説明

チタン製歯科用インプラントアバットメントの作製方法

【課題】 歯肉縁下部分が歯肉を通して透けて見えてしまった場合に、審美性を損なうことがないチタン製歯科用インプラントアバットメントを作製する方法を提供する。
【解決手段】 歯冠を模した補綴物を固定するための歯冠補綴物固定部位と,歯冠補綴物固定部位と後述する係合部との間にあって歯肉に隠れる部位と,インプラントフィクスチャーの軸心を中心としてインプラントフィクスチャーの口腔内側に係合されるための係合部とを有するチタン製の歯科用インプラントアバットメントを作製し、前述の歯肉に隠れる部位を歯科用切削バーによって口腔内に適用される歯科用インプラントアバットメントの最終形態に修正を行い、該修正後のチタン表面を着色することを特徴とするチタン製歯科用インプラントアバットメントの作製方法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、欠如歯部の失われた口腔機能を回復するための治療方法である歯科用インプラント治療において、チタン製の歯科用インプラントアバットメントの歯茎部分が歯肉を通して透けて見えるような場合であっても審美性を著しく損なうことがないチタン製歯科用インプラントアバットメントを作製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
欠如歯部の失われた口腔機能を回復するための治療方法として、欠如歯部の顎骨内に埋入して顎骨と骨結合した人工歯根となる歯科用インプラントフィクスチャーの口腔内側に歯科用補綴物を固定する歯科用インプラント治療が普及している。この歯科用インプラント治療において、従来は歯科用インプラントフィクスチャーの口腔内側に歯肉を貫通する歯科用インプラントアバットメントを配置し、この歯科用インプラントアバットメントの口腔内側に歯科用補綴物を配置する構造が一般的である(例えば、特許文献1〜3参照。)。
【0003】
従来からの歯科用インプラントアバットメントはチタンやチタン合金等の金属製であるが、事前にメーカーから与えられた既成形状から患者の口腔内形状に合わせて歯科用切削バーで切削して手間の掛かる追加工する必要があった。また鋳造する場合には、患者の口腔内形状に合った成形が難しく、作業効率も良くない欠点があった。このように、従来の方法は難易度・作業性という観点から問題が多かったため、現在ではチタン製のブロックからCAD/CAM機械加工により任意の形状に削り出して製作する歯科用アバットメントが広く普及してきている。
【0004】
CAD/CAM機械加工の進歩により、ブロックの材質もチタンやチタン合金等の金属製の他にも、メタルフリーで白色という利点を持つジルコニア製のブロックから削り出して製作された歯科用アバットメントも普及してきている。しかし、ジルコニア製のものは審美性には優れるが脆性材料であることからチタン材と比較して強度的に劣り、歯科用インプラントアバットメントの長期的信頼性の面では破折する虞がある。
【0005】
強度的に優れたチタン製歯科用インプラントアバットメントは、治療において歯肉厚が薄い患者の場合には、歯科用インプラント治療を施した後に歯科用インプラントフィクスチャーの口腔内側に配置されている特にチタン製の歯科用インプラントアバットメントが歯肉を通して透けて見えてしまう欠点がある。
【0006】
歯肉に隠れる部位の色を赤系や黄色系の色彩とすれば、歯肉を透けて見えてしまった場合でも審美性に影響が少ないことが知られているので、従来のチタンやチタン合金製の歯科用インプラントアバットメントは、予め表面が赤系や黄色系に着色された既成形状で提供されているものもある。しかしながら、臨床上、既成形状であっても口腔内に適用する際には必ず切削研磨等の形態修正が必要であることから、この形態修正時に露出したチタンの金属色が必ず生じる問題を根本的に解決できていなかった。また、CAD/CAM機械加工されたチタン製の歯科用インプラントアバットメントにおいても、歯肉が透けて見えてしまう場合の審美性に関する問題は解決できていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−80003号公報
【特許文献2】特開2003−325552号公報
【特許文献3】米国特許明細書5674072号公報
【特許文献4】特開2009−082171号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明は、歯肉縁下部分が歯肉を通して透けて見えてしまった場合に、審美性を損なうことがないチタン製歯科用インプラントアバットメントを作製するための新たな方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は前記問題点を解決すべく鋭意検討した結果、患者の口腔内に合わせた形状に作製された後のチタン製の歯科用インプラントアバットメントを歯科用切削バーによって口腔内に適用される歯科用インプラントアバットメントの最終形態に修正を行い、この修正後のチタン表面に対して着色すると、形態修正時に露出したチタンの金属色が必ず生じてしまうことがなく、従来のチタン製インプラントアバットメントの作製方法と比較して審美性を損なわないことを究明し、本発明を完成した。
【0010】
即ち本発明は、歯冠を模した補綴物を固定するための歯冠補綴物固定部位と,歯冠補綴物固定部位と後述する係合部との間にあって歯肉に隠れる部位と,インプラントフィクスチャーの軸心を中心としてインプラントフィクスチャーの口腔内側に係合するための係合部とを有するチタン製の歯科用インプラントアバットメントを作製し、前述の歯肉に隠れる部位を歯科用切削バーによって口腔内に適用される歯科用インプラントアバットメントの最終形態に修正を行い、該修正後のチタン表面を着色することを特徴とするチタン製歯科用インプラントアバットメントの作製方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、形態修正時に露出したチタンの金属色が生じてしまうことがないので、従来のチタン製インプラントアバットメントの作製方法と比較して、審美性を損なわない優れたチタン製歯科用インプラント用アバットメントを作製することが可能な方法である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を用いて本発明に係る発明方法を詳細に説明する。
【0013】
図面中1はチタン製歯科用インプラントアバットメントであり、例えば図2に示したようなチタン製の加工用ブロック体2からCAD/CAM(Computer Aided Design and Computer Aided Manufacturing)システムを用いて切削加工することで口腔内に適用される形態に成形された歯科用インプラントアバットメントである。
【0014】
本発明に係るチタン製歯科用インプラントアバットメント1は、構造的には従来のアバットメントと同様であり、歯冠を模した補綴物(図示なし)を固定するための歯冠補綴物固定部位1bと,歯冠補綴物固定部位1bと後述する係合部1aとの間にあって歯肉に隠れる部位1cと,インプラントフィクスチャーの軸心を中心としてインプラントフィクスチャーの口腔内側に係合されるための係合部1aとを有する。歯冠を模した補綴物は、金属製あるいはジルコニア製のコーピング上に、陶材やレジン材料を築盛して作製した歯冠補綴物である。補綴物は、例えばネジによってチタン製歯科用インプラントアバットメント1を通して顎骨に埋入されているインプラントフィクスチャーに固定したり、チタン製歯科用インプラントアバットメント1の歯冠補綴物固定部位1bに歯科用セメント等の接着剤で固定される。
【0015】
歯冠補綴物固定部位1bと後述する係合部1aとの間にある歯肉に隠れる部位1cは、通常は口腔内に適用されている際には直接見える部位ではないが、歯肉を透けて見えてしまった場合に審美性を落とすことになるので本発明方法に於いては特にこの部位を着色する。
【0016】
インプラントフィクスチャーの軸心を中心としてインプラントフィクスチャーの口腔内側に係合されるための係合部1aは、チタン製歯科用インプラントアバットメントの顎骨側に突設及び/または凹設されており、顎骨に埋入されたインプラントフィクスチャーの対応する係合部(図示なし)と係合する。
【0017】
前述したように、歯科用インプラントアバットメント1の顎骨側には、インプラントフィクスチャーの口腔内側部分に固定される際に設計通りに歯科用補綴物を口腔内に設置するために、及びその固定された位置から不用意に回転しないように、インプラントフィクスチャーの軸心を中心としてインプラントフィクスチャーの口腔内側に係合されるための係合部1aが突設されている。この係合部1aは凹設されていてもよい。インプラント用の歯科用補綴物の顎骨側に突設及び/または凹設されている係合部1aは、その凸設(凹設)した方向に直角な断面で見た場合の該断面形状が回転体以外の形状であり、例えば、図1に示した六角柱状が挙げられる。勿論、三角柱状や四角柱状等でもよいし、円筒の外周に円筒の長さに沿って凸状部1aaが形成された図3に示した形状等であってもよい。
【0018】
歯科用インプラントアバットメントの係合部1aの多くは、製造メーカー毎に決められたインプラントフィクスチャーの受部と合わせてその形状が決まるため、CAD/CAM加工で作製される場合であっても切削加工は行われず、予め加工用ブロック体2に加工済みの部品を取り付け、あるいは予め係合部2aとして加工用ブロック体2に形成されて提供される。
【0019】
歯冠を模した補綴物を固定するための歯冠補綴物固定部位1bと,歯冠補綴物固定部位1bと後述する係合部との間にあって歯肉に隠れる部位1cと,インプラントフィクスチャーの軸心を中心としてインプラントフィクスチャーの口腔内側に係合されるための係合部1aとを有するチタン製の歯科用インプラントアバットメントの作製方法は、例えばCAD/CAMによって切削加工される。または、図3に示したような係合部1aと歯冠補綴物固定部位1bと係合用ネジ穴1dを有する円筒状やそれに類似した形状の既成形状で提供されるチタン製歯科用インプラントアバットメントを、歯科医や技工士が望む形状に歯冠補綴物固定部位1b及び/または歯肉に隠れる部位1cを歯科用切削バーにより切削して作製される。
【0020】
CAD/CAM加工で作製する場合に必要なシステムは、少なくとも、3次元計測器,演算・設計・制御のためのコンピュータ,切削用の旋盤加工機からなる。CAD/CAMシステムの3次元計測器,演算・設計・制御のためのコンピュータ,切削用の旋盤加工機は従来からチタン製歯科用インプラントアバットメントの切削加工に用いられているものが特に制限無く使用できる。
【0021】
作製されたチタン製歯科用インプラントアバットメント1は、患者の口腔内へ適用される際に、更に歯科用切削バーを用いて口腔内に適用される歯科用インプラントアバットメントの最終形状となるように切削され修正される。特に本発明方法では、歯肉に隠れる部位1cを切削して修正して後述する着色を行う。
【0022】
着色は本発明の目的から歯肉に隠れる部位1cには必須であるが、他の部位は必ずしも着色する必要はない。チタンの着色は歯科医や技工士から着色を行う業者に委託され行われることが好ましい。
【0023】
作製され及び/または修正された後のチタン製歯科用インプラントアバットメント1の表面を、L*a*b*表色系で示すところのL*が40〜52,a*が12〜40,b*が−20〜30の範囲で示される色に着色することが好ましい。
【0024】
L*a*b*表色系表示は、色調を、明度(明るさ)を示すL*と、色相(赤と緑の度合い)を示すa*と、彩度(黄と青の度合い)を示すb*という3つの要素に解析し、そして色調をL*,a*,b*という3つの数値で表現するものであり、明度(明るさ)を示すL*は40〜52であることが好ましい。これは、L*が40未満ではアバットメント自身が暗すぎるため、その反射光が当たっても歯肉が黒く見えてしまうから好ましくなく、52を超えると逆に明るすぎて歯肉が不自然に見えてしまうから好ましくない。中でも、L*が40〜44であることがより好ましい。
【0025】
また色相(赤と緑の度合い)を示すa*は12〜40であることが好ましい。これは、a*が12未満では緑が強すぎ、その結果反射光が当たっても歯肉が黒く見えてしまうから好ましくなく、40を超えると赤みが強すぎるため、かえって歯肉が不自然に見えてしまうから好ましくない。中でも、a*が21〜40であることがより好ましい。
【0026】
そして彩度(黄と青の度合い)を示すb*は−20〜30であることが好ましい。これは、b*が−20未満では黄色みが少なく本発明の目的とする効果が得られにくくなり、30を超えると黄色みが強いため、反射光が歯肉へ照射されてもかえって不健康に見えてしまうから好ましくない。中でも、b*が−20〜10であることがより好ましい。
【0027】
本発明に係るチタン製歯科用インプラントアバットメントの作製方法におけるチタン表面の着色方法は、陽極酸化処理や窒化処理により着色する方法を挙げることができる。切削加工を施されたチタンアバットメント表面は不均一に変成してしまうため、均一で光沢を持つ着色を行うには適切な電解研磨処理や酸処理等の前処理を行うことが望ましい。なお、これらのチタン製の歯科用インプラントアバットメント表面の着色方法による着色層は薄く、チタンの金属蝕が露出してしまい審美的に問題があるので、特に歯肉に隠れる部位1cには、着色処理後には表面を含む加工は行わない。
【実施例】
【0028】
(実施例1)
図2に示すチタンブロック体から図1に示す形状の歯科用インプラントアバットメントをCAD/CAM切削加工機により作製し、患者の口腔内で試着し歯科用切削バーで切削して最終形状を修正し、更に歯科用研磨ポイントによる研磨作業を実施した後、表1に示す電圧をかけて電解研磨及び陽極酸化処理を実施しチタン製歯科用インプラントアバットメントを作製した。
【0029】
(実施例2)
図3に示す既成のチタン製歯科用インプラントアバットメントを歯科用切削バーによって切削することでチタン製歯科用インプラントアバットメントを作製し、患者の口腔内で試着し歯科用切削バーで切削して最終形状を修正し、更に歯科用研磨ポイントよにる研磨作業を実施した後、表1に示す電圧をかけて電解研磨及び陽極酸化処理を実施しチタン製歯科用インプラントアバットメントを作製した。
【0030】
また、前記処理のうち電解研磨処理をしないで作製したチタン製の歯科用インプラントアバットメントを実施例3、異なる処理時間により作製したチタン製の歯科用インプラントアバットメントを実施例4、一切の処理をしないで作製したチタン製の歯科用インプラントアバットメントを比較例1とした。
【0031】
これらのチタン製の歯科用インプラントアバットメントのL*a*b*表色系表示でのL*,a*及びb*をJIS Z8722, 2009に準拠した測定方法及び分光測光器(商品名:CM−700d、コニカミノルタ社製)にて測定した結果を表1に示す。
【0032】
また、実施例1〜4及び比較例1のチタン製の歯科用インプラントアバットメントの歯肉に隠れる部位に、患者の歯肉を模した歯科用硬質レジン(商品名:グラディア ガム、ジーシー社製)を厚さ1mmとなるように付着させ重合させて試験体とした。この試験体をヒトの口腔内で歯科用硬質レジン側から目視にて観察して、下記の測定結果に基づいて表1に効果として示す。
測定結果
○:アバットメントからの反射光が歯肉を鮮明であり審美性が良好。
△:アバットメントからの反射光の歯肉の鮮明ではないが審美性はよい。
×:アバットメントの金属色がかなり目立ち審美性が悪い。
【0033】
<表1>
【0034】

【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】図2に示す切削加工用ブロックからCAD/CAM加工により切削加工され成形されたチタン製歯科用インプラントアバットメントの1実施例を示す説明用斜視図。
【図2】切削加工用ブロックの説明用斜視図。
【図3】切削前のチタン製歯科用インプラントアバットメントの他の実施例の説明用斜視図。
【符号の説明】
【0036】
1 本発明に係る歯科用インプラントアバットメント
1a 係合部
1aa 凸状部
1b 補綴物固定部位
1c 歯肉に隠れる部位
1d 係合用ネジ穴
2 切削用ブロック体
2a 係合部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯冠を模した補綴物を固定するための歯冠補綴物固定部位と,歯冠補綴物固定部位と後述する係合部との間にあって歯肉に隠れる部位と,インプラントフィクスチャーの軸心を中心としてインプラントフィクスチャーの口腔内側に係合されるための係合部とを有するチタン製の歯科用インプラントアバットメントを作製し、
前述の歯肉に隠れる部位を歯科用切削バーによって口腔内に適用される歯科用インプラントアバットメントの最終形態に修正を行い、
該修正後のチタン表面を着色することを特徴とするチタン製歯科用インプラントアバットメントの作製方法。
【請求項2】
着色方法が、修正後のチタン表面を電解研磨処理後に陽極酸化処理を行う請求項1に記載のチタン製歯科用インプラントアバットメントの作製方法。
【請求項3】
修正後のチタン表面を、L*a*b*表色系で示すところのL*が40〜52,a*が12〜40,b*が−20〜30の範囲で示される色に着色する請求項1または2に記載のチタン製歯科用インプラントアバットメントの作製方法。
【請求項4】
修正後のチタン表面を、L*a*b*表色系で示すところのL*が40〜44,a*が21〜40,b*が−20〜10の範囲で示される色に着色する請求項1ないし3の何れか1項に記載のチタン製歯科用インプラントアバットメントの作製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−196363(P2012−196363A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−63563(P2011−63563)
【出願日】平成23年3月23日(2011.3.23)
【出願人】(000181217)株式会社ジーシー (279)
【Fターム(参考)】