説明

トナーおよびその製造方法

【課題】ロジンの含有量を多くしても、耐ホットオフセット性が低下することなく、トナー粒子がブロッキングしにくい溶融混練法トナーの製造方法を提供する。
【解決手段】少なくともベンゼンジカルボン酸および不均化ロジンとグリセリンとからなるポリエステル樹脂Aならびに少なくともベンゼンジカルボン酸およびビスフェノールA誘導体からなるポリエステル樹脂Bを含むバインダー樹脂;セルロースナノファイバー;および着色剤;および離型剤を含むことを特徴とするトナー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融混練法トナーおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
潜像を顕像化するトナーは、種々の画像形成プロセスに用いられており、たとえば電子写真方式の画像形成プロセスに用いられる。
電子写真方式の画像形成プロセスを利用する画像形成装置においては、一般的に、潜像担持体である感光体ドラム表面の感光層を均一に帯電させる帯電工程;帯電状態にある感光体ドラム表面に原稿像の信号光を投射して静電潜像を形成する露光工程;感光体ドラム表面の静電潜像に電子写真用トナーを供給して顕像化する現像工程;感光体ドラム表面のトナー像を紙やOHPシートなどの記録媒体に転写する転写工程;トナー像を加熱、加圧などにより記録媒体上に定着させる定着工程;およびトナー像転写後の感光体ドラム表面に残留するトナーなどをクリーニングブレードにより除去して清浄化するクリーニング工程;を実行して記録媒体上に所望の画像が形成される。記録媒体へのトナー像の転写は、中間転写媒体を介して行われることもある。
【0003】
このような画像形成に使用される電子写真用トナーは、たとえば混練粉砕法、懸濁重合法および乳化重合凝集法などに代表される重合法などによって製造される。
このうち混練粉砕法では、バインダー樹脂および着色剤を主成分とし、必要に応じて離型剤、電荷制御剤などを添加して混合したトナー原料を溶融混練し、冷却して固化させた後、粉砕分級することでトナーを製造することもできる。
【0004】
近年、地球環境保全の観点から、様々な技術分野において多くの取り組みがなされている。現在、多くの製品の材料が石油から製造されているが、これらの材料の製造時や焼却時には、エネルギーが必要であり、また、二酸化炭素が発生する。このようなエネルギーや二酸化炭素などを削減する取り組みは、地球温暖化対策として非常に重要である。
【0005】
地球温暖化対策としての二酸化炭素削減の新たな取り組みとして、バイオマスとよばれる植物由来の資源の利用が大いに注目されている。バイオマスを燃焼させる際に発生する二酸化炭素は、もともと植物が光合成により取り込んだ大気中の二酸化炭素であるため、大気中の二酸化炭素の収支はゼロであるものと考えられている。
【0006】
このように、大気中の二酸化炭素の増減に影響を与えない性質はカーボンニュートラルと呼ばれており、カーボンニュートラルであるバイオマスの利用は、大気中の二酸化炭素量を増加させないと考えられている。
【0007】
このようなバイオマスから製造されるバイオマス材料は、バイオマスポリマー、バイオマスプラスチック、非石油系高分子材料などの名称でよばれており、このようなバイオマス材料は、バイオマスモノマーとよばれるモノマーを原料とする。
【0008】
電子写真の分野においても、環境安全性に優れ、二酸化炭素の増加の抑制に有効な資源であるバイオマスを利用する取り組みがなされている。
【0009】
たとえば、特許文献1には、ロジンを必須成分として得られる軟化点80〜120℃のポリエステル樹脂と、多価エポキシ化合物を必須成分として得られる軟化点160℃以上のポリエステル樹脂とを含有し、低温定着性、耐ホットオフセット性、現像耐久性を兼ね備えるトナーを得ることができる、電子写真トナー用樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2008−122509号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、結着樹脂中のロジンの含有量を多くすると、耐ホットオフセット性が低下するため、トナー中のロジン含有量を多くすることが難しかった。
この問題に対して、結着樹脂の原料として70重量%以上のロジン成分(アビエチン酸誘導体)とグリセリンと、必要に応じて加えられる芳香族ジカルボン酸とを重縮合して得られるポリエステル樹脂Aと、芳香族ジカルボン酸と2価のアルコールと、3価のアルコールとを重縮合して得られ、ポリエステル樹脂Aより分子量の大きなポリエステル樹脂Bからなる結着樹脂を用いることにより、耐ホットオフセット性を向上させることができるが、高温環境下において、現像装置内でトナー粒子がブロッキング(凝集)するといった課題があった。
【0012】
そこで、本発明は、ロジンの含有量を多くしても、耐ホットオフセット性が低下することなく、トナー粒子がブロッキングしにくい溶融混練法トナーの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の発明者は、鋭意努力研究を重ねた結果、溶融混練法トナーの製造方法において、少なくとも不均化ロジンおよびグリセリンから製造されるポリエステル樹脂Aと、芳香族ジカルボン酸および多価アルコールから製造されるポリエステル樹脂Bとを含むバインダー樹脂と、セルロースナノファイバーと、着色剤とを混合し、トナー材料混合物を調製する混合工程と、トナー材料混合物を溶融混練し、トナー材料混練物を調製する混練工程とを含む溶融混練法トナー製造方法を確立し、該方法により製造されるトナーが、トナー粒子のブロッキングを抑えることができることを見出し、本発明の完成に至った。
【0014】
かくして、本発明によれば、少なくともベンゼンジカルボン酸および不均化ロジンとグリセリンとからなるポリエステル樹脂Aならびに少なくともベンゼンジカルボン酸およびビスフェノールA誘導体からなるポリエステル樹脂Bを含むバインダー樹脂;セルロースナノファイバー;着色剤;および離型剤を含むことを特徴とするトナーが提供される。
【0015】
また、本発明によれば、前記セルロースナノファイバーが、数平均繊維径2〜150nmを有し、数平均繊維長50〜500μmを有し、前記バインダー樹脂に対して、0.5〜2重量部の割合で含まれるトナーが提供される。
【0016】
また、本発明によれば、前記着色剤が、カーボンブラックであり、前記トナーが、疎水性シリカ微粉子が外添されたトナーが提供される。
【0017】
さらに、本発明によれば、トナーの製造方法において、少なくともベンゼンジカルボン酸、不均化ロジンおよびグリセリンから製造されるポリエステル樹脂Aおよび少なくともベンゼンジカルボン酸およびビスフェノールA誘導体から製造されるポリエステル樹脂Bを含むバインダー樹脂、セルロースナノファイバー、着色剤および離型剤とを混合して混合物を作製する混合工程;
前記混合物を溶融混練して溶融混練物を作製する溶融混練工程;
前記混練物を冷却固化し、粉砕して粉砕物を作製する冷却粉砕工程;
前記粉砕物を分級する分級工程;および
疎水性シリカ微分子をさらに添加し、混合する外添工程
とを含むことを特徴とするトナーの製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、溶融混練法トナー製造方法において、少なくともベンゼンジカルボン酸、不均化ロジンおよびグリセリンから製造されるポリエステル樹脂Aと、ベンゼンジカルボン酸およびビスフェノールA誘導体から製造されるポリエステル樹脂Bとを含むバインダー樹脂と、セルロースナノファイバーと、着色剤とを混合し、溶融混練してトナー材料混練物を調製する混練工程とを含むことにより、トナー粒子のブロッキングを抑えることができる。
【0019】
この効果が得られるメカニズムとしては、以下のように推定される。
すなわち、不均化ロジンとグリコールとの重縮合成分を含むトナーにおいて、ブロッキングが生じやすい原因として、不均化ロジンの分子が嵩高い構造を有するために、重縮合成分の末端に1つまたは2つの未反応の水酸基を有するグリコールが残りやすく、その未反応の水酸基が水分または湿気を吸着するため、トナー粒子同士の凝集力が大きくなったと考えられる。
【0020】
これに対して本発明においては、不均化ロジンとグリコールとの重縮合成分の末端に1つまたは2つの未反応の水酸基を有するグリコールは、水酸基などの極性基を有するセルロースナノファイバーとなじみやすいので、セルロースナノファイバー表面にグリコールの水酸基が選択的に吸着(あるいは水素結合)することによって、親水性官能基がブロックされトナーの吸湿性が低下し、トナーの耐ブロッキング性が向上したと推定される。
【0021】
また、セルロースナノファイバーの数平均繊維径が小さすぎると、定着強度(樹脂強度)が低下しやすく、数平均繊維径が大きすぎると低温定着性が低下する。
【0022】
この発明にあっては、セルロースナノファイバーの数平均繊維径が2〜150nmであり、数平均繊維長が50〜500μmであることにより、セルロースナノファイバーの添加量を少なくできるので、安定した耐ブロッキング性効果が得られる。
【0023】
また、セルロースナノファイバーの添加量が少なすぎると、耐ブロッキング性の向上効果が得られにくく、セルロースナノファイバーの添加量が多すぎると、定着強度(接着性)が低下し、定着強度が低下しやすくなる。
【0024】
この発明にあっては、セルロースナノファイバーが、結着樹脂100重量部に対して、0.5〜2重量部であることによって、定着強度を著しく損なうことなく、耐ブロッキング性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明のトナーの製造方法の手順の一例を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明によるトナーは、少なくともベンゼンジカルボン酸、不均化ロジンおよびグリセリンから製造されるポリエステル樹脂Aと、少なくともベンゼンジカルボン酸およびビスフェノールA誘導体から製造されるポリエステル樹脂Bとを含むバインダー樹脂として含有する。
【0027】
通常、ロジンは、松材をクラフト法によってパルプ化する製造工程で、副生する粗トール油を水蒸気蒸留して得られるトールロジン;松の樹幹に傷をつけ、採集した生松ヤニを水蒸気蒸留して得られるガムロジン;および伐採した松の根株をチップ状にして有機溶剤で抽出し、さらに蒸留して得られるウッドロジンがある。これらのロジンは、従来知られた製法によって得られる。
【0028】
ロジンは、その約90%が樹脂酸であり、アビエチン酸、パラストリン酸、ネオアビエチン酸、ピマル酸、デヒドロアビエチン酸、イソピマル酸およびサンダラコピマル酸等の樹脂酸の混合物を主成分としている。
【0029】
ロジンの不均化反応は、通常、パラジウム活性炭触媒(米国特許第2177530号公報)、硫黄系触媒(特公昭49−5360号公報)またはヨウ素系触媒(特開昭51−34896号公報)等を用いて行われる。
【0030】
上記の不均化反応により2分子のロジンが反応し、1分子は2重結合が3つに増え、芳香族化合物となり、もう1分子は、共役2重結合の1つの2重結合が水素化され単独の2重結合を有する化合物となり、これらの不均化ロジンは、不安定な共役二重結合を有するロジンに比べて変質しにくいという特徴がある。
【0031】
不均化ロジンの主成分は、デヒドロアビエチン酸およびジヒドロアビエチン酸の混合物である。不均化ロジンは、ヒドロフェナンスレン環の嵩高で剛直な骨格を含むので、不均化ロジンをポリエステルの構成成分として導入することによって、不均化ロジン以外のロジンを用いる場合よりも見掛けのガラス転移温度の上昇を促進させ、保存性の良好なトナーを得ることができる。
【0032】
したがって、本発明におけるポリエステル樹脂Aには、上記の不均化ロジンが用いられる。
また、本発明において用いられている用語「ロジン」とは、上記のトールロジン、ガムロジンおよびウッドロジンに加えて、これらロジンの不均化反応により得られる不均化ロジンをも含むものである。
【0033】
1.トナーの製造方法
図1は、本発明のトナーの製造方法の手順の一例を示す工程図である。本発明のトナーは、バインダー樹脂とセルロースナノファイバーを重要成分とし、本発明に係るトナーの製造方法によって製造される。本発明に係るトナーの製造方法は、乾式法による粒子形成方法であり、混合工程S1と、溶融混練工程S2と、冷却粉砕工程S3と、分級工程S4と、外添工程S5とを含む。
【0034】
(1)混合工程S1
混合工程S1では、バインダー樹脂、カーボンブラックおよびアビエチン酸とアクリル酸の反応生成物を混合機によって乾式混合して混合物を作製する。この際、必要に応じて添加剤を加える。添加剤としては、磁性粉、離型剤、電荷制御剤などが挙げられる。
【0035】
(バインダー樹脂)
本発明のトナーは、バインダー樹脂として、ポリエステル樹脂Aおよびポリエステル樹脂Bを含有する。
【0036】
本発明によるポリエステル樹脂Aは、少なくとも酸成分としてのベンゼンジカルボン酸および不均化ロジンと多価アルコールとしてのグリセリンとを重縮合して得られ、ポリエステル樹脂Bは、少なくとも酸成分としてのベンゼンジカルボン酸および多価アルコールとしてのビスフェノールA誘導体とを重縮合して得られる。
【0037】
このようにして得られるポリエステル樹脂AおよびBは、適度な分岐構造を含むことにより、樹脂の軟化温度を極端に大きくすることなくトナーの低温定着性を維持するとともに、樹脂の分子量分布を広くすることができ、高分子量側に分布の広い樹脂を得ることができるので、トナーの耐オフセット性が良好になる。
【0038】
不均化ロジンの含有量は、ポリエステル樹脂Aおよびポリエステル樹脂Bからなるバインダー樹脂(100重量%)に対して25〜50重量%が好ましい。
バインダー樹脂における不均化ロジンの含有量が25重量%未満であると、バイオマスを利用することによる地球環境保全の効果が低くなり、また、不均化ロジンの含有量が50重量部を超えると、トナーの機械的強度の低下や粉体流動性の低下が生じ易くなるので好ましくない。
【0039】
ポリエステル樹脂Aおよびポリエステル樹脂Bは、公知の重縮合の反応方法によって製造される。
反応方法としては、エステル交換反応または直接エステル化反応が適用できる。また、加圧により反応温度を上昇させることなどによって重縮合を促進することもできる。
【0040】
上記反応においては、アンチモン、チタン、スズ、亜鉛、アルミニウム、およびマンガンのうち、少なくとも1種の金属化合物等、公知慣用の反応触媒を用い、反応を促進してもよい。これら反応触媒の添加量は、酸成分および多価アルコールの総量100重量部に対して、0.01〜1.0重量部が好ましい。
【0041】
ポリエステル樹脂Aに用いられるベンゼンジカルボン酸としては、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ビフェニルジカルボン酸、5−tert−ブチル−1,3−ベンゼンジカルボン酸などが挙げられる。また、ポリエステル樹脂Aの酸成分として、上記のベンゼンジカルボン酸の代わりに、ベンゼンジカルボン酸無水物、またはベンゼンジカルボン酸の低級アルキルエステルなどのようなベンゼンジカルボン酸誘導体を用いてもよい。
上記のベンゼンジカルボン酸化合物のうち、テレフタル酸、イソフタル酸またはそれらの低級アルキルエステルの少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0042】
テレフタル酸およびイソフタル酸は、芳香環骨格による電子の共鳴安定化効果が高く、帯電安定性に優れ、適度な強度を有する樹脂を得ることができる。テレフタル酸およびイソフタル酸の低級アルキルエステルとしては、テレフタル酸ジメチル、イソフタル酸ジメチル、テレフタル酸ジエチル、イソフタル酸ジエチル、テレフタル酸ジブチル、イソフタル酸ジブチル等が挙げられる。このうち、コストおよび取り扱いの観点から、テレフタル酸ジメチルまたはイソフタル酸ジメチルを用いることが好ましい。
これらのベンゼンジカルボン酸化合物は、1種を単独で使用でき、または2種以上を併用できる。
【0043】
ポリエステル樹脂Aに用いられる多価アルコールとしては、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセリン、1,3−プロパンジオールおよびペンタエリスリトールなどが挙げられ、これらの多価アルコールのうち、少なくとも1種を使用できる。このうち、グリセリンは、植物由来の原料から製造する手法が工業的に確立されており、入手も容易であり、バイオマスの利用を促進する効果が得られるのでより好ましい。
【0044】
ポリエステル樹脂Aにおいて、ベンゼンジカルボン酸化合物に対する多価アルコールのモル比は、1.05〜1.65であることが好ましい。
【0045】
ベンゼンジカルボン酸化合物に対する多価アルコールのモル比が1.05未満の場合、樹脂の高分子量側の分子量分布が広くなり、Tmが高くなることによってトナーの低温定着性が低下し、また、分子量分布の広がりを制御できなくなる結果、トナーのゲル化が起こる。
【0046】
多価アルコールのモル比が1.65を超える場合、ポリエステル樹脂が含む分岐構造が少ないので、軟化温度およびガラス転移温度が低下し、その結果、トナーの保存性が低下する。
上記のように、ポリエステル樹脂Aは、少なくとも酸成分としてのベンゼンジカルボン酸および不均化ロジンと多価アルコールとしてのグリセリンとを重縮合して得られる。本発明は、環境安全性に優れたトナーを得るために、ポリエステル樹脂Aの前提となる構成として、出発物質全量における不均化ロジンの含有量を60重量%以上としている。
【0047】
不均化ロジンの含有量は、ポリエステル樹脂A(100重量%)に対して60重量%〜75重量%が好ましい。
不均化ロジンの含有量が60重量%未満であると、バイオマスを利用することによる地球環境保全の効果が低く、ロジンの含有量が75重量%を超えると、トナーの機械的強度の低下や粉体流動性の低下が生じる。
【0048】
ポリエステル樹脂Aは、酸成分として、上記のベンゼンジカルボン酸化合物および不均化ロジン以外に、脂肪族ポリカルボン酸または3塩基酸以上のカルボキシ基を有する芳香族ポリカルボン酸をさらに用いることができる。
【0049】
脂肪族ポリカルボン酸としては、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸等のアルキルジカルボン酸類、炭素数16〜18のアルキル基で置換されたコハク酸、フマル酸、マレイン酸、シトラコン酸、イタコン酸、グルタコン酸等の不飽和ジカルボン酸類、ダイマー酸等が挙げられる。
【0050】
ポリエステル樹脂A中の脂肪族ポリカルボン酸の含有量は、ベンゼンジカルボン酸化合物100モルに対し、0.5モル〜15モルであることが好ましく、1モル〜13モルであることがより好ましい。ポリエステル樹脂A中の脂肪族ポリカルボン酸の含有量が上記の範囲であることで、トナーの低温定着性が向上する。
【0051】
3塩基酸以上のカルボキシ基を有する芳香族ポリカルボン酸としては、トリメリット酸、ピロメリット酸、ナフタレントリカルボン酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、ビフェニルテトラカルボン酸やその無水物等が挙げられる。これらの芳香族ポリカルボン酸は1種を単独で使用でき、または2種以上を併用してもよい。これらの芳香族ポリカルボン酸のうち、反応性の観点から、無水トリメリット酸を用いることが好ましい。
【0052】
ポリエステル樹脂A中の3塩基酸以上のカルボキシ基を有する芳香族ポリカルボン酸の含有量は、ベンゼンジカルボン酸化合物100モルに対し、0.1モル〜5モルであることが好ましく、0.5モル〜3モルであることがより好ましい。ポリエステル樹脂A中の3価以上の芳香族ポリカルボン酸の含有量が0.1モル未満であると、ポリエステル樹脂Aの分岐構造が充分でなく、高分子量側に分布の広いポリエステル樹脂Aを得ることができないので、トナーの耐オフセット性が低下するおそれがある。また、5モルを超えると、ポリエステル樹脂Aの軟化温度が高くなるので、トナーの低温定着性が低下するおそれがある。
【0053】
またポリエステル樹脂Aは、多価アルコールとして、3価以上のアルコール以外に、脂肪族ジオールおよびエーテル化ジフェノールの少なくとも1種をさらに用いることができる。
【0054】
脂肪族ジオールとしては、たとえば、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,4−ブテンジオール、2−メチルー1,3−プロパンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、2−エチルー2−メチルプロパンー1,3−ジオール、2−ブチルー2−エチルプロパンー1,3−ジオール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチルー1,5−ペンタンジオール、2−エチルー1,3−ヘキサンジオール、2,4−ジメチルー1,5−ペンタンジオール、2,2,4−トリメチルー1,3−ペンタンジオール、1,7−へプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、3−ヒドロキシー2,2−ジメチルプロピルー3−ヒドロキシー2,2−ジメチルプロパノエート、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール等が挙げられる。これらの脂肪族ジオールのうち、酸との反応性および樹脂のガラス転移温度の観点から、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、またはネオペンチルグリコールを用いることが好ましい。これら脂肪族ジオールは1種を単独で使用でき、または2種以上を併用してもよい。
【0055】
ポリエステル樹脂A中の脂肪族ジオールの含有量は、ベンゼンジカルボン酸化合物100モルに対し、5〜20モルであることが好ましい。
【0056】
ポリエステル樹脂Aの含有量は、トナー100重量部に対して20〜60重量部であることが好ましい。
ポリエステル樹脂Aの含有量が20重量部未満であると、トナーの粘度が高くなり、トナーの低温定着性が損なわれる。また、ポリエステル樹脂Aの含有量が60重量部を超えると、ロジンの含有量が高くなるため、トナーの機械的強度の低下や粉体流動性の低下が生じる。
【0057】
エーテル化ジフェノールは、ビスフェノールAとアルキレンオキサイドを付加反応させて得られるジオールである。アルキレンオキサイドとしては、エチレンオキサイドやプロピレンオキサイドが挙げられ、ビスフェノールA1モルに対して、平均付加モル数が2〜16モルとなるよう付加されることが好ましい。
【0058】
ポリエステル樹脂B中のエーテル化ジフェノールの含有量は、ベンゼンジカルボン酸化合物100モルに対し、25〜65モルであることが好ましい。
ポリエステル樹脂Bは、実質的に不均化ロジンを含まないポリエステル樹脂であり、トナーに高温オフセット耐性を付与するため、高分子量かつ高粘度を有することが好ましい。
【0059】
ポリエステル樹脂Bの酸成分としては、ポリエステル樹脂Aと同様のベンゼンジカルボン酸化合物を用いることができる。ポリエステル樹脂Aおよびポリエステル樹脂Bが含むベンゼンジカルボン酸化合物は、同一であってもよいし、異なっていてもよい。またポリエステル樹脂Bは、出発物質の酸成分として、上記のベンゼンジカルボン酸化合物以外に、ポリエステル樹脂Aと同様の脂肪族ポリカルボン酸または3塩基酸以上のカルボキシ基を有する芳香族ポリカルボン酸をさらに用いることができる。これらの酸成分は、ポリエステル樹脂AおよびBで同一のものを用いてもよいし、異なるものを用いてもよい。
【0060】
また、ポリエステル樹脂Bの酸成分として、飽和多塩基酸および不飽和多塩基酸等の多塩基酸、その酸無水物、およびこれらの低級アルキルエステルを用いることができる。
【0061】
飽和多塩基酸、飽和多塩基酸、および飽和多塩基酸の低級アルキルエステルとしては、例えばアジピン酸、セバシン酸、オルソフタル酸、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、コハク酸、無水コハク酸、炭素数8〜18個のアルキルコハク酸、アルキル無水コハク酸、アルケニルコハク酸、アルケニル無水コハク酸等の二塩基酸類;トリメリット酸、無水トリメリット酸、シアヌール酸、ピロメリット酸、無水ピロメリット酸等が挙げられる。
【0062】
不飽和多塩基酸としては、例えばマレイン酸、無水マレイン酸、フマール酸等が挙げられる。
飽和多塩基酸および不飽和多塩基酸は1種を単独で使用でき、または2種以上を併用してもよい。また、必要に応じ、安息香酸、p−tert−ブチル安息香酸等の一塩基酸を用いてもよい。
【0063】
ポリエステル樹脂Bの多価アルコールとしては、ポリエステル樹脂Aと同様に、3価以上のアルコール、脂肪族ジオールおよびエーテル化ジフェノールを用いることができ、ポリエステル樹脂Aと同一のものを用いてもよいし、異なるものを用いてもよい。また、シクロヘキサンジメタノール等の脂環族ジオール類を用いてもよい。多価アルコールは単独で用いても良いし、2種以上を併用してもよい。さらに、必要に応じてステアリルアルコール等のモノアルコール類を、本発明の効果を損なわない範囲内で用いてもよい。
【0064】
ポリエステル樹脂Bの粘度は、ポリエステル樹脂Aの軟化温度において10〜10Pa・sが好ましい。
ポリエステル樹脂Aの軟化温度におけるポリエステル樹脂Bの粘度が10Pa・s未満であると、トナーの耐ホットオフセット性が得られ難い。
【0065】
また、ポリエステル樹脂Aの軟化温度におけるポリエステル樹脂Bの粘度Bが10Pa・sを超えると、混練時におけるポリエステル樹脂Aとポリエステル樹脂Bとの溶融粘度差が大きく、樹脂の混合性が悪くなり、トナー中のポリエステル樹脂Aおよびポリエステル樹脂Bの分散性が不均一となる。その結果トナー粒子においてポリエステル樹脂Aの比率が高い部分は破壊され易く、破壊によって粒子径の小さな微粉が発生する。このような微粉により、粒度分布および帯電分布が広くなり、画像かぶりなどの不具合が生じ易くなる。
【0066】
ポリエステル樹脂Aおよびポリエステル樹脂Bのガラス転移温度は、特に制限されず広い範囲から適宜選択できるが、得られるトナーの保存性および低温定着性などを考慮すると、45〜80℃が好ましく、50〜65℃であることがより好ましい。ポリエステル樹脂Aおよびポリエステル樹脂Bのガラス転移温度が45℃未満であると、トナーの保存性が不充分になるため画像形成装置内部でトナーが熱凝集しやすくなり、現像不良が発生する。またホットオフセットが発生し始める温度(以後、「ホットオフセット開始温度」と記す)が低下する。
【0067】
「ホットオフセット」とは、定着部材によりトナーを加熱および加圧して記録媒体に定着させる際に、加熱されたトナー粒子の凝集力が、トナーと定着部材との接着力を下回ることによってトナー層が分断され、トナーの一部が定着部材に付着して取去られる現象のことである。またポリエステル樹脂A、Bのガラス転移温度が80℃を超えると、トナーの低温定着性が低下し、定着不良が発生し易い。
【0068】
バインダー樹脂には、本発明の目的を達成することができる範囲で、ポリスチレン系重合体、スチレン−アクリル系樹脂等のポリスチレン系共重合体、上記ポリエステル樹脂以外のポリエステル樹脂等、従来トナー用バインダー樹脂として使用されている樹脂が上記ポリエステル樹脂とともに用いられてもよい。
【0069】
(セルロースナノファイバー)
本発明に使用できるセルロースナノファイバーとは、最大繊維径が1000nm以下かつ数平均繊維径が2〜150nmであり、かつ数平均繊維径が50〜500nmのセルロース繊維のことをいう。セルロースナノファイバーの製造方法としては、例えば、特開2008−1728などに開示されている公知の製造方法で製造できる。
【0070】
すなわち、亜硫酸漂白針葉樹パルプ、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル(TEMPO)および臭化ナトリウムを水に分散させた後、次亜塩素酸ナトリウム水溶液を加えて反応させる。反応物をガラスフィルターにてろ過した後、十分な量の水による水洗、ろ過を行い、水を含浸させた反応物繊維を得る。次に、該反応物繊維に水を加えてスラリーとし、回転刃式ミキサー分散処理を行い微細セルロース繊維の分散体を調整する。遠心分離により浮遊物の除去を行った後、乾燥させることによりセルロースナノファイバーを製造することができる。
【0071】
本発明において用いられるセルロースナノファイバーは、数平均繊維径2〜150nmを有し、かつ数平均繊維長50〜500nmを有することが好ましい。
また、セルロースナノファイバーが、結着樹脂100重量部に対して、0.5〜2重量部の割合で添加されるのが好ましい。
【0072】
ここで最大繊維径、数平均繊維径および数平均繊維長の解析は次のようにして行う。固形分率で0.05〜0.1重量%の微細セルロースの水分散体を調製し、該分散体を、親水化処理済みのカーボン膜被覆グリッド上にキャストしてTEM観察用試料とする。
【0073】
また、大きな繊維径の繊維を含む場合には、ガラス上へキャストした表面のSEM像を観察してもよい。構成する繊維の大きさに応じて5000倍、10000倍あるいは50000倍のいずれかの倍率で電子顕微鏡画像による観察を行う。
【0074】
この際に、得られた画像内に縦横任意の画像幅の軸を想定した場合に少なくとも軸に対し、20本以上の繊維が軸と交差するような試料および観察条件(倍率等)とする。この条件を満足する観察画像に対し、1枚の画像当たり縦横2本ずつの無作為な軸を引き、軸に交錯する繊維の繊維径および軸に平行な繊維長を目視で読み取っていく。
【0075】
こうして最低3枚の重なっていない表面部分の画像を電子顕微鏡で撮影し、各々2つの軸に交錯する繊維の繊維径の値を読み取る(したがって、最低20本×2×3=120本の繊維径の情報が得られる)。こうして得られた繊維径のデータにより最大繊維径、数平均繊維径および数平均繊維長を算出する。
【0076】
(着色剤)
本発明のトナーに含まれる着色剤としては、電子写真分野で常用される有機系染料、有機系顔料、無機系染料、無機系顔料などを使用できる。染料および顔料のうち、顔料を用いることが好ましい。顔料は染料に比べて耐光性および発色性に優れるので、耐光性および発色性に優れるトナーを得ることができる。着色剤の添加量としては、一般に樹脂100重量部に対して3〜10重量部が添加される。
【0077】
黄色の着色剤としては、例えば、カラーインデックスによって分類されるC.I.ピグメントイエロー1、C.I.ピグメントイエロー5、C.I.ピグメントイエロー12、C.I.ピグメントイエロー15、およびC.I.ピグメントイエロー17、C.I.ピグメントイエロー74、C.I.ピグメントイエロー93、C.I.ピグメントイエロー180、C.I.ピグメントイエロー185などの有機系顔料、黄色酸化鉄および黄土などの無機系顔料、C.I.アシッドイエロー1などのニトロ系染料、C.I.ソルベントイエロー2、C.I.ソルベントイエロー6、C.I.ソルベントイエロー14、C.I.ソルベントイエロー15、C.I.ソルベントイエロー19、および、C.I.ソルベントイエロー21などの油溶性染料などが挙げられる。
【0078】
赤色の着色剤としては、例えば、カラーインデックスによって分類されるC.I.ピグメントレッド49、C.I.ピグメントレッド57、C.I.ピグメントレッド81、C.I.ピグメントレッド122、C.I.ソルベントレッド19、C.I.ソルベントレッド49、C.I.ソルベントレッド52、C.I.ベーシックレッド10、およびC.I.ディスパーズレッド15などが挙げられる。
【0079】
青色の着色剤としては、例えば、カラーインデックスによって分類されるC.I.ピグメントブルー15、C.I.ピグメントブルー16、C.I.ソルベントブルー55、C.I.ソルベントブルー70、C.I.ダイレクトブルー25、および、C.I.ダイレクトブルー86、KET.BLUE111などが挙げられる。
【0080】
黒色の着色剤としては、たとえば、チャンネルブラック、ローラーブラック、ディスクブラック、ガスファーネスブラック、オイルファーネスブラック、サーマルブラック、およびアセチレンブラックなどのカーボンブラックが挙げられる。
【0081】
本発明のトナーに好適に含まれるカーボンブラックとしては、ファーネス法あるいはチャンネル法などにより製造されるあらゆるものが使用可能であるが、特にファーネス法により製造されたカーボンブラックが好ましい。ファーネス法カーボンブラックとしては、三菱化学社製のMA7,MA8,MA11,MA100,#1000,#2200B,#2350,#2400B,キャボット社製のMOGUL L,REGAL 400R,MONARCH 1000等、コロンビア社製のRAVENシリーズの1035,1040,1255,3500等が具体例として挙げられ、BET法による比表面積が25〜400m2/gでジブチルフタレート(DBP)吸収量が40〜140ml/100gの範囲のものが好ましい。
【0082】
(離型剤)
本発明のトナーに含まれる離型剤としては、この分野で常用されるものを使用でき、たとえば、ワックスなどが挙げられる。ワックスとしては、パラフィンワックス、カルナウバワックス(カルナバワックス)、およびライスワックスなどの天然ワックス、ポリプロピレンワックス、ポリエチレンワックス、およびフィッシャートロプッシュワックスなどの合成ワックス、モンタンワックスなどの石炭系ワックスなどの石油系ワックス、アルコール系ワックス、ならびにエステル系ワックスなどが挙げられる。
【0083】
本発明のトナーに含まれる離型剤は、1種を単独で使用してもよく、また2種以上を併用してもよい。離型剤の添加量は特に制限されず、バインダー樹脂、カーボンブラックなどの他の成分の種類および含有量、作製しようとするトナーに要求される特性などの各種条件に応じて広い範囲から適宜選択することができるが、好ましくは、バインダー樹脂100重量部に対して、3重量部〜10重量部である。離型剤の添加量が3重量部未満であると、低温定着性および耐ホットオフセット性が充分に向上し難い。離型剤の添加量が10重量部を超えると、混練物中における離型剤の分散性が低下し、一定の性能を有するトナーを安定して得ることができない。またトナーが感光体などの像担持体の表面に皮膜(フィルム)状に融着するフィルミングと呼ばれる現象が発生し易い。
【0084】
離型剤の融点(Tm)は、50℃〜180℃であることが好ましい。
融点が50℃未満であると、現像装置内において離型剤が溶融し、トナー粒子同士が凝集したり、感光体表面へのフィルミングなどが発生する。
【0085】
また、融点が180℃を超えると、トナーを記録媒体に定着する際に離型剤が充分に溶出することができず、耐ホットオフセット性が充分に向上しない。
【0086】
(電荷制御剤)
本発明のトナーに含まれる電荷制御剤としては、この分野で常用される正電荷制御用および負電荷制御用の電荷制御剤を使用できる。
【0087】
正電荷制御用の電荷制御剤としては、たとえば、ニグロシン染料、塩基性染料、四級アンモニウム塩、四級ホスホニウム塩、アミノピリン、ピリミジン化合物、多核ポリアミノ化合物、アミノシラン、ニグロシン染料およびその誘導体、トリフェニルメタン誘導体、グアニジン塩、アミジン塩などが挙げられる。
【0088】
負電荷制御用の帯電制御剤としては、クロムアゾ錯体染料、鉄アゾ錯体染料、コバルトアゾ錯体染料、サリチル酸ならびにサリチル酸誘導体のクロム錯体、亜鉛錯体、アルミニウム錯体およびホウ素錯体、サリチル酸塩化合物、ナフトール酸ならびにナフトール酸誘導体のクロム錯体、亜鉛錯体、アルミニウム錯体およびホウ素錯体、ナフトール酸塩化合物、ベンジル酸塩化合物、長鎖アルキルカルボン酸塩、長鎖アルキルスルホン酸塩などの界面活性剤を挙げることができる。
【0089】
電荷制御剤の添加量は、バインダー樹脂100重量部に対して、0.01〜5重量部が好ましい。
【0090】
混合工程S1で用いられる混合機としては、公知のものを使用でき、たとえば、ヘンシェルミキサ(商品名、三井鉱山株式会社製)、スーパーミキサ(商品名、株式会社カワタ製)、メカノミル(商品名、岡田精工株式会社製)などのヘンシェルタイプの混合装置や、オングミル(商品名、ホソカワミクロン株式会社製)、ハイブリダイゼーションシステム(商品名、株式会社奈良機械製作所製)、コスモシステム(商品名、川崎重工業株式会社製)などが挙げられる。
【0091】
(2)溶融混練工程S2
溶融混練工程S2では、前記混合工程で作製された混合物を、混練機によって溶融混練して、バインダー樹脂中にカーボンブラックを必要に応じて添加された添加剤が分散した溶融混練物を作製する。
【0092】
溶融混練工程で用いられる混練機としては、公知のものを使用でき、たとえば、ニーダ、二軸押出機、二本ロールミル、三本ロールミル、ラボブラストミルなどの一般的な混練機を使用できる。さらに具体的には、たとえば、TEM−100B(商品名、東芝機械株式会社製)、PCM−65/87、PCM−30(以上いずれも商品名、株式会社池貝製)などの1軸または2軸のエクストルーダ、ニーデックス(商品名、三井鉱山株式会社製)などのオープンロール方式の混練機が挙げられる。溶融混練は、複数の混練機を用いて行っても構わない。
【0093】
溶融混練の温度は、使用する混練機によるが、80〜200℃であることが好ましい。このような範囲の温度下で溶融混練を行うことで、バインダー樹脂中に、カーボンブラックを必要に応じて添加された添加剤を均一に分散させることができる。
【0094】
(3)冷却粉砕工程S3
冷却粉砕工程S3では、前記溶融混練工程で得られた溶融混練物を冷却固化し、粉砕して、粉砕物を得る。
【0095】
冷却固化された溶融混練物は、ハンマーミルまたはカッティングミルなどによって、体積平均粒径100μm〜5mm程度の粗粉砕物に粗粉砕され、得られた粗粉砕物は、たとえば、体積平均粒径15μm以下にまで、さらに微粉砕される。粗粉砕物の微粉砕には、たとえば、超音速ジェット気流を利用するジェット式粉砕機、高速で回転する回転子(ロータ)と固定子(ライナ)との間に形成される空間に粗粉砕物を導入して粉砕する衝撃式粉砕機などを用いることができる。
【0096】
(4)分級工程S4
分級工程S4では、前記冷却粉砕工程S3で得られた粉砕物を分級機によって分級し、過粉砕トナー粒子および粗大トナー粒子を除去し、未外添トナーを得る。過粉砕トナー粒子および粗大トナー粒子は、回収して他のトナーの製造に再利用することができる。
【0097】
分級には、遠心力および風力による分級により過粉砕トナー粒子を除去できる公知の分級機を使用でき、たとえば、旋回式風力分級機(ロータリー式風力分級機)などを使用することができる。
【0098】
分級後に得られる未外添トナーの体積平均粒径は、3〜15μmであることが好ましい。高画質画像を得るためには、未外添トナーの体積平均粒径が3〜9μmであることが好ましく、5〜8μmであることがより好ましい。
【0099】
未外添トナーの体積平均粒径が3μm未満であると、トナーの粒径が小さいため、高帯電化および低流動化が起こる。トナーの高帯電化および低流動化によって、トナーが感光体に安定して供給されず、地肌かぶりおよび画像濃度の低下などが発生し易い。未外添トナーの体積平均粒径が15μmを超えると、トナーの粒径が大きいため、高精細な画像を得られ難い。また、粒径が大きくなることでトナーの比表面積が減少し、トナーの帯電量が小さくなる。その結果、トナーが感光体に安定して供給されず、トナー飛散による機内汚染が発生する。
【0100】
(5)外添工程S5
外添工程S5では、前記分級工程S4で得られた未外添トナーと外添剤とを混合してトナーを得る。外添剤の添加によって、トナーの流動性および感光体表面における残留トナーのクリーニング性が向上し、感光体へのフィルミングが防止できる。外添剤が外添されていない未外添トナーを、トナーとして用いることもできる。
【0101】
外添剤としては、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、酸化錫、および酸化亜鉛などの無機酸化物、アクリル酸エステル類、メタクリル酸エステル類、およびスチレンなどの化合物、またはこれら化合物の共重合体樹脂微粒子、フッ素樹脂微粒子、シリコーン樹脂微粒子、およびステアリン酸などの高級脂肪酸、またはこれらの高級脂肪酸の金属塩、カーボンブラック、フッ化黒鉛、炭化珪素、窒化ホウ素などが挙げられる。
【0102】
外添剤は、シリコーン樹脂、シランカップリング剤などによって表面処理されていることが好ましい。また、外添剤の添加量は、バインダー樹脂100重量部に対して、0.5重量部〜5重量部であることが好ましい。
【0103】
外添剤の1次粒子の個数平均粒径は、10〜500nmであることが好ましい。
外添剤の1次粒子の個数平均粒径がこのような範囲であることによって、トナーの流動性がより向上する。
【0104】
外添剤のBET比表面積は、20〜200m2/gであることが好ましい。
外添剤のBET比表面積がこのような範囲であることによって、トナーに適度な流動性および帯電性が付与できる。
【実施例】
【0105】
実施例1
[ポリエステル樹脂Aの作製]
撹拌装置、加熱装置、温度計、冷却管、分留装置、および窒素導入管を備えた反応容器中に、酸成分として、テレフタル酸305g、イソフタル酸55g、無水トリメリット酸30gおよび不均化ロジン(商品名ロンヂスR、荒川化学工業社製:酸価157.2mgKOH/g)1400g、アルコール成分として、グリセリン300g、および1,3−プロパンジオール150g、反応触媒としてテトラーn−ブチルチタネート1.79g(酸成分およびアルコール成分の総量100重量部に対し、0.080重量部相当)を投入した。これらの原料を、窒素雰囲気下で撹拌し、生成する水を留去しながら、250℃で10時間重縮合反応させ、フローテスターにより所定の軟化温度に達したことを確認して、反応を終了し、ポリエステル樹脂A1(ガラス転移温度60℃、軟化温度112℃、重量平均分子量2800、Mw/Mn=2.3、酸価24mgKOH/g)(2000g)を得た。
【0106】
[ポリエステル樹脂Bの作製]
撹拌装置、加熱装置、温度計、冷却管、分留装置、および窒素導入管の付いた反応容器中に、酸成分として、テレフタル酸350g、イソフタル酸400g、および無水トリメリット酸50g、アルコール成分として、グリセリン125g、ビスフェノールAのPO2モル付加物((商品名ニューポールBP−2P、三洋化成工業社製)350g、およびビスフェノールAのPO3モル付加物(商品名ニューポールBP−3P、三洋化成工業社製)450g、反応触媒として、テトラーn−ブチルチタネート1.38gを投入した。
【0107】
これらの原料を、窒素雰囲気下で撹拌し、生成する水を留去しながら、220℃で10時間重縮合反応させ、次いで、5〜20mmHgの減圧下で反応させ、フローテスターにより所定の軟化温度に達したことを確認して、反応を終了し、ポリエステル樹脂B(ガラス転移温度61℃、軟化温度147℃、重量平均分子量29500、Mw/Mn=10.8、酸価22mmHg、THF不溶分40%)(1500g)を得た。
【0108】
[セルロースナノファイバー1(CNF−1)の作製]
乾燥重量で200重量部相当分の未乾燥の亜硫酸漂白針葉樹パルプ、2.5重量部のTEMPOおよび25重量部の臭化ナトリウムを水1.5Lに分散させた後、13重量%次亜塩素酸ナトリウム水溶液を、1gのパルプに対して次亜塩素酸ナトリウムの量が2.5mmolとなるように次亜塩素酸ナトリウムを加えて反応を開始した。反応中は0.5Mの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHを10.5に保った。pHに変化が見られなくなった時点で反応終了と見なし、反応物をガラスフィルターにてろ過した後、十分な量の水による水洗、ろ過を5回繰り返し、固形分量25重量%の水を含浸させた反応物繊維を得た。次に、該反応物繊維に水を加え、2重量%スラリーとし、回転刃式ミキサーで約5分間の処理を行った。
【0109】
処理に伴って著しくスラリーの粘度が上昇したため、少しづつ水を加えていき固形分濃度が0.15重量%となるまでミキサーによる分散処理を続けた。こうして得られたセルロース濃度が0.15重量%の微細セルロース繊維の分散体に対して、遠心分離により浮遊物の除去を行った後、水による濃度調製を行ってセルロース濃度が0.1重量%の透明かつやや粘調な微細セルロース繊維の分散体S1を得た。S1を乾燥させて最大繊維径が10nmかつ数平均繊維径が6nmのセルロースナノファイバー1を80g得た。
【0110】
[セルロースナノファイバー2(CNF−2)の作製]
亜硫酸漂白針葉樹パルプの代わりに、精製後未乾燥のコットンリント200重量部を用いたことを除いて、セルロースナノファイバー1と同じ方法で、最大繊維径が15nmかつ数平均繊維径が8nmのセルロースナノファイバー2を80g得た。
【0111】
[セルロースナノファイバー3(CNF−1)の作製]
亜硫酸漂白針葉樹パルプの代わりに、精製後未乾燥の酢酸菌生産のバクテリアセルロース(BC)200重量部を用いたことと、原料セルロースに対する次亜塩素酸ナトリウムの添加量を1.8mmol/gとしたことを除いて、セルロースナノファイバー1と同じ方法で、最大繊維径が90nmかつ数平均繊維径が37nmのセルロースナノファイバー3を80g得た。
【0112】
<混合工程S1>
ポリエステル樹脂Aと、ポリエステル樹脂Bと、カーボンブラック(商品名:MA−77、三菱化学社製)と、セルロースナノファイバー1と、電荷制御剤(商品名:LR−147、日本カーリット株式会社製)と離型剤(ポリエチレンワックス、商品名:Licowax PE−130 Powder、クラリアント社製、融点:127℃)を、表1に示す割合で、ヘンシェルミキサ(商品名:FM20C、三井鉱山株式会社製)に投入し、周速40m/secの撹拌速度で10分間混合し、混合物(3000g)を作成した。
【0113】
<溶融混練工程S2>
前記混合工程S1で得た混合物(3000g)を、混練機(商品名:二軸混練機PCM−60、株式会社池貝製)にて、シリンダ設定温度80℃〜120℃(最高温度120℃)、回転数250rpm、供給量5kg/hで溶融混練し、溶融混練物(2000g)を得た。
【0114】
<冷却粉砕工程S3>
前記溶融混練工程S2で得た溶融混練物(2000g)を、室温まで冷却して固化した後、カッターミル(商品名:VM−16、オリエント株式会社製)で粗粉砕した。次いで、得られた粗粉砕物を、カウンタージェットミル(商品名:AFG、ホソカワミクロン株式会社製)で微粉砕した。
【0115】
<分級工程S4>
前記冷却粉砕工程S3で得た粉砕物(3500g)を、ロータリー式分級機(商品名:TSPセパレータ、ホソカワミクロン株式会社製)で分級して、未外添トナー(1500g)を得た。
【0116】
<外添工程S5>
前記分級工程S4で得た未外添トナー100重量部(1500g)に対して、シランカップリング剤で表面処理された疎水性シリカ微粉子(商品名R974、日本アエロジル社製)(BET比表面積170m2/g)0.5重量部(7.5g)を添加し、ヘンシェルミキサ(商品名:FMミキサ、三井鉱山株式会社製)で混合し、実施例1のトナーA(体積平均粒径6.7μm、CV値25%)(1500g)を得た。
【0117】
実施例2
セルロースナノファイバー1の添加量を変更したこと以外は、実施例1と同様にしてトナーB(体積平均粒径6.7μm、CV値25%)(1500g)を得た。
【0118】
実施例3
セルロースナノファイバー1の添加量を変更したこと以外は、実施例1と同様にしてトナーC(体積平均粒径6.7μm、CV値25%)(1500g)を得た。
【0119】
実施例4
セルロースナノファイバー1の代わりに、セルロースナノファイバー2を使用したこと以外は、実施例1と同様にしてトナーD(体積平均粒径6.7μm、CV値25%)(1500g)を得た。
【0120】
実施例5
セルロースナノファイバー1の代わりに、セルロースナノファイバー3を使用したこと以外は、実施例1と同様にしてトナーE(体積平均粒径6.7μm、CV値25%)(1500g)を得た。
【0121】
実施例6
セルロースナノファイバー1の添加量を変更したこと以外は、実施例1と同様にしてトナーF(体積平均粒径6.7μm、CV値25%)(1500g)を得た。
【0122】
実施例7
セルロースナノファイバー1の添加量を変更したこと以外は、実施例1と同様にしてトナーG(体積平均粒径6.7μm、CV値25%)(1500g)を得た。
【0123】
比較例1
セルロースナノファイバー1を添加しなかったことを除いて、実施例1と同様にしてトナーH(体積平均粒径6.7μm、CV値25%)(1500g)を得た。
【0124】
[耐ブロッキング性評価]
実施例および比較例のトナーを、それぞれ25度、湿度80%の環境試験室中で24時間放置した後、50mlのポリプロピレン製の容器にそれぞれ30g入れた。ポリ瓶の蓋を閉めた状態で、50℃、湿度10%RHの恒温恒湿槽に入れ、さらに24時間放置したサンプルを用いて耐ブロッキング性の評価を行った。
【0125】
耐ブロッキング性の評価基準は次のとおりである。
「G」:good(良好):ポリプロピレン製の容器を傾けるだけで、トナーが粉体状態で落下する。
「NB」:not bad(悪くない):トナーに緩い凝集が見られるものの、ポリプロピレン製の容器を傾けると容器中の全てのトナーが流出する。
「B」:bad(不良):トナーが凝集しており、ポリプロピレン製の容器を傾けても容器中の全てのトナーが流出しないか、あるいは部分的にしかトナーが流出しない。
【0126】
[定着性評価]
上記複写機を改造したものを用いて、記録媒体である記録用紙(商品名:PPC用紙SF−4AM3、シャープ株式会社製)に、縦20mm、横50mmの長方形状のべた画像部を含むサンプル画像を、べた画像部における未定着状態でのトナーの記録用紙への付着量が0.5mg/cm2になるように調整して未定着画像を形成し、上記複写機を改造した複写機を用いて作製した外部定着器を用いて定着画像を作成した。定着プロセス速度は124mm/秒とし、定着ローラの温度を130℃から5℃刻みで温度を上げ、最低定着温度を測定した。
【0127】
最低定着温度の判断は、トナー画像の上にガーゼを置き、その上に10cm四方の正方形の底面を持つ100gの錘を乗せた状態でトナー画像を10cm擦り、ガーゼにトナーが付着しない定着温度の最低値を求めた。
【0128】
定着性の評価基準は次のとおりである。
「G」:good(良好):最低定着温度が140℃未満。
「NB」:not bad(悪くない):最低定着温度が140℃以上150℃未満。
「B」:bad(不良):最低定着温度が150℃以上。
【0129】
評価結果を表1に示す。
【表1】

【0130】
これらの結果から、セルロースナノファイバーを含む実施例1〜7で得られたトナーA〜Gは、いずれも、セルロースナノファイバーが添加されていない比較例1で得られたトナーHおよびIよりも、耐ブロッキング性および定着性評価において優れていることが判った。
【産業上の利用可能性】
【0131】
本発明によれば、トナーがセルロースナノファイバーを含むことにより、トナー粒子のブロッキング性が優れたトナー、及びそのトナーの製造方法が提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともベンゼンジカルボン酸および不均化ロジンとグリセリンとからなるポリエステル樹脂Aならびに少なくともベンゼンジカルボン酸およびビスフェノールA誘導体からなるポリエステル樹脂Bを含むバインダー樹脂;セルロースナノファイバー;および着色剤;および離型剤を含むことを特徴とするトナー。
【請求項2】
前記セルロースナノファイバーが、数平均繊維径2〜150nmを有する、請求項1に記載のトナー。
【請求項3】
前記セルロースナノファイバーが、数平均繊維長50〜500μmを有する請求項1または2に記載のトナー。
【請求項4】
前記セルロースナノファイバーが、前記バインダー樹脂に対して、0.5〜2重量部の割合で含まれる、請求項1〜3のいずれか1つに記載のトナー。
【請求項5】
前記着色剤が、カーボンブラックである、請求項1〜4のいずれか1つに記載のトナー。
【請求項6】
前記トナーが、疎水性シリカ微粉子が外添されたものである、請求項1〜5のいずれか1つに記載のトナー。
【請求項7】
トナーの製造方法において、少なくともベンゼンジカルボン酸、不均化ロジンおよびグリセリンから製造されるポリエステル樹脂Aおよび少なくともベンゼンジカルボン酸およびビスフェノールA誘導体から製造されるポリエステル樹脂Bを含むバインダー樹脂、セルロースナノファイバー、着色剤および離型剤とを混合して混合物を作製する混合工程;
前記混合物を溶融混練して溶融混練物を作製する溶融混練工程;
前記混練物を冷却固化し、粉砕して粉砕物を作製する冷却粉砕工程;
前記粉砕物を分級する分級工程;および
疎水性シリカ微分子をさらに添加し、混合する外添工程
とを含むことを特徴とするトナーの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−44886(P2013−44886A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−181752(P2011−181752)
【出願日】平成23年8月23日(2011.8.23)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】