説明

デバイスおよび検出方法

【課題】メンブランストリップを用いたエンザイムイムノアッセイにおいて、検出部より基質パッド部の底面を低い位置に設け、検体試料液で乾燥した標識抗体または標識抗原を溶解して毛管現象により検出部に到達させ、つづいて基質液が遅れて検出部に到達するように泳動させることにより、検出感度が高く、正確な検出を行うことができるエンザイムイムノアッセイデバイス及び該デバイスを用いた検出方法の提供。
【解決手段】検体試料液中の被検出物を検出するための、メンブランストリップを用いたエンザイムイムノアッセイであって、メンブランストリップ部の一方の端に吸収パッド部、もう一方の端のメンブランストリップ部上に酵素の基質が乾燥状態で含有されている基質パッド部、前記メンブランストリップ部に検出すべき抗原または抗体と反応する抗体または抗原を酵素で標識した標識抗体または標識抗原が乾燥状態で含有されている標識部、該標識部と前記吸収パッド部の間のメンブランストリップ部に検出すべき抗原または抗体と反応する抗体または抗原が固相化された検出部が設けられており、基質パッド部の底面が検出部より低い位置に存在するエンザイムイムノアッセイデバイスならびに該エンザイムイムノアッセイデバイスを用いて検体試料液中の被検出物の検出方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検体試料液中の抗原または抗体を検出するために用いられるエンザイムイムノアッセイデバイス及びそれを用いた検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
検体試料液中の抗原または抗体を検出する方法としてストリップ状のニトロセルロースメンブラン等のメンブランストリップを用いたエンザイムイムノアッセイが用いられている(特許文献1および特許文献2参照)。
【0003】
従来のメンブランストリップを用いたエンザイムイムノアッセイデバイスの態様を図3に示す。
【0004】
メンブランストリップ部6の一方の端に吸収パッド部7、もう一方の端に基質展開液パッド部8を設け、検出すべき抗原または抗体と反応する抗体または抗原を酵素で標識した標識抗体または標識抗原が乾燥状態で含有されている標識体部9、標識体部9と吸収パッド部7の間のメンブランストリップ部に検出すべき抗原または抗体と反応する抗体または抗原が固相化された検出部10、標識体部9と基質展開液パッド部8の間であって基質展開液パッドとは分離した部分のメンブランストリップ部上に酵素反応により発色する酵素の基質が直接乾燥状態で含有されている基質部11がそれぞれ設けられている。
【0005】
使用時に、検体試料液を標識体部9に加え、つづいて基質展開液パッド部8に基質展開液を加える。検体試料液は標識抗体または標識抗原を溶解させ、検体試料液中の検出すべき抗原または抗体と抗原抗体反応しながら泳動し、検出部10に到達すると固相化されている抗体または抗原に捕捉される。基質展開液は基質を溶解させ、共に同方向に泳動し、捕捉された標識抗体または標識抗原の標識酵素が基質と酵素反応するので検出部10が着色する。
【0006】
一方、検体試料液中に検出すべき抗原または抗体が存在しない場合は、標識抗体または標識抗原が検出部10に捕捉されないので検出部10は着色しない。
【0007】
従って、検体試料液中に検出すべき抗原または抗体が存在するか否かを、検出部10の着色の有無で知ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許3248436号公報
【特許文献2】特許3284896号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記したような従来のエンザイムイムノアッセイデバイスは、メンブランストリップ部に酵素反応により発色する酵素の基質が直接乾燥状態で含有されている。
【0010】
しかしながら、メンブランストリップに直接基質を含有している従来のイムノアッセイデバイスでは、測定に必要な充分量の基質を含有させることができないため、検出感度が得られないという問題がある。
【0011】
本発明者らは、先に酵素の基質を乾燥状態で含有させたパッドをメンブランストリップ部上に設け、検体試料液で乾燥した標識抗体または標識抗原を、基質溶解液で乾燥した酵素の基質をそれぞれ溶解して泳動させることにより、充分量の基質を含有しており、従来のデバイスに比べて、検出感度が高く、正確な検出を行うことができるエンザイムイムノアッセイデバイス及び該デバイスを用いた検出方法を提供できることを見出した(特願2004−88758)。該デバイスは、図4に示す構造を有しており、メンブランストリップ部12の一方の端に吸収パッド部13、もう一方の端のメンブランストリップ部上に酵素の基質が乾燥状態で含有されている基質パッド部14、前記メンブランストリップ部12に検出すべき抗原または抗体と反応する抗体または抗原を酵素で標識した標識体が含有された標識体パッドからなる標識部15、標識部15と吸収パッド部13の間のメンブランストリップ部に検出すべき抗原または抗体と反応する抗体または抗原が固相化された検出部16がそれぞれ設けられている。使用時に、検体試料液を標識部15に加え、つづいて基質溶解液を基質パッド部14に加えて泳動させる。標識体は検体試料液中の検出すべき抗原または抗体と抗原抗体反応しながら泳動し、検出部16に到達すると固相化されている抗体または抗原に捕捉される。基質も同方向に泳動し、捕捉された標識体の標識酵素が基質と反応するので検出部16が着色する。
【0012】
一方、検体試料液中に検出すべき抗原または抗体が存在しない場合は、標識体が検出部16に捕捉されないので検出部16は着色しない。
【0013】
従って、検体試料液中に検出すべき抗原または抗体が存在するか否かを、検出部10の着色の有無で知ることができる。
【0014】
上記のような従来のエンザイムイムノアッセイデバイスおよび上記の先に本発明者が完成させたイムノアッセイデバイスは、水平に置かれたメンブランストリップ部の高低差がない同一平面上に基質部または基質パッド部が設けられており、基質展開液または基質溶解液が基質展開液パッド部または基質パッド部に加えられる。水平なメンブランストリップ部の同一平面上に基質展開液パッド部または基質パッド部が設けられたこれらの従来のエンザイムイムイムノアッセイデバイスでは、基質展開液パッド部または基質パッド部の底面とメンブランストリップ部の面が水平であるため基質展開液または基質溶解液を基質展開液パッド部または基質パッド部に加えたとき、基質が溶解した基質液が基質部または基質パッド部からすぐにメンブランストリップ部に流れ、標識体と検体中の被検出物が検出部に到達する前に酵素と基質が反応して発色しながら移動するため検出部以外の部位のメンブランストリップ上でも発色がおこり、検出部での発色との区別がつかなくなり十分な検出感度が得られないという問題がある。従って、本発明の目的は、毛管現象によって基質がメンブランストリップを泳動する速度を遅延させることにより、標識体と検体中の被検出物が検出部に到達する前に酵素と基質が反応して発色するのを防ぎ、従来のエンザイムイムノアッセイデバイスに比べて、検出感度が高く、正確な検出を行うことができるエンザイムイムノアッセイデバイス及び該デバイスを用いた検出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、鋭意研究を行った結果、検出部より基質パッド部の底面を低い位置に設け、検体試料液で乾燥した標識抗体または標識抗原を溶解して毛管現象により検出部に到達させ、つづいて基質液が遅れて検出部に到達するように泳動させることにより、上記目的が達成できることを見出し本発明を完成させた。すなわち、本発明は、検体試料液中の被検出物を検出するための、メンブランストリップを用いたエンザイムイムノアッセイであって、メンブランストリップ部の一方の端に吸収パッド部、もう一方の端のメンブランストリップ部上に酵素の基質が乾燥状態で含有されている基質パッド部であって、基質パッド部の底面が検出部より低い位置に設けられた基質パッド部、前記メンブランストリップ部に検出すべき抗原または抗体と反応する抗体または抗原を酵素で標識した標識抗体または標識抗原が乾燥状態で含有されている標識部、該標識部と前記吸収パッド部の間のメンブランストリップ部に検出すべき抗原または抗体と反応する抗体または抗原が固相化された検出部を設けたエンザイムイムノアッセイデバイスおよび上記のエンザイムイムノアッセイデバイスを用いて検体試料液中の被検出物を検出する方法であって、検体試料液を標識部に加え、つづいて基質溶解液を基質パッド部に加えて移動させ、連続した一連の反応により起こる前記検出部における着色の有無を観察することにより検体試料液中の被検出物を検出する方法を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の方法により、高感度で特異的な抗原または抗体を検出できるエンザイムイムノアッセイデバイス及び該デバイスを用いた検出方法を確立することができた。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明のエンザイムイムノアッセイデバイスの態様を示す図である。
【図2】検体試料液を加え標識部と基質パッド部に吸収させるための試料部を有する本発明のエンザイムイムノアッセイデバイスの態様を示す図である。
【図3】従来のエンザイムイムノアッセイデバイスの態様を示す図である。
【図4】酵素の基質を乾燥状態で含有させたパッドをメンブランストリップ部上に設けたイムノアッセイデバイスの態様を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のエンザイムイムノアッセイデバイスの構成及びそれを用いた検出方法の具体例を以下に詳細に説明する。
【0019】
1.デバイスの構成
図1は、本発明のエンザイムイムノアッセイデバイスの好ましい実施態様の模式図である。
【0020】
すなわち、メンブランストリップ部1の一方の端に吸収パッド部2、もう一方の端のメンブランストリップ部上に酵素の基質が乾燥状態で含有されている基質パッド部3が設けられ、基質パッド部の底面が検出部より低い位置に設けられた基質パッド部3、前記メンブランストリップ部1に検出すべき抗原または抗体と反応する抗体または抗原を酵素で標識した標識抗体または標識抗原が乾燥状態で含有されている標識部4、該標識部4と前記吸収パッド部2の間のメンブランストリップ部に検出すべき抗原または抗体と反応する抗体または抗原が固相化された検出部5を設けたデバイスである。
【0021】
(1)メンブランストリップ部
メンブランストリップ部の材質は、特に限定されないが、多孔性の吸水性の材質であり、検体試料液や基質液が毛管現象により展開し得る材質である。ニトロセルロース、酢酸セルロース、ナイロン、ポリエーテルスルホン、ポリビニルアルコール、ポリエステル、ガラス繊維、ポリオレフィン、セルロース、これらの混合繊維からなる材質が用いられ、好ましくはニトロセルロースメンブランが用いられる。
【0022】
メンブランの厚さは特に限定されないが、好ましくは100〜200μm程度である。また、メンブランは長方形のストリップで用い、その大きさは、特に限定されないが、通常、3mm〜9mm×40mm〜60mm程度である。
【0023】
(2)吸収パッド部
吸収パッド部は、本発明のエンザイムイムノアッセイデバイスの一端に設けられデバイスを展開する液体を吸収することによりメンブラン上の液体の流れを促進する。
【0024】
吸収パッド部は、多量の液を吸収できるよう、吸水性の材質でできており、例えば、セルロース、ガラス繊維などでできた不織布等が用いられる。また、その大きさは、特に限定されないが、通常、3mm〜15mm×10mm〜40mm、厚さ0.5mm〜3mm程度である。
【0025】
(3)検出部
検出部は、検出すべき抗原または抗体と抗原抗体反応により特異的に結合して検出すべき抗原または抗体を捕捉するための抗体または抗原が固相化されている。抗体または抗原は、例えばライン状に固相化すればよい。固相化は、タンパク質をニトロセルロースメンブラン等の固相に固相化するための公知の方法で行うことができる。抗体は、精製したポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体が用いられる。抗原は、精製した天然の抗原またはリコンビナント抗原が用いられる。
【0026】
(4)標識部
吸水性の材質、例えばスポンジ及びガラス繊維などでできた不織布等の材質が用いられ、その大きさは、特に限定されないが、通常、3mm〜10mm×3mm〜10mm、厚さ0.5mm〜3mm程度で、酵素標識した標識抗体または標識抗原が乾燥状態で含有されている。標識部は、上記の吸水性の材質に標識抗体または標識抗原を含浸させ、乾燥させればよい。標識抗体または標識抗原は、検出すべき抗原または抗体と抗原抗体反応により特異的に結合する抗体または抗原に酵素を標識したものが用いられる。抗体は、精製したポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体が用いられる。抗原は、精製した天然の抗原またはリコンビナント抗原が用いられる。
【0027】
標識に用いる酵素としては、一般的にエンザイムイムノアッセイに用いられるアルカリフォスファターゼ、ペルオキシダーゼ、β−ガラクトシダーゼ等を用いることができる。
【0028】
(5)基質パッド部
吸水性の材質、例えば吸水性のあるスポンジ及びガラス繊維などの不織布等の材質が用いられ、その大きさは、特に限定されないが、通常、3mm〜10mm×8mm〜30mm、厚さ0.5mm〜3mm程度で、酵素の基質が乾燥状態で含有されている。基質パッド部は、吸水パッドと反対側のメンブランストリップ部上に設けられている。基質パッド部は、メンブランストリップ上の検出部よりも低い位置に設けられている。検出部より低い位置に設けられているとは、アッセイデバイスを検査用作業机上などの水平面に置いて検出を行うときに、基質パッド部と検出部の鉛直線方向における位置を比較した場合、基質バッド部が検出部より低い位置に存在することをいう。このように、基質パッド部が検出部より低い位置に存在すると、基質パッド部に添加した基質溶解液の展開が重力に逆らって起こるので、展開速度が遅くなる。基質パッド部の底面が検出部より、2〜8mm低い位置に設けることが好ましいが、これに限定されない。標識部および/または吸収パッドの鉛直線方向の位置は、限定されず検出部と同一の高さで存在していてもよいし、基質パッド部と同一の高さで存在していてもよい。また、標識部および/または吸収パッドは基質パッド部と検出部の間の位置に存在していてもよい。本発明のアッセイデバイスの一つの態様として、図1に示すデバイスが挙げられ、該デバイスにおいては、基質パッド部のみが検出部、標識部、吸収パッド部よりも低い位置に存在しており、検出部、標識部、吸収パッド部はほぼ同一平面上に存在する。
【0029】
基質パッド部を検出部より低い位置に設ける方法も限定されず、いかなる方法であっても基質パッド部と検出部がメンブランストリップ上に接触して存在し、かつ基質パッド部が検出部よりも低い位置に存在する限り、本発明の「基質パッド部は、メンブランストリップ上の検出部よりも低い位置に存在する」に該当する。例えば、図1に示すようにメンブランストリップの基質パッド部を設ける部分のみがメンブランストリップの他の部分よりも低い位置になるように、メンブランストリップに段差を設ければよい。段差は連続した1枚のメンブランストリップを折り曲げるか、あるいは折らずに曲げることにより設けることができる。
【0030】
アッセイデバイスを水平面に置いて検出を行うときに、基質パッド部が検出部よりも低い位置に存在するように、ホルダー等の適当な部品を用いて基質パッド部と検出部との位置関係を調節すればよい。
【0031】
基質としては、酵素反応時に色素が不溶化となる性質を有する基質を用いることが好ましく、例えば、標識酵素がアルカリフォスファターゼの場合には5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリルリン酸/ニトロテトラゾリウムブルー、ガラクトシダーセの場合には5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−β−D−ガラクトピラノシド、ペルオキシダーゼの場合には3,3’−ジアミノベンチジン等を用いることができる。
【0032】
基質溶解液
基質溶解液は、用いる基質により適宜選択されるが、緩衝液又は精製水が用いられ、通常、50〜300μLを検出時に基質パッド部に加えるがこれらに限定されない。
【0033】
(6)検体試料液
本発明にいう検体試料液は、咽頭あるいは鼻腔拭い液、鼻腔吸引液、咽頭あるいは鼻腔洗浄液、唾液、血清、便懸濁液、尿、培養液及びそれらを緩衝液で希釈したものを用いることができるがこれらに限定されない。
【0034】
希釈に用いる緩衝液としては、免疫学的試験に通常使用される緩衝液等を使用することができ、トリス緩衝液、リン酸緩衝液、グッドの緩衝液等が挙げられ、塩化ナトリウム、界面活性剤、ウシ血清アルブミン、アジ化ナトリウム等を適宜加えることができるが、これらに限定されない。
【0035】
(7)被検出物
本発明にいう検出すべき抗原は、何ら限定されず、検出しようとするいかなる物質であってもよい。たとえば、インフルエンザウイルス、アデノウイルス、RSウイルス、ノーウォーク様ウイルス等のウイルス抗原、レジオネラ属菌、溶連菌、MRSA等の細菌抗原、ホルモン等をあげることができるが、これらに限定されない。
【0036】
また、検出すべき抗体も限定されず、上記細菌、ウイルス等に対する抗体が挙げられる。
【0037】
(8)試料部
本発明のアッセイデバイスに、図2に示すように試料部を設けてもよい。試料部は、検体試料液を加え標識部と基質パッド部に吸収させるための部位で、検体試料液をメンブランに直接加えることが好ましいが、吸水性のある材質、例えばスポンジ、ガラス繊維などの不織布等のパッドをメンブラン上に設けその部分に加えることもできる。この場合、試料部のパッドと基質パッド部および/または標識部は接触していてもいなくてもよい。試料部は標識部と基質パッド部の間に設けられ、基質パッド部または標識部と同じ位置にあってもよい。このような試料部を設けることにより、検体試料液を試料部に加えて1回の操作で標識抗体または標識抗原と基質を検体試料液のみで溶解して移動させ、連続した一連の反応により起こる前記検出部における着色の有無を観察することにより検体試料液中の被検出物を検出する。
【0038】
2.本発明のデバイスを用いた検出方法
使用時に、本発明のデバイスを用い、検体試料液を標識部4に加え、つづいて基質溶解液を基質パッド部3に加える。検体試料液は標識抗体または標識抗原を溶解させ、標識抗体または標識抗原は、検体試料液中に検出すべき抗原または抗体が存在すれば抗原抗体反応しながら移動し、検出部5に到達すると固相化されている抗体または抗原に捕捉される。基質液も同方向に移動し、捕捉された標識抗体または標識抗原の標識酵素が基質と反応するので検出部5が着色する。
【0039】
一方、検体試料液中に検出すべき抗原または抗体が存在しない場合は、標識抗体または標識抗原が検出部5に捕捉されないので検出部5は着色しない。
【0040】
従って、検体試料液中に検出すべき抗原または抗体が存在するか否かを、検出部5の着色の有無で判定することができる。なお、捕捉されなかった他の成分及び検体試料液等は吸収パッド部2に吸収される。
【0041】
検体試料液の量は、被検出物により異なるが、通常20〜100μL程度である。検体試料液及び基質溶解液をそれぞれ所定の場所に加えてから着色の有無を判定するまでに要する時間は通常10〜30分間程度である。
【0042】
本発明のエンザイムイムノアッセイデバイスでは、従来のデバイスと異なり、メンブランストリップ部の吸収パッド部と反対側のメンブランストリップ部上に酵素の基質が乾燥状態で含有されている基質パッド部が設けられ、基質パッド部の底面が検出部より低い位置に設定される。
【0043】
基質液は、メンブランストリップ部の毛管現象により吸い上げられるため基質パッド部と検出部の間の高低差を適宜選ぶことにより基質液の流速を遅くすることができ、大部分の標識抗体または標識抗原と被検出物が検出部に到達したのちに基質液が検出部に到達する。このことにより検出に必要な基質を適時に反応の場に供給でき検出感度が上がる。
【0044】
本発明のアッセイデバイスに上記の(8)試料部を設けた場合は以下のような方法でアッセイを行う。検体試料液を図2に示す試料部に加えると検体試料液は標識部4および検出部5より低い位置に存在する基質パッド部3に達し、標識部4と基質パッド部3に吸収され、標識抗体または標識抗原および基質が検体試料液に溶解する。メンブラン上の吸収パッド部2方向への流れが吸収パッド部2に達すると液体は吸収パッド部2に吸収され、全体の流れは基質パッド部3から吸収パッド部2へ向かう。従って、溶解された標識抗体または標識抗原は、吸収パッド部2方向へと移動する。
【0045】
このような試料部を設けたエンザイムイムノアッセイデバイスでは、使用時には、検体試料液を試料部に加えるだけでよく、操作が1ステップとなるため煩雑さがなくなり簡便となる。検体試料液の量は、被検出物により異なるが、通常100〜400μL程度である。
【実施例】
【0046】
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0047】
実施例1
1.抗インフルエンザウイルスモノクローナル抗体の作製
(1)抗A型インフルエンザウイルスNP抗体
A型インフルエンザウイルス抗原をBALB/cマウスに免疫し、一定期間飼育したマウスから脾臓を摘出し、ケラーらの方法(Kohler et al., Nature, vol, 256, p495-497(1975))によりマウスミエローマ細胞(P3X63)と融合した。得られた融合細胞(ハイブリドーマ)を、37℃インキュベーター中で維持し、A型インフルエンザウイルスNP抗原を固相したプレートを用いたELISAにより上清の抗体活性を確認しながら細胞の純化(単クローン化)を行った。取得した該細胞2株をそれぞれプリスタン処理したBALB/cマウスに腹腔投与し、約2週間後、抗体含有腹水を採取した。
【0048】
得られた腹水からプロティンAカラムを用いたアフィニティークロマトグラフィー法により、それぞれIgGを精製し、2種類の精製抗A型インフルエンザウイルスNP抗体を得た。
【0049】
(2)抗B型インフルエンザウイルスNP抗体
B型インフルエンザウイルス抗原を用い、(1)と同様の方法で、2種類の精製抗B型インフルエンザウイルスNP抗体を得た。
【0050】
2.酵素標識抗A型インフルエンザウイルスNP抗体の作製
(1)アルカリフォスファターゼ標識抗A型インフルエンザウイルスNP抗体の作製
精製抗A型インフルエンザウイルスNP抗体のうち1種類について45mgを0.1Mクエン酸緩衝液(pH3.6)で透析後、ペプシン10mgを添加し、37℃で1時間、Fab’消化処理を行った。処理液をウルトロゲルAcA34カラムで分画して抗A型インフルエンザウイルスNP抗体F(ab’)2精製画分を得た。前記画分を約10mg/mLまで濃縮後、0.1Mメルカプトエチルアミンと10:1の体積比で混合し、37℃で90分間還元処理を行った。処理液をウルトロゲルAcA34カラムで分画して抗A型インフルエンザウイルスNP抗体Fab’精製画分を得た後、約1mLにまで濃縮した。
10mg/mLのアルカリフォスファターゼ1.5mLを1mM塩化マグネシウムならびに0.1mM塩化亜鉛を含む50mMホウ酸緩衝液(pH7.6)に透析後、N−(6−マレイミドカプロイルオキシ)スクシンイミド0.7mgを添加し、30℃で1時間処理した。処理後の溶液をセファデックスG−25カラムで分画し、最初のピークを回収してマレイミド−アルカリフォスファターゼを得た後、約1mLにまで濃縮した。
【0051】
濃縮した抗A型インフルエンザウイルスNP抗体Fab’とマレイミド−アルカリフォスファターゼを1:2.3の蛋白比で混合し、4℃で20時間穏やかに撹拌して反応させ、アルカリフォスファターゼ標識抗A型インフルエンザウイルスNP抗体Fab’を得た。更に、反応液をウルトロゲルAcA34カラムで分画し、未反応物を除去して精製アルカリフォスファターゼ標識抗A型インフルエンザウイルスNP抗体Fab’を得た。
【0052】
精製アルカリフォスファターゼ標識抗A型インフルエンザウイルスNP抗体
Fab’は、0.15M塩化ナトリウム、1%(W/V)ウシ血清アルブミン、1.5mM塩化マグネシウム、0.15mM塩化亜鉛、0.09%アジ化ナトリウムを含む10mMトリス緩衝液(pH8.0)の組成からなる標識抗体希釈液で希釈した後、0.22μm孔径の濾過フィルターで濾過し、アルカリフォスファターゼ標識抗A型インフルエンザウイルスNP抗体を得た。
【0053】
(2)アルカリフォスファターゼ標識抗B型インフルエンザウイルスNP抗体の作製
精製抗B型インフルエンザウイルスNP抗体のうち1種類について、(1)と同様の方法で、アルカリフォスファターゼ標識抗B型インフルエンザウイルスNP抗体を得た。
【0054】
3.デバイスの作製
(1)A型インフルエンザウイルス用デバイス
ニトロセルロースメンブラン(HiFlow Plus HF06504 ミリポア社製)を20cm×5cmに切り、このニトロセルロースメンブランの吸収パッド部側のメンブラン端から1cmの位置に精製水を用いて至適濃度に希釈した抗A型インフルエンザウイルスNP抗体液(上記と別のクローン)で幅0.5mmの20cmラインを描き、減圧下で乾燥して抗体を固相化し、カッターで5mm×5cmのストリップに裁断してメンブランストリップ部を作製した。濾紙(WA1.5 ワットマン社製)を5mm×3cmの大きさに裁断し、メンブランストリップ部の端に5mm重ねて吸収パッド部を設けた。
【0055】
ついで、6mm×6mm×0.5mmのポリビニルスポンジに標識抗体を含有させた標識部を検出部から4mm離れたメンブラン上に設けた。該標識部は、10%(W/V)トレハロース、4%(W/V)ウシ血清アルブミン、0.2%(W/V)Triton X−100、1.5mM塩化マグネシウム、0.15mM塩化亜鉛を含む10mMトリス緩衝液(pH8.0)にアルカリフォスファターゼ標識抗A型インフルエンザウイルスNP抗体を至適濃度に加えたものを25μL量ポリビニルスポンジ(F(A)アイオン社製)に含浸させたのち減圧下で乾燥して用いた。
【0056】
更に、該標識部から15mm離れたメンブランストリップ部上に、基質パッド部を設けてデバイスを作製した。
【0057】
メンブランストリップ部の検出部部位と基質パッド部の底面との高低差は3mmに設定した。
【0058】
基質パッド部は、5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリルリン酸/ニトロテトラゾリウムブルー(BCIP/NBT)溶液(B1911 シグマアルドリッチ社製)にトレハロース10%を加えたものを5mm×15mm×2mmのポリビニルスポンジ(F(A)アイオン社製)に含浸させたのち乾燥して用いた。
【0059】
(2)B型インフルエンザウイルス用デバイス
(1)と同様の方法で、B型インフルエンザウイルス用デバイスを作製した。
検出
検体としてA型インフルエンザウイルス抗原液並びにB型インフルエンザウイルス抗原液をそれぞれ用いた。
【0060】
インフルエンザウイルス抗原液を0.15M塩化ナトリウム、0.1%(W/V)ウシ血清アルブミン、1%(W/V)Triton X−100を含む25mMトリス緩衝液(pH8.0)で希釈し検体試料液とした。
【0061】
検体試料液をデバイスの標識抗体部に25μL加え、つづいて基質溶解液を基質パッド部に150μL加え、15分後に判定を行った。
【0062】
比較検討
同時に、従来法デバイスを作製して、操作し比較試験を行った。
【0063】
結果
A型インフルエンザウイルス用デバイスを用いた時、A型インフルエンザウイルス抗原は 6×104(pfu/mL)まで陽性で、B型インフルエンザウイルス抗原は陰性となり特異的にA型インフルエンザウイルス抗原を検出できることが確かめられた。
【0064】
B型インフルエンザウイルス用デバイスを用いた時、B型インフルエンザウイルス抗原は 6×104(pfu/mL)まで陽性で、A型インフルエンザウイルス抗原は陰性となり特異的にB型インフルエンザウイルス抗原を検出できることが確かめられた。
【0065】
一方、比較法は特異的に抗原を検出できるが検出感度が本発明法より低かった。
得られた結果を表1及び表2に示す。
【0066】
【表1】

【0067】
【表2】

【0068】
表1及び2に示すように、高感度で特異的な抗原を検出できることがわかる。
【符号の説明】
【0069】
1 メンブランストリップ部
2 吸収パッド部
3 基質パッド部
4 標識部
5 検出部
6 メンブランストリップ部
7 吸収パッド部
8 基質展開液パッド部
9 標識体部
10 検出部
11 基質部
12 メンブランストリップ部
13 吸収パッド部
14 基質パッド部
15 標識部
16 検出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体試料液中の被検出物を検出するための、メンブランストリップを用いたエンザイムイムノアッセイデバイスであって、メンブランストリップ部の一方の端に吸収パッド部、もう一方の端のメンブランストリップ部上に酵素の基質が乾燥状態で含有されている基質パッド部、前記メンブランストリップ部に検出すべき抗原または抗体と反応する抗体または抗原を酵素で標識した標識抗体または標識抗原が乾燥状態で含有されている標識部、該標識部と前記吸収パッド部の間のメンブランストリップ部に検出すべき抗原または抗体と反応する抗体または抗原が固相化された検出部が設けられており、基質パッド部の底面が検出部より低い位置に存在するエンザイムイムノアッセイデバイス。
【請求項2】
請求項1記載のエンザイムイムノアッセイデバイスを用いて検体試料液中の被検出物を検出する方法であって、検体試料液を標識部に加え、つづいて基質溶解液を基質パッド部に加えて泳動させ、連続した一連の反応により起こる前記検出部における着色の有無を観察することにより検体試料液中の被検出物を検出する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−258136(P2009−258136A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−186079(P2009−186079)
【出願日】平成21年8月10日(2009.8.10)
【分割の表示】特願2004−151911(P2004−151911)の分割
【原出願日】平成16年5月21日(2004.5.21)
【出願人】(591125371)デンカ生研株式会社 (72)