説明

ディスポーザブル型採血器具

【課題】一回の穿刺操作で十分な血液量を安定的に確保し得るディスポーザブル型採血器具を提供する。
【解決手段】ハウジング10内に収容されたランセット11の穿刺体62の先端63がばね部材12の付勢力により突出する、ハウジング10の開口部38の周辺部分を、内部を視認可能な透明性を有する可視部59とする。また、穿刺作動後にハウジング10内に入り込んだ穿刺体62の先端63の位置よりも、穿刺体62の後退方向側のハウジング内に、ばね部材12を収容して、ディスポーザブル型採血器具を構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚を穿刺して、少量の血液を採取するために用いられる採血器具に係り、特に、1回の使用で廃棄されるディスポーザブル型採血器具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
医療目的で、少量の血液を自己採取しなければならない場合がある。例えば、糖尿病患者は、血糖レベルを定期的にチェック(血液自己測定:SMBG)するために、患者自身が、自己の血液を採取する必要がある。このような血液の自己採取を安全且つ確実に行うことができるように、従来から、採血器具が用いられている。
【0003】
この採血器具は、例えば、特許第2635823号公報や特許第3964457号公報(特許文献1及び2)等に記載されるように、一般に、穿刺針やブレード等の先鋭な穿刺体を有するランセットとばね部材とが、外部に開口する開口部を備えたハウジング内に収容されてなる構造を有している。そして、ランセットがばね部材で付勢されて、穿刺体の先端が、ハウジングの開口部から突出して、穿刺作動するようになっている。これにより、ハウジングの開口部に押し当てられた皮膚表面を、穿刺体が寸刺して、少量の血液を滲出させ得るように構成されている。
【0004】
ところで、近年では、使用後の穿刺体を介したHIVやB型肝炎ウイルス等への感染を防止するために、1回限りの使用で廃棄されるディスポーザブル型の採血器具が広く使用されている。このようなディスポーザブル型採血器具の多くのものには、穿刺作動を1回行うと、ランセットを、穿刺作動を行う前の待機位置(ランセットが、ばね部材の付勢力で押圧されることにより付勢された状態で、穿刺体の先端をハウジング内に収容させた位置)に復帰させないようにする機構が採用されている。
【0005】
そのため、ディスポーザブル型採血器具の使用者は、穿刺操作の後、ハウジングを皮膚表面から引き離して、滲出した血液の量を確認したときに、血液量が、例えば血糖レベルのチェックには不十分であると判断した場合には、被穿刺部位の周辺部分を、再び、ハウジングの開口部周辺部位に押し付けて、血液を更に滲出させる操作を行うことがあった。ところが、そのとき、表面張力で玉状となった皮膚表面の血液にハウジングが触れると、血液の玉形状が崩れて、広がってしまい、そのために、血糖レベルのチェック等の所定の検査や測定ができなくなってしまう事態が生ずることが往々にしてあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第2635823号公報
【特許文献2】特許第3964457号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述の事情を背景にして為されたものであって、その解決課題とするところは、穿刺操作によって皮膚表面に滲出した血液量が十分であるか否かを、ハウジングを皮膚表面から引き離すことなく確認することができ、それによって、一回の穿刺操作で十分な血液量を安定的に確保し得るように改良されたディスポーザブル型採血器具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、上記の課題を解決するために為された本発明の態様を記載する。なお、以下に記載の各態様において採用される構成要素は、可能な限り任意の組合せで採用可能である。
【0009】
すなわち、本発明は、先鋭な穿刺体を先端部に有するランセットとばね部材とがハウジング内に収容されており、該ランセットが該ばね部材で付勢されることによって、該穿刺体の先端が該ハウジングの開口部から突出して穿刺作動すると共に、該穿刺作動後に該穿刺体の先端が該ハウジング内に入り込んだ引込み位置に後退するようにされたディスポーザブル型採血器具において、前記ハウジングの前記開口部の周辺部分が、内部を視認可能な透明性を有する可視部とされていると共に、前記ばね部材が、前記ランセットが前記引込み位置に後退したときに、前記穿刺体の先端の位置よりも該穿刺体の後退方向側に位置していることを、特徴とする。
【0010】
本発明によれば、ハウジングの開口部の周辺部が可視部とされているところから、ハウジングの開口部に皮膚表面を押し当てた状態で穿刺作動を行ったときに、可視部を通じて、皮膚表面の被穿刺部位を視認できる。そのため、ハウジングを皮膚表面から引き離すことなく、皮膚表面の被穿刺部位から滲出した血液の量を確認することができる。しかも、ハウジング内でのばね部材の収容位置からして、可視部を通じて皮膚表面の被穿刺部位を視認する際に、ばね部材が邪魔となって、被穿刺部位が見難くなるようなこともない。
【0011】
それ故、本発明に係るディスポーザブル型採血器具を用いれば、1回の穿刺操作で皮膚表面から滲出した血液量が不十分であった場合にも、ハウジングを皮膚表面から引き離すことなく、それを容易に確認できる。そして、血液量が不十分であった際には、穿刺操作に引き続いて、ハウジングを皮膚表面から引き離すことなく、ハウジングの皮膚表面との接触位置を、穿刺操作を行ったときと同じ位置に維持したままで、ハウジングの開口部の周辺部位を皮膚表面に強く押し付けて、被穿刺部位から血液を更に滲出させることができる。このとき、ハウジングの位置が変わっていないため、ハウジングが、表面張力で玉状となった皮膚表面の血液に触れてしまうようなことが効果的に回避され得る。従って、血液の玉形状を安定的に維持しつつ、採取される血液量を有利に増大させることができる。そして、その結果、1回の穿刺操作の後、血糖レベルのチェック等の所定の検査や測定を、確実に実施することが可能となる。
【0012】
なお、本発明においては、前記ランセットが、前記ばね部材により前記穿刺体の突出方向に付勢された状態で、該穿刺体の先端を前記ハウジング内に収容させた待機位置に配されているときに、該ランセットを該ばね部材の付勢力に抗して該待機位置に保持する係止手段が、該ランセットと該ハウジングとの間に設けられていると共に、該係止手段による該待機位置への該ランセットの保持を該ハウジング外部からの操作で解除する係止解除手段が設けられている態様も、採用可能である。
【0013】
本態様によれば、穿刺操作に際して、使用者は、ばね部材を圧縮操作する等の事前の面倒な作業を必要とされることなく、単に、係止解除手段を操作することで、穿刺作動を行わせることができる。それによって、血液の自己採取作業が、より容易に実施可能となる。
【0014】
また、上記のように係止手段と係止解除手段とが組み合わされてなる機構により穿刺作動が行われるようにした態様を採用する場合には、前記ランセットにおいて、自由端とされた先端部分が該ランセットの外周面に接近する方向に撓み変形可能とされた可撓アームが突設されていると共に、該ランセットが前記待機位置に配されているときに該可撓アームが係止される係止部が前記ハウジングに設けられており、それら可撓アームと係止部とを含んで前記係止手段が構成されている一方、外部からの操作によって該可撓アームの先端部分が該ランセットの外周面へ向けて撓み変形することにより、該可撓アームの該係止部への係止を解除する前記係止解除手段が構成されている態様を、併せて採用することが出来る。
【0015】
本態様によれば、ランセットの待機位置への保持を実現する係止手段としての可撓アームを、優れた係止作動と容易な解除操作をもって形成することが可能となる。しかも、可撓アームにおいて、ランセットから外周側への突出量を抑えることが出来るから、ハウジングの外周サイズも小さくコンパクトにすることが可能となる。
【0016】
また、係止手段が可撓アームと係止部とを含んで構成される場合には、前記可撓アームが、前記ランセットに沿って前記穿刺体の突出方向の前方側から後方側に向かって延びるように突設されており、該可撓アームの延出方向の中間部分において前記係止部に係止されている一方、前記係止解除手段において外部からの操作が行われる操作部が、該可撓アームの該係止部への係止部分よりも延出方向の先端側に設けられている態様が、有利に採用される。
【0017】
このようにすれば、可撓アームの係止部に対する係止状態が係止解除手段にて解除された後に、ランセットが待機位置から突出方向に移動する際、係止解除手段が可撓アームに接触することが回避される。それ故、ハウジングの開口部からの穿刺体の突出方向にランセットがハウジング内を移動するときに、係止解除手段のランセットへの干渉によってハウジング開口部からの穿刺体の突出力が低下することが効果的に回避され得る。しかも、係止解除手段に対する操作部が、可撓アームの先端側に設けられていることから、小さな操作力で可撓アームを撓ませて可撓アームの係止を解除させることが可能となる。
【0018】
また、本発明では、前記穿刺体の先端を覆うカバー部が前記ランセットの先端部に対して分離可能に設けられていると共に、該ランセットが、前記ばね部材により該穿刺体の突出方向に付勢された状態で、該穿刺体の先端を前記ハウジング内に収容させた待機位置に配されているときに、該ハウジングに対する係合作用に基づいて該ランセットを該ばね部材の付勢力に抗して該待機位置に保持する係合部が、該カバー部に設けられている態様が、好適に採用される。
【0019】
このようにすれば、カバー部をランセットの先端部から分離しない限り、たとえ、係止解除手段の誤操作や誤作動により、係止手段による待機位置でのランセットの係止が解除されても、穿刺体の先端が、ハウジングの開口部から突出することが防止される。それ故、単に、カバー部に係合部を設けるだけの簡略で且つ安価な構造によって、穿刺体の先端の不用意な突出が確実に防止され得る。その結果として、使用時や運搬時等における安全性が、極めて有利に確保され得る。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、穿刺操作によって皮膚表面に滲出した血液量が十分であるか否かを、ハウジングを皮膚表面から引き離すことなく確認することができる。それによって、血液量が不十分である場合に、穿刺操作に引き続き、穿刺操作時のハウジングの位置を維持したままで、ハウジングの開口部周辺部位を皮膚表面に押し付けて、血液を更に滲出させることが可能となる。そうして、一回の穿刺操作で、所望の量の血液を確実に且つ容易に採取することができ、その結果、採取された血液を用いた血糖レベルチェック等の所定の検査や測定を、確実に且つ安定的に実施することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施形態としてのディスポーザブル型採血器具の正面説明図。
【図2】図1に示されたディスポーザブル型採血器具の分解斜視図。
【図3】図2におけるIII−III断面説明図。
【図4】図1におけるIV−IV断面説明図。
【図5】図4におけるV−V断面説明図。
【図6】図1に示されたディスポーザブル型採血器具における使用前の待機状態を示す図4に対応する図。
【図7】図1に示されたディスポーザブル型採血器具の使用状態を示す説明図であって、穿刺作動を実施した状態を示す図4に対応する図。
【図8】図7におけるVIII−VIII断面説明図。
【図9】図1に示されたディスポーザブル型採血器具の使用後の状態を示す説明図であって、穿刺針を引込位置に配置させた状態を示す図4に対応する図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
【0023】
先ず、図1〜図3に、本発明に従う一実施形態としてのディスポーザブル型採血器具(以下、単に「採血器具」と略称する)を示す。採血器具は、合成樹脂製のハウジング10を有しており、このハウジング10内には、ランセット11と、ばね部材としての圧縮コイルばね12とが収容されている。なお、以下の説明中、特に断りのない限り、軸方向とは図1の左右方向、前方とは図1の左方向、後方とは図1の右方向を言う。
【0024】
より詳細には、図4及び図5に示されるように、ハウジング10は、ハウジング本体14と、このハウジング本体14の前端部に取り付けられた筒状キャップ16とを有している。ハウジング本体14は、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル、アクリル系樹脂、ABS樹脂、アイオノマー、ポリアセタール、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン等の各種樹脂材料を用いて形成された樹脂成形品からなっている。また、ハウジング本体14は、前端部において開口し、且つ後端部に厚肉の底部18が設けられた片側有底の略円筒状の全体形状を有している。そして、底部18の内面の中心部には、円形で浅底の取付穴20が設けられている。
【0025】
図3〜図5から明らかなように、ハウジング本体14の内周面の軸直角方向(径方向)に対向する2箇所には、溝形成用リブ22が、対を為して、それぞれ一対ずつ、合計4個、一体的に突設されている。この溝形成用リブ22は、対を為すもの同士が、ハウジング本体14の周方向において互いに所定距離を隔てて対向しつつ、軸方向に連続して延び出している。また、それら各溝形成用リブ22は、何れも、ハウジング本体14の底部18から開口部の近傍にまで達する長さを有している。これにより、ハウジング本体14の内周面の軸直角方向に対向する2箇所に、対を為す溝形成用リブ22,22の互いの対向面を両側側面とする溝部24が、ハウジング本体14の略全長に亘って軸方向に連続的に延びるようにして、それぞれ1つずつ形成されている。
【0026】
また、ハウジング本体14の内周面のうち、2つの溝部24に対して周方向に90°の位相差を有する2箇所には、平板状のガイドリブ26が、それぞれ、軸方向に延びるように、一体的に突設されている。それら2つのガイドリブ26,26は、ハウジング本体14の底部18から軸方向中間部にまで達する長さを有している。また、それぞれの突出先端面が、互いに所定距離を隔てて対向配置されている。
【0027】
図2及び図3に示されるように、ハウジング本体14の前端部には、薄肉円筒状の嵌合筒部28が、同軸上において、一体的に突設されている。この嵌合筒部28のうち、前記2つのガイドリブ26,26の軸方向前方に位置する部位には、嵌合筒部28の全長に延びる切欠部29a,29bが、それぞれ設けられている。
【0028】
また、図3及び図4に示されるように、切欠部29aの軸方向後側に位置するハウジング本体14の前端部位の内周面には、係止部としての係止突起30が設けられている。この係止突起30は、縦断面略直角三角形形状を呈し、後側の側面が、軸直角方向に延びる係止面32とされている。更に、係止突起30の軸方向後側に位置するハウジング本体14の筒壁部分には、軸方向に延びる略逆U字状のスロット34が設けられている(図1参照)。そして、そのようなスロット34にて囲まれた筒壁部分が、樹脂ばねにより、軸直角方向に弾性変形可能な操作部36とされている。この操作部36は、ハウジング本体14の他の部位と容易に判別可能なように、軸直角方向外方に向かって厚肉化されている。また、切欠部29bの軸方向後側に位置するハウジング本体14の前端部位の内周面には、狭幅の嵌合溝31が、比較的短い長さで軸方向に延びるように形成されている。
【0029】
一方、図2〜図5から明らかなように、ハウジング本体14の前端部に取り付けられた筒状キャップ16は、全体として、ハウジング本体14よりも十分に小さな軸方向長さとハウジング本体14の内径と同一の内径とを有する略円筒形状を呈し、軸方向両側開口部が、それぞれ、前側開口部38及び後側開口部40とされている。また、筒状キャップ16は、ハウジング本体14への取付側とは反対側である前端側の外周面が、前方に向かって次第に小径となるテーパ面形状とされている。これによって、筒状キャップ16の前端縁部、更にはハウジング10の前端縁部が、他の部位に比して薄肉化された薄肉端縁部42とされている。
【0030】
図3及び図5に示されるように、筒状キャップ16の軸方向中間部の内周面には、後端部側の内周面を大径化する段差部44が形成されている。そして、そのようにして内径が大きくされた、筒状キャップ16の段差部44よりも後端側部分が、嵌合部46とされている。
【0031】
図2、図3及び図5に示されるように、筒状キャップ16の内周面の軸直角方向(径方向)に対向する2箇所には、溝形成用リブ48,48が、対を為して、それぞれ一対ずつ、合計4個、一体形成されている。それら各溝形成用リブ48は、ハウジング本体14の内周面に設けられた2対の溝形成用リブ22,22,22,22と同様な形態において形成されている。それによって、筒状キャップ16の内周面の軸直角方向に対向する2箇所に、対を為す溝形成用リブ48,48の互いの対向面を両側側面とする溝部50が、ハウジング本体14の溝部24と同一の幅をもって軸方向に連続して延びるように、それぞれ1つずつ形成されている。
【0032】
なお、それら各溝形成用リブ48は、筒状キャップ16の前側開口部38の端面から、所定寸法だけ後側に偏倚した位置から後側開口部40の端面にまで達する長さを有している。そして、そのような各溝形成用リブ48の前端部には、ストッパリブ49が、それぞれ一体形成されている。それら各ストッパリブ49は、対を為す各溝形成用リブ48の互いの対向面とは反対側の面から軸直角方向に延び出して、それら各溝形成用リブ48と筒状キャップ16の内周面とを相互に連結している。また、各溝形成用リブ48の突出先端部には、分割円筒部51が、それぞれ一体的に設けられている。
【0033】
図2〜図4から明らかなように、筒状キャップ16の後端部のうち、2つの溝部50に対して周方向に90°の位相差を有する1箇所には、係止爪形成用突起52が、後側開口部40から軸方向に所定長さで突出するように、一体形成されている。この係止爪形成用突起52の先端には、筒状キャップ16の径方向内側に突出する係止爪53が、一体形成されている。係止爪53は、縦断面略直角三角形形状を呈し、軸方向前側の側面が、筒状キャップ16の軸直角方向に延びる係止面54とされている一方、軸方向後側の側面が、係止爪形成用突起52の先端側に向かって、係止爪53の突出高さを徐々に低くするように傾斜して延びる摺動面55とされている。
【0034】
一方、図4から明らかなように、筒状キャップ16の内周面のうち、係止爪形成用突起52の形成部位と径方向に対向する部位の前端側部分には、係合凸部56が一体形成されている。この係合凸部56は、筒状キャップ16の内周面から低い高さで軸直角方向に突出する、四角形状の突起にて構成されている。そして、4つの側面のうちの前後方向に対向する2つの側面が、軸直角方向に延びるように配置されている。また、筒状キャップ16における係合凸部56の軸方向後側の内周面部分には、収容溝57が、軸方向に延びるように形成されている。この収容溝57は、その底面が、前記嵌合部46の内周面部分と段差のない連続面とされている。さらに、筒状キャップ16の内周面の前端側部分には、図5及び図6から明らかなように、係合凸部56の形成位置から周方向でそれぞれ90°の位相差を有する位置において、一対の案内凸部61が対向して形成されている。案内凸部61は、係合凸部56と同じく、筒状キャップ16の内周面から低い高さで軸直角方向に突出しており、筒状キャップ16の内周面において、軸方向前側を頂点とした三角形状となるように形成されている。
【0035】
そして、図4及び図5に示されるように、上記の構造を有する筒状キャップ16が、嵌合部46において、ハウジング本体14の前端部の嵌合筒部28に外嵌されて、固着されている。これによって、ハウジング10が、筒状キャップ16とハウジング本体14との一体組付品として構成されている。そうして、ハウジング10が、筒状キャップ16の前側開口部38を通じて前方に開口し、且つハウジング本体14の底部18にて後側端部が閉塞された片側有底の略円筒形状とされている。
【0036】
なお、筒状キャップ16とハウジング本体14との固定状態下では、筒状キャップ16の内周面に設けられた2つの溝部50,50が、ハウジング本体14の内周面に形成された2つの溝部24,24のそれぞれのものに連続するように配置されている。これによって、ハウジング10の内周面の軸直角方向に対向する2箇所に、ハウジング本体14と筒状キャップ16の各溝部24,50からなるガイド溝58が、底部18から前側開口部38の近傍にまで達する長さで軸方向に連続して延びるように、それぞれ形成されている。
【0037】
また、筒状キャップ16とハウジング本体14との固定状態下において、筒状キャップ16の内周面に対して軸方向に前後に並んで設けられた係合凸部56と収容溝57とが、ハウジング本体14の前端部に設けられた係止突起30や嵌合筒部28に形成された切欠部29aの軸方向前方側に配置されている。更に、筒状キャップ16の後側開口部40から突出する係止爪形成用突起52が、ハウジング本体14の嵌合筒部28に形成された切欠部29bに挿入されると共に、この切欠部29bの軸方向後側に設けられた嵌合溝31内に嵌め込まれている。そうして、係止爪形成用突起52に突設された係止爪53が、ハウジング本体14の前端部の内周面から突出している。また、それにより、ハウジング本体14の前端部の内周面上において、その前方側に、係止爪53の係止面54が、その後方側に、係止爪53の摺動面55が、それぞれ配置されている。この係止爪53の係止面54は、係止爪53の先端から基端側に向かって後方側に急角度で傾斜している。摺動面55は、係止爪53の先端から基端側に向かって後方側に緩い角度で傾斜している。
【0038】
そして、本実施形態においては、特に、ハウジング本体14の前端部に固定された筒状キャップ16が、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、アクリル系樹脂、ABS樹脂等の各種樹脂材料を用いて形成された、透明性を有する樹脂成形品にて構成されている。これによって、筒状キャップ16にて構成されたハウジング10の前端部、つまりハウジング10の前側開口部38の周辺部分、具体的には、ハウジング本体14の嵌合筒部28に外嵌される筒状キャップ16の嵌合部46よりも前側の部分が、内部を視認可能な可視部59とされている。なお、透明性は、外部から内部を目視で視認可能とされていれば良く、無色透明の他、有色透明でも良く、透明度も上記視認性を確保できる程度であれば良い。
【0039】
一方、ランセット11は、図2〜図5に示されるように、ランセットハブ60と、先鋭な穿刺体としての穿刺針62とを含んで構成されている。ランセットハブ60は、ポリプロピレンやポリエチレン、ポリカーボネート、ABS樹脂、アクリル樹脂等の合成樹脂から形成されている。また、ランセットハブ60は、ハウジング10内に挿入可能な細長い略丸棒状の針保持部64と、この針保持部64の前端に対して、容易に分離可能に一体形成されたカバーキャップ66とを有している。そして、穿刺針62が、その針先63を、針保持部64の前端から中心軸上で突出させた状態で、針保持部64に対して、インサート成形や接着等により、同軸上で固定されている。また、針保持部64の前端から突出した穿刺針62の針先63は、その全体が、カバーキャップ66にて覆われている。
【0040】
ランセットハブ60の針保持部64の前側部位(先端側部位)と後側部位(基端側部位)とには、前側大径部67と後側大径部68とが、それぞれ形成されている。前側大径部67には、2つの摺動リブ69,69が一体的に突設されており、また、後側大径部68にも、摺動リブ70,70が一体的に突設されている。それら各摺動リブ69,70は、何れも、ハウジング10の内周面に設けられた前記ガイド溝58,58内に摺動可能に嵌め込まれ得る平板形態を有し、前側大径部67と後側大径部68のそれぞれの外周面における周方向に180°の位相差を有する2箇所から、軸直角方向に突出している。
【0041】
また、図2〜図4に示されるように、針保持部64の前側大径部67には、第1可撓アーム71と第2可撓アーム72とが、それぞれ一体的に突設されている。第1可撓アーム71は、全体として、鈎型の板形状を呈し、前側大径部67の外周面から、針保持部64(ランセットハブ60)の軸直角方向に、所定高さで一体的に突出する突出板部74と、針保持部64から側方に所定距離を隔てた位置において、突出板部74の先端から針保持部64の後端側に向かって、針保持部64と平行に延びる延出板部76とを一体的に有している。そして、そのような延出板部76の先端が自由端とされている。これにより、第1可撓アーム71が、樹脂ばねに基づいて、自由端とされた延出板部76の先端を針保持部64の外周面に接近又は離隔させる方向において、撓み変形(弾性変形)可能とされている。なお、第1可撓アーム71は、2つの摺動リブ69,69のそれぞれに対して、前側大径部67の周方向に90°の位相差を有して、配置されている。
【0042】
また、そのような第1可撓アーム71は、延出板部76の自由端とされた先端部が係合端78とされている一方、この係合端78よりも基端側(突出板部74側)の位置に、係合爪80が一体的に突設されている。係合爪80は、ハウジング本体14の内周面に設けられた直角三角形状の断面形状を有している。そして、係合爪80の側面のうち、第1可撓アーム71の基端側に位置する側面が、係止突起30の係止面32に対応して、針保持部64の軸直角方向に延びる係合面82とされている。
【0043】
第2可撓アーム72は、針保持部64の後端側に向かって、前側大径部67から徐々に離間するように傾斜して延びる状態で、前側大径部67の外周面から突出している。この第2可撓アーム72は、その突出先端部が自由端とされている。それによって、第2可撓アーム72も、第1可撓アーム71と同様に、樹脂ばねに基づいて、自由端とされた先端部を針保持部64の外周面に接近又は離隔させる方向において、撓み変形(弾性変形)可能とされている。そして、このような第2可撓アーム72の先端側の端面が、筒状キャップ16の係止爪形成用突起52に設けられた係止爪53の係止面54に対応して、針保持部64の外周面に向かって、針保持部64の前端側に傾斜して延びる係合面84とされている。なお、第2可撓アーム72は、第1可撓アーム71に対して、前側大径部67の周方向に180°の位相差を有して、配置されている。
【0044】
また、針保持部64の後側大径部68の後端面には、ばね固定部86が一体的に突設されている。このばね固定部86は、軸方向長さの短い円柱体の外周面の周方向に等間隔をおいた4箇所に、軸方向に延びる凸条がそれぞれ一体形成されてなる形態を有している。
【0045】
一方、図2〜図5に示されるように、針保持部64の前端に一体形成されたカバーキャップ66は、長手平板状の摘み部88と略丸棒状のカバー部90とを一体的に有している。図4から明らかなように、摘み部88の幅方向一方側の側面の後端部には、係合部91が一体的に突設されている。この係合部91は、ハウジング10の筒状キャップ16に設けられた係合凸部56に対応した四角形状の突起からなっている。そして、そのような係合部91の4つの側面のうちの前後方向に対向する2つの側面が、軸直角方向に延びるように配置されている。
【0046】
カバー部90は、摘み部88の長さ方向一端部の幅方向中心から一体的に延び出している。このカバー部90には、摘み部88側とは反対側の端面において開口する細径の穴部92が形成されている。
【0047】
そして、このようなカバーキャップ66が、カバー部90の摘み部88側とは反対側の端部において、針保持部64の前端部に一体的に接合されている。それらカバーキャップ66と針保持部64との接合状態では、針保持部64の前端から突出する穿刺針62の針先63が、カバー部90の穴部92内に収容されて、針先63の全体が、カバー部90にて覆われている。また、カバーキャップ66と針保持部64との接合部位には、V溝状の切込みが周設されている。これによって、例えば、摘み部88を手指で摘みつつ、それを捻ることで、カバー部90を含むカバーキャップ66が、針保持部64の前端部から容易に分離され得るようになっている。なお、このような分離操作においては、摘み部88を周方向に回転するように捻ることにより、摘み部88に設けられた係合部91と、ハウジング10の筒状キャップ16に設けられた係合凸部56との係合が解除される。このとき、摘み部88が周方向に回転するのに伴って、係合部91は、筒状キャップ16の内周面に突設された案内凸部61に対して当接される。図6に示されるように、この案内凸部61は軸方向前側を頂点とした三角形状に形成されており、摘み部88の回転に伴って、係合部91が案内凸部61の斜面によって軸方向前側へと案内されて、係合凸部56よりも軸方向前側に移動する。これにより、摘み部88をたとえ周方向に360°回転させたとしても、摘み部88の係合部91と筒状キャップ16の係合凸部56とが再び係合することが防止されており、摘み部88の回転操作によって係合部91と係合凸部56との係合が確実に解消されるようになっている。また、カバーキャップ66の針保持部64からの分離によって、穿刺針62の針先63が、針保持部64の前端から突出しつつ、外部に露出されるようになっている。
【0048】
そして、図4及び図5から明らかなように、上記の構造とされたランセット11が、ハウジング10内に同軸的に挿入されて、収容されている。また、そのような収容状態下で、針保持部64が、ハウジング本体14内に配置される一方、カバーキャップ66が、摘み部88を筒状キャップ16の前側開口部38から前方に突出させた状態で、筒状キャップ16内に配置されている。そして、針保持部64の4つの摺動リブ69,69,70,70が、ハウジング10の内周面に設けられたガイド溝58,58内に、それぞれ摺動可能に嵌め込まれている。これにより、ランセット11が、ハウジング10内において、各ガイド溝58に案内されつつ、軸心回りに回転不能な状態で、ハウジング10の軸方向に移動可能とされている。
【0049】
筒状キャップ16内に配置されたカバーキャップ66は、カバー部90が、筒状キャップ16の内周面に設けられた4つの溝形成用リブ48,48,48,48の各分割円筒部51にて、外側から囲まれた状態で配置されている。
【0050】
また、そのようなランセット11のハウジング10内への配置状態下において、圧縮コイルばね12が、ハウジング本体14内に位置するランセット11の針保持部64とハウジング本体14の底部18との間に、2つのガイドリブ26,26の対向面間にはめ込まれて、配置されている。この圧縮コイルばね12は、軸方向の一端部が、針保持部64のばね固定部86に対して、外嵌された状態で固定されている。一方、軸方向の他端部が、ハウジング本体14の底部18の内面の中心部に設けられた前記取付穴20内に圧入されて、ハウジング本体14の底部18に固定されている。
【0051】
これにより、ハウジング10内に収容されたランセット11が、圧縮コイルばね12を介してハウジング本体14の底部18に取り付けられて、本実施形態の採血器具が構成されている。そして、この採血器具では、圧縮コイルばね12の伸縮に基づいて、ランセット11が、ハウジング10内を、その軸方向にそって前後方向に移動可能とされている。また、カバーキャップ66が針保持部64から分離された後、圧縮コイルばね12の伸張に伴って、ランセット11が前方に移動したときに、ランセット11(針保持部64)に固定された穿刺針62の針先63が、ハウジング10(筒状キャップ16)の前側開口部38から前方に突出するようになっている。
【0052】
このような構造とされた本実施形態の採血器具は、穿刺針62の針先63がカバーキャップ66のカバー部90に覆われて、ランセット11の全体がハウジング10内に収容された状態を、未使用の初期状態として、使用者に提供される。
【0053】
すなわち、図4及び図5に示されるように、未使用の初期状態では、カバーキャップ66のカバー部90にて覆われた穿刺針62の針先63が、ハウジング10の筒状キャップ16の後端部内に位置するように配置される。このとき、針保持部64のばね固定部86が、ハウジング本体14の底部18内面に近接して、配置される。これにより、圧縮コイルばね12が圧縮されて、ランセット11が、圧縮コイルばね12により前方に向かって付勢された状態とされる。
【0054】
また、そのような状態下では、第1可撓アーム71の先端の係合端78が、ハウジング本体14の操作部36の内側面の前端に接触している。それと共に、第1可撓アーム71の係合爪80が、ハウジング本体14に設けられたスロット34内に突入している。また、係合爪80の係合面82は、ハウジング本体14の係止突起30の係止面32に対して、それよりも後方側に僅かな隙間を隔てて、配置されている。そして、カバーキャップ66の係合部91が、その前端面において、筒状キャップ16の前端側内周面に突設された係合凸部56の後端面に係合している。
【0055】
これによって、本実施形態の採血器具の初期状態では、ランセット11が、圧縮コイルばね12により前方に移動させられる方向に付勢されている一方で、カバーキャップ66の係合部91と筒状キャップ16の係合凸部56との係合により、ランセット11の前方側への移動が阻止された状態となっている。即ち、このようなカバーキャップ66の係合部91と筒状キャップ16の係合凸部56との係合により、ランセット11が初期状態である待機位置に配置されると共に、針先63のハウジング10の開口部からの突出が阻止されるようになっている。
【0056】
そして、患者等の使用者が、上記の初期状態とされた本実施形態の採血器具を用いて、血液を自己採取する際には、例えば、以下のようにして、その操作が進められる。
【0057】
すなわち、先ず、図4及び図5に示された未使用の初期状態において、ハウジング10の前側開口部38から突出する摘み部88を摘んで捻ることにより、カバーキャップ66をランセットハブ60から捻じ切って、分離する。これにより、図6に示されるように、穿刺針62の針先63を、ハウジング10の筒状キャップ16内で、外部に露出させる。このとき、カバーキャップ66の係合部91とハウジング10(筒状キャップ16)の係合凸部56との係合が解消される。そして、ランセット11の第1可撓アーム71に設けられた係合爪80とハウジング10のハウジング本体14に設けられた係止突起30とが、それぞれの係合面82と係止面32とにおいて相互に係合し、これにより、ランセット11が、前方側への移動が阻止されるように、ハウジング10の係止突起30に係止される。
【0058】
このように、初期状態からカバーキャップ66を分離することにより、前方への移動が阻止された状態で、穿刺針62の針先63をハウジング10の前端部(筒状キャップ16)内に収容させた位置、即ち待機位置に、ランセット11を位置させる。このことから明らかなように、本実施形態では、ハウジング10の内周面に設けられた係止突起30と、ランセット11の第1可撓アーム71に設けられた係合爪80とによって、係止手段が構成されており、ランセット11がハウジング10に対して係止されるようになっている。
【0059】
次いで、手指94の腹部等を、ハウジング10の薄肉端縁部42の前端面に押し付けた状態で、図6に白抜きの矢印で示されるように、ハウジング10に設けられた操作部36を、ハウジング10の軸直角方向の内側に押圧し、操作部36の前端側の内側角部をハウジング10内に押し込む。これにより、第1可撓アーム71の係合端78を操作部36にてハウジング10の内側に押圧し、第1可撓アーム71の延出板部76を撓み変形させて、延出板部76に設けられた係合爪80をスロット34内からハウジング10の内側に離脱させる。
【0060】
そうして、図7に示されるように、係合爪80と係止突起30との係止状態を解除し、ランセット11を圧縮コイルばね12の付勢力に基づいて前方に移動させて、穿刺針62の針先63をハウジング10の前側開口部38から前方に突出させる。これにより、穿刺針62の針先63を手指94に対して寸刺させる穿刺操作を実施し、手指94の被穿刺部位から血液を滲出させる。なお、このことから明らかなように、本実施形態では、操作部36によって、係止解除手段が構成されている。
【0061】
このとき、圧縮コイルばね12が、その自由長を超える長さとなるまで伸長することにより、穿刺針62の針先63が、ハウジング10の前側開口部38から瞬間的又は一時的に突出するようになっている。また、ランセット11の移動途中で、第2可撓アーム72の先端が、ハウジング10の内周面上に突出する係止爪53の摺動面55を摺動しつつ、係止爪53を乗り越えて、穿刺針62の針先63の前側開口部38からの突出時に、係止爪53よりも前方側に配置される。そして、図8に示されるように、ランセット11の前側大径部67に設けられた2つの摺動リブ69が、筒状キャップ16の前端部に設けられたストッパリブ49,49に当接して、穿刺針62の針先63の前側開口部38からの突出量が規制されるようになっている。これにより、穿刺量を一定として、穿刺操作が、安全に行われ得るようになっている。また、このとき、第1可撓アーム71の延出板部76は、筒状キャップ16の収容溝57内に収容される。
【0062】
そして、このような圧縮コイルばね12の瞬間的な伸び出しによる穿刺操作の後には、人的操作を何等行わなくとも、図9に示されるように、圧縮コイルばね12が自然な状態に復元することにより、穿刺時よりも縮むこととなる。これによって、ランセット11が、穿刺針62の針先63をハウジング10内に引き込ませた引込位置に配置されて、筒状キャップ16の前端部からなるハウジング10の可視部59内に収容される。このとき、ランセット11の第2可撓アーム72の係合面84が、ハウジング10の内周面上に突出する係止爪53の係止面54に係止する。それにより、ランセット11の引込位置からの後方側への移動が阻止される。その結果、穿刺操作の再実施が不可能とされて、採血器具の再使用が不能な状態とされる。それ故、穿刺操作後に、操作部36を再び押圧しても、穿刺針62の針先63が、ハウジング10の前側開口部38から突出することがない。
【0063】
なお、本実施形態の採血器具では、ランセット11が引込位置に配置されたときのハウジング10の前端面から針先63までの距離:Lが、従来のものよりも大きくなるように設定されている。具体的には、そのような距離:Lが3〜5mm程度とされている。
【0064】
このように、本実施形態の採血器具においては、カバーキャップ66を捻じ切った後、単に、手指94をハウジング10の前端面に接触させた状態で、操作部36を押圧するだけで、穿刺操作を行うことができる。そして、穿刺操作を一度行った後には、穿刺針62の針先63がハウジング10の前側開口部38から突出することがなく、再使用が不能となっている。
【0065】
また、そのような穿刺操作を行う前の未使用の状態では、カバーキャップ66にて、穿刺針62の針先63が覆われている。しかも、そのようなカバーキャップ66を取り外さない限り、たとえ、操作部36を押圧操作しても、ランセット11が前方に移動せず、穿刺針62の針先63が突出することがない。これによって、安価な構造において、使用の安全性が効果的に高められている。
【0066】
さらに、本実施形態の採血器具では、ハウジング10の前端部が内部を視認可能な可視部59とされている。このため、穿刺操作を行ったときに、ハウジング10を手指94から引き離さずに、手指94の被穿刺部位から滲出する血液の量を、可視部59の外部から確認することができる。しかも、可視部59の内部には、ハウジング本体14や圧縮コイルばね12が何等存在しないため、それらが、手指94の被穿刺部位の観察の邪魔となることもない。
【0067】
それ故、このような採血器具を用いれば、1回の穿刺操作で手指94から滲出した血液量が不十分であった場合に、それが、可視部59を通じて容易に確認できる。そして、その際には、ハウジング10の前端部を手指94から引き離すことなく、穿刺操作を行ったときと同じ位置で、手指94に強く押し付けて、被穿刺部位から血液を更に滲出させることができる。このとき、ハウジング10の位置が変わっていないため、ハウジング10が、表面張力で玉状となった皮膚表面の血液に触れてしまうようなことが効果的に回避され得る。
【0068】
従って、本実施形態の採血器具を使用すれば、1回の穿刺操作で、手指94から、血液を、十分な量で、しかも玉形状を安定的に維持しつつ、採取することができる。そして、その結果、1回の穿刺操作の後、血糖レベルのチェック等の所定の検査や測定を、確実に実施することが可能となる。
【0069】
また、本実施形態の採血器具は、操作部36の前端部が、前方側から後方側に向かって延びるように突設された第1可撓アーム71の後端からなる係合端78を押圧することにより、第1可撓アーム71の係合爪80とハウジング10の係止突起30との係止状態が解除されて、ランセット11が前方に移動するようになっている。それ故、そのようなランセット11の前方への移動時に、操作部36のランセット11への干渉によってハウジング10の前側開口部38からの穿刺針62の突出力が低下することが効果的に回避され得る。従って、穿刺操作が、更に確実に行われ得る。
【0070】
以上、本発明の実施形態について詳述したが、本発明は、その具体的な記載によって限定されるものではない。
【0071】
また、本実施形態の採血器具では、ハウジング10内に、穿刺針62の突出と引込みの両方を行う圧縮コイルばね12が1つだけ収容され、これにより、構造の簡略化と低コスト化とが、有利に図られていたが、ハウジング10内に、穿刺針62の突出用のばね部材とそれらの引込み用のばね部材の両方を収容したり、或いは穿刺針62の突出用と引込み用を兼ねたばね部材と、穿刺針62の突出力を補助するためのもう1つの突出用のばね部材の両方を収容したりしても良い。勿論、その場合にあっても、それら2つのばね部材は、ランセット11が引込み位置に配置されたときの穿刺針62の針先63の位置よりも穿刺針62の突出方向後方向側に位置するハウジング10部分の内部に収容する構成が採用される。
【0072】
さらに、穿刺針62に代えて、ブレード等を穿刺体として用いることもできる。
【0073】
また、圧縮コイルばね12に代えて、引張コイルばねやその他の各種のばねをばね部材として用いても良い。
【0074】
さらに、係止手段や係止解除手段の構造も例示のものに何等限定されるものでないことは、勿論である。
【0075】
また、ランセットとハウジングの間に設けられてランセットをばね部材の付勢力に抗して待機位置に保持する係止手段によって発現される「ランセットの待機位置」と、カバー部に設けられてハウジングに対する係合作用に基づいてランセットをばね部材の付勢力に抗して待機位置に保持する係合部によって発現される「ランセットの待機位置」との、二つの待機位置の相互関係は、本発明において特に限定されるものでない。例えば、前者の係止手段によって発現される待機位置と後者の係合部によって発現される待機位置とを同じ位置に設定しても良いし、それらの一方を他方に対して穿刺体の突出方向で前後に相違した位置に設定しても良い。その何れの場合でも、後者の係合部によるフェイルセーフ機能が発揮されるし、かかる係合部による待機位置への保持機構を解除した後で前者の係止手段を解除操作することでランセットを突出方向に付勢変位させて穿刺作動させることが出来る。
【符号の説明】
【0076】
10:ハウジング、11:ランセット、12:圧縮コイルばね、14:ハウジング本体、16:筒状キャップ、30:係止突起、36:操作部、38:前側開口部、56:係止凸部、59:可視部、60:ランセットハブ、62:穿刺針、63:針先、66:カバーキャップ、71:第1可撓アーム、80:係合爪、91:係合部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先鋭な穿刺体を先端部に有するランセットとばね部材とがハウジング内に収容されており、該ランセットが該ばね部材で付勢されることによって、該穿刺体の先端が該ハウジングの開口部から突出して穿刺作動すると共に、該穿刺作動後に該穿刺体の先端が該ハウジング内に入り込んだ引込み位置に後退するようにされたディスポーザブル型採血器具において、
前記ハウジングの前記開口部の周辺部分が、内部を視認可能な透明性を有する可視部とされていると共に、
前記ばね部材が、前記ランセットが前記引込み位置に後退したときに、前記穿刺体の先端の位置よりも該穿刺体の後退方向側に位置している
ことを特徴とするディスポーザブル型採血器具。
【請求項2】
前記ランセットが、前記ばね部材により前記穿刺体の突出方向に付勢された状態で、該穿刺体の先端を前記ハウジング内に収容させた待機位置に配されているときに、該ランセットを該ばね部材の付勢力に抗して該待機位置に保持する係止手段が、該ランセットと該ハウジングとの間に設けられていると共に、
該係止手段による該待機位置への該ランセットの保持を該ハウジング外部からの操作で解除する係止解除手段が設けられている請求項1に記載のディスポーザブル型採血器具。
【請求項3】
前記ランセットにおいて、自由端とされた先端部分が該ランセットの外周面に接近する方向に撓み変形可能とされた可撓アームが突設されていると共に、該ランセットが前記待機位置に配されているときに該可撓アームが係止される係止部が前記ハウジングに設けられており、それら可撓アームと係止部とを含んで前記係止手段が構成されている一方、
外部からの操作によって該可撓アームの先端部分が該ランセットの外周面へ向けて撓み変形することにより、該可撓アームの該係止部への係止を解除する前記係止解除手段が構成されている請求項2に記載のディスポーザブル型採血器具。
【請求項4】
前記可撓アームが、前記ランセットに沿って前記穿刺体の突出方向の前方側から後方側に向かって延びるように突設されており、該可撓アームの延出方向の中間部分において前記係止部に係止されている一方、
前記係止解除手段において外部からの操作が行われる操作部が、該可撓アームの該係止部への係止部分よりも延出方向の先端側に設けられている請求項3に記載のディスポーザブル型採血器具。
【請求項5】
前記穿刺体の先端を覆うカバー部が前記ランセットの先端部に対して分離可能に設けられていると共に、
該ランセットが、前記ばね部材により該穿刺体の突出方向に付勢された状態で、該穿刺体の先端を前記ハウジング内に収容させた待機位置に配されているときに、該ハウジングに対する係合作用に基づいて該ランセットを該ばね部材の付勢力に抗して該待機位置に保持する係合部が、該カバー部に設けられている請求項1〜4の何れか1項に記載のディスポーザブル型採血器具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−56076(P2011−56076A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−209607(P2009−209607)
【出願日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【出願人】(000135036)ニプロ株式会社 (583)
【Fターム(参考)】