説明

トリクロロシラン製造装置

【課題】高い熱効率で供給ガスを加熱するとともに、熱効率を損なうことなく装置の大型化を図ることができ、大量生産を可能にする。
【解決手段】テトラクロロシランと水素とを含む原料ガスを供給されてトリクロロシランと塩化水素とを含む反応ガスを生成する反応室11を有する反応容器20と、反応室11内に備えられて原料ガスを加熱するヒータ30と、反応容器20の周囲を覆うように設けられた断熱容器40と、断熱容器40と反応容器20との間にこの反応容器20を囲むように設けられ、反応室11に原料ガスを供給するガス供給流路15とを備えるトリクロロシラン製造装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テトラクロロシランをトリクロロシランに転換するトリクロロシラン製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン(Si:珪素)を製造するための原料として使用されるトリクロロシラン(SiHCl3)は、テトラクロロシラン(SiCl4:四塩化珪素)を水素と反応させて転換することで製造することができる。
すなわち、シリコンは、以下の反応式(1)(2)によるトリクロロシランの還元反応と熱分解反応で生成される。トリクロロシランは、以下の反応式(3)による転換反応で生成される。
SiHCl3+H2 → Si+3HCl ・・・(1)
4SiHCl3 → Si+3SiCl4+2H2 ・・・(2)
SiCl4+H2 → SiHCl3+HCl ・・・(3)
【0003】
トリクロロシランを製造する装置として、例えば特許文献1には、反応室が、同心配置の2つの管によって形成された外室と内室とをもった二重室設計とされ、この反応室の外側の周りに発熱体を配置した反応容器が提案されている。この反応容器では、炭素等で形成されたヒータ部である発熱体が通電により発熱し、反応室内を外側から加熱することで、反応室内のガスを反応させている。
【0004】
一方、特許文献2には、反応容器を複数の同心状の円筒壁と、これら円筒壁の間の小空間の上下を閉塞する円板とにより構成するとともに、各小空間を連続的に連通させて反応室とし、最も内周位置の円筒壁の内側に発熱体を設けたトリクロロシラン製造装置を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3781439号公報
【特許文献2】特開2008−133170号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1記載の構造であると、反応室の外部に配した発熱体により反応室内を加熱するが、この場合、発熱体からは半径方向内方だけでなく半径方向外方にも輻射熱が放射されるため、熱効率が低いという不都合がある。
【0007】
一方、特許文献2記載の構造の場合、反応容器の中央位置に発熱体を設けたことにより、半径方向外方に放射される輻射熱の全体を反応室内のガスに加えることができ、特許文献1記載のものより高い熱効率で加熱することができる。ただし、発熱体の外側を囲むように反応室が設けられるため、生産量の増大のために装置を大型化して反応室の外径を大きくしようとすると、反応室の外周部は発熱体から遠くなるため、大型化への対応には限界がある。
【0008】
本発明は、前述の課題に鑑みてなされたもので、さらに高い熱効率で供給ガスを加熱するとともに、熱効率を損なうことなく装置の大型化を図ることができ、大量生産を可能にするトリクロロシラン製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、テトラクロロシランと水素とを含む原料ガスからトリクロロシランを製造する装置であって、前記原料ガスを供給されてトリクロロシランと塩化水素とを含む反応ガスを生成する反応室を有する反応容器と、前記反応室内に備えられて前記原料ガスを加熱するヒータと、前記反応容器の周囲を覆うように設けられた断熱容器と、この断熱容器と前記反応容器との間にこの反応容器を囲むように設けられ、前記反応室に前記原料ガスを供給するガス供給流路とを備える。
【0010】
このトリクロロシラン製造装置によれば、ヒータを反応室の中に設置することにより、ヒータの熱がその周囲を流通する原料ガスに直接伝わるので、原料ガスを高い熱効率で加熱することができる。また、反応室内にヒータを設置するので、反応容器を大型化しても、その必要個所にヒータを設置することができ、熱効率を損なうことがない。
【0011】
また、このトリクロロシラン製造装置では、反応容器がヒータにより加熱されて高温となるが、原料ガスが反応容器の外面に沿って流通するので、低温の原料ガスにより反応容器の外面を冷却しながら、反応容器の熱を有効利用して原料ガスを予熱することができる。したがって、反応容器の外面から放出される熱による断熱容器の温度上昇を抑えることができる。
【0012】
このトリクロロシラン製造装置において、前記断熱容器および前記反応容器はそれぞれ天板と円筒状の壁体とを備え、前記ガス供給流路は、前記断熱容器の前記天板と前記反応容器の前記天板との間に形成されて装置外部から前記原料ガスを供給される円板状空間と、前記断熱容器の前記壁体と前記反応容器の前記壁体との間に形成される円筒状空間とを有し、前記反応容器の前記壁体に、前記円筒状空間と前記反応容器内とを接続して前記原料ガスを流通させる第1流通孔が、周方向に略等間隔をおいて複数個放射状に設けられていることが好ましい。
【0013】
この場合、供給された原料ガスがガス供給流路に充満した状態で、複数の流通孔を通じて反応容器に流入するので、反応容器内に原料ガスを分散させて均一に供給できる。
【0014】
また、このトリクロロシラン製造装置において、前記円板状空間と前記円筒状空間とを区画する隔壁を備え、前記隔壁は、これら各空間を接続して前記原料ガスを流通させる第2流通孔が、周方向に略等間隔をおいて複数個放射状に設けられており、前記第1流通孔の総開口面積が前記第2流通孔の総開口面積よりも小さいことが好ましい。
【0015】
この場合、円板状空間から第2流通孔を通じて円筒状空間に原料ガスが流入し、円筒状空間から第1流通孔を通じて反応容器に原料ガスが流入する。第1流通孔の総開口面積が第2流通孔よりも小さく、円筒状空間に充満した状態で原料ガスが反応容器に流入するので、反応容器内に原料ガスを分散させて均一に供給できる。
【0016】
また、このトリクロロシラン製造装置において、前記原料ガスを流通させる第3流通孔が周方向に略等間隔をおいて複数個放射状に設けられており、この第3流通孔を通じて前記円板状空間に前記原料ガスを供給する原料ガス供給管を備え、前記第2流通孔の総開口面積が、前記第3流通孔の総開口面積よりも小さいことが好ましい。
【0017】
この場合、第3流通孔を通じて円板状空間に原料ガスが供給され、円板状空間から第2流通孔を通じて原料ガスが円筒状空間に流入する。第2流通孔の総開口面積が第3流通孔よりも小さく、円板状空間に充満した状態で原料ガスが円筒状空間に流入するので、円筒状空間内に原料ガスを分散させて均一に供給できる。すなわち、このトリクロロシラン製造装置において、原料ガスは、まず円板状空間に一様に分散するように供給されて予熱され、次いで円筒状空間に一様に分散するように供給されてさらに予熱され、さらに反応容器に一様に分散するように供給される。したがって、十分に予熱された原料ガスを反応容器に一様に分散させて供給することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るトリクロロシラン製造装置によれば、ヒータを反応室の中に設置したことにより、ヒータの熱を原料ガスに直接伝え、原料ガスを高い熱効率で加熱して、トリクロロシランへの転換率をより向上させることができる。しかも、反応容器を大型化しても、必要個所にヒータを設置することができ、熱効率を損なうことなく装置の大型化を図ることができ、大量生産を可能にする。
【0019】
また、ガス供給流路が反応容器の外面に沿って設けられることにより、反応容器を収容する断熱容器の温度上昇を抑えると同時に、原料ガスを効率よく予熱することができる。したがって、断熱容器がカーボン製であっても、カーボンと原料ガス中の水素、クロロシラン及び塩化水素(HCl)とが反応してメタン、メチルクロロシラン等が生成されて不純物となることを防ぎ、純度の高いトリクロロシランを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係るトリクロロシラン製造装置の一実施形態を示す縦断面図である。
【図2】図1のA−A線に沿う断面矢視図である。
【図3】図1のB−B線に沿う断面矢視図である。
【図4】本発明に係るトリクロロシラン製造装置の他の実施形態を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係るトリクロロシラン製造装置の一実施形態について説明する。
本実施形態のトリクロロシラン製造装置10は、テトラクロロシランと水素とを含む原料ガスを加熱して、転換反応によりトリクロロシランと塩化水素等とを含む反応ガスを生成し、トリクロロシランを製造する装置であって、図1に示すように、原料ガスを内部に供給されて反応ガスを生成する反応容器20と、この反応容器20内で原料ガスを加熱するヒータ30と、反応容器20の周囲を覆うように設けられた断熱容器40とが、ケーシング50の中に収容された構造を有している。
【0022】
ケーシング50は、ステンレス鋼等の金属からなり、円板状の底板51と、この底板51の上に立設された円筒状の筒壁52と、この筒壁52の上端を閉塞する天板53とにより構成されている。
【0023】
断熱容器40は、断熱材からなり、ケーシング50の内部に配置されており、ケーシング50の底板51の上に配置された円板状の底板41と、この底板41の上に立設された円筒状の壁体42と、この壁体42の上端を閉塞する天板43とにより構成されている。この断熱容器40とケーシング50との間には、断熱材からなるスペーサ44が配置されており、断熱容器40の外周および上部とケーシング50の内周および上部との間に空間が設けられている。
【0024】
断熱容器40およびスペーサ44を形成する断熱材としては、たとえばカーボンフェルト(炭素繊維)成形体等の多孔質材が用いられる。なお、多孔質材は、内部の気孔表面までSiC(炭化珪素)でコーティングすることが困難であり、またコーティングを施した場合であっても長期間の使用における熱膨張によりコートが剥がれるおそれがある。このため、温度が約650℃以上で炭素繊維を構成材とする断熱材と原料ガスとが接触すると、メタンガス等の副生物(不純物)が発生する可能性がある。したがって、原料ガスとの反応によるメタンガス等の副生物(不純物)の発生を抑えるために、断熱容器40の温度上昇を抑えることが求められる。
【0025】
反応容器20は、たとえば、必要に応じて炭化珪素によりコーティングされた黒鉛、CCコンポジット(炭素繊維強化炭素複合材料)等からなり、断熱容器40の内部に収容されている。反応容器20は、断熱容器40の底板41の上に断熱容器40の壁体42の内側に離間するように配置された円筒状の外側壁体21と、この外側壁体21の上端を閉塞する天板22と、外側壁体21の略中心に天板22の下方に離間するように配置された円筒状の第1内側壁体23とにより構成されている。これら外側壁体21と第1内側壁体23とは断熱容器40の壁体42に対して略同心状に設けられており、円筒状の空間を形成している。外側壁体21の下部には、周方向に略等間隔をおいて複数の第1流通孔21aが放射状に設けられている。
【0026】
さらに反応容器20は、内部に、複数の分散孔24aを有し反応容器20の下部に底板41から離間するように略水平に設けられた板状の入口側分散板24と、複数の分散孔25aを有し反応容器20の上部に天板22から離間するように略水平に設けられた出口側分散板25とを備えている。分散孔24a,25aは、それぞれ、各分散板24,25を貫通し、均一に分散配置されている。
【0027】
これら入口側分散板24、出口側分散板25、外側壁体21、および第1内側壁体23に囲まれる円筒状の空間が、原料ガスが加熱される反応室11であって、この反応室11の内部にヒータ30が設けられている。そして、入口側分散板24の下方が反応室11へ原料ガスを均一に分散させて導入するためのバッファ室としてのガス導入室12、出口側分散板25の上方が反応室11から反応ガスを導出して滞留させるバッファ室としてのガス導出室13である。すなわち、ガス導出室13は、外側壁体21と第2内側壁体26との間に形成されており、反応ガスを高温のまま滞留させてより確実に転換反応を進行させる。
【0028】
ガス導出室13の中心部に連通する第1内側壁体23の下端部には、反応ガスを装置10から導出するガス導出管71が接続されている。すなわち、これら第1内側壁体23およびガス導出管71の内側が、反応ガスをトリクロロシラン製造装置10から取り出すためのガス導出流路14である。
【0029】
反応室11内を加熱するヒータ30は、複数の発熱体31および発熱体31の下部を支持する電極32が底板41,51を貫通するように立設され、ガス導入室12内を経由して入口側分散板24の分散孔24aを通じて反応室11内に突出して、上下方向に延びるように設けられている。発熱体31は、図2に示すように、円周状に複数列(本実施形態では3列)をなすように相互に間隔をおいて複数配置され、複数本ずつ直列に接続され、電極32を通じて電流供給されることにより抵抗発熱する。すなわち、各ヒータ30の発熱体31は、半径方向に間隔をおいて同心のリング状に配置され、その上端部が出口側分散板25より若干下方の高さとなる位置まで延び、反応室11内に均一に配置されている。
【0030】
ヒータ30の発熱体31は炭化珪素(SiC)のコーティングが施されたカーボン製であり、反応室11内に配置される上部は、下部に比較して細く形成され、入口側分散板24の分散孔24aの面積よりも小さい横断面積に形成されている。したがって、原料ガスは発熱体の周囲に形成された隙間を通って分散孔24aを流通する。また、ガス導入室12内に配置される発熱体31の下部は、上部に比較して断面積が大きいため、発熱量が小さい。
【0031】
なお、出口側分散板25に設けられている分散孔25aは、適宜の大きさ、間隔で分散して設けられるが、なるべく入口側分散板24の分散孔24aと上下方向に一致させずに水平方向にずれた配置とする、あるいは入口側分散板24の分散孔24aよりも小さい貫通孔として均等に分散配置するとよい。
【0032】
ガス導出室13は、出口側分散板25、天板22、外側壁体21および外側壁体21と同心状に配置された第2内側壁体26との間に形成されており、第2内側壁体26に周方向に略等間隔をおいて放射状に形成された第4流通孔26aを通じて第1内側壁体23内(すなわちガス導出流路14)に連通している。
【0033】
したがって、反応容器20においては、まず第1流通孔21aを通じてガス導入室12に導入された原料ガスが入口側分散板24の分散孔24aを通じて上方へ流れ、反応室11内へ均一に分散して導入される。そして、原料ガスは、反応室11内でヒータ30により直接加熱されて高温により反応し、上方の出口側分散板25の分散孔25aを通じてガス導出室13へと流出し、さらにガス導出流路14を通じてトリクロロシラン製造装置10から取り出される。
【0034】
この反応容器20に原料ガスを供給するガス供給流路15は、反応容器20の外周面に沿って、反応容器20の外側側面を囲むように設けられている。すなわち、反応容器20の天板22と断熱容器40の天板43との間の円板状空間15A、および反応容器20の外側壁体21と断熱容器40の壁体42との間の円筒状空間15Bが、反応容器20へのガス供給流路15を構成している。
【0035】
円板状空間15Aは、反応容器20の天板22と断熱容器40の天板43と、これら天板22,43間に同心状に配置された円筒状の内側壁体60と,外側壁体(隔壁)61との間に形成されている。この円板状空間15Aには、図3に示すように、内側壁体60およびガス供給管70を貫通して周方向に略等間隔をおいて放射状に設けられた複数の第3流通孔60aを通じて中心位置のガス供給管70から原料ガスが供給される。供給された原料ガスは円板状空間15A内に一様に広がり、外側壁体61に周方向に略等間隔をおいて放射状に設けられた複数の第2流通孔61aを通じて円筒状空間15Bへ流出する。なお、流出側の第2流通孔61aの総開口面積が流入側の第3流通孔60aの総開口面積よりも小さいので、原料ガスは流通抵抗により円板状空間15A内に充満し、第2流通孔61aを通じて円筒状空間15Bへと均一に導入される。
【0036】
また、この円板状空間15Aには、天板22,43と略平行に、反応容器20の天板22から断熱容器40の天板43への伝熱を遮るリング状板62が設けられている(図3参照)。すなわち、原料ガスは、この円板状空間15Aを通過する際に、反応容器20の天板22およびリング状板62に接触してこれらを冷却するとともにこれら天板22およびリング状板62によって予熱される。これにより、断熱容器40の天板43の温度上昇が抑制され、原料ガスとカーボンフェルト製の天板43とが反応してメタン等の副生物が発生するのを抑えられる。
【0037】
円筒状空間15Bは、円板状空間15Aを形成する外側壁体61および反応容器20の外側壁体21と断熱容器40の壁体42との間に形成されている。この円筒状空間15Bに、円板状空間15Aから複数の第2流通孔61aを通じて原料ガスが流入する。流入した原料ガスは円筒状空間15B内に一様に広がり、反応容器20の壁体21に設けられた第1流通孔21aを通じて反応容器20のガス導入室12内へ流出する。なお、流出側の第1流通孔21aの総開口面積が流入側の第2流通孔61aよりも小さいので、原料ガスは流通抵抗により円筒状空間15B内に充満し、反応容器20(ガス導入室12)へと均一に導入される。
【0038】
この円筒状空間15Bを流通しながら、原料ガスは反応容器20の外側壁体21を冷却するとともにこの外側壁体21によって予熱される。これにより、断熱容器40の壁体42の温度上昇が抑制され、原料ガスとカーボンフェルト製の壁体42とが反応してメタン等の副生物が発生するのを抑えられる。
【0039】
このように構成されたトリクロロシラン製造装置10において、ヒータ30の発熱体をたとえば1100℃程度の発熱状態に設定し、ガス供給管70を通じて約400℃の原料ガスを供給する。原料ガスはまず円板状空間15Aから円筒状空間15Bに導かれ、反応容器20の外面からの熱を受けてたとえば500〜550℃程度に予熱される。これにより、断熱容器40の温度上昇が抑えられる。そして、原料ガスは、外側壁体21の下端部の第1流通孔21aから反応容器20内のガス導入室12に導入され、入口側分散板24の各分散孔24aから反応室11内を流通する。
【0040】
原料ガス供給流路15の円板状空間15Aにおいて、流入側の第3流通孔60aの総開口面積よりも流出側の第2流通孔61aの総開口面積の方が小さいので、原料ガスは流通抵抗により円板状空間15Aに充満して円筒状空間15Bへ流入する。そして、その下流の円筒状空間15Bにおいても、流入側の第2流通孔61aの総開口面積よりも流出側の第1流通孔21aの総開口面積の方が小さいので、原料ガスは流通抵抗により円筒状空間15Bに充満して反応容器20へ流入する。これにより、原料ガスは原料ガス供給流路15を偏らずに均等に流れ、予熱状態で反応容器20に供給される。
【0041】
反応室11内においては、原料ガスとの反応によって不純物が生じないように反応容器20の構成部材およびヒータ30の各発熱体31は炭化珪素のコーティングがなされている。ガス導入室12においては、原料ガスがヒータ31の下端部付近を流通するが、このときの原料ガスの温度が500〜600℃程度であって、カーボンと原料ガス中の水素との反応温度(約850℃)よりは低いので、メタンやメチルクロロシラン等の不純物の発生を防止できる。
【0042】
入口側分散板24の各分散孔24aには、ヒータ30の各発熱体31が挿入されているので、原料ガスは、各分散孔24aを通ることにより発熱体31の表面に沿って流れる。したがって、発熱体31からの熱が原料ガスに直接伝わって原料ガスが高い熱交換率で加熱され、トリクロロシランへの転換率を向上させることができる。反応ガスは、出口側分散板25の各分散孔25aを経由してガス導出室13に導かれ、このガス導出室13内で滞留した後、第2内側壁体26の第4流通孔26aからガス導出流路14に導出される。
【0043】
このトリクロロシラン製造装置10において、炭化珪素でコーティングされたカーボンで反応容器20の構成部材(外側壁体21、天板22、第1内側壁体23、各分散板24,25、第2内側壁体26等)やヒータ30の各発熱体31が構成されているので、カーボンと原料ガスおよび反応ガス中の水素、クロロシランおよび塩化水素とが反応してメタンやメチルクロロシラン等が生成されて不純物となることを防ぐことができる。また、断熱容器40は、炭化珪素でのコーティングが困難なカーボンフェルト成形体によって形成されているが、高温となる反応容器20との間に反応容器20を囲むように原料ガス供給流路15が設けられているので、原料ガスによって反応容器20が冷却されて断熱容器40の温度上昇が抑えられるので、炭素繊維と原料ガスとの反応を防ぐことができる。したがって、このトリクロロシラン製造装置10によれば、純度の高いトリクロロシランを高効率で得ることができる。
【0044】
また、反応室11を大型化する場合、ヒータ30の発熱体31を増やすことにより、大型の反応室にも均等に発熱体を配置できるので、大型化への対応も容易で、大量生産にも適している。
【0045】
図4に、本発明の他の実施形態を示す。このトリクロロシラン製造装置110は、図1のトリクロロシラン製造装置10における原料ガス供給流路15が上方から下方への1方向に向かう構成であったのに対して、反応容器120と断熱容器40との間に反応容器120を囲むように反応容器120と同じ材質の円筒状の壁体63,64を同心状に設けることにより原料ガス供給流路115を上下に蛇行させる構成としたものであり、その他の構成は図1に示す実施形態のものと略同様である。したがって、図1等の実施形態と共通部分には同一符号を付して説明を省略する。
【0046】
この実施形態においては、反応容器120の天板122と外側壁体121の下部に形成されたフランジ部121aとの間に、それぞれ径方向に間隔をおいて円筒状の壁体63,64が同心状に設けられている。反応容器120と断熱容器40との間は、これら壁体63,64によって区画されており、各区画間は外側の壁体63の下部に形成された複数の貫通孔63aおよび内側の壁体64の上部に形成された複数の貫通孔64aによって連通している。そして、このように形成された原料ガス供給流路115は、外側壁体121の下部に設けられた第1流通孔121bを介して反応容器120内と接続されている。
【0047】
したがって、原料ガスは、反応容器120と断熱容器40との間に三重に形成された供給流路を流通する間に、高温の反応容器120に徐々に近づきながら予熱される。また、反応容器120と断熱容器40との間には、壁体63,64が2重に立設されているので、これら壁体63,64によって反応容器120から断熱容器40への熱伝達が遮断される。これにより、このトリクロロシラン製造装置110においては、断熱容器40への伝熱をより確実に遮断して断熱容器40の温度上昇を効果的に抑制し、メタン等の副生物の生成を抑えることができる。
【0048】
なお、この実施形態においても、原料ガス供給流路における各流通孔の総開口面積を下流ほど小さくして、流通抵抗により各室に原料ガスを充満させながら流通させることが好ましい。
【0049】
なお、本発明は前記実施形態の構成のものに限定されるものではなく、細部構成においては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
たとえば、前記実施形態では、原料ガスをトリクロロシラン製造装置の上部に供給し、反応ガスをトリクロロシラン製造装置の下部から取り出しているが、原料ガスをトリクロロシラン製造装置の下部に供給してもよく、また反応ガスをトリクロロシラン製造装置の上部から取り出してもよい。
【符号の説明】
【0050】
10,110 トリクロロシラン製造装置
11 反応室
12 ガス導入室
13 ガス導出室
14 ガス導出流路
15,115 原料ガス供給流路
15A 円板状空間
15B 円筒状空間
20,120 反応容器
21,121 外側壁体
21a,121b 第1流通孔
121a フランジ部
22,122 天板
23 第1内側壁体
24 入口側分散板
24a 分散孔
25 出口側分散板
25a 分散孔
26 第2内側壁体
26a 第4流通孔
30 ヒータ
31 発熱体
32 電極
40 断熱容器
41 底板
42 壁体
43 天板
44 スペーサ
50 ケーシング
51 底板
52 筒壁
53 天板
60 内側壁体
60a 第3流通孔
61 外側壁体(隔壁)
61a 第2流通孔
62 リング状板
63,64 壁体
63a,64a 貫通孔
70 ガス供給管
71 ガス導出管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テトラクロロシランと水素とを含む原料ガスからトリクロロシランを製造する装置であって、
前記原料ガスを供給されてトリクロロシランと塩化水素とを含む反応ガスを生成する反応室を有する反応容器と、
前記反応室内に備えられて前記原料ガスを加熱するヒータと、
前記反応容器の周囲を覆うように設けられた断熱容器と、
この断熱容器と前記反応容器との間にこの反応容器を囲むように設けられ、前記反応室に前記原料ガスを供給するガス供給流路と、
を備えることを特徴とするトリクロロシラン製造装置。
【請求項2】
前記断熱容器および前記反応容器はそれぞれ天板と略円筒状の壁体とを備え、
前記ガス供給流路は、前記断熱容器の前記天板と前記反応容器の前記天板との間に形成されて装置外部から前記原料ガスを供給される円板状空間と、前記断熱容器の前記壁体と前記反応容器の前記壁体との間に形成される円筒状空間とを有し、
前記反応容器の前記壁体に、前記円筒状空間と前記反応容器内とを接続して前記原料ガスを流通させる第1流通孔が、周方向に略等間隔をおいて複数個放射状に設けられていることを特徴とする請求項1に記載のトリクロロシラン製造装置。
【請求項3】
前記円板状空間と前記円筒状空間とを区画する隔壁を備え、
前記隔壁は、これら各空間を接続して前記原料ガスを流通させる第2流通孔が、周方向に略等間隔をおいて複数個放射状に設けられており、
前記第1流通孔の総開口面積が、前記第2流通孔の総開口面積よりも小さいことを特徴とする請求項2に記載のトリクロロシラン製造装置。
【請求項4】
前記原料ガスを流通させる第3流通孔が周方向に略等間隔をおいて複数個放射状に設けられており、この第3流通孔を通じて前記円板状空間に前記原料ガスを供給する原料ガス供給管を備え、
前記第2流通孔の総開口面積が、前記第3流通孔の総開口面積よりも小さいことを特徴とする請求項3に記載のトリクロロシラン製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−157223(P2011−157223A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−18950(P2010−18950)
【出願日】平成22年1月29日(2010.1.29)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】