材(ワーク)7を加圧して所定の形状にプレス成形するようになっている。
【0026】
図2において、本発明のダイクッション装置10は、上金型6及び下金型4によりワーク7をプレス成形する際に、クッションパッド2又はクッションピン3により、上金型6との間でワーク下面の周縁部を支持してワーク7のしわ押さえを行う。
すなわち、本発明のダイクッション装置10は、プレス機械の上金型6とクッションパッド2又はクッションピン3の間にワーク7を挟み、クッションパッド2に上向きのクッション力を付加しながらこれを上下動させるようになっている。
【0027】
図2において、本発明のダイクッション装置10は、電動昇降装置12、油圧シリンダ14、油圧制御装置20及びクッション制御装置30を備える。
【0028】
電動昇降装置12は、クッションパッド2を上下動させる。電動昇降装置12は、例えばボールネジ12aとサーボモータ12bからなり、サーボモータ12bによりボールネジ12aを回転駆動して、クッションパッド2を上下動させ、かつサーボモータ12bのサーボオフ又はトルク制御により、クッションパッド2の上下動に追従して低損失で空転できるようになっている。
なお、電動昇降装置12はこの構成に限定されず、クッションパッド2を上下動でき、かつクッションパッド2の上下動に追従して低損失で空転できる限りで他の構成、例えばラック、ピニオン、サーボモータの組み合わせでもよい。
【0029】
油圧シリンダ14は、クッションパッド2を上下動するピストンロッド13を有し、クッションパッド2に上向きのクッション力を付加する。
この例で、油圧シリンダ14は、上向きかつ鉛直に配置され、ピストンロッド13の先端(上端)にクッションパッド2が固定され一体的に昇降するようになっている。
【0030】
また図2において、油圧シリンダ14のピストン側(下側)には圧力計15が設けられ、油圧シリンダ14の下室圧を検出する。この検出値はクッション制御装置30に入力される。
さらに、油圧シリンダ14のシリンダ位置を検出する位置検出器8が設けられ、その検出値はクッション制御装置30に入力される。位置検出器8はこの例では、クッションパッド2の位置を検出するように配置されているが、シリンダ位置を直接検出してもよい。また、本発明において、位置検出器8は必須ではなく、これを省略することができる。
【0031】
油圧制御装置20は、油圧シリンダ14のピストン側に作動油を供給又は排出する。
この例において、油圧制御装置20は、油圧アキュムレータ21、可変容量ポンプ22、モータジェネレータ23、パイロット制御可能なパイロット逆止弁24、及び予圧補給回路25を備える。
【0032】
油圧アキュムレータ21は、油圧シリンダ14のピストン側と油圧配管26a,26bを介して連通し、油圧シリンダ14のピストン側最低圧力をクッション自重に相当する圧力(P)に保持するようになっている。すなわち、油圧アキュムレータ21の最低圧は、クッション自重に相当する圧力(P)である。
【0033】
可変容量ポンプ22は、油圧シリンダ14と油圧アキュムレータ21の間(この例では油圧配管26a,26bの間)に設置され、油圧シリンダ14から油圧アキュムレータ21に流れる作動油の流量を可変制御可能になっている。可変容量ポンプ22は、例えば斜板式又は斜軸式の油圧ポンプである。
【0034】
モータジェネレータ23は、可変容量ポンプ22を所定の回転速度(例えば一定速度)で回転駆動する電動機の機能と、可変容量ポンプ22が作動油の液圧により駆動される際に発電する発電機の機能とを有する。
【0035】
パイロット逆止弁24は、パイロット圧がない時は、通常の逆止弁24として機能し、可変容量ポンプ22をバイパスして油圧アキュムレータ21から油圧シリンダ14に作動油を低圧損で一方向のみに流す。また、パイロット圧がある時は、油圧シリンダ14と油圧アキュムレータ21を両方向に低圧損で連通させるようになっている。
【0036】
予圧補給回路25は、低圧源25aと2つ逆止弁25bからなり、油圧アキュムレータ21の圧力が所定の最低圧(例えば、クッション自重に相当する圧力P)を下回ったときに、逆止弁25bを通して所定圧(例えばP)の作動油を油圧アキュムレータ21に供給するようになっている。
【0037】
クッション制御装置30は、電動昇降装置12及び油圧制御装置20を制御する。
すなわち、この例において、クッション制御装置30は、電動昇降装置12によりクッションパッド2を位置決めし、油圧シリンダ14と油圧制御装置20によりクッション力の制御と回生を行い、クッション作動時に、可変容量ポンプ22の流量制御によりクッション力を制御し、同時にモータジェネレータ23からエネルギを回生する。
【0038】
図3は、本発明によるダイクッション方法の説明図である。この図において、(A)は位置決め停止状態、(B)はクッション時、(C)はクッション上昇時である。
本発明のダイクッション方法では、電動昇降装置12によりクッションパッド2を位置決めし、油圧シリンダ14と油圧制御装置20によりクッション力の制御と回生を行う。
【0039】
図3(A)において、太い破線の矢印は、位置決め停止状態(A)における作動油の流れを示している。この図に示すように、本発明の方法では、クッションパッド2の位置決め停止時(A)に、可変容量ポンプ22の作動油流量をゼロにし、パイロット逆止弁24を開いてこれを介して油圧シリンダ14と油圧アキュムレータ21を両方向に連通させ、電動昇降装置12によりクッションパッド2を上下動させて位置決めする。
【0040】
すなわち、位置決め停止状態(A)では、電動昇降装置12による位置決め制御動作をサーボモータ12bの駆動で行う。この状態において、可変容量ポンプ22の流量はゼロであり、可変容量ポンプ22を駆動しているモータジェネレータ23は、無負荷で空回りしている状態となる。
また油圧シリンダ14は、クッション自重に相当する圧力(P)の発生により、カウンタバランスとして機能する。
なお、油圧シリンダ14の上昇/下降に応じて,アキュムレータ21への油の流出入が発生して、クッション自重とシリンダ推力の均衡は崩れるが、ある程度のアキュムレータ容積を確保することにより、その差は小さな範囲内に保たれる。
【0041】
図3(B)において、太い破線の矢印は、クッション作動時(B)における作動油の流れを示している。この図に示すように、本発明の方法では、クッション作動時(B)に、電動昇降装置12が自由に上下動できる状態で、可変容量ポンプ22の流量制御によりクッション力を制御し、同時にモータジェネレータ23からエネルギを回生する。
【0042】
すなわち、電動昇降装置12のサーボモータ12bは、サーボオフまたはトルク制御を行うことにより、スライドモーションの動作に倣って下降する。また油圧シリンダ14からの圧油は、可変容量ポンプ22を経由して、アキュムレータ21に補充される。
可変容量ポンプ22の可変容量制御により、クッション力(シリンダ圧力)の制御を行う。すなわち、可変容量ポンプ22の容量減により、油圧シリンダの圧力が上昇し、可変容量ポンプ22の容量増により油圧シリンダの圧力が低下するので、可変容量ポンプ22の流量制御によりクッション力を制御することができる。
可変容量ポンプ22を駆動するモータジェネレータ23は,発電制動の状態で駆動されて、発電機として動作する。発電された電力は,スライド5を駆動する電動機、その他の動力消費要素への供給動力として利用される
また、クッション可動部の慣性の影響により,スライド接触時に過大なクッション力が発生する場合には、電動昇降装置12による予備加速を行っても良い
【0043】
図3(C)において、太い破線の矢印は、クッション上昇時(C)における作動油の流れを示している。この図に示すように、本発明の方法では、クッションパッド2の上昇時(C)に、可変容量ポンプ22の作動油流量をゼロにし、電動昇降装置12によりクッションパッド2を上昇させ、同時にパイロット逆止弁24を介して油圧アキュムレータ21から油圧シリンダ14に作動油を流す。
【0044】
すなわち、電動昇降装置12の動作制御により,クッション上昇動作の制御を行う。
クッション力制御時にアキュムレータ21に補充された油圧を利用して、油圧シリンダ14に圧油を供給する事により、油圧シリンダ14を、クッション重量を支えるカウンタバランスとして作動させる。
可変容量ポンプ22の流量はゼロであり、可変容量ポンプ22を駆動しているモータジェネレータ23は、無負荷で空回りしている状態である。
アキュムレータ21に蓄圧された圧油の放出に伴い、クッション自重とシリンダ推力の均衡は変化するが,ある程度のアキュムレータ容積を確保することにより,その差は小さな範囲内に保たれる
油圧回路各部からのリーク分の油量は、予圧補給回路から補充される。
【0045】
上述した本発明の装置及び方法によれば、電動昇降装置12、油圧シリンダ14、油圧制御装置20及びクッション制御装置30を備え、電動昇降装置12によりクッションパッド2を位置決めするので、クッションパッド2を高精度に位置決めすることができる。
また、油圧シリンダ14と油圧制御装置20によりクッション力の制御と回生を行うので、クッション作動時の損失が少なく、かつ制動動力の回生ができる。また、クッション作動時に衝撃力を受ける機構部分がないため耐久性が高く、かつ油圧制御装置20における圧力損失が少ないので、クッション作動に必要な動力を大幅に低減することができる。
【0046】
すなわち、本発明では、電動昇降装置12と油圧シリンダ14+油圧制御装置20によるクッション駆動方式とする事により,従来からの各種方式における課題を解決して,それぞれの方式の利点を活かしたクッションが実現可能となる。
【0047】
従来の油圧式に対して、本発明では、油圧サーボ弁による制御によらず、油圧回路での圧力損失が発生しないので、無駄な動力を消費しない。また、クッション力制御時の制動動力を、動力回生の機能により他の動作に利用する事が可能であり、高効率なシステムが実現可能である。さらに、油圧回路方式の違い、すなわち、油圧制御装置20に閉回路構成を採用したので、損失動力の低減、動力回生の実施に伴って、装置(油圧タンクの大きさ,油冷却装置,など)の小型化が可能となる。
【0048】
従来の電動式に対して、本発明では、クッション力は油圧シリンダ14で受けるので、電動昇降装置12の駆動機構に発生する衝撃力を避けることができる。また、電動昇降装置12のサーボモータ12bのサイズは,可動部質量の昇降動作に必要な動力から決定され、クッション力制御時の動作は考慮する必要がない(クッション力制御に電動駆動軸は作用しない,クッション力発生は油圧シリンダ回路による)。このため,電動式で必要となるほどの大出力のサーボモータは不要で,比較的に小出力のサーボモータで良い。
【0049】
従来の油圧+電動式に対して、本発明では、モータジェネレータ23は同期速度による定速回転動作であり、モータジェネレータ23の可変速制御は行わない。このため,可変容量ポンプ22とモータジェネレータ23の回転慣性の加減速動作に必要なトルク発生が不要で、モータジェネレータ23を小さくできる。また、モータジェネレータ23は、汎用の誘導電動機で良く、サーボモータである必要はない。さらに、可変容量ポンプ22の流量調整は、可変容量ポンプ22の可変容量機構によるため、電動機回転制御に比べて、より小さな制御操作量で済む。
【0050】
図4は、本発明によるダイクッション装置の第2実施形態図であり、図5は、本発明によるダイクッション装置の第3実施形態図である。
図4において、本発明のダイクッション装置10は、さらに、クッション作動時に、油圧シリンダ14から過渡的な高圧作動油を放出する可変流量制御弁32Aを備える。この例で可変流量制御弁32Aは、開閉及び流量制御可能なサーボ弁である。
その他の構成は、第1実施形態と同様である。
【0051】
図5において、本発明のダイクッション装置10は、さらに、可変流量制御弁32Bを介して油圧シリンダ14に高圧作動油を補給する高圧補給回路34を備える。この例で可変流量制御弁32Bは、開閉、流量制御、及び方向制御可能なサーボ弁である。
その他の構成は、第1実施形態と同様である。
【0052】
上述した第2、第3の実施形態のように、可変流量制御弁32A、32Bを併用する事により,クッション力制御の追従性を向上可能である。
すなわち、クッション力制御時には、可変容量ポンプ22の可変容量機構の操作によって、クッション力がコントロールされるが,一般的な可変容量ポンプ22の可変容量機構の応答は、スライドモーションにより発生する挙動に対して、十分に高速であるとは限らない。
このため、スライド接触直後の応答など、過渡的な動作への追従が必要とされる場合には、高速応答が可能な可変流量制御弁32A、32Bを併用することが好ましい。
可変容量ポンプ22の応答でコントロールできない流量分を、可変流量制御弁32A、32Bにより放出/供給することにより、クッション力制御の応答性を向上させることが可能となる。
なお、可変流量制御弁32A、32Bでコントロールする油量は可変容量ポンプ22でコントロールされる油量に対して充分に小さくて良いので,油圧回路での損失を低く維持することができる。
【0053】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されず、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味及び範囲内でのすべての変更を含むものである。
【符号の説明】
【0054】
1 プレス装置、2 クッションパッド、3 クッションピン、
4 下金型、5 スライド、6 上金型、
7 被加工材(ワーク)、8 位置検出器、
10 ダイクッション装置、12 電動昇降装置、
12a ボールネジ、12b サーボモータ、
13 ピストンロッド、14 油圧シリンダ、
20 油圧制御装置、21 油圧アキュムレータ、
22 可変容量ポンプ、23 モータジェネレータ、
24 パイロット逆止弁、25 予圧補給回路、
25a 低圧源、25b 逆止弁、
26a、26b 油圧配管、
30 クッション制御装置、
32A、32B 可変流量制御弁、
34 高圧補給回路


【特許請求の範囲】
【請求項1】
上金型と下金型の間でワークを加圧してプレス成形するプレス機械のダイクッション装置であって、
前記下金型を支持するクッションパッドを上下動させる電動昇降装置と、
前記クッションパッドに上向きのクッション力を付加する油圧シリンダと、
該油圧シリンダに作動油を供給又は排出する油圧制御装置と、
前記電動昇降装置及び油圧制御装置を制御するクッション制御装置とを備え、
前記電動昇降装置によりクッションパッドを位置決めし、前記油圧シリンダと油圧制御装置によりクッション力の制御と回生を行う、ことを特徴とするプレス機械のダイクッション装置。
【請求項2】
前記油圧制御装置は、油圧シリンダのピストン側と連通する油圧アキュムレータと、
前記油圧シリンダと油圧アキュムレータの間に設置され、油圧シリンダから油圧アキュムレータに流れる作動油の流量を可変制御可能な可変容量ポンプと、
該可変容量ポンプを所定の回転速度で回転駆動するモータジェネレータと、
前記可変容量ポンプをバイパスして油圧シリンダに作動油を流すパイロット制御可能なパイロット逆止弁と、
前記油圧アキュムレータを最低圧力以上に予圧する予圧補給回路と、を備え、
前記クッション制御装置は、クッション作動時に、可変容量ポンプの流量制御によりクッション力を制御し、同時にモータジェネレータからエネルギを回生する、ことを特徴とする請求項1に記載のダイクッション装置。
【請求項3】
クッション作動時に、油圧シリンダから過渡的な高圧作動油を放出する可変流量制御弁を備える、ことを特徴とする請求項2に記載のダイクッション装置。
【請求項4】
さらに、前記可変流量制御弁を介して油圧シリンダに高圧作動油を補給する高圧補給回路を備える、ことを特徴とする請求項3に記載のダイクッション装置。
【請求項5】
上金型と下金型の間でワークを加圧してプレス成形するプレス機械のダイクッション制御方法であって、
前記下金型を支持するクッションパッドを上下動させる電動昇降装置と、
前記クッションパッドに上向きのクッション力を付加する油圧シリンダと、
該油圧シリンダに作動油を供給又は排出する油圧制御装置と、
前記電動昇降装置及び油圧制御装置を制御するクッション制御装置とを備え、
前記電動昇降装置によりクッションパッドを位置決めし、前記油圧シリンダと油圧制御装置によりクッション力の制御と回生を行う、ことを特徴とするプレス機械のダイクッション制御方法。
【請求項6】
前記油圧制御装置は、油圧シリンダのピストン側と連通する油圧アキュムレータと、
前記油圧シリンダと油圧アキュムレータの間に設置され、油圧シリンダから油圧アキュムレータに流れる作動油の流量を可変制御可能な可変容量ポンプと、
該可変容量ポンプを所定の回転速度で回転駆動するモータジェネレータと、
前記可変容量ポンプをバイパスして油圧アキュムレータから油圧シリンダに作動油を流すパイロット制御可能なパイロット逆止弁と、を備え、
(A)クッションパッドの位置決め停止時に、可変容量ポンプの作動油流量をゼロにし、パイロット逆止弁を介して油圧シリンダと油圧アキュムレータを両方向に連通させ、電動昇降装置によりクッションパッドを上下動させて位置決めし、
(B)クッション作動時に、電動昇降装置が自由に上下動できる状態で、可変容量ポンプの流量制御によりクッション力を制御し、同時にモータジェネレータからエネルギを回生し、
(C)クッションパッドの上昇時に、可変容量ポンプの作動油流量をゼロにし、電動昇降装置によりクッションパッドを上昇させ、同時にパイロット逆止弁を介して油圧アキュムレータから油圧シリンダに作動油を流す、ことを特徴とする請求項6に記載のダイクッション制御方法。






【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−143781(P2012−143781A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−3556(P2011−3556)
【出願日】平成23年1月12日(2011.1.12)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)