説明

ディスクブレーキパッド

【課題】鉄系材料からなるディスクロータを具備するディスクブレーキに使用する、繊維基材、結合材、研削材、摩擦摩耗調整材を含有する摩擦材を具備するディスクブレーキパッドにおいて、貼り付き現象の発生を効果的に抑制しつつ、耐フェード性、耐摩耗性、成形性が良好な摩擦材を具備するブレーキパッドの提供。
【解決手段】鉄系材料からなるディスクロータを具備するディスクブレーキに使用する、繊維基材、結合材、研削材、摩擦摩耗調整材を含有する摩擦材3を具備するディスクブレーキパッド1において、摩擦材3が結合材を摩擦材全量に対し4.5〜7.0重量%、且つ、アラルキル変性フェノール樹脂を結合材の全量の少なくとも50重量%、研削材としてモース硬度が6〜8であり、平均粒子径が10〜200μmである無機粒子を摩擦材全量に対し1〜3重量%含有することを特徴とするディスクブレーキパッド1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のディスクブレーキに使用される、繊維基材、結合材、研削材、摩擦摩耗調整材を含有する摩擦材を具備するディスクブレーキパッドに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の制動装置としてディスクブレーキが使用されており、その摩擦部材として金属製のベース部材に摩擦材が貼り付けられたディスクブレーキパッドが使用されている。
【0003】
特開2006−275198(特許文献1)には、繊維基材、結合材、充填材を含有する摩擦材をバックプレートに接着したディスクブレーキパッドにおいて、摩擦材は結合材としてストレートフェノール樹脂とフェノールアラルキル樹脂を質量比85:15〜65:35で含有することを特徴とするディスクブレーキパッドが記載されている。
このディスクブレーキパッドによれば、摩擦材への高負荷条件下において耐久性の維持、鳴きの発生、及び摩擦材とバックプレート接着面端部および近傍のキレツ、はがれを低減化することができる。
【0004】
近年、車両の燃費や操作性を向上させるため、車両構成部品の軽量化が要求されている。
軽量化の方法としては、部品として使用される素材の低密度化、部品の薄肉化及び小型化が挙げられるが、ブレーキ構成部品においては、ブレーキシステム、とりわけディスクロータの小型化が求められている。
【0005】
ディスクロータが小型化した場合においても、これまでと同等の制動能力が求められるため、ディスクロータとセットで使用されるディスクブレーキパッドの摩擦材にはより大きな負荷がかかるようになる。そのため、摩擦材にはより高い耐フェード性が要求されるようになってきている。
【0006】
摩擦材の耐フェード性を向上させるため、摩擦材に氷晶石を添加する場合がある。しかし、氷晶石を含有する摩擦材は、制動時の摩擦により摩擦材が高温になったときに摩擦材表層部において氷晶石が溶融し、そのまま摩擦材とディスクロータの密接状態が維持されると、摩擦材の降温に伴い溶融した氷晶石が固体化して摩擦材とディスクロータが固着する、所謂、貼り付き現象が発生するという問題があった。
【0007】
特開2009−132816(特許文献2)には、繊維基材と、結合材と、潤滑剤と、その他の充填材とからなる無石綿摩擦材であって、充填材としてピロリン酸カルシウムを含有することを特徴とする無石綿摩擦材が記載されている。さらに、前記ピロリン酸カルシウムを4〜6vol%含有し、前記充填材として、氷晶石を3〜5vol%含有する無石綿摩擦材が記載されている。
【0008】
氷晶石に由来するものと考えられてきた貼り付き現象は、特許文献2に記載の方法によって効果的に抑制できたが、近年、氷晶石を含有しない摩擦材の貼り付き現象が顕在化している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−275198号公報
【特許文献2】特開2009−132816号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、鉄系材料からなるディスクロータを具備するディスクブレーキに使用する、繊維基材、結合材、研削材、摩擦摩耗調整材を含有する摩擦材を具備するディスクブレーキパッドにおいて、貼り付き現象の発生を効果的に抑制しつつ、耐フェード性、耐摩耗性、成形性が良好な摩擦材を具備するディスクブレーキパッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
氷晶石を含有しない摩擦材を具備するディスクブレーキパッドを、鉄系材料からなるディスクロータとセットで使用した場合に発生する貼り付き現象は、次のようなメカニズムによるものと推定される。
【0012】
ディスクブレーキパッドの摩擦材には摩擦係数を向上させるために研削材が添加されている。制動時にこの研削材により鉄系材料からなるディスクロータが研削されると、ディスクロータの研削粉が摩擦材の表面に移着し、摩擦材の表面に鉄の被膜を形成する。
一方で、制動時の摩擦熱によりディスクロータと摩擦材の摩擦面が高温になると、摩擦材の結合材として含まれる熱硬化性樹脂が熱分解し、ガスが発生する。そして摩擦面の温度がガスの燃焼温度に達すると、ガスが燃焼する。この燃焼により、摩擦材表面に形成された鉄の被膜が熱せられ、また、摩擦面近傍の酸素量が著しく減少する。
この燃焼が終わると、摩擦面に酸素が急激に流入し、熱せられた摩擦材表面の鉄の被膜と接触する。
その結果、酸素と鉄が急激な酸化反応を起こし、酸化鉄の溶融スラグを生成させる。
そして、そのまま摩擦材とディスクロータの密接状態が維持されると、摩擦材の降温に伴い溶融した酸化鉄のスラグが固体化し、貼り付き現象が発生するのである。
【0013】
本発明者らは、上記のメカニズムから、ディスクロータが鉄系材料からなる場合に発生する貼り付き現象を抑制するためには、1)結合材として高温時におけるガスの発生が少ない耐熱性の高い熱硬化性樹脂を使用すること、2)ディスクロータを研削しすぎないよう、研削材のモース硬度、平均粒子径、添加量を調整することが効果的であることを知見した。
【0014】
本発明は、鉄系材料からなるディスクロータを具備するディスクブレーキに使用する、繊維基材、結合材、研削材、摩擦摩耗調整材を含有する摩擦材を具備するディスクブレーキパッドであって、以下の技術を基礎とする。
【0015】
(1)鉄系材料からなるディスクロータを有するディスクブレーキに使用する、繊維基材、結合材、研削材、摩擦摩耗調整材を含有するディスクブレーキパッドにおいて、摩擦材が結合材を摩擦材全量に対し4.5〜7.0重量%、且つ、アラルキル変性フェノール樹脂を結合材の全量の少なくとも50重量%、研削材としてモース硬度が6〜8であり、平均粒子径が10〜200μmである無機粒子を摩擦材全量に対し1〜3重量%含有することを特徴とするディスクブレーキパッド。
【0016】
(2)摩擦材が、アルカリ金属及び/またはアルカリ土類金属のチタン酸塩を摩擦材全量に対し20〜30重量%含有することを特徴とする(1)記載のディスクブレーキパッド。
【0017】
(3)摩擦材が、カシューダストを摩擦材全量に対し3〜5重量%含有することを特徴とする(1)または(2)記載のディスクブレーキパッド。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、鉄系材料からなるディスクロータを具備するディスクブレーキに使用する、繊維基材、結合材、研削材、摩擦摩耗調整材を含有する摩擦材を具備するディスクブレーキパッドにおいて、貼り付き現象の発生を効果的に抑制しつつ、耐フェード性、耐摩耗性が良好なディスクブレーキパッドを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1はディスクブレーキパッドの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明のディスクブレーキパッドの摩擦材は、結合材を摩擦材全量に対し4.5〜7.0重量%、且つ、アラルキル変性フェノール樹脂を結合材の全量の少なくとも50重量%含有する。
結合材の総含有量は、摩擦材全量に対し4.5〜7.0重量%が好ましい。摩擦材全量に対し4.5重量%未満であると、耐摩耗性が低下し、摩擦材全量に対し7.0重量%を越えると、耐フェード性が低下する。
アラルキル変性フェノール樹脂はフェノール核とフェノール核の間にフェノール水酸基をもたないアラルキル基が存在するもので、耐熱性に優れた樹脂である。
アラルキル変性フェノール樹脂の含有量を結合材の全量の少なくとも50重量%とすることで、高温時におけるガスの発生量を低減することができ、貼り付き現象を抑制することができる。
【0021】
アラルキル変性フェノール樹脂以外の結合材としては、フェノール樹脂、フェノール樹脂をカシューオイル,シリコーンオイル,各種エラストマー等で変性した各種エラストマー変性フェノール樹脂、フェノール樹脂に各種エラストマー,フッ素ポリマー等を分散させた各種エラストマー分散フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ベンゾオキサジン樹脂等の熱硬化性樹脂を使用することができる。
【0022】
成形性を良好にするため、アラルキル変性フェノール樹脂の含有量を結合材の全量の多くとも80重量%とし、残部として重量平均分子量が2,000〜5,000のフェノール樹脂を使用するのが好ましい。
【0023】
また、本発明のディスクブレーキパッドの摩擦材は、研削材としてモース硬度が6〜8であり、平均粒子径が10〜200μmの無機粒子を摩擦材全量に対し1〜3重量%含有する。
【0024】
前記無機粒子のモース硬度が6未満であると十分な効きを得られなくなり耐フェード性が低下し、前記無機粒子のモース硬度が8を超えると対面攻撃性が大きくなり、ディスクロータの研削粉の発生量が多くなるため、貼り付き現象が発生しやすく、また、ディスクロータの摩耗量が大きくなる。
モース硬度が6〜8の無機粒子としては、酸化ジルコニウム、珪酸ジルコニウム、酸化アルミニウム等の摩擦材に通常使用される無機粒子を使用することができる。
【0025】
なお、本発明においてモース硬度は、
「1.滑石 2.石膏 3.方解石 4.蛍石 5.リン灰石 6.正長石 7.水晶 8.黄玉 9.鋼玉 10.ダイヤモンド」
で表される旧モース硬度を適用する。
【0026】
前記無機粒子は、その平均粒子径が10μm未満であると十分な効きを得られなくなり耐フェード性が低下し、平均粒子径が200μmを超えると対面攻撃性が大きくなり、ディスクロータの研削粉の発生量が多くなるため、貼り付き現象が発生しやすく、また、ディスクロータの摩耗量が大きくなる。
なお、本発明においては、平均粒子径として、レーザー回折粒度分布法により測定した50%粒径の数値を用いた。
【0027】
前記無機粒子の含有量が摩擦材全量に対し1重量%未満であると十分な効きを得られなくなり耐フェード性が低下し、前記無機粒子の含有量が摩擦材全量に対し3重量%を超えると対面攻撃性が大きくなり、ディスクロータの研削粉の発生量が多くなるため、貼り付き現象が発生しやすく、また、ディスクロータの摩耗量が大きくなる。
【0028】
本発明のディスクブレーキパッドの摩擦材は、さらに、アルカリ金属及び/またはアルカリ土類金属のチタン酸塩を摩擦材全量に対し20〜30重量%含有することが好ましい。
ディスクロータ表面に被膜を形成しやすいアルカリ金属及び/またはアルカリ土類金属のチタン酸塩を適量添加することにより、ディスクロータの研削粉が摩擦材表面に鉄の被膜として移着するのを抑制することができ、貼り付き現象の抑制効果が顕著となる。添加量が多すぎると、耐摩耗性が低下する。
【0029】
このアルカリ金属及び/またはアルカリ土類金属のチタン酸塩は、ディスクロータ表面に被膜を形成しやすい板状、鱗片状の形状が好ましい。
アルカリ金属及び/またはアルカリ土類金属のチタン酸塩は、通常摩擦材に使用される、チタン酸カリウム、チタン酸リチウムカリウム、チタン酸カリウムマグネシウム等を使用することができる。
【0030】
本発明のディスクブレーキパッドの摩擦材は、さらに、カシューダストを摩擦材全量に対し3〜5重量%含有することが好ましい。
高温で酸化しやすいカシューダストを適量添加することにより、摩擦材表面に移着した鉄成分の酸化を阻害することができ、貼り付き現象の抑制効果が顕著となる。添加量が多すぎると、耐フェード性が低下する。
【0031】
また、本発明のディスクブレーキパッドの摩擦材は、上記の結合材、研削材、アルカリ金属及び/またはアルカリ土類金属のチタン酸塩、カシューダストの他に、通常摩擦材に使用される金属繊維,有機繊維,無機繊維等の繊維基材、有機充填材,無機充填材,潤滑剤,金属粒子等の摩擦摩耗調整材を含んでなる。
【0032】
繊維基材としては、鉄繊維,鋼繊維,銅繊維,真鍮繊維,青銅繊維,アルミニウム繊維,亜鉛繊維等の金属繊維、アラミド繊維,アクリル繊維等の有機繊維、カーボン繊維、セラミック繊維,ロックウール,チタン酸カリウム繊維等の無機繊維が挙げられる。
【0033】
摩擦摩耗調整材としては、ゴムダスト(タイヤトレッドゴムの粉砕粉),未加硫の各種ゴム粒子,加硫された各種ゴム粒子等の有機充填材、炭酸カルシウム,硫酸バリウム,水酸化カルシウム,バーミキュライト,マイカ等の無機充填材、黒鉛,コークス,二硫化モリブデン,硫化錫,硫化亜鉛,硫化鉄等の潤滑剤、銅粒子,黄銅粒子,亜鉛粒子,アルミニウム粒子等の金属粒子が挙げられる。
【0034】
これら繊維基材、摩擦摩耗調整材は、所望する品質、機械的特性、摩擦摩耗特性に応じて適宜組み合わせて使用することができる。
【0035】
本発明のディスクブレーキパッドは、所定量配合した上記の結合材、研削材、アルカリ金属及び/またはアルカリ土類金属のチタン酸塩、カシューダスト、繊維基材、摩擦摩耗調整材を、混合機を用いて均一に混合する混合工程、得られた摩擦材原料混合物と、予め洗浄、表面処理を施し、接着剤を塗布した鋼鉄などの金属製のバックプレートを重ねて熱成形型に投入し、加熱加圧して成形する加熱加圧成形工程、加熱して結合材の硬化反応を完了させる熱処理工程、摩擦面を形成する研磨処理工程を経て製造される。必要に応じて、加熱加圧成形工程の前に、摩擦材原料混合物を造粒する造粒工程、摩擦材原料混合物または造粒工程で得られた造粒物を予備成形型で加圧して予備成形する予備成形工程が実施され、加熱加圧成形工程の後に、塗装工程、スコーチ工程が実施される。
【実施例】
【0036】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0037】
[実施例・比較例のディスクブレーキパッドの製造方法]
表に示す摩擦材原料組成物(実施例1〜10:表1、比較例1〜9:表2)をレディゲミキサーにて10分間混合し、得られた摩擦材原料混合物を予備成形型に投入し、35MPaにて1分加圧して予備成形した。
この予備成形物と、予め洗浄、表面処理を施し、接着剤を塗布した鋼製のバックプレートとを熱成形金型に重ねて投入し、成形温度155℃、成形圧力40MPaの条件下で5分間加熱・加圧成形した後、熱処理炉にて200℃で4時間熱処理(後硬化)を行ない、塗装、焼き付け、研磨して、実施例、比較例の乗用車用ディスクブレーキパッドを作成した。
【0038】
【表1】

【0039】
【表2】

【0040】
実施例、比較例のディスクブレーキパッドについて、貼り付き、耐フェード性、耐摩耗性、成形性について評価試験を実施した。評価方法および評価基準は表3、表4に示すとおりである。
【0041】
【表3】

【0042】
【表4】

【0043】
表1及び表2の結果より、結合材量、アラルキル変性フェノール樹脂含有量、配合する研削材である無機粒子のモース硬度、平均粒子径及び含有量が、本発明で特定する範囲にある場合に、貼り付き、耐フェード性、耐摩耗性、成形性について高い評価が得られていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
上記のように、本発明によれば、貼り付き現象の発生を効果的に抑制しつつ、耐フェード性、耐摩耗性、成形性が良好なブレーキパッドを提供することができる。近年要求されているブレーキ構成部品の小型化、軽量化に対応することが可能で、車両の燃費向上や操作性向上に寄与するものであり、きわめて実用性が高いものである。
【符号の説明】
【0045】
1 ディスクブレーキパッド(摩擦部材)
2 バックプレート
3 摩擦材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄系材料からなるディスクロータを具備するディスクブレーキに使用する、繊維基材、結合材、研削材、摩擦摩耗調整材を含有する摩擦材を具備するディスクブレーキパッドにおいて、摩擦材が結合材を摩擦材全量に対し4.5〜7.0重量%、且つ、アラルキル変性フェノール樹脂を結合材の全量の少なくとも50重量%、研削材としてモース硬度が6〜8であり、平均粒子径が10〜200μmである無機粒子を摩擦材全量に対し1〜3重量%含有することを特徴とするディスクブレーキパッド。
【請求項2】
摩擦材が、アルカリ金属及び/またはアルカリ土類金属のチタン酸塩を摩擦材全量に対し20〜30重量%含有することを特徴とする請求項1記載のディスクブレーキパッド。
【請求項3】
摩擦材が、カシューダストを摩擦材全量に対し3〜5重量%含有することを特徴とする請求項1または2記載のディスクブレーキパッド。

【図1】
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【公開番号】特開2011−241381(P2011−241381A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−57954(P2011−57954)
【出願日】平成23年3月16日(2011.3.16)
【出願人】(309014573)日清紡ブレーキ株式会社 (13)