説明

ティートカップ

【課題】耐用寿命が十分に長いティートカップを提供する。
【解決手段】ティートカップライナー32と、ティートカップライナー32におけるボア部63を収容可能に円筒状に形成されたティートカップシェル31とを備えて、ボア部63が収容されるようにしてティートカップシェル31にティートカップライナー32が装着されたティートカップ12であって、ティートカップシェル31の中心に向かって突出する潰れ方向規制用突出部44がティートカップシェル31の内面におけるボア部63との対向部位に設けられ、潰れ方向規制用突出部44は、少なくともティートカップシェル31とティートカップライナー32との間(外側空間S2)に真空圧が供給されたときにティートカップライナー32の周面が潰れ方向規制用突出部44の突端部Tに接する突出高に規定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ティートカップライナーのボア部がティートカップシェル内に収容されたティートカップに関するものである。
【背景技術】
【0002】
真空2系統式の搾乳機において使用するティートカップとして、出願人が特開2008−92889号公報に開示しているティートカップが知られている。このティートカップでは、ティートカップシェルと、ティートカップシェルに装着されたティートカップライナーとを備えて、ティートカップライナーの内側の空間(以下、「内側空間」ともいう)と、ティートカップシェルおよびティートカップライナーの間の空間(ティートカップライナーにおけるボア部(胴部)の外側に形成された空間:以下、「外側空間」ともいう)との2つの空間がティートカップ内に形成される構成が採用されている。
【0003】
このティートカップを使用した搾乳処理に際しては、ティートカップライナーの下端をミルククローに接続することで上記の内側空間をミルククローに連通させると共に、ミルククローに接続されているパルセータラインをティートカップシェルの側面に設けられた接続口に接続することで上記の外側空間をパルセータに連通させる。この状態において、ミルククローにおいて調圧した搾乳用真空圧を内側空間に連続的に供給すると共に、パルセータからの脈動真空圧を外側空間に供給する。この際には、ティートカップライナーにおけるボア部の脈動によって泌乳が促されて、乳頭から内側空間内にミルクが吐出される。また、吐出されたミルクは、ミルククローを介してミルクラインに液送される。
【0004】
この場合、図23に示すように、出願人が開示しているティートカップ12x(以下、出願人が開示している「ティートカップ」に関する要素については、符号の末尾に「x」を付して説明する)では、内側空間S1xに搾乳用真空圧を供給した状態において外側空間S2xに脈動真空圧を供給して両空間S1x,S2xの差圧を小さくすることでティートカップシェル31x内においてティートカップライナー32xのボア部63xを拡径させる「搾乳状態(搾乳期)」と、図24に示すように、内側空間S1xに搾乳用真空圧を供給した状態において外側空間S2xに対する脈動真空圧の供給を停止して両空間S1x,S2xの間に大きな差圧を生じさせることでティートカップシェル31x内においてティートカップライナー32xのボア部63xを縮径させる(潰れた状態とする)「マッサージ状態(マッサージ期)」とを交互に生じさせることで、連続搾乳に起因する乳頭の鬱血を回避しつつ泌乳を促す構成が採用されている。
【0005】
このため、長期間に亘って使用されたティートカップ12xでは、上記のような拡径および縮径を繰り返すことによってティートカップライナー32xのボア部63xに伸びや変形が生じることとなる。また、ティートカップライナー32xに伸びや変形が生じた状態では、マッサージ状態から搾乳状態にティートカップライナー32xが弾性復帰するのに長時間を要することに起因して搾乳処理に要する時間が長くなるだけでなく、クリーピングアップや、乳頭からのティートカップ12xの離脱を招くおそれもある。このため、ティートカップ12xの離脱に起因する細菌感染を招くことなく、短時間で効率よく搾乳を完了させるには、ティートカップライナー32xに大きな伸びや変形が生じる前に、これを新しいティートカップライナー32xに交換するのが好ましい。
【0006】
したがって、出願人は、上記の公開公報において、ティートカップライナー32xの劣化の有無を確実かつ容易に判定し得る方法を提案している。これにより、大きな伸びや変形が生じる前にティートカップライナー32xを交換することが可能となり、高品質のミルクを短時間で搾乳することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−92889号公報(第2−4頁、第1−2図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、出願人が開示しているティートカップ12xには、以下の改善すべき課題が存在する。すなわち、出願人が開示しているティートカップ12xでは、ティートカップライナー32xのボア部63xを拡径および縮径させることで搾乳状態およびマッサージ状態を交互に生じさせる構成が採用されている。この場合、出願人が開示しているティートカップ12xのティートカップライナー32xは、図23に示すように、内側空間S1xおよび外側空間S2xの差圧が小さい状態(または、両空間S1x,S2xの差圧が存在しない状態)において、ボア部63xが真円となるように設計されている。しかしながら、実際のティートカップライナー32xでは、たとえ未使用状態であったとしても、ボア部63xが極く僅かに楕円化した状態に成形されていたり、ボア部63xにおける周方向の各部の厚みに極く小さなばらつきが生じていたりしている。
【0009】
また、成形時に生じたボア部63xの楕円化や厚みのばらつきは、ティートカップライナー32xをティートカップシェル31xに装着した状態においても維持される。このため、外側空間S2xに対する真空圧の供給を停止することで図24に示すようにボア部63xに潰れが生じる(マッサージ状態となる)ときには、楕円化した状態に成形されたボア部63xが短軸方向で潰れたり、ボア部63xにおいて薄厚となっている部位が凹むようにして潰れたりすることとなる。この場合、上記のような潰れの向きは、搾乳状態およびマッサージ状態を交互に繰り返しても変化しないため、長期間に亘って使用したティートカップ12xでは、図25に示すように、ボア部63xに潰れ癖が生じて楕円化し、その長軸方向に沿った径と短軸方向に沿った径との差が徐々に大きくなる。
【0010】
このような状態となったティートカップライナー32xについては、前述した公開公報において出願人が提案している方法に従って劣化が生じているのを検出することが可能である。しかしながら、ティートカップライナー32xに劣化が生じたティートカップ12xについては、新しいティートカップライナー32xに交換するまで、本来的な搾乳能力を発揮することができない。このため、高品質のミルクを短時間で搾乳し得る状態を維持するには、ティートカップライナー32xの劣化の有無を定期的に検査すると共に、劣化が生じていると判定したときには、そのティートカップライナー32xを速やかに交換する必要がある。したがって、ティートカップライナー32xの交換に要するコストの分だけ搾乳コストが高騰するため、この点を改善するのが好ましい。
【0011】
本発明は、かかる改善すべき課題に鑑みてなされたものであり、耐用寿命が十分に長いティートカップを提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成すべく、請求項1記載のティートカップは、ティートカップライナーと、当該ティートカップライナーにおけるボア部を収容可能に円筒状に形成されたティートカップシェルとを備えて、前記ボア部が収容されるように前記ティートカップライナーが前記ティートカップシェルに装着されたティートカップであって、前記ティートカップシェルの中心に向かって突出する少なくとも1つの突出部が当該ティートカップシェルの内面における前記ボア部との対向部位に設けられ、前記突出部は、少なくとも前記ティートカップシェルと前記ティートカップライナーとの間に真空圧が供給されたときに当該ティートカップライナーの周面が当該突出部の突端部に接する突出高に規定されている。
【0013】
また、請求項2記載のティートカップは、請求項1記載のティートカップにおいて、前記突出部を一対備え、当該一対の突出部は、前記ティートカップシェルの内面に前記ティートカップライナーを挟んで対向配置されている。
【0014】
さらに、請求項3記載のティートカップは、請求項1または2記載のティートカップにおいて、前記ティートカップシェルに対する前記ティートカップライナーの相対的な回転位置を特定可能な位置合わせ用マークが前記ティートカップシェルおよび前記ティートカップライナーに設けられている。
【0015】
また、請求項4記載のティートカップは、請求項1から3のいずれかに記載のティートカップにおいて、前記突出部は、前記ティートカップシェルとは別体に形成されると共に、当該ティートカップシェルに設けられた取付部に取り外し可能に取り付けられている。
【0016】
さらに、請求項5記載のティートカップは、請求項1から4のいずれかに記載のティートカップにおいて、前記ティートカップシェルは、前記ティートカップライナーの乳頭挿入部を装着する上側筒状部と、前記ティートカップライナーの送乳部を引き出す引出し孔が設けられた下側筒状部と、前記上側筒状部および前記下側筒状部の間に配設されて当該上側筒状部および当該下側筒状部を連結する連結部とを備えて構成され、前記連結部は、内面に前記突出部が設けられると共に、前記上側筒状部および前記下側筒状部に対して周方向で回動可能に構成されている。
【発明の効果】
【0017】
請求項1記載のティートカップによれば、少なくともティートカップシェルとティートカップライナーとの間に真空圧が供給されたときにティートカップシェルの内面に設けた突出部の突端部がティートカップライナーの周面に接する構成を採用したことにより、突出部の突端部に周面が接している向きへのボア部の拡径が規制されるため、搾乳状態からマッサージ状態に移行させるときにボア部に潰れを生じさせる向きを、突出部に向かって拡径する向き以外の向きに制限することができる。したがって、このティートカップによれば、ティートカップシェルに対するティートカップライナーの相対的な回転位置を定期的に変更することで、搾乳状態からマッサージ状態に移行させるときにボア部に潰れを生じさせる向きを変更することができるため、一定方向に大きな潰れ癖が生じるのを好適に回避することができる結果、ティートカップライナーの耐用寿命を十分に長くすることができると共に高品質のミルクを短時間で搾乳し得る状態を低コストで維持することができる。
【0018】
また、請求項2記載のティートカップによれば、ティートカップライナーを挟んでティートカップシェルの内面に一対の突出部を対向配置したことにより、突出部の突端部に周面が接している向きへのボア部の拡径が確実に規制できるため、搾乳状態からマッサージ状態に移行させるときにボア部に潰れを生じさせる向きを、突出部に向かって拡径する向き以外の向きに確実に制限することができ、この結果、一定方向に大きな潰れ癖が生じるのを一層好適に回避することができる。
【0019】
さらに、請求項3記載のティートカップによれば、ティートカップシェルおよびティートカップライナーに位置合わせ用マークを設けたことにより、ティートカップシェルに対するティートカップライナーの相対的な回転位置を変更する作業において、作業前の回転位置および作業後の回転位置を容易に認識させることができるため、ティートカップライナーの相対的な回転位置をティートカップシェルから取り外す前の状態とは相違する所望の回転位置に確実かつ容易に変更することができる。
【0020】
また、請求項4記載のティートカップによれば、突出部をティートカップシェルとは別体に形成したことにより、ティートカップシェルに装着するティートカップライナーのボア部の径に適合するように突出高が規定された部材をティートカップシェルに装着することで、搾乳状態からマッサージ状態に移行させるときにボア部に潰れを生じさせる向きを確実に制限することができる。このため、突出部をティートカップシェルと一体的に形成したティートカップとは異なり、ボア部の径が相違するティートカップライナー毎にティートカップシェルを別個に製造する必要がないため、各種の乳牛から搾乳し得るティートカップを安価に提供することができる。
【0021】
さらに、請求項5記載のティートカップによれば、上側筒状部および下側筒状部の間に配設した連結部の内面に突出部を設けて、両筒状部に対して周方向で連結部を回動させることでティートカップライナーに対する突出部の位置を変更することにより、突出部の突端部に周面が接している向きへのボア部の拡径が規制されるため、搾乳状態からマッサージ状態に移行させるときにボア部に潰れを生じさせる向きを、突出部に向かって拡径する向き以外の向きに制限することができる。したがって、このティートカップによれば、ティートカップライナーが固着されている上側筒状部および下側筒状部に対する連結部(突出部)の相対的な回転位置を定期的に変更することで、搾乳状態からマッサージ状態に移行させるときにボア部に潰れを生じさせる向きを変更することができるため、一定方向に大きな潰れ癖が生じるのを好適に回避することができる結果、ティートカップライナーの耐用寿命を十分に長くすることができると共に高品質のミルクを短時間で搾乳し得る状態を低コストで維持することができる。また、このティートカップによれば、ティートカップシェルからティートカップライナーを取り外すことなく、ボア部に対する突出部の回転位置を変更することができるため、ティートカップライナーのボア部に生じる潰れの向きを容易に変更することができる。この場合、光透過性を有する材料で上側筒状部および下側筒状部および連結部を形成することで、ティートカップライナーに対する突出部の位置を目視で確認しながら連結部を回動させることができるため、ボア部に潰れを生じさせる向きを確実に所望の向きに変更することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施の形態に係る搾乳システム1の構成を示す構成図である。
【図2】本発明の実施の形態におけるティートカップユニット5の平面図である。
【図3】本発明の実施の形態におけるティートカップユニット5の正面図である。
【図4】本発明の実施の形態におけるティートカップ12の長手方向の断面図である。
【図5】本発明の実施の形態におけるティートカップ12の長手方向の他の断面図である。
【図6】本発明の実施の形態におけるティートカップ12の径方向の断面図である。
【図7】本発明の実施の形態におけるティートカップ12の規制用部材52の外観斜視図である。
【図8】本発明の実施の形態におけるティートカップ12の底面図である。
【図9】本発明の実施の形態におけるティートカップ12のティートカップライナー32の外観図である。
【図10】本発明の実施の形態におけるティートカップ12の搾乳状態における断面図である。
【図11】本発明の実施の形態におけるティートカップ12のマッサージ状態における断面図である。
【図12】本発明の実施の形態におけるティートカップ12のティートカップライナー32に楕円化が生じた状態の断面図である。
【図13】本発明の実施の形態におけるティートカップ12のティートカップライナー32をティートカップシェル31に対して回転させた状態の断面図である。
【図14】本発明の他の実施の形態におけるティートカップ12Aの径方向の断面図である。
【図15】本発明のさらに他の実施の形態におけるティートカップ12Bの径方向の断面図である。
【図16】本発明のさらに他の実施の形態におけるティートカップ12Cの径方向の断面図である。
【図17】本発明のさらに他の実施の形態におけるティートカップ12Dの径方向の断面図である。
【図18】本発明のさらに他の実施の形態におけるティートカップ12Eの長手方向の断面図である。
【図19】本発明のさらに他の実施の形態におけるティートカップ12Eの長手方向の他の断面図である。
【図20】本発明のさらに他の実施の形態におけるティートカップ12Eのティートカップシェル31eおよびウエイト33の外観斜視図である。
【図21】本発明のさらに他の実施の形態におけるティートカップ12Eの径方向の断面図である。
【図22】本発明のさらに他の実施の形態におけるティートカップ12Eの潰れ方向規制用突出部44e,44e(円筒体56)をティートカップライナー32(シェル本体55)に対して回転させた状態の断面図である。
【図23】従来のティートカップ12xの搾乳状態における断面図である。
【図24】従来のティートカップ12xのマッサージ状態における断面図である。
【図25】従来のティートカップ12xにおいて楕円化が生じた状態の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、添付図面を参照して、本発明に係るティートカップの実施の形態について説明する。
【0024】
図1に示す搾乳システム1は、真空2系統式の搾乳システムであって、図示しない真空圧供給源に接続された真空配管2と、図示しないミルクジャーに接続されたミルク配管3と、支持パイプ4aに吊り下げられると共にミルクインレット4bを介して真空配管2およびミルク配管3に接続された自動離脱装置4と、自動離脱装置4に接続されたティートカップユニット5とを備えて構成されている。なお、真空2系統式の搾乳システムにおける真空配管2、ミルク配管3および支持パイプ4a等の設置形態については公知のため、これらに関する詳細な説明および図示を省略する。
【0025】
自動離脱装置4は、ティートカップユニット5による搾乳処理を制御するコントローラや操作パネル等(図示せず)を備えると共に、後述するようにティートカップユニット5のミルククロー11に対して真空圧(脈動圧)を供給するパルセータ(図示せず)を内蔵している。この自動離脱装置4は、真空配管2およびミルクインレット4bを介して供給された真空圧をパルセータによって脈動圧に変換してティートカップユニット5に供給すると共に、ティートカップユニット5から液送されたミルクを、ミルクインレット4bを介してミルク配管3に液送する。ティートカップユニット5は、図2,3に示すように、ミルククロー11、および4つのティートカップ12を備えると共に、連結用チューブ13を介してミルククロー11から各ティートカップ12に(脈動圧)を供給する構成が採用されている。
【0026】
ミルククロー11は、自動離脱装置4(パルセータ)から供給された真空圧を各ティートカップ12に供給すると共に、各ティートカップ12から液送されたミルクを自動離脱装置4に液送する。具体的には、ミルククロー11は、自動離脱装置4から供給された搾乳用(マッサージ用)の真空圧を導入するための真空圧導入用ニップル21,21と、自動離脱装置4から供給された調圧用の真空圧を導入するための真空圧導入用ニップル22と、導入した搾乳用(マッサージ用)の真空圧を各ティートカップ12に供給するための(連結用チューブ13を装着するための)4つの真空圧供給用ニップル23と、各ティートカップ12のティートカップライナー32(図4,9参照)を装着可能な4つのミルク導入用ニップル24と、ミルク導入用ニップル24から導入したミルクを自動離脱装置4に液送するためのミルク液送用ニップル25とが形成されて構成されている。
【0027】
ティートカップ12は、図4〜6に示すように、ティートカップシェル31およびティートカップライナー32を備えて構成されている。この場合、図4,5,9に示すように、ティートカップライナー32は、乳牛の乳頭が挿入される挿入口が設けられた乳頭挿入部61と、乳頭から吐出されたミルクをミルククロー11に送乳する送乳部62と、乳頭挿入部61および送乳部62の間に設けられて後述するように脈動させられることで乳頭をマッサージするボア部63とがゴム等の弾性材料によって一体的に成形されている。また、ティートカップライナー32の送乳部62には、後述するようにしてティートカップライナー32をティートカップシェル31に装着する際に、ティートカップシェル31における開口部42の口縁部が係合させられる係合用溝部64が形成されている。
【0028】
一方、図4,5に示すように、ティートカップシェル31は、一例として、ステンレススチール等の金属材料によって円筒状に形成されている。このティートカップシェル31は、一方の開口部42からティートカップライナー32の送乳部62が引き出され、かつその内側にボア部63を収容するようにして、開口部41にティートカップライナー32の乳頭挿入部61が装着されることでティートカップ12を構成する。また、ティートカップシェル31には、ミルククロー11から断続的に供給される搾乳用(マッサージ用)の真空圧を導入することによって、ティートカップ12内を真空圧および大気圧に交互に変化させるための真空圧導入用ニップル43が設けられている。この真空圧導入用ニップル43は、図2,3に示すように、連結用チューブ13を介してミルククロー11の真空圧供給用ニップル23に連結される。
【0029】
この場合、ティートカップシェル31にティートカップライナー32を装着した状態においては、図4〜6に示すように、ティートカップシェル31とティートカップライナー32との間に、ティートカップライナー32の内側空間S1に対して隔離された外側空間S2(ミルククロー11からの真空圧が導入される密閉空間)が形成される。このティートカップ12では、後述するように、外側空間S2に対する真空圧の供給の有無によって、ティートカップライナー32のボア部63を、円筒形状態(搾乳状態)、および潰れが生じた状態(マッサージ状態)に交互に変形させる構成が採用されている。
【0030】
また、図5,6に示すように、本例のティートカップ12では、ティートカップシェル31の中心に向かって突出する一対の潰れ方向規制用突出部44(「突出部」に相当:以下、「規制用突出部44」ともいう)がティートカップシェル31の内面に設けられている。この場合、本例のティートカップシェル31では、ティートカップシェル31とは別体に形成された規制用部材52(図7参照)を備えて規制用突出部44が形成されると共に、ティートカップシェル31の内面には、規制用部材52を取り外し可能に取り付ける(係合させる)ための「取付部」を構成する係合用凸部51が形成されている。また、本例のティートカップシェル31では、装着されたティートカップライナー32におけるボア部63を挟んで両規制用部材52が対向配置されるように係合用凸部51,51が形成されている。
【0031】
この場合、本例のティートカップシェル31では、ティートカップシェル31に装着した状態のティートカップライナー32におけるボア部63の周囲の外側空間S2(ティートカップシェル31とティートカップライナー32との間)にミルククロー11からの真空圧が供給された状態(すなわち、「搾乳状態」)において、ボア部63の周面が規制用突出部44における規制用部材52の突端部T(以下、「規制用突出部44の突端部T」、または、単に「突端部T」ともいう)に接するように、ティートカップシェル31の内面からの規制用突出部44(規制用部材52)の突出高Hが規定されている。より具体的には、両規制用突出部44のうちの一方の規制用部材52の突端部Tと、他方の規制用部材52の突端部Tとの離間距離Lが、未使用のティートカップライナー32(ボア部63に楕円化が生じていないティートカップライナー32、または、ボア部63に生じている楕円化の度合いが軽度のティートカップライナー32)におけるボア部63の直径(一例として、ボア部63の直径の設計値)よりもやや短い距離となるように、両規制用突出部44(規制用部材52)の突出高Hが規定されている。
【0032】
これにより、このティートカップ12では、内面に規制用部材52を取り付けた状態のティートカップシェル31にティートカップライナー32を装着することでボア部63の周面がティートカップシェル31内に収容された状態において、規制用部材52の突端部Tにボア部63が接して、一例として、ボア部63の厚みの5%〜15%の範囲内(一例として、ボア部63の厚みの10%程度)でボア部63が潰されて、僅かに楕円化した状態となるように構成されている。
【0033】
なお、この種の「ティートカップ」では、乳牛の種別の相違(乳頭のサイズの相違)に応じて、「ボア部」の内径が相違する各種の「ティートカップライナー」のうちから任意の「ティートカップライナー」を選択して使用することができるように構成されている。したがって、本例のティートカップ12では、ボア部63の内径が相違する各種のティートカップライナー32に合わせて突出高Hが相違する各種サイズの規制用部材52(図示せず)が用意されており、ティートカップシェル31に装着するティートカップライナー32の外径に応じて、上記の条件が満たされる規制用部材52を選択してティートカップシェル31内に装着することができるように構成されている。
【0034】
また、図8に示すように、ティートカップシェル31の開口部42側の底面には、位置合わせ用マーク45a,45a、位置合わせ用マーク45b,45bが形成され、図9に示すように、ティートカップライナー32の乳頭挿入部61および送乳部62には、アンチツイストマーク65a,65bがそれそれ形成されている。この場合、アンチツイストマーク65a,65bは、ティートカップシェル31にティートカップライナー32を装着する際に、送乳部62に対して乳頭挿入部61が捩れた状態で装着されるのを阻止するためのマークであって、乳頭挿入部61および送乳部62間に捩れが生じていない状態においてティートカップライナー32の長手方向で一致するように(長手方向で重なるように)形成されている。
【0035】
また、アンチツイストマーク65a,65bは、ティートカップシェル31の位置合わせ用マーク45a,45bと相まって「位置合わせ用マーク」を構成し、このティートカップ12では、後述するように、ティートカップシェル31の位置合わせ用マーク45a,45bに対する位置関係によって、ティートカップシェル31に対するティートカップライナー32の相対的な回転位置を特定することができるように構成されている。この場合、このティートカップ12では、位置合わせ用マーク45a,45aを結ぶ線分と、位置合わせ用マーク45b,45bを結ぶ線分とがティートカップシェル31の中心において直交するように各位置合わせ用マーク45a,45bが形成されている。
【0036】
この搾乳システム1の使用に際しては、まず、ティートカップ12を組み立てる。具体的には、まず、係合用凸部51,51に係合させるようにしてティートカップシェル31の内面に両規制用部材52を係合させることにより、ティートカップシェル31の内面に、互いに対向する規制用突出部44,44を形成する。次いで、ティートカップライナー32の送乳部62をティートカップシェル31内に挿入して開口部42から引き出した状態において、ティートカップライナー32の乳頭挿入部61をティートカップシェル31の開口部41に装着すると共に、ティートカップシェル31の開口部42における口縁部をティートカップライナー32の送乳部62における係合用溝部64に係合させる。
【0037】
この際には、ティートカップライナー32に捩れを生じさせることのないように両アンチツイストマーク65a,65bをティートカップライナー32の長手方向において一致させると共に、一例として、ティートカップシェル31に設けられている両位置合わせ用マーク45a,45aのいずれか一方とアンチツイストマーク65bとを互いに向き合わせる(一致させる)ように、ティートカップシェル31にティートカップライナー32を装着する。これにより、ティートカップ12の組立てが完了する。なお、ティートカップ12の組立て作業に関しては、他の3つのティートカップ12に関しても同様に実施する。
【0038】
続いて、ティートカップユニット5を組み立てる。具体的には、各ティートカップ12のティートカップライナー32における送乳部62をミルククロー11の各ミルク導入用ニップル24にそれぞれ接続する。次いで、各ティートカップ12の真空圧導入用ニップル43と、ミルククロー11の各真空圧供給用ニップル23とを連結用チューブ13によってそれぞれ連結する。これにより、ティートカップユニット5の組立てが完了する。この後、ティートカップユニット5におけるミルククロー11の真空圧導入用ニップル21,21および真空圧導入用ニップル22を自動離脱装置4に接続すると共に、自動離脱装置4を真空配管2およびミルク配管3に接続することにより、搾乳処理を実施することができる状態となる。
【0039】
一方、搾乳処理に際しては、図10に示すように、ティートカップ12の内側空間S1に搾乳用真空圧を供給した状態において外側空間S2にパルセータからの脈動真空圧を供給して両空間S1,S2の差圧を小さくすることでティートカップライナー32のボア部63を拡径させる「搾乳状態」と、図11に示すように、内側空間S1に搾乳用真空圧を供給した状態において外側空間S2に対する脈動真空圧の供給を停止して(外側空間S2内を大気圧として)両空間S1,S2の間に大きな差圧を生じさせることでティートカップライナー32のボア部63を縮径させる(潰れた状態とする)「マッサージ状態」とを交互に生じさせることで、連続搾乳に起因する乳頭の鬱血を回避しつつ泌乳を促す。
【0040】
この場合、本例の搾乳システム1(ティートカップユニット5)におけるティートカップ12では、図10に示すように、「搾乳状態」においてボア部63の周面が規制用部材52の突端部Tに接するように突出高Hが規定された規制用突出部44がティートカップシェル31の内面に設けられている。したがって、このティートカップ12では、「搾乳状態」から「マッサージ状態」に移行させるために外側空間S2への真空圧の供給を停止したときに、ボア部63が矢印A,Aの向きに潰れようとしても、その周面が規制用突出部44(規制用部材52)の突端部Tに接していることで矢印B,Bの向きへの拡径が規制される。このため、このティートカップ12では、ボア部63が矢印D,Dの向きに拡径させられて、矢印C,Cの向きに潰れが生じるように変形させられる。
【0041】
この場合、前述したように、この搾乳システム1(ティートカップユニット5)におけるティートカップ12では、両規制用突出部44,44における突端部T,Tの離間距離Lが、未使用のティートカップライナー32におけるボア部63の直径よりもやや短い距離となるように、両規制用突出部44(規制用部材52)の突出高Hが規定されている。したがって、内側空間S1および外側空間S2の圧力差が小さいとき(すなわち、外側空間S2に真空圧が供給されているとき)には、両規制用突出部44(規制用部材52)によってボア部63が矢印C,Cの向きに潰されて僅かに楕円化された状態となっている。このため、このティートカップ12では、両空間S1,S2の圧力差が小さいときに、弾性復帰力によってボア部63の周面が矢印B,Bの向きで両規制用突出部44(規制用部材52)の突端部Tに押し付けられた状態となっている。
【0042】
したがって、このティートカップ12では、「搾乳状態」から「マッサージ状態」に移行するために外側空間S2に対する真空圧の供給を停止した瞬間にボア部63の周面が両規制用突出部44の突端部Tから離間するのではなく、外側空間S2に対する真空圧の供給を停止してからある程度の時間が経過した時点(両空間S1,S2の圧力差によってボア部を潰そうとする力が、上記のボア部の弾性復帰力よりも大きくなった時点)において、ボア部63の周面が両規制用突出部44の突端部Tから離間することとなる(「ティートカップシェルとティートカップライナーとの間に真空圧が供給されたとき」だけでなく、「真空圧の供給を停止した直後(真空圧が供給されていないとき)」にも、ティートカップライナーの周面が突出部の突端部に接した状態が維持される「突出高」に規定された構成の一例)。
【0043】
なお、上記の突端部T,Tの離間距離Lを、未使用のティートカップライナー32におけるボア部63の直径と同じ距離とすることで、「搾乳状態」から「マッサージ状態」に移行するために外側空間S2に対する真空圧の供給を停止した瞬間にボア部63の周面が両規制用突出部44の突端部Tから離間する構成(「ティートカップシェルとティートカップライナーとの間に真空圧が供給されたとき」だけ、ティートカップライナーの周面が突出部の突端部に接した状態となる「突出高」に規定した構成の例)を採用することもできる。
【0044】
一方、「マッサージ状態」から「搾乳状態」に移行させるために外側空間S2に真空圧を供給したときには、図11に矢印B,Bで示すようにボア部63が弾性復帰して、図10に示すように、ボア部63の周面が規制用突出部44(規制用部材52)の突端部Tに接した状態となる。したがって、「搾乳状態」から再び「マッサージ状態」に移行させるために外側空間S2への真空圧の供給を停止したときには、規制用突出部44(規制用部材52)によって矢印B,Bの向きへのボア部63の拡径が規制された状態となる。このため、ボア部63が矢印D,Dの向きに拡径させられて、矢印C,Cの向きに潰れが生じるように変形させられる。
【0045】
このように、このティートカップ12では、ティートカップシェル31の内面に一対の規制用突出部44を設けたことで、ティートカップシェル31内におけるボア部63の潰れの向きが一定方向(この例では、矢印C,Cの向き)となるように規制される。このため、毎日の搾乳処理を繰り返して実施することで、図12に示すように、ボア部63に、上記の矢印C,Cの向きを短軸とし、矢印D,Dの向きを長軸とする楕円化が生じる状態(軽度な潰れ癖が生じた状態)となる。なお、同図では、ボア部63に生じる楕円化についての理解を容易とするために、長軸方向に沿った径と短軸方向に沿った径との差を誇張して図示している。
【0046】
このようにしてボア部63に楕円化が生じた状態で継続して搾乳処理を実施したときには、前述したように、ボア部63における長軸方向に沿った径と短軸方向に沿った径との差が徐々に大きくなる結果、高品質のミルクを短時間で搾乳するのが困難な状態となるおそれがある。したがって、このティートカップ12では、上記のような軽度の潰れ癖が生じたとき、または、そのような潰れ癖が生じる前に、マッサージ状態においてボア部63に潰れを生じさせる向きを任意に変更できるように構成されている。
【0047】
具体的には、まず、真空圧導入用ニップル43から連結用チューブ13を取り外すと共に、ミルククロー11からティートカップライナー32の送乳部62を取り外した後に、前述した組立て手順とは逆手順でティートカップシェル31からティートカップライナー32を取り外す。次いで、ティートカップライナー32の送乳部62をティートカップシェル31内に挿入して開口部42から引き出した状態において、ティートカップライナー32の乳頭挿入部61をティートカップシェル31の開口部41に装着すると共に、ティートカップシェル31の開口部42における口縁部をティートカップライナー32の送乳部62における係合用溝部64に係合させる。
【0048】
この際には、ティートカップライナー32に捩れを生じさせることのないように両アンチツイストマーク65a,65bをティートカップライナー32の長手方向において一致させると共に、ティートカップシェル31に設けられている両位置合わせ用マーク45b,45bのいずれか一方とアンチツイストマーク65bとを互いに向き合わせる(一致させる)ように、ティートカップシェル31にティートカップライナー32を装着する。これにより、図13に示すように、ティートカップライナー32が、取り外し前の状態から、ティートカップシェル31に対して周方向で90度回転した状態でティートカップシェル31に装着されて、ティートカップ12の組立てが完了する。
【0049】
以下、上記の作業を実施する以前のティートカップ12を「再装着前のティートカップ12」ともいい、上記の作業を実施してティートカップシェル31に対して周方向で90度回転した状態でティートカップシェル31にティートカップライナー32を装着したティートカップ12を「再装着後のティートカップ12」ともいう。
【0050】
この場合、図12に示すように、再装着前のティートカップ12におけるティートカップライナー32のボア部63に軽度の楕円化が生じていたとしても、再装着後のティートカップ12では、図13に示すように、楕円化が生じていたボア部63の長軸方向の周面がティートカップシェル31内の規制用突出部44(規制用部材52)における突端部Tに接した状態となる。したがって、再装着後のティートカップ12では、再装着前のティートカップ12においてティートカップライナー32のボア部63に生じていた楕円化が矯正される。
【0051】
また、再装着後のティートカップ12を使用して搾乳処理を実施する際には、「搾乳状態」から「マッサージ状態」に移行させるために外側空間S2への真空圧の供給を停止したときに、ボア部63が矢印C,Cの向きに潰れようとしても、再装着前のティートカップ12において楕円化が生じていたボア部63における長軸方向の周面が規制用突出部44(規制用部材52)の突端部Tに接していることで、矢印D,Dの向きへの拡径が規制される。このため、再装着後のティートカップ12では、ボア部63が矢印B,Bの向きに拡径させられて、矢印A,Aの向きに潰れが生じるように変形させられる。
【0052】
一方、再装着後のティートカップ12において「マッサージ状態」から「搾乳状態」に移行させるために外側空間S2に真空圧を供給したときには、矢印D,Dで示す向きにボア部63が弾性復帰して、ボア部63の周面が規制用突出部44(規制用部材52)の突端部Tに接した状態となる。したがって、「搾乳状態」から再び「マッサージ状態」に移行させるために外側空間S2への真空圧の供給を停止したときには、規制用突出部44(規制用部材52)によって矢印D,Dの向きへのボア部63の拡径が規制された状態となる。このため、ボア部63が矢印B,Bの向きに拡径させられて、矢印A,Aの向きに潰れが生じるように変形させられる。
【0053】
したがって、再装着後のティートカップ12においては、再装着前のティートカップ12において潰れが生じていた矢印C,Cの向きに対して直交する向きで潰れが生じるように変形させられることで、再装着前の状態とは相違する向きに潰れ癖が生じることとなる。このため、このティートカップ12では、ボア部63に軽度の潰れ癖が生じたとき、または、そのような潰れ癖が生じる前に、ティートカップシェル31(規制用突出部44)に対するティートカップライナー32の相対的な回転位置を変更することで、長軸方向に沿った径と短軸方向に沿った径との差が過剰に大きな楕円化がボア部63に生じる事態が回避される。
【0054】
このように、このティートカップ12によれば、少なくともティートカップシェル31とティートカップライナー32との間に真空圧が供給されたときにティートカップシェル31の内面に設けた規制用突出部44(規制用部材52)の突端部Tがティートカップライナー32の周面に接する構成を採用したことにより、規制用突出部44(規制用部材52)の突端部Tに周面が接している向きへのボア部63の拡径が規制されるため、搾乳状態からマッサージ状態に移行させるときにボア部63に潰れを生じさせる向きを、規制用突出部44(規制用部材52)に向かって拡径する向き以外の向きに制限することができる。したがって、このティートカップ12によれば、ティートカップシェル31に対するティートカップライナー32の相対的な回転位置を定期的に変更することで、搾乳状態からマッサージ状態に移行させるときにボア部63に潰れを生じさせる向きを変更することができるため、一定方向に大きな潰れ癖が生じるのを好適に回避することができる結果、ティートカップライナー32の耐用寿命を十分に長くすることができると共に高品質のミルクを短時間で搾乳し得る状態を低コストで維持することができる。
【0055】
また、このティートカップ12によれば、ティートカップライナー32を挟んでティートカップシェル31の内面に一対の規制用突出部44(規制用部材52)を対向配置したことにより、規制用突出部44(規制用部材52)の突端部Tに周面が接している向きへのボア部63の拡径が確実に規制できるため、搾乳状態からマッサージ状態に移行させるときにボア部63に潰れを生じさせる向きを、規制用突出部44(規制用部材52)に向かって拡径する向き以外の向きに確実に制限することができ、この結果、一定方向に大きな潰れ癖が生じるのを一層好適に回避することができる。
【0056】
さらに、このティートカップ12によれば、ティートカップシェル31に位置合わせ用マーク45a,45bを設けると共に、ティートカップライナー32にアンチツイストマーク65a,65bを設けたことにより、ティートカップシェル31に対するティートカップライナー32の相対的な回転位置を変更する作業において、作業前の回転位置および作業後の回転位置を容易に認識させることができるため、ティートカップライナー32の相対的な回転位置をティートカップシェル31から取り外す前の状態とは相違する所望の回転位置に確実かつ容易に変更することができる。
【0057】
また、このティートカップ12によれば、「突出部」を構成する規制用部材52をティートカップシェル31とは別体に形成したことにより、ティートカップシェル31に装着するティートカップライナー32のボア部63の径に適合するように突出高Hが規定された規制用部材52をティートカップシェル31に装着することで、搾乳状態からマッサージ状態に移行させるときにボア部63に潰れを生じさせる向きを確実に制限することができる。このため、「突出部」を「ティートカップシェル」と一体的に形成した「ティートカップ」(図示せず)とは異なり、ボア部63の径が相違するティートカップライナー32毎に「ティートカップシェル」を別個に製造する必要がないため、各種の乳牛から搾乳し得るティートカップ12を安価に提供することができる。
【0058】
なお、「ティートカップ」の構成については、上記の例示に限定されるものではない。例えば、その突端部Tの断面形状がティートカップライナー32におけるボア部63の周面に沿って湾曲している規制用部材52を備えて構成された規制用突出部44(すなわち、搾乳状態において「突端部」がボア部63の周面に面的に接する「突出部」の例)を有するティートカップ12を例に挙げて説明したが、「突出部」の形状はこれに限定されない。具体的には、一例として、図14に示すティートカップ12Aのように、突端部Tの断面形状を直線状とした規制用部材52aを備えて構成した規制用突出部44a(すなわち、搾乳状態において「突端部」がボア部63の周面に線的、または、ある程度の幅を持って線的に接する「突出部」の例)をティートカップシェル31の内面に設けることができる。
【0059】
また、図15に示すティートカップ12Bのように、突端部の断面形状を搾乳状態におけるボア部63の周面とは逆向きに反らせて湾曲させた規制用部材52bを備えて構成した規制用突出部44b(すなわち、搾乳状態において「突端部」がボア部63の周面に線的に接する「突出部」の他の例)をティートカップシェル31の内面に設けることもできる。このような構成を採用したティートカップ12A,12Bにおいても、前述したティートカップ12と同様の効果を奏することができる。なお、上記のティートカップ12A,12Bや、後に説明する12C,12D(図16,17参照)において上記のティートカップ12と同様の機能を有する構成要素については、同一の符号を付して重複する説明を省略する。
【0060】
さらに、規制用部材52,52a,52b等のティートカップシェル31への取り付けについては、ティートカップシェル31の内面に設けた係合用凸部51,51への係合に限定されず、接着剤や粘着テープを使用して取り付けたり、溶接や溶着によって取り付けたりすることもできる。また、図16に示すティートカップ12Cのように、ティートカップシェル31cの内面に規制用部材52cを一体的に形成して規制用突出部44c(「突出部」のさらの他の一例)を構成することもできる。この場合、「突出部」を「ティートカップシェル」と一体的に形成する構成として、図17に示すティートカップ12Dのように、ティートカップシェル31dの周面の一部を内側に向けて凹ませることで、その凹みを「突出部」に相当する規制用突出部44dとして機能させることもできる。このように「突出部」を「ティートカップシェル」と一体的に形成したティートカップ12C,12Dにおいても、前述したティートカップ12,12A,12Bと同様の効果を奏することができる。
【0061】
一方、図18,19に示すティートカップ12Eは、搾乳状態からマッサージ状態に移行させるときにボア部63に生じさせる潰れの向きを変更する際に、「ティートカップシェル」から「ティートカップライナー」を取り外すことなく、「突出部」に対する「ティートカップライナー」の相対的な回転位置を変更することができるように構成されている。なお、このティートカップ12Eにおいて前述したティートカップ12等と同様の機能を有する構成要素については、同一の符号を付して重複する説明を省略する。このティートカップ12Eは、ティートカップシェル31e、ティートカップライナー32およびウエイト33を備えて構成されている。
【0062】
ティートカップシェル31eは、図20に示すように、一例として、光透過性を有する樹脂材料で円筒状に形成されたシェル本体55と、シェル本体55と同様に光透過性を有する樹脂材料で円筒状に形成された円筒体56と、シェル本体55および円筒体56の間に生じる隙間を閉塞するためのシール材57,57とを備えて構成されている。シェル本体55は、上側筒状部55aおよび下側筒状部55bが筒長方向で離間させられた状態で一対の支持部55cによって支持(連結)されて、上側筒状部55aおよび下側筒状部55bの間に開口部55h,55hが設けられている。この場合、上側筒状部55aには、ティートカップライナー32の乳頭挿入部61を装着する開口部41が設けられ、下側筒状部55bには、ティートカップライナー32の送乳部62を引き出す「引出し孔」に相当する開口部42が設けられている。また、下側筒状部55bには、後述するように、ウエイト33、およびティートカップライナー32の乳頭挿入部61と相まって円筒体56を回動可能に挟持するための鍔部55rが形成されている。
【0063】
また、円筒体56は、「連結部」に相当し、その内径が、シェル本体55における上側筒状部55aや下側筒状部55bの外径よりもやや大径となるように形成されている。この円筒体56は、図18,19に示すように、シェル本体55に対して周方向で回動させることができるように上側筒状部55aおよび下側筒状部55bの間に配設されて両筒状部55a,55bを相互に連結する。また、図19,21,22に示すように、このティートカップ12Eでは、シェル本体55に対して取り付けられた状態の円筒体56の内面に規制用部材52eが取り付けられて、「突出部」の他の一例に相当する一対の潰れ方向規制用突出部44e(以下、「規制用突出部44e」ともいう)が構成される。また、円筒体56には、ミルククロー11から供給される搾乳用(マッサージ用)の真空圧を導入するための(連結用チューブ13を接続するための)真空圧導入用ニップル43が設けられている。ウエイト33は、乳牛の乳房にかかる重量を調整するためのものであって、ティートカップライナー32と共にティートカップシェル31e(シェル本体55)に取り付けられる。
【0064】
このティートカップ12Eの使用に際しては、まず、規制用突出部44e,44eが装着されていない円筒体56を開口部41の側からシェル本体55の周囲(上側筒状部55aおよび下側筒状部55bの間)に装着する。この際には、シェル本体55(上側筒状部55aおよび下側筒状部55b)の外周面と、円筒体56の内周面との間にシール材57をそれぞれ配設することで、シェル本体55と円筒体56との間に生じる隙間を閉塞して外側空間S2を密閉する。次いで、シェル本体55(上側筒状部55a)の開口部41からシェル本体55の内側に規制用突出部44e,44eを挿入し、開口部55hにおいて円筒体56の内面に両規制用突出部44e,44eを押し付ける。続いて、円筒体56に形成されたネジ孔を挿通させた皿ネジによって、両規制用突出部44e,44eを円筒体56の内面にネジ止めする。これにより、ティートカップシェル31eの中心に向かって突出する一対の規制用突出部44e,44eが、ティートカップシェル31eの内面(シェル本体55および円筒体56の内面)に設置される。
【0065】
次いで、シェル本体55の周囲にウエイト33を装着した後に、ティートカップライナー32の送乳部62をティートカップシェル31e(シェル本体55における下側筒状部55b)の開口部42から引き出して開口部42の口縁部を送乳部62の係合用溝部64に係合させると共に、ティートカップシェル31e(シェル本体55における上側筒状部55a)の開口部41に乳頭挿入部61を装着する。この際には、ティートカップライナー32に捩れを生じさせることのないように両アンチツイストマーク65a,65bをティートカップライナー32の長手方向において一致させるように、ティートカップシェル31eにティートカップライナー32を装着する。これにより、ティートカップ12Eの組立てが完了する。なお、ティートカップ12Eの組立て作業に関しては、他の3つのティートカップ12Eに関しても同様に実施する。
【0066】
このティートカップシェル31eでは、図21に示すように、シェル本体55や円筒体56とは別体に形成された一対の規制用部材52eを備えて規制用突出部44eが形成されている。また、本例のティートカップシェル31eでは、ティートカップシェル31eに装着されたティートカップライナー32におけるボア部63を挟んで両規制用突出部44e(規制用部材52e)が対向配置されている。この場合、本例のティートカップシェル31eでは、ティートカップシェル31eの内面(この例では、円筒体56の内面)からの規制用突出部44e(規制用部材52e)の突出高Heが、ティートカップシェル31eに装着した状態のティートカップライナー32におけるボア部63の周囲の外側空間S2(ティートカップシェル31eとティートカップライナー32との間)にミルククロー11からの真空圧が供給された状態(すなわち、「搾乳状態」)において、ボア部63の周面が規制用突出部44e(規制用部材52e)の突端部Tに接する高さに規定されている。
【0067】
より具体的には、一例として、両規制用突出部44eのうちの一方の規制用部材52eの突端部Tと、他方の規制用部材52eの突端部Tとの離間距離Lが、未使用のティートカップライナー32におけるボア部63の直径(一例として、ボア部63の直径の設計値)よりもやや短い距離となるように、両規制用突出部44e(規制用部材52e)の突出高Heが規定されている。これにより、このティートカップシェル31eでは、規制用部材52eを取り付けた状態のティートカップシェル31eにティートカップライナー32を装着することでボア部63がティートカップシェル31e内に収容された状態において、両規制用突出部44e(規制用部材52e)の突端部Tにボア部63の周面が接して、一例として、ボア部63の厚みの5%〜15%の範囲内(一例として、ボア部63の厚みの10%程度)でボア部63が潰されて、僅かに楕円化した状態となるように構成されている。
【0068】
したがって、このティートカップ12Eでは、前述したティートカップ12等と同様にして、「搾乳状態」から「マッサージ状態」に移行させるために外側空間S2への真空圧の供給を停止したときに、ティートカップシェル31e内におけるボア部63の潰れの向きが一定方向に規制される。このため、毎日の搾乳処理を繰り返して実施したときには、ボア部63に楕円化が生じる(軽度な潰れ癖が生じる)ことがある。そこで、このティートカップ12Eでは、ボア部63に軽度の潰れ癖が生じたとき、または、そのような潰れ癖が生じる前に、ティートカップシェル31e(円筒体56に設けられた規制用突出部44e)に対するティートカップライナー32の相対的な回転位置を変更することで、マッサージ状態においてボア部63に潰れを生じさせる向きを変更することができるように構成されている。
【0069】
具体的には、一例として、図21に示す状態で搾乳処理を繰り返し実行することでティートカップライナー32のボア部63に軽度の楕円化が生じたときには、シェル本体55に対して円筒体56を矢印Eの向きに90度回転させる。この際に、このティートカップ12Eでは、下側筒状部55bにおける開口部42の口縁部が係合用溝部64に係合させられ、かつ、上側筒状部55aの開口部41に乳頭挿入部61が装着された状態のティートカップライナー32がシェル本体55に固着した状態(シェル本体55に対するティートカップライナー32の回動が規制された状態)となっている。したがって、このティートカップ12Eでは、シェル本体55に対して円筒体56を回動させることで、円筒体56に設けられた規制用突出部44eに対するティートカップライナー32の相対的な回転位置(ティートカップライナー32に対する規制用突出部44eの回転位置)が変化する。
【0070】
この場合、このティートカップ12Eでは、シェル本体55および円筒体56が光透過性を有する材料(本例では、樹脂材料)で形成されているため、楕円化が生じたボア部63に対する両規制用突出部44e(規制用部材52e)の位置を目視で確認しつつ、シェル本体55に対して円筒体56を回動させることができる。また、図21に破線で示すように、円筒体56を回動させる前のティートカップ12Eにおけるティートカップライナー32のボア部63に軽度の楕円化が生じていたとしても、図22に示すように、円筒体56を回動させた後のティートカップ12Eでは、楕円化が生じていたボア部63の長軸方向の周面がティートカップシェル31e内の規制用突出部44e(規制用部材52e)における突端部Tに接した状態となる。したがって、円筒体56を回動させた後のティートカップ12Eでは、円筒体56を回動させる前のティートカップ12Eにおいてティートカップライナー32のボア部63に生じていた楕円化が矯正される。
【0071】
また、円筒体56を回動させた後のティートカップ12Eを使用して搾乳処理を実施する際には、「搾乳状態」から「マッサージ状態」に移行させるために外側空間S2への真空圧の供給を停止したときにボア部63に生じる潰れの向きが、円筒体56を回動させる前の状態における長軸方向での潰れが生じるように規制される。したがって、円筒体56を回動させた後のティートカップ12Eにおいては、円筒体56を回動させる前の状態のティートカップ12Eとは相違する向きでボア部63に潰れ癖が生じることとなる。このため、このティートカップ12Eでは、ボア部63に軽度の潰れ癖が生じたとき、または、そのような潰れ癖が生じる前に、ティートカップライナー32に対して円筒体56を回動させて、規制用突出部4e(規制用部材52e)に対するティートカップライナー32の相対的な回転位置を変更することで、長軸方向に沿った径と短軸方向に沿った径との差が過剰に大きな楕円化がボア部63に生じる事態が回避される。
【0072】
このように、このティートカップ12Eによれば、上側筒状部55aおよび下側筒状部55bの間に配設した円筒体56の内面に規制用突出部44e(規制用部材52e)を設けて、両筒状部55a,55bに対して周方向で円筒体56を回動させることでティートカップライナー32に対する規制用突出部44e(規制用部材52e)の位置を変更することにより、規制用突出部44e(規制用部材52e)の突端部Tに周面が接している向きへのボア部63の拡径が規制されるため、搾乳状態からマッサージ状態に移行させるときにボア部63に潰れを生じさせる向きを、規制用突出部44e(規制用部材52e)に向かって拡径する向き以外の向きに制限することができる。したがって、このティートカップ12Eによれば、ティートカップライナー32が固着されているシェル本体55に対する円筒体56(規制用突出部44e)の相対的な回転位置を定期的に変更することで、搾乳状態からマッサージ状態に移行させるときにボア部63に潰れを生じさせる向きを変更することができるため、一定方向に大きな潰れ癖が生じるのを好適に回避することができる結果、ティートカップライナー32の耐用寿命を十分に長くすることができると共に高品質のミルクを短時間で搾乳し得る状態を低コストで維持することができる。また、このティートカップ12Eによれば、ティートカップシェル31eからティートカップライナー32を取り外すことなく、ボア部63に対する規制用突出部44e(規制用部材52e)の回転位置を変更することができるため、ティートカップライナー32のボア部63に生じる潰れの向きを容易に変更することができる。さらに、このティートカップ12Eによれば、光透過性を有する材料でシェル本体55および円筒体56を形成したことにより、ティートカップライナー32に対する規制用突出部44e(規制用部材52e)の位置を目視で確認しながら円筒体56を回動させることができるため、ボア部63に潰れを生じさせる向きを確実に所望の向きに変更することができる。
【0073】
また、「ティートカップシェル」の内面に「突出部」を1つだけ設ける構成を採用することもできる。さらに、ボア部63に生じる潰れの向きを変更する際に、「ティートカップシェル(突出部)」に対する「ティートカップライナー(ボア部)」の相対的な回転位置を変更する角度は、90度以外の任意の角度とすることができる。
【符号の説明】
【0074】
1 搾乳システム
5 ティートカップユニット
11 ミルククロー
12,12A〜12E ティートカップ
31,31c〜31e ティートカップシェル
32 ティートカップライナー
41,42 開口部
44,44a〜44e 潰れ方向規制用突出部
45a,45b 位置合わせ用マーク
51 係合用凸部
52,52a〜52c,52e 規制用部材
55 シェル本体
55a 上側筒状部
55b 下側筒状部
55c 支持部
55h 開口部
55r 鍔部
56 円筒体
57 シール材
61 乳頭挿入部
62 送乳部
63 ボア部
65a,65b アンチツイストマーク
L 離間距離
H,He 突出高
S1 内側空間
S2 外側空間
T 突端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ティートカップライナーと、当該ティートカップライナーにおけるボア部を収容可能に円筒状に形成されたティートカップシェルとを備えて、前記ボア部が収容されるように前記ティートカップライナーが前記ティートカップシェルに装着されたティートカップであって、
前記ティートカップシェルの中心に向かって突出する少なくとも1つの突出部が当該ティートカップシェルの内面における前記ボア部との対向部位に設けられ、
前記突出部は、少なくとも前記ティートカップシェルと前記ティートカップライナーとの間に真空圧が供給されたときに当該ティートカップライナーの周面が当該突出部の突端部に接する突出高に規定されているティートカップ。
【請求項2】
前記突出部を一対備え、当該一対の突出部は、前記ティートカップシェルの内面に前記ティートカップライナーを挟んで対向配置されている請求項1記載のティートカップ。
【請求項3】
前記ティートカップシェルに対する前記ティートカップライナーの相対的な回転位置を特定可能な位置合わせ用マークが前記ティートカップシェルおよび前記ティートカップライナーに設けられている請求項1または2記載のティートカップ。
【請求項4】
前記突出部は、前記ティートカップシェルとは別体に形成されると共に、当該ティートカップシェルに設けられた取付部に取り外し可能に取り付けられている請求項1から3のいずれかに記載のティートカップ。
【請求項5】
前記ティートカップシェルは、前記ティートカップライナーの乳頭挿入部を装着する上側筒状部と、前記ティートカップライナーの送乳部を引き出す引出し孔が設けられた下側筒状部と、前記上側筒状部および前記下側筒状部の間に配設されて当該上側筒状部および当該下側筒状部を連結する連結部とを備えて構成され、
前記連結部は、内面に前記突出部が設けられると共に、前記上側筒状部および前記下側筒状部に対して周方向で回動可能に構成されている請求項1から4のいずれかに記載のティートカップ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate

【図24】
image rotate

【図25】
image rotate


【公開番号】特開2013−66448(P2013−66448A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−208919(P2011−208919)
【出願日】平成23年9月26日(2011.9.26)
【出願人】(000103921)オリオン機械株式会社 (450)