説明

デクレピテーション発生傾向の低下を示す炭酸カルシウム及び/又はマグネシウムをベースとする物質の製造

デクレピテーション発生傾向の低下を示す炭酸カルシウム及び/又はマグネシウムをベースとする物質の製造方法であって、炭酸カルシウム及び/又はマグネシウムをベースとする物質が該炭酸カルシウム及び/又はマグネシウムをベースとする物質の量に対して0.05乃至5重量%の量の、アルカリ金属化合物類及び/又は酸類及び/又はアルカリ土類金属化合物類の中から選ばれる少なくとも1種の添加剤で処理される方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デクレピテーション(decrepitation)発生傾向の低下を示す炭酸カルシウム及び/又はマグネシウムをベースとする物質の製造に関する。さらに、本発明は、デクレピテーション発生傾向の低下を示す炭酸カルシウム及び/又はマグネシウムをベースとする物質並びにそのような物質の、ガラス、特にソーダ石灰ガラス又はフロートガラスの製造のための使用に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、デクレピテーションとは、高温にさらすと無機結晶格子同士がばらばらにはじけることとされている。デクレピテーションを生じやすい無機物質が何種類か存在する。本発明は、炭酸カルシウム及び/又はマグネシウムをベースとする物質、好ましくは炭酸カルシウム及び/又はマグネシウム並びに特にドロマイト及び石灰石、のデクレピテーション発生傾向を低下させることに関する。
【0003】
炭酸カルシウム及び/又はマグネシウムは重要な原料、特にガラス製造の重要な原料であり、炭酸カルシウム及び/又はマグネシウムを含む物質がデクレピテーションの発生傾向を示すことは、技術的な理由から不都合なことである。ガラス製造時の温度は1,400℃超に達する。こうした温度では、通常、炭酸カルシウム及び/又はマグネシウムの一部は溶融の前にデクレピテーションを生じて砕け、これがいくつかの不都合をもたらす。
【0004】
炭酸カルシウム及び/又はマグネシウムの、特にガラス製造時のデクレピテーションは、粉塵発生の増加を伴うので厄介である。いくつかの理由から、粉塵の発生はガラス製造に不都合である。
【0005】
一方、この粉塵は、燃焼ガスと共にエアロゾル、いわゆるキャリーオーバーを形成するため、溶融過程から除去され、その結果、物質のロスが生じる。他方、このバッチキャリーオーバーは、熱交換器内のレキュペレータ/再生器を汚す。このため、目詰まりが進み、熱交換が低下し、こうした装置の洗浄のための労力が増す。
【0006】
特にガラス製造時におけるデクレピテーションによる粉塵発生増大の別の不都合な点は、アルカリ性粒子のキャリーオーバーの増大によって上部構造耐火物の腐食が促進され、そのためにガラス炉の寿命が低下することである。さらに、ガラス欠陥の多くは上記耐火物の腐食によって起こり、これは上部構造頭頂部にも当てはまる。
【0007】
ドロマイト及び石灰石に対しデクレピテーションの発生傾向を低下させるために、そうした物質を使用前に予備熱処理することが提案されている。そうすることで、こうした物質の重要な部分は、実際の生産過程で熱変換される前にデクレピテーションを生じて砕ける。そのような方法は、追加の加熱工程が必要であり、環境的、経済的理由で好ましくないため、不利である。
【0008】
別の方法は、使用する炭酸カルシウム及び/又はマグネシウムの一次粒子サイズとこれらのデクレピテーション発生傾向との間に関連があるという事実を利用したものである。特に、1mm未満の臨界一次粒子サイズを有するドロマイト及び石灰石粒子では、デクレピテーション発生傾向の増加がみられる。一次粒子サイズが90μm超、特に150μm超で600μm未満、特に500μm未満のドロマイトではデクレピテーション発生傾向の更なる増大を観察することができる。石灰石では、多くの臨界一次粒子サイズは一般に150乃至1,180μm、特に425乃至850μmである。そのような臨界一次粒子サイズの一次粒子サイズ分布全体に占める量を低下させることによって、例えば、篩過または空気分級を行うことで、ドロマイト及び/又は石灰石のデクレピテーション発生傾向を低下させることができる。しかしながら、重大な不都合は、一般に、ガラス製造に用いる原料ドロマイト粒子の約30乃至60重量%が上記の臨界粒子サイズを示すことである。従って、大量の原料ドロマイトが無駄になり、この方法も満足すべきものではない。
【0009】
独国特許出願公開第1920202(Al)号には、アルカリ金属酸化物及びアルカリ土類金属酸化物の供給源となるアルカリ性無機組成物を用いた無機ガラス、特にソーダ石灰ガラス、の製造方法が記載されている。この方法では、アルカリ土類金属酸化物の供給源である石灰及び/又はドロマイトをアルカリ金属水酸化物水溶液(Na(OH))と反応させる。用いるアルカリ金属水酸化物の量は、ガラス製造に必要なアルカリ金属フラックスの総量の少なくとも50重量%が供給される程度のものである。この方法で得られる反応生成物をガラス製造時に通常用いる石灰及び/又はドロマイトの代わりに用いる場合、バッチのデクレピテーション発生傾向を低下させることができる。
【0010】
上記方法の重要な特徴は、ガラス製造に必要な唯一つの原料供給源を使用することである。この原料供給源はすでにガラス製造に適した量のカルシウム及びナトリウムを含む。しかしながら、そのような方法は、大量のナトリウム金属水酸化物を用いるためにかなりの技術的努力を必要とすることから、不利である。
【0011】
独国特許出願公開第2459840(A1)号には、ペレットとしてバッチを製造する方法であって、ガラスバッチの全ての成分が濃水酸化ナトリウム溶液で処理される方法が記載されている。この水酸化ナトリウムの量は、バッチにおいて必要な酸化ナトリウムの全量又は少なくとも主な量が酸化ナトリウムと等価である水酸化ナトリウムにより供給されるように調整される。こうして製造されるペレットは粉塵を放出しにくい。この方法の欠点は、この場合も、単一の原料供給源、すなわち、大量の水酸化ナトリウムが使用されることである。
【0012】
炭酸カルシウム及び/又はマグネシウムの反応生成物の製造及びガラス製造におけるこうした反応生成物の使用については、独国特許出願公開第2650224(Al)号、米国特許第3726697号及び米国特許第3573887号にも記載されている。これら全ての方法の欠点は、大量の水酸化ナトリウムを使用することである。
【0013】
独国特許出願公開第1471844(Al)号には、金属水酸化物を含むガラス製造に適したガラス化可能な塊を含む混合物を酸性ガスの雰囲気にさらすことについての記載がある。この文献による方法で達成しようとする目的は、そのガラス化可能な塊の各成分が溶融前に分離するのを防ぐことにある。
【0014】
独国特許出願公開第3209618(Al)号には、例えば、ドロマイト、炭酸塩などの粉状無機物質からなる農業及びビル建設用ペレットの安定化方法が記載されている。こうしたペレット又は粒質物の表面を、少なくともある程度は不溶性である希酸又は希アルカリなどの無機物の層で被覆すると、大気の水分その他の成分のペレット材への侵入を防止してこの材の機械抵抗及び化学的安定性を高めることができる。この文献では、上記無機物質についてデクレピテーション発生傾向の低下が達成可能であることにはふれていない。
【0015】
独国特許出願公開第4208068(Al)号には、アルカリ土類金属炭酸塩、特に炭酸バリウム及び炭酸ストロンチウムを粒状化する方法であって、結合剤及び任意選択的に水を加え、この炭酸塩物質を機械力の作用で、又は粒子への成長と同時に乾燥して粒状化し、その後任意選択的にこの顆粒を高温処理することによる粒状化方法が記載されている。結合剤としては水酸化アルカリ類又はケイ酸ナトリウムを用いることができる。出発原料は−沈殿プロセスによってもたらされるため−微粒子化されおり、それ自体デクレピテーションに対して感受性ではない。それ故に、この文献に記載の方法は、出発原料におけるデクレピテーション発生傾向の低減をもたらすものではない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の基礎となっている目的は、炭酸カルシウム及び/又はマグネシウムをベースとする物質に対して経済的で環境に優しい仕方でデクレピテーションの発生傾向を低下させる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
この目的は、デクレピテーション発生傾向の低下した、炭酸カルシウム及び/又はマグネシウムをベースとする物質、特にドロマイト及び石灰石、を製造する方法であって、この物質がこの炭酸カルシウム及び/又はマグネシウムをベースとする物質の量に対して0.05乃至5重量%の量の、アルカリ金属化合物類及び/又は酸類及び/又はアルカリ土類金属化合物類の中から選ばれる少なくとも1種の添加剤で処理される方法によって達成される。
【0018】
本発明の語法では、炭酸カルシウム及び/又はマグネシウムをベースとする物質とは、好ましくは炭酸カルシウム及び/又はマグネシウムを85重量%超、好ましくは90重量%乃至99重量%、最も好ましくは95重量%乃至98重量%の量で含む物質類を意味する。
【0019】
意外にも、炭酸カルシウム及び/又はマグネシウムをベースとする物質、特にドロマイトのデクレピテーション発生傾向は、この炭酸カルシウム及び/又はマグネシウムをベースとする物質の量に対して0.05乃至5重量%という低い量の、アルカリ金属化合物類、酸類及び/又はアルカリ土類金属化合物類の中から選ばれる少なくとも1種の添加剤で処理することで効果的に低減させることができることが見出された。
【0020】
今日の知識では、本発明による方法においてデクレピテーションの発生傾向を低下させるメカニズムは、確信をもって説明することはできないであろう。考えられる説明には、こうした物質の表面における塗膜の形成及び/又は化学反応によるとするものがある。このメカニズムが使用する原料及び条件に依存することはほぼ確実である。
【0021】
本発明の好ましい実施態様では、炭酸カルシウム及び/又はマグネシウムをベースとする物質の処理とは、この物質をこの炭酸カルシウム及び/又はマグネシウムをベースとする物質の量に対して0.05乃至5重量%の量の、アルカリ金属化合物類及び/又は酸類及び/又はアルカリ土類金属化合物類の中から選ばれる少なくとも1種の添加剤で被覆することを意味する。
【0022】
本発明の語法における「被覆する」とは、上記添加剤及び/又はその反応生成物を含有する、場合により部分的な、塗膜の形成を伴うことを意味する。
【0023】
また、本発明による添加剤処理によって炭酸カルシウム及び/又はマグネシウムをベースとする物質のデクレピテーションの発生傾向を低下させる別のメカニズムは、この添加剤と炭酸カルシウム及び/又はマグネシウムをベースとする物質との間に生じる化学反応によるものとも考えられる。この反応は、炭酸カルシウム及び/又はマグネシウムをベースとする物質の粒子の表面で生じると思われ、400℃超に加熱した際に、恐らく中間的な液相が形成されることによって、炭酸カルシウム及び/又はマグネシウムをベースとする物質のデクレピテーション動力学に影響を及ぼすと考えられる。
【0024】
本発明による方法で得られた物質は、デクレピテーションを生じて砕けることも殆どなく、加熱することができる。そのような物質をガラス製造に用いた場合、通常デクレピテーションに関連する問題を著しく低減することができる。特に、粉塵におけるデクレピテーションの著しい発生は殆ど又は全く起こらない。このため、ガラス製造設備の摩耗の低下に加えて、原料利用の改善がもたらされる。
【0025】
当該技術分野の現状とは対照的に、上記のアルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物及び/又は酸は、共試薬としてではなく添加剤として用いる。既知の方法に比し、本発明による方法は、デクレピテーションの発生傾向を低下させるための処理剤としてほんの少量のアルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物及び/又は酸が必要であるという事実によって特徴付けられる。さらに、低濃度の添加剤を有する溶液も使用することができる。本発明による方法では、炭酸カルシウム及び/又はマグネシウムのデクレピテーションの発生傾向は選択的に低減させることができる。さらに、この方法は環境に優しく、コストも削減でき、化学物質の消費量も少ない。
【0026】
本発明の好ましい実施態様では、炭酸カルシウム及び/又はマグネシウムをベースとする物質は、アルカリ金属化合物類、アルカリ土類金属化合物類及び/又は酸類の中から選ばれる少なくとも1種の添加剤を、上記物質に対するこの添加剤の重量比が0.1乃至3重量%、より好ましくは0.2乃至2重量%、特に0.5乃至1.5重量%となるような量で用いて処理する。
【0027】
既に説明したように、本発明の方法において認められるデクレピテーション発生傾向の低減に対する考えられる説明には、上記物質の表面に、部分的にでも膜が形成されることがある。膜が形成される−使用した少量の添加剤に起因する−場合、膜の厚さは、好ましくは5μm未満、より好ましくは2μm未満、特に0.5μm未満である。
【0028】
意外にも、本発明による処理は低温で行うことができることが分かった。実際のアッセイでは、本発明による方法において100℃未満、好ましくは60℃未満、好ましくは10℃乃至50℃、より好ましくは20℃乃至40℃と低い温度、さらには周囲の温度で既に、炭酸カルシウム及び/又はマグネシウムをベースとする物質に対し効果的にデクレピテーションの発生傾向を低下させることができることが明らかとなった。低温の適用は、経済的及び手順的理由で有利である。
【0029】
主として、本発明による方法では、炭酸カルシウム及び/又はマグネシウムをベースとする多くの物質のデクレピテーションの発生傾向を低下させることができる。ドロマイト及び石灰石の処理では、特に著しくデクレピテーションの発生傾向が低下するのを認めることができる。
【0030】
上記で説明したように、特に、一次粒子サイズが90μm超、1mm未満の物質では高度のデクレピテーション発生傾向が見られる。これが、一次粒子サイズが90μm超、1mm未満の粒子を多量含む物質の処理が特に効果的であることが明らかとなった理由である。一次粒子サイズが90μm超、特に150μm超で600μm未満、好ましくは500μm未満の粒子を20重量%乃至80重量%、好ましくは30重量%乃至80重量%、さらに好ましくは40重量%乃至70重量%含むドロマイトの処理及び一次粒子サイズが250乃至1,180μm、特に425乃至850μmの粒子を20重量%乃至80重量%、好ましくは30重量%乃至80重量%、さらに好ましくは40重量%乃至70重量%含む石灰石の処理でデクレピテーションの発生傾向が特に効果的に低下するのを認めることができる。
【0031】
基本的には、こうした物質は、アルカリ金属化合物類、アルカリ土類金属化合物類及び/又は酸類の中から選ばれる多数の添加剤で処理することができる。25℃での水への溶解度が少なくとも0.5%、好ましくは少なくとも5%、より好ましくは少なくとも25%、最も好ましくは少なくとも50%のアルカリ金属化合物類及び/又はアルカリ土類金属化合物類では特に良好な結果が得られる。実際の実験では、酸類、特に鉱酸類、酸素含有酸類及び/又はアルカリ金属化合物類が炭酸カルシウム及び/又はマグネシウムをベースとする物質のデクレピテーションの発生傾向を低下させるのに特に効果的であることが明らかとなった。
【0032】
添加剤として特に好ましいのは、特にアルカリ金属化合物類の水酸化物、炭酸塩、ケイ酸塩、硫酸塩及び/又はハロゲン化物である。アルカリ土類金属類の水酸化物、硫酸塩及びハロゲン化物も適している。水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カリウム(KOH)、水酸化マグネシウム(Mg(OH))、ケイ酸ナトリウム(ケイ酸Na)、ケイ酸カリウム(ケイ酸K)、硫酸ナトリウム(NaSO)、炭酸ナトリウム(NaCO)、炭酸カリウム(KCO)、炭酸マグネシウム(MgCO)、硫酸カリウム(KSO)、硫酸マグネシウム(MgSO)、塩化ナトリウム(NaCl)、臭化ナトリウム(NaBr)、臭化カリウム(KBr)、塩化カルシウム(CaCl)、塩化マグネシウム(MgCl)、塩化カリウム(KCl)又はこれらの混合物は良好な結果を示す。硼酸(HBO)及び硫酸(HSO)も特に良好な処理剤である。多くの上記添加剤は、ガラス製造に悪影響を及ぼさないという特徴を有する。ソーダ石灰ガラスの製造には、NaOH、NaSO4、NaCO3、ケイ酸Na及び/又はHSOが特に適している。上記添加剤で処理した炭酸カルシウム及び/又はマグネシウムをベースとする物質は問題なくガラス製造に用いることができる。
【0033】
炭酸カルシウム及び/又はマグネシウムをベースとする物質の添加剤による処理は種々の仕方で行うことができる。特に簡単な方法は、この物質を上記添加剤及び溶媒を含有する溶液及び/又は懸濁液と接触させることである。実際のアッセイでは、添加剤を含む溶液又は懸濁液を効果的な混合方法を用いてこの物質に適用すれば、極めて良好な処理結果が得られることが明らかとなった。そうすれば、均一な表面処理がもたらされる。また、上記溶液は処理すべき物質に噴霧することもできる。実際のアッセイでは、溶液の量は処理すべき物質の表面がこの溶液によって完全に覆われるようなものであることが好ましいことが明らかとなっている。
【0034】
好ましい溶媒は水である。水は高い溶解能を示すことに加え、除去も容易である。
【0035】
処理後の追加的な乾燥工程は原則として必要ない。しかしながら、実際のアッセイでは、好ましくは150℃未満、より好ましくは40℃乃至110℃の温度で乾燥工程を実施することにより特に良好な結果が得られることが明らかとなっている。
【0036】
溶媒中の添加剤の量は大きく変えることができる。一般に、この量は、使用する添加剤及び溶媒の種類並びに特に、溶媒への添加剤の溶解度に依存している。溶液は、0.5乃至60重量%、好ましくは5乃至60重量%、最も好ましくは25乃至50重量%の量の上記アルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物及び/又は1乃至98%重量%、好ましくは5乃至95重量%、最も好ましくは30乃至90重量%、最も好ましくは50乃至80重量%の上記酸を含有する、好ましくは水をベースとするものを使用することが好ましい。
【0037】
原則として、広範囲の飽和度で添加剤を含む溶液を本発明によって用いることができる。より高濃度の溶液を使用すると、溶液の反応性が向上し、生成物の全体的な取り扱いに、特に運送面からみて有利である。さらに、その生成物は粘着性が少なく、水分の含有量が少ないため必要な乾燥エネルギーの量が減少する。他方、溶媒の含量が高い溶液では、均一化がより容易となり、表面処理がより安定したものとなる。
【0038】
本発明のさらに好ましい実施態様では、炭酸カルシウム及び/又はマグネシウムをベースとする物質は析出状態で表面処理する。本発明の語法における「析出された(educed)」という特徴は、この物質がSiOなどの別のバッチ成分のほんの少量の存在又は好ましくは非存在下に処理することを意味する。こうした別のバッチ成分の存在量は、炭酸カルシウム及び/又はマグネシウムをベースとする物質の量と比較して6倍未満、好ましくは5倍未満、さらにより好ましくは3倍未満、さらにより好ましくは100重量%未満、特に10重量%未満である。この方法は、必要な添加剤の量が極めて少なく、好ましくない副反応又は好ましくない添加剤消費が防止されることから、特に好ましい。
【0039】
本発明による方法では、ピルキントン試験による炭酸カルシウム及び/又はマグネシウムをベースとする物質のデクレピテーション発生傾向は、少なくとも約10%、より好ましくは30%乃至95%、より好ましくは40%乃至90%、最も好ましくは50%乃至80%低減させることができる。
【0040】
さらに、ピルキントン試験の詳細については、「Decrepitation of dolomite and limestone(ドロマイト及び石灰石のデクレピテーション)」、ドリモア(Dollimore)ほか、テルモキミカ・アクタ(Thermochimica Acta)、237、1994年、p.125−131に記載されている。上記文献は、ピルキントンによるデクレピテーション発生傾向の測定に関して引用により本明細書に組み込まれている。
【0041】
本発明の別の対象は、炭酸カルシウム及び/又はマグネシウムをベースとする物質に対してデクレピテーションの発生傾向を低下させる方法であって、この物質がこの炭酸カルシウム及び/又はマグネシウムをベースとする物質の量に対して0.05乃至5重量%の量の、アルカリ金属化合物類及び/又は酸類及び/又はアルカリ土類金属化合物類の中から選ばれる少なくとも1種の添加剤で処理される方法に関する。
【0042】
本発明の別の対象は、デクレピテーション発生傾向の低下を示し、本発明による方法で製造することができる炭酸カルシウム及び/又はマグネシウムをベースとする物質に関する。
【0043】
本発明の別の対象は、一次粒子サイズが90μm超、好ましくは150μm超で1mm未満、好ましくは500μm未満の粒子を20重量%乃至80重量%含む炭酸カルシウム及び/又はマグネシウムをベースとする物質であって、アルカリ金属化合物類及び/又は酸類及び/又はアルカリ土類金属化合物類及び/又はこれらの反応生成物の中から選ばれる少なくとも1種の添加剤で処理され、ピルキントンによるデクレピテーションの発生傾向が0.1%超で10%未満、好ましくは0.5乃至5%、最も好ましくは0.5%乃至3%である物質に関する。
【0044】
本発明による物質は、炭酸カルシウム及び/又はマグネシウムの物質に対して硫黄を0.07乃至3重量%、好ましくは0.1乃至2.5重量%、より好ましくは0.15乃至2重量%、特に0.2乃至1.7重量%、及び/又はナトリウムを0.04乃至4.5重量%、好ましくは0.05乃至4重量%、より好ましくは0.08乃至3.5重量%、特に0.1乃至2.9重量%、及び/又はカリウムを0.08乃至5重量%、好ましくは0.1乃至4.5重量%、より好ましくは0.15乃至4重量%、特に0.2乃至3.5重量%の量で含むことで、現在の技術状態を超えて定義することができる。
【0045】
従って、本発明による物質は、これが、炭酸カルシウム及び/又はマグネシウムのベースに加えて、上記アルカリ金属化合物及び/又は上記アルカリ土類金属化合物及び/又は上記酸である添加剤及び/又はこれらの断片及び/又は反応生成物を含むという事実により現在の技術状態を超えて定義される。
【0046】
これらの追加的な成分の存在については、例えばpH測定によって観察することができる。例えば、本発明による方法において水酸化ナトリウム及び/又は炭酸ナトリウムで処理した炭酸カルシウム及び/又はマグネシウムをベースとする物質のpH値は、通常、10超、好ましくは10.5超、最も好ましくは11超である。さらに、上記添加剤及び/又はこれらの断片及び/又は反応生成物の存在については、例えば、X線−蛍光(XRF:X−Ray−Fluorescence)、原子吸光分光法(AAS:Atomic Absorption Spectroscopy)及び/又は誘導結合プラズマ(ICP:Inductively Coupled Plasma)によって測定することができる。
【0047】
上記物質はガラス又はフロートガラスの製造に特に適している。基本的に、ガラスの製造方法はいくつかの相に分けられる。先ず、ガラスのバッチを的確に混合する。製造ガラスの量の約90重量%に相当するソーダ石灰ガラスの製造には、例えば、以下の原料をガラスバッチに使用する。
【0048】
ケイ砂は、網構造形成のためのほぼ純粋なSiOの担体である。別の成分としては炭酸ナトリウムがあり、フラックス助剤及び酸化ナトリウム担体の働きをする。
【0049】
このバッチの別の重要な成分は石灰石及び/又はドロマイトである。
【0050】
このバッチは約1,500℃の温度の溶解タンクに添加することができる。この粗溶解に続いて精製工程を行ってこの溶解物を清澄化、均一化する。最後に、このバッチを本方法に従って鋳込み、冷却する。
【0051】
本発明による炭酸カルシウム及び/又はマグネシウム物質は、ガラスの製造方法において用いるのに特に適している。本発明による物質は上記の別のバッチ成分類と混合し、溶かすことが好ましい。
【0052】
以下に、本発明を実施例によってさらに説明する。
【実施例】
【0053】
1.実施例1乃至13:ドロマイト試料のデクレピテーション発生傾向の測定
【0054】
1.1 基本手順
【0055】
実施例1乃至13では、以下の操作手順を用いる。
【0056】
ガラス工業で一般に用いられるドロマイトは、乾燥され、90μm乃至500μmの範囲の一次粒子サイズを選択するために分離されている。上記で説明したように、一次粒子サイズが90μm乃至500μmのドロマイトは最もデクレピテーションを生じやすく、従って、ピルキントン試験に最も感受性の画分である。
【0057】
使用する添加剤の量を処理対象のドロマイトの重量パーセンテージとして(下記の)表1のカラム2に示した。添加剤は10cmの水に分散させる。このようにして形成される溶液の全量を試験用攪拌翼混合機のボウル内に入れた100gのドロマイト(90/500μm)に噴霧する。次いで、このドロマイトを30秒間混和することによって均一化する。次に、この均一化ドロマイトを混合機から取り出し、乾燥板上に置き、最後に105℃の乾燥炉内で3時間乾燥する。
【0058】
添加剤と共にドロマイトに加える水の量は、同時に均一な表面処理を可能にし、かつ液体の過剰分をおさえるように選んだ。そうすれば、得られる生成物は粘着性ではなくなる。
【0059】
1.2 試験結果
【0060】
試験結果を以下の表1にまとめた。
【0061】
【表1】

【0062】
表1のカラム3は、ピルキントン試験により測定した実施例1乃至13のデクレピテーション値を示す。
【0063】
実施例1は、本発明による方法で処理されなかった原料ドロマイトのデクレピテーション値を示す。実施例1はカラム4に示したデクレピテーションの低下率を計算するための対照として利用されている。
【0064】
実施例2乃至13は、本発明による方法で処理された原料ドロマイトのデクレピテーション値を示す。実施例2乃至13では11種の処理剤が使用されている。
【0065】
実施例13以外は、処理剤は原料ドロマイトの0.5重量%に相当する量を加える。結果(カラム4)は実施例2乃至13の全てにおいてデクレピテーション発生傾向が対照に比し、少なくとも10%低下することを示している。
【0066】
実施例13では、処理剤(NaOH)の量は原料ドロマイトの1.5重量%に相当する。実施例7乃至13を比較すると、デクレピテーション値の低下に対する使用処理剤の量の増加の効果が分かる(カラム4)。
【0067】
2.実施例14乃至17:ドロマイト試料全体のデクレピテーション発生傾向の測定
【0068】
2.1 基本手順
【0069】
ガラス工業で通常用いられるドロマイト「0乃至2mm」砂を試料分割により各アッセイ毎に800乃至1,200gのチャージで分離し、試験用混合機に添加する。次に、アルカリ金属化合物を10重量%含有する添加剤溶液を作動中の混合機に滴下する。次いで、その混合物を通常の回転速度で約5分間混合する。その後、この湿った試料を混合機から取り出し、乾燥板上に置き、試料の重量がそれ以上変化しなくなるまで(約12乃至24h)105℃の乾燥炉内で乾燥する。その結果得られる試料をピルキントン試験によりそのデクレピテーション発生傾向について試験する(上記参照)。表2は、ピルキントン試験により測定された種々の試料のデクレピテーション発生傾向を示したものである。実施例1乃至13とは対照的に、原料ドロマイトの0乃至2mm画分全体を用いる。
【0070】
2.2 試験結果
【0071】
【表2】

【0072】
実施例17は対照(未処理ドロマイト)である。比較すると、実施例16では水単独の影響が認められていない。
【0073】
水酸化ナトリウムによる処理に関する実施例14では、ケイ酸ナトリウムで処理した実施例15の場合よりもデクレピテーション発生傾向に対して大きな影響が認められている。
【0074】
3.実施例18:工業規模による処理
【0075】
実験室規模の上記実験から、本発明による、アルカリ金属化合物類、アルカリ土類金属化合物類及び/又は鉱酸類の中から選ばれる少なくとも1種の添加剤での原料ドロマイトの処理はドロマイトのデクレピテーション発生傾向の低下に対して好ましい効果を示すことが分かる。この結果を確認するために、連続的な工業規模のプロセスで試験を行う。
【0076】
ガラス工業で通常使用されるドロマイトをその粉砕時に水酸化ナトリウム溶液(NaOH)によって処理する。粉砕ラインの入口では、ドロマイト粒子のサイズは0乃至80mmの範囲である。その出口では、粒子サイズは0乃至3mmの範囲にあると測定されている。上記水酸化ナトリウム溶液は、粉砕機中に落とす際に上記0乃至80mm原料ドロマイトにノズルを通して噴霧する。すなわち、混和工程として粉砕を利用することにより固相と液相との適切な接触を確実にする。この試験に用いる実験条件を表3にまとめた。
【0077】
【表3】

【0078】
実施例1乃至13とは対照的に、(90乃至500μm画分ばかりでなく)粉砕ドロマイトの画分全体(0乃至3mm試料)を処理し、特性化する。ピルキントン試験によるデクレピテーション測定の前に特定の方法で(下記参照)全ての原料のまま(未処理)及び処理済の試料を調製する。これは、ドロマイト試料のデクレピテーション率と含有される90乃至500μm粒子の割合との密接な関連を考慮して行うものである。
【0079】
10の粉砕ドロマイトブランク試料(未処理ドロマイト)を分析し、標準篩(2mm、1mm、0.5mm、0.4mm、0.2mm、0.16mm、0.09mm及び0.063mm)で篩分けしてこれらの粒子サイズ分布を測定する。各ブランク試料について、粒度画分(1乃至2mm、0.5乃至0.4mm、・・・)の割合を記録し、検討したブランク試料で得られた値を使用して平均粒子サイズ分布を計算する。
【0080】
次いで、得られた平均粒子サイズ分布に照らしてNaOH処理試料の粒度分布を再構成する。この手順によって、粒子サイズ分布のいずれの影響も除き、NaOH処理のみの影響に着目するために原料のままの試料と処理済の試料との比較が可能となる。
【0081】
平均粒子サイズ分布では、対象原料ドロマイト試料(未処理)は6%に近いデクレピテーション率を示す。同じ粒子サイズ分布では、1%NaOH溶液で本発明により処理された試料は1.5乃至2%の範囲のデクレピテーション率を示す。こうした値は70%に近いデクレピテーション率の減少に相当する。
【0082】
4.実施例19:本発明により処理したドロマイトの平均組成の測定
【0083】
本発明により処理したドロマイトの平均組成を測定し、未処理ドロマイトの平均組成と比較する。結果を表4に示した。
【0084】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
デクレピテーション発生傾向の低下を示す炭酸カルシウム及び/又はマグネシウムをベースとする物質の製造方法であって、炭酸カルシウム及び/又はマグネシウムをベースとする物質が該炭酸カルシウム及び/又はマグネシウムをベースとする物質の量に対して0.05乃至5重量%の量の、アルカリ金属化合物類及び/又は酸類及び/又はアルカリ土類金属化合物類の中から選ばれる少なくとも1種の添加剤で処理されることを特徴とする方法。
【請求項2】
該物質が該炭酸カルシウム及び/又はマグネシウムをベースとする物質の量に対して0.1乃至3重量%、特に0.5乃至1.5重量%の量の該添加剤で処理されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
該添加剤による該処理が100℃未満の温度で実施されることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
該炭酸カルシウム及び/又はマグネシウムをベースとする物質が炭酸カルシウム及び/又はマグネシウムを85重量%超、好ましくは90重量%超含むことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
ドロマイト及び/又は石灰石が炭酸カルシウム及び/又はマグネシウムをベースとする物質として用いられることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
一次粒子サイズが90μm超で1mm未満の粒子を20乃至80重量%含む炭酸カルシウム及び/又はマグネシウムをベースとする物質が処理されることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
該炭酸カルシウム及び/又はマグネシウムをベースとする物質が水酸化ナトリウム(NaOH)、ケイ酸ナトリウム(ケイ酸Na)、硫酸ナトリウム(NaSO)、炭酸ナトリウム(NaCO)、炭酸カリウム(KCO)、硫酸マグネシウム(MgSO)又は硫酸(HSO)で処理されることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
該炭酸カルシウム及び/又はマグネシウムをベースとする物質が該添加剤及び溶媒を含有する溶液で処理されることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
該アルカリ金属化合物及び/又は該アルカリ土類金属化合物を0.5乃至60重量%、好ましくは5乃至60重量%、最も好ましくは25乃至50重量%の量及び/又は該酸を1乃至98重量%、好ましくは5乃至95重量%、最も好ましくは30乃至90重量%、最も好ましくは50乃至80重量%の量で含有する溶液が用いられることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
該炭酸カルシウム及び/又はマグネシウムをベースとする物質が該炭酸カルシウム及び/又はマグネシウムをベースとする物質の量の6倍未満の量のSiOの存在下に処理されることを特徴とする請求項1乃至9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
ピルキントンによる炭酸カルシウム及び/又はマグネシウムをベースとする物質の該デクレピテーション発生傾向が少なくとも10%、好ましくは30%乃至95%、より好ましくは40%乃至90%、最も好ましくは50%乃至80%低下することを特徴とする請求項1乃至10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
請求項1乃至11のいずれかに記載の方法により製造可能な、デクレピテーション発生傾向が低下した炭酸カルシウム及び/又はマグネシウムをベースとする物質。
【請求項13】
該物質が一次粒子サイズが90μm超、好ましくは150μm超で1mm未満、好ましくは500μm未満の粒子を20重量%乃至80重量%含むことを特徴とする請求項12に記載の物質。
【請求項14】
該炭酸カルシウム及び/又はマグネシウムをベースとする物質が該炭酸カルシウム及び/又はマグネシウムの物質に対して硫黄を0.07乃至3重量%、好ましくは0.1乃至2.5重量%、より好ましくは0.15乃至2重量%、特に0.2乃至1.7重量%、及び/又はナトリウムを0.04乃至4.5重量%、好ましくは0.05乃至4重量%、より好ましくは0.08乃至3.5重量%、特に0.1乃至2.9重量%、及び/又はカリウムを0.08乃至5重量%、好ましくは0.1乃至4.5重量%、より好ましくは0.15乃至4重量%、特に0.2乃至3.5重量%の量で含むことを特徴とする請求項12又は13に記載の物質。
【請求項15】
ガラスの製造における請求項12乃至14のいずれかに記載の物質の使用。

【公表番号】特表2012−502872(P2012−502872A)
【公表日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−527333(P2011−527333)
【出願日】平成21年9月18日(2009.9.18)
【国際出願番号】PCT/EP2009/062107
【国際公開番号】WO2010/031834
【国際公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(509050487)ラインカルク ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (2)
【Fターム(参考)】