説明

チオキソロンの製造方法

【課題】カラムクロマトグラフィによる精製や中間体の段階での固液分離などの煩雑な操作を行うことなく、簡便な操作で生成したチオキソロンを単離でき、高収率でチオキソロンを得ることができる、チオキソロンの製造方法を提供する。
【解決手段】本発明のチオキソロンの製造方法は、水系溶媒中、レゾルシノールとチオシアン酸塩とハロゲン化第二鉄とを反応させて、チオキソロンを生成させることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば抗うつ剤(Tyrima)の有機合成原料などを含む様々な用途において有用なチオキソロンの製造技術の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
チオキソロン(6−ヒドロキシ−1,3−ベンズオキサチオール−2−オン;CAS番号4991−65−5)は、それ自身が抗菌剤、皮脂抑制物質などとして有用であるほか、種々の有機合成(例えば硫黄原子および酸素原子を含有する3員環形成など)における原料乃至中間体としても有用であり、例えば抗うつ剤としての効能が期待される下記構造のTyrima(3−フルオロ−7−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)フェノキサチイン−10,10−ジオキサイド)などを合成する際の原料として利用できる。
【0003】
【化1】

【0004】
従来、チオキソロンの製造方法としては、下記スキームに示すように、レゾルシノールをチオシアン化した後、生じたチオシアン体をチオシアノ基と水酸基により閉環(環化)させ、その後加水分解する方法が知られている(特許文献1の明細書段落0020参照)。詳しくは、まず、チオシアン酸アンモニウムと酸化剤である硫酸銅とからチオシアノゲンを発生させ、これがレゾルシノールと反応してチオシアン体となる。チオシアン体は容易に環化してシッフ塩基となり、さらに加水分解されてチオキソロンとなる。かかる一連の反応は通常、水中で行われる。
【0005】
【化2】

【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2001−524457号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1のような従来の方法では、副生物としてCu2SO4やCuSCN等の副生塩が生じ、これらが水中で固体として存在することになるので、同じく水中で固体として存在する目的物のチオキソロンと分離、除去するのが困難であった。そのため、最終生成物をカラムクロマトグラフィを用いて精製するか、もしくは特許文献1に記載のように、水に溶解するチオシアン体(中間体)の段階で反応を停止させ、濾過等の固液分離により副生塩の除去を行い、濾液に対して続く反応を行うなど、いずれにしても非常に煩雑な操作が必要になるといった問題があった。しかも、このような方法では、得られるチオキソロンの収率も必然的に低くなるという問題があった。
【0008】
そこで、本発明は、カラムクロマトグラフィによる精製や中間体の段階での固液分離などの煩雑な操作を行うことなく、簡便な操作で生成したチオキソロンを単離でき、高収率でチオキソロンを得ることができる、チオキソロンの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、前記課題を解決するために鋭意研究を行った。その結果、従来、酸化剤として用いられていた硫酸銅に代えてハロゲン化第二鉄を用いてレゾルシノールをチオシアン化すると、生じる副生塩が水系溶媒に溶解可能となる事、そして途中で固液分離することなく最終生成物(チオキソロン)までワンポットで反応を進行させ、このチオキソロンを反応液中から析出させると、固液分離により溶媒および副生塩から容易にチオキソロンを単離でき、しかもかかる反応によれば良好な収率でチオキソロンが生成することを見出した。加えて、酸化剤としてハロゲン化第二鉄を用いることにより、反応系中にハロゲン化第二鉄に由来する酸(HClやHBr等)が生じるので、シッフ塩基で反応が止まることなく、その加水分解まで反応が進行し、簡便にチオキソロンを生成できることをも見出した。本発明はこれらの知見により完成したものである。
【0010】
すなわち、本発明のチオキソロンの製造方法は、水系溶媒中、レゾルシノールとチオシアン酸塩とハロゲン化第二鉄とを反応させて、チオキソロンを生成させることを特徴とする。
本発明のチオキソロンの製造方法においては、生成したチオキソロンを反応液から析出させることが好ましい。前記ハロゲン化第二鉄は、塩化鉄(III)および/または臭化鉄(III)であることが好ましく、前記チオシアン酸塩は、チオシアン酸アンモニウム、チオシアン酸ナトリウムおよびチオシアン酸カリウムから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。また反応開始時の温度よりも反応終了時の温度の方が高く設定されることが好ましい。さらに反応液にチオキソロンの種晶を添加し、この種晶の存在下で上記生成チオキソロンを析出させることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ハロゲン化第二鉄を用いてレゾルシノールとチオシアン酸塩を反応させているため、反応液中に固体として存在する副生塩が生じず、カラムクロマトグラフィによる精製や中間体の段階での固液分離などの煩雑な操作を行うことなく、最後の1回の固液分離操作でチオキソロンを溶媒および副生塩から単離でき、かつ高収率でこのチオキソロンを得ることができる。これにより、各種用途に有用なチオキソロンを高い生産性で工業的に製造することが可能になる、という効果が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のチオキソロンの製造方法においては、レゾルシノール、チオシアン酸塩およびハロゲン化第二鉄を原料とする。
【0013】
前記レゾルシノールとは、下記式で示される1,3−ジヒドロキシベンゼン(CAS番号108−46−3)であり、一般に市販されている。
【0014】
【化3】

【0015】
前記チオシアン酸塩としては、例えば、チオシアン酸アンモニウム(アンモニウム塩);チオシアン酸ナトリウム、チオシアン酸カリウム、チオシアン酸リチウム、チオシアン酸ルビジウム、チオシアン酸セシウム等のアルカリ金属塩;チオシアン酸カルシウム、チオシアン酸マグネシウム、チオシアン酸ストロンチウム、チオシアン酸バリウム等のアルカリ土類金属塩;チオシアン酸鉛、チオシアン酸銅、チオシアン酸鉄、チオシアン酸銀、チオシアン酸クロム、チオシアン酸コバルト、チオシアン酸タリウム、チオシアン酸ニッケル、チオシアン酸パラジウム、チオシアン酸ビスマス、チオシアン酸マンガン、チオシアン酸ヒ素、チオシアン酸モリブデン、チオシアン酸バナジウム等の金属塩:のほか、チオシアン酸ケイ素、チオシアン酸リン、チオシアン酸フェニル、チオシアン酸ベンジル等が挙げられる。これらの中でも、取り扱いが容易で且つ安価に入手しうる点で、チオシアン酸アンモニウム、チオシアン酸のアルカリ金属塩(チオシアン酸ナトリウム、チオシアン酸カリウムなど)が好ましく、より好ましくはチオシアン酸アンモニウムがよい。チオシアン酸塩は1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0016】
前記ハロゲン化第二鉄としては、例えば、塩化鉄(III)、臭化鉄(III)、ヨウ化鉄(III)、フッ化鉄(III)等が挙げられるが、反応性または収率の点で、塩化鉄(III)、臭化鉄(III)が好ましい。ハロゲン化第二鉄は1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0017】
前記原料(レゾルシノール、チオシアン酸塩およびハロゲン化第二鉄)は、水系溶媒中で反応させる。例えば、前記チオシアン酸塩としてチオシアン酸アンモニウムを用い、前記ハロゲン化第二鉄として塩化鉄(III)を用いた場合の反応は、下記スキームの通りである。
【0018】
【化4】

【0019】
前記チオシアン酸塩の使用量は、上記スキームから分かるように理論上レゾルシノール1モルに対して1モルであるが、反応性(反応効率)の観点からは、チオシアン酸塩を理論量より多く用いるのが好ましい場合があり、その場合、レゾルシノール1モルに対してチオシアン酸塩の使用量を1.5モル以上とするのが好ましく、より好ましくは1.8モル以上、さらに好ましくは2.0モル以上である。またチオシアン酸塩をレゾルシノールに優先して完全消費したい場合などには、チオシアン酸塩を理論量よりも少なく用いてもよく、その場合、レゾルシノール1モルに対してチオシアン酸塩の使用量を0.1モル以上とするのが好ましく、より好ましくは0.5モル以上、さらに好ましくは0.8モル以上である。一方、チオシアン酸塩の使用量が多すぎると、さらなるチオシアン化反応が進行しやすくなり不純物が増加する虞があるので、チオシアン酸塩の使用量は、レゾルシノール1モルに対して10モル以下が好ましく、より好ましくは5モル以下、さらに好ましくは3モル以下である。
【0020】
前記ハロゲン化第二鉄の使用量は、上記スキームから分かるように理論上レゾルシノール1モルに対して2モルであるが、反応性(反応効率)の観点からは、ハロゲン化第二鉄を過剰に使用してレゾルシノールを完全に消費させることもでき、その場合、レゾルシノール1モルに対してハロゲン化第二鉄の使用量を2.1モル以上とするのが好ましく、より好ましくは2.3モル以上、さらに好ましくは2.5モル以上である。一方、ハロゲン化第二鉄の使用量の上限は、好ましくは10モル以下、より好ましくは5モル以下、さらに好ましくは3モル以下とするのがよい。
【0021】
前記水系溶媒としては、水もしくは水と水性有機溶剤(例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール系溶剤;アセトン等のケトン系溶剤;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶剤;など)との混合溶媒を用いることができるが、特に水が好ましい。水と水性有機溶剤との混合溶媒を用いる場合には、水性有機溶剤の含有割合は、混合溶媒中50質量%以下が好ましく、より好ましくは30質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下である。なお混合溶媒に含有させる水性有機溶剤は1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0022】
前記水系溶媒の使用量は、特に制限されるものではなく、各原料が水系溶媒に溶解した状態で反応に供され、生成したチオキソロンの晶析が可能になるよう適宜設定すればよい。水系溶媒の量が多すぎると、反応容量が大きくなり生産性が低下する傾向があるので、反応全体で使用する水系溶媒の量はレゾルシノールに対して質量比で30倍以下が好ましく、20倍以下がより好ましく、15倍以下がさらに好ましい。一方、水系溶媒の使用量としては、上述したように塩化鉄(III)等のハロゲン化第二鉄を溶解させるだけの量が必要であることを考慮すると、反応全体で使用する水系溶媒の量がレゾルシノールに対して質量比で2倍以上であることが好ましく、より好ましくは3倍以上、さらに好ましくは5倍以上である。
【0023】
前記原料(レゾルシノール、チオシアン酸塩およびハロゲン化第二鉄)の水系溶媒への仕込み順序や方法としては、例えば、レゾルシノールとともにチオシアン酸塩およびハロゲン化第二鉄のいずれか一方を水系溶媒に溶解させておき、他方(チオシアン酸塩またはハロゲン化第二鉄)を別途水系溶媒に溶解させておき、これら2つの原料溶液のうちの一方に他方を滴下するようにすることが好ましい。勿論、原料の仕込み順序や方法はこれに限定されるものではなく、例えば、各原料を夫々別の水系溶媒に溶解させておき、各原料溶液を同時に混合するようにしてもよいし、各原料を同時に水系溶媒中に添加するようにしてもよい。なお、各原料溶液の濃度は特に限定されず、反応全体で使用する水系溶媒の量が上述した範囲になるよう適宜設定すればよい。
【0024】
前記原料を反応させる際の反応温度は、反応を十分に進行させるうえで、30℃以上が好ましく、40℃以上がより好ましく、50℃以上がさらに好ましい。一方、反応温度が高すぎると、反応の進行が速くなり、反応が制御できずにシッフ塩基の加水分解(チオキソロンの生成)まで一度に進行してしまい、その結果、反応液が固化して攪拌不能になる虞があるので、反応温度は、100℃以下が好ましく、90℃以下がより好ましく、80℃以下がさらに好ましい。また反応時間は、反応温度等に応じて適宜設定すればよいが、通常、5分以上48時間以下が好ましく、10分以上24時間以下がより好ましく、30分以上10時間以下がさらに好ましい。
【0025】
前記原料を反応させる際には、反応開始時(すなわち、レゾルシノールとチオシアン酸塩とハロゲン化第二鉄との反応開始時)の反応温度よりも反応終了時(すなわち、チオキソロン生成反応終了時)の反応温度の方を高く設定することが好ましい。これにより、チオシアン体やシッフ塩基等の中間体を速やかに消費させることができ、得られるチオキソロンの収率、品質を向上させることができる。具体的には、反応終了時と反応開始時の反応温度との差は5℃以上30℃以下が好ましく、より好ましくは10℃以上25℃以下、さらに好ましくは15℃以上20℃以下である。反応開始時の温度よりも反応終了時の温度を高くするには、反応の進行(反応時間の経過)に伴い連続的に反応温度を上げるようにしてもよいし、段階的に昇温するようにしてもよい。煩雑さを回避するうえでは後者が好ましく、より好ましくは反応を1段目反応と2段目反応に分け、2段目反応の反応温度を1段目反応の反応温度より高くするのがよい。例えば、1段目反応の反応温度は40℃以上60℃以下の範囲とし、2段目反応の反応温度を60℃以上80℃以下の範囲とするのが好ましく、1段目反応の反応温度は45℃以上55℃以下の範囲とし、2段目反応の反応温度を65℃以上75℃以下の範囲とするのがより好ましい。
【0026】
以上のように前記反応を行うことにより反応液中にチオキソロンが生成する。生成したチオキソロンは、反応液中から析出(晶出)させることが好ましい。反応温度が高い場合などには、生成したチオキソロンは水系溶媒に溶解していることもあるが、このような場合には、反応後に反応液の温度を下げることでチオキソロンは析出(晶出)する。
【0027】
チオキソロンの析出を促進するには、反応液にチオキソロンの種晶を添加し、この種晶の存在下でチオキソロンを析出させることが好ましい。種晶の添加量は、通常、原料として用いたレゾルシノール100質量部に対して0.01質量部以上が好ましく、より好ましくは0.05質量部以上であり、さらに好ましくは0.1質量部以上である。
【0028】
析出したチオキソロンは、固液分離により回収すればよい。本発明の製造方法によれば反応で生じる副生塩は反応液に溶解しているため、ここで固液分離によって(換言すれば、カラムクロマトグラフィ等の精製操作を行わなくても)チオキソロンを溶媒および副生塩から単離することができる。固液分離の手段としては、例えば、ろ過や遠心分離などの公知の方法を採用すればよい。なお、チオキソロンを固液分離により回収する際には、必要に応じてチオキソロンを洗浄してもよい。洗浄には、例えば上述した水系溶媒(好ましくは水)を使用でき、より好ましくは使用する水系溶媒は冷した状態(好ましくは冷水)で使用するのがよい。
【0029】
なお、固液分離により回収されたチオキソロンは、反応で生じた副生塩と分離されており十分な純度を有するものであるが、特に高品質の製品を要望する場合などには、必要に応じてさらに公知の精製(例えば、再結晶、カラムクロマトグラフィなど)を施すこともできる。
【実施例】
【0030】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例等によって制限を受けるものではなく、上記・下記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0031】
(実施例1)
レゾルシノール110質量部およびチオシアン酸アンモニウム152質量部を水610質量部中に加え、室温で1時間攪拌して溶解させた。得られた溶液を、濃度39質量%の塩化鉄(III)水溶液832質量部の中に滴下し、滴下終了後、反応液の内温を50±5℃に昇温し、同温度で1時間反応させた(1段目反応)。次いで、チオキソロンの種晶0.3質量部を添加し、添加後、反応液の内温を70±5℃に昇温し、同温度で3時間反応させた(2段目反応)。得られた反応液を室温以下に冷却し、析出した固形分を遠心分離で取り出し、合計1000質量部の冷水で洗浄した後、40℃で乾燥して、目的物(チオキソロン)を159質量部(収率は95.2%)得た。また得られたチオキソロンの結晶を高速液体クロマトグラフィーで分析したところ、純度は94.0%であった。
【0032】
(実施例2)
レゾルシノール110質量部および塩化鉄(III)326質量部を水1220質量部中に加え、室温で1時間攪拌して溶解させた。次いで、得られた溶液に、水255質量部中に溶解させたチオシアン酸アンモニウム152質量部を滴下し、滴下終了後、チオキソロンの種晶0.3質量部を添加するとともに、反応液の内温を50±5℃に昇温し、同温度で2時間反応させた。得られた反応液を室温以下に冷却し、析出した固形分を遠心分離で取り出し、合計1000質量部の冷水で洗浄した後、40℃で乾燥して、目的物(チオキソロン)を159質量部(収率は95.2%)得た。また得られたチオキソロンの結晶を高速液体クロマトグラフィーで分析したところ、純度は88.7%であった。
【0033】
(実施例3)
レゾルシノール110質量部およびチオシアン酸アンモニウム152質量部を水610質量部中に加え、室温で1時間攪拌して溶解させた。得られた溶液を、濃度39質量%の臭化鉄(III)水溶液1516質量部の中に滴下し、滴下終了後、反応液の内温を50±5℃に昇温し、同温度で1時間反応させた(1段目反応)。次いで、チオキソロンの種晶0.3質量部を添加し、添加後、反応液の内温を70±5℃に昇温し、同温度で3時間反応させた(2段目反応)。得られた反応液を室温以下に冷却し、析出した固形分を遠心分離で取り出し、合計1000質量部の冷水で洗浄した後、40℃で乾燥して、目的物(チオキソロン)を153.8質量部(収率は92.1%)得た。また得られたチオキソロンの結晶を高速液体クロマトグラフィーで分析したところ、純度は93.0%であった。
【0034】
(比較例1)
レゾルシノール11 g(0.1モル)を水50mL中に加え、さらに硫酸銅31.8g(0.2モル)を加えた後、激しく攪拌しながら溶解させた。次いで、水50mLに溶解させたチオシアン酸アンモニウム31g(0.4モル)を加え、溶液が青色から黒色に変ったところで、室温で2時間攪拌した。このようにして得られた白色懸濁液をシーライトで濾過し、さらに50mLの水で洗浄した。得られた濾液に、水50mLに溶解させた炭酸ナトリウム5.3g(0.5モル)を添加し、10分間激しく攪拌した後、生成した沈澱を濾過により固液分離した。得られた固形物を、100℃に保持した濃塩酸140mLと水260mLの混合液中に添加し、同温度を維持しながら1時間かけて溶解させた。次いで、得られた溶液を熱い間に素早く濾過し、濾液を室温まで冷却すると、生成物の沈降が生じたので、得られた沈澱を濾過し、冷水で洗浄して、目的物(チオキソロン)3.5g(収率は20.8%)を得た。
かかる方法では合計3度の濾過操作を行わなければならず、実施例1、2に比べて明らかに煩雑であり、しかも収率も低かった。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の製造方法は、カラムクロマトグラフィによる精製や中間体の段階での固液分離などの煩雑な操作を行うことなく、簡便な操作で生成したチオキソロンを単離でき、高収率でチオキソロンを得ることができるものであるので、チオキソロンの製造、とりわけ工業的スケールでの生産に好ましく適用できる。本発明で製造されるチオキソロンは、抗菌剤、皮脂抑制物質などとして有用であるほか、種々の有機合成の原料乃至中間体としても有用な化合物である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水系溶媒中、レゾルシノールとチオシアン酸塩とハロゲン化第二鉄とを反応させて、チオキソロンを生成させることを特徴とするチオキソロンの製造方法。
【請求項2】
生成したチオキソロンを反応液から析出させる請求項1に記載のチオキソロンの製造方法。
【請求項3】
前記ハロゲン化第二鉄が、塩化鉄(III)および/または臭化鉄(III)である請求項1または2に記載のチオキソロンの製造方法。
【請求項4】
前記チオシアン酸塩が、チオシアン酸アンモニウム、チオシアン酸ナトリウムおよびチオシアン酸カリウムから選ばれる少なくとも1種である請求項1〜3のいずれかに記載のチオキソロンの製造方法。
【請求項5】
反応開始時の温度よりも反応終了時の温度の方が高く設定される請求項1〜4のいずれかに記載のチオキソロンの製造方法。
【請求項6】
反応液にチオキソロンの種晶を添加し、この種晶の存在下で前記生成チオキソロンを析出させる請求項2〜5のいずれかに記載のチオキソロンの製造方法。

【公開番号】特開2012−214443(P2012−214443A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−57783(P2012−57783)
【出願日】平成24年3月14日(2012.3.14)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】