説明

テニスボール用フェルトおよびテニスボール

【課題】テニスボールの成形時にシワが生じにくいテニスボール用フェルトを提供する。
【解決手段】テニスボールのコア10に被覆されるフェルト12であって、不織布により形成され、かつ、カンチレバー法で測定した剛軟度の値が15cm以下であるフェルトとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テニスボールの外皮(メルトン)に使用されるフェルトおよびそれを用いたテニスボールに関し、さらに詳述すると、テニスボールの成形時にシワが生じにくいテニスボール用フェルトおよびテニスボールに関する。
【背景技術】
【0002】
テニスボールとして、図1に示すように、コア10と、コアに被覆されたフェルト12とを有するものが使用されている。通常、コアはゴムにより球形に成形され、また、フェルトは略瓢箪型に形成され、2枚のフェルトがコアにゴム系接着剤により接着される。なお、図1において、14は2枚のフェルト間の上記ゴム系接着剤が露出した目地を示す。
【0003】
上述したテニスボール用フェルトとしては、ウーブンフェルト(織りフェルト)またはニードルフェルトが使用される(特許文献1参照)。ウーブンフェルトは、織布の表面を毛羽立てたもので、原料生地に起毛加工および縮絨加工を行うことにより作製される。ニードルフェルトは、不織布の表面を毛羽立てたもので、原料生地にニードル加工を行うことにより作製される。
【0004】
外皮にウーブンフェルトを用いたテニスボール(以下、「ウーブンフェルトボール」という)は、外皮にニードルフェルトを用いたテニスボール(以下、「ニードルフェルトボール」という)に比べて性能面で優れているが、フェルトが毛羽立ちやすく、摩耗しやすいため、主に試合用に使用される。一方、ニードルフェルトボールは、フェルトが毛羽立ちにくく、摩耗しにくいため、性能面ではウーブンフェルトボールに劣るが、安価であるため、主に練習用に使用される。
【0005】
一方、テニスコートの種類としては、赤土からなるアンツーカーコート、砂入り人工芝からなるオムニコート、土からなるクレイコート、コンクリートにゴム加工を施したハードコート、絨毯状の材質からなるカーペットコート(室内用)、天然芝からなるグラスコート等がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−154037号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述した各々のコートのうち、テニスボールのフェルトが毛羽立ちやすく、そのためフェルトの耐久性が高いボールを使うことが好ましいコートが存在する。例えば、カーペットコートである。したがって、そのようなコートでは、前述したニードルフェルトボールを使用することが好ましい。しかし、ニードルフェルトボールを成形する場合、特にフェルトの周縁部分(目地の近傍)にシワが生じやすいという問題があった。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、テニスボールの成形時にシワが生じにくいテニスボール用フェルトおよびそれを用いたテニスボールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、前記目的を達成するため、テニスボールのコアに被覆されるフェルトであって、不織布により形成され、かつ、カンチレバー法で測定した剛軟度の値が15cm以下であることを特徴とするテニスボール用フェルトを提供する。
【0010】
また、本発明は、前記目的を達成するため、コアと、前記コアに被覆されたフェルトとを有するテニスボールであって、前記フェルトは、不織布により形成され、かつ、カンチレバー法で測定した剛軟度の値が15cm以下であることを特徴とするテニスボールを提供する。
【0011】
本発明において、カンチレバー法とは、JIS−L−1096剛軟性A法に規定された織物の剛軟性評価方法をいう。このカンチレバー法は、下記手順(ア)〜(エ)で試験片の剛軟度を測定する(図2参照)。カンチレバー法で測定した剛軟度の値が小さいほど試料が軟らかいことを示す。
(ア)縦15cm×横2cmの試験片20を用意する。
(イ)図2(a)に示すように、一端側に45°の斜面22をもつ表面の滑らかな水平台24の上に試験片20を置く。このとき、試験片20の一端側短辺26を水平台24の斜面22側の一端に合わせ、試験片20の他端側短辺28の位置をスケールで読み取る。
(ウ)試験片20を斜面22の方向に緩やかに滑らせ、図2(b)に示すように、試験片20の一端側短辺26の横方向中央が斜面22に接したときに、試験片20の他端側短辺28の位置をスケールで読み取る。
(エ)上記のように試験片20の一端側短辺26が斜面22に接したときの試験片20の他端側短辺28の移動距離Lを、試験片20の剛軟度(単位:cm)として表す。
【0012】
本発明のテニスボール用フェルトおよびテニスボールは、カンチレバー法で測定したフェルトの剛軟度の値が15cm以下であるため、フェルトが柔軟性を有し、そのためテニスボールの成形時にフェルトにシワが生じにくくなると考えられる。
【0013】
本発明において、カンチレバー法で測定したフェルトの剛軟度の値が15cmを超えると、つまり、試験片20の一端側短辺26が斜面22に接しないまま移動距離Lが15cmに達すると、フェルトが硬くなりすぎ、テニスボールの成形時にフェルトにシワが生じやすくなる。上記剛軟度のより好ましい値は、テニスボールの成形時にフェルトにシワがより生じにくくなる点で、7.0〜15cm、特に12.5〜14.4cmである。
【発明の効果】
【0014】
本発明のテニスボール用フェルトおよびテニスボールは、テニスボールの成形時にフェルトにシワが生じにくい。つまり、本発明によれば、美観に優れたボールを得ることができるとともに、フェルトにシワが生じていることによる不規則なボールの跳ねを効果的に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】テニスボールの一例を示す一部断面正面図である。
【図2】カンチレバー法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明につきさらに詳しく説明する。本発明において、フェルトを形成する不織布の繊維の材質に限定はないが、羊毛、ナイロン系繊維、ポリエステル系繊維、アクリル系繊維およびレーヨン系繊維から選ばれる1種単独または2種以上の混合物を挙げることができる。
【0017】
本発明では、フェルトを形成する繊維を繊維用柔軟剤で処理し、繊維に柔軟仕上げ処理を施すことにより、フェルトの剛軟度を前述した値とすることができる。繊維用柔軟剤は、繊維に柔軟性を与えるものであり、繊維の材質に応じて適切なものを選択する。
【0018】
繊維用柔軟剤の主成分としては、例えば、ポリアミド型カチオン界面活性剤、第4級アンモニウム塩型カチオン界面活性剤、非イオン・カチオン界面活性剤等のカチオン界面活性剤、エステル型非イオン・アニオン界面活性剤、非イオン・アニオン界面活性剤、高級アルコール系アニオン界面活性剤、ワックス・非イオン・アニオン界面活性剤、ワックス・非イオン・弱アニオン界面活性剤等のアニオン界面活性剤、多価アルコール系非イオン界面活性剤、多価アルコールエステル型非イオン界面活性剤、ポリエーテル型非イオン界面活性剤、ワックス・非イオン界面活性剤、ワックス・弱カチオン・非イオン界面活性剤等の非イオン界面活性剤、シリコーンオイル、変性シリコーンオイルなどが挙げられる。
【0019】
繊維用柔軟剤の主成分として特に好ましいのは、ポリアミド型カチオン界面活性剤であり、これを用いることにより、弾力性のあるソフトな風合いを繊維に付与することができるとともに、色相変化、変色堅牢の低下が少ない繊維を得ることができるといった効果が得られる。
【0020】
繊維用柔軟剤による処理方法としては、例えば、水で薄めた繊維用柔軟剤にフェルトの原料繊維あるいはフェルトを浸漬する方法などが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0021】
本発明のテニスボール用フェルトを作製する場合、予め繊維用柔軟剤により処理した繊維によってフェルトを作製してもよく、フェルトを作製した後、フェルトを繊維用柔軟剤で処理してもよい。
【0022】
本発明のテニスボールは、ニードルフェルトボールに形成することがより好ましい。これにより、フェルトが毛羽立ちやすく、そのためフェルトの耐久性が高いボールを使うことが好ましいコート(例えばカーペットコート)で好適に使用できるテニスボールを得ることができる。
【0023】
上述したニードルフェルトは、例えば、繊維を混合して得られた原料生地にニードルパンチ装置によって針を突き刺すニードル処理を行うことにより、表面が毛羽立った不織布であるニードルフェルトを作製することができる。
【0024】
また、上述したニードルフェルトは、単層構造としてもよく、多層構造としてもよい。多層構造のニードルフェルトとしては、例えば、ポリエステル系繊維あるいはアクリル系繊維からなる下地層にナイロン系繊維あるいはウールとナイロンの混合繊維からなるフェルト層を積層したものが挙げられる。なお、このような多層構造のニードルフェルトを繊維用柔軟剤で処理する場合、全ての層の繊維に柔軟性を与えることができるように繊維用柔軟剤の主成分を選択すればよい。
【実施例】
【0025】
下記試料A1〜A10、B1〜B10、C1〜C4、D1〜D4のフェルトの剛軟度をカンチレバー法で測定した。この場合、前述した手順(ア)〜(エ)によって測定を行った。また、試料の厚みおよび剛軟度は、各試料から5枚の試験片を作製し、これらの平均値で表した。また、繊維用柔軟剤による処理は、フェルトを水で薄めた繊維用柔軟剤に浸漬した後、乾燥させることにより行った。繊維用柔軟剤の主成分は、ポリアミド型カチオン界面活性剤とした。裏糊ありのフェルトとは、フェルトの裏面に、フェルトをコアに接着するためのゴム系接着剤を予め塗布したものであり、裏糊なしのフェルトとは、フェルトの裏面に、上記接着剤を塗布していないものである。また、試料方向が縦方向の試料とは、試料の縦方向を長辺方向にして切り出した試験片であり、試料方向が横方向の試料とは、試料の横方向を長辺方向にして切り出した試験片である。結果を表1〜表4に示す。
【0026】
[試料]
・A1:ニードルフェルトA(柔軟剤処理なし・裏糊なし・縦方向)。
・A2:ニードルフェルトA(柔軟剤処理なし・裏糊なし・横方向)。
・A3:ニードルフェルトA(柔軟剤処理なし・裏糊あり・縦方向)。
・A4:ニードルフェルトA(柔軟剤処理なし・裏糊あり・横方向)。
・A5:ニードルフェルトA(柔軟剤処理あり・裏糊なし・縦方向)。
・A6:ニードルフェルトA(柔軟剤処理あり・裏糊なし・横方向)。
・A7:ニードルフェルトA(柔軟剤処理あり・裏糊あり・縦方向)。
・A8:ニードルフェルトA(柔軟剤処理あり・裏糊あり・横方向)。
・A9:ニードルフェルトA(柔軟剤処理あり・裏糊あり・縦方向)。
・A10:ニードルフェルトA(柔軟剤処理あり・裏糊あり・横方向)。
・B1:ニードルフェルトB(柔軟剤処理なし・裏糊なし・縦方向)。
・B2:ニードルフェルトB(柔軟剤処理なし・裏糊なし・横方向)。
・B3:ニードルフェルトB(柔軟剤処理なし・裏糊あり・縦方向)。
・B4:ニードルフェルトB(柔軟剤処理なし・裏糊あり・横方向)。
・B5:ニードルフェルトB(柔軟剤処理あり・裏糊なし・縦方向)。
・B6:ニードルフェルトB(柔軟剤処理あり・裏糊なし・横方向)。
・B7:ニードルフェルトB(柔軟剤処理あり・裏糊あり・縦方向)。
・B8:ニードルフェルトB(柔軟剤処理あり・裏糊あり・横方向)。
・B9:ニードルフェルトB(柔軟剤処理あり・裏糊あり・縦方向)。
・B10:ニードルフェルトB(柔軟剤処理あり・裏糊あり・横方向)。
・C1:ウーブンフェルトC(柔軟剤処理なし・裏糊なし・縦方向)。
・C2:ウーブンフェルトC(柔軟剤処理なし・裏糊なし・横方向)。
・C3:ウーブンフェルトC(柔軟剤処理なし・裏糊あり・縦方向)。
・C4:ウーブンフェルトC(柔軟剤処理なし・裏糊あり・横方向)。
・D1:ウーブンフェルトD(柔軟剤処理なし・裏糊なし・縦方向)。
・D2:ウーブンフェルトD(柔軟剤処理なし・裏糊なし・横方向)。
・D3:ウーブンフェルトD(柔軟剤処理なし・裏糊あり・縦方向)。
・D4:ウーブンフェルトD(柔軟剤処理なし・裏糊あり・横方向)。
【0027】
[フェルト]
・ニードルフェルトA:材質はウールとナイロンの混合で、下地はポリエステル。
・ニードルフェルトB:材質はウールとナイロンの混合で、下地はポリエステル。
・ウーブンフェルトC:材質はウールとナイロンの混合で、下地は綿。
・ウーブンフェルトD:材質はウールとナイロンの混合で、下地は綿。
【0028】
【表1】

【0029】
【表2】

【0030】
【表3】

【0031】
【表4】

【0032】
表1〜表4より、下記のことがわかる。
(a)同一試料の場合、繊維用柔軟剤により処理されたフェルトは、繊維用柔軟剤により処理されていないフェルトよりも軟らかい。
(b)ウーブンフェルトは織布であるため、試料方向によって剛軟度が異なるが、ニードルフェルトは不織布であるため、試料方向によって剛軟度の差異はない。
(c)ウーブンフェルトは試料方向によって剛軟度が異なるため、C3、D3のフェルトでは剛軟度は測定不能であったが、横方向の柔軟性によってフェルトにシワは生じない。
(d)フェルトの厚みの差異による、フェルトの剛軟性の差異は見られない。
【0033】
次に、下記の手順で図1に示したテニスボールを作製した。
(1)試料A1〜A10、B1〜B10、C1〜C4、D1〜D4のフェルトを略瓢箪型に打ち抜いた。
(2)架橋ゴムからなる球形コアの外周に上述した2枚のフェルトをゴム系接着剤により接着し、テニスボールを作製した。
【0034】
その結果、剛軟度の値が15cm以下のフェルトは、テニスボールの作製時にシワが生じなかった。これに対し、剛軟度の値が15cmを超えるフェルトは、テニスボールの作製時にフェルトにシワが生じるものであった。
【符号の説明】
【0035】
10 コア
12 フェルト
14 目地
20 試験片
22 斜面
24 水平台
26 試験片の一端側短辺
28 試験片の他端側短辺
L 移動距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テニスボールのコアに被覆されるフェルトであって、不織布により形成され、かつ、カンチレバー法で測定した剛軟度の値が15cm以下であることを特徴とするテニスボール用フェルト。
【請求項2】
前記フェルトは、ニードルフェルトであることを特徴とする請求項1に記載のテニスボール用フェルト。
【請求項3】
前記フェルトを形成する繊維は、繊維用柔軟剤により処理されていることを特徴とする請求項1または2に記載のテニスボール用フェルト。
【請求項4】
前記柔軟剤の主成分は、ポリアミド型カチオン界面活性剤であることを特徴とする請求項3に記載のテニスボール用フェルト。
【請求項5】
コアと、前記コアに被覆されたフェルトとを有するテニスボールであって、前記フェルトは、不織布により形成され、かつ、カンチレバー法で測定した剛軟度の値が15cm以下であることを特徴とするテニスボール。
【請求項6】
前記フェルトは、ニードルフェルトであることを特徴とする請求項5に記載のテニスボール。
【請求項7】
前記フェルトを形成する繊維は、繊維用柔軟剤により処理されていることを特徴とする請求項5または6に記載のテニスボール。
【請求項8】
前記柔軟剤の主成分は、ポリアミド型カチオン界面活性剤であることを特徴とする請求項7に記載のテニスボール。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−177368(P2011−177368A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−45114(P2010−45114)
【出願日】平成22年3月2日(2010.3.2)
【出願人】(592014104)ブリヂストンスポーツ株式会社 (652)