説明

トマトソース

【課題】トマトの酸味を抑えるために加熱処理しても、トマトのフレッシュ感を有するトマトソースを提供する。
【解決手段】平均粒径1μm以下の微粉砕化卵殻を配合するトマトソース。さらに、前記微粉砕化卵殻の配合量は、トマトソースに対して0.001〜1%であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トマトの酸味を抑えるために加熱処理しても、トマトのフレッシュ感を有するトマトソースに関する。
【0002】
一般的に、トマトソースとは、生トマトや、ホールトマト、ダイストマト、トマトピューレ、トマトペースト等のトマト加工品を、トマトの酸味を抑えるために加熱処理したソースのことで、必要に応じて、加熱処理の前後に、食塩、砂糖、スパイス、具材等を加えたソースのことである。
【0003】
前記トマトソースの主原料であるトマトは、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸等の有機酸を含んでおり、トマト特有の酸味を有する。通常、トマトソースを製する場合、トマトの酸味を抑えるために、トマトソースをじっくり煮詰める。煮詰めることで、トマトの酸味は抑えられるが、その一方で、トマトのフレッシュ感が損なわれるという問題があった。
【0004】
トマトの酸味を中和する方法としては、例えば、特開昭53−96364号公報(特許文献1)には、炭酸カルシウムをトマトの酸味中和剤として使用するという内容が開示されている。しかしながら、炭酸カルシウムを配合したトマトソースは、酸味は抑えられるが、エグ味がかなり強く、トマトのフレッシュ感が失われていた。
【0005】
【特許文献1】特開昭53−96364号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、トマトの酸味を抑えるために加熱処理しても、トマトのフレッシュ感を有するトマトソースを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成すべく、配合原料について鋭意研究を重ねた結果、特定の粒径を有する微粉砕化卵殻を配合するならば、意外にも、トマトの酸味を抑えるために加熱処理しても、トマトのフレッシュ感を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、
(1)平均粒径1μm以下の微粉砕化卵殻を配合するトマトソース、
(2)前記微粉砕化卵殻の配合量が、トマトソースに対して0.001〜1%である(1)のトマトソース、
(3)前記トマトソースが容器入り加圧加熱殺菌処理食品である(1)または(2)のトマトソース、
である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、特定の粒径を有する微粉砕化卵殻を配合することにより、トマトの酸味を抑えるために加熱処理しても、トマトのフレッシュ感を有するトマトソースを提供することができる。そのため、卵殻の有効利用およびトマトソースの需要の拡大が期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、本発明において「%」は「質量%」を意味する。
【0011】
本発明におけるトマトソースとは、生トマトや、ホールトマト、ダイストマト、トマトピューレ、トマトペースト等のトマト加工品を、トマトの酸味を抑えるために加熱処理したソースのことで、必要に応じて、加熱処理の前後に、食塩、砂糖、スパイス、具材等を加えたソースのことである。また、本発明のトマトソースには、前記トマトソースの他、トマトソースを用いた例えば、ペスカトーレ、アマトリチャーナ等のパスタソース、ピザソース、ラタトゥイユソース等のソースも含まれる。このようなトマトソースは、一般的に保存性を持たせるため、加熱殺菌処理や冷凍処理を施しているが、本発明においても、このような処理を施してもよい。
【0012】
本発明は、トマトの酸味を抑えるために加熱処理を施したものであるが、当該加熱処理の温度としては、60〜105℃が好ましく、80〜100℃がより好ましい。加熱処理温度が前記範囲より低くなると、たとえ加熱処理時間を長くしたとしてもトマトの酸味がたちやすい場合があり、一方、加熱処理温度が前記範囲より高くなると、加熱処理を加圧状態とする必要があり、そのために大規模な設備を要するからである。
【0013】
本発明は、上述したトマトソースにおいて、平均粒径1μm以下の微粉砕化卵殻を配合したことを特徴とする。
【0014】
ここで「微粉砕化卵殻」の「卵殻」とは、鳥類の卵の殻、特に鶏卵の殻のことをいう。卵殻は、その主成分が炭酸カルシウムであり、2%程度のタンパク質を含む。
【0015】
本発明における微粉砕化卵殻とは、原料卵殻そのものあるいは原料卵殻を粗く粉砕した卵殻粉末を、微粉砕化したものである。微粉砕化卵殻の平均粒径は、1μm以下であり、好ましくは0.01〜0.6μmである。微粉砕化卵殻の平均粒径が1μm以下であることにより、微粉砕化卵殻に含まれるタンパク質等の成分が露出して、効率よく機能することができる。微粉砕化卵殻に含まれる炭酸カルシウムとタンパク質が、トマトソースを加熱処理してもトマトのフレッシュ感を有することに大きく寄与するものと考えられる。特に、微粉砕化卵殻の平均粒径が0.6μm以下であることにより、さらに効果を高めることができる。また、微粉砕化卵殻の平均粒径が0.01μm未満であると、凝集しやすく、分散性に劣る場合がある。
【0016】
前述した微粉砕化卵殻は、例えば、振動ミル、ボールミル、シェカーやハンマーミル、ターボミル、ファインミル、ジェットミル、バンタムミル、グラインダーミル、カッターミル、ビーズミルなどの粉砕機を使用する機械的粉砕により得ることができ、これらの粉砕機を単独もしくは2つ以上組み合わせて使用することができる。
【0017】
平均粒径が1μm以下であり、かつ、粒度分布が狭い微粉砕化卵殻を得ることができる点で、微粉砕化卵殻は特に、ビーズミルによる湿式粉砕にて粉砕されたものであることが好ましい。ビーズミルとしては、例えば、スターミルLMZ(アシザワ・ファインテック株式会社製)、OBミル(ターボ工業株式会社製)、スーパーアペックスミル(寿工業株式会社製)等が挙げられる。
【0018】
ビーズミルを使用して卵殻を平均粒径1μm以下(好ましくは0.01〜0.6μm)に湿式粉砕することにより、クリーム状の微粉砕化卵殻含有スラリーが得られる。上記スラリーをそのまま食品等に添加することにより、微粉砕化卵殻の凝集を防止したまま使用することができる。
【0019】
また、上記スラリーを乾燥させて得られた微粉砕化卵殻を使用してもよい。乾燥方法としては特に限定されるものではなく、噴霧乾燥や凍結乾燥など、一般的に行われる方法で実施することができる。また、デキストリン等の賦形剤や、ショ糖脂肪酸エステル等の乳化剤を、上記スラリーに適宜添加してから乾燥を行ってもよい。
【0020】
微粉砕化卵殻の粒度分布は、粒径1μm以下の割合が50%以上であり、かつ、粒径10μm以上の割合が5%以下であることが好ましく、トマトソースを加熱処理してもトマトのフレッシュ感をより有する点で、粒径0.5μm以下の割合が50%以上であり、かつ、粒径2μm以上の割合が5%以下であることがより好ましい。
【0021】
また、微粉砕化卵殻の粒度の分布状態を示す変動係数は0.1〜0.8であるのが好ましく、0.1〜0.7であるのがより好ましい。微粉砕化卵殻の変動係数が0.1〜0.8であることにより、凝集しにくくなるため分散性に優れ、かつ、トマトソースを加熱処理してもトマトのフレッシュ感を有する。
【0022】
微粉砕化卵殻の配合量は、トマトソースに対して0.001〜1%であることが好ましく、0.005〜0.5%であることがより好ましい。微粉砕化卵殻の配合量が、前記範囲より少なくなると十分な効果が得られ難く、一方、前記範囲より多くなると、卵殻の臭いがトマトソースの風味に影響を及ぼす場合があるからである。
【0023】
なお、本発明のトマトソースには、上述した原料の他に、玉葱、ニンニク、ネギ等の野菜、牛肉、鶏肉等の肉類、アサリ等の魚介類、胡椒、ローリエ、バジル、タイム、オレガノ、セージ等のスパイス、食塩、砂糖、グルタミン酸ナトリウム等の調味料、菜種油、サラダ油、オリーブ油等の油脂、小麦粉、加工澱粉、キサンタンガム、ペクチン、ゼラチン等の増粘剤、野菜エキス、肉エキス等の動植物エキス、着色料、保存料等の原料を、本発明の効果を損なわない範囲で適宜選択して用いることができる。
【0024】
また、本発明のトマトソースの製造方法は、本発明の必須原料である平均粒径1μm以下の微粉砕化卵殻と、生トマトやトマト加工品と混合し、加熱処理を施せば特に限定するものではなく、常法に則り製すれば良い。具体的には、例えば、平均粒径1μm以下の微粉砕化卵殻、ダイストマトおよび食塩等の調味料や具材等の食材を加え、90℃達温まで加熱処理を行い、トマトソースを製する。そして、必要に応じ、缶やパウチ等の容器に当該トマトソースを充填・密封し、加熱殺菌処理や冷凍処理する製造方法が挙げられる。特に加熱殺菌処理のうち、100℃超130℃以下で一般的に行われる加圧加熱殺菌処理では、トマトのフレッシュ感が失われやすいが、本発明によれば、加圧加熱殺菌処理を行ってもトマトのフレッシュ感を有し、好適である。
【実施例】
【0025】
次に、本発明を以下の実施例に基づき、さらに詳細に説明する。なお、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0026】
1.微粉砕化卵殻の調製
本実施例においては、以下の条件にて所定の平均粒径および粒度分布を有するように微粉砕された微粉砕化卵殻を調製した。より具体的には、精製水に卵殻(以下、微粉砕化卵殻と区別するために、「原料卵殻」と表記する。)を分散させた原料卵殻分散液(スラリー)について、以下の条件で湿式ビーズミルを使用して、原料卵殻を湿式粉砕した。
【0027】
1−1.原料
(1)原料卵殻(平均粒径:11.0μm((株)全農・キユーピー・エツグステーシヨン製))
(2)精製水
【0028】
1−2.粉砕(湿式粉砕)条件
湿式ビーズミル:スターミルLMZ2(アシザワ・ファインテック(株)製)
ビーズ:ジルコニア製、Φ0.3mm
ビーズ充填率:85%(粉砕室容量に対し);空間率49%
ローター周速:12m/s
【0029】
1−3.微粉砕化卵殻の調製方法
精製水8kgをビーズミルに連結したミキシングタンクに仕込み、原料卵殻2kgを投入して、湿式ビーズミルの循環運転(ミルで粉砕されたスラリーをタンクにリターン)を行うことにより、微粉砕化卵殻含有スラリーを調製した。
【0030】
湿式ビーズミルによる粉砕処理を5分間、15分間、60分間行うことにより、粒径の異なる3種類の微粉砕化卵殻(微粉砕化卵殻1〜3)を得た。
【0031】
1−4.平均粒径および粒度分布測定
試料(微粉砕化卵殻含有スラリー)0.3gを精製水10gに分散させて1分間超音波を照射した後、粒度分布計に供した。分散剤を添加する際は超音波照射前に2滴滴下した。
【0032】
また、原料卵殻の場合、まず、原料卵殻0.1gを精製水10gに分散させ、この分散液4gを精製水20gに分散させた後、超音波を照射して供試検体とした。
【0033】
粒度分布測定は、装置内蔵の超音波照射機(3分間、40W)を使用して行った。なお、平均粒径はメジアン径とした。粒度分布測定における測定装置および測定条件は以下の通りである。
粒度分布計:マイクロトラックMT3300EXII(日機装(株));レーザ回折式
屈折率:1.68(重炭酸カルシウムの文献値);水(分散媒)1.33
分散剤:アロンA−6330(ポリカルボン酸系重合体、東亜合成(株)製)
微粉砕化卵殻1〜3の平均粒径はそれぞれ、0.12μm(粒径の実測範囲:0.03〜0.58μm)、0.59μm(粒径の実測範囲:0.19〜7.78μm)、0.94μm(粒径の実測範囲:0.45〜7.78μm)であり、これらの変動係数(CV)はそれぞれ0.70、0.67、0.57であった。
【0034】
また、これら微粉砕化卵殻の粒度分布はいずれも、粒径1μm以下の割合が50%以上であり、かつ、粒径10μm以上の割合が5%以下であった。なかでも、微粉砕化卵殻の平均粒径が0.12μmである微粉砕化卵殻の粒度分布は、粒径0.5μm以下の割合が50%以上であり、かつ、粒径2μm以上の割合が5%以下であった。
【0035】
以下、平均粒径が0.12μmの微粉砕化卵殻を微粉砕化卵殻1とし、平均粒径が0.59μmの微粉砕化卵殻を微粉砕化卵殻2とし、平均粒径が0.94μmの微粉砕化卵殻を微粉砕化卵殻3とする。
【0036】
2.トマトソースの製造方法
2−1.[実施例1〜3]
下記の配合のトマトソースを製した。つまり、撹拌機付きニーダーに、下記の配合割合に示す原料を入れ、加熱撹拌した。90℃まで達温させ、90℃で30分間加熱処理した後、加熱撹拌を停止し、トマトソースを得た。得られたトマトソースを200gずつアルミパウチに充填・密封した後、105℃で30分間加熱殺菌処理し、冷却してトマトソースを製した。なお、実施例1〜3において用いた微粉砕化卵殻1〜3は、表1に示すとおりである。
【0037】
<配合割合>
ダイストマト 85%
オリーブオイル 4%
ニンニク 3%
食塩 2%
胡椒 0.05%
微粉砕化卵殻 0.01%
清水 残余
―――――――――――――――――――
合計 100%
【0038】
2−2.[比較例1〜3]
実施例1〜3において用いた微粉砕化卵殻にかえて、比較例1では原料卵殻(平均粒径:11.0μm((株)全農・キユーピーエツグステーシヨン製))を用い、比較例2では炭酸カルシウム(平均粒径:13.4μm(関東化学(株)製、特級))を用いて、実施例1〜3と同様にトマトソースを製した。
また、比較例3では、実施例1〜3において用いた微粉砕化卵殻を配合させないで、それ以外は実施例1〜3と同様にトマトソースを製した。
【0039】
2−3.[試験例1]
実施例1〜3および比較例1〜3で得られたトマトソースを20℃で7日間保存したものを、湯煎にて温め、風味について評価した。評価結果を表1に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
表1より、平均粒径1μm以下の微粉砕化卵殻を配合した実施例1〜3は、平均粒径11.0μmの原料卵殻を配合した比較例1、平均粒径13.4μmの炭酸カルシウムを配合した比較例2および微粉砕化卵殻を除した比較例3と比較し、トマトのフレッシュ感を有することが理解される。特に、平均粒径0.6μm以下の微粉砕化卵殻を配合した実施例1、2は、トマトのフレッシュ感を非常に有することが理解される。
【0042】
2−4.[実施例4〜6]
実施例1における微粉砕化卵殻1の配合量0.01%にかえて、実施例4〜7では、微粉砕化卵殻1の配合量をそれぞれ0.001%、0.005%、0.5%、1%とした以外は、実施例1と同様の方法でトマトソースを製した。
【0043】
2−5.[試験例2]
実施例1および実施例4〜7、ならびに比較例3得られたトマトソースを20℃で7日間保存したものを、湯煎にて温め、風味について評価した。評価結果を表2に示す。
【0044】
【表2】

【0045】
表2より、微粉砕化卵殻の配合量を、トマトソースに対して0.001〜1%とすることによって、トマトのフレッシュ感を有することが確認された。特に、微粉砕化卵殻の配合量を、トマトソースに対して0.005〜0.5%とすることによって、トマトのフレッシュ感を非常に有することが理解される。
【0046】
2−6.[実施例8]
下記の配合のトマトソースを製した。つまり、撹拌機付きニーダーに、下記の配合割合に示す原料を入れ、加熱撹拌した。90℃まで達温させ、90℃で30分間加熱処理した後、加熱撹拌を停止し、トマトソースを得た。得られたトマトソースを200gずつパウチに充填・密封した後、−20℃で冷凍処理し、トマトソースを製した。
【0047】
<配合割合>
ダイストマト 85%
オリーブオイル 4%
ニンニク 3%
食塩 2%
胡椒 0.05%
微粉砕化卵殻1 0.01%
清水 残余
―――――――――――――――――――
合計 100%
【0048】
実施例8で得られたトマトソースを−20℃で7日間保存したものを、湯煎にて温め、風味について評価したところ、微粉砕化卵殻1にかえて原料卵殻(平均粒径11.0μm)を用いたものと比べ、トマトのフレッシュ感を非常に有していた。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒径1μm以下の微粉砕化卵殻を配合することを特徴とするトマトソース。
【請求項2】
前記微粉砕化卵殻の配合量が、トマトソースに対して0.001〜1%である請求項1記載のトマトソース。
【請求項3】
前記トマトソースが容器入り加圧加熱殺菌処理食品である請求項1または2記載のトマトソース。

【公開番号】特開2009−89659(P2009−89659A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−263866(P2007−263866)
【出願日】平成19年10月10日(2007.10.10)
【出願人】(000001421)キユーピー株式会社 (657)
【Fターム(参考)】