説明

チオール化合物を利用した金属の腐蝕防止方法及び被覆方法

【課題】金属表面に対する数ナノメータの厚さの耐食性アルカンチオール被覆により、各種金属、特に亜鉛鍍金及び電気亜鉛鍍金鋼の耐食性を向上させる。
【解決手段】本発明は、アルカンチオール化合物及び溶媒を含有する溶液を金属表面に被覆することによって、腐蝕に対する強い遮断壁を提供するように、自己組織化単分子層を形成させて金属表面を被覆する。アルカンチオール化合物は一般式R(CH2nSHを有し、前記式でRはメチル、カルボキシル、ヒドロキシル、ホルミル、またはアミドを示し、nは7乃至21の範囲内、好ましくは12乃至18の範囲内である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腐蝕防止の目的でチオール化合物を利用し、金属表面上に超薄被覆を形成する方法及び被覆方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱力学的見地からは、大部分の金属が、還元条件がある時のみ安定であり、酸化環境に露出すれば腐食される。米国腐食技術者協会(National Association of Corrosion Engineers)によると、米国の家庭、企業、及び政府機関は、腐蝕によって起きる問題を解決するため、年間300兆ドルの費用をかけている。金属製造業者は、様々な方法を利用してこの問題を解決している。鋼製造業者は、各種有機及び無機被覆を利用して運搬及び保管中の冷延鋼板を腐蝕から保護している。いくつかの被覆方法は腐蝕の電気化学的性質を調節するように設計されて、化成(Conversion)及び有機被覆のようなその他の被覆方法は、酸化環境で腐蝕速度を遅延させる物理的遮断壁を形成する。
【0003】
通常の化成被覆は、冷延鋼板をリン酸処理時のリン酸、及び/または、クロム酸処理時のクロム酸に接触させることによって形成され、これらの中で、クロム酸処理がより効果的な腐蝕防止策を提供する。しかし、クロム塩の毒性に対する憂慮によって、クロム化合物を使わない無クロム化成被覆の開発に多くの関心が寄せられている。最近開発されたものは、有機被覆を基本としており、このような有機被覆は、鋼板腐蝕の原因として作用する付着指紋から鋼を保護するものもある。
【0004】
このように開発されてきた各種の無クロム化成被覆の中でも、シランカップリング剤が最も注目を浴びてきた。これら反応性被覆材は、その独特の分子構造によって、一方の側は金属基板に強く結合して、他の側は上部被覆の有機物質に強く結合するように設計されている。シランカップリング剤によって形成された多くの化成被覆は、クロム化成被覆に匹敵するか、それ以上の効果があり、優れたペイント付着性を提供する。
【0005】
Van Ooij等は、加熱(>45℃)されたアルカリ性(pH<10)の水ガラス、例えば、50mMのケイ酸ナトリウム及び5mMのBa(NO32、Ca(NO32、またはSr(NO32を含有したアルカリ溶液で、約30秒間鋼板をリンスする方法を提示した(例えば、特許文献1及び2を参照。)。続けて、鋼板を乾燥して相対的に不溶性であるケイ酸塩被覆を形成した後、0.5〜5.0体積%のシランを含有する溶液でリンスする。
【0006】
Van Ooij等は、また、多官能性シランを利用し、金属基板を処理する方法も提示した(例えば、特許文献3から5を参照。)。多官能性シランは、直鎖または分枝型アルキル鎖の末端のうち、2以上の末端にシラン基を有するものである。好ましいとされる多官能性シランの例としては、2官能型の1,2-ビス(トリエトキシシリル)エタン(BTSE)がある。架橋結合シランは、無機基板に強く結合する反面、官能性シランは表面に吸着された架橋結合シランの上部に吸着する。Van Ooij等は、他の米国特許で亜鉛鍍金鋼にビニルシラン(VS)を処理する方法を提示した。これは高度なペイント接着を提供して、剥離及び下地塗装の腐蝕を防止する(例えば、特許文献6を参照。)。
【0007】
シランは水素結合を通して金属基板(M)上に吸着した後、共有結合(M-O-Si)に変換できる。吸着されたシランは、隣接分子の間でシロキサン結合(Si-O-Si)を通して架橋結合性重合を進行する。
このような両結合メカニズムは、全て莫大なマイナスの吸着自由エネルギーを発生させ、腐蝕に対する強力な遮断効果を与えることができる堅実な表面被覆の形成に寄与することができる。
【0008】
本発明において、アルカンチオールは、亜鉛鍍金冷延鋼板に吸着されて、これらの耐食性を増大させる。チオール基(-SH)は、水系媒質の中で金属基板(M)と強く反応し強い金属-硫黄(M-S)共有結合を形成することができて、アルキル鎖は、互いに会合し炭化水素鎖の稠密な単層を形成することができる。炭化水素鎖の間の引力は、通常疎水性結合と呼ばれる。疎水性結合メカニズムによって形成される界面活性剤の単層は、自己組織化単分子層として知られている。共有結合及び疎水性結合メカニズムは、全て遮断効果を提供することができる堅実な表面被覆の形成に寄与する。一般に、アルカン炭化水素鎖の長さが長くなるほど、より強い腐蝕遮断効果が得られる。メチル基(-CH3)が炭化水素鎖の末端基である場合、これで被覆された表面は疎水性を示すようになって、これは指紋付着を防止できる。メチル基を-OH、-NH2、-COOHなどのような他の官能基に置換すれば、上部被覆に対する被覆された表面(下地面)の親和性を変化させることができる。重合性末端基を利用すれば、遮断効果をさらに増大させることができる。
【0009】
Zamborini及びCrooks(1998)は、ブロマイド(bromide)水溶液の中で、腐蝕から金を保護するn-アルカンチオール自己組織化単分子層の能力を研究した。電圧電流測定分析法を利用した彼らの研究によると、耐食性は、与えられたアルカンチオールの厚さと共に増加した。大体同一鎖の長さのアルカンチオールを利用した場合、耐食性は末端基によって変化して、OH>COOH>CH3の順に、その大きさが減少した。
【0010】
Scherer等(1997)は、炭素数(n)8乃至16範囲のアルカンチオールで被覆されたCu(100)表面の腐蝕を研究した。この研究は同時に走査トンネリング顕微鏡(STM)及び電気化学的技術を利用し、1mMのHCl溶液中で実施された。彼らはチオール被覆が、腐蝕する場所における核形成及び成長を阻害したと報告した。未被覆Cu(100)は酸化されて、銅は層間溶液で溶解された。表面がチオールで被覆された場合、腐蝕はピット(細孔)から始まった。
【0011】
Azzaroni等(2000)は、アルカンチオール(n=12)の自己組織化単分子層が、Cl-陰イオンを含有する電解質溶液の中での酸化銅の形成及び銅の溶解を妨害すると報告した。彼らは、腐蝕抑制が、攻撃的な陰イオンの濃度及び電極電位によって変化したことを発見した。
【0012】
Jennings等(1996)は、シリコンウエハーを銅膜で被覆した後、アルカンチオールの自己組織化単分子層で再被覆した。彼らは、このような単層膜が、水の透過に対する遮断壁を提供することによって、耐食性を増大させたことを明らかにした。一般に、腐蝕速度は膜の厚さの増加に従がって変化して、このような膜の厚さは鎖の長さによって変化する。例えば、8個の炭素(C-8)を有するアルカンチオールが用いられた場合の膜の厚さは1nmであり、C-22のアルカンチオールが用いられた場合の膜の厚さは3nmであった。膜の厚さを追加増大させる手段として、銅膜は、n=11及び22のメルカプトアルコール[HS(CH2nOH]で被覆された後、アルキルトリクロロシラン[CH3(CH217SiCl3]で被覆された。しかし、二重層膜は耐食性の向上においては効果的ではなかった。
【0013】
一方、Nozawa(1997、1999)は、二重層被覆が鉄の耐食性を大きく増大させることを示した。1−オクタデカンチオール(ODT)を利用した鉄の単層被覆は、0.5MのNaCl溶液の中でインピーダンスの測定を行うと保護効率を76.3%まで増加させた。鉄表面をまず、11-メルカプト-1-ウンデカノール(MUO)で被覆した後、トリエトキシオクチルシランで被覆した結果、保護効率が88.0%増加した。MUO-被覆表面を再び1、2-ビス(トリエトキシシリル)エタン(BTSE)及び次に5×10-4Mのトリエトキシオクタデシルシランで被覆した場合、その効率は98.1%まで増加した。Teneichi等(2001)は、0.5MのNa2SO4炭酸溶液の中で銅を保護するためにアルキルイソシアナ−ト(Cn2n+1NCO)にMUOを変形させた。保護効率はオクチル及びオクタデシルイソシアネート各々に対して94.7%及び95.4%まで増加した。
Halko等は、チオール型自己組織化単分子層でインキ-ジェットペンの金メッキオリフィスを処理して表面の湿り具合を調節する技術を提示した(例えば、特許文献7を参照)。このような処理は残留インキの蓄積を減少させることによって、板の腐蝕及び汚染を抑制した(例えば、特許文献7を参照。)。
【0014】
EnickとBeckmanは、金属表面をアミドチオールで被覆して、耐食性を増加させる方法を提示した(例えば、特許文献8を参照。)。一般式F(CF2mCONH(CH2nSHを有し、前記式でn及びmが2乃至20範囲内で可変的な被覆剤はアルミニウム及びその合金を除いて金、銀、ニッケル、銅、黄銅、錫、鉄のような各種金属の保護に効果的であった。
【0015】
King等は、12-メルカプトデカン酸の自己組織化単分子層を使用し遮断効果を創出し付着性を改善させた(例えば、特許文献9を参照)。組織化された分子組立は、水、アルカリ及びその他の腐食性物質に対して不透過性であって、銀メッキ鏡表面上のポリ(メチルメタクリレート)の接着を改善させた。
【0016】
Crottty等は、メルカプト-置換シランを含有した溶液で、金属、特にアルミニウムまたはアルミニウム合金を処理した後、金属を焼成して被覆を硬化する方法を提示した。しかし、Crottty等は、この発明の対象金属には、亜鉛または亜鉛鍍金表面を含まないと明示した(例えば、特許文献10及び11を参照。)。
【0017】
アルカンチオールの自己組織化単分子層が、腐蝕から各種金属を保護するのに効果的である事実はよく知られているが、以上で言及した、いかなる従来技術も亜鉛鍍金冷延鋼板を保護するものとしては設計されなかった。
【特許文献1】米国特許第5,108,793号明細書
【特許文献2】米国特許第5,200,275号明細書
【特許文献3】米国特許第5,292,549号明細書
【特許文献4】米国特許第5,433,976号明細書
【特許文献5】米国特許第5,750,197号明細書
【特許文献6】米国特許第5,759,629号明細書
【特許文献7】米国特許第6,102,521号明細書
【特許文献8】米国特許第6,183,815号明細書
【特許文献9】米国特許第5,487,792号明細書
【特許文献10】国際公開第WO02/072283号パンフレット
【特許文献11】特開2004−523353号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明の目的は、金属表面に対する数ナノメータの厚さの耐食性アルカンチオール被覆により、各種金属、特に亜鉛鍍金及び電気亜鉛鍍金鋼の耐食性を向上させる製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明において、アルカンチオールで被覆する方法は、 界面活性剤分子が金属表面上に稠密な自己組織化単分子層を形成するのに十分な時間の間、有機溶媒中に溶解または分散されたアルカンチオール含有溶液に金属体を浸漬し、次に、金属体を室温または加熱空気中で乾燥して溶媒を除去し金属体表面の有機被覆を硬化する。
【0020】
一つの実施例で提示する被覆方法は、冷延鋼板を、アルカンチオール含有溶液中に浸漬する。他の好ましい実施例では、1−オクタデカンチオール(ODT)をエタノールのような単鎖アルコールの中に溶解し、被覆溶液として使用する。
【0021】
アルカンチオール分子の一側端部は硫化水素基(-SH)からなり、末端基と呼ばれる他の側端部はその他の官能基からなる。アルカンチオール-被覆表面に、更に塩基性の樹脂またはペイントを被覆する場合、上部被覆とのより強い接着を促進するため、一層強い酸性か弱い塩基性の末端基を選択することができる。上部被覆が酸性の場合、塩基性の強い官能基を選択することができる。メチル基が末端基として選択される場合、被覆表面は疎水性の傾向があって、これは指紋が着かないような被覆の製造に寄与する。
【0022】
硫化水素基は、鉄及び亜鉛のような金属基板と強い共有結合を形成することができる。また、表面に吸着する長鎖炭化水素は、疎水性結合を通して同時に互いに会合することによって、炭化水素鎖の稠密な単層を形成する。共有結合及び疎水性結合は、全てシステムの自由エネルギーを減少させて、これは自己組織化単分子層の形成を促進する。炭化水素鎖の稠密な単層は、水分子、酸化剤、及び電解質の拡散を防止することによって腐蝕防止に必須である遮断効果を与える。一般に、炭化水素鎖の長さが長ければ長いほど遮断効果が強くなる。さらに、当業者は自己組織化単分子層で被覆された金属表面が上部被覆として用いられる物質に対して強い親和性を有するようにする末端基を選択することができる。従がって、本発明で提示するアルカンチオールは、基板との強い接着性結合及び強力な遮断効果を提供するだけでなく、上部被覆に対する強い親和性を提供するという長所がある。これら全てはより強い耐食性を達成に寄与する。
【0023】
長鎖アルカンチオール、特にメチル末端基を有する長鎖アルカンチオールは、水に対して不溶性である。この場合、適した溶媒は、腐蝕から保護されるべき金属表面からアルカンチオールを運搬して、その表面上で自己組織化単分子層を順次に容易に形成する。単鎖アルカンチオールを使用する場合、特に極性末端基を有する単鎖アルカンチオールを使用する場合、溶媒として水を用いることができ、重鎖アルカンチオールの場合には、有機溶媒と水の混合物を用いることができる。
【0024】
腐蝕防止のため、アルカンチオールを使用する場合、得られる利点は、これら反応剤が長時間を要せず金属基板上で自己組織化単分子層を容易に形成することができるということである。1−オクタデカンチオールを使用する場合、好ましい溶媒はエタノールである。この場合、電気亜鉛鍍金鋼に要求される浸漬時間は15秒未満である。
【0025】
本発明において、アルカンチオールは亜鉛鍍金(または電気亜鉛鍍金)鋼の耐食性を増加させるため用いられる。これらのアルカンチオールは、樹脂に被覆されて、リン酸処理された亜鉛鍍金鋼及び亜鉛鍍金鋼の耐食性を増加にも用いることができる。
【0026】
第1の発明は、アルカンチオール被覆によって金属の腐蝕を防止する方法であって、a.前記アルカンチオールを溶媒中に溶解または分散させて、溶液または分散液を製造する段階、b.前記金属を前記溶液または分散液で処理する段階、及びc.処理された金属を乾燥または硬化する段階を含む方法を通して、クロムを使用しないで前記金属の耐食性を増加させることを特徴とする。
【0027】
第2の発明は、第1の発明の腐蝕防止方法であって、前記アルカンチオールが一般式R(CH2nSHを有し、前記式でRはメチル、カルボキシル、ヒドロキシル、ホルミル、及びアミドからなる群より選択されて、nは7乃至21の範囲であることを特徴とする。
【0028】
第3の発明は、第1の発明の腐蝕防止方法であって、前記アルカンチオールが、1−オクタデカンチオールであることを特徴とする。
【0029】
第4の発明は、第1の発明の腐蝕防止方法であって、前記金属が、熱延及び酸洗浄鋼板、冷延鋼板、ステンレス鋼板、溶融金属被覆鋼板、電気メッキ金属被覆鋼板、アルミニウム板及びアルミニウム合金板、亜鉛板、亜鉛合金板、銅板、銅合金板、金、及び銀からなる群より選択されることを特徴とする。
【0030】
第5の発明は、第1の発明の腐蝕防止方法であって、前記金属が、鉛、鉛合金、ニッケル、ニッケル合金、亜鉛、亜鉛層、錫、及び錫合金からなる群より選択される一つ以上の被覆層を含むことを特徴とする。
【0031】
第6の発明は、第1の発明の腐蝕防止方法であって、前記金属にアルカンチオールを被覆する前に、亜鉛鍍金、電気-亜鉛鍍金、リン酸処理、樹脂-被覆、またはこれらを混合で処理することを特徴とする。
【0032】
第7の発明は、第1の発明の腐蝕防止方法であって、前記溶媒が、アルコール、グリコール、アセトン、トルエン、酢酸エチル、ヘキサン、フラン、テトラヒドロフラン(THF)、メチレンクロライド、エーテル、ぎ酸、ホルムアミド、N、N-ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、アルカン、テレピン油、ベンゼン、エーテルまたはブチルアセテート、石油エステル、キシレン、四塩化化炭素、ミネラルスピリット、水、及びこれらの混合物からなる群より選択されることを特徴とする。
【0033】
第8の発明は、第7の発明の腐蝕防止方法であって、前記溶媒がエタノール、1-プロパノール、1-ブタノール、及びこれらの混合物からなる群より選択されることを特徴とする。
【0034】
第9の発明は、第1の発明の腐蝕防止方法であって、前記アルカンチオールの濃度が1乃至500mmol/lであることを特徴とする。
【0035】
第10の発明は、第1の発明の腐蝕防止方法であって、前記金属基板が、浸漬、噴霧、ペインティング、ロールコーティング、及びフローコーティング(流し塗り)からなる群より選択される手段を利用し前記溶液または分散液で被覆されることを特徴とする。
【0036】
第11の発明は、第1の発明の腐蝕防止方法であって、前記金属が、浸漬によって前記溶液または分散液で被覆されることを特徴とする。
【0037】
第12の発明は、第11の発明の腐蝕防止方法であって、前記金属を3秒乃至15分間の間、前記溶液または分散液に浸漬することを特徴とする。
【0038】
第13の発明は、アルカンチオール被覆によって亜鉛鍍金鋼の腐蝕を防止する方法であって、a.前記アルカンチオールを溶媒中に溶解または分散させて溶液または分散液を製造する段階、b.前記亜鉛鍍金鋼を前記溶液または分散液で処理する段階、及びc.処理された亜鉛鍍金鋼を乾燥または硬化する段階を含む方法を通して、クロムを使用しないで前記亜鉛鍍金鋼の耐食性を増加させることを特徴とする。
【0039】
第14の発明は、第13の発明の腐蝕防止方法であって、前記亜鉛鍍金鋼を電気-亜鉛鍍金処理することを特徴とする。
【0040】
第15の発明は、メルカプトシラン被覆によって亜鉛鍍金鋼の腐蝕を防止する方法であって、a.前記メルカプトシランを溶媒中に溶解または分散させて溶液を製造する段階、b.前記亜鉛鍍金鋼を前記溶液で処理する段階、及びc.処理された亜鉛鍍金鋼を乾燥または硬化する段階
を含む方法を通して、クロムを使用しないで前記亜鉛鍍金鋼の耐食性を増加させることを特徴とする。
【0041】
第16の発明は、第15の発明の腐蝕防止方法であって、前記メルカプトシランが、一般式HS(CH2nSiR123を有し、前記式でR1、R2、及びR3はアルコキシ基、アルキル基、水素及びヒドロキシ基でできた群より独立的に選択されて、前記nは2乃至10の整数であることを特徴とする。
【0042】
第17の発明は、被覆方法であって、末端メチル基を有するアルキルチオールを利用し亜鉛鍍金及びリン酸処理鋼を被覆して処理される表面の疎水性を増加させることによって、ポリマー樹脂で被覆しなくても鋼に指紋が生じないようにすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0043】
本発明で提示する被覆方法は、冷延鋼板の腐蝕防止に特に有用であり、特に亜鉛鍍金及び電気亜鉛鍍金(EG)鋼がリン酸処理及び/またはポリマー樹脂で追加的に被覆される場合にも効果的である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0044】
本発明において、アルカンチオールは、亜鉛鍍金冷延鋼板に吸着されて、これらの耐食性を増大させる。チオール基(-SH)は、水系媒質の中で金属基板(M)と強く反応し強い金属-硫黄(M-S)共有結合を形成することができて、アルキル鎖は、互いに会合し炭化水素鎖の稠密な単層を形成することができる。
【0045】
炭化水素鎖の間の引力は、通常疎水性結合と呼ばれる。疎水性結合メカニズムによって形成される界面活性剤の単層は、自己組織化単分子層として知られている。共有結合及び疎水性結合メカニズムは、全て遮断効果を提供することができる堅実な表面被覆の形成に寄与する。一般に、アルカン炭化水素鎖の長さが長くなるほど、より強い腐蝕遮断効果が得られる。
【0046】
メチル基(-CH3)が炭化水素鎖の末端基である場合、被覆された表面は疎水性を示すようになって、これは指紋付着を防止することである。
メチル基を-OH、-NH2、-COOHなどのような他の官能基に置換すれば、上部被覆に対する被覆された表面の親和性を変化させることができる。重合性末端基を利用すれば、遮断効果をさらに増大させることができる。
【0047】
添付図は後述する実施例の発錆状況を示していて、各実施例の概要説明を補足する。各実施例の試料は、ポスコ(浦項製鉄;POSCO)で製造された電気亜鉛鍍金(EG)冷延鋼板である。
【0048】
以下、添付図を参照して、本発明の実施例について詳細に説明する。
本発明によると、有機溶媒に溶解されたアルカンチオールを含む被覆溶液が金属表面に塗布される。この被覆は、その金属に対する保護膜として作用する。
【0049】
本発明が提示する抗腐食性チオール被覆は、鉄、鋼、アルミニウム、銅、亜鉛、錫、金及び銀のような様々な金属基板に対して耐食性を提供することができる。鉄鋼産業で、チオール被覆は(非制限的に)熱延及び酸洗浄鋼板、冷延鋼板溶融または電気メッキ金属-被覆鋼板、及びペイント処理された鋼板に塗布できる。金属被覆は鉛、鉛合金、ニッケル、ニッケル合金、亜鉛、亜鉛層、錫、及び錫合金などで作られる一つ以上の層を含むことができる。板は金属基板の連続ストリップまたは薄、及び所定長さに切断されたもの等を含む。ペイント処理された鋼板は、鋼、金属メッキ鋼板、及び樹脂被覆鋼板に塗布されたリン酸塩化成被覆を含む。本発明は特に電気亜鉛鍍金(EG)冷延鋼板に有用である。
【0050】
好ましい実施例で、金属基板上に保護被覆を形成に用いられるチオール化合物は、一般式がR(CH2nSHであるアルカンチオールを含有して、前記式でRは非制限的にメチル(-CH3)、アミノ(-NH2)、カルボキシ(-COOH)、カルボキシラト(-COO-)、ヒドロキシ(-OH)、アミド(-CONH2)、ホルミル(-COH)などを含む末端基を意味する。下付き添字nは、アルカン鎖内の炭素数を意味して、7乃至21、好ましくは12乃至18の範囲にある。特に好ましい本発明の実施例で、ODTの一般式はCH3(CH217SHである。長鎖炭化水素によって、アルカンチオールは自己組織化単分子層を形成し、このように形成される自己組織化単分子層は、遮断効果及び強い腐蝕防止を提供することができる。
【0051】
メチル末端基を有するODTのようなアルカンチオールは、低い表面自由エネルギーを有する疎水性被覆を生成することができる反面、アミノ、カルボキシ及びヒドロキシ基で末端処理されたアルカンチオールは、通常の知識によれば、相対的に高いエネルギーの表面を生成して、樹脂及びペイントのような上部被覆に対する接着に寄与する。末端基は上部被覆の性質によって選択されることができる。上部被覆が塩基性の場合、アルカンチオールの末端基は逆に酸性のものが選択されることができる。
【0052】
アルカンチオールの溶解度は、分子構造、溶媒、及び温度によって変わる。好ましい溶媒は、非毒性で安く、取扱が容易なものである。そのような溶媒としては、非制限的に、アルコール、グリコール、アセトン、トルエン、酢酸エチル、ヘキサン、フラン、テトラヒドロフラン(THF)、メチレンクロライド、エーテル、ぎ酸、ホルムアミド、N、N-ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、アルカン、テレピン油、ベンゼン、エーテル及びブチルアセテート、石油エステル、キシレン、四塩化炭素、ミネラルスピリット、及び水、またはこれらの調合物が含まれる。直鎖炭化水素を含有する溶媒は、金属基板上でアルカンチオールの自己組織化単分子層生成時に、環状または分枝型炭化水素を含有するものより少なく分裂されるということが好ましい点である。
【0053】
本発明のアルカンチオール溶液は、噴霧、ペインティング、浸漬、ロールコーティング、またはフローコーティング(流し塗り)技術を含む公知の任意の被覆技術によって金属基板上に塗布できる。これらの中で、浸漬は機械的撹乱なく自己組織化単分子層を形成させるという点で最も好ましい。
【0054】
金属表面は洗浄されて汚染がない状態にすべきである。表面から任意のグリース、オイルまたは汚物の除去は必須である。長期間の空気露出による金属基板の表面酸化は、アルカンチオールの堅実な自己組織化単分子層の形成に有 害である。従がって、金属基板は製造後、可能な限り速やかに被覆することが好ましい。必要な場合、本発明で提示されたアルカンチオールで表面を被覆する前に、表面から酸化物を除去することが好ましい。
【0055】
本発明の重要な媒介変数は、溶液中のアルカンチオールの濃度であり、稠密な単層が短時間の浸漬によって金属基板上に形成するのに十分な高濃度になるべきである。要求されるアルカンチオールの最少濃度は約1mMであり、濃度が約500mM以上に増加することは好ましくない。好ましい実施例で、アルカンチオール溶液は、20乃至50mMの濃度範囲で用いられる。冷延鋼板に対する被覆材料としてODTを利用する場合、被覆の厚さは通常2乃至3μm範囲である。
【0056】
本発明の利点は、金属基板にアルカンチオールの稠密な自己組織化単分子層を形成するためにかかる時間が相対的に短いことである。浸漬時間は、理論的に数秒乃至数時間の間でありうる。しかし、15秒以上の被覆時間は一般に鋼製造に適当でない。本発明で実施された大部分の実験テストでの浸漬時間は1分乃至5分であった。しかし、エタノール溶液中のODTで冷延鋼板を被覆する場合、3秒乃至11秒範囲の浸漬時間であれば十分であることが分かった。被覆後、被覆された表面は室温または加熱下での蒸発を通して乾燥されたり、空気または窒素気流を利用して乾燥したりできる。被覆表面が熱乾燥される場合、その温度は被覆された物質の溶融点および燃焼点よりも低くすべきである。60乃至180℃範囲の温度で、乾燥及び硬化工程は10秒乃至数分以内に完成することができる。
【0057】
以下では、例示を通して発明をより詳細に説明する。
【実施例1】
【0058】
実施例では、ポスコ(浦項製鉄;POSCO)で製造された電気-亜鉛鍍金(EG)冷延鋼板を大きさ12×7.5cmの小さいパネルに切断した。これを長鎖炭化水素で亜鉛-被覆鋼表面上に稠密な自己組織化単分子層を容易に形成することができる1−オクタデカンチオールで被覆を施した。被覆は、冷延鋼パネルを0.05MのODTエタノール(無水アルコール)溶液中に5分間浸漬することによって実施した。次に、被覆表面を120℃下のオーブンで5分間乾燥した。被覆は、明るい灰色を示した。被覆された表面は高度な疎水性であり、これは末端CH3-基が前記表面から分離されることを示唆する。表1に示したように、水接触角は、被覆により72°から124°に増加し、被覆された表面の表面自由エネルギーは45.24mJ/m2から34.63mJ/m2に減少した。Tafelの研究結果によると、ODT被覆は、腐蝕電流を実質的に49.04μA/cm2から8.78μA/cm2に減少させたことを示しており、これはODT被覆がEG鋼の耐食性を大きく増加させることを示唆する。
【0059】
被覆された冷延鋼パネルに対してASTM-B117に規定された標準手続によって塩水噴霧テストを実施した。比較のため、(i)非処理EG冷延鋼パネル、(ii)1、2-ビス(トリエトキシシリル)エタン(BTSE)で被覆されたパネル、及び(iii)トリエトキシビニルシラン(VS)で処理されたパネルに対しても塩水噴霧テストを実施した。
【0060】
Van Ooij(米国特許第5、292、549号、第5、750、197号、及び第5、759、629号)によって提示された手続によって前記シラン被覆を塗布した。
【0061】
図1は、60時間の塩水噴霧テスト後、相異した条件下で処理されたパネルの写真を示す。未処理パネルは、煙霧チャンバー内で2時間乃至4時間後に、錆び始めた反面、ODT-被覆パネルは50時間乃至60時間後にも正常な状態を保った。非保護パネル(EG鋼)には赤い錆がついているのに対し、1−オクタデカンチオール(ODT)に被覆されたEG鋼には錆がつかない。表面上の水滴は、ODT-被覆表面が疎水性であることを示す。BTSEまたはVSに被覆されたEG鋼パネルには、白い錆がついている。図1に示すように、ODT-被覆パネルは表面上に水滴を示しており、これはその表面が疎水性であることを意味する。ODTに被覆されたパネルは、BTSE及びVSに被覆されたものより長期間の間維持された。
【0062】
亜鉛鍍金鋼板上のBTSE及びVS被覆は、堅実で優れた腐蝕防止を提供すると知られている(Van Ooij及びChild、1998、米国特許第5、750、197号及び米国特許第5、292、549号)。
【0063】
【表1】

【実施例2】
【0064】
実施例1では、50mMのODTエタノール溶液中に電気亜鉛鍍金冷延鋼パネルを5分間浸漬して被覆を実施した。しかし、作動設備内でそのような長時間の浸漬またはディッピング(dipping)を実施することは難しい。従がって、はるかに短時間の間、ディッピングしてテストを遂行する必要があった。実施例2では、大きさが12×7.5cmのEG鋼パネルを50mMのODTエタノール溶液に3秒、7秒及び11秒間浸漬した。被覆されたパネルを100℃下のオーブンで2分間乾燥して、塩水噴霧テストを実施した。図2に示すように、非保護パネル(EG鋼)には赤い錆がついているのに対し、ODTに被覆された他のパネルには錆がついていない。非処理EG鋼(対照群)は、2時間乃至4時間内に錆び始めた反面、ODTで処理されたEG鋼パネルは48時間後にも腐蝕の徴候をほとんど示さなかった。このような短時間で処理されたEG鋼パネルが依然として優れた耐食性を示すということは(a)ODTが亜鉛金属と迅速に反応して、(b)10秒のディッピング時間は、現状の生産ラインでの処理時間としては十分であることを意味する。
【実施例3】
【0065】
本実施例では、ODTに対して相異した溶媒を利用した効果を調べた。3種類の異なる溶媒、つまり、エタノール、酢酸エチル、及びベンゼンを実験で用いた。各実験で、EG鋼のパネルを50mMのODT溶液に5分間のディッピングにより被覆した。被覆されたパネルを空気中で数分間乾燥して溶媒を蒸発させた。ODT-被覆パネル及び非処理EG鋼パネルに対して塩水噴霧テストを実施した。図3に、塩水噴霧テストを行ってから60時間後のパネル写真を示す。非保護パネル(EG鋼)には赤い錆がつき、エタノールまたは酢酸エチルの中に溶解されたODTで処理されたEG鋼パネルには錆がつかないのに対し、ベンゼンの中に溶解されたODTで処理されたEG鋼パネルには白い錆がついている。
【0066】
図3に示すように、ベンゼン中に溶解されたODTに被覆されたパネルが対照群を除いた他のパネルより速く腐蝕された。酢酸エチル中に溶解されたODTは適当な保護効果が現れたが、エタノールを溶媒として使用したものに比して、その結果が良好でないことが分かった。ベンゼンのような環構造の溶媒は、ODTのような長鎖界面活性剤の稠密な自己組織化単分子層の形成に寄与できないことがある。エタノール及び1-ブタノールのような直鎖アルコールが最も優れた結果を提供した。
【実施例4】
【0067】
先に述べたように、本発明で提示された金属に対する腐蝕防止技術を、EG鋼に適用した。本実施例では、電気-亜鉛鍍金及びリン酸処理冷延鋼パネルをアルカンチオールで被覆して塩水噴霧テストを実施した。本実施例に用いられた大きさ12×7.5mmのリン酸処理パネルはPOSCOから提供された。一枚のパネルを20mMのODTエタノール溶液に5分間浸漬して、100℃下のオーブンで5分間乾燥した。他のパネルを1体積%のVS溶液に1分間浸漬した後、被覆された表面上に乾燥窒素ガスを噴射し乾燥させた。対照群であるリン酸処理パネルは、52時間煙霧チャンバー内で塩水噴霧テストを実施した。比較のために、未処理されたリン酸処理パネル及びクロム-リンスリン酸処理EG鋼
パネルも同一煙霧チャンバー内に配置した。
【0068】
図4に示したように、非保護リン酸処理パネル(EG鋼)には赤い錆がついている。ODTに被覆されたパネルには有意な錆がない。クロム酸塩洗浄またはビニルシラン(VS)被覆で処理されたパネルはひどく錆びている。ODT-被覆パネルが52時間後、最小の腐蝕を示した。ODT-被覆パネルは、クロムまたはVSに被覆されたものより優れていた。従がって、ODTのようなアルカンチオールを利用したリン酸処理鋼の被覆技術は腐蝕防止のため、クロムを使用する従来の方法を容易に代替することができる。本発明の特有の利点は、チオール溶媒及び本実施例に用いられた溶媒はいずれも毒性がないことである。
【実施例5】
【0069】
本実施例では、樹脂で被覆されたEG鋼の耐食性をさらに改善するため、アルカンチオールを使用した。大きさ12×7.5mmのEG鋼パネル2枚を工業用樹脂で被覆した。No.5棒被覆機を利用し表面上に1-2μmの厚さの被覆を形成させて、被覆されたパネルを150℃下のオーブン内に5分間配置した。次に、1枚のパネルを50mMのODTエタノール溶液に5分間浸漬した後、室温で空気乾燥させた。樹脂-被覆及び樹脂/ODT-被覆EG鋼パネルを塩水噴霧テストのために煙霧チャンバー内に配置した。比較のため、非処理EG鋼パネルに対しても塩水噴霧テストを実施した。図5は、煙霧チャンバー内で240時間放置された後のパネルの写真を示す。非保護パネル(未処理EG鋼)には赤い錆がつき、樹脂に被覆されたEG鋼には腐蝕染みが示されている。樹脂に被覆された後、ODTに被覆されたEG鋼パネルらはほとんど錆ついていない。工業用樹脂に被覆されたEG鋼パネルは、相当な腐蝕を示した反面、樹脂に被覆された後、ODTに被覆されたパネルは錆の兆しを示さなかった。従がって、図5に示した結果は、樹脂-被覆EG鋼の性能がアルカンチオール被覆によってさらに改善できることを立証するものである。
【実施例6】
【0070】
本実施例では、樹脂-被覆EG鋼の耐食性を改善させる他の方法を提示する。まずEG鋼パネルを、アルカンチオールで被覆した後、樹脂で再被覆した。極性末端基を有するアルカンチオールを選択することによって、基板に対する樹脂の付着、及びこれを通した樹脂-被覆鋼の耐食性を増加させることができた。
【0071】
本実施例では、大きさ12×7.5mmのEG鋼パネルを20mMの16-メルカプトヘキサデセン酸(MCA)溶液に10秒間浸漬した。エタノール:水混合物を4:1に混ぜ、アルカンチオールに対する溶媒として使用した。被覆された表面を乾燥窒素ガスのストリーム及び120℃のオーブン内で5分間乾燥させた。MCA-被覆パネルを再び実施例5に記載された方式と同一方式により工業用樹脂で被覆した。他のEG鋼パネルは、樹脂だけで被覆した。MCA/樹脂-被覆EG鋼パネル及び樹脂-被覆EG鋼パネルに対して塩水噴霧テストを実施した。図6は、144時間の塩水噴霧テスト後のパネルの写真を、対照群である非処理EG鋼パネルの写真と共に示す。図6に示したように、非保護パネル(EG鋼)には赤い錆がつき、樹脂に被覆されたEG鋼には腐蝕染みが示されている。樹脂に被覆された後、16メルカプトヘキサデセン酸(MCA)で被覆されたEG鋼パネルらはほとんど錆ついていない。対照群及び樹脂-被覆パネルは相当な腐蝕を示したが、MCA/樹脂-被覆パネルは正常な状態を維持した。
【0072】
本実施例で、MCAはその独特の構造式[HS(CH215COOH]によって選択された。分子の一側端部は、金属基板と共有結合を形成する硫化水素基を有し、カルボキシ基は樹脂と強く結合する。従がって、本実施例で用いられたアルカンチオールはカップリング剤の役割をする。
【実施例7】
【0073】
本実施例で、電気亜鉛鍍金冷延鋼パネルの被覆に、他の二官能性アルカンチオールを使用した。5体積%の3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン(MPS)溶液をエタノール:水(50:50)の混合物の中に用意して、4時間攪拌して得られた反応物を部分加水分解させた。次に、大きさ12×7.5cmのEG鋼パネルを、前記溶液に10分間浸漬した後、150℃下のオーブンで10分間乾燥させた。MPSの硫化水素基は、基板上の亜鉛と共有結合を形成し、吸着されたMPSのシリルオキシ基はSi-O-Si連結を形成することによって架橋結合性重合を進行する。MPSの炭化水素鎖は単鎖であるが、末端基の間の架橋結合性重合は、表面上に堅実な被覆を提供して遮断効果を提供する。
【0074】
MPSに被覆されたEG鋼パネル及び未処理パネルに塩水噴霧テストを実施した。48時間の塩水噴霧テスト後、未処理パネルについてはテストを中止し、MPS-被覆パネルは錆の兆しを示さなかった。このような結果は、亜鉛鍍金冷延鋼に対する腐蝕抑制において、重合性の二重作用性アルカンチオールの使用効果を立証する。長鎖アルカンを有するメルカプトシランはより良好な腐蝕防止が可能である。
【実施例8】
【0075】
本実施例では、リン酸処理EG鋼パネルをODTで被覆して、表面が疎水性に成るように作ったが、これは無指紋鋼(指紋の付き難い鋼)にするために要求される特徴である。大きさ12×7.5cmのパネルを5mM乃至70mMのODT溶液に5分間浸漬して、暖かい乾燥窒素ストリーム下で乾燥させた後、120℃のオーブンで5分間硬化した。液滴法を利用して、水の接触角を測定し被覆されたサンプルの疎水性を測定した。その結果を表2に示す。ODT-被覆パネルの接触角は、調査した濃度範囲で、133度乃至144度範囲にあった。反面、ODT被覆がないリン酸処理EG鋼の接触角は0°であった。表2には比較のために工業的に製造された無指紋冷延鋼板の接触角(87°)も示す。従って、末端メチル基を有するアルカンチオールを利用し、リン酸処理鋼を被覆することは、ポリマー被覆なしに無指紋鋼を製造するのに有用である。
【0076】
ODTで処理した被覆鋼パネルに対して実施された塩水噴霧テストは、36乃至52時間の間、耐食性を示したのに対し、未処理リン酸処理EG鋼は8乃至12時間の間だけ、耐食性を示した。ポリマー被覆パネルは、106乃至128時間保存されて、これはポリマー樹脂被覆がODT被覆よりはるかに厚いためであろう。
【0077】
【表2】

【0078】
本発明を最も実用的で好ましい実施例に結び付けて説明したが、本発明がこのような実施例に限定されることなく、添付した特許請求の範囲の概念と範囲内に含まれた様々な変形と同等な実施例を含む。
【0079】
本発明によるアルカンチオール被覆を通して、各種金属、特に亜鉛鍍金及び電気亜鉛鍍金鋼の耐食性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】60時間塩水噴霧テスト後のEG鋼パネルの写真を示す。
【図2】48時間塩水噴霧テスト後のEG鋼パネルの写真を示す。
【図3】60時間の塩水噴霧テスト後のEG鋼の写真を示す。
【図4】52時間塩水噴霧テスト後のリン酸処理EG鋼パネルの写真を示す。
【図5】240時間の塩水噴霧テスト後のEG鋼パネルの写真を示す。
【図6】144時間の塩水噴霧テスト後のEG鋼パネルの写真を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メルカプトシラン被覆によって亜鉛鍍金鋼の腐蝕を防止する方法であって、
a.前記メルカプトシランを溶媒中に溶解または分散させて溶液を製造する段階、
b.前記亜鉛鍍金鋼を前記溶液で処理する段階、及び
c.処理された亜鉛鍍金鋼を乾燥または硬化する段階
を含む方法を通して、クロムを使用しないで前記亜鉛鍍金鋼の耐食性を増加させることを特徴とする腐蝕防止方法。
【請求項2】
前記メルカプトシランが、一般式HS(CH2nSiR123を有し、前記式でR1、R2、及びR3はアルコキシ基、アルキル基、水素及びヒドロキシ基でできた群より独立的に選択されて、前記nは2乃至10の整数であることを特徴とする請求項1に記載の腐蝕防止方法。
【請求項3】
末端メチル基を有するアルキルチオールを利用し亜鉛鍍金及びリン酸処理鋼を被覆して処理される表面の疎水性を増加させることによって、ポリマー樹脂で被覆しなくても鋼に指紋が生じないようにする被覆方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−202147(P2008−202147A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−113311(P2008−113311)
【出願日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【分割の表示】特願2005−39046(P2005−39046)の分割
【原出願日】平成17年2月16日(2005.2.16)
【出願人】(502258417)ポスコ (73)
【出願人】(505058997)ヴァージニア テック インタレクチュアル プロパティーズ インコーポレイテッド (1)
【Fターム(参考)】