説明

チガヤ属の増殖方法

【課題】チガヤ等のチガヤ属を効率的に増殖できるチガヤ属の増殖方法及び再分化方法を提供すること。
【解決手段】チガヤ属の多芽体カルスを、2,4-D及びBAPを組み合わせて添加した培地で増殖する増殖工程を含むことを特徴とするチガヤ属の増殖方法。増殖された前記多芽体カルスを、ジベレリン及びカイネチンを組み合わせて添加した培地にて培養し、植物体再分化させる植物体再分化工程を含むことを特徴とする請求項1記載のチガヤ属の増殖方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チガヤ属の植物(例えばチガヤ)の増殖方法に関する。
【背景技術】
【0002】
チガヤ(Imperata cylindrica L.)は、熱帯から温帯にかけて分布しているイネ科チガヤ属の多年生草本植物であり、わが国では、沖縄から北海道南部までの畦畔、河川堤防、法面および空き地等に生育している。チガヤの生育特性は、根茎が非常に発達し、乾燥にも強く、刈り取り後の再生も旺盛である。そのため、チガヤは、家畜の飼料、道路の法面や河川堤防の緑化植物、重金属汚染土壌を浄化するファイトレメディエーションとして利用されている。
【0003】
チガヤを緑化植物等として利用する場合、草刈り等の作業を軽減できる低管理品種(例えば矮性チガヤ:草丈が極めて短く、分げつ数及び草幅においては通常と同様)の育成が望まれている。低管理品種を作出する方法としては、チガヤの多芽体カルスに重イオンビームを照射して突然変異を誘導し、その後、多芽体カルスから再分化した植物体を育成し、突然変異により生じた低管理品種を選択する技術が開示されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−202468号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
チガヤは、栄養繁殖による植え付けによって増殖される。この方法は、多大な労力と時間が必要であり、また、季節的な制約を受ける。そのため、上記のように作出した低管理品種を効率的に増殖することは困難であった。
【0006】
本発明は、以上の点に鑑みなされたものであり、チガヤ等のチガヤ属を効率的に増殖できるチガヤ属の増殖方法及び再分化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のチガヤ属の増殖方法は、チガヤ属の多芽体カルスを、2,4-D及びBAPを組み合わせて添加した液体培地で増殖する増殖工程を含むことを特徴とする。
本発明によれば、チガヤ属を効率的に(例えば、安価且つ大量に)増殖することができる。
【0008】
前記2,4-Dは、ホルモンの一種である2,4-dichlorophenoxyacetic acidを意味する。培地における2,4-Dの濃度は、0.01〜0.1mg/Lの範囲が好ましい。また、前記BAPは、ホルモンの一種である6-Benzylaminopurineを意味する。培地におけるBAPの濃度は、0.1〜2.0mg/Lの範囲が好ましい。
【0009】
前記培地としては、MS培地(Murashige・Skoog 1962)を基本培地とし、それに2,4-D及びBAPを組み合わせて添加した液体培地とすることが好ましい。
本発明のチガヤ属の増殖方法では、増殖された前記多芽体カルスを、ジベレリン(Gibberellin A3)及びカイネチン(Kinetin)を組み合わせて添加した培地にて培養し、植物体再分化させる植物体再分化工程を含むことが好ましい。この植物体再分化工程を用いることにより、多芽体カルスからのシュートの伸長を促進し、多くの植物体を再生することができる。その結果、チガヤ属を一層効率的に増殖することができる。
【0010】
上述した植物体再分化工程は、ジベレリン及びカイネチンを組み合わせて添加した液体培地で培養する工程と、ジベレリン及びカイネチンを組み合わせて添加した固形培地で培養する工程と、を含むことが好ましい。こうすることにより、植物体再分化が一層効率的に行われる。すなわち、液体培地で培養する工程において、シュートの伸長が促進され、固形培地で培養する工程で、多くの植物体が再生する。
【0011】
培地におけるジベレリンの濃度は、0.5〜1.0mg/Lの範囲が好ましい。また、培地におけるカイネチンの濃度は、0.5〜1.0mg/Lの範囲が好ましい。
再生した植物体は、培地で培養することで発根し、幼植物体へ成長する。このときの培地としては、例えば、ホルモンフリー1/2MS固形培地(以下1/2培地とする)が好ましい。
【0012】
前記チガヤ属としては、例えばチガヤが挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】多芽体カルスの誘導、増殖、及び植物再分化を表す写真である。
【図2】アントシアニンの蓄積による多芽体カルスの外観への影響を表す写真である。
【図3】多芽体カルスの形状を表す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態を説明する。
【実施例1】
【0015】
1.多芽体カルスの誘導
特開2007−202468号公報に記載されている方法で、多芽体カルスを誘導した。具体的には、以下のように誘導した。宮崎大学内圃場に自生するチガヤの生長点をカルス誘導の外殖体として用いた。すなわち、生長点を含んでいる分げつを上部から4〜5枚の葉鞘を残して、長さ5cm程度に切り取り、70%エタノールで1分、2%の次亜塩素酸ナトリウムで15分間表面殺菌を行い、次いで滅菌水で3回洗浄した後にクリーンベンチ内で表面の葉鞘を取り除き、葉原基を1〜2枚残した生長点を培養に供した。
【0016】
MS培地を基本培地とし、カルス誘導のための植物ホルモンとして2,4-D及びBAPを組み合わせて添加した寒天培地(0.3% ゲルライト)に、摘出した生長点を置床し、多芽体カルスを誘導した。図1(a)に、寒天培地上で誘導された多芽体カルスを示す。
【0017】
2.多芽体カルスの増殖
誘導した多芽体カルスを、MS培地を基本培地とし、所定のホルモンを添加した液体培地(3% sucrose)へ移植し、27℃の下、明所にて振とう培養を行った。培養開始から、14日毎に、同新鮮培地で継代培養を行った。
【0018】
ここで用いた液体培地(特に添加したホルモン)は、表1に示すA1〜A5のうちのいずれかであり、それぞれについて多芽体カルスの増殖を行った。
【0019】
【表1】

【0020】
図1(b)に、液体培地中で培養されている多芽体カルスを示す。
3.植物体再分化
(3−1)A1、A2の培地で増殖した多芽体カルスを、所定の液体培地へ移植し、シュートの伸長を促した。図1(c)に、この工程における多芽体カルスを示す。
【0021】
(3−2)次に、上記(3−1)と同じ組成の固形培地で植物体の再生を行った。図1(d)に、この工程により再分化した多芽体カルスを示す。
上記(3−1)及び(3−2)で用いる培地の組成は、以下に示すB1〜B4のうちのいずれかであり、それぞれについて実験を行った。
B1:1.0mg/L ジベレリン+1.0mg/L カイネチン添加MS液体培地
B2:ホルモンフリーMS液体培地
B3:ホルモンフリー1/2MS液体培地
B4:2.0mg/L BAP+0.01mg/L 1-Naphthylacetic Acid添加MS液体培地
4.発根の促進
再分化したシュートを、0.8%の寒天を添加したホルモンフリー1/2MS固形培地に移植し、発根を促した。図1(e)に、再分化植物体の発根を示す。
なお、全ての振とう培養は、pHを5.8に調整し、液体培地20mlを注入した三角フラスコ(100ml)を110rpmにて旋回させる方法で行った。
【0022】
5.評価
以下の項目について評価を行った。
(5−1)多芽体カルスの増殖量
多芽体カルスの重量を、増殖の前後でそれぞれ測定し、2週間後におけるその変化量(増殖量)を算出した。また、目視で増殖の程度を評価した。その結果を上記表1に示す。表1において、+が多いほど、増殖が著しいことを示す。
【0023】
表1に示すように、液体培地がA1、A2の場合は、液体培地がA3〜A5の場合よりも、多芽体カルスの増殖が著しかった。
(5−2)増殖後の多芽体カルスにおけるアントシアニンの蓄積
アントシアニンの蓄積の程度により、多芽体カルスの外観は変化する。図2における右側はアントシアニンが蓄積された多芽体カルスであり、左側はアントシアニンが蓄積されていない多芽体カルスである。増殖後の多芽体カルスを目視観察し、アントシアニンの蓄積の程度を評価した。その結果を上記表1に示す。表1において、+が多いほど、アントシアニンの蓄積が著しいことを示す。
【0024】
なお、アントシアニンは植物の二次代謝物であって、細胞がストレスを受けることにより分泌される。そのため、アントシアニンの蓄積により二次代謝が確認されるということは、植物の成長が遅延されていると考えられる。
【0025】
表1に示すように、液体培地がA1、A2の場合は、アントシアニンの蓄積がなく、液体培地がA3〜A5の場合は、アントシアニンの蓄積が著しかった。
(5−3)増殖後の多芽体カルスの形状
増殖後の多芽体カルスを観察し、その形状が小粒状であるか、大粒状であるかを評価した。その結果を上記表1に示す。図3(a)に、液体培地がA2の場合の多芽体カルスの形状(小粒状)を示す。また、図3(b)に、大粒状の形状を示す。
【0026】
表1に示すように、いずれの液体培地の場合でも、多芽体カルスの形状は小粒状であった。小粒状である多芽体カルスは、大粒状であるものに比べて、増殖しやすいと考えられる。
(5−4)再分化した植物体の伸長の早さ
再分化した植物体の伸長の早さを、目視観察により評価した。その結果を表2に示す。
【0027】
【表2】

【0028】
表2において、+が多いほど、植物体の伸長が著しいことを示す。表2に示すように、培地がB1の場合は、培地がB2〜B4の場合よりも、植物体の伸長が著しかった。
また、培地が同じB1であっても、液体培地A1を用いて増殖した多芽体カルスの場合は、液体培地A2を用いて増殖した多芽体カルスの場合よりも、再分化した植物体の伸長の早さが一層著しかった。
(5−5)再分化した植物体におけるアントシアニンの蓄積
再分化した植物体を目視観察し、アントシアニンの蓄積の程度を評価した。その結果を上記表2に示す。表2において、+が多いほど、アントシアニンの蓄積が著しいことを示す。表2に示すように、培地がB1の場合は、アントシアニンの蓄積が見られず、培地がB2〜B4の場合は、アントシアニンの蓄積が著しかった。
【0029】
尚、本発明は前記実施例になんら限定されるものではなく、本発明を逸脱しない範囲において種々の態様で実施しうることはいうまでもない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チガヤ属の多芽体カルスを、2,4-D及びBAPを組み合わせて添加した液体培地で増殖する増殖工程を含むことを特徴とするチガヤ属の増殖方法。
【請求項2】
増殖された前記多芽体カルスを、ジベレリン及びカイネチンを組み合わせて添加した培地にて培養し、植物体再分化させる植物体再分化工程を含むことを特徴とする請求項1記載のチガヤ属の増殖方法。
【請求項3】
前記植物体再分化工程は、ジベレリン及びカイネチンを組み合わせて添加した液体培地で培養する工程と、ジベレリン及びカイネチンを組み合わせて添加した固形培地で培養する工程と、を含むことを特徴とする請求項2記載のチガヤ属の増殖方法。
【請求項4】
前記チガヤ属はチガヤであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のチガヤ属の増殖方法。
【請求項5】
チガヤ属の多芽体カルスを、ジベレリン及びカイネチンを組み合わせて添加した培地にて培養することを特徴とするチガヤ属の再分化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−62141(P2011−62141A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−215911(P2009−215911)
【出願日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【出願人】(391003598)富士化学株式会社 (40)
【出願人】(504224153)国立大学法人 宮崎大学 (239)
【Fターム(参考)】