説明

ダイヤモンド圧子およびその製造方法

【課題】測定値のばらつきを抑えることができる、ダイヤモンド圧子を提供する。
【解決手段】ダイヤモンド圧子1は、試験材料に当接する先端部材10を備え、その先端部材10が合成単結晶ダイヤモンドからなる。先端部材10を保持する保持部材20をさらに備え、先端部材の底部には平面13が形成されており、底部は保持部材20内で先端部材10のうち最も深い部分に位置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイヤモンド圧子およびその製造方法に関し、より特定的には、各種の硬さ試験機に用いられるダイヤモンド圧子およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
硬さ試験機に用いられるダイヤモンド圧子としては、ロックウエル硬さ試験機用圧子、ビッカース硬さ試験機用圧子およびヌープ硬さ試験機用圧子が知られている。
【0003】
ロックウエル硬さは、ダイヤモンド圧子が試験材料に侵入した深さによって識別する。ダイヤモンド圧子を基準荷重によって試験材料に侵入させ、その侵入位置を起点として基準荷重より重い試験荷重を加え、その後、基準荷重に戻す。試験材料は弾性回復し、圧痕の永久侵入深さが硬さの識別値として硬さ試験機に表示される。基準荷重を最初に加えることにより、試験材料の凹凸などがある程度は無視できるので、簡易な硬さ試験機としてよく用いられている。
【0004】
ロックウエル硬さ試験に用いられるダイヤモンド圧子の形状は、先端部の角度が120°、半径Rが0.2mmとなっている。JIS B 7723 ではダイヤモンド圧子の基準が定められている。その主な基準は以下の通りである。
【0005】
(1)先端より中心軸方向に0.3mmの範囲が研磨されていて、傷があってはならない。また、円錐部と先端球面部の接線が滑らかに接続していなくてはならない。
【0006】
(2)円錐部の角度は120°± 0.35°とし、円錐部の母線の真直度は0.40mm当たり0.001mmとする。
【0007】
ところが、ダイヤモンドの特性上、円錐形状、球面形状の高精度のダイヤモンド圧子を製造する際には結晶による大きな研磨抵抗、硬さの差が原因で、完全な円錐形状、球面形状のダイヤモンド圧子を製造することは極めて困難である。
【0008】
ビッカース硬さは、ダイヤモンド圧子に荷重を加え、試験材料に出来たくぼみの表面積によって識別する。ダイヤモンド圧子としては、対面角136°の正四角錐形状のダイヤモンド圧子を用いる。
【0009】
JIS B 7725 ではダイヤモンド圧子は以下の基準が定められている。その主な基準は以下の通りである。
【0010】
(1)圧子の試料に接するダイヤモンド部分は、よく研磨された面であって、割れ、傷がなく、稜線が鋭利でなければならない。
【0011】
(2)対面角136°± 0.5° の正四角錐ダイヤモンドとする。
(3)圧子の四角錐の中心部はホルダーの座面に対して90°± 0.5°とする。
【0012】
ヌープ圧子は、対面角130°と170°30′の斜方形ピラミッドの先端形状を持ち、圧痕の長さがビッカースに比較して、7.11対1であり、深さは約1/2である。従って、ヌープ硬さの方が試験材料の表面状態をより鋭敏に表す特徴を有する。
【0013】
従来のこの種のダイヤモンド圧子としては、超硬合金敷き板を埋設したロックウエル硬さ試験機用圧子が知られている。ダイヤモンド圧子を長期間に渡って使用すると、焼結体とダイヤモンドとの微小なゆるみが生じ、測定値に影響を与えるおそれがある。この問題点を解決するために、ダイヤモンドの後端部に超硬合金敷板を接触させた状態で焼結合金に埋設し、ダイヤモンドが受ける荷重を超硬合金敷板全面で受けるようにした発明である(特許文献1)。
【0014】
別の従来のこの種のダイヤモンド圧子としては、導電性を付与したロックウエル圧子が知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開平8−219967号公報
【特許文献2】特開平2−212739号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、従来の天然ダイヤモンドを用いたダイヤモンド圧子では、硬度試験において、測定値である硬さの値がばらつく問題が発生することがあった。
【0017】
そこで、この発明はこのような問題を解決するためになされたものであり、測定値のばらつきを抑制できるダイヤモンド圧子およびその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
この発明に従ったダイヤモンド圧子は、試験材料に当接する先端部材を備え、その先端部材が合成単結晶ダイヤモンドからなる。
【0019】
このように構成されたダイヤモンド圧子では、先端部材に合成単結晶ダイヤモンドを用いているため、品質が安定し、測定値のばらつきを抑えることができる。
【0020】
好ましくは、先端部材を保持する保持部材をさらに備え、先端部材の底部には平面が形成されており、底部は保持部材内で先端部材のうち最も深い部分に位置する。
【0021】
好ましくは、底部に形成された平面と平行な先端部材の断面積は、平面から遠ざかるにつれて小さくなるように形成される。
【0022】
好ましくは、保持部材は焼結合金からなり、その硬さはHRB75以上90以下である。
【0023】
好ましくは、先端部材において合成単結晶ダイヤモンドの(100)面の法線とダイヤモンド圧子の押し込み方向とのなす角度は5°以下である。
【0024】
好ましくは、ビッカース硬さ試験機、ロックウエル硬さ試験機または微小硬さ試験機のいずれか一つに用いられる。
【0025】
この発明に従ったダイヤモンド圧子の製造方法は、円錐台状または角錐台状の合成単結晶ダイヤモンドからなる先端部材を準備する工程と、合成単結晶ダイヤモンドの(100)面の法線とダイヤモンド圧子の押し込み方向とのなす角度が5°以下になるように先端部材を保持部材に埋設する工程とを備える。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】この発明の実施の形態に従ったダイヤモンド圧子の正面図である。
【図2】図1中の矢印IIで示す方向から見たダイヤモンド圧子の平面図である。
【図3】図1中の矢印IIIで示す方向から見たダイヤモンド圧子の底面図である。
【図4】図1で示すダイヤモンド圧子の斜視図である。
【図5】図1中のV−V線に沿った断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、この発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。なお、以下の実施の形態では同一または相当する部分については同一の参照符号を付し、その説明については繰返さない。
【0028】
図1は、この発明の実施の形態に従ったダイヤモンド圧子の正面図である。図2は、図1中の矢印IIで示す方向から見たダイヤモンド圧子の平面図である。図3は、図1中の矢印IIIで示す方向から見たダイヤモンド圧子の底面図である。図4は、図1で示すダイヤモンド圧子の斜視図である。図5は、図1中のV−V線に沿った断面図である。
【0029】
図1から図5を参照して、ダイヤモンド圧子1は、試験材料に当接する先端部材10を備え、その先端部材10が合成単結晶ダイヤモンドからなる。
【0030】
先端部材10を保持する保持部材20をさらに備え、先端部材の底部には平面13が形成されており、底部は保持部材20内で先端部材10のうち最も深い部分に位置する。底部に形成された平面13と平行な先端部材10の断面積は、平面13から遠ざかるにつれて小さくなるように形成される。保持部材20は焼結合金からなり、その硬さはHRB(ロックウエル硬度Bスケール)75以上90以下である。
【0031】
先端部材10において合成単結晶ダイヤモンドの(100)面の法線とダイヤモンド圧子の押し込み方向(矢印2で示す方向)とのなす角度は5°以下である。ダイヤモンド圧子1は、ビッカース硬さ試験機、ロックウエル硬さ試験機または微小硬さ試験機のいずれか一つに用いられる。先端部材10の角度θは、硬さ試験に応じて、さまざまに設定される。
【0032】
ダイヤモンド圧子1の製造方法は、円錐台状または角錐台状の合成単結晶ダイヤモンドからなる先端部材10を準備する工程と、合成単結晶ダイヤモンドの(100)面の法線とダイヤモンド圧子の押し込み方向とのなす角度が5°以下になるように先端部材10を保持部材20に埋設する工程とを備える。
【0033】
先端部材10と、保持部材20との間の境界線12は、平面図においては直線形状であるが、その他の図では曲線形状とされる。先端面11は球面とされている。
【0034】
保持部材20は、ステンレス鋼からなる台金30により支持されている。台金30はシャンク31を有し、シャンク31が硬さ試験機に保持される。
【0035】
ダイヤモンド圧子1では、品質が安定し、内部欠陥の含まれない良質な、人工的に合成された合成単結晶ダイヤモンドからなる先端部材10を用いる。これにより、各種の硬さ試験機に用いても硬さの測定値のバラツキが少なく、安定した性能を長期間に渡って発揮するダイヤモンド圧子1を得ることができる。
【0036】
合成単結晶ダイヤモンドの底部には平面13が形成されているので、ダイヤモンド圧子を試験材料に押し込むときの荷重を底面全体で受け、荷重を分散することができるので、ダイヤモンドが保持部材の弾性変形により、保持部材の中で微小にズレるのを防止できる。その結果、硬さの測定値にバラツキがなく、安定した測定値を得ることができる。
【0037】
ダイヤモンド圧子1では、底部に形成された平面13と平行な断面の面積は、底部に形成された平面13から遠ざかるにつれて小さくなるように形成された合成単結晶ダイヤモンドを用いているので、保持部材20により強固に保持されるだけでなく、保持部材20から抜け落ちることを防止する。従って、合成単結晶ダイヤモンドは、円錐台状、四角錐台状、三角錐台状などの形態であることが好ましい。
【0038】
図5で示す平面13の幅W1は、平面13の上側の面の幅W2よりも大きい。そのため、先端部材10の幅は、平面13から離れるにつれて小さくなるように構成されている。
【0039】
ダイヤモンド圧子1では、保持部材20は、焼結合金でロックウエル硬さはHRB75〜HRB90であることが好ましい。より好ましくはHRB80〜HRB90である。
【0040】
ダイヤモンド圧子1では、合成単結晶ダイヤモンドの(100)面は、ダイヤモンド圧子の押し込み方向にほぼ垂直((100)面の法線と押し込み方向とのなす角度が5°以下)に保持部材20に埋設されているので、結晶の異方性による研磨の困難さがなく、ダイヤモンド圧子の先端面11を高精度な球面に研磨加工できる。
【0041】
ダイヤモンド圧子1は、ビッカース硬さ試験機、ロックウエル硬さ試験機または微小硬さ試験機に適用することができる。いうまでもなく、ダイヤモンド圧子を用いる他の硬さ試験機にも適用することができる。
【0042】
(実施例1)
以下のような本発明の実施例1のダイヤモンド圧子を製作して、本発明の効果を実験により確認した。
【0043】
上下面が(100)面からなる板状の合成単結晶ダイヤモンド(厚み1.5mm)をレーザー切断機を用いて、円錐台状に切り出しを行った。円錐台の形状は上面が直径1.5mm、下面が直径1.6mm、高さが1.5mmである。この円錐台状の合成単結晶ダイヤモンドを金属粉末の円柱状の圧粉体の中にプレスで加圧し、上面が加圧方向と垂直となるように押し込みを行った。次にホットプレスにより、圧粉体の焼結を行い、焼結を完了した焼結対を台金にロウ接により固着した。次に、機械加工、ラップ加工などを行い、先端部の角度θが120°、半径Rが0.2mmのロックウエル硬さ試験機用のダイヤモンド圧子を製作した。
【0044】
完成したこの実施例1のダイヤモンド圧子をロックウエル硬さ試験機に取り付けて硬さ測定を行い、本発明の効果を確認した。その結果、硬さの測定値にバラツキが無く、安定した性能を長期間に渡って発揮した。
【0045】
(実施例2)
以下のような本発明の実施例2のダイヤモンド圧子を製作して、本発明の効果を実験により確認した。
【0046】
上下面が(100)面からなる板状の合成単結晶ダイヤモンド(厚み1.8mm)をレーザー切断機を用いて、四角錐台状に切り出しを行った。四角錐台の形状は上面が正方形で2.5mmX2.5mm、下面が正方形で2.6mmX2.6mm、高さが1.8mmである。この四角錐台状の合成単結晶ダイヤモンドを金属粉末の円柱状の圧粉体の中にプレスで加圧し、上面が加圧方向と垂直となるように押し込みを行った。次にホットプレスにより、圧粉体の焼結を行い、焼結を完了した焼結対を台金にロウ接により固着した。次に、機械加工、ラップ加工などを行い、先端部の角度θが120°、半径Rが0.2mmのロックウエル硬さ試験機用のダイヤモンド圧子を製作した。
【0047】
完成したこの実施例2のダイヤモンド圧子をロックウエル硬さ試験機に取り付けて硬さ測定を行い、本発明の効果を確認した。その結果、実施例1と同様に硬さの測定値にバラツキが無く、安定した性能を長期間に渡って発揮した。
【0048】
(実施例3)
以下のような本発明の実施例3のダイヤモンド圧子を製作して、本発明の効果を実験により確認した。
【0049】
上下面が(100)面からなる板状の合成単結晶ダイヤモンド(厚み1.5mm)をレーザー切断機を用いて、三角錐台状に切り出しを行った。三角錐台の形状は上面が正三角形でその一辺は2.7mm、底面が正三角形でその一辺は2.8mm、高さが2.8mmである。この三角錐台状の合成単結晶ダイヤモンドを金属粉末の円柱状の圧粉体の中にプレスで加圧し、上面が加圧方向と垂直となるように押し込みを行った。次にホットプレスにより、圧粉体の焼結を行い、焼結を完了した焼結対を台金にロウ接により固着した。次に、機械加工、ラップ加工などを行い、先端部の角度θが120°、半径Rが0.2mmのロックウエル硬さ試験機用のダイヤモンド圧子を製作した。
【0050】
完成したこの実施例3のダイヤモンド圧子をロックウエル硬さ試験機に取り付けて硬さ測定を行い、本発明の効果を確認した。その結果、実施例1、2とと同様に硬さの測定値にバラツキが無く、安定した性能を長期間に渡って発揮した。
【0051】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、ビッカース硬さ試験機、ロックウエル硬さ試験機または微小硬さ試験機のダイヤモンド圧子として用いることができる。
【符号の説明】
【0053】
1 ダイヤモンド圧子、10 先端部材、11 先端面、12 境界線、13 平面、20 保持部材、30 台金、31 シャンク。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験材料に当接する先端部材を備え、その先端部材が合成単結晶ダイヤモンドからなる、ダイヤモンド圧子。
【請求項2】
前記先端部材を保持する保持部材をさらに備え、前記先端部材の底部には平面が形成されており、前記底部は前記保持部材内で前記先端部材のうち最も深い部分に位置する、請求項1に記載のダイヤモンド圧子。
【請求項3】
前記底部に形成された前記平面と平行な前記先端部材の断面積は、前記平面から遠ざかるにつれて小さくなるように形成された、請求項2に記載のダイヤモンド圧子。
【請求項4】
前記保持部材は焼結合金からなり、その硬さはHRB75以上90以下である、請求項2または3に記載のダイヤモンド圧子。
【請求項5】
前記先端部材において合成単結晶ダイヤモンドの(100)面の法線とダイヤモンド圧子の押し込み方向とのなす角度は5°以下である、請求項1から4のいずれか1項に記載のダイヤモンド圧子。
【請求項6】
ビッカース硬さ試験機、ロックウエル硬さ試験機または微小硬さ試験機のいずれか一つに用いられる、請求項1から5のいずれか1項に記載のダイヤモンド圧子。
【請求項7】
円錐台状または角錐台状の合成単結晶ダイヤモンドからなる先端部材を準備する工程と、
前記合成単結晶ダイヤモンドの(100)面の法線とダイヤモンド圧子の押し込み方向とのなす角度が5°以下になるように前記先端部材を保持部材に埋設する工程とを備えた、ダイヤモンド圧子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−24649(P2013−24649A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−157944(P2011−157944)
【出願日】平成23年7月19日(2011.7.19)
【出願人】(000220103)株式会社アライドマテリアル (192)