チログロブリン結合性アプタマー及びアプタマー多量体の作製方法
【課題】チログロブリンの迅速且つ簡便な検出手段として有用な、チログロブリンに結合するアプタマーを提供すること。アプタマーの結合能を向上し得る手段を提供すること。
【解決手段】標的分子であるチログロブリンとssDNAライブラリーを液相で結合させた後電気泳動により分離して回収するゲルシフト法と、固相上で競合タンパク質の共存下にてチログロブリンと結合させた後チログロブリンに結合したssDNAを回収するアプタマーブロッティング法とを組み合わせたSELEX法により、チログロブリンと結合するアプタマーを得ることに成功し、その塩基配列を決定した。また、アビジン−ビオチンのような連結分子を介してアプタマーを多量体化する方法を開発した。
【解決手段】標的分子であるチログロブリンとssDNAライブラリーを液相で結合させた後電気泳動により分離して回収するゲルシフト法と、固相上で競合タンパク質の共存下にてチログロブリンと結合させた後チログロブリンに結合したssDNAを回収するアプタマーブロッティング法とを組み合わせたSELEX法により、チログロブリンと結合するアプタマーを得ることに成功し、その塩基配列を決定した。また、アビジン−ビオチンのような連結分子を介してアプタマーを多量体化する方法を開発した。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チログロブリンに結合するアプタマー及びアプタマーを多量体化する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
チログロブリンは甲状腺内に多量に存在するヨードタンパク質であり、甲状腺疾患のマーカーとして臨床・診断分野で用いられている。チログロブリンの測定には一般的に抗体が用いられており、主にイムノラジオメトリックアッセイ(IRMA)により行なわれる。IRMAはチログロブリン分子上の異なるエピトープを認識する二つの抗体を用いた検出系である。該検出系では、放射性同位体で標識された抗体Ab*と、固定化された抗体Abを用い、Ab*-Tg-Ab複合体を形成させ、その放射活性を測定することで、チログロブリンの濃度を決定する。また、これ以外の方法としては、放射性同位体ではなく酵素を抗体に修飾し、酵素の活性を検出するELISAや、化学発光で検出するケミルミノメトリックアッセイ(ICML)なども用いられている。
【0003】
抗体は標的と結合した際に信号発信を行わないので、免疫測定に利用する場合、標的分子の異なる箇所に結合する二種類の抗体が必要となる。一つの標的分子の異なる箇所に結合する二種類の抗体を作製することは難しく、また抗体はそもそも作成に時間と労力がかかり、値段も高価である。
【0004】
また、先に述べた通り、抗体による検出法では、固定化されたキャプチャー用の抗体Abにチログロブリンが結合し、更にそのチログロブリンに検出用の抗体Ab*が結合し、Ab*-Tg-Ab複合体が形成されたとき、Ab*の放射活性などでチログロブリンの存在を検出する。そのため、結合しなかった遊離の標識抗体Ab*を取り除くB/F分離の操作が必須となり、簡便な系とは言えない。
【0005】
一方、任意の分子と特異的に結合するオリゴヌクレオチドであるアプタマーが知られている。アプタマーは、市販の核酸合成機を用いて化学的に全合成できるので、特異抗体に比べてはるかに安価であり、修飾が容易であるため、センシング素子としての応用が期待されている。所望の標的分子と特異的に結合するアプタマーは、SELEX (Systematic Evolution of Ligands by EXponential Enrichment)と呼ばれる方法により作出可能である(非特許文献1)。この方法では、標的分子を担体に固定化し、これに膨大な種類のランダムな塩基配列を有する核酸から成る核酸ライブラリを添加し、標的分子に結合する核酸を回収し、これをPCRにより増幅して再び標的分子を固定化した担体に添加する。この工程を5〜10回程度繰り返すことにより、標的分子に対して結合力の高いアプタマーを濃縮し、その塩基配列を決定して、標的分子を認識するアプタマーを取得する。なお、上記核酸ライブラリーは、核酸の自動化学合成装置により、ランダムにヌクレオチドを結合していくことにより容易に調製可能である。このように、ランダムな塩基配列を有する核酸ライブラリーを用いた、偶然を積極的に利用する方法により、任意の標的物質と特異的に結合するアプタマーを作出できる。
【0006】
本願発明者らは、B/F分離の操作が不要な疾病マーカー検出技術として、対象分子を認識する認識アプタマーと、酵素に結合してその酵素の活性に変化を及ぼす酵素制御アプタマーとを連結することで、アプタマーを酵素のサブユニットとして用いたセンシング技術であるAES(Aptameric Enzyme Subunit)を構築している(特許文献1、2)。検出原理は、測定対象の分子が存在した場合、その分子が認識アプタマーに結合することで、これに連結されている酵素制御アプタマーの構造に変化が生じ、その結果AES中に含まれる酵素の活性に変化が生じるので、その活性の変化を測定することにより対象分子を検出するというものである。この検出法の利点として、ELISAによる検出と異なり、標的分子の結合を直接、酵素活性のシグナルとして検出するため、B/F分離を必要としない、迅速で簡便な検出が可能である点が挙げられる。また、一度、酵素活性を阻害するアプタマーを獲得してしまえば、検出したい標的分子に結合するアプタマーを任意に選択し、様々な標的分子の検出が可能になる。そのような酵素活性を阻害するアプタマーは既に種々のものが公知である。さらに、アプタマーは抗体に比べ、作成が簡単で安価である。
【0007】
チログロブリンに結合するアプタマーを取得することができれば、上記したAESによる検出系を構築することができ、甲状腺疾患の診断に貢献することができる。しかしながら、チログロブリンに結合するアプタマーは未だ得られていない。アプタマーの創製方法は、上記した通り偶然を積極的に利用する方法であるので、標的物質に対して高い結合能を有するアプタマーが得られるかどうかは、実際に膨大な実験を行なってみなければわからない。一旦創製され、その塩基配列が明らかになれば、常法により容易に調製可能であるが、創製には膨大な実験と試行錯誤が必要となる。
【0008】
また、ある程度の結合能を有するアプタマーが得られた場合には、そのアプタマーの標的分子への結合能をさらに高めることができる簡便な手段が存在すれば、初めから新規アプタマーを創製するよりも遥かに時間とコストを節約できて有用である。アプタマーの結合能を高める手段としては、アプタマー分子を適宜リンカーを介して連結させ、複数のアプタマー分子を1分子のポリヌクレオチドとして調製して用いる方法が知られているが(非特許文献2)、これ以外に有用な手段は知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開WO/2005/049826号公報
【特許文献2】国際公開WO/2007/032359号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Tuerk, C. and Gold L. (1990), Science, 249, 505-510
【非特許文献2】Sensors, 8, p.1090-1098 (2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、本発明の目的は、チログロブリンの迅速且つ簡便な検出手段として有用な、チログロブリンに結合するアプタマーを提供することにある。また、本発明のさらなる目的は、アプタマーの親和性を高めるために有用な手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願発明者らは、標的分子であるチログロブリンとssDNAライブラリーを液相で結合させた後電気泳動により分離して回収するゲルシフト法と、固相上で競合タンパク質の共存下にてチログロブリンと結合させた後チログロブリンに結合したssDNAを回収するアプタマーブロッティング法とを組み合わせたSELEX法により、チログロブリンと結合するアプタマーを得ることに成功した。さらに、ビオチン−アビジン系を利用し、ビオチン修飾したアプタマーをアビジンを介して連結することで、アプタマーを容易に多量体化できること、こうして多量体化されたアプタマーは標的分子への親和性が向上することを見出し、本願発明を完成した。
【0013】
すなわち、本発明は、以下の(a)〜(d)のいずれかのポリヌクレオチドから成るチログロブリン結合性アプタマーを提供する:(a) 配列表の配列番号8〜12、26及び31のいずれかに示される塩基配列から成るポリヌクレオチド;(b) (a)のポリヌクレオチドにおいて1個又は数個の塩基が置換し、欠失し及び/又は挿入され、且つチログロブリンと結合する能力を有するポリヌクレオチド;(c) (a)又は(b)のポリヌクレオチド中に存在するステムループ構造単位を少なくとも一つ含む構造領域から成り、チログロブリンと結合する能力を有するポリヌクレオチド;(d) (a)〜(c)のいずれかのポリヌクレオチドを部分領域として含み、チログロブリンと結合する能力を有するポリヌクレオチド。また、本発明は、連結分子を介して複数のアプタマーが連結した構造を有するアプタマー多量体を提供する。さらに、本発明は、連結分子のセットの一方が結合されたアプタマーと、連結分子のセットの他方とを接触させ、前記連結分子間の結合により前記アプタマーを連結することを含む、アプタマー多量体の作製方法を提供する。さらに、本発明は、1種又は2種以上のアプタマーと連結分子とを含むアプタマー多量体の作製キットを提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、チログロブリンに結合するアプタマーが初めて提供された。本発明のアプタマーは、チログロブリンに対する高い親和性と特異性を有するため、チログロブリンの迅速・簡便な測定に貢献する。また、本発明により、ビオチン−アビジンのような連結分子を用いたアプタマーの多量体化方法が初めて提供された。この分野では、アプタマーと他の何らかの分子を結合させる目的でビオチン−アビジンを用いることは一般的な手法であるが、アプタマーの多量体化に用いることは知られていない。この多量体化法によれば、連結分子セットの一方が結合されたアプタマーと連結分子セットの他方とを混合するのみで多量体化が可能なので、非常に簡便で汎用性の高い手法である。例えば、アプタマーの標的分子がホモ多量体の形態をとる分子である場合には、同一のアプタマー分子を用いてアプタマーを多量体化し、結合能を高めることができる。あるいは、1つの標的分子の異なる部位に結合する複数種類のアプタマーを多様な組み合わせで多量体化することも容易になるため、標的分子の形態(ホモ多量体か否か)にかかわらずアプタマーの結合能を高めることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例3において、安定な二次構造が予測される37個のアプタマーについてアプタマーブロッティング法により結合能を評価した結果を示す。
【図2】実施例4において、ゲルシフトアッセイによりアプタマーの結合能を評価した結果を示す。図中の矢印はチログロブリンに結合しているアプタマー(チログロブリンと複合体を形成することで分子量が増大し、本来の位置より泳動位置がシフトする現象。DNAに修飾されたFITCの蛍光である。)を示す。
【図3】実施例5において、アプタマーブロッティング法により各種の競合タンパク質共存下で特異性を評価した結果を示す。C:C反応性タンパク質、V:VEGF165、G:PQQGDH、T:チログロブリン。
【図4】TgA7(配列番号8)のm-fold(商品名)による二次構造予測図を示す。
【図5】TgA8(配列番号9)のm-fold(商品名)による二次構造予測図を示す。
【図6】TgA9(配列番号10)のm-fold(商品名)による二次構造予測図を示す。
【図7】TgA10(配列番号11)のm-fold(商品名)による二次構造予測図を示す。
【図8】TgA11(配列番号12)のm-fold(商品名)による二次構造予測図を示す。
【図9】TgA25(配列番号26)のm-fold(商品名)による二次構造予測図を示す。
【図10】TgA30(配列番号31)のm-fold(商品名)による二次構造予測図を示す。
【図11】実施例6において、SPRによりアプタマーの結合能を評価した結果を示す。(A)各アプタマーのSPRセンサーグラム、(B)各アプタマーの解離定数。
【図12】実施例7において構築したtruncated mutantの構造(もとのアプタマー構造から取り出した領域)を示す。
【図13】実施例7において構築したtruncated mutantの結合能をアプタマーブロッティング法により評価した結果を示す。
【図14】実施例8においてアプタマーの競合関係をアプタマーブロッティング法により評価した結果を示す。
【図15】実施例9において構築した二量体アプタマーTgA25-7TL(配列番号43)のm-fold(商品名)による二次構造予測図を示す。
【図16】実施例9において、二量体アプタマーTgA25-7TLと単量体のTgA25のそれぞれについてチログロブリンへの結合能を評価した結果を示す。(A)単量体TgA25の結果、(B)二量体TgA25-7TLの結果。
【図17】ビオチン−アビジン系を用いたアプタマーの多量体化を説明する模式図である。
【図18】実施例10において、ビオチン−アビジン系を用いてアプタマーTgA25の多量体化を検討した結果を示す。(A)多量体化したTgA25についてアプタマーブロッティング法により結合能を評価した結果を示す。(B)多量体化したTgA25を電気泳動し、多量体化の効率を調べた結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のチログロブリン結合性アプタマーは下記(a)〜(d)のいずれかのポリヌクレオチドから成る。
(a) 配列表の配列番号8〜12、26及び31のいずれかに示される塩基配列から成るポリヌクレオチド。
(b) (a)のポリヌクレオチドにおいて1個又は数個の塩基が置換し、欠失し及び/又は挿入され、且つチログロブリンと結合する能力を有するポリヌクレオチド。
(c) (a)又は(b)のポリヌクレオチド中に存在するステムループ構造単位を少なくとも一つ含む構造領域から成り、チログロブリンと結合する能力を有するポリヌクレオチド。
(d) (a)〜(c)のいずれかのポリヌクレオチドを部分領域として含み、チログロブリンと結合する能力を有するポリヌクレオチド。
【0017】
ポリヌクレオチドはDNAでもRNAでもよく、またPNA等の人工核酸でもよいが、化学的に安定で自動化学合成も容易なDNAが好ましい。
【0018】
配列表の配列番号2〜38に示す塩基配列は、30mer(「mer」はヌクレオチド残基数を示す)のランダム領域を含む一本鎖DNA(ssDNA)ライブラリー(配列番号1)のスクリーニングにより得られたssDNAのうち、二次構造の予測から安定な構造をとると考えられたssDNAの塩基配列である。これらの塩基配列から成るssDNAは、アプタマーブロッティング法による結合能評価においていずれもチログロブリンへの結合を示した(下記実施例参照)。中でも、配列番号8〜12、26及び31に示す塩基配列から成るssDNAは、アプタマーブロッティング法による評価において競合タンパク質への結合がほとんど見られず、チログロブリンへの特異性が高いと考えられる。従って、本発明のアプタマーの好ましい一例としては、配列番号8〜12、26及び31に示す塩基配列から成るポリヌクレオチド(上記(a))から成るものが挙げられる。この中でも特に、SPRによる評価においても特異性の高さが確認できた配列番号8、9、11、12及び26に示す塩基配列から成るアプタマーがより好ましい例として挙げられる。
【0019】
アプタマーが所定の条件下(フォールディング条件下)で形成する二次構造は、コンピューターを用いた常法により容易に決定することができる。核酸の二次構造予測に用いられるプログラムは種々のものが公知であり、例えば最近接塩基対法を用いた周知の核酸構造予測プログラムであるm-fold(商品名、Nucleic Acids Res. 31 (13), 3406-15, (2003)、The Bioinformatics Center at Rensselaer and Wadsworth のウェブサイトからダウンロード可能)を利用することができるが、これに限定されない。図4〜10に示される二次構造図は、配列番号8、9、10、11、12、26及び31に示す塩基配列から成るアプタマーのm-fold(商品名)による二次構造予測図である。
【0020】
なお、「フォールディング条件」とは、1分子のアプタマーの一部の相補的な領域同士が分子内で塩基対合して二本鎖から成るステム部を形成する条件であり、公知の通常のアプタマーの使用条件でもある。通常、室温下で、所定の塩濃度を有し、所望により界面活性剤を含む水系緩衝液中である。例えば、TBS(10〜20mM Tris-HCl, 100〜150mM NaCl, 0〜5mM KCl, pH 7.0程度)やTBST(0.05v/v%程度のTween 20を含むTBS)の他、10mM MOPS及び1mM CaCl2を含む水溶液などの緩衝液を用いることができる。これらの緩衝液中で95℃程度に加熱して熱変性した後、室温まで徐々に(100μL程度の量であれば30分間程度かけて)冷却することにより、アプタマー分子のフォールディングを行なうことができる。なお、本明細書において、「フォールディングする」という語は、1分子のアプタマーの分子内において塩基対を形成させることのみならず、複数のポリヌクレオチド分子の分子間において塩基対を形成させることも包含する意味で用いる。例えば、後述するとおり、公知のAES法を利用したチログロブリン測定試薬を調製する場合、該試薬のポリヌクレオチド部分は2分子のポリヌクレオチドにより構成され得るが、この場合、上記したフォールディング条件下におくと、2分子のポリヌクレオチドが分子内及び/又は分子間で塩基対を形成することにより、固有の立体構造を形成する。
【0021】
アプタマーは、その立体構造においてステム部及びループ部の位置関係及びサイズが等しいものであれば、通常、標的分子に対する結合能も同様に発揮し得る。例えば、末端から少数の塩基を欠失させても、もとのアプタマーと同様の結合能を維持し得る。ステム部を形成する塩基については、対合する塩基の位置を相互に入れ替えた塩基配列としてもよいし、また、対合する塩基対を例えばa-t対からg-c対に置き換えてもよい。また、ループ部を形成する塩基については、その位置に同じサイズのループが形成される限り、他の塩基配列を採用してもよい。また、アプタマーの結合能に重要ではない領域であれば、少数の塩基を挿入しても、通常、もとのアプタマーと同様の結合能を維持し得る。従って、上記(a)のポリヌクレオチドにおいて、1又は数個(好ましくは1又は2個)の塩基が上記に例示したように置換し、欠失し及び/又は挿入されたポリヌクレオチド(上記(b)のポリヌクレオチド)から成るアプタマーも、チログロブリンと結合する能力を有する限り、本発明の範囲に包含される。なお、このような(b)のポリヌクレオチドについて、公知の核酸構造予測プログラムを用いて改めてその二次構造を確認してもよい。
【0022】
ポリヌクレオチドがチログロブリンと結合する能力を有するか否かは、例えば下記実施例に記載されるアプタマーブロッティング法により容易に評価することができる。具体的には、例えば、チログロブリンと、それ以外の任意のタンパク質(競合タンパク質)とを、ニトロセルロース膜等の支持体に常法により固定化し、このタンパク質固定化支持体とアプタマーとをTBS等の適当な緩衝液中で反応させ、チログロブリンと競合タンパク質とのそれぞれにどの程度のアプタマー分子が結合しているかを調べることにより、アプタマーのチログロブリンに対する結合能を評価することができる。チログロブリンへの結合量が競合タンパク質への結合量よりも多いポリヌクレオチドは、チログロブリンへの好ましい結合能を有すると評価することができる。特に、競合タンパク質にはほとんど結合しないポリヌクレオチドは、チログロブリンに対する特異性が高く、本発明のアプタマーとして好ましい。競合タンパク質は特に限定されず、例えば下記実施例でも用いられているPQQGDH(ピロロキノリンキノングルコースデヒドロゲナーゼ)等を用いることができる。アプタマー分子の結合量は、例えば、アプタマー分子を予めビオチンやFITC等で標識しておき、タンパク質固定化支持体との反応後、該標識物質に対する抗体を用いた常法による免疫測定を行なうことで、アプタマー結合量を調べることができる。
【0023】
アプタマーは、通常、ステムループやグアニンカルテット等の立体構造部分がアプタマー活性に重要な役割を果たしている。本発明のアプタマーは、いずれも1個ないし数個のステムループ構造を有しているので、分子末端の一本鎖構造領域を削除してステムループ構造部分のみを取り出しても、もとのアプタマーと同様に標的分子に対する結合能を発揮し得る。そのような、上記した(a)又は(b)のポリヌクレオチド中に存在するステムループ構造単位を少なくとも一つ含む構造領域から成るポリヌクレオチドも、チログロブリンと結合する能力を有する限り、本発明の範囲に包含される(上記(c))。
【0024】
ここでいう「ステムループ構造単位」とは、主鎖となる一本鎖構造上の一箇所に存在している一群のステムループ構造を指す。例えば、配列番号8(図4)の例では、3nt〜28ntの領域が形成するステムループ構造と、32nt〜40ntの領域が形成するステムループ構造が、それぞれ1単位のステムループ構造である(なお、「X nt」は5'末端からX番目の塩基を示す)。「構造領域」とは、ステムループ構造単位を少なくとも1単位含む、1分子のポリヌクレオチド上の一連の部分領域をいう。該構造領域から成るポリペプチドは、その末端の領域に、もとのポリヌクレオチドにおける一本鎖構造領域の塩基を1ないし数個含んでいてもよい。
【0025】
配列番号8(図4)を例に用いて(c)のポリヌクレオチドを説明すると以下の通りである。配列番号8の塩基配列から成るポリヌクレオチドは2単位のステムループ構造(3nt〜28nt、32nt〜40nt)を有する。従って、1単位のステムループ構造を含むものとしては、3nt〜28ntから成るポリヌクレオチド、32nt〜40ntから成るポリヌクレオチド等が挙げられる。もとのポリヌクレオチド(配列番号8)における一本鎖構造領域の塩基も1ないし数個含んでいてもよいので、例えば1nt〜31ntから成るポリヌクレオチドも挙げられる。ステムループ構造単位を全て含むものとしては、3nt〜40ntから成るポリヌクレオチド、1nt〜49ntから成るポリヌクレオチド等が挙げられる。
【0026】
上記(c)のポリヌクレオチドとしては、配列番号8又は11に示される塩基配列から成るポリヌクレオチド中に存在するステムループ構造単位を少なくとも一つ含む構造領域から成るものが好ましい。特に、配列番号39又は40に示される塩基配列から成るものが好ましい。
【0027】
また、アプタマーは、一端又は両端に任意の塩基配列を付加させても、アプタマー領域においてステム部及びループ部の位置関係及びサイズが等しい限り、もとのアプタマーと同様に標的分子への結合能を発揮し得る。例えば、本願発明者らが構築した公知のAES(特許文献1)では、異なる標的分子に結合するアプタマー同士を連結しても、それぞれがもとのアプタマー活性(標的分子に対する結合能、及び、標的分子が酵素である場合には酵素の活性を上昇又は低下させる能力)を発揮する。このことは、アプタマーの末端に任意の配列を付加してももとの結合能が維持され得ることを示している。従って、上記した(a)〜(c)のポリヌクレオチドの一端又は両端に任意の配列が付加されていても、もとの(a)〜(c)のポリヌクレオチドと同様にチログロブリンへの結合能を発揮し得る。そのような、上記した(a)〜(c)のポリヌクレオチドを部分領域として含むポリヌクレオチドも、チログロブリンに結合する能力を有する限り、本発明の範囲に包含される(上記(d))。
【0028】
付加させる任意の配列は、アプタマーのチログロブリンへの結合能を完全に喪失させる等、チログロブリンへの結合能に悪影響を及ぼすものでない限り、いかなる塩基配列であってもよく、その鎖長も特に限定されない。ただし、アプタマー全長があまりに長くなると合成の手間とコストがかかる。従って、付加配列のサイズは、通常、合計で40塩基程度以下、好ましくは10塩基程度以下、より好ましくは1〜2塩基程度である。ただし、付加配列がアプタマー配列である場合にはこの限りではなく、付加されるアプタマー配列の鎖長に応じてサイズが定まる。アプタマー分子全長のサイズとしては、通常200mer程度以下、好ましくは150mer程度以下である。なお、アプタマーのサイズの下限は特に限定されないが、通常15mer程度以上である。
【0029】
上記(d)のポリヌクレオチドのうち、任意のアプタマー配列が付加されたポリヌクレオチドとしては、例えば、(a)〜(c)のポリヌクレオチドが数個程度連結した構造を有するポリヌクレオチド(以下、便宜的に「多量体」ということがある)、(a)〜(c)のポリヌクレオチドにチログロブリン以外の物質を標的とするアプタマー配列を付加したポリヌクレオチド等が挙げられる。
【0030】
アプタマーを多量体化して用いる技術は公知である(Sensors, 8, p.1090-1098 (2008))。本発明においても、(a)〜(c)のアプタマー(以下、便宜的に「単量体」ということがある)を数個程度連結して用いることができる。特に、チログロブリン上の異なる部位に結合するアプタマーを連結すれば、個々のアプタマー(以下「単量体」ということがある)を単独で用いた場合よりもチログロブリンへの結合能を高めることができる。アプタマーがチログロブリンへの結合に関して競合するか否かは、例えば下記実施例8に記載される競合実験で調べることができる。具体的には、例えば、異なる標識(例えばビオチン標識とFITC標識)を付した異なるアプタマーを種々の濃度比で混合し、これを固相上に固定化したチログロブリンと反応させ、一方の標識(例えばFITC)を検出して一方のアプタマーの結合量を測定する。標識を入れ替えた条件でもう一方のアプタマーの結合量を同様に測定する。ビオチン標識アプタマーの濃度比が大きい条件下でも検出されるFITCのシグナルが低下しない場合には、そのアプタマー同士はチログロブリン上の異なる部位に結合している可能性が高い。従って、そのような組み合わせでアプタマーを連結すれば、単量体として用いた場合よりも結合能を向上させることができる。例えば、本発明では、配列番号9(TgA8)と配列番号26(TgA25)の組み合わせが相互に競合しないと考えられるので(下記実施例8参照)、多量体を作る組み合わせとして好ましい。また、下記実施例9に記載されるように、配列番号26(TgA25)と配列番号43(TgA7T)とを連結しても、チログロブリンへの結合能を向上させることができる。なお、チログロブリンはホモダイマーの形態をとるタンパク質であるため、同一のアプタマーが結合する部位が2つ存在することになり、従って同一のアプタマーを連結しても結合能の向上は可能である。
【0031】
アプタマーを多量体化する場合、単量体を直接連結させた構造としてもよいが、必要に応じリンカーを介して連結することができる。例えば、5'上流側のアプタマー単量体の3'末端領域及び/又は3'下流側のアプタマー単量体の5'末端領域にステムループ構造が存在する場合には、直接連結させるとステムループ構造が望ましく形成されないおそれがあるため、かかる場合にはリンカーを介して連結させることが好ましい。また、単量体が認識する部位がチログロブリン上の離れた位置にある場合には、十分な鎖長のリンカーを挿入し、多量体化した個々のアプタマーがそれぞれの認識部位に結合できるようにすると、アプタマーの結合能を好ましく向上することができる(Sensors, 8, p.1090-1098 (2008)、上掲)。リンカーの鎖長は適宜定めることができ、特に限定されないが、通常は1mer〜20mer程度、好ましくは5mer〜15mer程度である。特に限定されないが、リンカーとしてはアデニン又はチミンのみから成るものが好ましい。
【0032】
連結する単量体の数は数個程度であり、好ましくは2個である。
【0033】
(d)のポリヌクレオチドのうち、チログロブリン以外の物質を標的とするアプタマー配列を付加したポリヌクレオチドとしては、例えば後述するAESを利用した酵素制御ポリヌクレオチドが挙げられる。
【0034】
本発明のアプタマーは、それ自体周知の方法により、公知のフォールディング条件下でフォールディングさせ、標的分子であるチログロブリンの測定(検出、定量、半定量)に使用することができる。被検試料としては、甲状腺の生検組織、血清や血漿等の体液やその希釈物を用いることができる。本発明のアプタマーを用いた被検試料中のチログロブリンの測定は、アプタマーによる周知の通常の方法により行なうことができ、例えば抗体の代わりに本発明のアプタマーを利用した免疫測定法(イムノクロマトグラフィーやELISA(Enzyme linked Immunosorbent Assay))に準じる方法で行なうことができる。特に、配列番号9に示す塩基配列から成るアプタマー単量体TgA8と、配列番号26に示す塩基配列から成るアプタマー単量体TgA25の組み合わせは、標的分子チログロブリンへの結合に及ぼす相互の影響が少ないが(実施例8参照)、このような相互に悪影響が少ないアプタマーの組み合わせであれば、異なる2つのエピトープに結合する2種類の抗体を用いたサンドイッチ法と同様の検出系を組むことができる。また、チログロブリンの測定は、下記実施例に具体的に記載するアプタマーブロッティングや、表面プラズモン共鳴法(SPR)等の周知の方法によっても行なうことができる。
【0035】
また、本発明のチログロブリン結合性アプタマーを用いれば、本願発明者らが開発したアプタマー酵素サブユニット(AES)(特許文献1)を利用したチログロブリン測定試薬を調製することができる。該試薬中のポリヌクレオチド部分は、上記本発明のチログロブリン結合性アプタマーを含むチログロブリン認識アプタマー部位(以下、単に「認識アプタマー部位」ということがある)と、酵素と結合し該酵素の活性を変化させる能力を有する酵素制御アプタマー部位とを含むポリヌクレオチドであって、チログロブリンがチログロブリン認識アプタマー部位に結合することにより、酵素制御アプタマー部位が酵素の活性を変化させる能力が変化するポリヌクレオチドから成る(以下、このポリヌクレオチドを「酵素制御ポリヌクレオチド」と呼ぶ)。
【0036】
なお、「酵素の活性を変化させる」とは、酵素制御アプタマー部位に結合していない状態の酵素と比較して、酵素の活性を上昇又は低下させることをいう。以下、本明細書において、このような酵素活性を変化させる能力のことを「酵素制御能」といい、酵素制御能を有するアプタマーを「酵素制御アプタマー」という。
【0037】
酵素制御ポリヌクレオチドは、1分子又は2分子のポリヌクレオチド鎖から成り(以下、1分子からなるものを「1分子性酵素制御ポリヌクレオチド」、2分子からなるものを「2分子性酵素制御ポリヌクレオチド」ということがある)、標的物質たるチログロブリンが認識アプタマー部位へ結合することにより、酵素制御アプタマー部位が酵素活性を変化させる能力が変化することを特徴とする。酵素制御アプタマー部位が有する酵素活性を変化させる能力の変化は、該部位に結合した酵素の活性の変化を調べることで知ることができる。酵素制御アプタマー部位に結合している酵素は、該部位の作用により、酵素活性が上昇又は低下した状態にあるが、この状態で、認識アプタマー部位にチログロブリンが結合すると、酵素活性がさらに変化する(すなわち、酵素制御アプタマー部位が有する「酵素活性を変化させる能力」が変化する)。通常は、酵素制御アプタマー部位に結合している酵素の酵素活性は、活性が上昇又は低下した状態から、もとの活性に戻る(すなわち、酵素制御アプタマー部位が有する「酵素活性を変化させる能力」が低下する)。この、酵素活性を変化させる能力の低下の原理の詳細は不明であるが、以下のことが考えられる。すなわち、認識アプタマー部位へのチログロブリンの結合により、酵素制御ポリヌクレオチドの立体構造が変化し、酵素制御アプタマー部位から酵素が離脱することによるものと考えられる。
【0038】
具体的には、例えば、酵素制御アプタマー部位が酵素の活性を上昇させる能力を有する場合、チログロブリンが認識アプタマー部位に結合することにより、通常、酵素活性を上昇させる能力が低下し、酵素制御アプタマー部位に結合している酵素の活性は、認識アプタマー部位へのチログロブリンの結合により低下することになる。また、酵素制御アプタマー部位が酵素の活性を低下させる能力を有する場合、チログロブリンが認識アプタマー部位に結合することにより、通常、酵素活性を低下させる能力が低下し、酵素制御アプタマー部位に結合している酵素の活性は、認識アプタマー部位へのチログロブリンの結合により上昇することになる。従って、上記酵素制御ポリヌクレオチドの酵素制御アプタマー部位に対応する酵素を結合させて調製した酵素−ポリヌクレオチド複合体を用いれば、酵素活性の変化を指標として、検体中のチログロブリンの測定を行なうことができる。
【0039】
酵素制御アプタマー部位は、酵素制御アプタマー分子の立体構造(平面的な二次構造も包含する)に基づいて構成される。採用される酵素制御アプタマー分子は特に限定されず、上記した酵素制御能を有するアプタマーであればいかなるものであってもよい。そのような酵素制御アプタマーとしては、例えば、特許文献1に記載されるようにトロンビン阻害アプタマーが公知である。
【0040】
ここで、「アプタマー分子の立体構造に基づいて構成される」とは、上記酵素制御ポリヌクレオチド中で酵素制御アプタマー部位がとる立体構造が、1分子で構成される酵素制御アプタマー分子がとる立体構造と近似するようにして構成されることをいう。従って、酵素制御アプタマー部位を構成する領域は、上記酵素制御ポリヌクレオチドを構成するポリヌクレオチド鎖中において、必ずしも連続する1つの領域として存在する必要はなく、1分子又は2分子のポリヌクレオチド鎖中に分断して存在するものであってもよい。分断して存在していても、ポリヌクレオチド鎖をフォールディング条件下でハイブリダイズさせ、分子内及び/又は分子間の適当な部位において塩基対を形成させることにより、それらの領域が組み合わされて、もとにしたアプタマー分子の立体構造と近似した立体構造を形成することが可能な限り、酵素制御アプタマー部位の構成態様として許容される。
【0041】
酵素制御アプタマー分子の塩基配列を分断する位置としては、ループ構造内のいずれかの部位が好ましい。ループ構造内で分断すれば、分断後の断片をそれぞれ含む2分子のポリヌクレオチド鎖を調製しても、これらのポリヌクレオチド鎖をフォールディング条件下で塩基対形成させることにより、グアニンカルテット構造やステム部等が望ましく形成され、もとにしたアプタマー分子の立体構造を再現できる(もとにしたアプタマー分子の立体構造と近似した立体構造を形成する)可能性が高く、ひいては酵素制御アプタマー部位がもとのアプタマー分子の有する結合能及び酵素制御能を維持する可能性が高くなる(以下、このような、もとの1分子のアプタマーと近似した立体構造をとり得る、2分子のポリヌクレオチド鎖から成るポリヌクレオチドを「分割アプタマー」と呼ぶことがある)。このような分割アプタマーを酵素制御アプタマー部位に適用すると、認識アプタマー部位へのチログロブリンの結合の影響(立体構造の変化)が効率良く酵素制御アプタマー部位に伝わり、指標とする酵素活性の変化が測定し易くなるので好ましい。
【0042】
酵素制御ポリヌクレオチド分子中において、認識アプタマー部位を設ける位置は特に限定されず、酵素制御アプタマー構造の末端部であってもよく、また、酵素制御アプタマー部位のループ構造に付加するようにして設けてもよい。例えば、ループ構造内で分断した分割アプタマーの、一方のポリヌクレオチド鎖の分断部位側末端にチログロブリン結合性アプタマーを連結させることにより、酵素制御アプタマーのループ構造部にチログロブリン認識アプタマー部位を設定した、2分子性の酵素制御ポリヌクレオチドを得ることができる。この際、他方の断片の分断部位側末端に、チログロブリン結合性アプタマー配列中の少なくとも一部の領域と相補的な配列から成る断片を連結させると、チログロブリン結合性アプタマーと該相補配列断片とがハイブリダイズして塩基対を形成するので、酵素制御アプタマー部位の立体構造を安定させることができ好ましい。該相補配列断片のサイズは、チログロブリン結合性アプタマーの全長と同一以下の任意のサイズを選択することができ、特に限定されないが、通常3mer以上20mer以下(ないしはチログロブリン結合性アプタマーの全長の半分以下)程度である。このように、ループ構造内で分断した酵素制御アプタマーを用いて調製した2分子性の酵素制御ポリヌクレオチドは、後述するとおり、チログロブリン認識アプタマー部位の構造変化を効率的に酵素制御アプタマーに伝えることができるため、1分子の酵素制御アプタマーの末端に認識アプタマーを連結して調製される1分子性の酵素制御ポリヌクレオチドよりも好ましい。
【0043】
酵素制御アプタマー部位とチログロブリン認識アプタマー部位とは、直接連結してもよいが、リンカーを介して連結させてもよい。例えば、酵素制御アプタマーとチログロブリン結合性アプタマーとをそれぞれの末端部で連結させて1分子性の酵素制御ポリヌクレオチドを調製する場合には、連結部近傍の立体構造を保持する観点から、適当な鎖長のリンカーを介して連結させてもよい。また、ループ部で分断した分割アプタマーを用いて2分子性の酵素制御ポリヌクレオチドを調製する場合にも、チログロブリン結合性アプタマーをリンカーを介して分断部末端に連結させることができる。リンカーを介する場合、上記相補配列断片には、リンカーと相補的な領域を含ませてもよい。なお、相補配列断片の連結もリンカーを介するものであってよい。ここで用いられるリンカーも、多量体アプタマーで用いられ得るリンカーと同様に、特に限定されないが、アデニンのみ又はチミンのみから成ることが好ましい。リンカーの鎖長は、酵素制御アプタマーとチログロブリン結合性アプタマーとをそれぞれの末端部で連結させる場合には、それぞれのアプタマーが所期の立体構造をとるために十分なだけのスペースを確保できる鎖長であればよく、特に限定されないが、通常は1mer〜20mer程度、好ましくは5mer〜15mer程度である。また、分割アプタマーを用いてループ部分にチログロブリン認識アプタマー部位を設ける場合には、特に限定されないが、通常1mer〜10mer程度、好ましくは1mer〜5mer程度である。
【0044】
チログロブリン認識アプタマー部位は、チログロブリン結合性アプタマー配列のみから成るものであってもよいが、末端に任意の塩基を少数(1個ないし数個程度)含んでいても差し支えない。例えば、酵素制御ポリヌクレオチドが2分子性である場合、チログロブリン結合性アプタマーのうち分割アプタマーと連結していないフリーの末端部に、無関係な塩基が1個ないし数個程度付加していても、酵素制御ポリヌクレオチドの機能に支障はない。
【0045】
AESを利用したチログロブリン測定試薬は、上記した酵素制御ポリヌクレオチドと、該ポリヌクレオチド中の酵素制御アプタマー部位に結合した酵素とを含むものである。該酵素は、上記した通り、試薬中の認識アプタマー部位へのチログロブリンの結合により、酵素活性が変化する。具体的には、酵素制御ポリヌクレオチドに採用される酵素制御アプタマーが、酵素の活性を上昇させる作用を有する場合、チログロブリン測定試薬では、認識アプタマー部位へのチログロブリンの結合により、酵素の活性が低下する。これとは逆に、採用される酵素制御アプタマーが酵素の活性を低下させる作用を有する場合、チログロブリン測定試薬では、認識アプタマー部位へのチログロブリンの結合により、酵素の活性が上昇する。従って、チログロブリンを含み得る検体と本発明の試薬を接触させ、試薬の酵素活性の変化を調べることにより、検体中のチログロブリンを測定することができる。すなわち、上記チログロブリン測定試薬を、チログロブリンを含み得る検体と接触させる工程と、上記酵素制御アプタマー部位に結合した上記酵素の酵素活性の変化を測定する工程と、該変化を指標として該検体中のチログロブリンを測定する工程とを含む、チログロブリンの測定方法も確立することができる。
【0046】
酵素活性の変化の測定は、例えば、検体と接触させない試薬と、検体と接触させた試薬とを別個に調製し、両者の酵素活性を比較することによって行なうことができる。検体との接触の前後の時点で酵素活性を測定して両者を比較してもよいし、また、検体と接触させる前から接触後までの酵素活性を継続的に測定して変化を測定してもよい。上記チログロブリン測定試薬により、チログロブリン濃度が既知の試料を用いて酵素活性を調べ、検量線を作成すれば、検体中のチログロブリンを定量することも可能である。
【0047】
酵素活性の測定は、採用される酵素の種類に応じて、この分野の技術常識に基づき常法により容易に行うことができる。例えば、酵素としてトロンビンを用いる場合、基質としてN-ベンゾイル-Phe-Val-Arg-p-ニトロアニリドを用い、遊離したp-ニトロアニリンの吸光度(410nm)を測定することによってトロンビンの活性を測定できる。あるいは、フィブリノーゲンを用いて、トロンビンによるフィブリノーゲンの切断によって開始されるフィブリノーゲン溶液の凝固の時間を測定し、凝固時間を指標としてトロンビン活性を測定することができる。溶液の凝固の測定は、周知の常法により行なうことができ、例えば、分光学的方法により屈折率の変化を測定する方法、溶液に金属球を添加して溶液凝固に伴うその運動の停止を観察する方法等が挙げられるが、これらに限定されない。あるいはまた、酵素活性の変化を電気化学的に測定することにより標的物質の測定を行なう、グルコースセンサー等の測定手段が公知なので、上記したチログロブリン測定試薬に採用する酵素制御アプタマー及び酵素を適当に選択することで、そのような電気化学的な測定手段を応用することもできる。
【0048】
本発明のアプタマー及び上記した酵素制御ポリヌクレオチドは、市販の核酸合成機を用いて常法により容易に調製することができる。また、チログロブリン測定試薬に含まれる、酵素とポリヌクレオチドとの複合体(酵素−ポリヌクレオチド複合体)は、例えば、酵素制御ポリヌクレオチドをフォールディング後、該ポリヌクレオチドの酵素制御部位に結合させるべき酵素と混合し、室温で5分〜30分程度インキュベートすることにより、容易に調製することができる。なお、結合させるべき酵素が、活性を発揮するために補酵素や金属を必要とするものである場合、特に限定されないが、通常、補酵素や金属と結合させて活性化形態にしてから上記酵素制御ポリヌクレオチドと混合する。
【0049】
チログロブリン測定試薬は、上記した酵素−ポリヌクレオチド複合体のみからなるものであってもよいし、また、該複合体の安定化等に有用な他の成分を含んでいてもよい。例えば、上記複合体のみを適当な緩衝液中に溶解させた溶液の形態であってもよいし、該溶液中に該複合体の安定化のために有用な成分をさらに含んでいてもよい。あるいは、チログロブリン測定試薬は、上記酵素制御ポリヌクレオチドとこれに結合させるべき酵素とを別個に含んだ試薬のセットの形態で提供することもできる。この場合は使用者が使用時に各試薬を混合してチログロブリン測定試薬を調製することができる。
【0050】
また、本願発明者らは、アプタマーの連結方法として、アプタマーを適宜リンカーを介して直接的に連結し1分子のポリヌクレオチドとして調製する上記方法とは異なる新規な方法を発明した。本発明の本発明の連結アプタマーの作製方法(以下、「多量体化法」ということもある)では、連結分子を介してアプタマーを連結させ、多量体とする。ここで、「連結分子」とは、連結すべきアプタマーとは別個に存在し得る分子であって、連結すべきアプタマーの複数個を該分子自身に直接的又は間接的に結合できる分子である。
【0051】
連結分子は、相互に特異的に結合する2種類の分子のセットであることが好ましい。ここでいう特異的結合は、本発明の抗体に関して上記した特異的結合と同様の意味である。連結分子としてそのような2種類の分子のセットを用いる場合、連結分子のセットのうちの一方を、連結すべきアプタマーに結合させておく。そうすると、連結分子セットの一方を結合したアプタマーと、連結分子セットの他方とを接触させるのみで、連結分子間の特異的結合により、複数個のアプタマーが連結分子上に連結され、多量体となる。連結分子セットのうちのいずれをアプタマーと結合させておくかについては、当業者であれば、連結分子セットの種類に応じて容易に決定することができる。連結分子のセットの具体例としては、ビオチンとアビジン又はストレプトアビジンとのセット、ジンクフィンガータンパク質と該ジンクフィンガーを認識して結合する塩基配列から成る領域とのセット等を挙げることができるが、互いに特異的に結合できる構造体の組み合わせであればいずれのものでも使用可能であり、これらに限定されない。これらの具体例及びこれら以外の連結分子のセットがこの分野で公知であり、市販されているものもあるため、容易に入手可能である。
【0052】
該多量体化法は、上記した本発明のチログロブリン結合性アプタマーのみに限定されず、各種のアプタマーに対して適用可能である。これまでに各種の標的分子(例えば種々のタンパク質、糖類、脂質、核酸、低分子化合物等)に対するアプタマーが作製され公知となっており、また、SELEXのようなアプタマーの作製方法も知られているため、所望の標的分子に対する新規なアプタマーを作製することができる。それらのいずれについても、該方法を用いて連結することが可能である。さらにまた、先に述べた方法で1分子のポリヌクレオチドとして調製した任意のアプタマーの多量体であっても、連結分子を介して多量体化する方法にてさらに多量体化が可能である。
【0053】
以下、連結分子としてビオチンとアビジンとのセットを用いた場合を例に、本発明のアプタマー多量体作製法について説明する。もっとも、上記したように、該方法はビオチン−アビジンを用いた場合にのみ限定されるものではない。
【0054】
連結分子の一方であるビオチンは、連結すべきアプタマーに結合させる。核酸へのビオチン修飾方法は周知であり、アプタマーへのビオチンの結合も常法通りに行なうことができる。ビオチンはアプタマー分子のいずれか一方の末端に結合しておけばよい。他方の末端には、例えば、検出試薬として用いる観点から標識物質を結合することができる。標識物質は、周知の免疫測定法において結合を検出するために通常用いられる蛍光標識、化学発光標識、酵素標識等の標識物質を使用することができる。なお、放射標識やDIG標識したヌクレオチドを用いて標識されたアプタマーを調製することも可能である。
【0055】
ビオチンを結合したアプタマーとアビジンとを接触させると、ビオチンがアビジンに結合するので、アビジンを介してビオチン修飾アプタマーが連結する。アビジンにはビオチンの結合部位が4箇所存在するため、ビオチン−アビジンセットを用いる方法によれば最大で4個のアプタマーを連結可能である。なお、下記実施例に示される通り、この方法で得られるアプタマー多量体の集団は、アプタマーの連結数が異なる多量体の混合物である。ビオチン修飾アプタマーとアビジンとを接触させる際の両者の比率は特に限定されず、当業者が適宜定めることができるが、効率よく連結させる観点から、通常、ビオチン修飾アプタマー:アビジンのモル比として1:1〜4:1の範囲内で選択される。アビジン溶液とビオチン修飾アプタマー溶液を混合し、4℃〜室温程度で15分間〜30分間程度おけばよい。アビジンとビオチン修飾アプタマーとを混合する際の濃度は特に限定されず、一般的には混合した系内のアビジン濃度が10 nM〜100 μM程度であればよい。例えば、80 nM程度のビオチン修飾アプタマーを連結する場合、混合後の系内のアビジン濃度が10 nM〜100 nM程度であればよい。
【0056】
アプタマー多量体を標的分子の測定に用いる際には、通常、上記した公知のフォールディング条件下でアプタマーをフォールディングさせるが、フォールディング工程ではアプタマーを95℃程度の高温で加熱する。タンパク質であるアビジンを高温にさらすことは好ましくないため、フォールディング工程はアビジンとビオチン修飾アプタマーとを接触させる前に行なうことが好ましい。すなわち、アビジンとの接触前にビオチン修飾アプタマーをフォールディングさせておくことが好ましい。
【0057】
本発明の方法で連結するアプタマーは、同一の標的分子に結合するものであるが、同一配列のアプタマーのみであってもよいし、異なる配列を有する2種以上のアプタマーであってもよい。ある標的分子に対してそれぞれ異なる部位に結合するアプタマーが複数得られる場合には、それらの全てに連結分子の一方を結合させ、連結分子の他方と接触させて多量体化してもよい。複数のアプタマーを多量体化した場合には、得られるアプタマー多量体に含まれるアプタマーの組成は、多量体分子ごとに種々に異なり得るが、そのようなアプタマー多量体の集団も本発明の範囲に包含される。アプタマーの標的分子が例えばチログロブリンやPQQGDHのようなホモ多量体のタンパク質である場合、同一の結合部位が複数箇所存在することになるため、同一部位に結合する同一配列のアプタマーのみを多量体化しても、アプタマーの親和性を好ましく向上し得る。特に限定されないが、連結分子を介して結合されるアプタマーの種類は、通常1種〜数種程度である。
【0058】
例えば、本発明のチログロブリン結合性アプタマーを該方法により連結する場合、チログロブリンはホモダイマーであるから、上記した本発明のアプタマーのうちのいずれか1種のみを連結してもよく、また異なる部位に結合する2種以上のアプタマーを連結してもよく、いずれの場合でもアプタマーの親和性を向上できる。下記実施例では、配列番号26に示す塩基配列から成るアプタマーTgA25のみをビオチン修飾して連結しているが、アプタマーブロッティングによりTgA25単量体よりも多量体の方が親和性が向上していることが具体的に確認されている。異なるアプタマーの組み合わせの例としては、上述の通り、配列番号9(TgA8)と配列番号26(TgA25)の組み合わせ、及び配列番号26(TgA25)と配列番号43(TgA7T)との組み合わせが挙げられるが、これに限定されない。
【0059】
連結分子を介したアプタマー多量体もまた、1分子構造のアプタマー多量体や単量体と同様に、アプタマーによる周知の通常の方法によって標的分子の測定に使用可能である。例えば、抗体の代わりに本発明のアプタマーを利用した免疫測定法に準じる方法で行なうことができる。例えば、本発明のチログロブリン結合性アプタマーの多量体であれば、甲状腺の生検組織、血清や血漿等の体液やその希釈物等の被検試料中のチログロブリンの測定に使用することができる。フォールディング工程は、連結分子の熱への耐性に応じて適宜の順序で実施される。高温にさらすことが好ましくないタンパク質等の連結分子を用いる場合、又は連結分子への結合が熱に不安定である場合には、連結分子の一方を結合させたアプタマーと連結分子の他方とを接触させる前にフォールディングを行なうことが好ましい。連結分子間の結合が熱に安定である場合には、多量体化させた後にフォールディングを行なうことも可能である。その他の条件は1分子構造のアプタマーについて上記した条件と同様である。
【0060】
アプタマー及び連結分子は、アプタマー多量体の作製キットとして提供することができる。アプタマーは、1種類のみでもよいし、また同一の標的分子に結合する2種以上のアプタマーを含んでいてもよい。異なる標的分子に結合する1種又は2種以上のアプタマーをさらに含んでいてもよい。連結分子としては、相互に特異的に結合する2種類の分子のセットが好ましい。連結分子の具体例は上記と同様である。また、連結分子のセットの一方は、アプタマーに結合された形態であってもよい。任意でフォールディング用バッファー等の他の試薬類等をさらに含んでいてもよい。
【実施例】
【0061】
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0062】
実施例1 チログロブリンを標的としたDNAアプタマーの探索
本実施例では、チログロブリンに対してSELEXを5ラウンド行った。一本鎖DNAランダムライブラリーは18merのプライマー領域と30merのランダム領域を有する合計66merの長さのものを用いた(配列番号1)。ライブラリーからのPCR増幅は、プライマー領域ないしはその相補鎖と同一の塩基配列から成る18merのプライマーセットを用いて常法により行なった(反応条件:95℃60秒、52℃60秒、72℃60秒の35サイクル)。
【0063】
具体的な方法について以下に示す。FITC修飾された一本鎖DNAライブラリーは、TBS buffer(20mM Tris-HCl, 150mM NaCl, 5mM KCl)で1nmol/100μLに調製し、95℃で3分間加熱した後、30分間で室温(25℃)まで徐々に冷却することによりフォールディングさせた。チログロブリンとフォールディング後のライブラリーを、終濃度がそれぞれ1μM及び500μMになるようにTBS buffer(20mM Tris-HCl, 150mM NaCl, 5mM KCl)を用いて混合し、室温にて1時間インキュベートした。その後、6 %ポリアクリルアミドゲルを用いて、TBE buffer(89 mM Tris-HCl, 89 mM ホウ酸, 2 mM EDTA)にてNative-PAGEを行った。DNAに修飾されたFITCの蛍光を検出し、チログロブリンとの結合によるDNAのバンドのシフトを確認した。CBB染色後、チログロブリンのバンドが現れた位置のゲルを切り出し、DNAを抽出し、それをPCR増幅して次のラウンドのライブラリーとした。これを2ラウンド行った。
【0064】
3ラウンド目からは、ニトロセルロース膜にチログロブリンを固定化するアプタマーブロッティングという方法を用いた。アプタマーブロッティング法では、チログロブリンへの非特異的な結合を減少させるために、pIの高いPQQGDHを競合タンパク質として用いた。チログロブリンとPQQGDHを1.5μgずつ(チログロブリンは2.3 pmol、PQQGDHは30 pmolに相当)ニトロセルロース膜に固定化し、10 %の血清を用いて室温で1時間ブロッキングを行った。TBST(20 mM Tris-HCl, 150 mM NaCl, 15 mM KCl, 0.05% Tween)で洗浄後、3ラウンド目から抽出したライブラリー溶液100μMと室温にて1時間インキュベートし、TBSTで洗浄した。チログロブリンが固定化された膜の一部を切り取り、フェノールクロロホルム処理することにより、チログロブリンに結合したssDNAを抽出・回収した。これを鋳型としてPCR増幅し、一本鎖調製を行なって次のラウンドのライブラリーとした。一本鎖調製は、具体的には次のようにして行った。すなわち、PCR産物に、その1/10倍量の×50 TE Bufferおよび1/5倍量の5 M NaClを添加し、この溶液をアビジン固定化アガロースに加え、30分インキュベートした。その後、上清を取り除き、Column buffer (30 mM HEPES、500 mM NaCl、5mM EDTA、pH7.0)で2回洗浄した。上清を取り除いた後、0.15 M NaOHを加えて10分間攪拌し、上清を回収する操作を2回繰り返し行うことにより、ssDNAを溶出させた。ssDNAを含む上清を2M HClで中和し、エタノール沈殿によりssDNAを回収した。
上記の操作を1ラウンドとし、合計3ラウンド(3ラウンド目〜5ラウンド目)行なった。また、各ラウンドにおいて、各タンパク質に結合したDNA量を確認するために、上記と同様の方法で検出用の膜を用意し、DNAとインキュベート後に、二次抗体としてHRP修飾された抗FITC抗体を用いて各タンパク質に結合するDNA量を化学発光により確認した。
【0065】
チログロブリンを固定化した部分に見られるDNAの結合量を示すスポットは、ラウンドが進むごとに濃くなっていき、5ラウンド目ではPQQGDHと同等かそれ以上になった。このことから、5ラウンド目までにチログロブリンに結合する塩基配列から成る一本鎖DNAの濃縮が起こっていると考えられる。なお、5ラウンド目においても、競合タンパク質であるPQQGDHに対してもDNAの結合がみられているが、チログロブリンとPQQGDHの固定化量(pmol)が10倍以上にも差があるため、それを考慮すれば、これは問題にはならない。
【0066】
実施例2 得られたチログロブリンに結合する一本鎖DNAの配列解析
本実施例においては、4ラウンド目に回収したDNAの配列の解析を行った。
【0067】
具体的な方法を以下に示す。4ラウンド目に回収した一本鎖DNAをPCR増幅し、DNAの精製を行った。その後、TAクローニング、形質転換、培養を行い、得られた100個の白色コロニーをLB培地で一晩培養した後、プラスミドを抽出した。抽出したプラスミドは、プライマーを用いて目的の断片をPCR増幅し、コロニーPCRで目的の断片を確認した。目的の断片が挿入されていることが確認されたプラスミドは、塩基配列をダイデオキシ法により決定した。
【0068】
配列解析の結果、60本の配列を得ることができた。得られた60本の配列について、m-fold(商品名)により二次構造を予測し、安定な構造をとると考えられた37個をTgA1〜37とした。これらの塩基配列を表1に示す。なお、表1中にはプライマー領域の配列を省略して示す。
【0069】
【表1】
【0070】
実施例3 アプタマーブロッティング法によるアプタマーの結合能の評価
本実施例においては、実施例2で示した安定な構造をとると考えられた37のアプタマーについて、アプタマーブロッティング法(実施例1参照)を用いてチログロブリンに対する結合能を評価した。
【0071】
具体的な方法を以下に示す。チログロブリンとPQQGDHをニトロセルロース膜に固定化し、10 %の血清を用いて室温で1時間ブロッキングを行った。TBSTで洗浄を行った後、FITC修飾された一本鎖DNA溶液とインキュベートし、さらに抗FITC抗体とインキュベートして、化学発光によりチログロブリンに結合したDNAを検出した。
【0072】
チログロブリンに対する各アプタマーの検出結果を図1に示す。全てのアプタマーがチログロブリンに結合した。いくつかのアプタマーではチログロブリンにのみ結合し、競合させたPQQGDHに対する結合は見られなかった。
【0073】
実施例4 ゲルシフトアッセイによるアプタマーの結合能評価
本実施例では、アプタマーブロッティング法によってチログロブリンが固定化された系において、強い結合が見られたいくつかのアプタマー、TgA2, 3, 7, 8, 10, 11, 12, 16, 17, 20とTgA22〜24, 26〜37に対して、ゲルシフトアッセイを用いて溶液系でのチログロブリンに対する結合能を評価した。
【0074】
具体的な方法を以下に示す。チログロブリンとFITC修飾された一本鎖DNA(フォールディング済、実施例1参照)を、終濃度がそれぞれ1μM及び500μMになるようにTBS bufferを用いて混合し、1時間インキュベートした。その後、6 %ポリアクリルアミドゲルを用いてTBE bufferにてNative-PAGEを行った。DNAに修飾されたFITCの蛍光を検出し、チログロブリンとの結合によるDNAのバンドのシフトを確認した。
【0075】
検出結果を図2に示す。どのアプタマーにおいても、チログロブリンに対する結合を確認することができた。溶液系においてもアプタマーはチログロブリンに結合することが示された。
【0076】
実施例5 アプタマーの特異性の評価
本実施例では、各アプタマーTgA1〜37に対して、アプタマーブロッティング法を用いて特異性の評価を行った。チログロブリンと、競合タンパク質としてPQQGDH、血管内皮増殖因子165(VEGF165)、C反応性タンパク質を、それぞれ4.5 pmolずつニトロセルロース膜に固定化した。その膜をTBST bufferを用いて、10%の血清でブロッキングし、FITC修飾された各アプタマー100 nM(70 pmol/L)と室温にて1時間インキュベートした。その後、HRP修飾抗FITC抗体とインキュベートし、タンパク質に結合したアプタマーを化学発光により検出した。
【0077】
いずれのアプタマーもチログロブリンに結合したが、TgA7, 8, 9, 10, 11, 25, 30は競合タンパク質にはほとんど結合しなかった(図3)。これらのアプタマーは、チログロブリンに対する特異性をある程度持っていると考えられる。これらのアプタマーの予測される二次構造を図4〜10に示す。その他のアプタマーは、競合タンパク質にも結合し、特異性は低かった。
【0078】
実施例6 SPRによるアプタマーの結合能評価
本実施例では、SPR(表面プラズモン共鳴法)を用いて、実施例3及び4においてチログロブリンに高い結合能と特異性を有することが明らかになったTgA7, 8, 9, 10, 11, 25, 30の解離定数の算出を行った。
【0079】
以下に詳細な方法を示す。5'末端にビオチン修飾された各アプタマーをフォールディングした後、Sensor chip SAのフローセル1に固定化し、フローセル2にcontrol DNA(5'-ACTAGTTCAGAACTAGTTGCCAGAAAGCTACCTTGACGTCAGGGCCTACTGACC-3':配列番号44)を固定化した。その後、種々の濃度に調製したチログロブリンを100μlインジェクトし、アプタマーとチログロブリンの相互作用を観察した。SPRの測定は、室温、流速10μl/minもしくは20μl/minで行い、アプタマーとチログロブリンの調製及びSPRの固定化buffer、running bufferにはTBS bufferを、再生化bufferには0.5%SDSを用いた。
【0080】
フローセル1に固定化したアプタマーに対するチログロブリンの結合量から、フローセル2に固定化したcontrol DNAに対するチログロブリンの結合量を差し引いた値をΔRUとする。各アプタマーに対してチログロブリンをインジェクトし、各濃度における結合を観察したところ、TgA7, 8, 10, 11, 25において濃度依存的なシグナルの上昇が観察された(図11(A))。TgA9, 30はチログロブリンに対する結合を示すシグナルがほとんど得られなかった。そこで、TgA7, 8, 10, 11, 25において、BIAevaluation3.1(ビアコア社)を用いてGlobal fittingを行い、それぞれの解離定数を算出した(図11(B))。
【0081】
実施例7 アプタマーのtruncated mutantの評価
本実施例では、アプタマーのtruncated mutantを作製し、アプタマーの最少化を行った。
【0082】
各アプタマーはプライマー配列を含む66merのものであるが、結合に関与しない部分を除くことで最少化できる可能性がある。TgA7, 10, 25の予測される二次構造からtruncated mutantを作製し、チログロブリンへの結合能をアプタマーブロッティング法によって評価した。それぞれのtruncated mutantを、TgA7T, TgA10T, TgA25T1, TgA25T2(それぞれ配列番号39〜42)とする(図12)。ニトロセルロース膜に、1.5μgずつチログロブリンとPQQGDHを固定化し、その膜をTBST bufferを用いて、10%の血清でブロッキングし、FITCが修飾された各アプタマー100 nMと室温にて1時間インキュベートした。その後、HRP修飾抗FITC抗体とインキュベートし、タンパク質に結合したssDNAを化学発光により検出した。
【0083】
チログロブリンに対する各アプタマーの検出結果を図13に示す。TgA7TとTgA10Tがチログロブリンに対する結合能を持つことが示された。しかし、TgA25T1, TgA25T2はチログロブリンに対する結合能は低いと考えられる。
【0084】
実施例8 アプタマーの競合実験
本実施例では、特異性及び親和性の高いアプタマーTgA7, 8, 10, 11, 25と、TgA7のTruncated mutantであるTgA7Tにおいて、チログロブリンの異なる領域に結合するアプタマーの組み合わせをアプタマーブロッティング法を用いた競合検討によって探索した。4.5 pmolのチログロブリンをニトロセルロース膜に固定化し、FITC修飾されたアプタマー(終濃度 80 nM)とビオチン修飾アプタマー(終濃度 0 nM, 80 nM, 800 nM)の混合溶液を用いて、アプタマーブロッティングを行った。ニトロセルロース膜に、1.5μgずつチログロブリンとPQQGDHを固定化し、その膜をTBST bufferを用いて、10%の血清でブロッキングした。さらに、二つのアプタマーが濃度比1:0、1:1、1:10となるように混合したアプタマー溶液とインキュベートした。その後、HRP修飾アビジンとインキュベートし、タンパク質に結合したssDNAを化学発光により検出した。
【0085】
アプタマーの結合を化学発光によって検出した結果を図14に示す。それぞれの膜とインキュベートした2つのアプタマーの濃度比も左側に示した。ビオチン修飾アプタマーの濃度比が大きくなるごとにアプタマーの結合を示すスポットが薄くなった場合、2つのアプタマーは競合していると考えられる。しかしながら、全ての組み合わせにおいてそのようなスポット強度の低下が確認された。
【0086】
それぞれのアプタマーが同じ部位を認識している可能性も考えられるが、ひとつのアプタマーが結合することで標的分子であるチログロブリンのコンフォメーション変化などが起き、間接的に他のアプタマーの結合を阻害している可能性も考えられる。従って、必ずしも全てのアプタマーが同じ部位を認識しているとはいえない。しかし、TgA25とTgA8の組み合わせは、FITC-labeled TgAとbiotin-labeled TgAの濃度比が1:10(10:1)のときもスポットがそれほど薄くなっておらず、標的分子への結合に及ぼす影響が相互に少ないものと考えられる。
【0087】
実施例9 アプタマーの二量体化
本実施例では、TgA25とTgA7Tの二量体化を行った。二つの異なるアプタマーを連結することで、avidityにより親和性が向上する可能性がある。そこで、これまでに高い親和性と特異性を持つことが分かっているTgA25と、TgA7のtruncated mutantであるTgA7Tを5merのチミンで連結したTgA25-7TL(図15)を作製し、チログロブリンに対する結合能を評価した。
【0088】
TgA25-7TL(終濃度400 nM)とチログロブリン(終濃度 0 nM〜800 nM)を、TBS bufferを用いて混合し、室温にて1時間インキュベートした。その後、6 %ポリアクリルアミドゲルを用いて、TBE buffer(89 mM Tris-HCl, 89 mM ホウ酸, 2 mM EDTA)にてNative-PAGEを行った。分離したチログロブリンとTgA25-7TLを、1時間、定電流400 mAでニトロセルロース膜に転写した。その膜を10%の血清でブロッキングし、HRP修飾されたアビジンとインキュベートし、化学発光により検出した。コントロールとしてTgA25も同様の操作を行った。
【0089】
チログロブリンに対する各アプタマーの結合を検出した結果を図16に示す。TgA25(図16(A))、TgA25-7TL(図16(B))どちらのアプタマーもチログロブリンへの結合が確認されたが、TgA25-7TLはTgA25よりバンド強度が強かった。よってTgA25-7TLは元のアプタマーであるTgA25よりも高い親和性を有していると考えられる。実施例8の競合実験の結果からは、TgA25とTgA7Tの組み合わせではTgA25のチログロブリンへの結合がTgA7Tの結合に悪影響を及ぼすものと考えられたが、これらを連結してもチログロブリンへの親和性が向上することが確認された。
【0090】
実施例10 ビオチン−アビジン系を用いたアプタマーの多量体化
5’末端にFITCが、3'末端にビオチンがそれぞれ修飾されたアプタマーTgA25を、ストレプトアビジンを介して多量体化し、Aptamer Blottingを用いてThyroglobulinに対する結合能を評価した。ストレプトアビジンと修飾されたTgA25とを1:2、1:3、1:4、0:1の濃度比(モル濃度)で混合し、TgA二量体、三量体、四量体及び非多量体化TgA(単量体)を調製した。TgA25は、ストレプトアビジンとの混合前に実施例1と同様の方法でフォールディングした。混合に用いたビオチン修飾TgA25溶液の濃度は80 nM、ストレプトアビジン溶液の濃度は20〜80 nMであった。多量体化プロセスを説明する模式図を図17に示す。
【0091】
Thyroglobulinを0.5μg、1μg、1.5μgずつニトロセルロース膜に固定化した。その膜をTBST bufferを用いて10%の血清でブロッキングし、上記で調製したTgA二量体、三量体、四量体及び単量体のDNA溶液(TgA25濃度80 nM)と共にブロッキング後の膜をインキュベートした。その後、HRP修飾された抗FITC抗体とインキュベートし、Thyroglobulinに結合したTgA25を化学発光により検出した。
【0092】
化学発光の検出結果を図18(A)に示す。ストレプトアビジンを介して多量体化されたTgA25はいずれも、単量体のTgA25より強くThyroglobulinと結合した。アプタマーを多量体化することで、親和性の向上がなされたと考えられる。ストレプトアビジンとの濃度比が1:2、1:3、1:4の3つの条件でそれぞれアプタマーブロッティングを行ったが、3つの間にはThyroglobulinに対する親和性に差は見られなかった。しかし、アガロースで電気泳動を行ったところ、1:3の濃度比のとき、最もアプタマーが効率よく多量体化されていた(図18(B))。
【技術分野】
【0001】
本発明は、チログロブリンに結合するアプタマー及びアプタマーを多量体化する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
チログロブリンは甲状腺内に多量に存在するヨードタンパク質であり、甲状腺疾患のマーカーとして臨床・診断分野で用いられている。チログロブリンの測定には一般的に抗体が用いられており、主にイムノラジオメトリックアッセイ(IRMA)により行なわれる。IRMAはチログロブリン分子上の異なるエピトープを認識する二つの抗体を用いた検出系である。該検出系では、放射性同位体で標識された抗体Ab*と、固定化された抗体Abを用い、Ab*-Tg-Ab複合体を形成させ、その放射活性を測定することで、チログロブリンの濃度を決定する。また、これ以外の方法としては、放射性同位体ではなく酵素を抗体に修飾し、酵素の活性を検出するELISAや、化学発光で検出するケミルミノメトリックアッセイ(ICML)なども用いられている。
【0003】
抗体は標的と結合した際に信号発信を行わないので、免疫測定に利用する場合、標的分子の異なる箇所に結合する二種類の抗体が必要となる。一つの標的分子の異なる箇所に結合する二種類の抗体を作製することは難しく、また抗体はそもそも作成に時間と労力がかかり、値段も高価である。
【0004】
また、先に述べた通り、抗体による検出法では、固定化されたキャプチャー用の抗体Abにチログロブリンが結合し、更にそのチログロブリンに検出用の抗体Ab*が結合し、Ab*-Tg-Ab複合体が形成されたとき、Ab*の放射活性などでチログロブリンの存在を検出する。そのため、結合しなかった遊離の標識抗体Ab*を取り除くB/F分離の操作が必須となり、簡便な系とは言えない。
【0005】
一方、任意の分子と特異的に結合するオリゴヌクレオチドであるアプタマーが知られている。アプタマーは、市販の核酸合成機を用いて化学的に全合成できるので、特異抗体に比べてはるかに安価であり、修飾が容易であるため、センシング素子としての応用が期待されている。所望の標的分子と特異的に結合するアプタマーは、SELEX (Systematic Evolution of Ligands by EXponential Enrichment)と呼ばれる方法により作出可能である(非特許文献1)。この方法では、標的分子を担体に固定化し、これに膨大な種類のランダムな塩基配列を有する核酸から成る核酸ライブラリを添加し、標的分子に結合する核酸を回収し、これをPCRにより増幅して再び標的分子を固定化した担体に添加する。この工程を5〜10回程度繰り返すことにより、標的分子に対して結合力の高いアプタマーを濃縮し、その塩基配列を決定して、標的分子を認識するアプタマーを取得する。なお、上記核酸ライブラリーは、核酸の自動化学合成装置により、ランダムにヌクレオチドを結合していくことにより容易に調製可能である。このように、ランダムな塩基配列を有する核酸ライブラリーを用いた、偶然を積極的に利用する方法により、任意の標的物質と特異的に結合するアプタマーを作出できる。
【0006】
本願発明者らは、B/F分離の操作が不要な疾病マーカー検出技術として、対象分子を認識する認識アプタマーと、酵素に結合してその酵素の活性に変化を及ぼす酵素制御アプタマーとを連結することで、アプタマーを酵素のサブユニットとして用いたセンシング技術であるAES(Aptameric Enzyme Subunit)を構築している(特許文献1、2)。検出原理は、測定対象の分子が存在した場合、その分子が認識アプタマーに結合することで、これに連結されている酵素制御アプタマーの構造に変化が生じ、その結果AES中に含まれる酵素の活性に変化が生じるので、その活性の変化を測定することにより対象分子を検出するというものである。この検出法の利点として、ELISAによる検出と異なり、標的分子の結合を直接、酵素活性のシグナルとして検出するため、B/F分離を必要としない、迅速で簡便な検出が可能である点が挙げられる。また、一度、酵素活性を阻害するアプタマーを獲得してしまえば、検出したい標的分子に結合するアプタマーを任意に選択し、様々な標的分子の検出が可能になる。そのような酵素活性を阻害するアプタマーは既に種々のものが公知である。さらに、アプタマーは抗体に比べ、作成が簡単で安価である。
【0007】
チログロブリンに結合するアプタマーを取得することができれば、上記したAESによる検出系を構築することができ、甲状腺疾患の診断に貢献することができる。しかしながら、チログロブリンに結合するアプタマーは未だ得られていない。アプタマーの創製方法は、上記した通り偶然を積極的に利用する方法であるので、標的物質に対して高い結合能を有するアプタマーが得られるかどうかは、実際に膨大な実験を行なってみなければわからない。一旦創製され、その塩基配列が明らかになれば、常法により容易に調製可能であるが、創製には膨大な実験と試行錯誤が必要となる。
【0008】
また、ある程度の結合能を有するアプタマーが得られた場合には、そのアプタマーの標的分子への結合能をさらに高めることができる簡便な手段が存在すれば、初めから新規アプタマーを創製するよりも遥かに時間とコストを節約できて有用である。アプタマーの結合能を高める手段としては、アプタマー分子を適宜リンカーを介して連結させ、複数のアプタマー分子を1分子のポリヌクレオチドとして調製して用いる方法が知られているが(非特許文献2)、これ以外に有用な手段は知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開WO/2005/049826号公報
【特許文献2】国際公開WO/2007/032359号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Tuerk, C. and Gold L. (1990), Science, 249, 505-510
【非特許文献2】Sensors, 8, p.1090-1098 (2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、本発明の目的は、チログロブリンの迅速且つ簡便な検出手段として有用な、チログロブリンに結合するアプタマーを提供することにある。また、本発明のさらなる目的は、アプタマーの親和性を高めるために有用な手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願発明者らは、標的分子であるチログロブリンとssDNAライブラリーを液相で結合させた後電気泳動により分離して回収するゲルシフト法と、固相上で競合タンパク質の共存下にてチログロブリンと結合させた後チログロブリンに結合したssDNAを回収するアプタマーブロッティング法とを組み合わせたSELEX法により、チログロブリンと結合するアプタマーを得ることに成功した。さらに、ビオチン−アビジン系を利用し、ビオチン修飾したアプタマーをアビジンを介して連結することで、アプタマーを容易に多量体化できること、こうして多量体化されたアプタマーは標的分子への親和性が向上することを見出し、本願発明を完成した。
【0013】
すなわち、本発明は、以下の(a)〜(d)のいずれかのポリヌクレオチドから成るチログロブリン結合性アプタマーを提供する:(a) 配列表の配列番号8〜12、26及び31のいずれかに示される塩基配列から成るポリヌクレオチド;(b) (a)のポリヌクレオチドにおいて1個又は数個の塩基が置換し、欠失し及び/又は挿入され、且つチログロブリンと結合する能力を有するポリヌクレオチド;(c) (a)又は(b)のポリヌクレオチド中に存在するステムループ構造単位を少なくとも一つ含む構造領域から成り、チログロブリンと結合する能力を有するポリヌクレオチド;(d) (a)〜(c)のいずれかのポリヌクレオチドを部分領域として含み、チログロブリンと結合する能力を有するポリヌクレオチド。また、本発明は、連結分子を介して複数のアプタマーが連結した構造を有するアプタマー多量体を提供する。さらに、本発明は、連結分子のセットの一方が結合されたアプタマーと、連結分子のセットの他方とを接触させ、前記連結分子間の結合により前記アプタマーを連結することを含む、アプタマー多量体の作製方法を提供する。さらに、本発明は、1種又は2種以上のアプタマーと連結分子とを含むアプタマー多量体の作製キットを提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、チログロブリンに結合するアプタマーが初めて提供された。本発明のアプタマーは、チログロブリンに対する高い親和性と特異性を有するため、チログロブリンの迅速・簡便な測定に貢献する。また、本発明により、ビオチン−アビジンのような連結分子を用いたアプタマーの多量体化方法が初めて提供された。この分野では、アプタマーと他の何らかの分子を結合させる目的でビオチン−アビジンを用いることは一般的な手法であるが、アプタマーの多量体化に用いることは知られていない。この多量体化法によれば、連結分子セットの一方が結合されたアプタマーと連結分子セットの他方とを混合するのみで多量体化が可能なので、非常に簡便で汎用性の高い手法である。例えば、アプタマーの標的分子がホモ多量体の形態をとる分子である場合には、同一のアプタマー分子を用いてアプタマーを多量体化し、結合能を高めることができる。あるいは、1つの標的分子の異なる部位に結合する複数種類のアプタマーを多様な組み合わせで多量体化することも容易になるため、標的分子の形態(ホモ多量体か否か)にかかわらずアプタマーの結合能を高めることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例3において、安定な二次構造が予測される37個のアプタマーについてアプタマーブロッティング法により結合能を評価した結果を示す。
【図2】実施例4において、ゲルシフトアッセイによりアプタマーの結合能を評価した結果を示す。図中の矢印はチログロブリンに結合しているアプタマー(チログロブリンと複合体を形成することで分子量が増大し、本来の位置より泳動位置がシフトする現象。DNAに修飾されたFITCの蛍光である。)を示す。
【図3】実施例5において、アプタマーブロッティング法により各種の競合タンパク質共存下で特異性を評価した結果を示す。C:C反応性タンパク質、V:VEGF165、G:PQQGDH、T:チログロブリン。
【図4】TgA7(配列番号8)のm-fold(商品名)による二次構造予測図を示す。
【図5】TgA8(配列番号9)のm-fold(商品名)による二次構造予測図を示す。
【図6】TgA9(配列番号10)のm-fold(商品名)による二次構造予測図を示す。
【図7】TgA10(配列番号11)のm-fold(商品名)による二次構造予測図を示す。
【図8】TgA11(配列番号12)のm-fold(商品名)による二次構造予測図を示す。
【図9】TgA25(配列番号26)のm-fold(商品名)による二次構造予測図を示す。
【図10】TgA30(配列番号31)のm-fold(商品名)による二次構造予測図を示す。
【図11】実施例6において、SPRによりアプタマーの結合能を評価した結果を示す。(A)各アプタマーのSPRセンサーグラム、(B)各アプタマーの解離定数。
【図12】実施例7において構築したtruncated mutantの構造(もとのアプタマー構造から取り出した領域)を示す。
【図13】実施例7において構築したtruncated mutantの結合能をアプタマーブロッティング法により評価した結果を示す。
【図14】実施例8においてアプタマーの競合関係をアプタマーブロッティング法により評価した結果を示す。
【図15】実施例9において構築した二量体アプタマーTgA25-7TL(配列番号43)のm-fold(商品名)による二次構造予測図を示す。
【図16】実施例9において、二量体アプタマーTgA25-7TLと単量体のTgA25のそれぞれについてチログロブリンへの結合能を評価した結果を示す。(A)単量体TgA25の結果、(B)二量体TgA25-7TLの結果。
【図17】ビオチン−アビジン系を用いたアプタマーの多量体化を説明する模式図である。
【図18】実施例10において、ビオチン−アビジン系を用いてアプタマーTgA25の多量体化を検討した結果を示す。(A)多量体化したTgA25についてアプタマーブロッティング法により結合能を評価した結果を示す。(B)多量体化したTgA25を電気泳動し、多量体化の効率を調べた結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のチログロブリン結合性アプタマーは下記(a)〜(d)のいずれかのポリヌクレオチドから成る。
(a) 配列表の配列番号8〜12、26及び31のいずれかに示される塩基配列から成るポリヌクレオチド。
(b) (a)のポリヌクレオチドにおいて1個又は数個の塩基が置換し、欠失し及び/又は挿入され、且つチログロブリンと結合する能力を有するポリヌクレオチド。
(c) (a)又は(b)のポリヌクレオチド中に存在するステムループ構造単位を少なくとも一つ含む構造領域から成り、チログロブリンと結合する能力を有するポリヌクレオチド。
(d) (a)〜(c)のいずれかのポリヌクレオチドを部分領域として含み、チログロブリンと結合する能力を有するポリヌクレオチド。
【0017】
ポリヌクレオチドはDNAでもRNAでもよく、またPNA等の人工核酸でもよいが、化学的に安定で自動化学合成も容易なDNAが好ましい。
【0018】
配列表の配列番号2〜38に示す塩基配列は、30mer(「mer」はヌクレオチド残基数を示す)のランダム領域を含む一本鎖DNA(ssDNA)ライブラリー(配列番号1)のスクリーニングにより得られたssDNAのうち、二次構造の予測から安定な構造をとると考えられたssDNAの塩基配列である。これらの塩基配列から成るssDNAは、アプタマーブロッティング法による結合能評価においていずれもチログロブリンへの結合を示した(下記実施例参照)。中でも、配列番号8〜12、26及び31に示す塩基配列から成るssDNAは、アプタマーブロッティング法による評価において競合タンパク質への結合がほとんど見られず、チログロブリンへの特異性が高いと考えられる。従って、本発明のアプタマーの好ましい一例としては、配列番号8〜12、26及び31に示す塩基配列から成るポリヌクレオチド(上記(a))から成るものが挙げられる。この中でも特に、SPRによる評価においても特異性の高さが確認できた配列番号8、9、11、12及び26に示す塩基配列から成るアプタマーがより好ましい例として挙げられる。
【0019】
アプタマーが所定の条件下(フォールディング条件下)で形成する二次構造は、コンピューターを用いた常法により容易に決定することができる。核酸の二次構造予測に用いられるプログラムは種々のものが公知であり、例えば最近接塩基対法を用いた周知の核酸構造予測プログラムであるm-fold(商品名、Nucleic Acids Res. 31 (13), 3406-15, (2003)、The Bioinformatics Center at Rensselaer and Wadsworth のウェブサイトからダウンロード可能)を利用することができるが、これに限定されない。図4〜10に示される二次構造図は、配列番号8、9、10、11、12、26及び31に示す塩基配列から成るアプタマーのm-fold(商品名)による二次構造予測図である。
【0020】
なお、「フォールディング条件」とは、1分子のアプタマーの一部の相補的な領域同士が分子内で塩基対合して二本鎖から成るステム部を形成する条件であり、公知の通常のアプタマーの使用条件でもある。通常、室温下で、所定の塩濃度を有し、所望により界面活性剤を含む水系緩衝液中である。例えば、TBS(10〜20mM Tris-HCl, 100〜150mM NaCl, 0〜5mM KCl, pH 7.0程度)やTBST(0.05v/v%程度のTween 20を含むTBS)の他、10mM MOPS及び1mM CaCl2を含む水溶液などの緩衝液を用いることができる。これらの緩衝液中で95℃程度に加熱して熱変性した後、室温まで徐々に(100μL程度の量であれば30分間程度かけて)冷却することにより、アプタマー分子のフォールディングを行なうことができる。なお、本明細書において、「フォールディングする」という語は、1分子のアプタマーの分子内において塩基対を形成させることのみならず、複数のポリヌクレオチド分子の分子間において塩基対を形成させることも包含する意味で用いる。例えば、後述するとおり、公知のAES法を利用したチログロブリン測定試薬を調製する場合、該試薬のポリヌクレオチド部分は2分子のポリヌクレオチドにより構成され得るが、この場合、上記したフォールディング条件下におくと、2分子のポリヌクレオチドが分子内及び/又は分子間で塩基対を形成することにより、固有の立体構造を形成する。
【0021】
アプタマーは、その立体構造においてステム部及びループ部の位置関係及びサイズが等しいものであれば、通常、標的分子に対する結合能も同様に発揮し得る。例えば、末端から少数の塩基を欠失させても、もとのアプタマーと同様の結合能を維持し得る。ステム部を形成する塩基については、対合する塩基の位置を相互に入れ替えた塩基配列としてもよいし、また、対合する塩基対を例えばa-t対からg-c対に置き換えてもよい。また、ループ部を形成する塩基については、その位置に同じサイズのループが形成される限り、他の塩基配列を採用してもよい。また、アプタマーの結合能に重要ではない領域であれば、少数の塩基を挿入しても、通常、もとのアプタマーと同様の結合能を維持し得る。従って、上記(a)のポリヌクレオチドにおいて、1又は数個(好ましくは1又は2個)の塩基が上記に例示したように置換し、欠失し及び/又は挿入されたポリヌクレオチド(上記(b)のポリヌクレオチド)から成るアプタマーも、チログロブリンと結合する能力を有する限り、本発明の範囲に包含される。なお、このような(b)のポリヌクレオチドについて、公知の核酸構造予測プログラムを用いて改めてその二次構造を確認してもよい。
【0022】
ポリヌクレオチドがチログロブリンと結合する能力を有するか否かは、例えば下記実施例に記載されるアプタマーブロッティング法により容易に評価することができる。具体的には、例えば、チログロブリンと、それ以外の任意のタンパク質(競合タンパク質)とを、ニトロセルロース膜等の支持体に常法により固定化し、このタンパク質固定化支持体とアプタマーとをTBS等の適当な緩衝液中で反応させ、チログロブリンと競合タンパク質とのそれぞれにどの程度のアプタマー分子が結合しているかを調べることにより、アプタマーのチログロブリンに対する結合能を評価することができる。チログロブリンへの結合量が競合タンパク質への結合量よりも多いポリヌクレオチドは、チログロブリンへの好ましい結合能を有すると評価することができる。特に、競合タンパク質にはほとんど結合しないポリヌクレオチドは、チログロブリンに対する特異性が高く、本発明のアプタマーとして好ましい。競合タンパク質は特に限定されず、例えば下記実施例でも用いられているPQQGDH(ピロロキノリンキノングルコースデヒドロゲナーゼ)等を用いることができる。アプタマー分子の結合量は、例えば、アプタマー分子を予めビオチンやFITC等で標識しておき、タンパク質固定化支持体との反応後、該標識物質に対する抗体を用いた常法による免疫測定を行なうことで、アプタマー結合量を調べることができる。
【0023】
アプタマーは、通常、ステムループやグアニンカルテット等の立体構造部分がアプタマー活性に重要な役割を果たしている。本発明のアプタマーは、いずれも1個ないし数個のステムループ構造を有しているので、分子末端の一本鎖構造領域を削除してステムループ構造部分のみを取り出しても、もとのアプタマーと同様に標的分子に対する結合能を発揮し得る。そのような、上記した(a)又は(b)のポリヌクレオチド中に存在するステムループ構造単位を少なくとも一つ含む構造領域から成るポリヌクレオチドも、チログロブリンと結合する能力を有する限り、本発明の範囲に包含される(上記(c))。
【0024】
ここでいう「ステムループ構造単位」とは、主鎖となる一本鎖構造上の一箇所に存在している一群のステムループ構造を指す。例えば、配列番号8(図4)の例では、3nt〜28ntの領域が形成するステムループ構造と、32nt〜40ntの領域が形成するステムループ構造が、それぞれ1単位のステムループ構造である(なお、「X nt」は5'末端からX番目の塩基を示す)。「構造領域」とは、ステムループ構造単位を少なくとも1単位含む、1分子のポリヌクレオチド上の一連の部分領域をいう。該構造領域から成るポリペプチドは、その末端の領域に、もとのポリヌクレオチドにおける一本鎖構造領域の塩基を1ないし数個含んでいてもよい。
【0025】
配列番号8(図4)を例に用いて(c)のポリヌクレオチドを説明すると以下の通りである。配列番号8の塩基配列から成るポリヌクレオチドは2単位のステムループ構造(3nt〜28nt、32nt〜40nt)を有する。従って、1単位のステムループ構造を含むものとしては、3nt〜28ntから成るポリヌクレオチド、32nt〜40ntから成るポリヌクレオチド等が挙げられる。もとのポリヌクレオチド(配列番号8)における一本鎖構造領域の塩基も1ないし数個含んでいてもよいので、例えば1nt〜31ntから成るポリヌクレオチドも挙げられる。ステムループ構造単位を全て含むものとしては、3nt〜40ntから成るポリヌクレオチド、1nt〜49ntから成るポリヌクレオチド等が挙げられる。
【0026】
上記(c)のポリヌクレオチドとしては、配列番号8又は11に示される塩基配列から成るポリヌクレオチド中に存在するステムループ構造単位を少なくとも一つ含む構造領域から成るものが好ましい。特に、配列番号39又は40に示される塩基配列から成るものが好ましい。
【0027】
また、アプタマーは、一端又は両端に任意の塩基配列を付加させても、アプタマー領域においてステム部及びループ部の位置関係及びサイズが等しい限り、もとのアプタマーと同様に標的分子への結合能を発揮し得る。例えば、本願発明者らが構築した公知のAES(特許文献1)では、異なる標的分子に結合するアプタマー同士を連結しても、それぞれがもとのアプタマー活性(標的分子に対する結合能、及び、標的分子が酵素である場合には酵素の活性を上昇又は低下させる能力)を発揮する。このことは、アプタマーの末端に任意の配列を付加してももとの結合能が維持され得ることを示している。従って、上記した(a)〜(c)のポリヌクレオチドの一端又は両端に任意の配列が付加されていても、もとの(a)〜(c)のポリヌクレオチドと同様にチログロブリンへの結合能を発揮し得る。そのような、上記した(a)〜(c)のポリヌクレオチドを部分領域として含むポリヌクレオチドも、チログロブリンに結合する能力を有する限り、本発明の範囲に包含される(上記(d))。
【0028】
付加させる任意の配列は、アプタマーのチログロブリンへの結合能を完全に喪失させる等、チログロブリンへの結合能に悪影響を及ぼすものでない限り、いかなる塩基配列であってもよく、その鎖長も特に限定されない。ただし、アプタマー全長があまりに長くなると合成の手間とコストがかかる。従って、付加配列のサイズは、通常、合計で40塩基程度以下、好ましくは10塩基程度以下、より好ましくは1〜2塩基程度である。ただし、付加配列がアプタマー配列である場合にはこの限りではなく、付加されるアプタマー配列の鎖長に応じてサイズが定まる。アプタマー分子全長のサイズとしては、通常200mer程度以下、好ましくは150mer程度以下である。なお、アプタマーのサイズの下限は特に限定されないが、通常15mer程度以上である。
【0029】
上記(d)のポリヌクレオチドのうち、任意のアプタマー配列が付加されたポリヌクレオチドとしては、例えば、(a)〜(c)のポリヌクレオチドが数個程度連結した構造を有するポリヌクレオチド(以下、便宜的に「多量体」ということがある)、(a)〜(c)のポリヌクレオチドにチログロブリン以外の物質を標的とするアプタマー配列を付加したポリヌクレオチド等が挙げられる。
【0030】
アプタマーを多量体化して用いる技術は公知である(Sensors, 8, p.1090-1098 (2008))。本発明においても、(a)〜(c)のアプタマー(以下、便宜的に「単量体」ということがある)を数個程度連結して用いることができる。特に、チログロブリン上の異なる部位に結合するアプタマーを連結すれば、個々のアプタマー(以下「単量体」ということがある)を単独で用いた場合よりもチログロブリンへの結合能を高めることができる。アプタマーがチログロブリンへの結合に関して競合するか否かは、例えば下記実施例8に記載される競合実験で調べることができる。具体的には、例えば、異なる標識(例えばビオチン標識とFITC標識)を付した異なるアプタマーを種々の濃度比で混合し、これを固相上に固定化したチログロブリンと反応させ、一方の標識(例えばFITC)を検出して一方のアプタマーの結合量を測定する。標識を入れ替えた条件でもう一方のアプタマーの結合量を同様に測定する。ビオチン標識アプタマーの濃度比が大きい条件下でも検出されるFITCのシグナルが低下しない場合には、そのアプタマー同士はチログロブリン上の異なる部位に結合している可能性が高い。従って、そのような組み合わせでアプタマーを連結すれば、単量体として用いた場合よりも結合能を向上させることができる。例えば、本発明では、配列番号9(TgA8)と配列番号26(TgA25)の組み合わせが相互に競合しないと考えられるので(下記実施例8参照)、多量体を作る組み合わせとして好ましい。また、下記実施例9に記載されるように、配列番号26(TgA25)と配列番号43(TgA7T)とを連結しても、チログロブリンへの結合能を向上させることができる。なお、チログロブリンはホモダイマーの形態をとるタンパク質であるため、同一のアプタマーが結合する部位が2つ存在することになり、従って同一のアプタマーを連結しても結合能の向上は可能である。
【0031】
アプタマーを多量体化する場合、単量体を直接連結させた構造としてもよいが、必要に応じリンカーを介して連結することができる。例えば、5'上流側のアプタマー単量体の3'末端領域及び/又は3'下流側のアプタマー単量体の5'末端領域にステムループ構造が存在する場合には、直接連結させるとステムループ構造が望ましく形成されないおそれがあるため、かかる場合にはリンカーを介して連結させることが好ましい。また、単量体が認識する部位がチログロブリン上の離れた位置にある場合には、十分な鎖長のリンカーを挿入し、多量体化した個々のアプタマーがそれぞれの認識部位に結合できるようにすると、アプタマーの結合能を好ましく向上することができる(Sensors, 8, p.1090-1098 (2008)、上掲)。リンカーの鎖長は適宜定めることができ、特に限定されないが、通常は1mer〜20mer程度、好ましくは5mer〜15mer程度である。特に限定されないが、リンカーとしてはアデニン又はチミンのみから成るものが好ましい。
【0032】
連結する単量体の数は数個程度であり、好ましくは2個である。
【0033】
(d)のポリヌクレオチドのうち、チログロブリン以外の物質を標的とするアプタマー配列を付加したポリヌクレオチドとしては、例えば後述するAESを利用した酵素制御ポリヌクレオチドが挙げられる。
【0034】
本発明のアプタマーは、それ自体周知の方法により、公知のフォールディング条件下でフォールディングさせ、標的分子であるチログロブリンの測定(検出、定量、半定量)に使用することができる。被検試料としては、甲状腺の生検組織、血清や血漿等の体液やその希釈物を用いることができる。本発明のアプタマーを用いた被検試料中のチログロブリンの測定は、アプタマーによる周知の通常の方法により行なうことができ、例えば抗体の代わりに本発明のアプタマーを利用した免疫測定法(イムノクロマトグラフィーやELISA(Enzyme linked Immunosorbent Assay))に準じる方法で行なうことができる。特に、配列番号9に示す塩基配列から成るアプタマー単量体TgA8と、配列番号26に示す塩基配列から成るアプタマー単量体TgA25の組み合わせは、標的分子チログロブリンへの結合に及ぼす相互の影響が少ないが(実施例8参照)、このような相互に悪影響が少ないアプタマーの組み合わせであれば、異なる2つのエピトープに結合する2種類の抗体を用いたサンドイッチ法と同様の検出系を組むことができる。また、チログロブリンの測定は、下記実施例に具体的に記載するアプタマーブロッティングや、表面プラズモン共鳴法(SPR)等の周知の方法によっても行なうことができる。
【0035】
また、本発明のチログロブリン結合性アプタマーを用いれば、本願発明者らが開発したアプタマー酵素サブユニット(AES)(特許文献1)を利用したチログロブリン測定試薬を調製することができる。該試薬中のポリヌクレオチド部分は、上記本発明のチログロブリン結合性アプタマーを含むチログロブリン認識アプタマー部位(以下、単に「認識アプタマー部位」ということがある)と、酵素と結合し該酵素の活性を変化させる能力を有する酵素制御アプタマー部位とを含むポリヌクレオチドであって、チログロブリンがチログロブリン認識アプタマー部位に結合することにより、酵素制御アプタマー部位が酵素の活性を変化させる能力が変化するポリヌクレオチドから成る(以下、このポリヌクレオチドを「酵素制御ポリヌクレオチド」と呼ぶ)。
【0036】
なお、「酵素の活性を変化させる」とは、酵素制御アプタマー部位に結合していない状態の酵素と比較して、酵素の活性を上昇又は低下させることをいう。以下、本明細書において、このような酵素活性を変化させる能力のことを「酵素制御能」といい、酵素制御能を有するアプタマーを「酵素制御アプタマー」という。
【0037】
酵素制御ポリヌクレオチドは、1分子又は2分子のポリヌクレオチド鎖から成り(以下、1分子からなるものを「1分子性酵素制御ポリヌクレオチド」、2分子からなるものを「2分子性酵素制御ポリヌクレオチド」ということがある)、標的物質たるチログロブリンが認識アプタマー部位へ結合することにより、酵素制御アプタマー部位が酵素活性を変化させる能力が変化することを特徴とする。酵素制御アプタマー部位が有する酵素活性を変化させる能力の変化は、該部位に結合した酵素の活性の変化を調べることで知ることができる。酵素制御アプタマー部位に結合している酵素は、該部位の作用により、酵素活性が上昇又は低下した状態にあるが、この状態で、認識アプタマー部位にチログロブリンが結合すると、酵素活性がさらに変化する(すなわち、酵素制御アプタマー部位が有する「酵素活性を変化させる能力」が変化する)。通常は、酵素制御アプタマー部位に結合している酵素の酵素活性は、活性が上昇又は低下した状態から、もとの活性に戻る(すなわち、酵素制御アプタマー部位が有する「酵素活性を変化させる能力」が低下する)。この、酵素活性を変化させる能力の低下の原理の詳細は不明であるが、以下のことが考えられる。すなわち、認識アプタマー部位へのチログロブリンの結合により、酵素制御ポリヌクレオチドの立体構造が変化し、酵素制御アプタマー部位から酵素が離脱することによるものと考えられる。
【0038】
具体的には、例えば、酵素制御アプタマー部位が酵素の活性を上昇させる能力を有する場合、チログロブリンが認識アプタマー部位に結合することにより、通常、酵素活性を上昇させる能力が低下し、酵素制御アプタマー部位に結合している酵素の活性は、認識アプタマー部位へのチログロブリンの結合により低下することになる。また、酵素制御アプタマー部位が酵素の活性を低下させる能力を有する場合、チログロブリンが認識アプタマー部位に結合することにより、通常、酵素活性を低下させる能力が低下し、酵素制御アプタマー部位に結合している酵素の活性は、認識アプタマー部位へのチログロブリンの結合により上昇することになる。従って、上記酵素制御ポリヌクレオチドの酵素制御アプタマー部位に対応する酵素を結合させて調製した酵素−ポリヌクレオチド複合体を用いれば、酵素活性の変化を指標として、検体中のチログロブリンの測定を行なうことができる。
【0039】
酵素制御アプタマー部位は、酵素制御アプタマー分子の立体構造(平面的な二次構造も包含する)に基づいて構成される。採用される酵素制御アプタマー分子は特に限定されず、上記した酵素制御能を有するアプタマーであればいかなるものであってもよい。そのような酵素制御アプタマーとしては、例えば、特許文献1に記載されるようにトロンビン阻害アプタマーが公知である。
【0040】
ここで、「アプタマー分子の立体構造に基づいて構成される」とは、上記酵素制御ポリヌクレオチド中で酵素制御アプタマー部位がとる立体構造が、1分子で構成される酵素制御アプタマー分子がとる立体構造と近似するようにして構成されることをいう。従って、酵素制御アプタマー部位を構成する領域は、上記酵素制御ポリヌクレオチドを構成するポリヌクレオチド鎖中において、必ずしも連続する1つの領域として存在する必要はなく、1分子又は2分子のポリヌクレオチド鎖中に分断して存在するものであってもよい。分断して存在していても、ポリヌクレオチド鎖をフォールディング条件下でハイブリダイズさせ、分子内及び/又は分子間の適当な部位において塩基対を形成させることにより、それらの領域が組み合わされて、もとにしたアプタマー分子の立体構造と近似した立体構造を形成することが可能な限り、酵素制御アプタマー部位の構成態様として許容される。
【0041】
酵素制御アプタマー分子の塩基配列を分断する位置としては、ループ構造内のいずれかの部位が好ましい。ループ構造内で分断すれば、分断後の断片をそれぞれ含む2分子のポリヌクレオチド鎖を調製しても、これらのポリヌクレオチド鎖をフォールディング条件下で塩基対形成させることにより、グアニンカルテット構造やステム部等が望ましく形成され、もとにしたアプタマー分子の立体構造を再現できる(もとにしたアプタマー分子の立体構造と近似した立体構造を形成する)可能性が高く、ひいては酵素制御アプタマー部位がもとのアプタマー分子の有する結合能及び酵素制御能を維持する可能性が高くなる(以下、このような、もとの1分子のアプタマーと近似した立体構造をとり得る、2分子のポリヌクレオチド鎖から成るポリヌクレオチドを「分割アプタマー」と呼ぶことがある)。このような分割アプタマーを酵素制御アプタマー部位に適用すると、認識アプタマー部位へのチログロブリンの結合の影響(立体構造の変化)が効率良く酵素制御アプタマー部位に伝わり、指標とする酵素活性の変化が測定し易くなるので好ましい。
【0042】
酵素制御ポリヌクレオチド分子中において、認識アプタマー部位を設ける位置は特に限定されず、酵素制御アプタマー構造の末端部であってもよく、また、酵素制御アプタマー部位のループ構造に付加するようにして設けてもよい。例えば、ループ構造内で分断した分割アプタマーの、一方のポリヌクレオチド鎖の分断部位側末端にチログロブリン結合性アプタマーを連結させることにより、酵素制御アプタマーのループ構造部にチログロブリン認識アプタマー部位を設定した、2分子性の酵素制御ポリヌクレオチドを得ることができる。この際、他方の断片の分断部位側末端に、チログロブリン結合性アプタマー配列中の少なくとも一部の領域と相補的な配列から成る断片を連結させると、チログロブリン結合性アプタマーと該相補配列断片とがハイブリダイズして塩基対を形成するので、酵素制御アプタマー部位の立体構造を安定させることができ好ましい。該相補配列断片のサイズは、チログロブリン結合性アプタマーの全長と同一以下の任意のサイズを選択することができ、特に限定されないが、通常3mer以上20mer以下(ないしはチログロブリン結合性アプタマーの全長の半分以下)程度である。このように、ループ構造内で分断した酵素制御アプタマーを用いて調製した2分子性の酵素制御ポリヌクレオチドは、後述するとおり、チログロブリン認識アプタマー部位の構造変化を効率的に酵素制御アプタマーに伝えることができるため、1分子の酵素制御アプタマーの末端に認識アプタマーを連結して調製される1分子性の酵素制御ポリヌクレオチドよりも好ましい。
【0043】
酵素制御アプタマー部位とチログロブリン認識アプタマー部位とは、直接連結してもよいが、リンカーを介して連結させてもよい。例えば、酵素制御アプタマーとチログロブリン結合性アプタマーとをそれぞれの末端部で連結させて1分子性の酵素制御ポリヌクレオチドを調製する場合には、連結部近傍の立体構造を保持する観点から、適当な鎖長のリンカーを介して連結させてもよい。また、ループ部で分断した分割アプタマーを用いて2分子性の酵素制御ポリヌクレオチドを調製する場合にも、チログロブリン結合性アプタマーをリンカーを介して分断部末端に連結させることができる。リンカーを介する場合、上記相補配列断片には、リンカーと相補的な領域を含ませてもよい。なお、相補配列断片の連結もリンカーを介するものであってよい。ここで用いられるリンカーも、多量体アプタマーで用いられ得るリンカーと同様に、特に限定されないが、アデニンのみ又はチミンのみから成ることが好ましい。リンカーの鎖長は、酵素制御アプタマーとチログロブリン結合性アプタマーとをそれぞれの末端部で連結させる場合には、それぞれのアプタマーが所期の立体構造をとるために十分なだけのスペースを確保できる鎖長であればよく、特に限定されないが、通常は1mer〜20mer程度、好ましくは5mer〜15mer程度である。また、分割アプタマーを用いてループ部分にチログロブリン認識アプタマー部位を設ける場合には、特に限定されないが、通常1mer〜10mer程度、好ましくは1mer〜5mer程度である。
【0044】
チログロブリン認識アプタマー部位は、チログロブリン結合性アプタマー配列のみから成るものであってもよいが、末端に任意の塩基を少数(1個ないし数個程度)含んでいても差し支えない。例えば、酵素制御ポリヌクレオチドが2分子性である場合、チログロブリン結合性アプタマーのうち分割アプタマーと連結していないフリーの末端部に、無関係な塩基が1個ないし数個程度付加していても、酵素制御ポリヌクレオチドの機能に支障はない。
【0045】
AESを利用したチログロブリン測定試薬は、上記した酵素制御ポリヌクレオチドと、該ポリヌクレオチド中の酵素制御アプタマー部位に結合した酵素とを含むものである。該酵素は、上記した通り、試薬中の認識アプタマー部位へのチログロブリンの結合により、酵素活性が変化する。具体的には、酵素制御ポリヌクレオチドに採用される酵素制御アプタマーが、酵素の活性を上昇させる作用を有する場合、チログロブリン測定試薬では、認識アプタマー部位へのチログロブリンの結合により、酵素の活性が低下する。これとは逆に、採用される酵素制御アプタマーが酵素の活性を低下させる作用を有する場合、チログロブリン測定試薬では、認識アプタマー部位へのチログロブリンの結合により、酵素の活性が上昇する。従って、チログロブリンを含み得る検体と本発明の試薬を接触させ、試薬の酵素活性の変化を調べることにより、検体中のチログロブリンを測定することができる。すなわち、上記チログロブリン測定試薬を、チログロブリンを含み得る検体と接触させる工程と、上記酵素制御アプタマー部位に結合した上記酵素の酵素活性の変化を測定する工程と、該変化を指標として該検体中のチログロブリンを測定する工程とを含む、チログロブリンの測定方法も確立することができる。
【0046】
酵素活性の変化の測定は、例えば、検体と接触させない試薬と、検体と接触させた試薬とを別個に調製し、両者の酵素活性を比較することによって行なうことができる。検体との接触の前後の時点で酵素活性を測定して両者を比較してもよいし、また、検体と接触させる前から接触後までの酵素活性を継続的に測定して変化を測定してもよい。上記チログロブリン測定試薬により、チログロブリン濃度が既知の試料を用いて酵素活性を調べ、検量線を作成すれば、検体中のチログロブリンを定量することも可能である。
【0047】
酵素活性の測定は、採用される酵素の種類に応じて、この分野の技術常識に基づき常法により容易に行うことができる。例えば、酵素としてトロンビンを用いる場合、基質としてN-ベンゾイル-Phe-Val-Arg-p-ニトロアニリドを用い、遊離したp-ニトロアニリンの吸光度(410nm)を測定することによってトロンビンの活性を測定できる。あるいは、フィブリノーゲンを用いて、トロンビンによるフィブリノーゲンの切断によって開始されるフィブリノーゲン溶液の凝固の時間を測定し、凝固時間を指標としてトロンビン活性を測定することができる。溶液の凝固の測定は、周知の常法により行なうことができ、例えば、分光学的方法により屈折率の変化を測定する方法、溶液に金属球を添加して溶液凝固に伴うその運動の停止を観察する方法等が挙げられるが、これらに限定されない。あるいはまた、酵素活性の変化を電気化学的に測定することにより標的物質の測定を行なう、グルコースセンサー等の測定手段が公知なので、上記したチログロブリン測定試薬に採用する酵素制御アプタマー及び酵素を適当に選択することで、そのような電気化学的な測定手段を応用することもできる。
【0048】
本発明のアプタマー及び上記した酵素制御ポリヌクレオチドは、市販の核酸合成機を用いて常法により容易に調製することができる。また、チログロブリン測定試薬に含まれる、酵素とポリヌクレオチドとの複合体(酵素−ポリヌクレオチド複合体)は、例えば、酵素制御ポリヌクレオチドをフォールディング後、該ポリヌクレオチドの酵素制御部位に結合させるべき酵素と混合し、室温で5分〜30分程度インキュベートすることにより、容易に調製することができる。なお、結合させるべき酵素が、活性を発揮するために補酵素や金属を必要とするものである場合、特に限定されないが、通常、補酵素や金属と結合させて活性化形態にしてから上記酵素制御ポリヌクレオチドと混合する。
【0049】
チログロブリン測定試薬は、上記した酵素−ポリヌクレオチド複合体のみからなるものであってもよいし、また、該複合体の安定化等に有用な他の成分を含んでいてもよい。例えば、上記複合体のみを適当な緩衝液中に溶解させた溶液の形態であってもよいし、該溶液中に該複合体の安定化のために有用な成分をさらに含んでいてもよい。あるいは、チログロブリン測定試薬は、上記酵素制御ポリヌクレオチドとこれに結合させるべき酵素とを別個に含んだ試薬のセットの形態で提供することもできる。この場合は使用者が使用時に各試薬を混合してチログロブリン測定試薬を調製することができる。
【0050】
また、本願発明者らは、アプタマーの連結方法として、アプタマーを適宜リンカーを介して直接的に連結し1分子のポリヌクレオチドとして調製する上記方法とは異なる新規な方法を発明した。本発明の本発明の連結アプタマーの作製方法(以下、「多量体化法」ということもある)では、連結分子を介してアプタマーを連結させ、多量体とする。ここで、「連結分子」とは、連結すべきアプタマーとは別個に存在し得る分子であって、連結すべきアプタマーの複数個を該分子自身に直接的又は間接的に結合できる分子である。
【0051】
連結分子は、相互に特異的に結合する2種類の分子のセットであることが好ましい。ここでいう特異的結合は、本発明の抗体に関して上記した特異的結合と同様の意味である。連結分子としてそのような2種類の分子のセットを用いる場合、連結分子のセットのうちの一方を、連結すべきアプタマーに結合させておく。そうすると、連結分子セットの一方を結合したアプタマーと、連結分子セットの他方とを接触させるのみで、連結分子間の特異的結合により、複数個のアプタマーが連結分子上に連結され、多量体となる。連結分子セットのうちのいずれをアプタマーと結合させておくかについては、当業者であれば、連結分子セットの種類に応じて容易に決定することができる。連結分子のセットの具体例としては、ビオチンとアビジン又はストレプトアビジンとのセット、ジンクフィンガータンパク質と該ジンクフィンガーを認識して結合する塩基配列から成る領域とのセット等を挙げることができるが、互いに特異的に結合できる構造体の組み合わせであればいずれのものでも使用可能であり、これらに限定されない。これらの具体例及びこれら以外の連結分子のセットがこの分野で公知であり、市販されているものもあるため、容易に入手可能である。
【0052】
該多量体化法は、上記した本発明のチログロブリン結合性アプタマーのみに限定されず、各種のアプタマーに対して適用可能である。これまでに各種の標的分子(例えば種々のタンパク質、糖類、脂質、核酸、低分子化合物等)に対するアプタマーが作製され公知となっており、また、SELEXのようなアプタマーの作製方法も知られているため、所望の標的分子に対する新規なアプタマーを作製することができる。それらのいずれについても、該方法を用いて連結することが可能である。さらにまた、先に述べた方法で1分子のポリヌクレオチドとして調製した任意のアプタマーの多量体であっても、連結分子を介して多量体化する方法にてさらに多量体化が可能である。
【0053】
以下、連結分子としてビオチンとアビジンとのセットを用いた場合を例に、本発明のアプタマー多量体作製法について説明する。もっとも、上記したように、該方法はビオチン−アビジンを用いた場合にのみ限定されるものではない。
【0054】
連結分子の一方であるビオチンは、連結すべきアプタマーに結合させる。核酸へのビオチン修飾方法は周知であり、アプタマーへのビオチンの結合も常法通りに行なうことができる。ビオチンはアプタマー分子のいずれか一方の末端に結合しておけばよい。他方の末端には、例えば、検出試薬として用いる観点から標識物質を結合することができる。標識物質は、周知の免疫測定法において結合を検出するために通常用いられる蛍光標識、化学発光標識、酵素標識等の標識物質を使用することができる。なお、放射標識やDIG標識したヌクレオチドを用いて標識されたアプタマーを調製することも可能である。
【0055】
ビオチンを結合したアプタマーとアビジンとを接触させると、ビオチンがアビジンに結合するので、アビジンを介してビオチン修飾アプタマーが連結する。アビジンにはビオチンの結合部位が4箇所存在するため、ビオチン−アビジンセットを用いる方法によれば最大で4個のアプタマーを連結可能である。なお、下記実施例に示される通り、この方法で得られるアプタマー多量体の集団は、アプタマーの連結数が異なる多量体の混合物である。ビオチン修飾アプタマーとアビジンとを接触させる際の両者の比率は特に限定されず、当業者が適宜定めることができるが、効率よく連結させる観点から、通常、ビオチン修飾アプタマー:アビジンのモル比として1:1〜4:1の範囲内で選択される。アビジン溶液とビオチン修飾アプタマー溶液を混合し、4℃〜室温程度で15分間〜30分間程度おけばよい。アビジンとビオチン修飾アプタマーとを混合する際の濃度は特に限定されず、一般的には混合した系内のアビジン濃度が10 nM〜100 μM程度であればよい。例えば、80 nM程度のビオチン修飾アプタマーを連結する場合、混合後の系内のアビジン濃度が10 nM〜100 nM程度であればよい。
【0056】
アプタマー多量体を標的分子の測定に用いる際には、通常、上記した公知のフォールディング条件下でアプタマーをフォールディングさせるが、フォールディング工程ではアプタマーを95℃程度の高温で加熱する。タンパク質であるアビジンを高温にさらすことは好ましくないため、フォールディング工程はアビジンとビオチン修飾アプタマーとを接触させる前に行なうことが好ましい。すなわち、アビジンとの接触前にビオチン修飾アプタマーをフォールディングさせておくことが好ましい。
【0057】
本発明の方法で連結するアプタマーは、同一の標的分子に結合するものであるが、同一配列のアプタマーのみであってもよいし、異なる配列を有する2種以上のアプタマーであってもよい。ある標的分子に対してそれぞれ異なる部位に結合するアプタマーが複数得られる場合には、それらの全てに連結分子の一方を結合させ、連結分子の他方と接触させて多量体化してもよい。複数のアプタマーを多量体化した場合には、得られるアプタマー多量体に含まれるアプタマーの組成は、多量体分子ごとに種々に異なり得るが、そのようなアプタマー多量体の集団も本発明の範囲に包含される。アプタマーの標的分子が例えばチログロブリンやPQQGDHのようなホモ多量体のタンパク質である場合、同一の結合部位が複数箇所存在することになるため、同一部位に結合する同一配列のアプタマーのみを多量体化しても、アプタマーの親和性を好ましく向上し得る。特に限定されないが、連結分子を介して結合されるアプタマーの種類は、通常1種〜数種程度である。
【0058】
例えば、本発明のチログロブリン結合性アプタマーを該方法により連結する場合、チログロブリンはホモダイマーであるから、上記した本発明のアプタマーのうちのいずれか1種のみを連結してもよく、また異なる部位に結合する2種以上のアプタマーを連結してもよく、いずれの場合でもアプタマーの親和性を向上できる。下記実施例では、配列番号26に示す塩基配列から成るアプタマーTgA25のみをビオチン修飾して連結しているが、アプタマーブロッティングによりTgA25単量体よりも多量体の方が親和性が向上していることが具体的に確認されている。異なるアプタマーの組み合わせの例としては、上述の通り、配列番号9(TgA8)と配列番号26(TgA25)の組み合わせ、及び配列番号26(TgA25)と配列番号43(TgA7T)との組み合わせが挙げられるが、これに限定されない。
【0059】
連結分子を介したアプタマー多量体もまた、1分子構造のアプタマー多量体や単量体と同様に、アプタマーによる周知の通常の方法によって標的分子の測定に使用可能である。例えば、抗体の代わりに本発明のアプタマーを利用した免疫測定法に準じる方法で行なうことができる。例えば、本発明のチログロブリン結合性アプタマーの多量体であれば、甲状腺の生検組織、血清や血漿等の体液やその希釈物等の被検試料中のチログロブリンの測定に使用することができる。フォールディング工程は、連結分子の熱への耐性に応じて適宜の順序で実施される。高温にさらすことが好ましくないタンパク質等の連結分子を用いる場合、又は連結分子への結合が熱に不安定である場合には、連結分子の一方を結合させたアプタマーと連結分子の他方とを接触させる前にフォールディングを行なうことが好ましい。連結分子間の結合が熱に安定である場合には、多量体化させた後にフォールディングを行なうことも可能である。その他の条件は1分子構造のアプタマーについて上記した条件と同様である。
【0060】
アプタマー及び連結分子は、アプタマー多量体の作製キットとして提供することができる。アプタマーは、1種類のみでもよいし、また同一の標的分子に結合する2種以上のアプタマーを含んでいてもよい。異なる標的分子に結合する1種又は2種以上のアプタマーをさらに含んでいてもよい。連結分子としては、相互に特異的に結合する2種類の分子のセットが好ましい。連結分子の具体例は上記と同様である。また、連結分子のセットの一方は、アプタマーに結合された形態であってもよい。任意でフォールディング用バッファー等の他の試薬類等をさらに含んでいてもよい。
【実施例】
【0061】
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0062】
実施例1 チログロブリンを標的としたDNAアプタマーの探索
本実施例では、チログロブリンに対してSELEXを5ラウンド行った。一本鎖DNAランダムライブラリーは18merのプライマー領域と30merのランダム領域を有する合計66merの長さのものを用いた(配列番号1)。ライブラリーからのPCR増幅は、プライマー領域ないしはその相補鎖と同一の塩基配列から成る18merのプライマーセットを用いて常法により行なった(反応条件:95℃60秒、52℃60秒、72℃60秒の35サイクル)。
【0063】
具体的な方法について以下に示す。FITC修飾された一本鎖DNAライブラリーは、TBS buffer(20mM Tris-HCl, 150mM NaCl, 5mM KCl)で1nmol/100μLに調製し、95℃で3分間加熱した後、30分間で室温(25℃)まで徐々に冷却することによりフォールディングさせた。チログロブリンとフォールディング後のライブラリーを、終濃度がそれぞれ1μM及び500μMになるようにTBS buffer(20mM Tris-HCl, 150mM NaCl, 5mM KCl)を用いて混合し、室温にて1時間インキュベートした。その後、6 %ポリアクリルアミドゲルを用いて、TBE buffer(89 mM Tris-HCl, 89 mM ホウ酸, 2 mM EDTA)にてNative-PAGEを行った。DNAに修飾されたFITCの蛍光を検出し、チログロブリンとの結合によるDNAのバンドのシフトを確認した。CBB染色後、チログロブリンのバンドが現れた位置のゲルを切り出し、DNAを抽出し、それをPCR増幅して次のラウンドのライブラリーとした。これを2ラウンド行った。
【0064】
3ラウンド目からは、ニトロセルロース膜にチログロブリンを固定化するアプタマーブロッティングという方法を用いた。アプタマーブロッティング法では、チログロブリンへの非特異的な結合を減少させるために、pIの高いPQQGDHを競合タンパク質として用いた。チログロブリンとPQQGDHを1.5μgずつ(チログロブリンは2.3 pmol、PQQGDHは30 pmolに相当)ニトロセルロース膜に固定化し、10 %の血清を用いて室温で1時間ブロッキングを行った。TBST(20 mM Tris-HCl, 150 mM NaCl, 15 mM KCl, 0.05% Tween)で洗浄後、3ラウンド目から抽出したライブラリー溶液100μMと室温にて1時間インキュベートし、TBSTで洗浄した。チログロブリンが固定化された膜の一部を切り取り、フェノールクロロホルム処理することにより、チログロブリンに結合したssDNAを抽出・回収した。これを鋳型としてPCR増幅し、一本鎖調製を行なって次のラウンドのライブラリーとした。一本鎖調製は、具体的には次のようにして行った。すなわち、PCR産物に、その1/10倍量の×50 TE Bufferおよび1/5倍量の5 M NaClを添加し、この溶液をアビジン固定化アガロースに加え、30分インキュベートした。その後、上清を取り除き、Column buffer (30 mM HEPES、500 mM NaCl、5mM EDTA、pH7.0)で2回洗浄した。上清を取り除いた後、0.15 M NaOHを加えて10分間攪拌し、上清を回収する操作を2回繰り返し行うことにより、ssDNAを溶出させた。ssDNAを含む上清を2M HClで中和し、エタノール沈殿によりssDNAを回収した。
上記の操作を1ラウンドとし、合計3ラウンド(3ラウンド目〜5ラウンド目)行なった。また、各ラウンドにおいて、各タンパク質に結合したDNA量を確認するために、上記と同様の方法で検出用の膜を用意し、DNAとインキュベート後に、二次抗体としてHRP修飾された抗FITC抗体を用いて各タンパク質に結合するDNA量を化学発光により確認した。
【0065】
チログロブリンを固定化した部分に見られるDNAの結合量を示すスポットは、ラウンドが進むごとに濃くなっていき、5ラウンド目ではPQQGDHと同等かそれ以上になった。このことから、5ラウンド目までにチログロブリンに結合する塩基配列から成る一本鎖DNAの濃縮が起こっていると考えられる。なお、5ラウンド目においても、競合タンパク質であるPQQGDHに対してもDNAの結合がみられているが、チログロブリンとPQQGDHの固定化量(pmol)が10倍以上にも差があるため、それを考慮すれば、これは問題にはならない。
【0066】
実施例2 得られたチログロブリンに結合する一本鎖DNAの配列解析
本実施例においては、4ラウンド目に回収したDNAの配列の解析を行った。
【0067】
具体的な方法を以下に示す。4ラウンド目に回収した一本鎖DNAをPCR増幅し、DNAの精製を行った。その後、TAクローニング、形質転換、培養を行い、得られた100個の白色コロニーをLB培地で一晩培養した後、プラスミドを抽出した。抽出したプラスミドは、プライマーを用いて目的の断片をPCR増幅し、コロニーPCRで目的の断片を確認した。目的の断片が挿入されていることが確認されたプラスミドは、塩基配列をダイデオキシ法により決定した。
【0068】
配列解析の結果、60本の配列を得ることができた。得られた60本の配列について、m-fold(商品名)により二次構造を予測し、安定な構造をとると考えられた37個をTgA1〜37とした。これらの塩基配列を表1に示す。なお、表1中にはプライマー領域の配列を省略して示す。
【0069】
【表1】
【0070】
実施例3 アプタマーブロッティング法によるアプタマーの結合能の評価
本実施例においては、実施例2で示した安定な構造をとると考えられた37のアプタマーについて、アプタマーブロッティング法(実施例1参照)を用いてチログロブリンに対する結合能を評価した。
【0071】
具体的な方法を以下に示す。チログロブリンとPQQGDHをニトロセルロース膜に固定化し、10 %の血清を用いて室温で1時間ブロッキングを行った。TBSTで洗浄を行った後、FITC修飾された一本鎖DNA溶液とインキュベートし、さらに抗FITC抗体とインキュベートして、化学発光によりチログロブリンに結合したDNAを検出した。
【0072】
チログロブリンに対する各アプタマーの検出結果を図1に示す。全てのアプタマーがチログロブリンに結合した。いくつかのアプタマーではチログロブリンにのみ結合し、競合させたPQQGDHに対する結合は見られなかった。
【0073】
実施例4 ゲルシフトアッセイによるアプタマーの結合能評価
本実施例では、アプタマーブロッティング法によってチログロブリンが固定化された系において、強い結合が見られたいくつかのアプタマー、TgA2, 3, 7, 8, 10, 11, 12, 16, 17, 20とTgA22〜24, 26〜37に対して、ゲルシフトアッセイを用いて溶液系でのチログロブリンに対する結合能を評価した。
【0074】
具体的な方法を以下に示す。チログロブリンとFITC修飾された一本鎖DNA(フォールディング済、実施例1参照)を、終濃度がそれぞれ1μM及び500μMになるようにTBS bufferを用いて混合し、1時間インキュベートした。その後、6 %ポリアクリルアミドゲルを用いてTBE bufferにてNative-PAGEを行った。DNAに修飾されたFITCの蛍光を検出し、チログロブリンとの結合によるDNAのバンドのシフトを確認した。
【0075】
検出結果を図2に示す。どのアプタマーにおいても、チログロブリンに対する結合を確認することができた。溶液系においてもアプタマーはチログロブリンに結合することが示された。
【0076】
実施例5 アプタマーの特異性の評価
本実施例では、各アプタマーTgA1〜37に対して、アプタマーブロッティング法を用いて特異性の評価を行った。チログロブリンと、競合タンパク質としてPQQGDH、血管内皮増殖因子165(VEGF165)、C反応性タンパク質を、それぞれ4.5 pmolずつニトロセルロース膜に固定化した。その膜をTBST bufferを用いて、10%の血清でブロッキングし、FITC修飾された各アプタマー100 nM(70 pmol/L)と室温にて1時間インキュベートした。その後、HRP修飾抗FITC抗体とインキュベートし、タンパク質に結合したアプタマーを化学発光により検出した。
【0077】
いずれのアプタマーもチログロブリンに結合したが、TgA7, 8, 9, 10, 11, 25, 30は競合タンパク質にはほとんど結合しなかった(図3)。これらのアプタマーは、チログロブリンに対する特異性をある程度持っていると考えられる。これらのアプタマーの予測される二次構造を図4〜10に示す。その他のアプタマーは、競合タンパク質にも結合し、特異性は低かった。
【0078】
実施例6 SPRによるアプタマーの結合能評価
本実施例では、SPR(表面プラズモン共鳴法)を用いて、実施例3及び4においてチログロブリンに高い結合能と特異性を有することが明らかになったTgA7, 8, 9, 10, 11, 25, 30の解離定数の算出を行った。
【0079】
以下に詳細な方法を示す。5'末端にビオチン修飾された各アプタマーをフォールディングした後、Sensor chip SAのフローセル1に固定化し、フローセル2にcontrol DNA(5'-ACTAGTTCAGAACTAGTTGCCAGAAAGCTACCTTGACGTCAGGGCCTACTGACC-3':配列番号44)を固定化した。その後、種々の濃度に調製したチログロブリンを100μlインジェクトし、アプタマーとチログロブリンの相互作用を観察した。SPRの測定は、室温、流速10μl/minもしくは20μl/minで行い、アプタマーとチログロブリンの調製及びSPRの固定化buffer、running bufferにはTBS bufferを、再生化bufferには0.5%SDSを用いた。
【0080】
フローセル1に固定化したアプタマーに対するチログロブリンの結合量から、フローセル2に固定化したcontrol DNAに対するチログロブリンの結合量を差し引いた値をΔRUとする。各アプタマーに対してチログロブリンをインジェクトし、各濃度における結合を観察したところ、TgA7, 8, 10, 11, 25において濃度依存的なシグナルの上昇が観察された(図11(A))。TgA9, 30はチログロブリンに対する結合を示すシグナルがほとんど得られなかった。そこで、TgA7, 8, 10, 11, 25において、BIAevaluation3.1(ビアコア社)を用いてGlobal fittingを行い、それぞれの解離定数を算出した(図11(B))。
【0081】
実施例7 アプタマーのtruncated mutantの評価
本実施例では、アプタマーのtruncated mutantを作製し、アプタマーの最少化を行った。
【0082】
各アプタマーはプライマー配列を含む66merのものであるが、結合に関与しない部分を除くことで最少化できる可能性がある。TgA7, 10, 25の予測される二次構造からtruncated mutantを作製し、チログロブリンへの結合能をアプタマーブロッティング法によって評価した。それぞれのtruncated mutantを、TgA7T, TgA10T, TgA25T1, TgA25T2(それぞれ配列番号39〜42)とする(図12)。ニトロセルロース膜に、1.5μgずつチログロブリンとPQQGDHを固定化し、その膜をTBST bufferを用いて、10%の血清でブロッキングし、FITCが修飾された各アプタマー100 nMと室温にて1時間インキュベートした。その後、HRP修飾抗FITC抗体とインキュベートし、タンパク質に結合したssDNAを化学発光により検出した。
【0083】
チログロブリンに対する各アプタマーの検出結果を図13に示す。TgA7TとTgA10Tがチログロブリンに対する結合能を持つことが示された。しかし、TgA25T1, TgA25T2はチログロブリンに対する結合能は低いと考えられる。
【0084】
実施例8 アプタマーの競合実験
本実施例では、特異性及び親和性の高いアプタマーTgA7, 8, 10, 11, 25と、TgA7のTruncated mutantであるTgA7Tにおいて、チログロブリンの異なる領域に結合するアプタマーの組み合わせをアプタマーブロッティング法を用いた競合検討によって探索した。4.5 pmolのチログロブリンをニトロセルロース膜に固定化し、FITC修飾されたアプタマー(終濃度 80 nM)とビオチン修飾アプタマー(終濃度 0 nM, 80 nM, 800 nM)の混合溶液を用いて、アプタマーブロッティングを行った。ニトロセルロース膜に、1.5μgずつチログロブリンとPQQGDHを固定化し、その膜をTBST bufferを用いて、10%の血清でブロッキングした。さらに、二つのアプタマーが濃度比1:0、1:1、1:10となるように混合したアプタマー溶液とインキュベートした。その後、HRP修飾アビジンとインキュベートし、タンパク質に結合したssDNAを化学発光により検出した。
【0085】
アプタマーの結合を化学発光によって検出した結果を図14に示す。それぞれの膜とインキュベートした2つのアプタマーの濃度比も左側に示した。ビオチン修飾アプタマーの濃度比が大きくなるごとにアプタマーの結合を示すスポットが薄くなった場合、2つのアプタマーは競合していると考えられる。しかしながら、全ての組み合わせにおいてそのようなスポット強度の低下が確認された。
【0086】
それぞれのアプタマーが同じ部位を認識している可能性も考えられるが、ひとつのアプタマーが結合することで標的分子であるチログロブリンのコンフォメーション変化などが起き、間接的に他のアプタマーの結合を阻害している可能性も考えられる。従って、必ずしも全てのアプタマーが同じ部位を認識しているとはいえない。しかし、TgA25とTgA8の組み合わせは、FITC-labeled TgAとbiotin-labeled TgAの濃度比が1:10(10:1)のときもスポットがそれほど薄くなっておらず、標的分子への結合に及ぼす影響が相互に少ないものと考えられる。
【0087】
実施例9 アプタマーの二量体化
本実施例では、TgA25とTgA7Tの二量体化を行った。二つの異なるアプタマーを連結することで、avidityにより親和性が向上する可能性がある。そこで、これまでに高い親和性と特異性を持つことが分かっているTgA25と、TgA7のtruncated mutantであるTgA7Tを5merのチミンで連結したTgA25-7TL(図15)を作製し、チログロブリンに対する結合能を評価した。
【0088】
TgA25-7TL(終濃度400 nM)とチログロブリン(終濃度 0 nM〜800 nM)を、TBS bufferを用いて混合し、室温にて1時間インキュベートした。その後、6 %ポリアクリルアミドゲルを用いて、TBE buffer(89 mM Tris-HCl, 89 mM ホウ酸, 2 mM EDTA)にてNative-PAGEを行った。分離したチログロブリンとTgA25-7TLを、1時間、定電流400 mAでニトロセルロース膜に転写した。その膜を10%の血清でブロッキングし、HRP修飾されたアビジンとインキュベートし、化学発光により検出した。コントロールとしてTgA25も同様の操作を行った。
【0089】
チログロブリンに対する各アプタマーの結合を検出した結果を図16に示す。TgA25(図16(A))、TgA25-7TL(図16(B))どちらのアプタマーもチログロブリンへの結合が確認されたが、TgA25-7TLはTgA25よりバンド強度が強かった。よってTgA25-7TLは元のアプタマーであるTgA25よりも高い親和性を有していると考えられる。実施例8の競合実験の結果からは、TgA25とTgA7Tの組み合わせではTgA25のチログロブリンへの結合がTgA7Tの結合に悪影響を及ぼすものと考えられたが、これらを連結してもチログロブリンへの親和性が向上することが確認された。
【0090】
実施例10 ビオチン−アビジン系を用いたアプタマーの多量体化
5’末端にFITCが、3'末端にビオチンがそれぞれ修飾されたアプタマーTgA25を、ストレプトアビジンを介して多量体化し、Aptamer Blottingを用いてThyroglobulinに対する結合能を評価した。ストレプトアビジンと修飾されたTgA25とを1:2、1:3、1:4、0:1の濃度比(モル濃度)で混合し、TgA二量体、三量体、四量体及び非多量体化TgA(単量体)を調製した。TgA25は、ストレプトアビジンとの混合前に実施例1と同様の方法でフォールディングした。混合に用いたビオチン修飾TgA25溶液の濃度は80 nM、ストレプトアビジン溶液の濃度は20〜80 nMであった。多量体化プロセスを説明する模式図を図17に示す。
【0091】
Thyroglobulinを0.5μg、1μg、1.5μgずつニトロセルロース膜に固定化した。その膜をTBST bufferを用いて10%の血清でブロッキングし、上記で調製したTgA二量体、三量体、四量体及び単量体のDNA溶液(TgA25濃度80 nM)と共にブロッキング後の膜をインキュベートした。その後、HRP修飾された抗FITC抗体とインキュベートし、Thyroglobulinに結合したTgA25を化学発光により検出した。
【0092】
化学発光の検出結果を図18(A)に示す。ストレプトアビジンを介して多量体化されたTgA25はいずれも、単量体のTgA25より強くThyroglobulinと結合した。アプタマーを多量体化することで、親和性の向上がなされたと考えられる。ストレプトアビジンとの濃度比が1:2、1:3、1:4の3つの条件でそれぞれアプタマーブロッティングを行ったが、3つの間にはThyroglobulinに対する親和性に差は見られなかった。しかし、アガロースで電気泳動を行ったところ、1:3の濃度比のとき、最もアプタマーが効率よく多量体化されていた(図18(B))。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)〜(d)のいずれかのポリヌクレオチドから成るチログロブリン結合性アプタマー。
(a) 配列表の配列番号8〜12、26及び31のいずれかに示される塩基配列から成るポリヌクレオチド。
(b) (a)のポリヌクレオチドにおいて1個又は数個の塩基が置換し、欠失し及び/又は挿入され、且つチログロブリンと結合する能力を有するポリヌクレオチド。
(c) (a)又は(b)のポリヌクレオチド中に存在するステムループ構造単位を少なくとも一つ含む構造領域から成り、チログロブリンと結合する能力を有するポリヌクレオチド。
(d) (a)〜(c)のいずれかのポリヌクレオチドを部分領域として含み、チログロブリンと結合する能力を有するポリヌクレオチド。
【請求項2】
前記(b)のポリヌクレオチドが、前記(a)のポリヌクレオチドのうち1個又は2個の塩基が置換し、欠失し及び/又は挿入されたポリヌクレオチドである請求項1記載のアプタマー。
【請求項3】
配列番号8〜12、26及び31のいずれかに示される塩基配列から成るポリヌクレオチド、又は該ポリヌクレオチドを部分領域として含み、チログロブリンと結合する能力を有するポリヌクレオチドから成る請求項1記載のアプタマー。
【請求項4】
前記ポリヌクレオチドのサイズが150mer以下である請求項1ないし3のいずれか1項に記載のアプタマー。
【請求項5】
配列表の配列番号8〜12、26及び31のいずれかに示される塩基配列から成るポリヌクレオチドから成る請求項3記載のアプタマー。
【請求項6】
配列表の配列番号8、9、11、12及び26のいずれかに示される塩基配列から成るポリヌクレオチドから成る請求項5記載のアプタマー。
【請求項7】
配列表の配列番号8又は11に示される塩基配列から成るポリヌクレオチド中に存在するステムループ構造単位を少なくとも一つ含む構造領域から成り、チログロブリンと結合する能力を有するポリヌクレオチドから成る請求項1記載のアプタマー。
【請求項8】
配列表の配列番号39又は40に示される塩基配列から成る請求項7記載のアプタマー。
【請求項9】
配列番号8〜12、26、31、39及び40に示される塩基配列から成るポリヌクレオチドから選択される数個のポリヌクレオチドが連結された構造を有し、チログロブリンと結合する能力を有する請求項1記載のアプタマー。
【請求項10】
2個のポリヌクレオチドが連結された構造を有する請求項9記載のアプタマー。
【請求項11】
配列番号9及び配列番号26にそれぞれ示される塩基配列から成る2個のポリヌクレオチド又は配列番号26及び配列番号39にそれぞれ示される塩基配列から成る2個のポリヌクレオチドが連結された構造を有する請求項10記載のアプタマー。
【請求項12】
1mer〜20merの塩基から成るリンカーを介して前記数個のポリヌクレオチドが連結される請求項9ないし11のいずれか1項に記載のアプタマー。
【請求項13】
配列表の配列番号43に示される塩基配列から成るポリヌクレオチドから成る請求項12記載のアプタマー。
【請求項14】
連結分子を介して複数のアプタマーが連結した構造を有するアプタマー多量体。
【請求項15】
前記連結分子が相互に結合する2種の分子のセットである請求項14記載のアプタマー多量体。
【請求項16】
前記連結分子のセットがビオチンとアビジン又はストレプトアビジンとのセットである請求項15記載のアプタマー多量体。
【請求項17】
前記アプタマーが、請求項1ないし13のいずれか1項に記載のチログロブリン結合性アプタマーから選択される少なくとも1種である請求項14ないし16のいずれか1項に記載のアプタマー多量体。
【請求項18】
前記アプタマーが配列表の配列番号26に示す塩基配列から成る請求項17記載のアプタマー多量体。
【請求項19】
連結分子のセットの一方が結合されたアプタマーと、連結分子のセットの他方とを接触させ、前記連結分子間の結合により前記アプタマーを連結することを含む、アプタマー多量体の作製方法。
【請求項20】
アプタマーに連結される連結分子がビオチンであり、他方の連結分子がアビジン又はストレプトアビジンである請求項19記載の方法。
【請求項21】
1種又は2種以上のアプタマーと連結分子とを含むアプタマー多量体の作製キット。
【請求項22】
前記連結分子がビオチンとアビジン又はストレプトアビジンとのセットである請求項21記載のキット。
【請求項23】
前記ビオチンは前記アプタマーに結合された形態にある請求項22記載のキット。
【請求項1】
以下の(a)〜(d)のいずれかのポリヌクレオチドから成るチログロブリン結合性アプタマー。
(a) 配列表の配列番号8〜12、26及び31のいずれかに示される塩基配列から成るポリヌクレオチド。
(b) (a)のポリヌクレオチドにおいて1個又は数個の塩基が置換し、欠失し及び/又は挿入され、且つチログロブリンと結合する能力を有するポリヌクレオチド。
(c) (a)又は(b)のポリヌクレオチド中に存在するステムループ構造単位を少なくとも一つ含む構造領域から成り、チログロブリンと結合する能力を有するポリヌクレオチド。
(d) (a)〜(c)のいずれかのポリヌクレオチドを部分領域として含み、チログロブリンと結合する能力を有するポリヌクレオチド。
【請求項2】
前記(b)のポリヌクレオチドが、前記(a)のポリヌクレオチドのうち1個又は2個の塩基が置換し、欠失し及び/又は挿入されたポリヌクレオチドである請求項1記載のアプタマー。
【請求項3】
配列番号8〜12、26及び31のいずれかに示される塩基配列から成るポリヌクレオチド、又は該ポリヌクレオチドを部分領域として含み、チログロブリンと結合する能力を有するポリヌクレオチドから成る請求項1記載のアプタマー。
【請求項4】
前記ポリヌクレオチドのサイズが150mer以下である請求項1ないし3のいずれか1項に記載のアプタマー。
【請求項5】
配列表の配列番号8〜12、26及び31のいずれかに示される塩基配列から成るポリヌクレオチドから成る請求項3記載のアプタマー。
【請求項6】
配列表の配列番号8、9、11、12及び26のいずれかに示される塩基配列から成るポリヌクレオチドから成る請求項5記載のアプタマー。
【請求項7】
配列表の配列番号8又は11に示される塩基配列から成るポリヌクレオチド中に存在するステムループ構造単位を少なくとも一つ含む構造領域から成り、チログロブリンと結合する能力を有するポリヌクレオチドから成る請求項1記載のアプタマー。
【請求項8】
配列表の配列番号39又は40に示される塩基配列から成る請求項7記載のアプタマー。
【請求項9】
配列番号8〜12、26、31、39及び40に示される塩基配列から成るポリヌクレオチドから選択される数個のポリヌクレオチドが連結された構造を有し、チログロブリンと結合する能力を有する請求項1記載のアプタマー。
【請求項10】
2個のポリヌクレオチドが連結された構造を有する請求項9記載のアプタマー。
【請求項11】
配列番号9及び配列番号26にそれぞれ示される塩基配列から成る2個のポリヌクレオチド又は配列番号26及び配列番号39にそれぞれ示される塩基配列から成る2個のポリヌクレオチドが連結された構造を有する請求項10記載のアプタマー。
【請求項12】
1mer〜20merの塩基から成るリンカーを介して前記数個のポリヌクレオチドが連結される請求項9ないし11のいずれか1項に記載のアプタマー。
【請求項13】
配列表の配列番号43に示される塩基配列から成るポリヌクレオチドから成る請求項12記載のアプタマー。
【請求項14】
連結分子を介して複数のアプタマーが連結した構造を有するアプタマー多量体。
【請求項15】
前記連結分子が相互に結合する2種の分子のセットである請求項14記載のアプタマー多量体。
【請求項16】
前記連結分子のセットがビオチンとアビジン又はストレプトアビジンとのセットである請求項15記載のアプタマー多量体。
【請求項17】
前記アプタマーが、請求項1ないし13のいずれか1項に記載のチログロブリン結合性アプタマーから選択される少なくとも1種である請求項14ないし16のいずれか1項に記載のアプタマー多量体。
【請求項18】
前記アプタマーが配列表の配列番号26に示す塩基配列から成る請求項17記載のアプタマー多量体。
【請求項19】
連結分子のセットの一方が結合されたアプタマーと、連結分子のセットの他方とを接触させ、前記連結分子間の結合により前記アプタマーを連結することを含む、アプタマー多量体の作製方法。
【請求項20】
アプタマーに連結される連結分子がビオチンであり、他方の連結分子がアビジン又はストレプトアビジンである請求項19記載の方法。
【請求項21】
1種又は2種以上のアプタマーと連結分子とを含むアプタマー多量体の作製キット。
【請求項22】
前記連結分子がビオチンとアビジン又はストレプトアビジンとのセットである請求項21記載のキット。
【請求項23】
前記ビオチンは前記アプタマーに結合された形態にある請求項22記載のキット。
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図1】
【図2】
【図17】
【図18】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図1】
【図2】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2010−158237(P2010−158237A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−278600(P2009−278600)
【出願日】平成21年12月8日(2009.12.8)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18〜20年度 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 産業技術研究助成事業「酵素活性制御アプタマーを用いた疾病マーカー迅速検出システムの開発」委託研究 産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504132881)国立大学法人東京農工大学 (595)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年12月8日(2009.12.8)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18〜20年度 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 産業技術研究助成事業「酵素活性制御アプタマーを用いた疾病マーカー迅速検出システムの開発」委託研究 産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504132881)国立大学法人東京農工大学 (595)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]