説明

チーズ様呈味食品

【課題】従来、食品にチーズ風味を付与するために、天然チーズを添加したりレンネットカゼインを用いたチーズ様食品が用いられているが、十分なチーズ風味を付与することが困難であるため香料が併用されていたが、香料を使用するとチーズ本来の風味とはかけ離れた製品となってしまうという欠点があった。本発明は、優れたチーズ風味を有するチーズ様呈味食品を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明のチーズ様呈味食品は、食品中に、乳由来の油脂を酵素分解した油脂酵素分解物、カゼイン酵素分解物及び9重量%以下の発酵乳を含むことを特徴とする。本発明において油脂酵素分解物としては、酸価8〜150に乳由来の油脂を分解したものが好ましく、カゼイン酵素分解物としては平均分子量250〜800の分解物が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はチーズ風味を有するチーズ様呈味食品に関する。
【背景技術】
【0002】
クッキー、スナック菓子等の食品にチーズ風味を付与するため、従来は食品にナチュラルチーズ、プロセスチーズ等のチーズを添加していた。しかしながら食品に添加できるチーズの量は配合上限界があり、この程度の量のチーズ添加では十分なチーズ風味を付与することは困難であった。一方、近年は天然のチーズに代わって、蛋白源としてレンネットカゼインを使用したチーズ様食品が種々提案されている(特許文献1、特許文献2)。
【0003】
【特許文献1】特開昭63−12248号公報
【特許文献2】特開2002−125589号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら特許文献1、2に記載されているようなレンネットカゼインを蛋白源として用いたチーズ様食品も、食品に対するチーズ風味付与効果は十分ではないため、香料を併用する必要があり、香料を使用した場合、香料の持つ独自の味や香りになってしまい、チーズ本来の味からかけ離れる結果となってしまうのが現状である。本発明は上記の点に鑑みなされたもので、呈味成分の配合量が少なくても良好なチーズ風味を有するチーズ様呈味食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
即ち本発明は、
(1)食品中に、乳由来の油脂を酵素分解した油脂酵素分解物、カゼイン酵素分解物及び9重量%以下の発酵乳を含有することを特徴とするチーズ様呈味食品、
(2)油脂酵素分解物が、酸価8〜150に乳由来の油脂を分解した油脂酵素分解物である上記(1)のチーズ様呈味食品、
(3)カゼイン酵素分解物が、平均分子量250〜800の分解物である上記(1)又は(2)のチーズ様呈味食品、
(4)発酵乳、油脂酵素分解物、カゼイン酵素分解物を重量比で、発酵乳:油脂酵素分解物:カゼイン酵素分解物=1:0.1〜5:0.2〜8の割合で含む上記(1)〜(3)のいずれかのチーズ様呈味食品、
を要旨とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明のチーズ様呈味食品は、呈味成分の含有量が少なくても、香料を添加せずに良好なチーズ風味を有し、風味の程度における強弱の調整も容易である。また呈味成分の含有量が少ない事から食品物性への影響も少なく、低コストで提供される優れたチーズ様風味を有する食品である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明において用いる油脂酵素分解物は、乳由来の油脂をリパーゼ等の油脂分解酵素で分解して得られる、モノグリセリド、ジグリセリド、未分解トリグリセリドと、油脂から遊離した脂肪酸との混合物であるが、酸価8〜150に分解されたものが好ましく、特に酸価30〜130に分解されたものが好ましい。油脂分解に用いるリパーゼとしては、食品に用いる事ができるリパーゼであれば何でも良く、カビや酵母などの微生物由来のものが挙げられる。乳由来の油脂としては乳脂、バター、発酵バター等が用いられる。また乳由来の油脂の味を損なわない範囲の量の牛脂、豚脂、魚油等の動物油脂、ナタネ油、コーン油、大豆油、サフラワー油、綿実油、ヤシ油、パーム油、米糠油等の植物油脂、これら動植物油脂の硬化油、エステル交換油、あるいはこれらの油脂を分別して得られる液体油、固形脂や、これら油脂の2種以上の混合油脂を、乳由来の油脂と混合して用いても良い。
【0008】
カゼイン酵素分解物は、カゼイン、カゼインナトリウム等のカゼインタンパク質をプロテアーゼ等の蛋白質分解酵素で分解したものである。カゼインは主としてα−カゼイン、β−カゼイン、κ−カゼインという平均分子量20,000〜25,000のサブユニットの複合体として構成され、平均分子量が75,000〜375,000の乳蛋白である。これらサブユニットの特徴は構成するアミノ酸の一部がリン酸化されていることである。本発明で用いるカゼイン酵素分解物は、リン酸基を含むペプチドとして分子量平均250〜800にカゼインを分解したものが好ましい。またこのカゼイン酵素分解物を部分的に精製したものや、苦味成分を除去したものであっても良い。カゼイン酵素分解物は、例えばタンパク質分解酵素の種類や組み合わせ、分解時間や温度等を調整することにより、リン酸基を含むペプチドの平均分子量が250〜800になるよう調製することができる。また平均分子量は、リン酸基を含むペプチドの分子量と濃度から求めることができる。平均分子量は、例えば目的の分子量分画に適したゲルろ過材を使用したカラムクロマトグラフィーにより分離を行い、溶出した蛋白質を特定の光波長における吸光度、例えば蛋白質の吸光度(一般に光波長280nmにおける吸光度)及び有機リンの吸光度(一般に光波長820nmにおける吸光度)で測定し、分子量ごとの濃度を求める等により確認することができる。分子量が250未満の場合は調味料的なアミノ酸の味が強くなり、分子量が800を超えるとチーズの呈味よりも苦味が強くなってしまう虞がある。
【0009】
発酵乳としては、乳、生乳、濃縮乳、粉乳、チーズなどの乳原料に、乳酸菌や酵母などを加えて発酵させたものである。発酵乳は乳原料を混合、殺菌、均質化したのち、スターターを加え、スターターの種類や目的に応じて例えば20〜45℃付近で静置もしくは緩やかな攪拌条件下で発酵を行う様な方法ならば何でも良く、場合によってはその後均質化、殺菌しても良い。発酵乳は乳等省令で言う「はっ酵乳」の様に必ずしも乳酸菌もしくは酵母が生菌である必要はない。場合によっては発酵後増粘安定剤や乳製品等を加える事も出来る。この場合、更に殺菌、均質化する事が出来る。本発明のチーズ様呈味食品中における発酵乳の含有量は9重量%以下であり、9重量%を超えると呈味が強くなりすぎるだけでなく、食品の物性にも影響が出て製造が困難になる虞がある。本発明のチーズ様呈味食品中における発酵乳の含有量は、0.02〜8.0重量%が好ましい。
【0010】
本発明のチーズ様呈味食品中における上記発酵乳、油脂酵素分解物、カゼイン酵素分解物の割合は、重量比で、発酵乳:油脂酵素分解物:カゼイン酵素分解物=1:0.1〜5:0.2〜8が好ましいが、特に発酵乳:油脂酵素分解物:カゼイン酵素分解物=1:0.3〜5:0.4〜6が好ましい。発酵乳1部当たり、油脂酵素分解物が0.1部未満の場合、チーズの濃厚な味やボディー感がなくなりぼやけた物足りない味となる。カゼイン酵素分解物が0.2部未満の場合、チーズ本来の味がなくなり乳感を伴うバター様の味になる虞があり、油脂酵素分解物が5部を超える場合、バターの味が強くなり、カゼイン酵素分解物が8部を超える場合には苦味のある味になってしまう。これら発酵乳、油脂酵素分解物、カゼイン酵素分解物の3種類が上記割合で存在することにより、チーズ様の呈味効果がさらに発揮される。
【0011】
本発明のチーズ様呈味食品には、必要に応じて油脂、乳製品、安定剤、リン酸塩など無機塩類等、味を損なわないものであれば添加する事が出来る。また好みに合わせて香料など他の呈味成分を添加してもよい。
【0012】
本発明のチーズ様呈味食品は、マーガリン、ホイップクリーム、クッキー、スナック菓子、ケーキ、餡、ホワイトソース、スープ等の食品に、発酵乳、乳由来の油脂を酵素分解した油脂酵素分解物及びカゼイン酵素分解物を添加、混合することにより得ることができる。本発明の食品は、呈味成分である発酵乳、油脂酵素分解物及びカゼイン酵素分解物を別々に食品に添加して製造することもできるが、呈味成分である発酵乳、油脂酵素分解物及びカゼイン酵素分解物を予め混合して呈味剤を調整し、この呈味剤を食品に添加することにより製造することもできる。
【実施例】
【0013】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定するものではない。尚、カゼイン蛋白分解物は、リン酸基を含むペプチドの平均分子量が約1200のもの(以下MW−1200と示す)、約400のもの(以下MW−400と示す)、約200(以下MW−200と示す)を各々調製して使用した。
油脂酵素分解物は40℃に溶解した乳脂90重量部に、0.5重量部のリパーゼを溶解した水10重量部を加えて、40℃で攪拌しながら反応させ酸価4の酵素分解物と酸価50の酵素分解物を得た。酸価の測定は「基準油脂分析試験法」(日本油化学会編)の方法に準じて行った。
発酵乳は水80重量部に全脂粉乳20重量部を加えて80℃、15分加熱殺菌した後、37℃まで冷却し、そこに乳酸菌(財団法人日本乳業技術協会提供510)を加え37℃、8時間培養した後、それを同様に殺菌し均質化して得た。
【0014】
実施例1〜8、比較例1〜4
食用油脂85重量部(パーム硬化油15%、菜種油70%、パーム分別液体油15%)を75℃まで加熱し、これにモノグリセリンステアレート0.1重量部とレシチン0.05重量部を加えて油相部を調製した。一方、油相に水相を添加した合計が100重量部となるように、表1に示す割合で水に油脂酵素分解物(乳脂リパーゼ分解物)、カゼイン酵素分解物、脱脂粉乳、発酵乳を添加して調製した水相を、80℃まで加熱して上記油相に添加、攪拌して乳化物を調整した。ついでこの乳化物を急冷混捏してチーズ様呈味乳化物を得た。比較例4は乳化が不安定となり良好な乳化物が得られなかった。
【0015】
【表1】

【0016】
上記実施例1〜8および比較例1〜3を食パン1斤あたり6分割したものにスプレッドして、パネラー20人に試食して貰った。その評価を表2に示す。
(表2)

【0017】
※1パネラーによる食パンの試食結果は、各パネラーが食感を、
チーズ味が濃厚であり、ボディ感にも優れる・・・・・5点
チーズ味がでており、ボディ感もある・・・・・3点
チーズ味ではない・・・・・1点
と評価し、パネラー20人の合計点にて以下のように評価した。
合計点が80点以上 :○
合計点が60点以上、80点未満:△
合計点が60点未満 :×
合計点80点以上のものは、チーズ味が濃厚であり、ボディ感にも優れた食感を有し、合計点が80点未満、60点以上のものはチーズ味が良好で、ボディ感もある食感良好なものであり、合計点60点未満のものはチーズ味に乏しいものである。
【0018】
実施例9
実施例1で用いたものと同様の油脂酵素分解物0.5重量部、発酵乳(実施例1で用いたものと同様)0.4重量部、カゼイン酵素分解物(MW=200)0.5重量部、砂糖46重量部、マーガリン60重量部を十分混合し、これに全卵35重量部を徐々に加えて混合し、次いで薄力粉100重量部を加えて混捏し、クッキー生地とした。この生地を天板上に絞り分け、180℃のオーブンで15分焼成してクッキーを得た。得られたクッキーはチーズ風味の優れた食感を有していた。
【0019】
実施例10
水55.9重量部に脱脂粉乳3.5重量部、カゼイネート0.2重量、ショ糖ステアリン酸エステル(HLB=16)0.1重量部、デキストリン3.0重量部、メタリン酸0.1重量部、実施例1で用いたものと同様の油脂酵素分解物0.5重量部、発酵乳(実施例1で用いたものと同様)0.4重量部、カゼイン酵素分解物(MW=200)0.5重量部を加えて70℃に加熱して水相を調整した。一方、パーム核油35重量部、レシチン0.4重量部、グリセリンモノステアレート0.4重量部を加えて加熱し油相を調整した。この油相及び前記水相を70℃に保持し、水相に油相を添加して乳化分散させ、次いでホモゲナイザーで均質化した後145℃で4秒加熱殺菌した。加熱殺菌後、更にホモゲナイザーで均質化して冷却し、クリーム様乳化物を得た。この乳化物を縦型ミキサーでホイップしてホイップドクリームとした。このホイップドクリームは良好なチーズ様風味を有する優れた食感を有していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
食品中に、乳由来の油脂を酵素で分解した油脂酵素分解物、カゼイン酵素分解物及び9重量%以下の発酵乳を含有することを特徴とするチーズ様呈味食品。
【請求項2】
油脂酵素分解物が、酸価8〜150に乳由来の油脂を分解した油脂酵素分解物である請求項1記載のチーズ様呈味食品。
【請求項3】
カゼイン酵素分解物が、平均分子量250〜800の分解物である請求項1又は2記載のチーズ様呈味食品。
【請求項4】
発酵乳、油脂酵素分解物、カゼイン酵素分解物を重量比で、発酵乳:油脂酵素分解物:カゼイン酵素分解物=1:0.1〜5:0.2〜8の割合で含む請求項1〜3のいずれかに記載のチーズ様呈味食品。

【公開番号】特開2007−275026(P2007−275026A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−109257(P2006−109257)
【出願日】平成18年4月12日(2006.4.12)
【出願人】(000114318)ミヨシ油脂株式会社 (120)
【Fターム(参考)】