説明

チューブスタビライザ及びチューブポンプ

【課題】ロータの回転に伴うチューブの引き込みを防止する。
【解決手段】チューブポンプ(1)の筐体(110)との間で可撓性チューブ(160)を挟持する第1の保持部(131)と、第1の保持部(131)から突出し、チューブポンプの筐体(110)と係合して、第1の保持部(131)をチューブポンプの筐体(110)に付勢する係合部(132)とを備えたチューブ固定具(130)により可撓性チューブ(160)をチューブポンプの筐体(110)に固定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チューブポンプのチューブを固定するためのチューブスタビライザ、及び該チューブスタビライザを備えたチューブポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
柔軟なチューブを平たく潰すローラをチューブに沿って移動させてチューブ内の液体を輸送するチューブポンプが広く使用されている。このようなチューブポンプにおいては、しばしばチューブがローラに押されて、ローラの移動方向に引き込まれることがある。チューブの引き込みが発生すると、上流側のチューブの余長が次第に短くなるため、定期的にチューブの張り直しが必要になる。
【0003】
そのため、このようなチューブの引き込みが発生しないように、チューブポンプ本体にチューブの上流側及び/又は下流側を固定するチューブ固定具が使用されている。特許文献1には、ワイヤを門形に折り曲げて形成されたチューブ固定具(ホルダー4d)を使用するチューブポンプが開示されている。特許文献1のチューブポンプにおいては、駆動モータを収容する本体ハウジングの正面に2つの丸穴が形成されており、この2つの丸穴にチューブ固定具の両端を差し込むことで、チューブ固定具と本体ハウジングとの間でチューブが固定される。特許文献1のチューブ固定具は、部品点数が少なく(1部品のみで構成)、またチューブの固定/固定解除がチューブ固定具の抜き差し(1手順)のみで完了するため、部品コスト及び作業性の面で優れている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−198150号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示される従来の固定方法では、チューブ固定具によりチューブを保持する力(言い換えればチューブの変形量)が、丸穴へのチューブ固定具の両端の差し込み量によって大きく変動する。丸穴へのチューブ固定具の差し込み量を正確にコントロールすることは難しく、従って特許文献1に記載されているような従来のチューブ固定具によるチューブの保持力には大きなばらつきが避けられなかった。そのため、チューブ固定具によるチューブの固定が不十分となってチューブが引き込まれたり、逆にチューブを押し込み過ぎて流量が低下したり、チューブを劣化・破損させてしまうといった問題がしばしば発生していた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の事情に鑑みて本発明の実施形態によるチューブ固定具が提供される。本発明の実施形態に係るチューブ固定具は、壁面に沿って配置された可撓性チューブの一部を、壁面に沿って移動するローラにより壁面との間で弾性変形により連続的に押し潰すことにより、可撓性チューブ内の液体を輸送するチューブポンプにおいて、可撓性チューブをチューブポンプの筐体に固定するチューブ固定具である。このチューブ固定具は、可撓性チューブをチューブポンプの筐体との間で挟持する第1の保持部と、第1の保持部から突出し、チューブポンプの筐体と係合して、第1の保持部をチューブポンプの筐体に付勢する係合部とを備えている。
【0007】
このような構成のチューブ固定具を使用すれば、一定の適切な大きさの保持力でチューブを保持することが可能になるため、チューブを過度に変形させて破損させたり、逆に弱すぎる保持力のためにチューブの引き込みが確実に防止されないといった問題が生じない。また、チューブ固定具の着脱をワンタッチで行うことができるため、チューブポンプの組み立てやメンテナンスを効率的に行うことが可能になる。
【0008】
第1の保持部には可撓性チューブと当接する凹部が形成されていることが望ましい。また、この凹部は可撓性チューブと実質的に同じ曲率を有する凹曲面状に形成されていることが望ましい。
【0009】
このような凹部を設けることにより、可撓性チューブの正確な位置決めが可能になり、特に細径のチューブや柔らかい材質から形成された可撓性チューブを使用する場合には、可撓性チューブの寿命を向上させることができる。また、凹部が可撓性チューブの側面と同じ曲率を有する凹曲面状に形成されている場合には、可撓性チューブの側面に加わる保持力が均一となり、極度の応力集中が生じないため、可撓性チューブの寿命をより一層向上させることができる。
【0010】
係合部は、凹部が面する方向に突出することが望ましい。また、典型的には、係合部の突出方向の先端付近には、チューブポンプの筐体に形成された第1の係合構造と係合する第2の係合構造が形成されている。例えば、第1の係合構造と第2の係合構造は、それぞれ係合突起と係合爪、又は係合爪と係合突起である。
【0011】
このような構成により、筐体に対してチューブ固定具を強い力で取り付けることが可能になる。
【0012】
凹部は、可撓性チューブの第1端と当接する第1の凹部と、可撓性チューブの第2端と当接する第2の凹部とを含んでいてもよい。この場合、係合部は、第1の凹部の位置と第2の凹部の位置の中間位置から突出する構成が望ましい。
【0013】
このように、可撓性チューブの両端を一つのチューブ固定具により固定する構成を採用することにより、部品点数の削減や小型化が達成される他、チューブ固定具を装着する作業工数を大幅に削減することが可能になる。
【0014】
係合部は、第1の保持部の第1面から垂直に突出する第1部と、第1部の先端から凹部が面する正面方向に突出する第2部とを備え、第1部の最も正面側の面は、第1の保持部の最も正面側の面よりも、背面側にオフセットして形成されていることが望ましい。
【0015】
このように、第1部の最前面を第1の保持部の最前面よりも後ろにオフセットさせることにより、平板部等の支持部の後端に第1部を安定して係合させることが可能になる。これにより、チューブ固定具の取り付け作業が効率化され、またチューブ固定具によるチューブの安定した保持が実現する。
【0016】
チューブポンプの筐体と第1の保持部との間に配置され、保持部との間で可撓性チューブを挟持する第2の保持部を更に備えていてもよい。
【0017】
このような第2の保持部を採用することにより、せん断力を与えずに可撓性チューブを把持することが可能になり、特に細径なチューブや柔らかい材質のチューブを使用する場合に、チューブがせん断力により座屈するといった問題が解消される。また、チューブを形状や寸法等に応じて、より適切な位置に配置することが可能になる。
【0018】
また、本発明の実施形態により、上記のチューブ固定具を装着可能な筐体を備えたチューブポンプが提供される。本発明の実施形態に係るチューブポンプの筐体には、第1の保持部を支持する支持部と、チューブ固定具の係合部に形成された第2の係合構造と係合する第1の係合構造とが形成されている。
【0019】
典型的には、支持部は、チューブ固定具の第1の保持部と係合部とにより挟まれる第1の平板部を含んでいる。また、支持部は、第1の平板部と平行に設けられ、第1の平板部との間でチューブ固定具の第1の保持部を挟み込む第2の平板部を含んでいてもよい。
【0020】
本発明の実施形態に係るチューブポンプは、駆動部と、駆動部に対して着脱自在なポンプカートリッジとを備えていてもよい。典型的には、ポンプカートリッジは、ローラと、可撓性チューブと、ローラとの間で可撓性チューブを押し潰す壁面が形成されたポンプカセットとを備えている。この場合において、上記の筐体はポンプカセットであることが望ましい。
【0021】
このように駆動部に対して着脱自在なポンプカートリッジを備えた構成のチューブポンプは、駆動部と比べて比較的に頻度が多いポンプ機構(ポンプカートリッジ)のメンテナンスの作業性を著しく向上させる。このような構成のチューブポンプに本発明を適用する場合には、ポンプカートリッジの筐体であるポンプカセットに可撓性チューブの端部を固定することにより、駆動部にポンプカートリッジを取り付ける際の作業性が改善される。
【0022】
上記のチューブポンプは、一般に複数のローラを回転可能に支持するロータを更に備えている。この場合、壁面はポンプカセットに形成された円柱面状の第1の内壁面であり、ポンプカセットの第1の内壁面と略垂直に形成された第2の内壁面には、円柱面状の第1の内壁面の中心軸上に伸び、ロータを回転可能に支持するロータ支持軸が設けられている
【発明の効果】
【0023】
以上のように、本発明の実施形態に係るチューブ固定具を使用すれば、ローラの移動に伴う可撓性チューブの引き込みが有効に防止される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施形態に係るチューブポンプの分解図である。
【図2】本発明の実施形態に係るチューブポンプの正面図である。
【図3】本発明の実施形態に係るチューブポンプの縦断面図である。
【図4】本発明の実施形態に係るチューブポンプのポンプカセットの背面図である。
【図5】本発明の実施形態に係るチューブポンプのポンプカセットの底面図である。
【図6】本発明の実施形態に係るチューブスタビライザの外観図である;(a)背面図、(b)上面図、(c)正面図、(d)側面図
【図7】本発明の実施形態に係るチューブスタビライザの変形例の上面図である。
【図8】本発明の実施形態に係るチューブスタビライザの取り外し方を説明する図である。
【図9】本発明の実施形態に係るチューブスタビライザの変形例を示す図である。
【図10】本発明の実施形態に係るチューブスタビライザの変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、本発明の実施形態に係るチューブポンプ1の分解斜視図である。図2及び図3は、それぞれチューブポンプ1の正面図及び縦断面図である。また、図4及び図5は、それぞれ図1に示されるポンプカセット110の背面図及び底面図である。
【0026】
図1に示されるように、チューブポンプ1は、駆動モータ10、ギアボックス20及びポンプ本体100を備えている。駆動モータ10が発生する軸出力は、ギアボックス20によりトルクが増幅されて、ポンプ本体100に供給される。
【0027】
なお、以下の説明においては、チューブポンプ1のポンプ本体100側(図1における左下側、図2における紙面表側、図3における左側)を「手前側」、駆動モータ10側(図1における右上側、図2における紙面裏側、図3における右側)を「奥側」と定義する。また、手前側から奥側(又は奥側から手前側)へ向かう方向を、奥行方向と定義する。また、図2及び〜図3における上側を「上側」、下側を「下側」と定義する。
【0028】
ポンプ本体100は、ポンプカセット110、ロータ120、ベース140、固定用プレート150、チューブ160、プレート保持筒170及び本発明の実施形態に係るチューブスタビライザ(チューブ固定具)130を備えている。チューブ160の一部とロータ120は、ポンプカセット110とベース140とで囲まれた作動室内に配置される。
【0029】
ポンプカセット110は、PP(polypropylene)等の透明樹脂の射出成形により形成された椀状の部材である。ポンプカセット110の材質は透明樹脂に限定されず、一般的な構造材料を使用することができる。しかし、透明樹脂を使用することにより、内部状態を容易に観察することができるようになるため、保守管理性を高めることができる。ポンプカセット110には、チューブ160、ロータ120、及びチューブスタビライザ130が装着され、ベース140に対して着脱自在なポンプカートリッジが形成される。ポンプカセット110の各部の構造については後述する。
【0030】
固定用プレート150は、例えば鋼板等の金属板から形成され、図3に示されるように、ベース140とプレート保持筒170とに挟まれて保持される。ベース140の側面(外周面)は略円柱面状に形成されているが、中途に段差が形成され、奥側は手前側より幾分外径が細くなっている。ベース140の奥側の外周面には、雄ねじ(不図示)が形成されている。また、プレート保持筒170はベース140の奥側の外周面の直径と同じ大きさの内径を有する略円筒形の部材であり、プレート保持筒170の内周面にはベース140の外周面に形成された雄ねじと係合する雌ねじ(不図示)が形成されている。固定用プレート150には、ベース140の奥側の外周面の直径と同じ大きさの丸穴が形成されている。固定用プレート150の丸穴にベース140を奥側から通すと、ベース140の外周面の段差が固定用プレート150の丸穴に引っ掛かる。次いで、プレート保持筒170を雄ねじが形成されたベース140の外周面にねじ込むことにより、固定用プレート150はベース140の外周面の段差とプレート保持筒170との間で挟まれて、ベース140に固定される。なお、プレート保持筒170を取り外すことにより、固定用プレート150をベース140から取り外すことができる。
【0031】
図1〜3に示されるように、固定用プレート150には、一対の取り付け穴151が設けられている。チューブポンプ1を組み込む装置(例えば洗浄装置)のフレーム等にチューブポンプ1を取り付ける際は、取り付け穴151にボルトを通して、固定用プレート150をフレーム等に固定する。
【0032】
上記のように、本実施形態においては、チューブポンプ1を固定するための固定用プレート150が取り外し可能となっている。このため、チューブポンプ1を取り付けるフレーム等に適した形状の固定用プレート150を使用することによって、様々な装置にチューブポンプ1を取り付けることができる。
【0033】
ロータ120は、ロータ本体121、3組のローラ122及びロータ押さえ123を備えている。3組のローラ122は、ロータ本体121とロータ押さえ123との間で軸周りに回転自在に支持されている。また、図3に示されるように、ポンプカセット110の手前側にある天井部119の中央には、奥側に向かって延びるロータ支持軸114が形成されている。ロータ本体121及びロータ押さえ123にはロータ支持軸114が差し込まれる係合穴121a及び123aがそれぞれ形成されており、ロータ本体121及びロータ押さえ123はロータ支持軸114によって回転可能に支持されている。
【0034】
図2〜4に示されるように、ポンプカセット110には略円柱面状の内周面111が形成されており、チューブ160の一部が内周面111に沿って(具体的には、長さ方向を内周面111の円周方向に沿わせて)配置されている。チューブ160は、ローラ122とポンプカセット110の内周面111の間で押し潰されるようになっており、ロータ120がポンプカセット110のロータ支持軸114の周りを回転すると、ローラ122がチューブ160を押し潰しながらポンプカセット110の内周面111に沿って公転する。この結果、チューブ160は蠕動運動を起こし、チューブ160の内容物が移動する。例えば、図2において時計回りにロータ120を回転させる場合は、チューブ160の内容物は、図2中左下にある第1端161から、図2中右下にある第2端162に向かって送り出される。このように、ロータ120を駆動することによって、チューブ160の内容物を送り出すことが可能になっている。
【0035】
また、図4及び図5に示されるように、ポンプカセット110の下側には、図5の紙面と平行に広がる二つの平板部112及び113が形成されている。平板部112及び113には、奥側の端部から手前側に向かって延びる一対の溝112a、112b及び113a、113bがそれぞれ形成されている。チューブ160の第1端161は溝112a及び113aを通って、チューブ160の第2端162は溝112b及び113bを通って、それぞれポンプカセット110の作動室内から外部へ突出している。各溝112a、112b、113a、113bの幅は、チューブポンプ1に装着可能なチューブ160のうち最も太いチューブ160の外径と略同じ大きさに設定されている。また、各溝の底(最も手前側の端部)の位置は、チューブ160を溝の底まで押し込んでも、ローラ122(図3)の円筒面上にチューブ160が乗るように設定されている。
【0036】
2つの平板部112及び113の間に形成された隙間には、本発明の実施形態に係るチューブスタビライザ130(詳細には保持部131)が差し込まれ、チューブスタビライザ130と平板部112及び113との間でチューブ160が挟持され、チューブ160の固定及び位置決めが行われる。チューブスタビライザ130の外観図を図6に示す。図6(a)は背面図、(b)は上面図、(c)は正面図、(d)は側面図である。チューブスタビライザ130は、略直方体の保持部131と、保持部131の下面から手前側に突出するフック132を有する部材であり、後述する係合/係合解除動作が可能な程度の柔軟性を有している。本実施形態のチューブスタビライザ130はPET(polyethylene terephthalate)やPP等の樹脂から射出成形により形成されている。保持部131の幅方向(図6(b)における左右方向)両端付近の手前側の面には、1対の凹部131a及び131bが形成されている。また、フック132の先端付近の上面には、奥側上方に向かって突出する係合爪133が形成されている。係合爪133は、幅方向に伸びる細長い三角柱状の構造であり、奥側上方に突出する先端は鋭角に形成されている。また、図6(d)に示されるように、フック132は縦断(図6(d)の紙面と平行な断面)がL字状に形成されており、L字の短尺部の手前側の面132d(以下「オフセット面132d」という。)は、保持部131の最も手前側の面131cよりも奥側にオフセットして形成されている。また、本実施形態においては、オフセット面132dは保持部131まで延長され、オフセット面132dと連続するオフセット面131dが形成されている。なお、保持部131のオフセット面131dは、射出成形の効率を高めると共に、樹脂使用量を削減する目的で設けられたものであり、必ずしも保持部131にオフセット面131dを設ける必要はない。また、チューブスタビライザ130を奥行方向に貫通する開口134は加工上の都合により設けられた構造であり、加工方法によっては必ずしも開口134を設ける必要はない。
【0037】
チューブスタビライザ130をポンプカセット110に取り付ける際、保持部131が平板部112と113の間に形成された隙間に差し込まれる。保持部131のオフセット面132dより手前側に突出した部分の厚さ(図6(d)における上下方向の寸法)は、平板部112と113の間隔と略同じ寸法に設定されており、平板部112及び113により略隙間無く挟み込まれる。また、チューブスタビライザ130のフック132は、平板部112の下方に、平板部112に沿って配置される。なお、図6(d)におけるオフセット面132dの高さ(言い換えれば、保持部131の下面とフック132の上面との間隔)は、平板部112の厚さと略同じ寸法に設定されており、フック132の上面は平板部112の下面と略密着する。また、ポンプカセット110の正面中央部の下端には係合突起118aが形成されており、チューブスタビライザ130のフック132の先端付近に形成された係合爪133が係合突起118aに引っ掛かり、チューブスタビライザ130がポンプカセット110から外れないようになっている。
【0038】
チューブ160の第1端161は、平板部112の溝112a及び平板部113の溝113aと、チューブスタビライザ130の凹部131aとで挟み込まれ、長手方向に移動しないように固定されている。また、チューブ160の第2端162は、平板部112の溝112b及び平板部113の溝113bと、チューブスタビライザ130の凹部131bとで挟み込まれ、長手方向に移動しないように固定されている。ポンプカセット110とチューブスタビライザ130との間でチューブ160を保持する力(すなわちチューブの変形量)は、ポンプカセット110の溝112a、112b、113a、113bの深さと、チューブスタビライザ130の凹部131a、131bの深さ、及びオフセット面132dのオフセット量(オフセット面132dを含む平面と保持部131の最前面131cを含む平面との距離)によって決定される。これらのパラメータは、ポンプカセット110及びチューブスタビライザ130の加工寸法によって決定されるため、同一のチューブ160を使用する限り、予め設定された一定の保持力によりチューブ160が保持される。そのため、チューブ160を過度に変形させて劣化させたり、不十分な保持力のためにチューブ160が長手方向に移動してしまうようなことがない。また、チューブ160の寸法や材質(硬さ)に応じて、凹部131a、131bの寸法及び形状を設定することで、様々な種類のチューブを適切な保持力で保持することができる。凹部131a、131bの形状の変更例を図7(a)〜(c)に示す。図7(a)は小径のチューブ160に適したチューブスタビライザ130の例であり、チューブと同じく半径の小さい半円状の凹部131a、131bが形成されている。図7(b)は、比較的に硬い太径のチューブに適したチューブスタビライザ130の例であり、チューブとの接触面積が小さくなるように凹部131a、131bの深さが浅く形成されている。このような形状にすることにより、チューブを強い力で保持することができる。図7(c)は、凹部131a、131bを深く形成し、更に間口を広げた例である。このような形状にすることにより、チューブスタビライザ130によりチューブ160を固定する際に、チューブ160を凹部131a、131b及びポンプカセット110の溝112a、112b、113a、113bに案内し易くなる。
【0039】
ポンプカセット110は、チューブ160及びロータ120を収容し、更にチューブスタビライザ130によりチューブ160がポンプカセット110に固定された状態で、ベース140に固定される。予めチューブスタビライザ130によりチューブ160をポンプカセット110の下端に固定することにより、ポンプカセット110をベース140に固定する際のチューブ160の取り回しが容易になる。
【0040】
ポンプカセット110がベース140に固定されると、ロータ120はポンプカセット110とベース140との間に挟み込まれて保持される。また、ロータ120にギアボックス20の出力軸30が連結されて、出力軸30による回転駆動が可能になる。
【0041】
次に、本発明の実施形態に係るチューブスタビライザ130の装着及び取り外し方法について説明する。上述のように、チューブスタビライザ130は、チューブ160及びロータ120をポンプカセット110に収容した後に、ポンプカセット110に取り付けられる。チューブスタビライザ130を装着するときは、先ず、チューブ160の第1端161を平板部112の溝112a及び平板部113の溝113aに、第2端162を平板部112の溝112b及び平板部113の溝113bに通す。次に、チューブスタビライザ130の保持部131を平板部112と平板部113との間の隙間に差し込む。更に、フック132の背面の下部を手前側に(図6(d)における矢印Aの方向に)押し込むと(場合によっては、フック132の背面を手前側に押しながら、更にフック132の先端を上方に持ち上げると)、チューブスタビライザの係合爪133がポンプカセット110の係合突起118aと係合し、装着が完了する。
【0042】
次にチューブスタビライザ130の取り外し方を説明する。図8はチューブスタビライザ130の取り外し方を説明する図である。図8に示されるように、フック132の先端を指先で下方に押し下げると、チューブスタビライザ130の係合爪133とポンプカセット110の係合突起118aとの係合が解除される。この状態で更にチューブスタビライザ130を奥側に押し込むと、チューブスタビライザ130が取り外される。このように、本発明の実施形態に係るチューブスタビライザ130は、ワンタッチ操作により取り外すことができるため、チューブ160の交換等のチューブポンプ1のメンテナンス作業を容易にする。
【0043】
上記に説明したように、本発明の実施形態に係るチューブポンプ1においては、ポンプカセット110、チューブ160、ロータ120及びチューブスタビライザ130によりポンプ機能を提供するポンプカートリッジが形成され、このポンプカートリッジは駆動部(駆動モータ10、ギアボックス20及びベース140)に対して着脱自在になっている。また、チューブスタビライザ130によりチューブ160がポンプカートリッジに固定されるようになっている。このような構成においては、チューブの各端部161、162がポンプカセット110に位置決めされ、固定されるため、ポンプカートリッジを駆動部に取り付ける際にチューブ160の位置を整える作業が不要になり、チューブポンプ1の組み立てやメンテナンスの作業が効率化される。しかしながら、本発明の実施形態の構成はこれに限定されず、駆動部に対して着脱自在なポンプカートリッジが形成されない構成であってもよく、またチューブスタビライザ130によりチューブが駆動部(例えばベース140)に固定される構成であってもよい。
【0044】
以上が本発明の例示的な実施形態の説明である。本発明の実施の形態は、上記に説明したものに限定されず、特許請求の範囲の記載により表現された技術的思想の範囲内で任意に変更することができる。以下に本発明の実施形態の幾つかの変形例を示す。なお、以下の変形例の説明において、上記の実施形態と同一又は対応する要素には同一又は類似の参照符号を使用する。
【0045】
上記の実施形態においては、ポンプカセット110の平板部112、113(具体的には溝112a、112b、113a、113b)とチューブスタビライザ130の凹部131a、131bとの間でチューブ160を挟み込むことによりチューブ160が保持される。この構成においては、平板部112、113と保持部131が同一平面状にないため、チューブにせん断力が加わる。そのため、柔らかい樹脂から形成された薄肉のチューブ160を使用する場合には、チューブが座屈する可能性がある。そのような場合には、平板部112と113の間に保持部131と対向して配置され、保持部131との間でチューブ160を保持する第2の保持部135を設けてもよい。
【0046】
第2の保持部135を有するチューブスタビライザ130の一例を図9に示す。図9は、チューブスタビライザ130を装着したポンプカセット110を平板部112の上面で切断して、下方から見た図である。第2の保持部135は、平板部112と平板部113の間に形成された隙間の手前側(図9における上側)に配置される。具体的には、第2の保持部135は、平板部112と平板部113を連結する下部側壁118の手前側部分と保持部131とで挟まれた状態で使用される。第2の保持部135の奥側(図9における下側)には凹部135a、135bが形成されている。凹部135a及び135bの形状及び寸法は、使用するチューブ160の材質や寸法に応じて適宜設定される。図9に示される例では、凹部135a及び135bは使用するチューブよりわずかに小さい径の半円状に形成されている。チューブ160の第1端161(不図示)は、保持部131の凹部131aと第2の保持部135の凹部135aとで挟まれて保持される。また、チューブ160の第2端162(不図示)は、保持部131の凹部131bと第2の保持部135の凹部135bとで挟まれて保持される。
【0047】
図9に示される例では、第2の保持部135の奥側(図9における下側)の端面は平面状に形成されており、保持部131の手前側の端面と当接するように形成されている。従って、チューブ160を保持する力(チューブ160の変形量)は、保持部131の凹部131a、131b及び第2の保持部135の凹部135a、135bの形状及び寸法によって決定される。また、別の変形例では、保持部131の手前側の端面が第2の保持部135の端面と当接しなくてもよく、その場合にもチューブスタビライザ130の寸法によって決定される一定の保持力がチューブ160に加えられる。従って、使用するチューブ160の材質や寸法が変わらない限り、チューブスタビライザ130を着脱しても、常にチューブ160に所定の保持力を与えることができる。
【0048】
また、図9に示される例では、第2の保持部135の凹部135a及び135bの先端部の位置が、破線で示される平板部113の溝113a及び113bの先端部の位置よりも奥側に位置するようになっている。平板部113の溝113a及び113bは、多様な種類・寸法のチューブを使用できるように、幅と深さが大きめに形成されている。そのため、上述した実施形態のように溝113a及び113bの先端部にチューブ160を突き当てる位置決め方法では、必ずしもチューブ160を最適な位置に配置することができない。第2の保持部135を設けることにより、チューブの太さや材質に合わせて、より適切なチューブの位置決めが実現される。
【0049】
また、図9に示される例では、第2の保持部135がワンピースで形成されているが、チューブ160の第1端161を保持する部分(凹部135aが形成される部分)と第2端162を保持する部分(凹部135bが形成される部分)は別体であってもよい。また、図9に示される例では、第2の保持部135の手前側端部は、ポンプカセット110の下部側壁118に沿った形状に形成されているが、確実に適切な位置に安定して配置される形状であれば、図9に示される形状に限定されない。更に、図9に示される例では、保持部131と第2の保持部135が別体となっているが、一体に形成されたものであってもよい。例えば、図10に示されるように、チューブスタビライザ130は、第1の保持部131と第2の保持部135が連結部136を介して連結された構造であってもよい。この場合、連結部136が弾性変形により一種の蝶番として機能し、連結部136を軸に第1の保持部131と第2の保持部135を互いに離隔させて、チューブ160にチューブスタビライザ130を取り付けることができる。
【0050】
また、上記の実施形態においては、チューブスタビライザ130の係合爪133と、ポンプカセット110の係合突起118aが、それぞれ1つずつ形成されている。しかしながら、係合爪133と係合突起118aの数、位置及び形状は上記実施形態の構成に限定されない。チューブの材質や寸法、配置間隔等に応じて、複数の係合爪133と係合突起118aが設けられる。また、係合爪133と係合突起118aの数は1対1でなくてもよい。例えば、1つの長い係合突起118aに複数の短い係合爪133が係合する構成としてもよい。
【0051】
また、上記実施形態のチューブポンプ1は、ポンプカセットの円柱面状の内壁面に沿ってチューブを配置し、ローラを内壁面に沿って公転させることで、連続的にチューブを押し潰してチューブ内の液体を搬送する回転式のポンプであるが、本発明の実施形態はこの構成に限定されない。例えば、細長い平板上にチューブを配置し、平板に沿ってローラを直進させる直進式のポンプであってもよい。
【0052】
また、上記実施形態のチューブポンプ1には、2つの平行な平板部112及び113が形成されており、この2つの平板部112と113の間にチューブスタビライザ130の保持部131が差し込まれる構成が採用されている。しかしながら、本発明の実施形態の構成はこれに限定されない。例えば、第2の保持部135を使用しない場合には、保持部131とフック132とで挟まれる一方の平板部のみがあればチューブスタビライザ130によるチューブ160の固定は可能である。また、平板部の代わりに、チューブスタビライザ130の端部(例えば幅方向両端)のみを支持するレールや突起を下部側壁118の内壁面に設けてもよい。
【符号の説明】
【0053】
1 チューブポンプ
10 駆動モータ
20 ギアボックス
100 ポンプ本体
110 ポンプカセット
118a 係合突起(第1の係合構造)
120 ロータ
121 ロータ本体
122 ローラ
123 ロータ押さえ
130 チューブスタビライザ(チューブ固定具)
131 (第1の)保持部
132 フック(係合部)
133 係合爪(第2の係合構造)
135 第2の保持部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
壁面に沿って配置された可撓性チューブの一部を、前記壁面に沿って移動するローラにより前記壁面との間で弾性変形により連続的に押し潰すことにより、前記可撓性チューブ内の液体を輸送するチューブポンプにおいて、前記可撓性チューブを前記チューブポンプの筐体に固定するチューブ固定具であって、
前記可撓性チューブを前記チューブポンプの筐体との間で挟持する第1の保持部と、
前記第1の保持部から突出し、前記チューブポンプの筐体と係合して、前記第1の保持部を前記チューブポンプの筐体に付勢する係合部と、
を備えることを特徴とするチューブ固定具。
【請求項2】
前記第1の保持部には前記可撓性チューブと当接する凹部が形成されていることを特徴とする請求項1に記載のチューブ固定具。
【請求項3】
前記凹部は前記可撓性チューブの側面と実質的に同じ曲率を有する凹曲面状に形成されていることを特徴とする請求項1又は2のいずれか一項に記載のチューブ固定具。
【請求項4】
前記係合部は、前記凹部が面する方向に突出することを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のチューブ固定具。
【請求項5】
前記係合部の突出方向の先端付近には、前記チューブポンプの筐体に形成された第1の係合構造と係合する第2の係合構造が形成されていることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載のチューブ固定具。
【請求項6】
前記第1の係合構造と前記第2の係合構造は、それぞれ係合突起と係合爪、又は係合爪と係合突起であることを特徴とする請求項5に記載のチューブ固定具。
【請求項7】
前記凹部は、前記可撓性チューブの第1端と当接する第1の凹部と、前記可撓性チューブの第2端と当接する第2の凹部とを含むことを特徴とする請求項2から6のいずれか一項に記載のチューブ固定具。
【請求項8】
前記係合部は、前記第1の凹部の位置と前記第2の凹部の位置の中間位置から突出することを特徴とする請求項7に記載のチューブ固定具。
【請求項9】
前記係合部は、
前記第1の保持部の第1面から垂直に突出する第1部と、
前記第1部の先端から前記凹部が面する正面方向に突出する第2部と
を備え、
前記第1部の最も正面側の面は、前記第1の保持部の最も正面側の面よりも、背面側にオフセットして形成されていることを特徴とする請求項1から8のいずれか一項に記載のチューブ固定具。
【請求項10】
前記チューブポンプの筐体と前記第1の保持部との間に配置され、前記保持部との間で前記可撓性チューブを挟持する第2の保持部を更に備えることを特徴とする、請求項1から9のいずれか一項に記載のチューブ固定具。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一項に記載のチューブ固定具を装着可能な前記筐体を備えたチューブポンプであって、
前記筐体には、
前記第1の保持部を支持する支持部と、
前記チューブ固定具の係合部に形成された第2の係合構造と係合する第1の係合構造と
が形成されていることを特徴とするチューブポンプ。
【請求項12】
前記支持部は、前記チューブ固定具の前記第1の保持部と前記係合部とにより挟まれる第1の平板部を含むことを特徴とする請求項11に記載のチューブポンプ。
【請求項13】
前記支持部は、前記第1の平板部と平行に設けられ、前記第1の平板部との間で前記チューブ固定具の第1の保持部を挟み込む第2の平板部を含むことを特徴とする請求項12に記載のチューブポンプ。
【請求項14】
前記チューブポンプは、
駆動部と、
前記駆動部に対して着脱自在なポンプカートリッジと
を備え、
前記ポンプカートリッジは、
前記ローラと、
前記可撓性チューブと、
前記ローラとの間で前記可撓性チューブを押し潰す前記壁面が形成されたポンプカセットとを備え、
前記筐体は前記ポンプカセットであることを特徴とする請求項11から13のいずれか一項に記載のチューブポンプ。
【請求項15】
複数の前記ローラを回転可能に支持するロータを更に備え、
前記壁面は前記ポンプカセットに形成された円柱面状の第1の内壁面であり、
前記ポンプカセットの前記第1の内壁面と略垂直に形成された第2の内壁面には、前記円柱面状の第1の内壁面の中心軸上に伸び、前記ロータを回転可能に支持するロータ支持軸が設けられていることを特徴とする請求項11から14のいずれか一項に記載のチューブポンプ

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−7546(P2012−7546A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−144713(P2010−144713)
【出願日】平成22年6月25日(2010.6.25)
【出願人】(592077992)株式会社ウエルコ (9)