説明

チョークコイル

【課題】温度上昇に起因する磁気的特性の低下や周辺機器への悪影響を及ぼすことなく、最適な磁気バイアスを付与することができ、よって大電流化にも適切に対応することが可能となるチョークコイルを提供する。
【解決手段】環状のコイル6と、このコイルの中心部に挿入された第1のコア5およびコイルの外周に配置された第2のコア3、4によって閉磁路が形成されたコア1とを備え、第1のコア5にギャップ部Gが形成されるとともに、ギャップ部Gに磁気バイアスを付与するマグネットが配置されたチョークコイルにおいて、マグネットを、第1のコア5の磁束が鎖交する方向に対して垂直な面内において分割された複数の分割マグネット7によって構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、閉磁路を形成するコアのギャップ部に、磁気バイアスを付与するためのマグネットが配置されたチョークコイルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、AV機器、OA機器あるいはFA機器の電源回路に組み込まれるチョークコイルには、消費電力を抑えるための低電圧化や、多機能化による消費電力の増加により、これまでよりも大きな電流に対しても、安定的な特性を保持できることが要求されつつある。
【0003】
従来、このような要請に対応するためのチョークコイルとして、コアのギャップ部に、当該コアの磁束に対して逆向きの磁束を磁気バイアスとして与えるマグネットを配置することにより、直流重畳特性を向上させたものが開発されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、この種のマグネットを配置した従来のチョークコイルは、一般に、コアのギャップ部に、所望とする磁気バイアスを付与するのに必要な面積を有する1個のマグネットが配置された構造になっており、当該マグネットとしては、例えば図9(a)に示すような円板状のマグネット50や、図9(b)に示すような方形板状のマグネット51が用いられている。
【0005】
ところが、上記従来のチョークコイルにあっては、上記コアからの磁界が急激に変化した際に、電磁誘導効果によってマグネット50、51に渦電流が生じ、当該渦電流によるジュール熱によってマグネット50、51が発熱してチョークコイルの温度上昇を招くことにより、所望の磁気的特性が得られなくなったり、あるいは上記発熱によって周辺機器に悪影響を及ぼしたりするおそれがあった。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、温度上昇に起因する磁気的特性の低下や周辺機器への悪影響を及ぼすことなく、最適な磁気バイアスを付与することができ、よって大電流化にも適切に対応することが可能となるチョークコイルを提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、環状のコイルと、このコイルの中心部に挿入された第1のコアおよび上記コイルの外周に配置された第2のコアによって閉磁路が形成されたコアとを備え、上記第1のコアにギャップ部が形成されるとともに、当該ギャップ部に磁気バイアスを付与するマグネットが配置されたチョークコイルにおいて、上記マグネットを、上記第1のコアの磁束が鎖交する方向に対して垂直な面内において分割された複数の分割マグネットによって構成したことを特徴とするものである。
【0008】
ここで、上記コイルは、ボビンに巻線を施したコイル、単線のコイル、エッジワイズコイル等の各種形態のコイルを含むものである。
また、コアとしては、コイルの中心部に挿入された第1のコアと、コイルの外周に配置された第2のコアとにより、全体としてロ字型あるいは日字型に形成されたものが適用可能である。
【0009】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、上記ギャップ部に、表裏面に貫通する複数の孔部が穿設された樹脂またはフェライトからなる平板状部材が設けられ、上記孔部に上記分割マグネットが挿入されていることを特徴とするものである。
【0010】
さらに、請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の発明において、上記第1のコアの上記ギャップ部への対向面に複数の凹部が形成され、当該凹部に上記分割マグネットの端部が挿入されていることを特徴とするものである。
【0011】
また、請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれかに記載の発明において、上記複数の分割マグネットは、上記第1のコアの磁路中心を外した位置に配置されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
請求項1〜4のいずれかに記載の発明によれば、第1のコアのギャップ部に、所望の磁気バイアスを与えるに必要な面積を複数に分割した面積を有する分割マグネットを複数配置しているために、第1のコアからの磁界が急激に変化した際にも、従来の1個のマグネットと比較して、各々の分割マグネットにおける渦電流の発生が緩和あるいは抑制される。この結果、分割マグネット全体としての発熱量を減少させて、当該チョークコイルにおける有害な温度上昇を防止することができるとともに、上記渦電流に起因する損失も抑えることができる。
【0013】
ここで、上記複数の分割マグネットを配置するに際しては、全体として磁力が均等に分布するように配置することが好ましい。しかしながら、実際には、各々の分割マグネットが固有の磁力を有しているために、互いの磁気吸引力により、当該複数の分割マグネットを上記面内において正確に離間させて配置することが難しい。
【0014】
この点、請求項2に記載の発明によれば、上記ギャップ部に、複数の孔部が穿設された樹脂またはフェライトからなる平板状部材を設け、この平板状部材の孔部に上記分割マグネットを挿入しているために、容易に分割マグネットの均等配置を行うことができる。
【0015】
加えて、孔部に分割マグネットを挿入した後の平板状部材を、第1のコアのギャップ部に組み込むことにより、上記分割マグネットの配置が完了するために、製造に要する工数も低減することができる。また、上記平板状部材に、予め必要とされる分割マグネットの数よりも多くの孔部を穿設しておけば、適宜、分割マグネットの位置や本数を代えることにより、任意の磁気バイアスに調整することも可能になる。
【0016】
なお、上記分割マグネットの配置は、例えば請求項3に記載の発明のように、第1のコアのギャップ部への対向面に複数の凹部を形成しておき、当該凹部に上記分割マグネットの端部を挿入することによっても、容易に行うことができる。
【0017】
さらに、請求項4に記載の発明によれば、分割マグネットを、磁束が集中し易い第1のコアの磁路中心には配置せず、上記磁路中心からずれた位置に配置しているために、当該分割マグネットに鎖交する磁束を減らして、発熱の原因となる渦電流の発生自体をより一層抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係るチョークコイルの一実施形態を示すもので、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)はその縦断面図である。
【図2】上記チョークコイルのコア形状を示すもので(a)は平面図、(b)は正面図である。
【図3】上記チョークコイルの平板状部材の形状およびその使用形態を示す図である。
【図4】上記チョークコイルの平板状部材の他の形状およびその使用形態を示す図である。
【図5】上記チョークコイルのコアによって分割マグネットの位置決めをした状態を示す正面図である。
【図6】(a)は、本発明の実施例1を示す平面図、(b)はその比較例を示す平面図、(c)は実験結果を示す図表である。
【図7】(a)は、本発明の実施例2を示す平面図、(b)はその比較例を示す平面図、(c)は実験結果を示す図表である。
【図8】(a)は、本発明の実施例3を示す平面図、(b)はその比較例としての実施例4を示す平面図、(c)は実験結果を示す図表である。
【図9】従来のチョークコイルに用いられているマグネットの形状を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1〜図5は、本発明に係るチョークコイルの一実施形態およびその変形例を示すもので、図中符号1がフェライトコアである。
このフェライトコア1は、正面視においてE型をなす一対の蝶型コア2、2によって、全体として正面視日字状に形成されたものである。
【0020】
ここで、各々の蝶型コア2は、図2に示すように、平板部3と、この平板部3の長手方向両端部に立設された略板状の外脚4と、これら外脚4間の中央部に立設された円柱状の中脚5とが一体に成形されたもので、中脚5の高さ位置が、外脚4の高さよりも低くなるように形成されている。また、平板部3は、中脚5から両側の外脚4に向けて、各々漸次幅寸法が増加する一対の略扇形状に形成されており、さらに両端部の外脚4の内外周面は、中脚5の軸線を中心とする円弧面状に形成されている。
【0021】
そして、一対の蝶型コア2は、平板部3が外観略円筒状のコイル6の端面側に配置され中脚5が巻線部内に挿入された状態で、外脚4がコイル6を間に挟んで互いの先端面が当接されることにより、一体化されている。これにより、一対の蝶型コア2のコイル6の中心部に挿入された中脚5(第1のコア)および当該コイル6の外周を囲繞する外脚4および平板部3(第2のコア)によって、閉磁路を形成する日字型のフェライトコア1が構成されるとともに、互いの中脚5間にギャップGが形成されている。
【0022】
そして、このギャップGに、複数の分割マグネット7を組み込んだ平板状部材8が介装されている。
この平板状部材8は、図3(a)に示すように、樹脂またはフェライトによって円板状に形成されたもので、表裏面に貫通する複数(図では4つ)の円形の孔部8aが、互いに中心に対して対象となる位置に穿設されている。そして、図3(b)に示すように、各々の孔部8aに分割マグネット7が挿入されている。
【0023】
ここで、分割マグネット7は、ネオジウム磁石あるいはサマリウムコバルト磁石が円板状に形成されたもので、各々の面積が所望の磁気バイアスを与えるに必要な面積を4等分した面積となるように形成されている。これにより、分割マグネット7は、フェライトコア1の中脚5の磁束が鎖交する方向に対して垂直な面内において、互いに離間して配置されている。また、この配置においては、4つの分割マグネット7が、フェライトコア1における中脚5の磁路中心を外した位置に配置されている。
【0024】
また、図4(a)は、平板状部材の変形例を示すものである。この平板状部材9も、同様に樹脂またはフェライトによって円板状に形成されたものであるが、当該平板状部材9においては、表裏面に貫通する複数(図では3列4行の合計12)の正方形の孔部9aが穿設されている。そして、図4(b)に示すように、各々の孔部9aに、方形板状に形成された分割マグネット7が挿入されている。
【0025】
以上の構成からなるチョークコイルによれば、一対の蝶型コア2の中脚5間に形成されたギャップ部Gに、所望の磁気バイアスを与えるに必要な面積を4等分した分割マグネット7を配置しているために、フェライトコア1における中脚5からの磁界が急激に変化した際にも、従来の1個のマグネットを用いた場合と比較して、各々の分割マグネット7における渦電流の発生が緩和あるいは抑制される。
【0026】
この結果、4つの分割マグネット7の総発熱量を減少させて、チョークコイルにおける有害な温度上昇を防止することができるとともに、上記渦電流に起因する損失も抑えることができる。加えて、上記蝶型コア2を対向配置したフェライトコア1は、コア損失および直流重畳特性に優れるために、上記磁気バイアスを付与する分割マグネット7と組み合わせることにより、従来品と比較して、より一層小型、軽量であって、かつ経済性に優れたチョークコイルを実現することができる。
【0027】
しかも、ギャップ部Gに、4つの孔部8aあるいは12の孔部9aが穿設された樹脂またはフェライトからなる平板状部材8または9を設け、この平板状部材8、9の孔部8a、9aに分割マグネット7を挿入しているために、容易に分割マグネット7の均等配置を行うことができる。
【0028】
また、孔部8a、9aに分割マグネット7を挿入した後の平板状部材8、9を、中脚5間のギャップ部Gに組み込むことにより、分割マグネット7の配置が完了するために、製造に要する工数も低減することができる。
【0029】
加えて、図3(c)や図4(c)に示すように、平板状部材8、9に、必要とされる分割マグネット7の数よりも多くの孔部8a、9aを穿設しておけば、適宜、分割マグネット7の位置や配置本数を代えることにより、任意の磁気バイアスに調整することも可能になる。
【0030】
さらに、図3に示したように、分割マグネット7を、磁束が集中し易い中脚5からの磁路中心には配置せず、上記磁路中心からずれた位置に配置すれば、分割マグネット7に鎖交する磁束を減らして、発熱の原因となる渦電流の発生自体をより一層抑制することができる。
【0031】
なお、上記実施形態においては、中脚5間のギャップ部Gに、複数の分割マグネット7を孔部8a、9aに挿入した平板状部材8、9を配置した場合についてのみ説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、図5に示すように、中脚5のギャップ部Gへの対向面に複数の凹部5aを形成しておき、これら凹部5aに分割マグネット7の端部を挿入することによって当該分割マグネット7を位置決め・配置してもよい。
【0032】
また、平板状部材8、9の素材についても、樹脂またはフェライトのいずれも用いることができるが、特に樹脂よりも渦電流の影響が少ないフェライトを用いれば、熱伝導による放熱性を一段と高めることができ、磁気バイアス特性も向上させることが可能になる。
【実施例】
【0033】
先ず、図6(a)に示す16個の方形板状の分割マグネット7を用いた本発明に係る実施例1のチョークコイルと、図6(b)に示す1個の方形板状のマグネット51を用いた従来のチョークコイルを用いて、磁石の発熱量の比較実験を行った。
この際に、フェライトコア1としては、いずれも同形の蝶型コア2を用いたものを用い、かつ分割マグネット7の面積の合計を、マグネット51の面積と等しくした。
【0034】
図6(c)の結果に示すように、実施例1におけるマグネット7の発熱量は、従来のマグネット51と比較して、1/14以下になることが実証された。
【0035】
次いで、同様の蝶型コア2を用いて、図7(a)に示す4個の円板状の分割マグネット7を用いた本発明に係る実施例2のチョークコイルと、図7(b)に示す1個の円板状のマグネット50を用いた従来のチョークコイルを用いて、磁石の発熱量の比較実験を行った。この際にも、分割マグネット7の面積の合計を、マグネット50の面積と等しくした。
【0036】
この結果、図7(c)に示すように、実施例2における分割マグネット7の発熱量は、従来のマグネット50と比較して、1/3以下になることが実証された。
【0037】
そこで次に、図8(a)に示す12個の方形板状の分割マグネット7を、中脚5からの磁路中心からずれた位置に配置した本発明に係る実施例3のチョークコイルと、図8(b)に示すように、同形かつ同数の分割マグネット7を、中脚5からの磁路中心も含めてその周囲に配置した本発明に係る実施例4のチョークコイルを用いて、磁石の発熱量の比較実験を行った。
【0038】
この結果、図8(c)に見られるように、いずれも従来と比較して発熱量は小さくなるとともに、分割マグネット7を中脚5からの磁路中心からずれた位置に配置した図8(a)に示す実施例3のチョークコイルにおいては、実施例4のチョークコイルよりも一段と分割マグネット7における発熱量が小さくなることが実証された。
【符号の説明】
【0039】
1 フェライトコア
2 蝶型コア2
3 平板部(第2のコア)
4 外脚(第2のコア)
5 中脚(第1のコア)
5a 凹部
6 コイル
7 分割マグネット
8、9 平板状部材
8a、9a 凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状のコイルと、このコイルの中心部に挿入された第1のコアおよび上記コイルの外周に配置された第2のコアによって閉磁路が形成されたコアとを備え、上記第1のコアにギャップ部が形成されるとともに、当該ギャップ部に磁気バイアスを付与するマグネットが配置されたチョークコイルにおいて、
上記マグネットを、上記第1のコアの磁束が鎖交する方向に対して垂直な面内において分割された複数の分割マグネットによって構成したことを特徴とするチョークコイル。
【請求項2】
上記ギャップ部に、表裏面に貫通する複数の孔部が穿設された樹脂またはフェライトからなる平板状部材が設けられ、上記孔部に上記分割マグネットが挿入されていることを特徴とする請求項1に記載のチョークコイル。
【請求項3】
上記第1のコアの上記ギャップ部への対向面に複数の凹部が形成され、当該凹部に上記分割マグネットの端部が挿入されていることを特徴とする請求項1または2に記載のチョークコイル。
【請求項4】
上記複数の分割マグネットは、上記第1のコアの磁路中心を外した位置に配置されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のチョークコイル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−42027(P2013−42027A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−178861(P2011−178861)
【出願日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【出願人】(000237721)FDK株式会社 (449)