説明

テニスボール

【課題】ボールのバウンドが大きく、かつ、ボール使用時におけるバウンドの経時的劣化が小さいテニスボールを提供する。
【解決手段】コア10と、コアに被覆されたフェルト12とを有するテニスボールであって、コアは、コア成形時にコアの内部に薬品を入れ、この薬品の化学反応によりガスを発生させることで、内圧を大気圧より0.85〜1.00kg/cm高くしたものであり、フェルトは、不織布により形成されているテニスボールとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コアと、コアに外皮(メルトン)として被覆されたフェルトとを有するテニスボールに関し、さらに詳述すると、コアの内圧を大気圧よりも高くしたテニスボールに関する。
【背景技術】
【0002】
テニスボールとして、図1に示すように、コア10と、コアに被覆されたフェルト12とを有するものが使用されている。通常、コアはゴムにより球形に成形され、また、フェルトは略瓢箪型に形成され、2枚のフェルトがコアにゴム系接着剤により接着される。なお、図1において、14は2枚のフェルト間の上記ゴム系接着剤が露出した目地を示す。
【0003】
テニスボールとしては、ボールの内圧を大気圧の約2倍にして、反発力を付与した加圧ボール(プレッシャーライズドボール)と、ボールの内圧を大気圧とほぼ同じとし、ゴムの厚さを厚くすることで、反発力を付与した非加圧ボール(ノンプレッシャーボール)とがある。
【0004】
加圧ボールの製法としては、コア成形時にコアの内部に薬品(塩化アンモニウム錠剤、亜硝酸ナトリウム錠剤および水)を入れ、薬品の化学反応により窒素ガスを発生させることで、コアの内圧を高める方法(本明細書では、この方法を「ケミカル法」という。例えば、特許文献1、2参照。)と、加圧雰囲気中でコアを成形することで、コアの内圧を高める方法(本明細書では、この方法を「ナチュラル法」という。例えば、特許文献2参照。)とがある。
【0005】
また、前述したテニスボール用フェルトとしては、ウーブンフェルト(織りフェルト)またはニードルフェルトが使用される(特許文献3参照)。ウーブンフェルトは、織布の表面を毛羽立てたもので、原料生地に起毛加工および縮絨加工を行うことにより作製される。ニードルフェルトは、不織布の表面を毛羽立てたもので、原料生地にニードル加工を行うことにより作製される。
【0006】
外皮にウーブンフェルトを用いたテニスボール(本明細書では、このボールを「ウーブンフェルトボール」という)は、外皮にニードルフェルトを用いたテニスボール(本明細書では、このボールを「ニードルフェルトボール」という)に比べて性能面で優れているが、フェルトが毛羽立ちやすく、摩耗しやすいため、主に試合用に使用される。一方、ニードルフェルトボールは、フェルトが毛羽立ちにくく、摩耗しにくいため、性能面ではウーブンフェルトボールに劣るが、安価であるため、主に練習用に使用される。
【0007】
一方、テニスコートの種類としては、赤土からなるアンツーカーコート、砂入り人工芝からなるオムニコート、土からなるクレイコート、コンクリートにゴム加工を施したハードコート、絨毯状の材質からなるカーペットコート(室内用)、天然芝からなるグラスコート等がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−167号公報
【特許文献2】特開2004−194860号公報
【特許文献3】特開2003−154037号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前述した特許文献1には、ケミカル法で製造した加圧ボール(本明細書では、このボールを「ケミカル加圧ボール」という)において、メルトンとしてウーブンフェルトあるいはニードルフェルトを使用する旨の記載がある。
【0010】
しかし、ニードルフェルトを使用したケミカル加圧ボールは、ボールのバウンドが小さいという問題を有していた。テニス規則の規則3では、「ボールのバウンドは、そのボールがコンクリートのような固い平面上に254.00cmの高さから落下したとき、134.62cm以上147.32cm以下でなければならない。」と規定されている。また、ウーブンフェルトを使用したケミカル加圧ボールは、ボール使用時におけるバウンドの経時的劣化が大きいという問題を有していた。
【0011】
一方、前述した各々のコートのうち、テニスボールのフェルトが毛羽立ちやすく、そのためフェルトの耐久性が高いボールを使うことが好ましいコートが存在する。例えば、カーペットコートである。したがって、そのようなコートでは、前述したニードルフェルトボールを使用することが好ましい。しかし、ニードルフェルトボールを成形する場合、特にフェルトの周縁部分(目地の近傍)にシワが生じやすいという問題があった。
【0012】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、ボールのバウンドが大きく、かつ、ボール使用時におけるバウンドの経時的劣化が小さいテニスボールを提供することを第1の目的とする。
【0013】
また、本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、ボールのバウンドが大きく、かつ、ボール使用時におけるバウンドの経時的劣化が小さいとともに、成形時にフェルトにシワが生じにくいテニスボールを提供することを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、前記第1の目的を達成するため、第1発明として、コアと、前記コアに被覆されたフェルトとを有するテニスボールであって、前記コアは、コア成形時にコアの内部に薬品を入れ、前記薬品の化学反応によりガスを発生させることで、内圧を大気圧より0.85〜1.00kg/cm高くしたものであり、前記フェルトは、不織布により形成されていることを特徴とするテニスボールを提供する。
【0015】
また、本発明は、前記第2の目的を達成するため、第2発明として、上述した第1発明のテニスボールにおいて、前記フェルトは、カンチレバー法で測定した剛軟度の値が15cm以下であることを特徴とするテニスボールを提供する。
【0016】
前述したケミカル法では、一方のコア形成用ハーフシェルに、塩化アンモニウム錠剤、亜硝酸ナトリウム錠剤および水を投入した状態で、ハーフシェル2個を貼り合わせ、これを加硫するものであり、この加硫時に、上記錠剤および水が加熱され、塩化アンモニウムと亜硝酸ナトリウムとの化学反応によって窒素ガスが発生するが、コア内部には水が残存する。そして、このコア内部の水が原因となって、ニードルフェルトを使用したケミカル加圧ボールは、ボールのバウンドが小さくなると考えられる。
【0017】
また、前述したウーブンフェルトは、材質として伸びやすい綿を使用しているので、ウーブンフェルトボールは、プレー時にフェルトが伸びやすい。したがって、プレー時にフェルトの伸びにともなってコアが大きく撓み、コアが劣化しやすいため、ボール使用時におけるバウンドの経時的劣化が大きくなると考えられる。
【0018】
これに対し、第1発明のテニスボールは、コアをケミカル法で成形するが、コアの内圧を大気圧より0.85〜1.00kg/cm高くし、従来のケミカル加圧ボールより内圧を高くしたので、反発性が向上し、そのためボールのバウンドが小さなることがないと考えられる。
【0019】
また、第1発明のテニスボールは、不織布からなるフェルトを使用している。不織布からなるフェルトは、伸びにくい材質であるポリエステル系繊維を使用しているので、プレー時に伸びにくい。したがって、第1発明のテニスボールは、プレー時にコアが大きく撓まず、コアが劣化しにくいため、ボール使用時におけるバウンドの経時的劣化が小さくなると考えられる。しかし、上記フェルトの材質はポリエステル系繊維に限定されず、伸びにくい材質であれば何でもよい。
【0020】
また、第2発明のテニスボールは、カンチレバー法で測定したフェルトの剛軟度の値が15cm以下であるため、フェルトが柔軟性を有し、そのためテニスボールの成形時にフェルトにシワが生じにくくなると考えられる。
【発明の効果】
【0021】
第1発明のテニスボールは、ボールのバウンドが大きく、かつ、ボール使用時におけるバウンドの経時的劣化が小さい。
【0022】
第2発明のテニスボールは、ボールのバウンドが大きく、かつ、ボール使用時におけるバウンドの経時的劣化が小さいとともに、テニスボールの成形時にフェルトにシワが生じにくい。つまり、第2発明によれば、美観に優れたボールを得ることができるとともに、フェルトシワが生じていることによる不規則なボールの跳ねを効果的に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】テニスボールの一例を示す一部断面正面図である。
【図2】カンチレバー法の説明図である。
【図3】実施例1において、ボール打撃機によりテニスボールをコンクリート壁に打ち付けたときのボール硬度の経時変化を示すグラフである。
【図4】実施例1において、ボール打撃機によりテニスボールをコンクリート壁に打ち付けたときのボールの入射速度と反発力との関係を示すグラフである。
【図5】実施例2において、ボール打撃機によりテニスボールをコンクリート壁に打ち付けたときのボール硬度の経時変化を示すグラフである。
【図6】実施例2において、ボール打撃機によりテニスボールをコンクリート壁に打ち付けたときのボールの入射速度と反発力との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明につきさらに詳しく説明する。第1発明および第2発明において、ケミカル法によるコアの成形は、前述したように、2個のコア形成用ハーフシェルを用意し、一方のコア形成用ハーフシェルに、塩化アンモニウム錠剤、亜硝酸ナトリウム錠剤および水を投入した状態で、ハーフシェル2個を貼り合わせ、これを加硫することにより行う。この加硫時に、上記錠剤および水が加熱され、塩化アンモニウムと亜硝酸ナトリウムとの化学反応によって窒素ガスが発生し、コアの内圧を大気圧より高くなる。
【0025】
第1発明および第2発明のテニスボールは、ボールのバウンドを大きくする点、ボール使用時におけるバウンドの経時的劣化を小さくする点で、コアの内圧を大気圧より0.85〜1.00kg/cm高くする。コアの内圧が大気圧+0.85kg/cm未満であると、ボールが軟らかくなりすぎてボールの弾みが悪くなり、コアの内圧が大気圧+1.00kg/cmを超えると、ボールが硬くなりすぎてプレーヤーがボールをラケットで打った時のボールコントロール性が低下する。
【0026】
第1発明および第2発明のテニスボールは、ボールのバウンドを大きくする点、ボール使用時におけるバウンドの経時的劣化を小さくする点で、コアの肉厚を2.50〜4.50mm、特に3.00〜4.00mmとすることが好ましい。コアの肉厚が2.50mm未満であると、肉厚が薄いためバウンドの経時的劣化が大きくなって、ボールが弾まなくなることがあり、4.50mmを超えると、肉厚が厚いためバウンドの経時的劣化は少ないが、ボールの反発が低下することがある。
【0027】
第1発明および第2発明のテニスボールは、ボールのバウンドを大きくする点、ボール使用時におけるバウンドの経時的劣化を小さくする点で、硬度を0.200〜0.291inch、特に0.200〜0.280inchとすることが好ましい。硬度が0.200inch未満であると、ボールが硬くなって弾みすぎるため、バウンドが大きくなることがあり、0.291inchを超えると、ボールが軟らかくなって潰れすぎるため、バウンドが小さくなることがある。硬度の定義および測定法は、後述する実施例で述べるとおりである。
【0028】
第2発明において、カンチレバー法とは、JIS−L−1096剛軟性A法に規定された織物の剛軟性評価方法をいう。このカンチレバー法は、下記手順(ア)〜(エ)で試験片の剛軟度を測定する(図2参照)。カンチレバー法で測定した剛軟度の値が小さいほど試料が軟らかいことを示す。
(ア)縦15cm×横2cmの試験片20を用意する。
(イ)図2(a)に示すように、一端側に45°の斜面22をもつ表面の滑らかな水平台24の上に試験片20を置く。このとき、試験片20の一端側短辺26を水平台24の斜面22側の一端に合わせ、試験片20の他端側短辺28の位置をスケールで読み取る。
(ウ)試験片20を斜面22の方向に緩やかに滑らせ、図2(b)に示すように、試験片20の一端側短辺26の横方向中央が斜面22に接したときに、試験片20の他端側短辺28の位置をスケールで読み取る。
(エ)上記のように試験片20の一端側短辺26が斜面22に接したときの試験片20の他端側短辺28の移動距離Lを、試験片20の剛軟度(単位:cm)として表す。
【0029】
第2発明において、カンチレバー法で測定したフェルトの剛軟度の値が15cmを超えると、つまり、試験片20の一端側短辺26が斜面22に接しないまま移動距離Lが15cmに達すると、フェルトが硬くなりすぎ、テニスボールの成形時にフェルトにシワが生じやすくなる。上記剛軟度のより好ましい値は、テニスボールの成形時にフェルトにシワがより生じにくくなる点で、7.0〜15cm、特に12.5〜14.4cmである。
【0030】
第1発明および第2発明において、フェルトを形成する不織布の材質としては、ポリエステル系繊維を好適に用いることができる。ポリエステル系繊維で形成したフェルトは、前述したように、プレー時に伸びにくいからである。
【0031】
第2発明では、フェルトを形成する繊維を繊維用柔軟剤で処理し、繊維に柔軟仕上げ処理を施すことにより、カンチレバー法で測定したフェルトの剛軟度を前述した値とすることができる。繊維用柔軟剤は、繊維に柔軟性を与えるものであり、繊維の材質に応じて適切なものを選択する。
【0032】
繊維用柔軟剤の主成分としては、例えば、ポリアミド型カチオン界面活性剤、第4級アンモニウム塩型カチオン界面活性剤、非イオン・カチオン界面活性剤等のカチオン界面活性剤、エステル型非イオン・アニオン界面活性剤、非イオン・アニオン界面活性剤、高級アルコール系アニオン界面活性剤、ワックス・非イオン・アニオン界面活性剤、ワックス・非イオン・弱アニオン界面活性剤等のアニオン界面活性剤、多価アルコール系非イオン界面活性剤、多価アルコールエステル型非イオン界面活性剤、ポリエーテル型非イオン界面活性剤、ワックス・非イオン界面活性剤、ワックス・弱カチオン・非イオン界面活性剤等の非イオン界面活性剤、シリコーンオイル、変性シリコーンオイルなどが挙げられる。
【0033】
繊維用柔軟剤の主成分として特に好ましいのは、ポリアミド型カチオン界面活性剤であり、これを用いることにより、弾力性のあるソフトな風合いを繊維に付与することができるとともに、色相変化、変色堅牢の低下が少ない繊維を得ることができるといった効果が得られる。ポリアミド型カチオン界面活性剤は、ポリエステル系繊維に使用した場合に、上記効果を特に有効に得ることができる。
【0034】
繊維用柔軟剤による処理方法としては、例えば、水で薄めた繊維用柔軟剤にフェルトの原料繊維あるいはフェルトを浸漬する方法などが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0035】
第2発明のテニスボールのフェルトを作製する場合、予め繊維用柔軟剤により処理した繊維によってフェルトを作製してもよく、フェルトを作製した後、フェルトを繊維用柔軟剤で処理してもよい。
【0036】
第1発明および第2発明のテニスボールは、ニードルフェルトボールに形成することがより好ましい。これにより、フェルトが毛羽立ちやすく、そのためフェルトの耐久性が高いボールを使うことが好ましいコート(例えばカーペットコート)で好適に使用できるテニスボールを得ることができる。
【0037】
上述したニードルフェルトは、例えば、繊維を混合して得られた原料生地にニードルパンチ装置によって針を突き刺すニードル処理を行うことにより、表面が毛羽立った不織布であるニードルフェルトを作製することができる。
【0038】
また、上述したニードルフェルトは、単層構造としてもよく、多層構造としてもよい。多層構造のニードルフェルトとしては、例えば、ポリエステル系繊維あるいはアクリル系繊維からなる下地層に、ポリエステル系繊維からなるフェルト層を積層したものが挙げられる。なお、このような多層構造のニードルフェルトを繊維用柔軟剤で処理する場合、全ての層の繊維に柔軟性を与えることができるように繊維用柔軟剤の主成分を選択すればよい。
【実施例】
【0039】
(実施例1)
(ア)表1に示す諸元を有するテニスボール1〜5を作製した。ニードルフェルトとしては、ポリエステル系繊維からなるものを用いた。表1における硬度、戻り硬度、バウンド、ボール内圧の定義および測定法は下記のとおりである。表1の数値は、ボール12個の平均値である。表1より、フェルトが同じ材質(例えばニードルフェルト)であっても、コアが異なるとボールのバウンドが異なること、具体的には、ニードルフェルトを用いたナチュラル加圧ボールは、ニードルフェルトを用いたケミカル加圧ボールよりも、バウンドが大きくなる傾向があることがわかる。
・ボール1:ナチュラル法で成形したコアにニードルフェルトを接着したもの。
・ボール2:ナチュラル法で成形したコアにニードルフェルトを接着したもの。
・ボール3:ケミカル法で成形したコアにニードルフェルトを接着したもの。
・ボール4:ケミカル法で成形したコアにウーブンフェルトを接着したもの。
・ボール5:ナチュラル法で成形したコアにウーブンフェルトを接着したもの。
・硬度の定義・測定法:ボールに一定荷重(18ポンド=8.165kg)をかけた時のボールの変形量。
・戻り硬度の定義・測定法:ボールに一定荷重(18ポンド=8.165kg)をかけて硬度を測定した後、変形量1inch(2.54cm)まで圧縮し、その後圧縮を解除していった時の18ポンド荷重時の変形量。
・バウンドの定義・測定法:床上1inch(254cm)の高さからコンクリート床上にボールを落下させた時のバウンド量。
・ボール内圧の定義・測定法:内圧測定用の圧力計を用いてボール内圧を測定した圧力量。
【0040】
【表1】

【0041】
(イ)ボール硬度の経時変化
ボール打撃機(バズーカ)によりボール1〜5をコンクリート壁に打ち付けたときのボール硬度の経時変化を調べた。結果を図3に示す。図3の数値は、ボール3個の平均値である。図3より、ニードルフェルトを用いたテニスボール(ボール1〜3)は、ウーブンフェルトを用いたテニスボール(ボール4、5)に比べて、使用時におけるボール硬度の経時的劣化(へたり)が小さく、使用時におけるバウンドの経時的劣化が小さいことがわかる。
【0042】
(ウ)反発
ボール打撃機(バズーカ)によりボール1〜5をコンクリート壁に打ち付けたときのボールの入射速度と反発力との関係を調べた。反発力の測定では、打撃試験機にてそれぞれ設定した入射速度でボールを打ち出し、コンクリート壁に打ち付けた際の入射速度と反射速度から反発力を算出した。結果を図4に示す。図4の数値は、ボール3個の平均値である。図4より、ニードルフェルトを用いたテニスボール(ボール1、2)は、ウーブンフェルトを用いたテニスボール(ボール4、5)に比べて、ボールの反発力が大きく、ボールのバウンドが大きいことがわかる。
【0043】
(実施例2)
(エ)表2に示す諸元を有するテニスボール6〜11(いずれもニードルフェルトを用いたケミカル加圧ボール)を作製した。ニードルフェルトとしては、ポリエステル系繊維からなるものを用いた。表2における硬度、戻り硬度、バウンド、ボール内圧の定義および測定法は実施例1と同様である。表2の数値は、ボール12個の平均値である。また、本実施例では、下記の実打テストを行った。表2より、コア内圧が本発明の範囲未満であると、ボールが軟らかくなりすぎてボールの弾みが悪くなり、コアの内圧が本発明の範囲を超えると、ボールが硬くなりすぎてプレーヤーがボールをラケットで打った時のボールコントロール性が低下することがわかる。
・実打テスト:5名のプレーヤーにボール6〜11を用いてテニスをしてもらい、ボールを打撃したときの感覚を調べた。評価基準は下記のとおりである。
○ :ボールの硬さがちょうど良く、ボールの弾みがちょうど良い感じがする。
×1:ボールが軟らかく、ボールの弾みが悪い感じがする。
×2:ボールが硬く、ボールのコントロール性が悪い感じがする。
【0044】
【表2】

【0045】
(オ)ボール硬度の経時変化
ボール打撃機(バズーカ)により、ボール7、9、11をコンクリート壁に打ち付けたときのボール硬度の経時変化を調べた。すなわち、コア内圧が本発明範囲未満のボールからボール7を選択し、コア内圧が本発明範囲内のボールからボール9を選択し、コア内圧が本発明範囲超のボールからボール11を選択して、試験を行った。結果を図5に示す。図5の数値は、ボール3個の平均値である。図5より、コア内圧が本発明範囲内のボール9は、コア内圧が本発明範囲未満のボール7に比べて、使用時におけるボール硬度の経時的劣化(へたり)が小さく、使用時におけるバウンドの経時的劣化が小さいことがわかる。また、コア内圧が本発明範囲内のボール9は、コア内圧が本発明範囲超のボール11と使用時におけるボール硬度の経時的劣化がほぼ同等であることがわかる。
【0046】
(カ)反発
ボール打撃機(バズーカ)によりボール7、9、11をコンクリート壁に打ち付けたときのボールの入射速度と反発力との関係を実施例1と同様にして調べた。結果を図6に示す。図6の数値は、ボール3個の平均値である。図6より、コア内圧が本発明範囲内のボール9は、ボールの反発力が、コア内圧が本発明範囲未満のボール7と本発明範囲超のボール11との中間程度であり、ボールのバウンドがちょうど良いことがわかる。
【0047】
(実施例3)
下記試料A1〜A10、B1〜B10、C1〜C4、D1〜D4のフェルトの剛軟度をカンチレバー法で測定した。この場合、前述した手順(ア)〜(エ)によって測定を行った。また、試料の厚みおよび剛軟度は、各試料から5枚の試験片を作製し、これらの平均値で表した。また、繊維用柔軟剤による処理は、フェルトを水で薄めた繊維用柔軟剤に浸漬した後、乾燥させることにより行った。繊維用柔軟剤の主成分は、ポリアミド型カチオン界面活性剤とした。裏糊ありのフェルトとは、フェルトの裏面に、フェルトをコアに接着するためのゴム系接着剤を予め塗布したものであり、裏糊なしのフェルトとは、フェルトの裏面に、上記接着剤を塗布していないものである。また、試料方向が縦方向の試料とは、試料の縦方向を長辺方向にして切り出した試験片であり、試料方向が横方向の試料とは、試料の横方向を長辺方向にして切り出した試験片である。結果を表3〜表6に示す。
【0048】
[試料]
・A1:ニードルフェルトA(柔軟剤処理なし・裏糊なし・縦方向)。
・A2:ニードルフェルトA(柔軟剤処理なし・裏糊なし・横方向)。
・A3:ニードルフェルトA(柔軟剤処理なし・裏糊あり・縦方向)。
・A4:ニードルフェルトA(柔軟剤処理なし・裏糊あり・横方向)。
・A5:ニードルフェルトA(柔軟剤処理あり・裏糊なし・縦方向)。
・A6:ニードルフェルトA(柔軟剤処理あり・裏糊なし・横方向)。
・A7:ニードルフェルトA(柔軟剤処理あり・裏糊あり・縦方向)。
・A8:ニードルフェルトA(柔軟剤処理あり・裏糊あり・横方向)。
・A9:ニードルフェルトA(柔軟剤処理あり・裏糊あり・縦方向)。
・A10:ニードルフェルトA(柔軟剤処理あり・裏糊あり・横方向)。
・B1:ニードルフェルトB(柔軟剤処理なし・裏糊なし・縦方向)。
・B2:ニードルフェルトB(柔軟剤処理なし・裏糊なし・横方向)。
・B3:ニードルフェルトB(柔軟剤処理なし・裏糊あり・縦方向)。
・B4:ニードルフェルトB(柔軟剤処理なし・裏糊あり・横方向)。
・B5:ニードルフェルトB(柔軟剤処理あり・裏糊なし・縦方向)。
・B6:ニードルフェルトB(柔軟剤処理あり・裏糊なし・横方向)。
・B7:ニードルフェルトB(柔軟剤処理あり・裏糊あり・縦方向)。
・B8:ニードルフェルトB(柔軟剤処理あり・裏糊あり・横方向)。
・B9:ニードルフェルトB(柔軟剤処理あり・裏糊あり・縦方向)。
・B10:ニードルフェルトB(柔軟剤処理あり・裏糊あり・横方向)。
・C1:ウーブンフェルトC(柔軟剤処理なし・裏糊なし・縦方向)。
・C2:ウーブンフェルトC(柔軟剤処理なし・裏糊なし・横方向)。
・C3:ウーブンフェルトC(柔軟剤処理なし・裏糊あり・縦方向)。
・C4:ウーブンフェルトC(柔軟剤処理なし・裏糊あり・横方向)。
・D1:ウーブンフェルトD(柔軟剤処理なし・裏糊なし・縦方向)。
・D2:ウーブンフェルトD(柔軟剤処理なし・裏糊なし・横方向)。
・D3:ウーブンフェルトD(柔軟剤処理なし・裏糊あり・縦方向)。
・D4:ウーブンフェルトD(柔軟剤処理なし・裏糊あり・横方向)。
【0049】
[フェルト]
・ニードルフェルトA:材質はウールとナイロンの混合で、下地はポリエステル。
・ニードルフェルトB:材質はウールとナイロンの混合で、下地はポリエステル。
・ウーブンフェルトC:材質はウールとナイロンの混合で、下地は綿。
・ウーブンフェルトD:材質はウールとナイロンの混合で、下地は綿。
【0050】
【表3】

【0051】
【表4】

【0052】
【表5】

【0053】
【表6】

【0054】
表3〜表6より、下記のことがわかる。
(a)同一試料の場合、繊維用柔軟剤により処理されたフェルトは、繊維用柔軟剤により処理されていないフェルトよりも軟らかい。
(b)ウーブンフェルトは織布であるため、試料方向によって剛軟度が異なるが、ニードルフェルトは不織布であるため、試料方向によって剛軟度の差異はない。
(c)ウーブンフェルトは試料方向によって剛軟度が異なるため、C3、D3のフェルトでは剛軟度は測定不能であったが、横方向の柔軟性によってフェルトにシワは生じない。
(d)フェルトの厚みの差異による、フェルトの剛軟性の差異は見られない。
【0055】
次に、下記の手順で図1に示したテニスボールを作製した。
(1)試料A1〜A10、B1〜B10、C1〜C4、D1〜D4のフェルトを略瓢箪型に打ち抜いた。
(2)架橋ゴムからなる球形コアの外周に上述した2枚のフェルトをゴム系接着剤により接着し、テニスボールを作製した。
【0056】
その結果、剛軟度の値が15cm以下のフェルトは、テニスボールの作製時にシワが生じなかった。これに対し、剛軟度の値が15cmを超えるフェルトは、テニスボールの作製時にフェルトにシワが生じるものであった。
【符号の説明】
【0057】
10 コア
12 フェルト
14 目地
20 試験片
22 斜面
24 水平台
26 試験片の一端側短辺
28 試験片の他端側短辺
L 移動距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアと、前記コアに被覆されたフェルトとを有するテニスボールであって、前記コアは、コア成形時にコアの内部に薬品を入れ、前記薬品の化学反応によりガスを発生させることで、内圧を大気圧より0.85〜1.00kg/cm高くしたものであり、前記フェルトは、不織布により形成されていることを特徴とするテニスボール。
【請求項2】
前記フェルトは、ニードルフェルトであることを特徴とする請求項1に記載のテニスボール。
【請求項3】
前記フェルトの材質は、ポリエステル系繊維であることを特徴とする請求項1または2に記載のテニスボール。
【請求項4】
前記フェルトは、カンチレバー法で測定した剛軟度の値が15cm以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のテニスボール。
【請求項5】
前記フェルトを形成する繊維は、繊維用柔軟剤により処理されていることを特徴とする請求項4に記載のテニスボール。
【請求項6】
前記柔軟剤の主成分は、ポリアミド型カチオン界面活性剤であることを特徴とする請求項5に記載のテニスボール。
【請求項7】
コアの肉厚が2.50〜4.50mmであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のテニスボール。
【請求項8】
硬度が0.200〜0.291inchであることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のテニスボール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−188878(P2011−188878A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−54813(P2010−54813)
【出願日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(592014104)ブリヂストンスポーツ株式会社 (652)