説明

チップ系混合物の品質管理方法

【課題】混練材料として木材チップを使用する場合に、水の配合割合を適切に設定することが可能なチップ系混合物の品質管理方法を提供する。
【解決手段】少なくとも水、硬化性材料および木材チップからなるチップ系混合物の品質管理方法であって、推定される混練操作中の木材チップの保水能力に基づいて水の配合割合を調整する。水の配合割合は、推定される混練操作中の木材チップの保水量を基準含水量とし、実際に混練操作される木材チップの含水量を求め、これら基準含水量と含水量の差に応じて調整される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、混練材料として木材チップを使用する場合に、木材チップは水を保水または放出することから、この水を適切に設定するためのチップ系混合物の品質管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、木材チップをチップ系混合物の混練材料として使用する技術には、例えば特許文献1のように、木材をチップ化してコンクリートに混入するようにし、これにより植物の植生基盤を形成する「コンクリートおよびコンクリートの植生方法」が知られている。
【特許文献1】特許第2982568号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
木材チップは、混練材料として通常使用される砂や砕石などの材料と比較して、乾燥状態では顕著な吸水性を示し、また湿潤状態では圧力の作用によって容易に水を放出するという性質がある。従って、木材チップを混練材料として使用する際には、添加した水が吸水されてしまったり、あるいは混練時の撹拌圧力などで、内部から水が放出されることに配慮する必要がある。
【0004】
また、これら吸水性や水の放出作用に影響することとなる、木材チップがその内部に保水できる水量は、原木の種類だけでなく、材令や生木であるか枯れ木であるかの相違、そしてまた、どの程度腐食しているのかなどの原木の状態や、チップ化後から使用されるまでの状況、具体的にはすぐに使用されるのか相当期間放置されるのか、また保管が屋外なのか屋内なのか等の状態によって異なる。
【0005】
このような木材チップを特許文献1に開示のコンクリートなどの構成材料として使用すると、当該木材チップの吸水作用や水の放出作用、さらにはその保水量も種々の要因から不明であることも相俟って、必要強度やワーカビリティを考慮して設定された、ペーストを構成するセメント等の硬化性材料を含む粉体と水との水粉体比と、ペーストの混合物全体に占める割合とに基づいて設定した水量を添加しても、ペーストを構成する実際の水量は設定水量とはならず変化してしまい、チップ系混合物を一定の品質で安定的に製造することができないという課題があった。
【0006】
本発明は上記従来の課題に鑑みて創案されたものであって、混練材料として木材チップを使用する場合に、水の配合割合を適切に設定することが可能なチップ系混合物の品質管理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明にかかるチップ系混合物の品質管理方法は、少なくとも水、硬化性材料および木材チップからなるチップ系混合物の品質管理方法であって、推定される混練操作中の木材チップの保水能力に基づいて水の配合割合を調整することを特徴とする。
【0008】
前記水の配合割合は、推定される混練操作中の木材チップの保水量を基準含水量とし、実際に混練操作される木材チップの含水量を求め、これら基準含水量と含水量の差に応じて調整されることを特徴とする。
【0009】
前記基準含水量は、木材チップに大気圧より高い一定圧力を付与した状態で飽和したときの含水量であることを特徴とする。
【0010】
前記基準含水量を保水した木材チップおよび実際に混練操作される木材チップに対し同一条件で乾燥処理を行い、これら木材チップ各々の乾燥処理前の重量と乾燥処理後の重量の比をそれぞれ基準含水比および実含水比とし、該基準含水比から該実含水比を差し引いたときに、値が正の場合は、実際に混練操作される木材チップが吸水する水の割合として見込み、他方、値が負の場合は、放出される水の割合として見込むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明にかかるチップ系混合物の品質管理方法にあっては、混練材料として木材チップを使用する場合に、水の配合割合を適切に設定することができ、チップ系混合物を一定の品質で安定的に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に、本発明にかかるチップ系混合物の品質管理方法の好適な一実施形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。本実施形態にかかるチップ系混合物の品質管理方法は基本的には、少なくとも水、セメント等の硬化性材料および木材チップからなるチップ系混合物の品質管理方法であって、推定される混練操作中の木材チップの保水能力に基づいて水の配合割合を調整するようになっている。
【0013】
水の配合割合は、推定される混練操作中の木材チップの保水量を基準含水量W0とし、実際に混練操作される木材チップの含水量Wを求め、これら基準含水量W0と含水量Wの差に応じて調整される。基準含水量W0とは、乾燥状態の木材チップに大気圧より高い一定圧力を付与した状態で飽和したときの水の重量増加分とする。基準含水量W0を保水した木材チップおよび実際に混練操作される木材チップに対し同一条件で乾燥処理を行い、これら木材チップ各々の乾燥処理前の重量と乾燥処理後の重量の比をそれぞれ基準含水比X0および実含水比Xとし、基準含水比X0から実含水比Xを差し引いたときに、値が正の場合は、実際に混練操作される木材チップが吸水する水の割合として見込み、他方、値が負の場合は、放出される水の割合として見込むようにする。
【0014】
上述したように、原木の種類や材令、生木であるか枯れ木であるかの相違、そしてまた、どの程度腐食しているのかなどの原木の状態や、チップ化後から使用されるまでの状況、具体的にはすぐに使用されるのか相当期間放置されるのか、また保管が屋外なのか屋内なのか等の状態によって、木材チップは様々な保水状態にあって、吸水する傾向を示したり、水を放出する傾向を示したりする。そこで、混練操作中に木材チップが保持し得る保水量を推定する目的で、種々異なる木材チップ個々の混練時における保水能力の基準推定値を、基準含水比X0(基準含水量W0)として定量的に求め、他方で、実際に使用されて混練操作される木材チップ(以下、「使用木材チップ」という)の混練前の実含水比Xを求めて、これら基準含水比X0と実含水比Xとを比較し、これにより、使用木材チップが吸水する傾向にあるのか、あるいは水を放出しやすい傾向にあるのかを決定する方法について、図1に従って説明する。
【0015】
まず、一定量の木材チップをサンプリングし、一定条件で乾燥処理する。乾燥処理には例えば、家庭用電子レンジなどを使用することができ、サンプリングした木材チップを広口容器などに入れて加熱する。一挙に長時間加熱乾燥させると、木材チップが発火するおそれがあるので、適宜な時間、例えば2〜3分加熱する毎に取り出して撹拌する操作を繰り返すことが好ましい。総加熱時間は、10〜15分程度が望ましい。
【0016】
その後、サンプリングした木材チップの現実の保水状態として、すなわち使用木材チップの保水状態として、実含水比Xを求める。具体的に説明すると、水の比重は1g/cm3であるから、乾燥処理前後の重量変化が使用木材チップの含水量Wに係わると推定される。すなわち、乾燥処理前後での重量変化の比((乾燥処理前重量−乾燥処理後重量)/乾燥処理後重量)をもって、これを実含水比Xとする。また、上記乾燥処理で使用木材チップはほぼ完全な乾燥状態とされるので、重量変化分を含水量Wと推定することができる。
【0017】
次いで、基準含水比X0を求めるために、乾燥処理した後の木材チップに一定量の水を加え、十分に馴染ませる。次いで、水を馴染ませた木材チップに対し、一定の圧力を作用させる。一定の圧力としては、ミキサなど混練装置の撹拌作用によって木材チップに加わる圧力を想定して設定する。圧力のかけ方としては、容器内の木材チップをプレス板で押圧したり、あるいは手で木材チップを握り締めるなどの方法がある。木材チップに水を馴染ませる操作と一定圧力を加える操作とを、木材チップから余剰水が滲み出てくるまで繰り返す。
【0018】
余剰水が滲み出てきたときの木材チップの重量(完全湿潤重量)を測定し、その後、木材チップを先の乾燥処理と同一条件で再乾燥させた木材チップの重量(再乾燥処理後重量)を測定する。この乾燥状態から飽和した余剰水の水の重量増加分を基準含水量W0とする。そして、実含水比Xを求めた場合と同様に、再乾燥処理前後での重量変化の比((完全湿潤重量−再乾燥処理後重量)/再乾燥処理後重量)をもって、これを基準含水比X0とする。
【0019】
そして、これら基準含水比X0と実含水比Xとを差し引きして比較し、その差(X0−X)が正の値ならば、その値を使用木材チップが吸水する水の割合として見込み、負の値ならば、その値を使用木材チップから放出される水の割合として見込んで、水の配合割合に反映させる。
【0020】
基準含水比X0については、上述した各種様々に異なる木材チップそれぞれについて、予め求めておくようにする。他方、実含水比Xについては、上記したような、基準含水比X0を求める一連の作業の中で求める場合に限られず、各使用木材チップそれぞれについて、実際に使用する際に求めるようにすればよい。これら基準含水比X0および実含水比Xを求める際の乾燥条件は、常に同一にするようにする。ただし、その乾燥条件は必ずしも絶乾状態にするまでの条件とする必要はない。木材チップの各種原木について、基準含水比X0を求めた結果が表1に示されている。
【0021】
【表1】

【0022】
上記のようにして求めた基準含水比X0および実含水比Xに基づいて、添加する水量の配合を補正する。この際、木材チップの内部からすべての水が放出されたり、完全湿潤状態になることはない等の木材チップの実情を考慮して、すなわち基準含水比X0と実含水比Xとを差し引きした上記水の割合すべてが使用木材チップの吸水や水の放出に関与することはないことを考え合わせて、移動水率αを導入する。
【0023】
この移動水率αの考え方のイメージが図2に示されている。使用木材チップを混入した混練材料は、縦軸方向の「チップ系混合物の容積」の表記で理解されるように、セメント等の硬化性材料を含む粉体と水からなるペーストと、完全乾燥状態の木材チップと、木材チップ内の水(含水量W)として把握できる。そして木材チップは、横軸方向の「木材チップの含水量」の表記で理解されるように、ペーストからの水の出入りがない、上記基準含水量W0を境として、ペーストからの吸水作用が生じ得る含水量から、ペーストへ水を放出し得る含水量まで、様々な含水状態にある。そして、移動水率αは木材チップの上記実情を考慮して、基準含水量W0から木材チップ内の含水量Wを差し引いた分に対し、適宜な係数として乗じられ、これにより、使用木材チップの実情を反映した補正が配合表においてなされる。補正を行った配合表が、表2および表3に示されている。
【0024】
【表2】

【0025】
【表3】

【0026】
表2には、補正前の配合と、補正後の配合とが併記した形で示され、表3には、補正後の配合表が示されている。表2で注目されることは、補正前および補正後それぞれの(木材チップ水分のみ重量/木材チップのみ重量)値である実含水比Xが45%および基準含水比X0が90%であって、これより使用木材チップの吸水作用が見込まれ、補正前の木材チップ重量が250kg/m3で、木材チップ水分のみ重量が78kg/m3であることに対して、補正後では、基準含水量W0が155kg/m3であることにより、吸水作用を考慮して木材チップ重量が(250+77)kg/m3と補正されている。これにより、ペースト水は補正前の196kg/m3から、水粉体比(W/P)を考慮して(188+77×α)kg/m3に補正されている。(77×α)kg/m3が使用木材チップに吸水されると推定される水量である。
【0027】
移動水率αは表3に示すように、0.9と設定されている。そしてこのような水の配合割合の変更に従って、単位水量等が補正されている。なお、この配合表では、木材チップの原木として流木が用いられ、また混練材料の粉体分として、微粉炭燃焼方式の火力発電所等で生成された石炭灰を用いる例が示されている。
【0028】
図3には、水の配合割合を調整した使用木材チップ実含水比Xとチップ系混合物の4週強度との関係が、ペースト容積比0.4,水粉体比(W/P)45%、石炭灰置換率50%である場合を例にとって示されている。含水量が多いと、やや強度が低下する傾向があるが、おおよそ同一の強度が得られている。従って、施工時に使用木材チップの含水量Wを計測し、基準含水量W0と計測した含水量Wとの水量差を、混練時の水量に反映することで、安定した品質の混合物を製造することができると言える。
【0029】
図4には、比較例として、使用木材チップの含水量を水の配合割合に反映しなかった場合の使用木材チップ実含水比Xとチップ系混合物の4週強度との関係が示されている。含水量の大きい使用木材チップでは強度が増加しており、含水比45%の標準状態のときと、含水比140%の水浸状態のときとを比較すると、6〜7倍の強度の差が生じている。これはチップ系混合物の製造時に、標準状態ではペースト中の水が使用木材チップに吸水されるのに対し、水浸状態ではペーストへ使用木材チップから水が放出されて、実質的なペースト容積が顕著に増えていることによる。ペーストの水粉体比(W/P)が大きくなる分、ペースト自体の強度が低下するのに対し、容積比の大きくなる効果が顕著であることを示している。また、目視したところ、材料分離の発生が見受けられた。このように、使用木材チップの含水量を水の配合割合に反映させない場合には、安定した品質を確保することはできない。
【0030】
以上のように、本実施形態にかかるチップ系混合物の品質管理方法にあっては、推定される混練操作中の木材チップの保水能力に基づいて、添加する水の量を調整するようにしたので、使用木材チップの実含水比Xが変化しても、チップ系混合物を一定の品質で安定的に製造することができる。また、予め基準含水比X0を求めておくことにより、使用木材チップの実含水比Xが変化しても、配合の補正を簡易かつ適切に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明にかかるチップ系混合物の品質管理方法に関し、使用木材チップが吸水する傾向にあるのか、水を放出しやすい傾向にあるのかを決定する方法を説明する図である。
【図2】本発明にかかるチップ系混合物の品質管理方法に関し、移動水率αの考え方のイメージを説明するための図である。
【図3】本発明にかかるチップ系混合物の品質管理方法に従って水の配合割合を調整した使用木材チップ実含水比Xとチップ系混合物の4週強度との関係を示すグラフ図である。
【図4】本発明にかかるチップ系混合物の品質管理方法に関し、比較例として、使用木材チップの含水量を水の配合割合に反映しなかった場合の使用木材チップ実含水比Xとチップ系混合物の4週強度との関係を示すグラフ図である。
【符号の説明】
【0032】
0 基準含水量
W 含水量
0 基準含水比
X 実含水比

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも水、硬化性材料および木材チップからなるチップ系混合物の品質管理方法であって、推定される混練操作中の木材チップの保水能力に基づいて水の配合割合を調整することを特徴とするチップ系混合物の品質管理方法。
【請求項2】
前記水の配合割合は、推定される混練操作中の木材チップの保水量を基準含水量とし、実際に混練操作される木材チップの含水量を求め、これら基準含水量と含水量の差に応じて調整されることを特徴とする請求項1に記載のチップ系混合物の品質管理方法。
【請求項3】
前記基準含水量は、木材チップに大気圧より高い一定圧力を付与した状態で飽和したときの含水量であることを特徴とする請求項2に記載のチップ系混合物の品質管理方法。
【請求項4】
前記基準含水量を保水した木材チップおよび実際に混練操作される木材チップに対し同一条件で乾燥処理を行い、これら木材チップ各々の乾燥処理前の重量と乾燥処理後の重量の比をそれぞれ基準含水比および実含水比とし、該基準含水比から該実含水比を差し引いたときに、値が正の場合は、実際に混練操作される木材チップが吸水する水の割合として見込み、他方、値が負の場合は、放出される水の割合として見込むことを特徴とする請求項2または3に記載のチップ系混合物の品質管理方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2006−248006(P2006−248006A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−66864(P2005−66864)
【出願日】平成17年3月10日(2005.3.10)
【出願人】(000164438)九州電力株式会社 (245)
【出願人】(000140292)株式会社奥村組 (469)
【Fターム(参考)】