説明

チオン亜鉛光導電体

【課題】画像中の残像発生を最小限に抑制する。
【解決手段】電荷発生剤としてチタニルフタロシアニン、ヒドロキシガリウムフタロシアニン、ハロガリウムフタロシアニン、ビスペリレンを含有した電荷発生層、および、電荷輸送剤としてヒドロキシピリジンチオン亜鉛、亜鉛ピリチオン、ピリジンチオールオキシド亜鉛化合物を少なくとも1つ含有した電荷輸送層を1層以上含む光導電体を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像形成部材、感光体、光導電体等に関する。
【背景技術】
【0002】
米国特許第6,913,863号は、正孔阻止層と、電荷発生層(photogenerating layer)と、電荷輸送層とを備えた光導電性画像形成部材であって、正孔阻止層が金属酸化物及びフェノール化合物とフェノール系樹脂との混合物を含み、該フェノール化合物が少なくとも2個のフェノール基を含む、光導電性画像形成部材を記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第6,913,863号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、複写機およびプリンタ、特にゼログラフィー式の複写機およびプリンタ等の複数の機械用に一般に選択できる、積層型の画像形成部材、感光体、光導電体等を提供し、例えば実施形態において、種々の相対湿度における残像発生(ghosting)の改善を含む、ゼログラフィー画像等の現像像上の望ましくない残像発生の最小限化または実質的除去;優れたサイクル特性および安定した電気的特性;電荷不足スポット(charge deficient spot:CDS)の最小限化;電荷発生性樹脂バインダーおよび電荷輸送性樹脂バインダーとの共存性;ならびに例えば優れた側方電荷移動(lateral charge migration)抵抗性等の許容可能なLCM特性、といった複数の利点のうち少なくとも一つを実現することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するための具体的手段は以下の通りである。
<1>支持基体、必要に応じてグラウンドプレーン層、必要に応じて正孔阻止層、少なくとも1つの電荷発生顔料を含む電荷発生層、および少なくとも1つの電荷輸送成分を含む少なくとも1層(または複数層)の電荷輸送層を備え、電荷輸送層中にチオン亜鉛またはその混合物が導入されている、光導電体。
<2>支持基体、グラウンドプレーン層、正孔阻止層または下引き層、その上の少なくとも1つの電荷発生顔料を含む電荷発生層、およびチオン亜鉛含有電荷輸送層をこの順で備える可撓性光導電性部材。
<3>正孔阻止層および接着層を備え、接着層が正孔阻止層と電荷発生層との間に位置し、正孔阻止層が支持基体層と接着層との間に位置する、光導電体。
<4>支持基体、正孔阻止層、電荷発生層、および少なくとも1つの電荷輸送成分を含む少なくとも1層の電荷輸送層を備え、電荷発生層に接触する第1パス電荷輸送層、第1の電荷輸送層に接触する第2パス電荷輸送層、または第1および第2パス電荷輸送層の両方が、正孔輸送成分、樹脂バインダー、およびチオン亜鉛を含む、光導電体。
<5>支持基体、支持基体に接触する電荷発生層、および電荷発生層に接触する少なくとも1層の電荷輸送層を備え、少なくとも1層、例えば1、2または3層の電荷輸送層がチオン亜鉛を含む、光導電体。
<6>少なくとも1つの電荷発生顔料を含む電荷発生層、第1の電荷輸送層、および第2の電荷輸送層をこの順で備え、第1の電荷輸送層が、電荷輸送成分および下記一般式(1)で表されるチオン亜鉛を含有する、光導電体。
【0006】
【化1】

【0007】
(式中、R1、R2、R3、およびR4はアリールまたはその置換誘導体である。)
【発明の効果】
【0008】
本明細書に記載される本発明のある実施形態によれば、例えばある実施形態において、種々の相対湿度における残像発生の改善を含む、ゼログラフィー画像等の現像像上の望ましくない残像発生の最小限化または実質的除去;優れたサイクル特性および安定した電気的特性;電荷不足スポットの最小限化;電荷発生性樹脂バインダーおよび電荷輸送性樹脂バインダーとの共存性;ならびに例えば優れた側方電荷移動抵抗性等の許容可能なLCM特性、といった複数の利点のうち少なくとも一つを実現し得る。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本開示の光導電体は、一般的には、基体等の支持媒体、(任意で備え得る)グラウンドプレーン層、(任意で備え得る)正孔阻止層、電荷発生層、および少なくとも1層または複数層である電荷輸送層を備える、多層ドラム型または可撓性ベルト型の画像形成部材またはデバイスの用途に適用され得る。ここで、該電荷輸送層は例えば1〜約7層、1〜約3層、または1層であってよく、より具体的には第1の電荷輸送層および第2の電荷輸送層であり、電荷輸送層にはチオン亜鉛が導入されており、特にある実施形態では、電荷発生層に接触している第1パス電荷輸送層中にチオン亜鉛が存在する。
【0010】
残像の発生とは、例えば、複数のゼログラフィー印刷エンジン中で光導電体が正電荷に選択的に暴露される時、電荷の一部が光導電体に進入して次の印刷サイクルで潜像として現れることを指す。この印刷欠陥は、ハーフトーン印刷の明度に変化を生じさせることがあり、一般に、先行印刷サイクルで発生した「残像(ghost)」と呼ばれる。正電荷源の例としては、転写コロトロンから放出される陽イオン流が挙げられる。転写コロトロンと光導電体との間には紙シートが位置しているので、光導電体は転写コロトロンから出る陽イオンから遮蔽されている。紙シートと紙シートの間の領域では光導電体が完全に露出されるため、この紙のない領域では正電荷が光導電体に進入することがある。その結果、印刷紙の大きさ(フォーマット)を、先行印刷で使用した紙の非印刷領域をも含む、より大きなフォーマットに変更した時に、これらの電荷が印刷欠陥すなわちハーフトーン印刷での残像を生じさせる。
【0011】
光導電体の優れたサイクル安定性とは、例えば作製した既知の光放電曲線(PIDC)中で変化がほとんどないか最小限であること、特に、光導電体の複数回の荷電/放電サイクル(例えば10万サイクル)後または約8万〜約10万回のゼログラフィー印刷後に、残留電位のサイクルアップがないか最小限であることを指す。優れたカラー印刷安定性とは、例えば、ベタ塗り領域の濃度、特に60パーセントハーフトーン印刷の変化が実質的にないか最小限であること、および、例えば5万回といった複数回のゼログラフィー印刷後に、印刷間でランダムな色の変動がないか最小限であることを意味する。
【0012】
本明細書に記載の光導電性デバイスを用いた画像形成および印刷の方法も、本開示の範囲に含まれる。これらの方法では一般的に、画像形成部材上に静電潜像を形成し、その後、例えば熱可塑性樹脂、顔料等の着色剤、帯電添加剤、表面添加剤等を含むトナー組成物で画像を現像し、続いて、トナー画像を好適な受像基材に転写し、そこに画像を永久的に固定する。光導電体が印刷モードで使用される環境では、画像形成方法に含まれる方法は、露光がレーザーデバイスまたはイメージバーを用いて達成され得ること以外は同じである。より具体的には、本明細書に開示する可撓性の光導電体ベルトは、ゼロックスコーポレーション社製iGEN(登録商標)機(当該機は、機種によっては1分間に100枚超のコピーを作成可能)用に選択することができる。このようにデジタル印刷および/またはカラー印刷を含む画像形成プロセス、特にゼログラフィーによる画像形成および印刷プロセスも本開示に含まれる。ある実施形態では、画像形成部材は、例えば約400〜約900ナノメートル、特に約650〜約850ナノメートルの波長域に感受性であるので、光源にダイオードレーザーを選択することができる。更に、本開示の画像形成部材は、カラーゼログラフィー用途、特に高速カラー複写および印刷プロセスに有用である。
【0013】
チオン亜鉛が電荷輸送層中に存在する場合、その有効量は電荷輸送層の全重量に対して、例えば約0.05〜約10重量パーセント、好ましくは約0.1〜約5重量パーセント、より好ましくは約0.4〜約1重量パーセント、さらに好ましくは約0.2〜約1重量パーセントである。チオン亜鉛の例を以下に記載する。チオン亜鉛は、例えば下記一般式
(1)で表される。
【0014】
【化2】

【0015】
式中、置換基R1〜R4は、それぞれ独立にアルキル基、アリール基、アルコキシ基、これらの置換誘導体、ヘテロ原子含有アリール基等から選択される1つを表す。ある実施形態では、式中、R1〜R4は個別の基であってもよく、また別の実施形態では、各適切なR基同士が互いに連結していてもよい。
【0016】
前記チオン亜鉛の具体例を以下に示す。
【0017】
【化3】

【0018】
電荷輸送層に導入可能なチオン亜鉛のより具体的としては、1−ヒドロキシピリジン−2−チオン亜鉛、亜鉛ピリチオン、ビス(2−ピリジルチオ)亜鉛1,1’−ジオキシド、2−ピリジンチオール1−オキシド亜鉛、N−ヒドロキシピリジンチオン亜鉛等が挙げられる。
【0019】
電荷輸送層に導入可能なチオン亜鉛としては他にも、以下に示す例が挙げられる。
【0020】
【化4】

【0021】
<光導電性層>
光導電性基体層の厚さは、経済的な検討事項、電気的特性等の多くの要因によって決定される。この層の実質的な厚さは、例えば3,000μm超、また例えば約1,000〜約2,000μm、また例えば約500〜約1,000μm、また例えば約300〜約700μmであってもよく、または最小限の厚さであってもよい。ある実施形態では、この層の厚さは約75〜約300μmまたは約100〜約150μmである。
【0022】
基体は、不透明または実質的に透明であってよく、所望の機械的特性を有する任意の好適な材料を含んでよい。基体は、非導電性の材料または導電性の材料、例えば無機組成物または有機組成物を含んでいてもよい。非導電性の材料としては、薄いウェブ状とした際に柔軟性を有する、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリウレタン等、本用途において公知の種々の樹脂を採用することができる。導電性基体は、例えばアルミニウム、ニッケル、スチール、銅等の任意の好適な金属であってよく、あるいは上述したようなポリマー材料に、炭素、金属粉末等、または導電性有機材料等の導電性物質を充填したものであってもよい。電気絶縁性基体または導電性基体は、可撓性無端ベルト、ウェブ、剛性シリンダー、シート等の形態であってよい。基体層の厚さは、所望の強度、経済的な検討事項等の多くの要因に依存する。本明細書で参照している同時係属出願に開示されているように、ドラムにおける基体層の実質的な厚さは、例えば数センチメートルまでの厚さであってもよく、1ミリメートル未満の最小限の厚さであってもよい。同様に、可撓性ベルトは、最終的な電子写真デバイスに悪影響を与えなければ、例えば実質的に約250μmの厚さを有してもよく、約50μm未満の最小限の厚さであってもよい。
【0023】
基体層が導電性でない実施形態では、導電性コーティングによってその表面に電気伝導性を付与してもよい。この導電性コーティングの厚さは、光学的透明性、所望の可撓性の程度、および経済的要因に応じて広範な範囲で変化し得る。
【0024】
基体の具体例は本明細書に記載している通りであり、好ましくは、本開示の光導電体に選択される支持基体である。この基体は不透明または実質的に透明であってもよく、無機または有機ポリマー材料を含む絶縁性材料(例えば、チタンを含有する市販のポリマーであるMYLAR(登録商標)等)の層、半導電性(例えば、酸化インジウムスズ)の層もしくはアルミニウム層等を表面層として配置した有機または無機材料の層、または導電性材料(例えば、アルミニウム、クロム、ニッケル、黄銅等)を有する。基体は、可撓体、シームレス、または剛体であってよく、例えばプレート、円筒形ドラム、巻物(scroll)、可撓性無端ベルト等、多様な形状をとることができる。ある実施形態では、基体は可撓性シームレスベルトの形態である。いくつかの状況では、基体の裏にコーティングすることが望ましい場合がある。特に基体が可撓性の有機ポリマー材料である場合には、例えばMAKROLON(登録商標)として市販されているポリカーボネート材料等のカーリング防止層を設けることが望ましい。
【0025】
非導電性基体の上に通常存在する電気伝導層またはグラウンドプレーン層の例としては、金、金含有化合物、アルミニウム、チタン、チタン/ジルコニウム、およびその他公知の好適な既知成分が挙げられる。金属製グラウンドプレーン層の厚さは、例えば約10〜約100ナノメートル、約20〜約50ナノメートル、より具体的には約35ナノメートルであり、チタンまたはチタン/ジルコニウム製グラウンドプレーン層の厚さは、例えば約10〜約30ナノメートル、より具体的には約20ナノメートルである。
【0026】
必要に応じて設けてもよい正孔阻止層がグラウンドプレーン層に接触して存在する時、本明細書に記載される複数の既知成分、例えば、金属酸化物、フェノール樹脂、アミノシラン、これらの混合物等を含み得る。
【0027】
正孔阻止層に含まれるアミノシランの例としては、アミノアルキルアルコキシシランが挙げられ、より詳細には、下記一般式(5)で表されるものが挙げられる。
【0028】
【化5】

【0029】
式中、R1はアルキレン基を表し(例えば、炭素数1〜約25のアルキレン基);R2およびR3はそれぞれ独立に、水素、アルキル(例えば炭素数1〜約12のアルキル、より具体的には炭素数1〜4のアルキル)、アリール(例えば炭素数約6〜約42の、フェニル基等)、およびポリ(アルキレン)基(例えばポリ(エチレンアミノ)基)の少なくとも1つからなる群から選択され;R4、R5、およびR6はそれぞれ独立にアルキル(例えば、炭素数1〜約10のアルキル、より具体的には炭素数1〜約4のアルキル)から選択される。
【0030】
アミノシランの具体例としては、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N,N−ジメチル−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン、トリエトキシシリルプロピルエチレンジアミン、トリメトキシシリルプロピルエチレンジアミン、トリメトキシシリルプロピルジエチレントリアミン、N−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、およびこれらの混合物が挙げられる。
【0031】
アミノシランは、最終的な下引きコーティング用の溶液または分散液に添加される前に、加水分解されて加水分解シラン溶液を形成していてもよい。アミノシランの加水分解の際、アルコキシ基等の加水分解性基が水酸基に置換される。
【0032】
下引き層または正孔阻止層には、複数のポリマーバインダーが更に含まれてもよく、その例としては、ポリビニルブチラール樹脂等のポリアセタール樹脂、メラミン樹脂等のアミノプラスト樹脂、またはこれらの樹脂の混合物が挙げられる。これらの樹脂または樹脂混合物は主に、下引き層中に存在し得る混合物、アミノシラン、およびその他公知の適切な成分を分散させる働きをする。
【0033】
ある実施形態では、アミノプラスト樹脂が下引き層用のバインダー成分として選択され得る。アミノプラスト樹脂とは、例えばメラミン、尿素、ベンゾグアナミン、グリコールウリル等の窒素含有物質とホルムアルデヒドとから作製されるアミノ樹脂の一種を指す。下引き層バインダーの例としては、メラミンとホルムアルデヒドとから調製されるアミノ樹脂と考えられるメラミン樹脂が挙げられる。メラミン樹脂は、CYMEL(登録商標)、BEETLE(商標)、DYNOMIN(商標)、BECKAMINE(商標)、UFR(商標)、BAKELITE(商標)、ISOMIN(商標)、MELAICAR(商標)、MELBRITE(商標)、MELMEX(商標)、MELOPAS(商標)、RESART(商標)、およびULTRAPAS(商標)等の種々の商標名で知られているが、これらに限定されるものではない。尿素樹脂をバインダーとして選択することもでき、このバインダーは尿素とホルムアルデヒドから作製することができる。尿素樹脂は、CYMEL(登録商標)、BEETLE(商標)、UFRM(商標)、DYNOMIN(商標)、BECKAMINE(商標)、およびAMIREME(商標)等の種々の商標名で知られているが、これらに限定されるものではない。
【0034】
種々の実施形態において、メラミン樹脂バインダーは下記一般式で表すことができる。
【0035】
【化6】

【0036】
式中、R1、R2、R3、R4、R5、およびR6はそれぞれ独立に、水素原子またはアルキル鎖を表す。該アルキル鎖の炭素数は例えば1〜約8であり、より具体的には1〜約4である。
【0037】
ある実施形態では、メラミン樹脂は水溶性、分散性、または非分散性である。メラミン樹脂の具体例としては、高アルキル化/アルコキシ化、部分アルキル化/アルコキシ化、または混合アルキル化/アルコキシ化メラミン樹脂;メチル化、n−ブチル化、またはイソブチル化メラミン樹脂;CYMEL(登録商標)350、9370等の高メチル化メラミン樹脂;CYMEL(登録商標)323、327等のメチル化高イミノメラミン樹脂(部分メチロール化および高アルキル化);CYMEL(登録商標)373、370等の部分メチル化メラミン樹脂(高メチロール化および部分メチル化);CYMEL(登録商標)1130、324等の高固体混合エーテルメラミン樹脂;CYMEL(登録商標)1151、615等のn−ブチル化メラミン樹脂;CYMEL(登録商標)1158等のn−ブチル化高イミノメラミン樹脂;およびCYMEL(登録商標)255−10等のイソ−ブチル化メラミン樹脂が挙げられる。CYMEL(登録商標)メラミン樹脂はサイテックインダストリーズ社(CYTEC Industries Inc.)から市販されている。更により具体的には、メラミン樹脂は、メチル化ホルムアルデヒド−メラミン樹脂、メトキシメチル化メラミン樹脂、エトキシメチル化メラミン樹脂、プロポキシメチル化メラミン樹脂、ブトキシメチル化メラミン樹脂、ヘキサメチロールメラミン樹脂;メトキシメチル化メラミン樹脂、エトキシメチル化メラミン樹脂、プロポキシメチル化メラミン樹脂、ブトキシメチル化メラミン樹脂等のアルコキシアルキル化メラミン樹脂、およびこれらの混合物からなる群から選択することができる。
【0038】
下引き層用の尿素樹脂バインダーの例としては、下記一般式で表されるものが挙げられる。
【0039】
【化7】

【0040】
式中、R1、R2、R3、およびR4はそれぞれ独立に、水素原子またはアルキル鎖を表す。該アルキル鎖の炭素数は例えば1〜約8であり、または例えば1〜約4である。この尿素樹脂は水溶性、分散性、または非分散性であってよい。尿素樹脂は、高アルキル化/アルコキシ化、部分アルキル化/アルコキシ化、または混合アルキル化/アルコキシ化されたものであってよく、より具体的には、尿素樹脂はメチル化、n−ブチル化、またはイソブチル化ポリマーである。尿素樹脂の具体例としては、CYMEL(登録商標)U−65、U−382等のメチル化尿素樹脂;CYMEL(登録商標)U−1054、UB−30−B等のn−ブチル化尿素樹脂;CYMEL(登録商標)U−662、UI−19−I等のイソブチル化尿素樹脂が含まれる。CYMEL(登録商標)尿素樹脂はサイテックインダストリーズ社から市販されている。
【0041】
下引き層用のベンゾグアナミンバインダー樹脂の例としては、下記一般式で表されるものが挙げられる。
【0042】
【化8】

【0043】
式中、R1、R2、R3、およびR4はそれぞれ独立に、水素原子またはアルキル鎖を表す。該アルキル鎖の炭素数は例えば1〜約8であり、または例えば1〜約4である。
【0044】
下引き層用のグリコールウリル樹脂バインダーの例としては、下記一般式で表されるものが挙げられる。
【0045】
【化9】

【0046】
式中R1、R2、R3、およびR4はそれぞれ独立に、水素原子またはアルキル鎖を表す。該アルキル鎖の炭素数は例えば1〜約8であり、または例えば1〜約4である。
【0047】
ある実施形態では、正孔阻止層または下引き層のポリアセタール樹脂バインダーには、アルデヒドとアルコールの周知の反応により生成するポリビニルブチラールが含まれる。アルコール1分子をアルデヒド1分子に加えるとヘミアセタールが生成する。ヘミアセタールは本質的に不安定なためほとんど単離されず、別のアルコール1分子と更に反応して安定なアセタールを形成する。ポリビニルアセタールは、アルデヒドとポリビニルアルコールから調製される。ポリビニルアルコールは、ポリ酢酸ビニルの加水分解により生じるアセテート基および水酸基を種々の割合で含有する高分子量樹脂である。アセタール反応の条件および使用する特定のアルデヒドおよびポリビニルアルコールの濃度は、所定の比率の水酸基、アセテート基、およびアセタール基を含むポリマーを形成するように調整される。
【0048】
正孔阻止層のポリビニルブチラールの例としては、BUTVAR(商標)B−72(MW=170,000〜250,000、A=80、B=17.5〜20、C=0〜2.5)、B−74(MW=120,000〜150,000、A=80、B=17.5〜20、C=0〜2.5)、B−76(MW=90,000〜120,000、A=88、B=11〜13、C=0〜1.5)、B−79(MW=50,000〜80,000、A=88、B=10.5〜13、C=0〜1.5)、B−90(MW=70,000〜100,000、A=80、B=18〜20、C=0〜1.5)、およびB−98(MW=40,000〜70,000、A=80、B=18〜20、C=0〜2.5)(以上は全てミズーリ州セントルイスのソルシア社(Solutia)から市販);及び、S−LEC(商標)BL−1(重合度=300、A=63±3、B=37、C=3)、BM−1(重合度=650、A=65±3、B=32、C=3)、BM−S(重合度=850、A>=70、B=25、C=4〜6)、BX−2(重合度=1,700、A=45、B=33、G=20)、以上は全て積水化学工業株式会社(日本、東京)から市販)が挙げられる。
【0049】
正孔阻止層は、単一の樹脂バインダーを含んでもよく、あるいは例えば2〜約7種類の、樹脂バインダーの混合物を含んでもよい。該混合物中における各樹脂の量は、混合物が第1の樹脂および第2の樹脂を約100重量パーセント含むか、第1、第2、および第3の樹脂を約100重量パーセント含むかにより異なる。
【0050】
ある実施形態では、下引き層は、有機顔料、有機染料等の種々の着色剤を含んでもよい。そのような着色剤としては、例えばアゾ顔料、キノリン顔料、ペリレン顔料、インジゴ顔料、チオインジゴ顔料、ビスベンズイミダゾール顔料、フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料、キノリン顔料、レーキ顔料、アゾレーキ顔料、アントラキノン顔料、オキサジン顔料、ジオキサジン顔料、トリフェニルメタン顔料、アズレニウム染料、スクアリリウム染料、ピリリウム染料、トリアリルメタン染料、キサンテン染料、チアジン染料、およびシアニン染料が挙げられるが、これらに限定されるものではない。種々の実施形態において、下引き層は、非晶質シリコーン、非晶質セレン、テルル、セレン−テルル合金、硫化カドミウム、硫化アンチモン、酸化チタン、酸化スズ、酸化亜鉛、硫化亜鉛、およびこれらの混合物等の無機材料を含んでもよい。着色剤は、約0.5〜約20重量パーセント、好ましくは1〜約12重量パーセント等、種々の好適な量で選択することができる。
【0051】
ある実施形態では、正孔阻止層は複数の公知の方法で作製することができ、当該作製方法におけるパラメーターは、例えば、所望する光導電体部材に依存する。正孔阻止層は、例えば、液体または分散体の状態で、スプレーコーター、ディップコーター、押し出しコーター、ローラーコーター、ワイヤーバーコーター、スロットコーター、ドクターブレードコーター、グラビアコーター等を用いてグラウンドプレーン層上に塗布し、約40〜約200℃で、約1分〜約10時間等の好適な時間、静的条件または空気流中で乾燥することにより形成され得る。当該塗布は、乾燥後の最終的な塗布層厚が約0.01〜約30μm、約0.02〜約5μm、または約0.03〜約0.5μmとなるように達成され得る。
【0052】
一般的に、電荷発生層は、公知の電荷発生顔料を含んでもよく、該金属電荷発生顔料としては例えば、フタロシアニン、無金属フタロシアニン、アルキルヒドロキシガリウムフタロシアニン、ヒドロキシガリウムフタロシアニン、クロロガリウムフタロシアニン、ペリレン(特にビス(ベンズイミダゾ)ペリレン)、チタニルフタロシアニン等が挙げられ、より具体的にはバナジルフタロシアニン、V型ヒドロキシガリウムフタロシアニン、高感度チタニルフタロシアニンが挙げられる。またセレン、セレン合金、三方晶セレン等の無機成分等も用い得る。電荷発生層においては、電荷輸送層用に選択される樹脂バインダーと同様の樹脂バインダー中に電荷発生顔料が分散されていてもよく、または、樹脂バインダーが存在しなくてもよい。一般に、電荷発生層の厚さは、その他の層の厚さ、電荷発生層に含有される電荷発生材料の量等、複数の要因に依存する。したがって、電荷発生層の厚さは、例えば電荷発生組成物が約30〜約75体積パーセントの量で存在する場合、例えば約0.05〜約10μm、より好ましくは約0.25〜約2μmであり得る。ある実施形態では、電荷発生層の最大厚さは、感光性、電気的特性、機械的事項等の要因に主に依存する。
【0053】
前記電荷発生組成物や電荷発生顔料は樹脂バインダー組成物中に100重量パーセントまでの種々の量で存在する。一般的には、約5〜約95体積パーセントの電荷発生顔料が約95〜約5体積パーセントの樹脂バインダー組成物中に分散しているか、約20〜約30体積パーセントの電荷発生顔料が約80〜約70体積パーセントの樹脂バインダー組成物中に分散している。ある実施態様では、約90体積パーセントの電荷発生顔料が約10体積パーセントの樹脂バインダー組成物中に分散している。ここで該樹脂は、ポリ(ビニルブチラール)、ポリ(ビニルカルバゾール)、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリ(塩化ビニル)、ポリアクリレートおよびポリメタクリレート、塩化ビニルと酢酸ビニルのコポリマー、フェノール系樹脂、ポリウレタン、ポリ(ビニルアルコール)、ポリアクリロニトリル、ポリスチレン等の、複数の公知のポリマーから選択することができる。デバイスに既にコーティングされている他の層を実質的に乱さないかそれに悪影響を与えないコーティング溶媒を選択することが望ましい。電荷発生層コーティング溶媒の例としては、ケトン、アルコール、芳香族炭化水素、ハロゲン化脂肪族炭化水素、エーテル、アミン、アミド、エステル等が挙げられる。溶媒の具体例としては、シクロヘキサノン、アセトン、メチルエチルケトン、メタノール、エタノール、ブタノール、アミルアルコール、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、四塩化炭素、クロロホルム、塩化メチレン、トリクロロエチレン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチルエーテル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、酢酸ブチル、酢酸エチル、酢酸メトキシエチル等が挙げられる。
【0054】
電荷発生層は、真空蒸着法または真空堆積法で作製された非晶質膜を含んでもよい。該非晶質膜としては例えば、セレン、セレンと他金属(ヒ素、テルル、ゲルマニウム等)との合金、水素化非晶質シリコーン、またはシリコーンと他元素(ゲルマニウム、炭素、酸素、窒素等)との化合物からなる非晶質膜が挙げられる。電荷発生層はまた、結晶性セレンおよびその合金の無機顔料、II族〜VI族の化合物、キナクリドン、ジブロモアントアントロン顔料等の多環式顔料、ペリレンジアミン、ペリノンジアミン、多環式芳香族キノン、ビス−、トリス−、およびテトラキス−アゾを含むアゾ顔料等の有機顔料等を成膜性ポリマーバインダー中に分散して塗布する溶媒コーティング技術により作製される膜を含んでもよい。
【0055】
電荷発生層成分のマトリックスとして選択できるポリマーバインダー材料の例としては、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリアリールエーテル、ポリアリールスルホン、ポリブタジエン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイミド、ポリメチルペンテン、ポリ(フェニレンスルフィド)、ポリ(酢酸ビニル)、ポリシロキサン、ポリアクリレート、ポリビニルアセタール、ポリアミド、ポリイミド、アミノ樹脂、フェニレンオキシド樹脂、テレフタル酸樹脂、フェノキシ樹脂、エポキシ樹脂、フェノール系樹脂、ポリスチレンとアクリロニトリルのコポリマー、ポリ(塩化ビニル)、塩化ビニルと酢酸ビニルのコポリマー、アクリレートコポリマー、アルキド樹脂、セルロース膜形成剤(cellulosic film formers)、ポリ(アミドイミド)、スチレンブタジエンコポリマー、塩化ビニリデン−塩化ビニルコポリマー、酢酸ビニル−塩化ビニリデンコポリマー、スチレン−アルキド樹脂、ポリ(ビニルカルバゾール)等の熱可塑性樹脂および熱硬化性樹脂が挙げられる。これらのポリマーはブロックコポリマー、ランダムコポリマー、または交互コポリマーであってもよい。
【0056】
電荷発生層コーティング混合物を混合して、その後、基体、より具体的には正孔阻止層や他の層に塗布するために、スプレー法、ディップコーティング法、ロールコーティング法、巻線ロッドコーティング法(wire wound rod coating)、真空昇華等、従来から公知の種々の好適なプロセスを選択することができる。いくつかの用途では、電荷発生層をドットパターンまたはラインパターンに加工してもよい。溶媒を用いてコーティングされた層の溶媒除去は、オーブン乾燥、赤外線照射乾燥、風乾等の任意の公知の従来技術で行うことができる。
【0057】
本開示のある実施形態の正孔阻止層上への電荷発生層のコーティングは、電荷発生層の最終的な乾燥厚さが本明細書に例示されている厚さとなるように行うことができ、例えば約40〜約150℃で約15〜約90分間乾燥した後に例えば約0.01〜約30μmとなるように行うことができる。より好ましくは、例えば約0.1〜約10μmまたは約0.2〜約2μmの厚さの電荷発生層を、基体上、あるいは基体と電荷輸送層との間にあるその他の構成の表面等に塗布するかまたは堆積させることができる。電荷発生層を塗布する前に、電荷阻止層または正孔阻止層を導電性の支持基体表面に塗布してもよい。
【0058】
所望であれば、電荷阻止層または正孔阻止層または界面層と電荷発生層との間に接着層が含まれてもよい。通常、電荷発生層は阻止層の上に塗布され、電荷発生層の上に1つまたは複数の電荷輸送層が形成される。この構造では、電荷発生層を電荷輸送層の上または下のいずれに有してもよい。
【0059】
光導電体は公知の好適な接着層を含んでもよい。典型的な接着層材料としては、例えばポリエステル、ポリウレタン等が挙げられる。接着層の厚さは種々に変わり得るが、ある実施形態では、例えば約0.05〜約0.3μmである。接着層は、スプレー法、ディップコーティング法、ロールコーティング法、巻線ロッドコーティング法、グラビアコーティング法、バードアプリケータコーティィング法等によって正孔阻止層上に堆積させることができる。堆積させたコーティングの乾燥は、例えばオーブン乾燥、赤外線照射乾燥、風乾等によって行うことができる。
【0060】
通常は正孔阻止層と電荷発生層に接触するか正孔阻止層と電荷発生層の間に位置する、必要に応じて設けてもよい接着層として、コポリエステル、ポリアミド、ポリ(ビニルブチラール)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリウレタン、およびポリアクリロニトリルを含む種々の公知の物質を選択することができる。接着層の厚さは、例えば約0.001〜約1μm、または約0.1〜約0.5μmである。必要に応じて、接着層は、例えば本開示のある実施形態において更に望ましい電気的特性および光学的特性を提供するために、好適且つ効果的な量(例えば約1〜約10重量パーセント)の導電性粒子および/または非導電性粒子(例えば酸化亜鉛、二酸化チタン、窒化シリコーン、カーボンブラック等)を含んでもよい。
【0061】
複数の電荷輸送材料を、電荷輸送層用に選択することができる。この層は通常、約5〜約75μm、より好ましくは約10〜約40μmの厚さである。電荷輸送材料の例としては、下記一般式(7)または一般式(8)で表される構造を有するアリールアミン、ならびに下記一般式(9)または一般式(10)で表される分子が挙げられる。
【0062】
【化10】

【0063】
【化11】

【0064】
(一般式(7)及び(8)中、複数存在するXは、それぞれ独立に、炭化水素基、ハロゲン、またはハロゲン含有炭化水素基を表す。)Xの表す炭化水素基の例としてはアルキル基、アルコキシ基、アリール基が挙げられる。ある実施形態では、アルキル基、アルコキシ基、アリール基は、置換基を有していてもよい。Xの具体例としては塩素(−Cl)およびメチル基(−CH3)が挙げられる。
【0065】
【化12】

【0066】
【化13】

【0067】
(一般式(9)及び(10)中、複数存在するX、Y、およびZは、それぞれ独立に、炭化水素基、ハロゲン、またはハロゲン含有炭化水素基を表す。)Xの表す炭化水素基の例としてはアルキル基、アルコキシ基、アリール基が挙げられ、Xの表すハロゲン含有炭化水素基の例としてはハロゲンで置換されたアルキル基、ハロゲンで置換されたアルコキシ基、ハロゲンで置換されたアリール基が挙げられる。
【0068】
前記一般式群において、X、Y、またはZで表され得るアルキル基およびアルコキシ基は、例えば1〜約25個の炭素原子、より好ましくは1〜約12個の炭素原子を含むものであり得る。具体例としてはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、およびこれらのいずれかを有機基として有するアルコキシドが挙げられる。X、Y、またはZで表され得るアリール基は、炭素原子を6〜約36個含むものであり得る。具体例としてはフェニル基が挙げられる。X、Y、またはZで表され得るハロゲン含有炭化水素基の例としては、塩化物、臭化物、ヨウ化物、フッ化物が挙げられる。ある実施形態では、X、Y、またはZで表され得るアルキル基、アルコキシ基、アリール基は、置換基を有していてもよい。
【0069】
電荷輸送層に選択し得るアリールアミンの具体例としては、アルキル基がメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基等からなる群から選択されるN,N’−ジフェニル−N,N’−ビス(アルキルフェニル)−1,1−ビフェニル−4,4’−ジアミン;ハロゲン置換基がクロロ置換基であるN,N’−ジフェニル−N,N’−ビス(ハロフェニル)−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミン;N,N’−ビス(4−ブチルフェニル)−N,N’−ジ−p−トリル−[p−テルフェニル]−4,4’’−ジアミン、N,N’−ビス(4−ブチルフェニル)−N,N’−ジ−m−トリル−[p−テルフェニル]−4,4’’−ジアミン、N、N’−ビス(4−ブチルフェニル)−N,N’−ジ−o−トリル−[p−テルフェニル]−4,4’’−ジアミン、N,N’−ビス(4−ブチルフェニル)−N,N’−ビス−(4−イソプロピルフェニル)−[p−テルフェニル]−4,4’’−ジアミン、N,N’−ビス(4−ブチルフェニル)−N,N’−ビス−(2−エチル−6−メチルフェニル)−[p−テルフェニル]−4,4’’−ジアミン、N,N’−ビス(4−ブチルフェニル)−N,N’−ビス−(2,5−ジメチルフェニル)−[p−テルフェニル]−4,4’−ジアミン、N,N’−ジフェニル−N,N’−ビス(3−クロロフェニル)−[p−テルフェニル]−4,4’’−ジアミン等が挙げられる。また、例えば米国特許第4,921,773号および同第4,464,450号に記載の公知の電荷輸送層分子を選択してもよい。
【0070】
電荷輸送層に選択し得るポリマーバインダー材料の具体例としては、ポリカーボネート、ポリアリーレート、アクリレートポリマー、ビニルポリマー、セルロースポリマー、ポリエステル、ポリシロキサン、ポリアミド、ポリウレタン、ポリ(シクロオレフィン)、エポキシ、およびこれらのランダムコポリマーまたは交互コポリマーが挙げられ、より具体的には、ポリ(4,4’−イソプロピリデン−ジフェニレン)カーボネート(ビスフェノール−A−ポリカーボネートともいう)、ポリ(4,4’−シクロヘキシリジンジフェニレン)カーボネート(ビスフェノール−Z−ポリカーボネートともいう)、ポリ(4,4’−イソプロピリデン−3,3’−ジメチル−ジフェニル)カーボネート(ビスフェノール−C−ポリカーボネートともいう)等のポリカーボネートが挙げられる。ある実施形態では、電気的に不活性なバインダーは、分子量が約20,000〜約100,000または好ましくは分子量Mwが約50,000〜約100,000のポリカーボネート樹脂を含有する。一般的に、輸送層は約10〜約75重量パーセントの電荷輸送材料、より好ましくは約35〜約50パーセントの電荷輸送材料を含有する。
【0071】
1または複数の電荷輸送層、より好ましくは電荷発生層に接触している第1の電荷輸送層およびその上にある最上層または第2の電荷輸送オーバーコート層は、電気的に不活性な成膜性ポリマー(ポリカーボネート等)に溶解または分子的に分散している電荷輸送小分子を含有していてもよい。ある実施形態において、「溶解している」とは、例えば、ポリマーに小分子が溶解して均一相を形成した状態の溶液を形成していることを意味する。実施形態において「分子的に分散している」とは、例えば、ポリマー中に電荷輸送分子の小分子が分子スケールで分散されていることを意味する。種々の電荷輸送小分子または電気的活性小分子を1または複数の電荷輸送層に選択して用いることができる。ある実施形態では、電荷輸送とは、例えば、電荷発生層で生成した自由電荷が輸送層を横断して輸送されることを可能にするモノマーとしての電荷輸送分子を意味する。
【0072】
1または複数の電荷輸送層用に選択されて種々の有効量(例えば約50〜約75重量パーセント)で存在する正孔輸送分子の例としては、例えば、1−フェニル−3−(4’−ジエチルアミノスチリル)−5−(4’’−ジエチルアミノフェニル)ピラゾリン等のピラゾリン;N,N’−ジフェニル−N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−(1,1’−ビフェニル)−4,4’−ジアミン、N,N’−ビス(4−ブチルフェニル)−N,N’−ジ−p−トリル−[p−テルフェニル]−4,4’’−ジアミン、N,N’−ビス(4−ブチルフェニル)−N,N’−ジ−m−トリル−[p−テルフェニル]−4,4’’−ジアミン、N、N’−ビス(4−ブチルフェニル)−N,N’−ジ−o−トリル−[p−テルフェニル]−4,4’’−ジアミン、N、N’−ビス(4−ブチルフェニル)−N,N’−ビス−(4−イソプロピルフェニル)−[p−テルフェニル]−4,4’’−ジアミン、N、N’−ビス(4−ブチルフェニル)−N,N’−ビス−(2−エチル−6−メチルフェニル)−[p−テルフェニル]−4,4’’−ジアミン、N,N`−ビス(4−ブチルフェニル)−N,N’−ビス−(2,5−ジメチルフェニル)−[p−テルフェニル]−4,4’’−ジアミン、およびN,N’−ジフェニル−N、N’−ビス(3−クロロフェニル)−[p−テルフェニル]−4,4’’−ジアミン等のアリールアミン;N−フェニル−N−メチル−3−(9−エチル)カルバジルヒドラゾン、4−ジエチルアミノベンズアルデヒド−1,2−ジフェニルヒドラゾン等のヒドラゾン;および2,5−ビス(4−N,N’−ジエチルアミノフェニル)−1,2,4−オキサジアゾール、スチルベン等のオキサジアゾール等が挙げられる。ある実施態様において、プリンター等の装置内においてサイクルアップを回避もしくは最小化し且つ高い生産性を得るためには、電荷輸送層はジ−またはトリ−アミノトリフェニルフェニルメタンを実質的に含まない(すなわち、含有量が約2パーセント以下である)必要がある。電荷発生層への効率の良い正孔注入を可能にし、短い通過時間でそれらを電荷輸送層を横断して輸送する、小分子の電荷輸送化合物としては、N,N’−ジフェニル−N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−(1,1’−ビフェニル)−4,4’−ジアミン、N,N’−ビス(4−ブチルフェニル)−N,N’−ジ−p−トリル−[p−テルフェニル]−4,4’’−ジアミン、N,N’−ビス(4−ブチルフェニル)−N,N’−ジ−m−トリル−[p−テルフェニル]−4,4’’−ジアミン、N,N’−ビス(4−ブチルフェニル)−N,N’−ジ−o−トリル−[p−テルフェニル]−4,4’’−ジアミン、N,N’−ビス(4−ブチルフェニル)−N,N’−ビス−(4−イソプロピルフェニル)−[p−テルフェニル]−4,4’’−ジアミン、N,N’−ビス(4−ブチルフェニル)−N,N’−ビス−(2−エチル−6−メチルフェニル)−[p−テルフェニル]−4,4’’−ジアミン、N,N’−ビス(4−ブチルフェニル)−N,N’−ビス−(2,5−ジメチルフェニル)−[p−テルフェニル]−4,4’’−ジアミン、およびN,N’−ジフェニル−N,N’−ビス(3−クロロフェニル)−[p−テルフェニル]−4,4’’−ジアミン、及びこれらの混合物が挙げられる。所望であれば、電荷輸送層中の電荷輸送材料は、ポリマー電荷輸送材料、または小分子電荷輸送材料とポリマー電荷輸送材料との組合せを含有してもよい。
【0073】
例えば側方電荷移動(lateral charge migration;LCM)の抵抗を改善する目的で、複数の電荷輸送層または少なくとも1つの電荷輸送層に必要に応じて導入し得る成分または材料の例としては、テトラキスメチレン(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシヒドロシンナメート)メタン(IRGANOX(商標)1010;チバ・スペシャルティーケミカルズ社(Ciba Specialty Chemical)から入手可能)、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)等のヒンダードフェノール系酸化防止剤、ならびにSUMILIZER(商標)BHT−R、MDP−S、BBM−S、WX−R、NW、BP−76、BP−101、GA−80、GM、およびGS(住友化学株式会社から入手可能)、IRGANOX(商標)1035、1076、1098、1135、1141、1222、1330、1425WL、1520L、245、259、3114、3790、5057、および565(チバ・スペシャルティーケミカルズ社から入手可能)、ADEKA STAB(商標)AO−20、AO−30、AO−40、AO−50、AO−60、AO−70、AO−80、AO−330(旭電化工業株式会社から入手可能)等のその他のヒンダードフェノール系酸化防止剤;SANOL(商標)LS−2626、LS−765、LS−770、およびLS−744(三共株式会社から入手可能)、TINUVIN(商標)144および622LD(チバ・スペシャルティーケミカルズ社から入手可能)、MARK(商標)LA57、LA67、LA62、LA68、およびLA63(旭電化工業株式会社から入手可能)、SUMILIZER(商標)TPS(住友化学株式会社から入手可能)等のヒンダードアミン系酸化防止剤;SUMILIZER(商標)TP−D(住友化学株式会社から入手可能)等のチオエーテル系酸化防止剤;MARK(商標)2112、PEP−8、PEP−24G、PEP−36、329K、およびHP−10(旭電化工業株式会社から入手可能)等の亜リン酸エステル系酸化防止剤(phosphite antioxidant);ビス(4−ジエチルアミノ−2−メチルフェニル)フェニルメタン(BDETPM)、ビス−[2−メチル−4−(N−2−ヒドロキシエチル−N−エチル−アミノフェニル)]−フェニルメタン(DHTPM)等のその他の分子が挙げられる。電荷輸送層の少なくとも1つに含まれる酸化防止剤の重量は、約0〜約20重量パーセント、約1〜約10重量パーセント、または約3〜約8重量パーセントである。
【0074】
1または複数の電荷輸送層のコーティング混合物を混合し、その後電荷発生層に塗布する方法としては、複数のプロセスが考えられる。典型的な塗布技術としては、スプレー法、ディップコーティング法、ロールコーティング法、巻線ロッドコーティング法等が挙げられる。塗布された電荷輸送コーティングの乾燥は、オーブン乾燥、赤外線照射乾燥、風乾等の任意の好適な従来技術を用いて実施し得る。
【0075】
実施形態における電荷輸送層のそれぞれの厚さは、例えば約10〜約70μmであり得るが、実施形態によってはこの範囲外の厚さを選択することもできる。電荷輸送層は、その上の静電潜像の形成および保持を防止するのに十分な程度の照射がない場合には正孔輸送層上の静電荷が伝導されない程度の絶縁性を有する絶縁体であるべきである。一般的に、電荷輸送層と電荷発生層の厚さの比は約2:1〜約200:1であり、場合によっては400:1であってもよい。電荷輸送層は、意図された使用領域において可視光または可視線を実質的に吸収しないが、光導電層または電荷発生層で生成した正孔の注入を可能にし、この正孔を電荷輸送層自体を通して輸送して活性層表面上の表面電荷を選択的に放電することを可能にするという点で、電気的に「活性」である。典型的な塗布技術としては、スプレー法、ディップコーティング法、ロールコーティング法、巻線ロッドコーティング法等が含まれる。塗布されたコーティングの乾燥は、オーブン乾燥、赤外線照射乾燥、風乾等の任意の好適な従来技術を用いて行うことができる。耐刷性付与のために、電荷輸送層の上に、オーバーコート層を設けてもよい。
【0076】
ある実施形態では、本発明は、チタン/ジルコニウム含有グラウンドプレーン層、正孔阻止層、電荷発生層、電荷輸送層、およびオーバーコート電荷輸送層を含む光導電性の画像形成部材であり得る。またある実施形態では、本発明は、厚さ約0.1〜約8μmである電荷発生層およびそれぞれの厚さが約5〜約100μmである少なくとも1層の輸送層を含む光導電性部材であり得る。またある実施形態では、本発明は、荷電部材、現像部材、転写部材、および定着部材を含む画像形成装置であって、カーリング防止裏引きコーティング層(ACBC層)と、支持基体と、グラウンドプレーン層と、正孔阻止層と、その上の電荷発生顔料を含む電荷発生層と、1または複数の電荷輸送層と、その上のオーバーコート電荷輸送層とを含む光導電性の画像形成部材を含み、輸送層の厚さが約40〜約75μmである、当該画像形成装置および画像形成方法であり得る。またある実施形態では、本発明は、電荷発生層の約8〜約95重量パーセントの量で存在する電荷発生顔料を含む、部材であり得る。またある実施形態では、本発明は、電荷発生層の厚さが約0.1〜約4μmである、部材であり得る。またある実施形態では、本発明は、電荷発生層中に存在する電荷発生顔料がクロロガリウムフタロシアニンまたはV型ヒドロキシガリウムフタロシアニンを含む、画像形成部材であって、ここで、V型ヒドロキシガリウムフタロシアニンは、ヒドロキシガリウムフタロシアニンを強酸に溶かしてガリウムフタロシアニン前駆物質を加水分解した後、得られた溶解前駆物質を塩基性水系媒体中に再沈殿させ、形成された全イオン種を水で洗浄して除去し、得られた水およびヒドロキシガリウムフタロシアニンを含む水性スラリーを濃縮して湿ケーキにし、湿ケーキを乾燥させて水を除去し、得られた乾燥顔料に、ヒドロキシガリウムフタロシアニンを形成させる第2の溶媒を添加して混合することで、調製されたものである、該画像形成部材であり得る。またある実施形態では、本発明は、前記V型ヒドロキシガリウムフタロシアニンが、X線回折計による測定で、ブラッグ角度(2θ±0.2°)が7.4度、9.8度、12.4度、16.2度、17.6度、18.4度、21.9度、23.9度、25.0度、28.1度に主なピークを有し、最も高いピークを7.4度に有する、画像形成部材に関する。またある実施形態では、本発明は、電荷発生層が基体と電荷輸送層との間に位置する、光導電性部材であり得る。またある実施形態では、本発明は、電荷輸送層が基体と電荷発生層との間に位置する、部材であり得る。またある実施形態では、本発明は、電荷発生層の厚さが約0.1〜約50μmである、部材であり得る。またある実施形態では、本発明は、ポリマーバインダーに対して約1〜約80重量パーセントの重量の電荷発生顔料が分散されている、部材であり得る。またある実施形態では、本発明は、層成分の全体が約100パーセントとして、バインダーが約50〜約90重量パーセントの量で存在する、部材であり得る。またある実施形態では、本発明は、電荷発生成分がV型ヒドロキシガリウムフタロシアニン、V型チタニルフタロシアニン、またはクロロガリウムフタロシアニンであり、電荷輸送層がN,N’−ジフェニル−N,N−ビス(3−メチルフェニル)−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミン、N,N’−ビス(4−ブチルフェニル)−N,N’−ジ−p−トリル−[p−テルフェニル]−4,4’’−ジアミンの正孔輸送を含む、画像形成部材であり得る。またある実施形態では、前記電荷輸送成分は、下記式で表される化合物であり得る。
【0077】
【化14】

【実施例】
【0078】
[比較例1]
比較例1(A)の作製:厚さ3.5ミリメートルの2軸延伸ポリエチレンナフタレート基体(KALEDEX(商標)2000)上にコーティングされた0.02μm厚のチタン/ジルコニウム層を形成し(コーターデバイス使用)、その上に、グラビアアプリケータまたは押し出しコーターを用いて、50グラムの3−アミノ−プロピルトリエトキシシラン、41.2グラムの水、15グラムの酢酸、684.8グラムの変性アルコール、および200グラムのヘプタンを含む正孔阻止層を塗布することで画像形成部材または光導電体を作製した。次いで、この層をコーター内の強制エアドライヤー中で135℃で約5分間乾燥した。得られた阻止層の乾燥厚は500オングストロームであった。次いで、グラビアアプリケータまたは押し出しコーターを用いて、阻止層の上に湿式コーティングを塗布して接着層を作製した。この接着層は、テトラヒドロフラン/モノクロロベンゼン/塩化メチレンを体積比60:30:10で含む混合物中に、溶液の総重量に対して0.2重量パーセントのコポリエステル接着剤(ARDEL(商標)D100、Toyota Hsutsu社から入手可能)を含んでいた。次いで、接着層をコーター内の強制エアドライヤー中で135℃で約5分間乾燥した。得られた接着層の乾燥厚は200オングストロームであった。
【0079】
電荷発生層形成用分散液を、4オンスのガラス瓶に公知のポリカーボネートIUPILON(商標)200(PCZ−200)またはポリカーボネートZ(商標)(重量平均分子量20,000;三菱ガス化学株式会社から入手可能)0.45グラムおよび50ミリリットルのテトラヒドロフランを入れることで調製した。この溶液に、ヒドロキシガリウムフタロシアニン(V型)2.4グラムと直径1/8インチ(3.2ミリメートル)のステンレス鋼粒(stainless stell shot)300グラムとを加えた。次いで、この混合物を8時間ボールミリングした。その後、2.25グラムのPCZ−200を46.1グラムのテトラヒドロフランに溶解させ、上記ヒドロキシガリウムフタロシアニン分散液に加えた。次いで、得られたスラリーを振盪機に10分間置いた。その後、得られた分散液を、グラビアアプリケータまたは押し出しコーターを用いて上記接着界面に塗布し、湿潤厚さ0.25ミリメートルの電荷発生層を形成した。阻止層および接着層を積層した基体ウェブの一方の縁に沿った幅約10ミリメートルのストリップには、後で塗布する公知のグラウンドストリップ層による適度な電気的接触を容易にするために、電荷発生層材料を何も塗布せずにおいた。電荷発生層を強制エアオーブン中で120℃で1分間乾燥し、厚さ0.4μmの乾燥電荷発生層を形成した。
【0080】
次いで、得られた画像形成部材ウェブに電荷輸送層を2層オーバーコートした。具体的には、電荷発生層を、電荷発生層に接触する第1パス電荷輸送層(底層)でオーバーコートした。電荷輸送層の底層は、褐色瓶にN,N’−ジフェニル−N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミンと、ファルベンファビリーケン・バイエルA.G.社(Farbenfabriken Bayer A.G.)から市販されている平均分子量が約50,000〜約100,000の公知のポリカーボネート樹脂MAKROLON(登録商標)5705とを重量比1:1で導入することで調製した。次いで、得られた混合物を塩化メチレンに溶かし、固形分を15重量パーセント含む溶液を形成した。この溶液を電荷発生層に塗布し、乾燥(120℃、1分間)後の厚さが14.5μmの底層コーティングを形成した。このコーティングプロセス中、湿度は15パーセントまたはそれより幾分低かった。
【0081】
次いで、電荷輸送層の底層に、第2パス最上層をオーバーコートした。最上層の電荷輸送層溶液は、褐色瓶にN,N’−ジフェニル−N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミンと、ファルベンファビリーケン・バイエルA.G.社から市販されている平均分子量が約50,000〜約100,000の公知のポリカーボネート樹脂MAKROLON(登録商標)5705とを重量比0.35:0.65で導入することで調製した。次いで、得られた混合物を塩化メチレンに溶かし、固形分を15重量パーセント含む溶液を調製した。最上層溶液を電荷輸送層の底層に塗布し、乾燥(120℃、1分間)後の厚さが14.5μmのコーティングを形成した。このコーティングプロセス中、湿度は15パーセントまたはそれより幾分低かった。
【0082】
比較例1(B)の作製:第2パス電荷輸送最上層がなく、第1パス層電荷輸送底層の厚さが29μmであること以外は、上記の比較例1(A)と同様に光導電体を作製した。
【0083】
[実施例I]
第1パス電荷輸送層にチオン亜鉛である1−ヒドロキシピリジン−2−チオン亜鉛を0.4重量パーセントの量で添加したこと以外は、比較例1(A)と同様に光導電体を作製した。
【0084】
[実施例II]
第2パス電荷輸送層にチオン亜鉛である1−ヒドロキシピリジン−2−チオン亜鉛を0.4重量パーセントの量で添加したこと以外は、比較例1(A)と同様に光導電体を作製した。
【0085】
[実施例III]
第1パス電荷輸送層及び第2パス電荷輸送層にそれぞれチオン亜鉛である1−ヒドロキシピリジン−2−チオン亜鉛を0.2重量パーセントの量ずつ添加したこと以外は、比較例1(A)と同様に光導電体を作製した。
【0086】
[実施例IV]
第1パス電荷輸送層に下記化合物から選択されるチオン亜鉛を0.8重量パーセントの量で添加したこと以外は、比較例1(A)と同様に光導電体を作製した。
【0087】
【化15】

【0088】
電気的特性試験
上記で作製した比較例1(A)および実施例Iの光導電体を、1回の荷電−除電サイクルに続けて1回の荷電−露光−除電サイクルの順で行う光放電サイクルが得られるように設定したスキャナを用いて試験した。サイクルと共に光強度を漸増させて、測定した種々の露光強度における感光性および表面電位から一連の光放電特性(PIDC)曲線を得た。表面電位を漸増させながら一連の荷電−除電サイクルを行い種々の電圧に対する電荷密度曲線を描き、更なる電気的特性を得た。スキャナには、種々の表面電位で一定の電圧を荷電するように設定したスコロトロンを取り付けた。これら2種類の光導電体を、一連の減光フィルター(neutral density filter)を調整することで露光強度を漸増させながら、表面電位400ボルトで試験した。露光光源には780ナノメートルの発光ダイオードを用いた。ゼログラフィーのシミュレーションは、環境を周囲の条件(相対湿度40パーセント、22℃)に調節した遮光チャンバーで行った。
【0089】
チオン亜鉛を含む光導電体ではほぼ同じPIDC曲線が得られた。電荷輸送層にチオン亜鉛を導入しても実施例Iの光導電体の電気的特性に悪影響はなかった。
【0090】
電荷不足スポット(CDS)の測定
電荷不足スポットの発生を評価し且つ/またはこれに適応するための種々の公知の方法が開発されている。例えば、米国特許第5,703,487号および同第6,008,653号は、電子写真画像形成部材または光導電体の微少欠陥レベルを確認するためのプロセスを開示している。フィールド誘導性暗減衰(field−induced dark decay:FIDD)と名付けられた米国特許第5,703,487号の方法では、既知の画像形成部材および未使用の画像形成部材の、容量値を上回る電荷増加の差または容量値を下回る電圧低下の差を測定し、既知の画像形成部材および未使用の画像形成部材における、容量値を上回る電荷増加の差または容量値を下回る電圧低下の差を比較する。
【0091】
米国特許第6,008,653号および同第6,150,824号は、電子写真画像形成部材中における表面電位の電荷パターンを公知のフローティングプローブを用いて検出する方法を開示している。フローティングプローブマイクロ欠陥スキャナ法(FPS:Floating Probe Micro Defect Scanner)は、電子写真画像形成部材中の表面電位電荷パターンを検出する非接触式の方法である。このスキャナは容量性プローブ、プローブ増幅器、及び浮動固定具を備えている。ここで容量性プローブは、外側シールド電極を有する容量性プローブ(capacitive probe)であって、前記外側シールド電極がプローブを画像形成面に近接かつ離間するように維持してプローブと画像形成面との間に気体を有する平行平板コンデンサを形成させる。プローブ増幅器は、プローブに光学的に接続され、容量性プローブと画像形成面の間の相対移動を確立する。浮動固定具は、プローブと画像形成面の距離を実質的に一定に保つ。プローブと画像形成面とが相互に通過する相対移動に先だって、画像形成面に定電圧電荷を印加し、ブレークダウンを防止するためにプローブを画像形成面の平均表面電位が約+/−300ボルトの範囲内で同期にバイアスし、プローブで表面電位の変動を測定し、この表面電位の変動をプローブと画像形成面の距離の変動について補正し、補正された電圧値を基準電圧値と比較して、電子写真画像形成部材の電荷パターンを検出する。
【0092】
上記で作製した比較例1(A)、対照、および実施例1の光導電体のCDS数を、上述のFPS技術を用いて測定した。結果を以下の表1に示す。
【0093】
【表1】

【0094】
上記のFPS(CDS)試験データは、実施例Iの光導電体で現れたCDS数が比較例1(A)の光導電体よりも少ないことを示した(1.3対2.1個/cm2)。
【0095】
残像発生測定
複数の公知のゼログラフィー印刷エンジン中で、光導電体を選択的に正電荷に曝すと、これらの電荷の一部が光導電体に進入して次の印刷サイクルで潜像として現れることがある。この印刷欠陥はハーフトーンの明度に変化を生じさせることがあり、一般に、先行印刷サイクルで発生した「残像」と呼ばれる。
【0096】
残像発生試験では、連続印刷をシミュレートするべく電気サイクルに光導電体を供した。10サイクルの終り毎に所定量の正電荷を増加させて注入した。その後のサイクルで、これらの注入電荷に対する電気的応答を公知の電気試験器具で測定し、その後、評価スケールに変換した。
【0097】
上記公知のゼログラフィー印刷エンジン中および電気試験器具中において、注入電荷に対する電気的応答で表面電位が低下した。この低下を、作成された印刷物中の比色値に合わせて補正した後、少なくとも2人の観察者の平均評価による評価スケールに補正した。このスケール上で、1は残像が観察されないことを意味し、7以上の値は非常に濃い残像が存在することを意味する。表面電位の変化と残像発生スケールの関数依存性(functional dependence)はわずかに超線形であり、一次近似ではスケールは線形であり得る。残像発生試験は大きな応力条件下(例えば、印刷エンジン中および試験器具中の作動装置は、許容不可能な残像発生に至る電位を有するように設定した)で完了された。
【0098】
直径3/8インチ、厚さ150Åのスパッタラー(spurtterer)を用い、上記比較例1(A)および実施例Iで光導電体の電荷輸送最上層の上に金のドットを堆積させた。光導電体を22℃、50%RHの暗闇(光非存在下)に少なくとも2日間置き、表面を緩和させた。
【0099】
その後、上記電極を付けた光導電体デバイス(電荷輸送層表面上の金のドット)を、上述の方法で金のドットを通して正電荷を注入する試験器具中のサイクルにかけた。次いで、27nC/cm2の注入電荷に対する表面電位の変化を求めた。この値は、強いシグナルが生成されるように、上記のゼログラフィー印刷エンジン中で一般的に予想されるよりも大きな値になるように選択した。最後に、表面電位の変化を前述の較正曲線により残像発生評価に変換した。各光導電体でこの方法を4回行った後、平均を計算した。多くのデバイスで試験した平均の典型的な標準偏差は約0.35であった。残像評価も上記表1に示す。実施例Iの光導電体は残像発生が少なく、比較例1(A)の光導電体の値6.5よりも低い値1.2であった。このように、第1パス電荷輸送層へのチオン亜鉛の導入は残像の発生を大幅に減少させた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体;
電荷発生層;および
チオン亜鉛を含有する、少なくとも1層の電荷輸送層
を含む光導電体。
【請求項2】
前記チオン亜鉛が、前記電荷輸送層の総重量に対して0.1〜10重量パーセントの量で存在する、1−ヒドロキシピリジン−2−チオン亜鉛、亜鉛ピリチオン、ビス(2−ピリジルチオ)亜鉛1,1’−ジオキシド、2−ピリジンチオール1−オキシド亜鉛、およびN−ヒドロキシピリジンチオン亜鉛のうち少なくとも1つを含有し、
前記電荷輸送層が、下記一般式(7)〜(10)のいずれかで表される化合物を少なくとも一つ含有し、かつ
前記電荷発生層が、チタニルフタロシアニン、ヒドロキシガリウムフタロシアニン、ハロガリウムフタロシアニン、ビスペリレン、またはこれらのうちいずれか複数からなる混合物のうち少なくとも1つを含む電荷発生顔料を含有する、
請求項1に記載の光導電体。
【化1】

(一般式(7)〜(10)中、複数存在するX、Y、およびZは、それぞれ独立にアルキル基、アルコキシ基、アリール基、またはハロゲンを表す。)
【請求項3】
下引き層および接着層を更に含み、
前記下引き層がアミノアルキルアルコキシシランを含み、
前記少なくとも1層の電荷輸送層が、1層からなる電荷輸送層、2層からなる電荷輸送層、または3層からなる電荷輸送層であり、
前記下引き層が、ポリアセタール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、アミノプラスト樹脂、メラミン樹脂、およびこれらの混合物からなる群から選択される樹脂バインダーを更に含む、請求項1に記載の光導電体。
【請求項4】
前記チオン亜鉛が、下記化合物のうち少なくとも1つを含み、
前記少なくとも1層の電荷輸送層が電荷輸送最上層および電荷輸送底層を含み、
前記電荷輸送最上層が電荷輸送底層に接触しており、前記電荷輸送底層が前記電荷発生層に接触している、請求項1に記載の光導電体。
【化2】


【公開番号】特開2010−204658(P2010−204658A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−40472(P2010−40472)
【出願日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【出願人】(596170170)ゼロックス コーポレイション (1,961)
【氏名又は名称原語表記】XEROX CORPORATION
【Fターム(参考)】