説明

チョコレート様食品の製造方法

【課題】粉乳を比較的多く含むチョコレート様食品を、簡易な方法で製造することを課題とする。
【解決手段】一定量加水した後、加温して乾燥した粉乳を使用することで、その後のメイラード風味付与のための加熱においても粒状物が発生しないチョコレート様食品を得ることが出来る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チョコレート様食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
粉乳を多く含有するチョコレート様食品においては、製造過程において粒状物が発生し、品質が低下する等の問題が発生する場合がある。このような問題点を解決する手段として、いわゆる「クラム製法」と呼ばれる製法がある。クラムとは、ミルクチョコレート等の粉乳を多く含むチョコレート様食品の製造における中間物として調製されるもので、クラムとカカオ脂等を混合して最終的なチョコレート様食品が調製される。たとえば特許文献1では、チョコレートクラムの製造方法について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−289986号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、粉乳を比較的多く含むチョコレート様食品を、簡易な方法で製造することが出来る方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記の課題に対して鋭意研究を重ねた。
クラム製法においては、別途「クラム」を調製する必要があるため煩雑である。
そこで本発明者は、まず粉乳を多く含むチョコレート様食品の製造工程の中で、どの段階で粒状物が発生しているのかを検討した。その結果、それは、コンチングの段階であることが明らかとなった。さらに、コンチングの段階での処理温度が高いと、粒状物が発生する頻度が上昇することも明らかとなった。
【0006】
しかしながら、チョコレート様食品の風味は、コンチングの、しかも高温でのコンチングにより味の深みが増したり、収斂味や青臭さを軽減させることが知られている。特に高温で起こるメイラード反応は、チョコレート様食品の風味において重要であり、またメイラード風味に特化したタイプのチョコレート様食品においてはなおさらである。
すなわち、粒状物の発生を抑制するためには、コンチングの温度を低くする必要がある一方、メイラード風味を付与するためには、コンチング温度を一定以上に上げなければならないという二律背反の状況に直面した。
そして本発明者らはさらに研究を重ねた。そして遂に、使用する粉乳に対し一定の加水をし、その後一定水分量まで乾燥し、使用することで、コンチングの段階でメイラード風味が生じるまで加熱を行っても、粒状物が発生せず、口当たりの滑らかな製品が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
即ち、本発明は
(1)1〜10重量%の加水を行った後、水分1〜4.5重量%となるように乾燥した粉乳を10〜30重量%配合する、メイラード風味を有するチョコレート様食品の製造方法、
(2)コンチング工程での60℃以上の加熱により発生するメイラード風味を有するチョコレート様食品の(1)記載の製造法、
に関するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、粉乳を比較的多く含むチョコレート様食品を、簡易な方法で製造することができる。そしてこの方法は、メイラード風味が付与されたチョコレート様食品においても適用可能なものである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明で言う粉乳とは、主に牛乳等の成分を乾燥させたものである。具体的には、全脂粉乳、脱脂粉乳、ホエーパウダー、バターミルクパウダーを列挙できる。本発明で単に粉乳と言う場合は、これらの総称である。
これら粉乳の中で特に、脱脂粉乳及び全脂粉乳が、比較的安価であり、かつ、最終製品における風味が良好であり、好ましい。脱脂粉乳と全脂粉乳は、それぞれ用途に応じ使い分けることが可能であり、乳脂に由来する風味を求める場合は、全脂粉乳を使用することが望ましく、また、乳蛋白に由来する風味を求める場合は、脱脂粉乳が望ましい。
【0010】
本発明における粉乳の含有量は、乾燥物換算でチョコレート様食品中10〜30重量%であり、より望ましくは12〜28重量%であり、さらに望ましくは15〜28重量%である。チョコレート様食品中の粉乳の含有量が低いと、良好な乳風味が得られない場合があり、また、粉乳の含有量が多すぎると、チョコレート様食品の風味のバランスが悪くなる場合がある。
【0011】
本発明で言うメイラード風味とは、いわゆるメイラード反応により生じる風味をさす。メイラード反応は還元糖とアミノ酸等を加熱したときなどに見られる反応である。チョコレート様食品においては、カカオマスやココアバターも共存した、すなわちコンチングの段階で加熱することにより、より一体感があり好ましいメイラード風味が得られる。
【0012】
本発明でいうチョコレート様食品とは、一例を挙げると、チョコレート類が該当する。また、ここで言うチョコレート類とは、全国チョコレート業公正取引協議会、チョコレート利用食品公正取引協議会で規定されるチョコレート、準チョコレート、チョコレート利用食品だけでなく、油脂類を必須成分とし、必要により糖類、粉乳類、カカオ原料(カカオマス、ココア、ココアバター)、果汁粉末、果実粉末、呈味材、乳化剤、香料、着色料等の副原料を任意の割合で配合したものを言う。なお、チョコレート類の風味は、カカオ原料、粉乳類、糖類が主成分であるスイートチョコレート類、ミルクチョコレート類、ホワイトチョコレート類に限らず、コーヒー風味、キャラメル風味、抹茶風味、果実風味、野菜風味、塩味系風味などの風味バラエティー品も、当然その範囲に入る。
【0013】
本発明においては、粉乳に対し1〜10重量%加水し、概略均質になるまで攪拌する。加水量が少なすぎると、本発明の効果が十分得られない場合があり、また加水が多すぎると、その後の乾燥に、より多くのエネルギーや時間が必要となる場合がある。使用する水は、いわゆる水道水や一般的なミネラルウオーター等、本発明の効果を妨げない範囲で適宜選択できる。加水量はより望ましくは3〜7重量%であり、さらに望ましくは4〜7重量%である。
なお、粉乳には一定量の水分が既に含まれている場合もあるが、加水は、既に含まれている水分とは別に必要である。
【0014】
本発明における、粉乳へ加水した後の乾燥は、40〜100℃で行うのが望ましく、より望ましくは50〜80℃であり、さらに望ましくは60〜70℃である。乾燥温度が低すぎる場合は、乾燥に多くの時間が必要となる場合がある。また乾燥の際の温度が高すぎる場合は、いわゆる焦げが発生する場合もある。
加水及び乾燥の手段としては、ニーダーないしそれに類する装置にて、攪拌しながら加熱する方法が好ましい。
【0015】
乾燥後の粉乳中の水分は1〜4.5重量%とする必要があり、より望ましくは1〜3.7重量%であり、さらに望ましくは1.5〜3重量%である。この場合の水分量は、当初から粉乳に含まれていたものもあわせた値である。
【0016】
なお、たとえば全脂粉乳においては、加水しない状態においても、3重量%程度の水分を含む(五訂食品成分表)。しかし、これをそのまま加熱すると焦げてしまい、本発明の課題を解決することが出来ない。すなわち、本発明の課題を解決するためには、粉乳へ規定量の加水を行ったうえで、規定量まで乾燥させることが必要である。
【0017】
本発明で課題とするチョコレート様食品は、「粒状物のないチョコレート様食品」である。これは、食した際に違和感ない程度に、粒状物が存在しないチョコレート様食品である。その判断基準は、本発明の実施例に記載する「粒状物評価法」による。
【0018】
また、本発明においては、チョコレートクラムを実質的に使用しないことが望ましい。チョコレートクラムを使用することにより、粉乳を多く含むチョコレート様食品を製造することが出来る場合もある。しかし、チョコレートクラムを別途調製する必要があり煩雑である。本発明は、簡易な方法で粉乳を比較的多く含む、チョコレート様食品を得ることを意図するものであり、特にメイラード風味を有するチョコレート様食品の製造にも適用できるものである。
【0019】
以下に実施例を記載する。
【実施例】
【0020】
検討1 「加水乾燥粉乳の調製」
以下の方法で、表1に示す各水分量の全粉乳を調製した。
1.全脂粉乳(よつ葉乳業株式会社製)1kgをニーダーへ投入する。
2.50rpmで攪拌しつつ、ニーダーのジャケットに、表1の「乾燥温度」に記載する温度の湯を循環する。
3.水(水道水)を設定量加えた後、50rpmで攪拌することで均一化及び乾燥する。
(乾燥時間は、事前に乾燥時間と最終水分量の関係を測定しておき、設定する。)
4.最終的に得られた粉乳の水分量を測定する。
(粉乳の水分量は100〜105℃ 3時間乾燥することにより測定した)。
(加水乾燥を行わない全粉乳を、以下「未処理全粉乳」と称する。未処理全粉乳の水分量は3重量%であった。)
【0021】
表1 加水乾燥粉乳の調製

【0022】
検討2 加水乾燥粉乳における最終水分量のチョコレート様食品への影響
実施例1〜2、比較例1〜5
表2の配合により、以下「チョコレート様食品の製造法」に従いチョコレート様食品を調製した。
得られたチョコレート様食品における、粒状物の発生状況を、以下「粒状物評価法」により測定した。
【0023】
表2 チョコレート様食品の配合

【0024】
「チョコレート様食品の製造法」
a.砂糖、粉乳、カカオマスを設定量混合(全体で1.5kgスケール)。
b.ローラーで微細化。
c.コンチング(各設定条件に従う)
d.テンパリング(30℃)
e.成型

「粒状物状況評価法」
1.コンチング終了段階のチョコレート1.5kgを100メッシュ篩通過させる。
2.メッシュ上の粒状物を目視で確認する。
3.粒状物がないものを合格とした。

結果
結果を表3に記載した。
メイラード風味は、パネラー4名で試食し、5点満点で評価した後平均値を求めた。評価基準は、最も良好なメイラード風味を示したものを5点、メイラード風味をほとんど感じられないものを1点とし、1〜5点の間で点数付けを行った。平均点が3点以上を合格とした。
総合評価は、良好なメイラード風味を示し、かつ粒状物が存在しないものを合格とした。
【0025】
表3 結果

【0026】
考察
・表3に示すとおり、全粉乳に対して1〜10重量%の加水を行った後、水分1〜4.5重量%となるように乾燥し使用した場合に、粒状物の発生のない、良好な製品を得ることが出来た。また、コンチング温度を60℃以上とすることで、良好なメイラード風味が付与されたチョコレート様食品を得ることができた。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明により、粉乳を比較的多く含む、チョコレート様食品を、簡易な方法で製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1〜10重量%の加水を行った後、水分1〜4.5重量%となるように乾燥した粉乳を10〜30重量%配合する、メイラード風味を有するチョコレート様食品の製造方法。
【請求項2】
コンチング工程での60℃以上の加熱により発生するメイラード風味を有するチョコレート様食品の請求項1記載の製造法。

【公開番号】特開2012−217411(P2012−217411A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−88101(P2011−88101)
【出願日】平成23年4月12日(2011.4.12)
【出願人】(000236768)不二製油株式会社 (386)
【Fターム(参考)】