説明

トリアジン化合物及びその製造方法、トリアジン化合物を用いた接合剤及び接着方法、トリアジン化合物を用いた表面処理剤及び表面処理方法、ならびに接合部材及びその製造方法

【課題】異種部材間の密着強度を向上させることが可能な新規なトリアジン化合物を含む接合剤及びその製造方法を提供する。
【解決手段】接合剤は、下式


で示されるトリアジン化合物を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なトリアジン化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、トリアジン化合物をゴム組成物として用いた発明が開示されている。一方、下記特許文献2には、Si基板の表面にトリアジン系下地被膜を介して耐剥離性の高い貴金属被膜を形成してなる発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−140127号公報
【特許文献2】特開2009−137153号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来では、異種部材間を接合する際にトリアジン化合物を用いた場合、密着強度(剥離強度)を十分に向上させることができなかった。
【0005】
そこで本発明は、上記従来の問題を鑑みてなされたものであり、特に、新規なトリアジン化合物及びその製造方法、異種部材間の密着強度を従来より向上させることが可能な新規なトリアジン化合物を含む接合剤及び接着方法、トリアジン化合物を用いた表面処理剤及び表面処理方法、ならびに接合部材及びその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明におけるトリアジン化合物は、
一般式(1)
【化1】

で示されることを特徴とするものである。
【0007】
このように本発明では、新規なトリアジン化合物にできる。本発明のトリアジン化合物には、上記一般式(1)の1分子単位内に多くの官能基(チオール基)(一般式(1)では6個)を持たせることができる。
【0008】
本発明のトリアジン化合物は、前記一般式(1)に示すトリアジン化合物の間で、あるいは、前記一般式(1)に示すトリアジン化合物と、前記一般式(1)とは別の構造を有するトリアジン化合物との間で、ジスルフィド化されてなることが好ましい。
【0009】
あるいは本発明におけるトリアジン化合物は、
一般式(2)
【化2】

で示されることを特徴とするものである。
これにより1分子単位内に占める官能基の数をより効果的に増やすことができる。
【0010】
また本発明における接合剤は、上記に記載されたトリアジン化合物を含むことを特徴とするものである。本発明の接合剤を用いることで異種材料間を分子接着することが可能である。そして本発明の新規なトリアジン化合物を含む接合剤によれば、従来のトリアジン系化合物に比べて、異種材料間の密着強度を効果的に向上させることが可能な接合剤にできる。
【0011】
また本発明における接合部材は、金属からなる第1の部材と、樹脂からなる第2の部材とが、上記に記載された接合剤を介して接合されることを特徴とするものである。
【0012】
本発明の新規なトリアジン化合物を含む接合剤を用いることで、金属からなる第1の部材と、樹脂からなる第2の部材間の接合層の膜厚を薄く、且つ、各部材間の密着強度を効果的に向上させることができる。
【0013】
また本発明では、前記第1の部材は、主成分の銅を含有してなることが好ましい。具体的には、前記第1の部材は、りん青銅、洋白、黄銅、あるいは、鋼板(SPC)で形成されることが好ましい。
【0014】
また本発明では、前記第2の部材は、ポリフェニレンスルファイド(PPS)により形成されることが好ましい。
【0015】
また本発明における表面処理剤は、上記に記載された前記トリアジン化合物を含むことを特徴とするものである。これにより従来と異なる表面処理効果、あるいは従来よりも優れた表面処理効果を期待できる。
【0016】
また本発明におけるトリアジン化合物の製造方法は、塩化シアヌルとアミノトリアジンジチオールとを、テトラヒドロフラン(THF)の溶媒中にて混合することを特徴とするものである。
【0017】
これにより、例えば、上記一般式(1)に示す新規なトリアジン化合物を簡単且つ適切に製造することができる。
【0018】
あるいは本発明におけるトリアジン化合物の製造方法は、塩化シアヌルとアミノトリアジンジチオールとを、ジメチルスルホキシド(DMSO)の溶媒中にて混合することを特徴とするものである。
【0019】
これにより、例えば、上記一般式(1)に示すトリアジン化合物の間で、あるいは、一般式(1)に示すトリアジン化合物と、前記一般式(1)とは別の構造を有するトリアジン化合物との間で、ジスルフィド化されてなる新規なトリアジン化合物、あるいは、上記一般式(2)に示す新規なトリアジン化合物を簡単且つ適切に製造することが出来る。
【0020】
また本発明における接合部材の製造方法は、金属からなる第1の部材と、樹脂からなる第2の部材間を、上記に記載された前記トリアジン化合物を含む接合剤を介して接合することを特徴とするものである。これにより、第1の部材と第2の部材間の密着強度に優れた接合部材を簡単且つ適切に製造できる。
【0021】
また本発明におけるトリアジン化合物を用いた表面処理方法は、上記に記載されたトリアジン化合物を含む溶液中に部材を浸すことを特徴とするものである。
【0022】
あるいは本発明におけるトリアジン化合物を用いた接着方法は、上記に記載されたトリアジン化合物を含む溶液中に金属からなる第1の部材あるいは樹脂からなる第2の部材のどちらか一方の部材を浸した後、他方の部材を前記一方の部材の前記トリアジン化合物が塗布された面に接着することを特徴とするものである。
【0023】
これにより本発明の新規なトリアジン化合物を用いた表面処理方法及び接着方法を簡単且つ適切に実現できる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、新規なトリアジン化合物にできる。そして、本発明におけるトリアジン化合物を例えば接合剤として用いることで、従来のトリアジン系接合剤に比べて、異種材料間の密着強度を効果的に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】金属からなる第1の部材と、樹脂からなる第2の部材とが接合層3を介して接合された接合部材の縦断面図、
【図2】図2(a)は、比較例であるトリアジントリチオールナトリウム塩と、第1の部材1との間の化学結合状態を示す模式図であり、図2(b)は、本発明(実施例)における新規なトリアジン化合物と、第1の部材との間の化学結合状態を示す模式図、
【図3】塩化シアヌルと、アミノトリアジンジチオールとを、ジメチルスルホキシド(DMSO)の溶媒中にて混合したときの反応モデル、
【図4】塩化シアヌルと、アミノトリアジンジチオールとを、ジメチルスルホキシド(DMSO)の溶媒中にて混合したときの図3とは異なる反応モデル、
【図5】第1の部材と第2の部材とを本発明の新規なトリアジン化合物を含む接合剤を介して接合して成る接合部材の製造方法を示す模式図、
【図6】第1の部材(洋白)と、第2の部材(PPS)との間をトリアジン化合物A、トリアジン化合物B(いずれも実施例)、及びトリアジン化合物C(比較例)により接合した際の密着強度を示す実験結果、
【図7】第1の部材(りん青銅)と、第2の部材(PPS)との間をトリアジン化合物A、トリアジン化合物B(いずれも実施例)、及びトリアジン化合物C(比較例)により接合した際の密着強度を示す実験結果、
【図8】図8(a)は、りん青銅からなる第1の部材の表面に、実施例のトリアジン化合物A、トリアジン化合物B及び比較例のトリアジン化合物Cを夫々、塗布したときの部材表面の構成元素をX線光電子分析装置で分析した実験結果、図8(b)は、洋白からなる第1の部材の表面に、実施例のトリアジン化合物A、トリアジン化合物B及び比較例のトリアジン化合物Cを夫々、塗布したときの部材表面の構成元素をX線光電子分析装置で分析した実験結果。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の実施形態におけるトリアジン化合物は、
一般式(3)
【化3】

で示される新規なトリアジン化合物である。
【0027】
本発明における一般式(3)の新規なトリアジン化合物は、
一般式(4)
【化4】

【0028】
一般式(5)
【化5】

を原料として生成されたものである。
【0029】
一般式(4)に示す塩化シアヌルと、一般式(5)に示すアミノトリアジンジチオールとをテトラヒドロフラン(THF)の溶媒中、例えば60℃〜80℃程度で、15時間〜20時間程度にて混合すると、上記した一般式(3)の新規なトリアジン化合物を生成することができる。
【0030】
また上記した一般式(3)に示すトリアジン化合物の間で、あるいは、前記一般式(3)に示すトリアジン化合物と、前記一般式(3)とは別の構造を有するトリアジン化合物との間で、ジスルフィド化されてなる新規なトリアジン化合物を構成することもできる。
【0031】
一般式(4)に示す塩化シアヌルと、一般式(5)に示すアミノトリアジンジチオールとを、
【0032】
一般式(6)
【化6】

で示すジメチルスルホキシド(DMSO)の溶媒中、例えば80℃〜110℃程度で、15時間〜20時間程度にて混合すると、上記したジスルフィド化を促進でき、好ましくは、
【0033】
一般式(7)
【化7】

で示される新規なトリアジン化合物を生成することが可能である。
【0034】
ここで一般式(8)
【化8】

は、トリアジントリチオールナトリウム塩であり、トリアジントリチオールナトリウム塩は比較例である。
【0035】
本発明における新規なトリアジン化合物や、比較例におけるトリアジントリチオールナトリウム塩は、部材間を接合するための物質(接合剤)として用いることが可能である。
【0036】
図1は、金属からなる第1の部材1と、樹脂からなる第2の部材2とがトリアジン化合物を含む接合層3を介して接合された接合部材4の縦断面図を示す。
【0037】
第1の部材1は、主成分の銅(Cu)を含むことが好適であり、具体的には、りん青銅、洋白、あるいは黄銅で形成されることが好ましい。このうち第1の部材1は、りん青銅あるいは洋白で形成されることがより好ましい。または第1の部材1は、鋼板(SPC、特にSPCE)で形成されてもよい。
【0038】
また第2の部材2は、ポリフェニレンスルファイド(PPS)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ABS樹脂、SBR樹脂、エラストマー含有樹脂により形成される。このうち、第2の部材は、PPSあるいは、PBTであることが好適である。
【0039】
図2(a)は、比較例であるトリアジントリチオールナトリウム塩の−SH基が、例えば、金属からなる第1の部材1の表面の−OH基と化学結合した状態を模式図で示したものである。
【0040】
一方、図2(b)は、本発明における例えば、一般式(7)で示される新規なトリアジン化合物の−SH基が、金属からなる第1の部材1の表面の−OH基と化学結合した状態を模式図で示したものである。なお図2(b)には、一般式(7)に示すトリアジン化合物の一部分のみを図示している。
【0041】
図2(a)の比較例及び、図2(b)の本発明のどちらにおいても、未反応のチオール基(−SH基;官能基)が存在しており、図2(a)(b)に示す第1の部材1上に例えば樹脂からなる第2の部材2を射出成形すると、官能基であるチオール基(−SH基)と樹脂との間で化学反応が起こり、トリアジン化合物を介して第1の部材1と第2の部材2との間を接合することが出来る。
【0042】
このようにトリアジン化合物と金属からなる第1の部材1との界面、及び、トリアジン化合物と樹脂からなる第2の部材2との界面を、樹脂あるいは金属と反応性が高いトリアジン化合物の官能基により結合でき、このような界面での化学結合による接着を分子接着(成形接着)と称する。
【0043】
分子接着は、例えばアンカー効果による接着に比べて、接合層3の膜厚を薄くできる利点がある。接合層3の膜厚は、1〜100nm程度である。
【0044】
図2(a)に示す比較例と、図2(b)に示す本発明とを対比すると、一般式(7)で示される新規なトリアジン化合物の本発明のほうが、一般式(8)に示す比較例よりも1分子単位に占める官能基(−SH)の数が多くなり、また特に一般式(7)で示される新規なトリアジン化合物は、アミノ基やジスルフィド基(R−S−S−R´)を有しており、一般式(8)で示される比較例よりも柔軟な構造と考えられる。このため、図2(a)(b)のトリアジン化合物が塗布された表面側に、樹脂からなる第2の部材2を成形したとき、本発明のほうが比較例よりも反応性を高め、強い分子接着を得ることができ、第1の部材1と第2の部材2間の密着強度(剥離強度)を高くすることが可能である(後述する実験結果を参照)。
【0045】
本発明では、上記一般式(4)の塩化シアヌルと、一般式(5)のアミノトリアジンジチオールとを、テトラヒドロフラン(THF)の溶媒中にて混合するよりも、一般式(6)に示すジメチルスルホキシド(DMSO)の溶媒中にて混合したほうが、トリアジン化合物間でのジスルフィド化を促進でき、図2を用いて説明したように1分子単位当たりに占める官能基の数をより効果的に増やすことができるとともに、より柔軟な構造にでき、第1の部材1と第2の部材2間の密着強度(剥離強度)をより効果的に高めることができる。
【0046】
図3は、上記一般式(4)の塩化シアヌルと、一般式(5)のアミノトリアジンジチオールとを、一般式(6)のジメチルスルホキシド(DMSO)の溶媒中にて混合したときの反応モデルを示す。図3は、アミノ基の求核置換が、チオールのジスルフィド化よりも優先的に行った場合の反応モデルである。
【0047】
図3に示す第一段階では、アミノトリアジンジチオールの塩化シアヌルへの求置換反応によりHClが脱離し、第2段階に示す化合物5〜7が生成される。
【0048】
第2段階に示す各化合物5〜7のチオール基(−SH)が、O2(大気中)及びジメチルスルホキシド(DMSO)を酸化剤として反応し、ジスルフィド化して、例えば、第2段階の化合物5は、第3段階に示す化合物8に、第2段階の化合物6は、第3段階に示す化合物9に、第2段階の化合物7は、第3段階に示す化合物10となる。このようなジスルフィド化が一分子中、複数箇所で起こることで三次元架橋しゲル化する。化合物8、9では、複数箇所での架橋が可能になっており、実際に生成物がゲル化することを考えると、化合物8、9が多く生成されているものと考えられる(化合物10の生成は少ないか無し)。
【0049】
次に、未反応の塩化シアヌルや、化合物6、7、ジスルフィド化した化合物8〜10中の塩化シアヌル由来の塩素(−Cl)が、ジスルフィド化により生成したH2O、又は、反応後の塩型置換や酸析処理時のH2Oにより加水分解されてヒドロキシ基(−OH)になる。よって、例えば、第3段階の化合物8は、第4段階に示す化合物11に、第3段階の化合物9は、第4段階に示す化合物12に、第3段階の化合物10は、第4段階に示す化合物13となる。ただし化合物11、化合物12が基本的に生成されていると考えられる(化合物13の生成は少ないか無し)。
【0050】
なお図3に示す第4段階に示すジチオール化したトリアジン化合物には、上記一般式(7)に示す構造が含まれていないが、第2段階から第3段階に至る過程で、第2段階に示す化合物5のみが集積してジスルフィド化することで一般式(7)に示す新規なトリアジン化合物を得ることが出来ると考えられる。一般式(7)に示すジチオール化したトリアジン化合物は好ましい形態であるが、一般式(7)以外のジチオール化したトリアジン化合物の構造であってもよい。すなわち、例えば、図3の第4段階に示す化合物11のように、一般式(3)と同じ分子構造を備えるトリアジン化合物14と、トリアジン化合物15とがジスルフィド化して結合し、さらに、トリアジン化合物14の一部のチオール基(−SH)が、一般式(3)とは異なる別の構造のトリアジン化合物16、及び、トリアジン化合物17のチオール基とジスルフィド化して結合した形態となっていてもよい。なお化合物12は化合物11と比べて官能基がすくないものの、化合物12が生成された場合は、第1の部材1と第2の部材2間を分子接着するのに寄与している。
【0051】
図4は、上記一般式(4)の塩化シアヌルと、一般式(5)のアミノトリアジンジチオールとを、一般式(6)のジメチルスルホキシド(DMSO)の溶媒中にて混合したときの図3とは異なる別の反応モデルを示す。図4は、チオールのジスルフィド化がアミノ基の求核置換よりも優先的に行った場合の反応モデルである。
【0052】
図4に示す第一段階では、まず、アミノトリアジンジチオールが大気中のO2を酸化剤として反応し、アミノトリアジンジチオール同士でジスルフィド結合を形成する(第2段階の化合物20,21参照)。その際にO2は還元されH2Oを生成する。
【0053】
また、ジスルフィル化の際に生成したH2Oが存在し、反応温度が100℃程度と高温であることから、塩化シアヌルの加水分解が迅速に起こるものと考えられる。
【0054】
次に、ジスルフィル化した化合物20や化合物21のアミノ基が塩化シアヌルとの間で求核置換する。第2段階で加水分解された塩化シアヌルに−Clが残っている場合も反応すると考えられる。なお、塩化シアヌルは、それ以上反応を起こさずに骨格の末端に位置すると考えられる。
【0055】
またこのときライナー型にジスルフィド結合されたトリアジン化合物と加水分解されていない塩化シアヌルが存在していれば、求核置換により塩化シアヌルがトリアジン化合物の架橋点となり、例えば化合物22のような三次元構造をとる可能性があると考えられる。
【0056】
更に、図3の第4段階で説明したように、未反応の塩化シアヌル由来の−Clが加水分解されてヒドロキシ基(−OH)になる。
【0057】
上記一般式(4)の塩化シアヌルと、一般式(5)のアミノトリアジンジチオールとを、一般式(6)のジメチルスルホキシド(DMSO)の溶媒中にて混合したとき、アミノ基の求核置換とチオールのジスルフィド化とが同時に起こる可能性、つまり図3の反応モデルと図4の反応モデルとが競合して起こる可能性もある。
【0058】
上記のように、上記一般式(4)の塩化シアヌルと、一般式(5)のアミノトリアジンジチオールとを、一般式(6)のジメチルスルホキシド(DMSO)の溶媒中にて混合したとき、図3の反応モデル、図4の反応モデル、及び、図3と図4の各反応モデルの競合が考えられるが、これらのうち、優先的に図3の反応モデルが起こっているものと推測される。
【0059】
本発明では、図5(a)に示す工程で、りん青銅、洋白、黄銅、あるいは、鋼板(SPC、特にSPCE)等で形成された第1の部材1に対して、アルカリ脱脂→洗浄(イオン交換水に浸漬)→酸洗浄(酸エッチング)→洗浄(イオン交換水に浸漬)を行う(前処理)。酸洗浄(酸エッチング)では、例えば3N HCl+5wt% H2SO4の水溶液中に、数十秒〜数分程度、第1の部材1を浸す。
【0060】
次に、図5(b)では、第1の部材1を、塩化シアヌルとアミノトリアジンジチオールとを、テトラヒドロフラン(THF)あるいは、ジメチルスルホキシド(DMSO)の溶媒中にて混合してなるトリアジン化合物(0wt%より多く数wt%程度)を含む溶液30中に浸漬させる。図5(b)に示す丸33の絵は、第1の部材1の表面に例えば上記一般式(3)からなる新規なトリアジン化合物が第1の部材1表面と化学結合してくっ付いた状態をイメージで示したものである。その後、第1の部材1を前記溶液30から取り出して、洗浄(イオン交換水に浸漬)し、乾燥工程を施す。
【0061】
次に図5(c)では、第1の部材1を金型31内に設置し、第1の部材1の表面にトリアジン化合物が塗布された塗布層32の表面の所定箇所に、樹脂(PPSが好ましい)からなる第2の部材2を射出成形する。図5(d)が完成品である。図5(d)に示す接合部材(完成品)の用途は特に限定されない。
【0062】
また図5では、金属からなる第1の部材1をトリアジン化合物を含む溶液30に浸漬させているが、樹脂からなる第2の部材2を接着溶液30に浸漬させ、その後、例えば無電解メッキにより、金属から成る第1の部材1を第2の部材2のトリアジン化合物が塗布された塗布層32側に形成することもできる。
【0063】
本発明における新規なトリアジン化合物は、上記したように部材間を接合するための接合剤以外に例えば、部材表面に対する表面処理剤として用いることも可能である。かかる場合、本発明の新規なトリアジン化合物を含む溶液中に、表面処理の必要な部材を浸すことで表面処理を行うことが可能である。本発明によれば、従来と異なる表面処理効果、あるいは従来よりも優れた表面処理効果を期待できる。
【実施例】
【0064】
塩化シアヌルとアミノトリアジンジチオールとを、テトラヒドロフラン(THF)の溶媒中にて混合してなる実施例のトリアジン化合物A(一般式(3)の新規なトリアジン化合物)、塩化シアヌルとアミノトリアジンジチオールとをジメチルスルホキシド(DMSO)の溶媒中にて混合してなる実施例のトリアジン化合物B(ジスルフィド化された新規なトリアジン化合物、例えば一般式(7)の新規なトリアジン化合物)、及び、一般式(8)のトリアジントリチオールナトリウム塩である比較例のトリアジン化合物Cを製造した。
【0065】
そして、図5に示す製造工程により、洋白からなる第1の部材とPPSからなる第2の部材とを、実施例のトリアジン化合物Aを含む接合剤、実施例のトリアジン化合物Bを含む接合剤、及び比較例のトリアジン化合物Cを含む接合剤の夫々にて接合した。なお第1の部材に対して、接着溶液に浸漬する前に、アルカリ脱脂、酸洗浄(酸エッチング)の前処理を行った。
【0066】
図6は、第1の部材と第2の部材間の密着強度(剥離強度;シェア強度)を示している。実験では、トリアジン化合物A、トリアジン化合物B及びトリアジン化合物Cを用いて接合した接合部材のサンプルを複数形成して、各トリアジン化合物に対して複数のサンプルを用いて密着強度を測定した。図6に示す黒丸の位置は、平均した密着強度を示している。図6に示すように、実施例のトリアジン化合物Bを用いることで、洋白からなる第1の部材とPPSからなる第2の部材間の密着強度(平均値)をより効果的に向上させることができるとわかった。
【0067】
また、実施例のトリアジン化合物Aを用いた場合、平均した密着強度(剥離強度)としては、比較例のトリアジン化合物Cを用いた場合とさほど変化なかったが、複数のサンプル中における密着強度(剥離強度)の最大値は、実施例のトリアジン化合物Aを用いたほうが、比較例のトリアジン化合物Cを用いるより大きくできた。
【0068】
図7は第1の部材をりん青銅とした場合の第1の部材と第2の部材(PPS)間の密着強度を示している。なお図7での実験方法は図6と同様である。図7に示すように、第1の部材をりん青銅とすると、実施例のトリアジン化合物A及びトリアジン化合物Bを用いることで、比較例のトリアジン化合物Cを用いる場合に比べて、効果的に第1の部材(りん青銅)と第2の部材(PPS)間の密着強度(平均値)を向上させることができるとわかった。
【0069】
図8(a)は、りん青銅からなる第1の部材の表面に、実施例のトリアジン化合物A、トリアジン化合物B及び比較例のトリアジン化合物Cを夫々、塗布したときの部材表面の構成元素をX線光電子分析装置(ESCA)で分析した実験結果を示す。
【0070】
また、図8(b)は、洋白からなる第1の部材の表面に、実施例のトリアジン化合物A、トリアジン化合物B及び比較例のトリアジン化合物Cを夫々、塗布したときの部材表面の構成元素をX線光電子分析装置(ESCA)で分析した実験結果を示す。
【0071】
図8(a)(b)に示す「アルカリ脱脂」及び「酸エッチング」は、第1の部材の前処理として行った場合が○、行っていない場合が×である。
【0072】
図8(a)に示すように、第1の部材をりん青銅として、実施例のトリアジン化合物A及びトリアジン化合物Bを用いた場合、部材表面には元素Nが比較例のトリアジン化合物Cを用いた場合よりも多く付着しており、トリアジン化合物A及びトリアジン化合物Bを構成する新規なトリアジン化合物のりん青銅表面に対する反応性が比較例のトリアジン化合物C(トリアジントリチオールナトリウム塩)を用いる場合よりも良好であることがわかった。
【0073】
特に第1の部材をりん青銅とした場合は、酸エッチングの有無に関わらず、元素Nの組成比が、実施例のトリアジン化合物A及びトリアジン化合物Bを用いた場合で大きくなっており、酸エッチングなしでも、実施例のトリアジン化合物A及びトリアジン化合物Bを構成する新規なトリアジン化合物をりん青銅表面に効果的にくっ付けることができるとわかった。
【0074】
図8(b)に示すように、第1の部材を洋白とした場合、酸エッチングを行わないと、実施例のトリアジン化合物A及びトリアジン化合物Bを用いた場合でも、部材表面に対する元素Nや元素Sの組成比は小さくなった。
【0075】
一方、実施例のトリアジン化合物A及びトリアジン化合物Bを用いた場合、洋白表面に酸エッチングを行うことで、酸エッチングを行わないよりも部材表面に対する元素Nや元素Sの組成比を大きくでき、特に、実施例のトリアジン化合物Bを用いることで、比較例のトリアジン化合物Cを用いるよりも部材表面に元素Nを多く付着させることができ、新規なトリアジン化合物を洋白表面に効果的にくっ付けることができるとわかった。
【符号の説明】
【0076】
1 第1の部材
2 第2の部材
3 接合層
4 接合部材
5〜17、20〜22 化合物
30 トリアジン化合物を含む溶液
31 金型

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】

で示されることを特徴とするトリアジン化合物。
【請求項2】
前記一般式(1)に示すトリアジン化合物の間で、あるいは、前記一般式(1)に示すトリアジン化合物と、前記一般式(1)とは別の構造を有するトリアジン化合物との間で、ジスルフィド化されてなる請求項1記載のトリアジン化合物。
【請求項3】
一般式(2)
【化2】

で示されることを特徴とするトリアジン化合物。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載された前記トリアジン化合物を含むことを特徴とする接合剤。
【請求項5】
金属からなる第1の部材と、樹脂からなる第2の部材とが、請求項4に記載された前記接合剤を介して接合されることを特徴とする接合部材。
【請求項6】
前記第1の部材は、主成分の銅を含有してなる請求項5記載の接合部材。
【請求項7】
前記第1の部材は、りん青銅、洋白、黄銅、あるいは、鋼板(SPC)で形成される請求項5又は6に記載の接合部材。
【請求項8】
前記第2の部材は、ポリフェニレンスルファイド(PPS)により形成される請求項5ないし7のいずれか1項に記載の接合部材。
【請求項9】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載された前記トリアジン化合物を含むことを特徴とする表面処理剤。
【請求項10】
塩化シアヌルとアミノトリアジンジチオールとを、テトラヒドロフラン(THF)の溶媒中にて混合することを特徴とするトリアジン化合物の製造方法。
【請求項11】
塩化シアヌルとアミノトリアジンジチオールとを、ジメチルスルホキシド(DMSO)の溶媒中にて混合することを特徴とするトリアジン化合物の製造方法。
【請求項12】
金属からなる第1の部材と、樹脂からなる第2の部材間を、請求項8又は9により形成された前記トリアジン化合物を含む接合剤を介して接合することを特徴とする接合部材の製造方法。
【請求項13】
請求項10又は11に記載されたトリアジン化合物を含む溶液中に部材を浸すことを特徴とするトリアジン化合物を用いた表面処理方法。
【請求項14】
請求項10又は11に記載されたトリアジン化合物を含む溶液中に金属からなる第1の部材あるいは樹脂からなる第2の部材のどちらか一方の部材を浸した後、他方の部材を前記一方の部材の前記トリアジン化合物が塗布された面に接着することを特徴とするトリアジン化合物を用いた接着方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−77038(P2012−77038A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−224656(P2010−224656)
【出願日】平成22年10月4日(2010.10.4)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)