説明

トランス

【目的】 絶縁性に優れた小型のトランスの提供を目的とする。
【構成】 本発明のトランスは、高電位の1次側コイル11が巻回する第1のボビン13のすぐ外方に、2次側コイル21が巻回する第2のボビン23が密着して構成したものであり、第1のボビン13に1次側コイル11および外装テープ12を設け、1次側コイル11の端末を1次側端子14に接続固定した後、インサート形成により1次側コイル11および第1のボビン13を覆い隠す第2のボビン23を形成し、第2のボビン23に2次側コイル21および外装テープ22を設け、2次側コイル21の端末を2次側端子24に接続固定し、軟磁性からなるコア10を組み込んで構成するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1次側コイルと2次側コイルおよび他の導電部材との絶縁性を高めたトランスに関し、特に信号用の小型トランスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
商用電源AC100V/240V、あるいはそれ以上の高電圧下の回路で使用する電子回路用のトランスは、高電圧側のコイルと低電圧側のコイル間、あるいは、高電圧側のコイルと導電部材であるコアとの絶縁距離を、形状サイズを肥大化することなく易化に小さくできるかを常に検討しながら設計している。
【0003】
一般的なトランスとしては、図5に示すテープを使用して、コイル間の絶縁距離を取る方法がある。ボビン43に対して1次側コイル41を巻回する。この時、コイル両端はバリアテープ45を設けて、フランジ44a,44bと1次側コイル41に距離を設ける。その後、層間テープ42で1次側コイル41およびバリアテープ45を覆った後に、その上に2次側コイル46を巻回する。この時も2次側コイル46の両端にバリアテープ48を設けて、フランジ44a,44bと2次側コイル46に距離を設け、外装テープ47で2次側コイル46およびバリアテ−プ48を覆い、コア40を組み込んでトランスの完成となる。
【0004】
この構造のトランスは、バリアテープ45,48により、高電位である1次側コイル41と2次側コイル46、および、1次側コイル41とコア40との間に、必要とする沿面絶縁距離を取るものである。
【0005】
また別の方法としては図6に示すように、1次側コイル51が巻回する第1のボビン52と、2次側コイル54が巻回する第2のボビン55とが、第2のボビン55の内方に1次側コイル51が施された第1のボビン52を挿入装着した後、コア50を組み合わせてトランスとしたものである。(特許文献1)
【0006】
【特許文献1】特開平5−159946号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図5のトランスでは、バリアテープ45,48および層間テープ42,外装テープ47の巻回作業は、主に人力による作業となるため、機械による自動化製造の比率が低下するものとなり、多量生産に対応できないし、また、人力作業により品質の安定化を阻害するものであった。
【0008】
また、図6の組み合わせボビンを使用したトランスは、多量生産に適し、品質の安定化を可能とするものであるが、ボビンの組み合わせには、どうしてもクリアランス56が必要となり、そのために図6の第2のボビン55が肥大化し、さらに、コア50も大きいものを用いる必要が発生し、トランスとしての小型化を妨げるものであった。
【0009】
本発明は、上記問題を鑑み、生産性に優れ、形状の肥大化を抑制し、高電位の1次側コイルと他の導電体(2次側コイル,コアなど)との絶縁距離確保を容易とする構造のトランスを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、コアの磁脚挿入孔を備え、1次側端子および2次側端子を具備する端子付フランジと、該端子付フランジと他方のフランジ間で、前記コアの磁脚上でコイル巻回部を有す第1のボビンは、1次側コイルを前記コイル巻線部に設け、その端末を1次側端子に接続固定した後、前記第1のボビンおよびコイルをインサート成型により、回路接続との端子部分以外を樹脂で覆い隠すと共に、コアの磁脚挿入孔を備え、1次側端子および2次側端子を具備する端子付フランジと、該端子付フランジと他方のフランジ間で、コアの磁脚上にコイル巻回部を有す第2のボビンを形成し、2次側コイルを前記コイル巻線部に設け、その端末を2次側端子に接続固定した後、コアを組み込んで構成することを特徴とするトランスである。
【0011】
また本発明は、第1のボビンは熱硬化性樹脂、第2のボビンは熱可塑性樹脂よりなることを特徴とする上記記載のトランスである。
【発明の効果】
【0012】
本発明のトランスは、インサート成型により第1のボビンの外方に第2のボビンを密着して形成したことにより、組み合わせボビンに比べクリアランス寸法を削減でき、また、高電位である1次側コイルが第2のボビンを形成する樹脂により覆い隠されるため、絶縁距離が今まで以上に容易に確保することができ、トランスの小型化,軽量化,生産工程の自動化率アップを可能とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明のトランスの実施形態を図を用いて説明する。図1は、本発明のトランスの斜視図である。図2は本発明のトランスのA−A断面図である。図3は本発明のトランスに係る第1のボビンの斜視図である。図4は本発明のトランスに係る第2のボビンの斜視図である。
【0014】
本発明のトランスは、図2の断面図に示すように、高電位の1次側コイル11が巻回する第1のボビン13のすぐ外方に、2次側コイル21が巻回する第2のボビン23が密着する2つのボビンで構成したものである。
【0015】
第1のボビン13は、図3に示す容姿であり、1次側端子14および2次側端子24を具備した端子付フランジ16と、該端子付フランジ16と他方のフランジ17との間にコイル巻回部18、中央にコアの磁脚挿入孔15を有す構造である。
【0016】
図3の第1のボビン13に、1次側コイル11を巻回し、その外周に外装テープ12を設けた後、前記1次側コイル11を含む第1のボビン13のすぐ外方に、インサート成型による第2のボビン23を形成する。図4が第2のボビン23の容姿を示したものであり、第2のボビン23により覆い隠された第1のボビン13を破線で表している。
【0017】
図4に示す第2のボビン23は、第1のボビン13に具備された1次側端子14および2次側端子24を除いて、インサート成型により第1のボビン13を覆い隠すものである。
【0018】
第2のボビン23は、第1のボビン13を覆い隠すと伴に、1次側端子14および2次側端子24を具備した端子付フランジ26と、該端子付フランジ26と他方のフランジ27との間にコイル巻回部28、中央にコアの磁脚挿入孔25を有す構造である。
【0019】
この第2のボビン23に、2次側コイル21を巻回し、その外周に外装テープ22を設けて、2次側コイル21の端末を2次側端子24に接続固定した後、軟磁性材からなるコア10を組み合わせて、図1および図2に示す本発明のトランスとなる。
【0020】
本発明のトランスは図2の断面図に示す通り、高電位である1次側コイル11およびそ1次側コイル11の端末と1次側端子14の接続固定部が、第1のボビン13と伴に、第2のボビン23の樹脂で覆い隠すことにより、高電位部分としては第2のボビン23の端子付フランジ26より飛び出す1次側端子14のみとなり、高電位部分が限られた1ヶ所となったことにより、トランス設計の自由度が上がり小型化を可能とすることができた。
【0021】
また、第2のボビン23の樹脂は、1次側コイル11を含む第1のボビン13に密着し、絶縁物距離を確保できる必要最低限の樹脂厚さとすればよく、コイル巻回部分における肥大化を抑制することができ、従来に比べて小型のコアを使用可能とした。
【0022】
また本発明に係る第1のボビン13および第2のボビン23に使用する樹脂は特に規定するものではないが、第2のボビン23は第1のボビン13を製作する際の樹脂成形温度より低い温度でインサート成型できる樹脂が好ましく、さらに、第1のボビン13は熱硬化性樹脂,第2のボビン23は熱可塑性樹脂が最も好ましい。
【0023】
第1のボビン13は、1次側端子14および2次側端子24を具備し、1次側コイル11,2次側コイル21の端末の接続固定および回路基板との接続固定時に高温となるために、フェノール樹脂などの熱硬化性樹脂を使用することにより、熱変形を防止することができる。
【0024】
第2のボビン23に使用する熱可塑性樹脂は、フェノール樹脂などの熱硬化性樹脂より低い温度で成型が可能であり、第1のボビン13,1次側コイル11、および、1次側端子14,2次側端子24などの各部品に対して、インサート成型時の熱による影響を最小限とすることができる。
【0025】
なお、図2に示す1次側コイル11の外装テープ12は、該1次側コイル11の端末引き回し時のリード飛び出し防止のため使用しているが、特に必要として限定するものではない。図1および図2に示す外装テープ22も、コイル21は低電圧側であるため、コア10に対して必要とする絶縁距離に応じて、外装テープ22の有無を判断すれば良い。
【0026】
また、本発明のトランスは縦型タイプに限定するものではなく、横型のトランスにおいて、第1のボビンが左右にフランジを有す場合、それぞれのフランジに1次側端子あるいは2次側端子を具備させて、インサート成型により第1のボビンを第2にボビンで覆い隠すことは、本発明のトランスの特許請求範囲に含まれるものである。
【0027】
本発明は、以上説明のように商用電源AC100V/240V、あるいはそれ以上の高電圧下の回路で使用するトランスの絶縁距離(沿面距離,絶縁物距離)を、トランスの肥大化を抑制したものであり、安全に関する規格であるIEC60950などでは、数mm程度の絶縁距離を規定化しているが、信号用の小型トランスでは数mmの絶縁距離確保によりトランスサイズの肥大化が顕著に表れ、本発明により信号用トランスの小型,軽量,量産化を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明のトランスの斜視図である。
【図2】本発明のトランスの構造を示すA−A断面図である。
【図3】本発明のトランスに係る第1のボビンの斜視図である。
【図4】本発明のトランスに係る第2のボビンの斜視図である。
【図5】従来のトランスの構造を示す断面図である。
【図6】従来の別のトランスの構造を示す断面図である。
【符号の説明】
【0029】
10:コア
11:1次側コイル
12:外装テープ
13:第1のボビン
14:1次側端子
15:コア磁脚挿入孔
16:端子付フランジ
17:フランジ
18:コイル巻回部
21:2次側コイル
22:外装テープ
23:第2のボビン
24:2次側端子
25:コア磁脚挿入孔
26:端子付フランジ
27:フランジ
28:コイル巻回部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアの磁脚挿入孔を備え、1次側端子および2次側端子を具備する端子付フランジと、該端子付フランジと他方のフランジ間で、前記コアの磁脚上でコイル巻回部を有す第1のボビンは、1次側コイルを前記コイル巻線部に設け、その端末を1次側端子に接続固定した後、前記第1のボビンおよび1次側コイルをインサート成型により、回路接続との端子部分以外を樹脂で覆い隠すと共に、コアの磁脚挿入孔を備え、1次側端子および2次側端子を具備する端子付フランジと、該端子付フランジと他方のフランジ間で、コアの磁脚上にコイル巻回部を有す第2のボビンを形成し、2次側コイルを前記コイル巻線部に設け、その端末を2次側端子に接続固定した後、コアを組み込んで構成することを特徴とするトランス。
【請求項2】
第1のボビンは熱硬化性樹脂、第2のボビンは熱可塑性樹脂よりなることを特徴とする請求項1記載のトランス。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2010−21479(P2010−21479A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−182800(P2008−182800)
【出願日】平成20年7月14日(2008.7.14)
【出願人】(000110240)日立フェライト電子株式会社 (19)
【Fターム(参考)】