説明

チップ型正特性サーミスタ

【目的】 小型で、比抵抗や抵抗温度特性などの特性のばらつきの小さいチップ型正特性サーミスタを得る。
【構成】 正特性サーミスタ素子を構成するチタン酸バリウム系セラミックスの平均粒子径を5.0μm以下にする。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、正特性サーミスタに関し、詳しくは、比抵抗や抵抗温度特性などのばらつきの少ないチップ型正特性サーミスタに関する。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】正特性サーミスタは、その動特性及び静特性を利用して、モータ起動用、テレビ受像機のブラウン管枠などの消磁用、ヒータ用その他の用途に広く用いられている。
【0003】そしてこのような用途に正特性サーミスタを用いる場合、正特性サーミスタ素子の熱放散、放電などを考慮して、正特性サーミスタ素子の体積(素子体積)をある程度大きくしている。
【0004】また、チタン酸バリウム系セラミックスを用いてなる正特性サーミスタ素子は、それを構成する結晶粒子と粒界の性質を利用して種々の特性を得るように構成されており、その特性を安定させるために、結晶粒子の形状や粒子径をできるだけ均一化することが一般に行われている。そして、結晶粒子の形状や粒子径を均一化するために、原料組成、製造プロセスなどについて種々の検討が行われている。
【0005】ところで、正特性サーミスタ素子が、前述のようにある程度の大きさを有している場合には、正特性サーミスタ素子中の結晶粒子が多いため、個々の結晶粒子の形状や粒子径に起因する特性の変動が緩和され、比較的安定した特性が得られる。
【0006】しかし、回路の過電流保護用、温度検知センサ用などの用途に、チップ型正特性サーミスタが広く用いられるようになるにつれて、その小型化への要求が大きくなり、従来の正特性サーミスタ素子と比較して、体積が1/100〜1/2000程度の小型のチップ型正特性サーミスタが用いられるようになってきた。
【0007】ところが、このような小型のチップ型正特性サーミスタにおいては、正特性サーミスタ素子の体積が小さく、正特性サーミスタを構成する結晶粒子数が減少するため、結晶粒子の形状や粒子径が特性に与える影響が大きくなる。そのため、比抵抗や抵抗温度特性などの特性のばらつきが大きくなり、安定した品質を確保し、それを維持することが困難であるという問題点がある。
【0008】この発明は、上記問題点を解決するものであり、比抵抗や抵抗温度特性などのばらつきが少なく、小型化が可能なチップ型正特性サーミスタを提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】上記の問題点を解決するために、この発明のチップ型正特性サーミスタは、チタン酸バリウム系セラミックスからなる正特性サーミスタ素子を用いたチップ型正特性サーミスタにおいて、正特性サーミスタ素子を構成するチタン酸バリウム系セラミックスの平均粒子径を5.0μm以下にすることを特徴とする。
【0010】
【作用】正特性サーミスタ素子を構成するチタン酸バリウム系セラミックスの平均粒子径を5.0μm以下にすることにより、チップ型正特性サーミスタを小型化した場合にも、正特性サーミスタ素子を構成する結晶粒子の形状や寸法(粒径)などに起因する特性の変動を抑制して、特性を安定させることが可能になる。
【0011】
【実施例】以下、この発明の実施例を比較例とともに示してその特徴をさらに詳しく説明する。
【0012】まず、チタン酸バリウム系正特性サーミスタ素子(比抵抗40Ω・cm,キュリー点120℃)の原料を乾式成形した後、これを焼成することにより、表1のNo.1〜5に示すような素子寸法(形状)、素子体積、素子体積比を有する正特性サーミスタ素子を作製した。
【0013】
【表1】


【0014】表1において、素子体積比は、No.1の素子の体積を1とした場合の比率を示しており、例えば、No.5の素子は、No.1の素子の2019倍の体積を有することを示している。
【0015】なお、焼成は、下記の条件下で行い、平均粒子径を4.0〜6.5μmの範囲内で変化させた。
■昇温速度 : 0.5〜10.0℃/分■焼成温度 :1280〜1400℃■最高温度保持時間: 10〜120分■焼成後の冷却速度: 0.5〜10.0分
【0016】そして、表1のNo.1〜5の各正特性サーミスタ素子を平均粒子径が、4.0μm,4.5μm,5.0μm,5.5μm,6.0μm,6.5μmの各グループに分類し、各々にIn−Ga電極を塗布し、比抵抗と抵抗温度特性を測定した。
【0017】なお、平均粒子径は、画像処理解析装置ルーゼックスIIIu(株式会社ニレコ製)を用いて測定した。但し、平均粒子径は、写真判定法、交点法などの方法によっても測定することができる。
【0018】抵抗温度特性に関しては、キュリー点と室温の抵抗の10倍になる温度との間の抵抗増加割合α(%/℃)を求めた。
【0019】また、比抵抗及び抵抗増加割合のばらつきの指標として、比抵抗及び抵抗増加割合の標準偏差を平均値で除した値に100を乗じた値(CV値(%))を求めた。
【0020】上記のようにして求めた、平均粒子径及び素子体積比と、比抵抗ρ及び抵抗増加割合αのばらつきとの関係を表2,3及び図1,2に示す。
【0021】
【表2】


【0022】
【表3】


【0023】なお、表2,3及び図1,2のデータは、各々10個の試料についての測定結果に基づくものである。
【0024】図1及び表2から、正特性サーミスタ素子を構成する粒子の径(平均粒子径)が5.5μm以上になると、素子体積が小さくなるほど比抵抗ρのばらつきが大きくなることがわかる。
【0025】これに対して、平均粒子径が5.0μm以下の場合においては、正特性サーミスタ素子の体積を従来の正特性サーミスタ素子のサイズ(表2のNo.3〜5)から、チップサイズ(表2のNo.1,2)にまで小さくしてもほとんど比抵抗ρのばらつきが生じないことがわかる。
【0026】また、図2及び表3に示すように、正特性サーミスタ素子を構成する粒子の径(平均粒子径)が5μmを越えて5.5μm以上になると、素子体積が小さくなるにしたがって、抵抗増加割合αのばらつきが大きくなる。
【0027】一方、平均粒子径が5μm以下の場合、正特性サーミスタ素子の体積を従来の正特性サーミスタ素子のサイズ(表2のNo.3〜5)から、チップサイズ(表2のNo.1,2)にまで小さくしても抵抗増加割合αのばらつきがほとんど大きくならないことがわかる。
【0028】したがって、正特性サーミスタ素子を構成する粒子の径(平均粒子径)を5μm以下にすることにより、比抵抗ρ及び抵抗増加割合αなどの特性のばらつきを増大させることなく、正特性サーミスタ素子の体積を従来の正特性サーミスタ素子のサイズから、約1/100以下のチップサイズにまで小さくすることができるようになる。
【0029】なお、この発明においては、正特性サーミスタ素子の具体的形状や寸法などについて特別の制約はなく、上記実施例以外の他の形状及び寸法を有する正特性サーミスタ素子にもこの発明を適用することができる。そして、その場合にも、上記実施例と同様の効果を得ることができる。
【0030】
【発明の効果】上述のように、この発明のチップ型正特性サーミスタは、正特性サーミスタ素子を構成するチタン酸バリウム系セラミックスの平均粒子径を5.0μm以下にしているので、比抵抗や抵抗増加割合などの特性のばらつきを増大させることなく、正特性サーミスタ素子の体積を従来の正特性サーミスタ素子のサイズから、約1/100以下のチップサイズにまで小さくすることが可能になる。
【0031】したがって、この発明によれば、小型、かつ、高品質のチップ型正特性サーミスタを得ることが可能になり、特性を犠牲にすることなく正特性サーミスタの表面実装化、小型化への要求に応じることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の実施例にかかる正特性サーミスタ素子の、素子体積比に対する比抵抗のばらつきの関係を示す線図である。
【図2】この発明の実施例にかかる正特性サーミスタ素子の、素子体積比に対する抵抗増加割合のばらつきの関係を示す線図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 チタン酸バリウム系セラミックスからなる正特性サーミスタ素子を用いたチップ型正特性サーミスタにおいて、正特性サーミスタ素子を構成するチタン酸バリウム系セラミックスの平均粒子径が5.0μm以下であることを特徴とするチップ型正特性サーミスタ。

【図1】
image rotate


【図2】
image rotate


【公開番号】特開平6−77006
【公開日】平成6年(1994)3月18日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−252265
【出願日】平成4年(1992)8月26日
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)