説明

トリチウム汚染物の除染方法およびその除染システム

【課題】原子力発電所や放射性物質取扱施設、あるいは核融合研究施設などから発生するトリチウム(三重水素:3H)で汚染した放射性汚染物からトリチウムを除去し汚染物を除染する方法、およびそのシステムに関する。
【解決手段】トリチウムが材料の表面ならびに内部に分布しているトリチウム汚染材料と軽水とを密閉容器中に封入した後、温度50〜400℃で加熱処理することにより、前記トリチウム材料表面に存在するトリチウムの水蒸気中への移行を促進させると同時に、加熱により前記トリチウム材料内部に存在するトリチウムの材料表面への拡散と表面での水蒸気への移行を促進させる。さらに、トリチウム除染用媒体である加熱水として、超臨界水、亜臨界水、水を含む超臨界の二酸化炭素、又は水を含む亜臨界の二酸化炭素の何れかを使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力発電所や放射性物質取扱施設、あるいは核融合研究施設等から発生するトリチウム(三重水素:3H)で汚染した放射性汚染物からトリチウムを除去し汚染物を除染する方法、およびそのシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電所や放射性物質取扱施設、あるいは核融合研究施設等、特に重水を使用する施設等では、運転に伴いトリチウムが配管材料等に重水と共に付着、密着又は材料中への拡散等により材料中に固溶している。トリチウムで汚染した材料は、定期点検時、補修作業時並びに解体作業時に除染作業が行われる。一般に、トリチウムの付着や密着等による軽い汚染の場合は、施設や機器を設置した状態で除染する方法が採用されている。この除染方法は、加熱空気等による乾燥によるもの、水による洗浄又は水蒸気ブロー法よるもの等、様々な方法がある。しかし、トリチウムの汚染がひどい材料やトリチウム汚染と共に応力腐食等の他の理由によって疲労が激しいものは解体して交換する必要がある。また、今後は原子力施設の老朽化に伴い、解体される際に発生するトリチウム汚染廃棄物が大量に発生する。このようにして解体された材料は、汚染廃棄物として密閉保管されている。
【0003】
トリチウム汚染の程度が軽微である場合は、トリチウムの濃度を下げた状態で埋設処分を行ったり、環境放出が許容される法的濃度以下までトリチウム濃度を希釈して再利用することができる。その場合、材料の表面上のトリチウムを除去したり、トリチウム濃度を低減することは、前記で述べた方法の他にも、表面拭き取り法等の比較的簡単な方法で行うことができる。また、トリチウム汚染の軽微な材料は、トリチウム除染方法として材料の表面汚染部を機械的に、物理的に、又は化学的に取り除く方法を採用することが可能である。その具体的な方法として、表面汚染部を切削する方法、高エネルギーのレーザー光照射によって汚染表面を溶融状態にして吹き飛ばして汚染部分を除去する方法、酸溶液などを用いて汚染部分を溶解して除去する方法等が採用されている。また、特許文献1には、これらの方法が有する問題点、例えば、除染効率の低下、作業性の悪化、又は二次廃棄物の大量発生等の問題点を改善するために、酸化反応及び/あるいはフッ素化反応を利用する気相ガス化除染方法が開示されている。この気相ガスによる化学反応を利用した放射性元素の除去方法については、トリチウムの除去方法に関するものではないが、特許文献2にも開示されている。特許文献2には、カルボニル化反応及びフッ素化反応の前処理に、あるいはこれらの反応と併用して、超臨界状態のCOガスと、ハロゲンガスと、水蒸気若しくはアルコールガスとの混合ガスからなる反応性ガスを用いることが記載されている。
【0004】
しかし、トリチウムの汚染がひどいために解体された材料や老朽化後の解体材料は、トリチウムが表面に付着、密着しているだけではなく、材料内部に拡散浸透して存在する。トリチウム汚染材料の内部に分布しているトリチウムの濃度を低減することは、前記に述べた表面除染法では困難である。また、仮に材料表面のトリチウムを除去したり、トリチウム濃度を低減することができたとしても、廃棄放置中、保存中又は保管中に、材料の内部に存在するトリチウムが材料外部へ拡散し、周辺を汚染してしまう。加えて、廃棄放置した材料が破損して、材料内部の組織が外雰囲気に曝された場合にはトリチウムによる環境汚染の影響が無視できなくなる。その場合、トリチウム汚染の問題が再燃して安全、安心の点で大きな問題が生じるだけではなく、材料強度の維持という点でも課題が残る。そのため、特許文献3及び特許文献4には、内部までトリチウムで汚染された材料に着目して、内部の存在するトリチウムの除染方法が検討されている。特許文献3には、軽水の水蒸気を含む200℃以下のガスを供給することにより、材料表面に吸着された重水からトリチウムを除染する方法が開示されている一方で、材料内部に存在する固溶トリチウムは材料内に閉じこめられているため固溶トリチウムに基づく放射線のレベルは低く、被曝上問題とならないと記載されている。また、特許文献4には、材料内部に存在する固溶トリチウムを除去する方法として、200℃以下の熱風で加熱した後、200℃から600℃に昇温した熱風で加熱保持して固溶トリチウムを追い出すトリチウム汚染金属の除染方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−162498号公報
【特許文献2】特開平9−257993号公報
【特許文献3】特開平11−281792号公報
【特許文献4】特開2004−271200号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献3には、長期間の使用や放置によって材料内部に存在するトリチウムの外部への拡散については言及されていない。また、放置中、保存中又は保管中の環境上(温度、湿度等)の変動による影響も無いとは言えず、将来的に安全、安心の点で大きな問題を残している。特許文献4には、材料内部に存在する固溶トリチウムを除去する方法が開示されているものの、除染効率を上げるためには熱風温度を600℃と高温に上げる必要がある。高温熱風を利用する場合は、処理装置が負圧に保持されているとは言え、トリチウムを含むガスが配管や装置から漏れ出す危険性が高く、トリチウムを含むガスによる周辺環境への二次汚染が発生する可能性がある。放射性汚染材料では、放射性物質の外部への漏出は絶対にあってはならず、この問題を完全に防止するには除染方法及び除染装置の厳重な管理と制御が不可欠である。加えて、特許文献4に記載の方法は、大型で且つ複雑な形状を有するトリチウム汚染材料の除染処理に適用する場合、該汚染材料のすべての箇所において熱風の温度を均一に調整するために高度の熟練と技能を要することから、トリチウム除去の再現性を高くすることが困難である。特に、長期間の適用では、装置の劣化などによる除染能力と効率が低下することが考えられる。このように、従来の加熱ガスによるトリチウム除染方法は、トリチウム汚染材料からトリチウムを安全かつ簡単に回収できるものではなかった。
【0007】
したがって、本発明の目的は、トリチウム汚染材料について、その表面に付着、吸着したトリチウムを除去するだけではなく、材料の内部に存在するトリチウムを、熱風による従来の方法よりも低温度で、効率的に安価で、且つ許容濃度限界以下までの除去を確実に行うことができるトリチウム汚染物の除染方法およびその除染システムを提供することである。また、従来の方法で問題となっていたトリチウムを含むガスによる周辺環境への二次汚染を発生させないでトリチウムを安全かつ簡単に回収すると共に、除染処理後に排出されるトリチウム汚染廃棄物の量を低減させたトリチウム汚染物の除染方法およびその除染システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、トリチウム汚染材料の表面のみならず内部に分布しているトリチウムを、許容濃度限界以下まで低温度で効率的に、簡単、安全且つ確実に除去するために、次の構成を有するトリチウム汚染物の除染方法およびその除染システムに関する。
(1)トリチウムが材料の表面ならびに内部に分布しているトリチウム汚染材料と軽水(以下、トリチウムを含まない通常の水HOを示す)とを密閉容器中に封入した後、温度50〜400℃で加熱処理することにより、前記トリチウム材料表面に存在するトリチウムの水蒸気中への移行を促進させると同時に、加熱により前記トリチウム材料内部に存在するトリチウムの材料表面への拡散と表面での水蒸気への移行を促進させることを特徴とするトリチウム汚染物の除染方法に関する。
(2)前記(1)に記載のトリチウム汚染物の除染方法において、前記トリチウム汚染材料と軽水とを封入した密閉容器を温度50〜400℃で加熱処理後、前記密閉容器を前記加熱処理温度未満の温度に冷却し降圧させて前記密閉容器中にトリチウム含有水を凝結させる方法、及び/又は減圧手段を用いて前記密閉容器中の水蒸気を前記密閉容器外に取り出し冷却トラップしてトリチウム含有水を凝結させる方法、によってトリチウム含有水を前記トリチウム汚染材料から分離して回収することを特徴とするトリチウム汚染物の除染方法に関する。
(3)前記のトリチウム汚染材料と軽水とを封入した密閉容器を温度50〜400℃で加熱処理する操作が2回以上の多段で行われることを特徴とする前記(1)又は(2)に記載のトリチウム汚染物の除染方法に関する。
(4)前記(1)〜(3)の何れかに記載のトリチウム汚染物の除染方法において、除染処理に使用した後回収したトリチウム含有水を再利用することによって、二次廃棄物となるトリチウム含有水ならびにその固化処理物の汚染廃棄物の発生を低減させる方法を特徴とするトリチウム汚染物の除染方法に関する。
(5)トリチウムが材料の表面ならびに内部に分布しているトリチウム汚染材料を含む密閉容器中で、超臨界水、亜臨界水、水を含む超臨界の二酸化炭素、又は水を含む亜臨界の二酸化炭素の何れかを循環させると共に、前記トリチウム汚染材料を含む密閉容器を温度50〜400℃で加熱処理することにより、前記トリチウム汚染材料表面に存在するトリチウムの水蒸気中への移行を促進させると同時に、加熱により前記トリチウム汚染材料内部に存在するトリチウムの材料表面への拡散と表面での水蒸気への移行を促進させることを特徴とするトリチウム汚染物の除染方法に関する。
(6)前記(1)〜(5)に記載のトリチウム汚染物の除染方法において、除染処理に使用したトリチウム含有水は、軽水で希釈して廃棄されるか、又はトリチウム含有水又はその固化処理物の汚染廃棄物として隔離保管又は隔離保存されることを特徴とするトリチウム汚染物の除染方法に関する。
(7)(A)加熱機能を有する密封容器、除染用及び/又は洗浄用としてトリチウムを含まない軽水(HO)を前記密封容器中に供給するための設備、及び除染処理後のトリチウム含有水及び/又は密封容器洗浄後の洗浄水をドレン水として回収するための設備を有するトリチウム除染設備、(B)トリチウム汚染物を前記の密封容器に供給するために、前記の密封容器に隣接して設けられたトリチウム除染室、(C)トリチウムを含む水蒸気及び/又は汚染ガスを前記トリチウム除染設備及び/又は前記のトリチウム除染室から排出するための設備、(D)トリチウムを含まない精製ガスを前記トリチウム除染設備及び/又は前記のトリチウム除染室に供給及び/又は排出するための設備、及び(E)前記密封容器内の温度及び/又は圧力、前記密封容器内に存在する前記軽水及び/又は前記ドレン水の量、前記前記トリチウム除染室の内部圧力、前記ドレン水のトリチウム濃度、及び前記トリチウム除染室内及び/又は配管中のトリチウム濃度、の少なくとも何れか1つを計測又はモニタリングするための装置、から構成された設備を用いて、トリチウムが材料の表面ならびに内部に分布しているトリチウム汚染材料と軽水とを含む前記密封型容器を温度50〜400℃で加熱処理することを特徴とするトリチウム汚染物の除染システム。
(8)前記の除染処理後のトリチウム含有水を、前記トリチウム汚染物を含む密封容器に1回若しくは2回以上繰り返し供給して再利用することによってトリチウムの除染処理を行うことを特徴とする前記(7)に記載のトリチウム汚染物の除染システム。
(9)トリチウムが材料の表面ならびに内部に分布しているトリチウム汚染材料を含む密封容器内に、高圧ポンプと加熱によって得られる超臨界水、亜臨界水、水を含む超臨界の二酸化炭素、又は水を含む亜臨界の二酸化炭素の何れかを循環させると共に、前記トリチウム汚染材料を含む密閉容器を温度50〜400℃で加熱処理してトリチウム汚染物の除染工程を経た後、前記の超臨界水、亜臨界水、水を含む超臨界の二酸化炭素、又は水を含む亜臨界の二酸化炭素の何れかを膨張させる処理を経ることによってトリチウムを含む水だけを分離回収することを特徴とするトリチウム汚染物の除染システムに関する。
(10)トリチウム除染処理に使用した後のトリチウム含有水を、軽水で希釈して廃棄するための設備、又はトリチウム含有水又はその固化処理物の汚染廃棄物として隔離保管又は隔離保存するための設備を有することを特徴とする前記(7)〜(9)の何れかに記載のトリチウム汚染物の除染システムに関する。
(11)前記(3)に記載のトリチウム汚染物の除染方法において、多段操作による処理は2個以上の複数の除染容器を用いて行われることを特徴とするトリチウム汚染物の除染方法に関する。
(12)前記(3)又は(11)に記載の多段処理によるトリチウム汚染物の除染方法において、回収されたトリチウム含有水を適用する際に、後段の除染処理で使用するトリチウム含有水は、前段の処理で使用するトリチウム含有水よりもトリチウム濃度が低いことを特徴とするトリチウム汚染物の除染方法に関する。
(13)前記(5)に記載のトリチウム汚染物の除染方法において、前記トリチウム汚染材料を臨界水、亜臨界水、水を含む超臨界の二酸化炭素、又は水を含む亜臨界の二酸化炭素の何れかによって処理した後に、膨張させて圧力を下げることによってトリチウムを含む前記の超臨界水、亜臨界水、超臨界の二酸化炭素に含まれる水、又は亜臨界の二酸化炭素に含まれる水の何れかを直接回収して、前記トリチウム汚染材料から分離することを特徴とするトリチウム汚染物の除染方法に関する。
(14)前記(6)に記載のトリチウム汚染物の除染方法において、前記トリチウム含有水は、電気分解による濃縮処理を行った後、トリチウムを含まない水と分離されてトリチウム濃縮水又はその固化処理物の汚染廃棄物として隔離保管又は隔離保存されることを特徴とするトリチウム汚染物の除染方法に関する。
(15)前記のトリチウム除染室が負圧に維持されることを特徴とする前記(7)に記載のトリチウム汚染物の除染システムに関する。
(16)前記の密封容器の2個以上を併設して、トリチウムの除染処理を行うことを特徴とする前記(7)〜(8)、(15)の何れかに記載のトリチウム汚染物の除染システムに関する。
(17)前記(16)に記載の密封容器の2個以上を併設して、直列にトリチウムの除染処理を行うトリチウム汚染物の除染システムにおいて、トリチウムの除染用として使用する水は、後段の処理におけるトリチウム濃度が前段の処理よりも少ないことを特徴とするトリチウム汚染物の除染システムに関する。
(18)前記(10)に記載のトリチウム汚染物の除染システムにおいて、前記トリチウム含有水は、電気分解による濃縮装置を用いてトリチウムを含まない水と分離されてトリチウム濃縮水又はその固化処理物の汚染廃棄物として隔離保管又は隔離保存されることを特徴とするトリチウム汚染物の除染システムに関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、トリチウムが材料の表面ならびに内部に分布しているトリチウム汚染材料を、除染用媒体として加熱水を用いて、密閉容器内で高温の条件下で除染することによって、トリチウム汚染材料の表面のみならず内部に存在するトリチウムを、許容濃度限界以下まで低温度で効率的に、且つ確実に除去することができる。除染用媒体に使用する高温の加熱水として、超臨界水、亜臨界水、水を含む超臨界の二酸化炭素、又は水を含む亜臨界の二酸化炭素を使用することによって、厚くて複雑な形状を有するトリチウム汚染材料からのトリチウム除染を効率的に、かつ均一に行うことができる。前記のリチウム汚染材料からトリチウムの除染操作を多段に行うことによって、トリチウム汚染材料の内部に分布するトリチウムの確実な除染を、効率的に且つ連続的に行うことができる。トリチウム除染処理に使用したトリチウム含有水を、トリチウム濃度に応じて再利用することによって、汚染廃棄物の発生を低減させることができる。トリチウム汚染含有水のトリチウム濃度は、トリチウム汚染材料内部のトリチウム濃度分布の減少量にほぼ一致することから、そのトリチウム濃度に応じて、再利用に適するか否かを容易に判別することができる。そのため、前記トリチウム含有水の再利用による除染処理では、トリチウム濃度の低いトリチウム含有水を選別して使用することによってトリチウム汚染材料の内部に分布するトリチウムの除去を確実に行うことができる。加えて、除染処理後のトリチウム含有水は、濃縮処理によって得られるトリチウム濃縮水又はその固化処理物の汚染廃棄物として隔離して保存又は保管されるために、該汚染廃棄物の減容化を図ることができる。
【0010】
高温、高圧条件下にある水蒸気によってトリチウム汚染材料からトリチウム除染する際に、除染工程の条件と雰囲気を計測またはモニタリングすると共に、その計測値とモニタリング値に基づいて所定の範囲に除染条件を調整制御するための除染システムを構築することによって、再現性に優れた安定的なトリチウム汚染物の除染方法を確立することが可能となる。また、除染媒体として超臨界水、亜臨界水、水を含む超臨界の二酸化炭素、又は水を含む亜臨界の二酸化炭素を使用する除染システムを採用することによって、トリチウム汚染物の表面ならびに内部に分布するトリチウム濃度の低減を効率的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】トリチウム放出のメカニズムを示す図。
【図2】本発明の密閉容器を用いて行うトリチウム除染方法を示す図。
【図3】本発明の各温度で24時間除染した後のトリチウム内部分布を示す図。
【図4】本発明の加熱水によるトリチウム除染プロセスを示す図。
【図5】本発明の加熱水によるトリチウム多段除染プロセスを示す図。
【図6】本発明の加熱水方式トリチウム除染設備とその除染システムを示す図。
【図7】本発明の臨界水又は亜臨界水を用いて行うトリチウム除染システムを示す図。
【図8】本発明の水を含む臨界又は亜臨界の二酸化炭素を用いて行うトリチウム除染システムを示す図。
【図9】本発明の加熱水によるトリチウム除染処理の時間依存性を示す図。
【図10】本発明におけるステンレス鋼のトリチウム除染効率シミュレーション結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の加熱水除染法におけるトリチウム放出のメカニズムを、従来の加熱除染法と対比して図1に示す。図1中のTはトリチウムを示し、以降同様である。従来の加熱除染法では、トリチウム汚染材料の表面近傍に分布するトリチウムやトリチウム含有水酸基中のトリチウムをHTやHTOの形態で除去するためには、高温処理と長時間加熱が必要になり、完全な除去は困難である。それに対して、本発明の加熱水除染法は、液層の水と気相の水蒸気が存在するため表面近傍に分布するトリチウム含有水酸基と軽水中の水素との交換反応が促進されて、HTOとして除去することができる。この交換反応は、次の式(1)の反応式で表される。
O + −OT → HTO + −OH (1)
また、密閉容器を高温に加熱することによって、トリチウム汚染材料の内部に存在するトリチウムは、表面にある水酸基(−OH)の水素とのH⇔Tによる交換反応が促進される。この交換反応によってトリチウムTは表面に拡散して、最終的にHTOとしてトリチウム汚染材料から除去されることになる。上記の反応式(1)は比較的容易に進行するために、トリチウム汚染材料の表面ならびに内部に分布しているトリチウムを、従来の加熱除染法よりも低温でかつ迅速に除去することができる。
【0013】
本発明は、図2に示すようなステンレス製の外部ジャケット2とテフロン(登録商標)製の内部容器3とを有する密閉容器1を用いて、トリチウム汚染材料4からトリチウム除染を行うことができる。トリチウム除染用媒体として所定量の軽水5を図2に示す密閉容器にトリチウム汚染材料と共に入れた後、密閉蓋によって密閉封入を行った後、温度50〜400℃で所定時間加熱する。それによって、本発明は、前記密閉容器に封入された軽水を加熱水として利用してトリチウムの除染を行う方法である。前記の密閉容器は、所定の温度に加熱された恒温槽に入れることによって、温度を調整することもできる。
本発明において、密閉容器内の水蒸気圧は、前記密閉容器中に含まれる軽水の量によって調整することができる。例えば、軽水が飽和水蒸気量以上の量で密閉容器中に封入された場合は、加熱によって、各温度に応じた飽和水蒸気圧となる。本発明において、トリチウム汚染材料と飽和水蒸気量以上の軽水とを封入した密閉容器を50〜400℃で加熱した場合、前記密閉容器内の水蒸気圧は0.12〜311気圧(atm)の範囲となる。各温度における飽和水蒸気圧は、次の(2)式で表わされるTetensの式で求めることができ、50℃及び400℃では、各々の飽和水蒸気圧はそれぞれ約0.12気圧及び約311気圧である。
E(T)=6.11×107.5T/(T+273.3) (2)
ここで、Tは温度(℃)であり、E(T)は温度T℃における飽和蒸気圧である。また、気体の状態方程式により各温度における水蒸気量を計算できることから、50〜400℃において、0.12〜311気圧の圧力を得るためには、各温度の水蒸気量以上の水の量を密封容器の容積に応じて設定して、前記密封容器内に封入すれば良い。
【0014】
本発明は、密閉容器内を飽和水蒸気圧に設定しなくても、除染の効率にはほとんど影響を与えない。そのため、トリチウム汚染材料からトリチウムを除去できるに十分な水が密閉容器に存在すれば問題なく、本発明は、密閉容器内の圧力を飽和水蒸気圧未満にしてトリチウム除染処理を行うことができる。すなわち、加熱処理温度における飽和水蒸気量未満の水の量を密閉容器中に封入すれば良い。本発明では、通常は、密閉容器として耐圧型を使用するが、このようにすれば高耐圧型又は超高耐圧型のものを用いる必要がなくなる。それだけではなく、高圧操作における安全上の設備も安価にできるため、低コストの除染設備を構築することができる。加えて、二次廃棄物となる除染処理後のトリチウム含有水の量を減容化することができるため、環境面での負荷を小さくできるという効果を有する。
【0015】
本発明では、密閉容器の加熱温度が50℃未満である場合は、トリチウム汚染材料の内部に存在するトリチウムを除染する効果が得られない。本発明では、トリチウム汚染材料の内部に存在するトリチウムの除染速度はトリチウムの拡散速度で見積もることができるために、トリチウム汚染の金属材料が5mm以上と厚い場合には、50℃未満の温度であると、除染時間が1000hを過ぎても内部のトリチウム濃度の変化は見られない。本発明を適用する原子力施設で使用される材料としては、厚さが5mm以上である金属材料が用いられる場合が多いため、厚さ5mm以上の金属材料に適用できるトリチウム除染方法が特に求められている。本発明は、厚くて複雑なトリチウム汚染材料にも適用するために、密閉容器の加熱温度はさらに100℃以上であることがより好ましい。一方、加熱温度は高くなるほどトリチウム除染が加速されるため、加熱温度として600℃を上限値とすることも可能であるが、400℃を超えると温度均一性の確保が難しく、トリチウム除染の程度が材料の箇所に応じて異なってくるという問題が発生する。また、400℃以上の高温加熱に耐える装置や設備は、高耐久性の部材を用いる必要があると共に、劣化が促進しやすいため寿命が短くなる。加えて、装置や設備の作製や維持のためのコストが急上昇するという問題がある。また、本発明は、従来の加熱ガス法の場合よりも低温で処理できることから、加熱温度の上限値は作業性、安全性、コスト面などを考慮して低めに設定することができるという点に特徴を有する。そのため、本発明は、加熱温度を400℃以下に設定することが好ましい。
【0016】
本発明において、密閉容器を50〜400℃、さらに好ましくは100〜400℃で加熱処理する際の処理時間は、加熱温度、トリチウム汚染材料の材質、厚さ及び形状と除染後の残存トリチウム濃度との関係によって決まるが、1〜1000時間、好ましくは10〜500時間の範囲で所定の時間に設定できる。
【0017】
本発明は、高温の水蒸気を用いて所定時間放置することによってトリチウムの除染処理が終了した後、トリチウム汚染材料を含む密閉容器を、加熱処理温度未満の温度、好ましくは50℃以下、取り扱い易さの点から、さらに好ましくは30℃以下に冷却し降圧することによって前記密閉容器中の水蒸気を水にした後、ドレン水として前記トリチウム汚染材料から分離し回収する。このようにして回収した水には、抽出されたトリチウムが含有されている。
【0018】
本発明において、除染処理後の密閉容器からトリチウム含有水を回収する別の方法としては、トリチウム汚染材料と軽水とを封入した密閉容器を温度50〜400℃で加熱処理後、減圧手段を用いて前記密閉容器中の水蒸気を前記トリチウム汚染材料から分離して前記密閉容器外に取り出し、冷却トラップすることによって凝結して回収する方法を採用することができる。前記の減圧処理は真空ポンプ等によって行われるが、減圧処理を行うときの温度は、加熱時と同じ温度だけではなく、その温度よりも低い温度を採用することができる。また、加熱時よりもやや高い温度で行うことも可能であり、その場合は、水蒸気の回収を短時間で行うことができる。この方法において、密閉容器内に処理温度に対応した飽和水蒸気量よりも多い水が封入されていた場合、トリチウムを含む水蒸気だけを減圧処理によって除去した後でも過飽和量の水が残るため、その残存水を再度、加熱して水蒸気として使用することができる。そのため、トリチウム濃度の高い水だけを水蒸気として除去できると共に、引き続いてトリチウム濃度の低い水を用いて除染処理できることから、連続的な除染処理が可能となり有用性が高い。この回収方法は、回収条件に応じて前記の密閉容器の冷却及び降圧を行う方法と組み合わせることができる。
【0019】
このようにして回収されたトリチウム含有水は、トリチウムの市場許容限界濃度以下まで軽水と希釈した後廃棄するか、若しくはトリチウム含有水又はその固化処理物として隔離保存又は隔離保管される。本発明は、2次廃棄物であるトリチウム含有水の減容化を行うために、トリチウム含有水を電気分解によって濃縮する方法を採用することができる。トリチウム含有水の電気分解による濃縮法は、例えば、特開2001−286737号公報や特開2005−211757号公報に開示されているような公知の技術を適用することができる。本発明のトリチウム汚染材料の除染方法は、トリチウムを含む廃棄物が液体であるために、トリチウム含有ガスの場合と異なり、系外への揮散の危険性が非常に小さくため、トリチウムを安全に回収することができる。
【0020】
本発明は、高温の加熱水を利用することによって、トリチウム汚染材料の表面から内部に分布するトリチウムを所望の濃度まで除去することができる。本発明の除染処理における例を図3に示す。図3は、120〜200℃の各温度で24時間加熱した後の、トリチウム汚染ステンレス材料の表面から250μmの領域におけるトリチウム濃度を示したものである。図3に示すトリチウム汚染材料のトリチウムの内部分布は王水エッチング法により求めた。図3から分かるように、除染処理前のトリチウム汚染材料の表面から100μm以上の内部では、トリチウム濃度はほぼ一定の値を示している。また、加熱処理温度としてより高温を採用することによって、汚染材料の内部に存在するトリチウムを大幅に少なくすることができる。しかしながら、汚染材料の表面には、処理後に表面に拡散したトリチウムが高濃度で残存する場合がある。特に、密閉容器に封入される水の量が少ない場合は、除染処理後の水又は水蒸気中に高濃度のトリチウムが含まれることとなるため、トリチウムの表面付着が多くなる。そこで、本発明は、表面に付着したトリチウムを除染するために、温水による洗浄法、ガスパージ法、水蒸気パージ法又はベーキング法等の従来の表面除染法と組み合わせることができる。トリチウム汚染材料を含む密閉容器を50〜400℃の加熱処理を行った後に、トリチウム含有の水及び/又は水蒸気を除去してから、除染処理後のトリチウム汚染材料の表面を温水による洗浄、高温の水蒸気パージやガスパージ、又は高温のベーキングを行う方法である。ここで、高温ベーキング時の温度は、表面に付着したトリチウムを除去できる程度であれば良く、通常は200℃以下である。また、これらの表面除染法は、密閉系で除染処理を行った後のトリチウム汚染材料を移動することなく行うことができるため、トリチウム除染処理を連続的に行うことができる。
【0021】
本発明の除染方法は、バッチ式の処理方法であるが、密閉容器の加熱処理による操作を2回以上の多段で行うことによって、処理の精度と効率を向上することができる。
【0022】
2回以上の多段で行う処理法としては、まず、1個の密閉容器を用いて、1回目の除染処理が終了した後、トリチウム含有の水又は水蒸気を密閉容器から排出した後、新しい軽水を供給して、2回目の除染処理を行う方法が挙げられる。この方法は、第1回目の除染処理の際に使用された水がトリチウムを含まない水と取り替えられるため、トリチウム汚染材料からのトリチウムの除去が加速されると共に、トリチウム汚染材料の内部に存在するトリチウム濃度の低減を迅速に行うことができる。その際に、密閉容器の加熱温度と加熱時間は、材料の材質や物性に応じて、処理段階毎に変える。例えば、第1回目の処理段階は高温で短時間に行った後、水を取り替えて行う第2回目の処理段階では、材料のダメージが起きないやや低い温度でやや長時間で加熱する方法を採用する方法等によって、材料に大きなダメージを与えずにトリチウム濃度を所望の値まで低減できる。この方法における処理回数は2回に限らず、場合によっては3回以上を採用することができる。
【0023】
本発明は、図4に示すように、除染処理後の回収トリチウム含有水を再利用して行うことができる。トリチウム汚染材料に含まれるトリチウムは、除染処理後において軽水HOの一部がHTOに置換されているが、HOのHTOへの交換反応が少ない場合には、液体の水として回収されたときのトリチウムの含有比率は高くならない。そのため、除染処理の温度、時間又は回数によっては、除染処理に使用された後に回収されたトリチウム含有水を、再度、除染処理用として使用することができる。特に、2回以上の多段で行う除染処理時において、回収トリチウム含有水の再利用は2次廃棄物であるトリチウム含有水の減容化を図ることができるために、大きな効果が得られる。具体的には、処理法第1回目の処理段階を回収されたトリチウム含有水を用いて行った後、それよりもトリチウム濃度が少ない水を用いて第2回目の除染処理を行う。ここで、第2回目の除染処理で使用するトリチウム濃度は、回収されたトリチウム含有水、又はトリチウムを含まないバージンの軽水のどちらを用いても良い。ここで、密閉容器中の水のトリチウムの濃度は固体シンチレーション法や液体シンチレーション法で求めることができる。3回以上の除染処理の場合でも、回収トリチウム含有水を再利用することによって、同様の処理を行うことができる。
【0024】
本発明の多段処理法としては、次に、2個以上の複数の除染処理密閉容器を用いる方法が挙げられる。複数の密閉容器は並列及び/又は直列に配置することができる。並列に配置する場合は、トリチウム汚染材料の除染処理量を増やすことができる。特に、密閉容器の容積を大きくできない場合や、形状や厚さが極端に異なるトリチウム汚染材料を同時に除染処理した場合には、並列に配置して同時除染処理するため、効率的な除染ができる。また、直列に配置する場合は、図5に示すように、トリチウム除染効率に応じて、繰り返し除染処理を行うため、トリチウム除染を確実に行うことができる。複数の密閉容器を用いて除染設備を行う際にも、前記と同様に、除染処理後に回収されたトリチウム含有水を再利用することができる。各除染工程で使用するトリチウム含有水は、含まれるトリチウム濃度を計測した後、その計測値に基づいて各段の工程の処理状況に応じて使い分けされる。回収されたトリチウム含有水は、前記で述べたように、トリチウム濃度に基づいて、トリチウムの市場許容限界濃度以下まで軽水と希釈した後廃棄するか、若しくはトリチウム含有水又はその固化処理物として隔離保存又は隔離保管される。複数の密閉容器は、処理量と処理効率を考慮して、並列及び直列を組み合わせて配置しても良い。
【0025】
本発明は、トリチウム除染を行う際に、図6に示すトリチウム除染設備を用いた除染システムを採用する。図6に示すトリチウム除染設備は、(A)加熱機能13を有する密封容器10、除染用及び/又は洗浄用として軽水を前記密封容器中に供給するための設備(図中の19、21)、及び除染処理後のトリチウム含有水及び/又は密封容器洗浄後の洗浄水をドレン水として回収するための設備(図中の15〜17)を有するトリチウム除染設備9、(B)トリチウム汚染物を前記の密封容器に供給するために、前記の密封容器に隣接して設けられたトリチウム除染室6、(C)トリチウムを含む水蒸気及び/又は汚染ガスを前記トリチウム除染設備及び/又は前記のトリチウム除染室から排出するための設備(図中の22、25、26)、(D)トリチウムを含まない精製ガスを前記トリチウム除染設備及び/又は前記のトリチウム除染室に供給及び/又は排出するための設備(図中の22、24〜26)、及び(E)前記密封容器内の温度及び/又は圧力、前記密封容器内に存在する前記軟水を含む水及び/又は前記ドレン水の量、前記前記トリチウム除染室の内部圧力、前記ドレン水のトリチウム濃度、及び前記トリチウム除染室内及び/又は配管中のトリチウム濃度、の少なくとも何れか1つを計測又はモニタリングするための装置(図中の16、28、30)、から構成される。
【0026】
本発明は、トリチウム除染室に運ばれたトリチウム汚染物を取り出して密閉容器に挿入する際に、トリチウムを含むガスが外部へ排出するのを防止するため、該トリチウム除染室を負圧に維持することが好ましい。また、本発明において、密閉容器等を含むトリチウム除染設備を負圧にすることは必ずしも必要ではないが、放射線汚染物質の外部への拡散を完全に防止するためには、密閉容器を有するトリチウム汚染設備を格納する室を設けて、その部屋を負圧に維持することがより好ましい。これらの部屋は、負圧維持機能23のための吸排気用ポンプを有するトリチウム除去設備22を用いて負圧にするが、トリチウム含有のガスを外部へ排気する際には、トリチウム回収装置(図示せず)を通過させることによって、トリチウム濃度を許容濃度限界以下に抑える必要がある。排気ガスに含まれるトリチウム濃度を把握するために、トリチウム除去設備内又は該トリチウム除去設備から排気までの配管部分にはトリチウム濃度を測定するためのモニタリング装置28を設置することが好ましい。
【0027】
本発明は、除染用として軽水を供給する以外にも、必要に応じて除染処理後の耐圧容器内を洗浄するために、軽水の供給及び排出が行われる。また、除染処理後に排出されるトリチウム含有水は、配管31によって電気分解濃縮装置に送り出される。電気分解による濃縮を行わない場合は、配管32によって貯蔵タンクへ送り出されて2次廃棄物として保管又は保存される。
【0028】
本発明において、密閉容器を複数個設置する場合には、トリチウム除染設備の中で、前記の(A)において除染用及び洗浄用として軽水を前記密封容器中に供給するための設備、及び除染処理後のトリチウム含有水及び/又は密封容器洗浄後の洗浄水をドレン水として回収するための設備と前記の(C)〜(E)の設備を制御するための装置は一つの制御系としてまとめることができる。また、バージンの軽水及び回収されたトリチウム含有水を貯蔵するタンク、汚染ガスや精製ガス等の吸排気を行うためのトリチウム除去設備、又は除染設備電源等は、処理量や処理効率に応じて、複数個の密閉容器を使用するときの共通設備として使用することによって、本発明のトリチウム除染システムをコンパクトで、かつ安価に構成することができる。
【0029】
本発明は、高温、高圧環境下の加熱水として、超臨界水、亜臨界水、水を含む超臨界の二酸化炭素、又は水を含む亜臨界の二酸化炭素の何れかを使用することができる。超臨海水及び超臨界の二酸化炭素の臨界温度と臨界圧力は、それぞれ374.2℃と22.1MPa及び31.1℃と7.4MPaである。亜臨界水は、200〜350℃の液体水であり、飽和蒸気圧は200℃及び350℃において、それぞれ1.55MPa及び16.5MPaである。このように、超臨界水又は亜臨界水は、加熱水流体として利用できることから、そのままで本発明の除染方法に使用することができる。また、水を含む超臨界又は亜臨海の二酸化炭素は、加熱水を運ぶ流体として使用することができるため、トリチウム除染で使用する水の量が少なくなる。これは、最終的に2次廃棄物であるトリチウム含有水を減容化できるという効果を奏する。
【0030】
図7に、超臨界水又は亜臨界水によるトリチウム除染方法を行うためのプロセスと除染システムを示す。軽水39を高圧ポンプ34と加熱体13によって超臨界又は亜臨界状態にした後、トリチウム汚染材料を入れた除染槽33に導入し、該除染槽を所定の時間循環させる。その後、超臨界水又は亜臨界水の流路を循環流路に設置されている切替弁38を閉じて膨張弁36の方へ変えて、該膨張弁36を開いて膨張による降圧を行った後、冷却トラップ35等で凝結させることによってトリチウム含有水40を回収する。ここで、回収したトリチウム含有水40は、含まれるトリチウム濃度が少ない場合に除染用媒体として再利用できる。また、本発明は、トリチウム汚染材料を入れた除染槽の複数個を並列及び/又は直列に設置して、除染効率を高めることができる。図7において、トリチウム汚染材料を入れた除染槽及び超臨界水又は亜臨界水の流路を循環させる流路は密閉系となり、循環中は密閉容器と同じ機能と作用を有するものである。
【0031】
図8に、軽水を有する超臨界又は亜臨界の二酸化炭素によるトリチウム除染方法を行うためのプロセスと除染システムを示す。図8の(a)は、二酸化炭素を高圧ポンプ34と加熱体13によって超臨界又は亜臨界にした後、軽水39を混合させた後、トリチウム汚染材料を入れた除染槽33を通過させて、膨張弁36によって降圧を行い、超臨界又は亜臨界に含まれるトリチウム含有水40を分離槽37で回収する。このとき、分離槽までの流路を冷却器35によって冷却することによって、トリチウム含有水40の回収を確実に行うことができる。このようにして回収されたトリチウム含有水40は、再利用されて、除染用媒体として使用される。回収されたトリチウム含有水を除染用水として再利用しない場合には、切替弁等によってバージンの軽水を導入して除染処理を行う。本発明の効果を達成するためには、50〜400℃に加熱された水を使用する必要がある。二酸化炭素の臨界温度が31.1℃であるため、図8に示すトリチウム除染システムにおいては、超臨界又は亜臨界の二酸化炭素の温度を通常50〜400℃の内の所定の温度に設定する。また、超臨界又は亜臨界の二酸化炭素の温度を50℃未満で循環させる場合は、トリチウム汚染材料を入れた除染槽33とその周辺を50℃以上の温度に設定して除染処理を行うことができる。図8に示すトリチウム除染システムにおいて、二酸化炭素は、気体だけではなく液体のものを使用することができる。また、除染効率を高めたい場合には、除染槽の複数個を並列及び/又は直列に設置することができる。
【0032】
図7及び図8のトリチウム汚染システムにおいて回収されたトリチウム含有水は、トリチウム濃度に基づいて、トリチウムの市場許容限界濃度以下まで軽水と希釈した後廃棄するか、若しくはトリチウム含有水又はその固化処理物として隔離保存又は隔離保管される。また、2次廃棄物であるトリチウム含有水の減容化を行うために、前記と同じ方法でトリチウム含有水を電気分解によって濃縮する方法を採用することができる。
【実施例】
【0033】
本発明を次の実施例により説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0034】
〈実施例1〉
トリチウムガスに曝露されてトリチウムによって汚染されたSS316ステンレス鋼を、図2に示す構成を有する内容積が50mlの密閉耐圧容器(オートクレーブ:三愛科学株式会社製試料分解容器HUS-50)に、軽水である4mlのイオン交換水と共に入れて、密閉封入した後、前記密閉耐圧容器を120〜200℃の内の所定の温度に加熱した定温乾燥機中に24時間保持した。加熱保持後、前記の密閉耐圧容器を冷却して試料であるSS316ステンレス鋼を常温に戻して除染処理を終了した。その後、前記の密閉耐圧容器中の水のトリチウム量を測定すると共に、除染処理後のSS316ステンレス鋼についてトリチウムの内部分布をエッチング法により求めた。水のトリチウムの濃度は液体シンチレーション法を用いて測定した。
【0035】
測定結果を図3に示す。図3の横軸は表面からの深さを、縦軸はトリチウム濃度を示している。曝露直後のSS316中のトリチウム内部分布は、表面から約8μmの表面層にトリチウム濃度の高い領域が存在し、内部のトリチウム濃度分布はほぼ均一である。トリチウム汚染されたSS316を、密閉容器中120〜200℃で24時間保持した後は、内部のトリチウム濃度の減少が観測された。このトリチウム濃度の減少の程度は、加熱温度が高くなるほど大きくなり、200℃の加熱温度では内部のトリチウム濃度が非常に小さくなっていた。このように、本発明のトリチウム除染方法は、トリチウム汚染材料の内部に分布するトリチウム濃度を大きく低減できる効果を有する。図3において除染処理後のSS3316の表面に分布しているトリチウムは、200℃以下の熱風、100℃未満の温水による温水洗浄又は水蒸気パージによる数時間以下の短時間処理(表面除染処理)によって、0.1MBq/cm未満のレベルまで容易に除染することができた。
【0036】
〈実施例2〉
密閉容器の加熱時間を変更する以外は、実施例1と同じ方法によって、トリチウム汚染されたSS316ステンレス鋼の除染処理を行った。加熱温度150℃と200℃において、保持時間を1日、3日、9日とした。除染処理後のSS316ステンレス鋼についてトリチウムの内部分布を図9に示す。図9から分かるように、同じ加熱温度においても、保持時間(除染時間)が長くなるに伴い、SS316ステンレス鋼の内部のトリチウム濃度が減少した。加熱温度が150℃では9日、200℃では2日で、曝露直後のSS316の内部に存在していたトリチウムの99%以上を除染することができた。SS316ステンレス鋼の表面に付着していたトリチウムは、実施例1と同じ表面除染処理によって、その濃度が0.1MBq/cm未満に低減した。
【0037】
〈実施例3〉
加熱温度と加熱保持時間をパラメータとして、実施例1及び実施例2と同じ方法を用いて、本発明の除染処理における除染のメカニズムを検討すると共に、除染速度を見積もった。実施例1及び実施例2の検討で求めたトリチウムの除染速度は試料内部のトリチウムの拡散速度で決まることが分かったので、その拡散係数に基づいて5mm厚のSS316ステンレス鋼内部のトリチウムの残留量をシミュレーションによって算出した。核融合実験装置では、厚さ5mm程度までのステンレス鋼の使用が考えられており、この厚さに対応できるトリチウム除染方法は将来的なニーズが非常に高いため、モデルとして5mm厚さを選んだ。
【0038】
シミュレーションの結果を図10に示す。横軸は処理時間であり、縦軸は試料の内部に残留しているトリチウムについて曝露直後の濃度に対する残存濃度の比率である。室温では内部のトリチウムは除染されず、50℃において内部のトリチウム濃度の減少が観測され始めており、本発明は加熱温度として50℃以上に設定する必要のあることが分かる。実施例1〜2で採用した200℃では、500時間経過しても約4割のトリチウムが残っている。5mm厚さのステンレス鋼の場合、処理時間を短くするためには、処理温度として400℃まで上げることが有効である。一方、処理温度として400℃を超えた場合は、密閉容器中の温度の均一性を保つことが困難であった。密閉容器を含めた各種の設備の耐久性が極端に低下するだけではなく、高温と高圧に対する安全設備を構築するために大きな負荷が発生するために、本実施例の加熱温度として400℃を超えた温度を採用することはできなかった。
【0039】
〈実施例4〉
図4に示す除染プロセスに基づいて、トリチウム除染後に回収されたトリチウム含有水を再利用してトリチウム汚染材料の除染処理を行った。回収されたトリチウム含有水は、実施例1においてトリチウムによって汚染されたSS316ステンレス鋼を、バージンの軽水と共に密閉耐圧容器に封入した後、120℃に24時間保持して除染処理を行った後、室温まで冷却したものである。ここで、トリチウム含有水の量は、初期の4mlよりやや少なくなっているため、120℃24時間保持による除染処理を独立に3回行って、トリチウム含有水の量として4ml以上を確保した。トリチウム汚染SS316ステンレス鋼は、実施例1で使用したトリチウムによる曝露直後のものを使用した。実施例1と同じ方法で、初期の軽水の代わりに、前記の回収されたトリチウム含有水の4mlと共に密閉耐圧容器に封入後、200℃24時間保持して除染処理を行った。除染処理後のSS316ステンレス鋼についてトリチウム濃度の内部分布をエッチング法により測定したところ、図3に示す200℃加熱処理の24時間保持の場合と同じ結果が得られた。
【0040】
また、別の実験として、新しいトリチウム汚染SS316ステンレス鋼に代わりに、120℃に24時間保持して除染処理した後のSS316ステンレス鋼を用いて、前記の回収されたトリチウム含有水4mlと共に、密閉耐熱容器に封入して200℃で18時間保持して除染処理を行った。試料として用いた120℃で24時間除染処理した後のSS316ステンレス鋼は、図3において120℃24時間処理の場合と同じトリチウム濃度の内部分布を有するものである。200℃18時間加熱保持の除染処理を加えることによって、このSS316ステンレス鋼は、トリチウム濃度の内部分布が図3に示す200℃で24時間除染処理した場合と同じレベルまで低減することができた。
【0041】
このように、本発明は、トリチウム除染後に回収されたトリチウム含有水を再利用しても所望の除染処理効果を得ることができる。
【0042】
〈実施例5〉
図5に示す多段除の除染プロセスに基づいて、多段処理及びトリチウム含有水の再利用による本発明のトリチウム除染方法の効果を検証した。図5に示す初段除染プロセスにおいて、実施例1と同じ方法で、トリチウムによる暴露直後のSS316ステンレス鋼を、再利用のトリチウム含有水と共に密閉耐圧容器に封入した後、150℃に1日(24時間)保持して除染処理を行った。ここで、再利用のトリチウム含有水は、先に、実施例1と同じ方法で、トリチウムによる暴露直後のSS316ステンレス鋼を、バージンの軽水によって150℃に24時間保持して除染処理を行った後、室温まで冷却した後に回収したものである。このように除染処理して得られたSS316ステンレス鋼の3個を、再利用のトリチウム含有水10mlと共に内容積が100mlの別の密閉耐圧容器内に封入した後、150℃8日加熱保持して、再度の除染処理を行った(第2段除染プロセス)。ここで使用した再利用のトリチウム含有水は、実施例4において120℃に24時間保持して除染処理を行った後、室温まで冷却して回収したものである。150℃の加熱を合計で9日(第1段除染で1日+第2段除染で8日)保持して除染処理が行われたSS316ステンレス鋼は、トリチウム濃度の内部分布が図9に示す150℃9日加熱による除染処理の場合と同じレベルまで低減することができた。
【0043】
また、前記の第2段除染プロセスにおいて、120℃に24時間保持して除染処理を行った後室温まで冷却して回収したトリチウム含有水の代わりに、バージンの軽水を使用した実験を行った、この場合は、150℃7日の加熱による除染処理で、除染処理が行われたSS316ステンレス鋼のトリチウム濃度の内部分布を図9に示す150℃9日加熱による除染処理の場合と同じレベルまで低減できることが分かった。第2段除染プロセスにおいて、トリチウムを含まない水を用いて除染処理を行うことによって、短時間でトリチウム濃度の内部分布を低減できた。
【0044】
図5に示す多段除の除染プロセスでは、前記に述べた2段除染処理だけではなく、3段以上の除染処理にも適用できる。各段の除染プロセスで再利用するトリチウム含有水は、使用前にあらかじめトリチウム濃度を計測することによって、各段の除染プロセスに適用可能なものを選択すれば良い。このようにすれば、効率的な除染処理を行うことができる。さらに、各段の除染プロセスで回収されたトリチウム含有水は、トリチウム濃度が高くなった場合は、トリチウムを含まない水で希釈して廃棄するか、又はそのままトリチウム含有水若しくはその固化処理物として隔離保管又は隔離保存される。このようにして保管又は保存されるトリチウム含有水は、外部環境への負荷を低減するために、本実施例では電気分解法による濃縮を行って減容化することが特に好ましい。なお、複数の密閉型除染容器の用いる多段処理プロセスでは、材料の入れ替え等の点で作業工数がやや多くなるが、除染処理の条件を規格化することによって、多数の試料を連続的に除染処理することができ、また、試料内部に分布するトリチウムの除染処理を確実に行うことができる。そのため、トリチウム汚染材料の大量処理に適した除染プロセスを構築することができる。
【0045】
〈実施例6〉
トリチウムで汚染されたSS316ステンレス鋼(長さ70cm×幅50cm×厚さ5mmのステンレス板)の20枚について、図6に示す加熱水方式トリチウム除染設備を用いて除染を行った。それぞれ1枚ごとに間隔を空けて配置台8に配置したトリチウム汚染SS316の20枚を収納した容器を負圧に維持されているトリチウム除染室6に収納した後、その配置の状態で前記容器からスライド式によって自動的にトリチウム汚染物挿入部である耐圧容器10(内容積:約1m)に挿入した後、前記耐圧容器の扉11を閉めて締具12によって密閉状態とした。この密閉耐圧容器内に、水供給装置(図中の19、21)から50リットルの軽水を供給してから、300℃で加熱し300時間保持した後、前記耐圧容器に具備されている冷却用循環水によって室温まで冷却した。その後、前記耐熱容器から除染に使用された水は、トリチウム含有水の回収設備(図中の15〜17)を用いてドレン水として抜き取られ、トリチウム含有水の回収設備の排出口を閉じてから、精製ガス循環装置(図中の22、24)によって精製ガスを前記密閉容器内に供給した。このとき、ドレン水の水量を測定できるモニタリング装置16を適用すれば、前記耐圧容器中にドレン水の残存状態を把握することができるため、前記耐圧容器内への精製ガスの導入時期を調整する際に好都合である。また、精製ガスは加熱体13によって加熱すると共に、前記密閉容器も再度200℃に加熱した状態にした。前記密閉容器内で循環した精製ガスは汚染ガス排出設備によってトリチウム除去設備22に排出されて精製ガスとして再生された後、精製ガス循環装置によって前記密閉容器に供給した。この精製ガスによる循環は1時間継続して行った。ここで、トリチウム除去設備はトリチウムの吸収槽を直列に配置したトリチウム回収装置(図示せず)から構成されるものであり、トリチウムの外部への漏排出を防止するための負圧維持機能23を有している。また、トリチウムを除去したガスは、精製ガスとして使用しないときは配管29を通して外部へ排出される。このとき、外部へのガスの排出は、トリチウムモニタ28を設けることによってトリチウム濃度が許容濃度以下(例えば、0.5Bq/cc以下)である場合に行われるように制御される。
【0046】
このようにして除染されたSS316ステンレス鋼の20枚について、配置位置の異なる5枚を無作為に抜き取ってトリチウム濃度の内部分布を測定した。その結果、5枚共に、トリチウム濃度の内部分布は0.1MBq/cm未満であることが確認された。また、SS316ステンレス鋼の表面部におけるトリチウム濃度も、加熱精製ガスの循環処理による表面除染処理を行ったため0.1MBq/cm未満となり、SS316ステンレス鋼の表面ならびに内部についてトリチウム濃度の低減を図ることができた。
【0047】
〈実施例7〉
実施例6と同じ方法で、トリチウムで汚染されたSS316ステンレス鋼の20枚を封入した密閉耐圧容器を300℃で300時間保持した後に、前記密閉容器中に存在している水蒸気を汚染ガス排出設備に付帯している減圧手段によって汚染水蒸気ガスの形でトリチウム除去設備に排出した。ここで、密閉容器中に存在している水蒸気をトリチウム除去設備に排出する際に、途中に冷却によるトラップ装置27を設けることによって、汚染水蒸気ガスをトリチウム含有水として回収することができる。300℃における汚染水蒸気ガスを完了した後は、精製ガス循環装置によって精製ガスを前記密閉容器内に供給すると共に、実施例6と同じ方法で該精製ガスの循環を1時間行った。このとき、前記密閉容器の温度は、300℃から200℃に降下させて、200℃に設定した状態で精製ガスの循環を行った。精製ガスの循環後に、前記密閉容器を冷却して除染処理後のSS316ステンレス鋼の20枚を取り出して、そのうちの5枚を抜き取ってトリチウム濃度の内部分布を測定した。除染処理後のSS316ステンレス鋼は、表面ならびに内部ともトリチウム濃度が0.1MBq/cm未満となっており、SS316ステンレス鋼の表面ならびに内部についてトリチウム濃度の低減を図ることができた。このように、除染処理後のトリチウム含有水を減圧手段による汚染水蒸気ガスの形で排出して回収する方法は、除染システムを簡略化できる。
【0048】
なお、実施例6又は実施例7の除染プロセスにおいて回収されたトリチウム含有水は、図6に示すトリチウム除染設備電源14中に具備されているHTOドレン処理設備15に導入され、トリチウムモニタ28によってトリチウム濃度をチェックした後に、トリチウム濃度が低い場合にはトリチウム含有水貯蔵タンク18に保管されて、次の除染プロセス用として再利用される。また、実施例6又は実施例7の除染システムは、図6に示す加熱水方式トリチウム除染設備を応用して、多段で処理するプロセス又は複数の耐圧容器によって処理するプロセスから構成されるものとして構築することができる。
【0049】
〈実施例8〉
図7に示す除染システムによって、超臨界水又は亜臨界水を用いて行う除染方法について本発明の効果を検証した。トリチウムで汚染されたSS316ステンレス鋼(厚さ5mm)を除染槽に入れた後、軽水を高圧ポンプ34と加熱体13とを用いて超臨界水又は亜臨界水として前記除染槽に導入した。その後、水を供給する側の切替弁38と膨張弁36を閉じたまま、超臨界水又は亜臨界水の循環を行った。超臨界水又は亜臨界水は、除染槽33を通過後、冷却管35によって冷却されて液体の水に変換されるが、再度、高圧ポンプと加熱体によって超臨界水又は亜臨界水の状態にした後、除染槽33に導入する。この繰り返しによる超臨界水又は亜臨界水の循環形態は密閉系を形成することから、密閉容器での除染方法を同じ機能と作用を有する。超臨界水又は亜臨界水は、温度を200〜400℃で設定して行うが、厚さが5mmであるSS316ステンレス鋼を短時間で処理するために、温度は300〜400℃に設定した。超臨界水又は亜臨界水の圧力は、温度300〜400℃において超臨界水又は亜臨界水の状態を維持できる程度に調整した。
【0050】
超臨界水又は亜臨界水は、温度300〜400℃において所定時間(300〜50時間)で循環を行った後、膨張弁36を開いて降圧すると共に、冷却器35によって冷却して切替弁38を通して、トリチウム含有水として分離槽に分離した。その後、200℃以下の水蒸気を除染槽内の導入する操作を連続的に30分間行うことによって、水蒸気パージによるSS316ステンレス鋼表面に付着しているトリチウムの除染を行った。水蒸気パージの導入は密閉系又は開放系のどちらでも行うことができる。本実施例では、200℃以下の水蒸気の代わりに、200℃以下のトリチウムを含まないガスで表面除染を行っても良い。また、分離槽に回収されたトリチウム含有水は除染用媒体として再利用することができる。本実施例では、軽水又は回収されたトリチウム含有水は、除染処理中に適宜取り換えることができる。このようにすれば、除染処理の途中でトリチウム濃度の低い水を使用するため、除染効率を向上することができる。
【0051】
超臨界水又は亜臨界水を300℃300時間、350℃200時間又は400℃50時間の条件で循環して除染処理された後に得られたSS316ステンレス鋼は、表面ならびに内部ともトリチウム濃度が0.1MBq/cm未満となっており、SS316ステンレス鋼の表面ならびに内部についてトリチウム濃度の低減を図ることができた。
【0052】
〈実施例9〉
図8に示す除染システムによって、水を含む超臨界又は水を含む亜臨界の二酸化炭素を用いて行う除染方法について本発明の効果を検証した。
【0053】
超臨界水又は亜臨界流体水に代えて、水を含む超臨界又は水を含む亜臨界の二酸化炭素を使用する以外は、トリチウムで汚染されたSS316ステンレス鋼及び除染処理条件は実施例8と同じものである。超臨界の二酸化炭素は臨界温度が31.1℃であるため、この温度では水による除染処理の効果が十分に得られない。そのため、超臨界又は亜臨界の二酸化炭素は、通常、50℃以上に加熱して除染処理を行う。しかし、本実施例では、厚さ5mmであるステンレス材料について表面ならびに内部の完全な除染処理を行うため、超臨界の二酸化炭素を300℃以上加熱して行う必要があるが、超臨界の二酸化炭素を300℃以上にするのは、臨界温度との差が大きいため現実的ではない。そこで、図8に示す除染槽33とその周辺部分だけを300℃〜400℃の温度に加熱することによって、本実施例で使用する超臨界又は亜臨界の二酸化炭素は温度を50℃以下に設定することが可能となる。除染槽を通過後の超臨界又は亜臨界の二酸化炭素は、膨張弁36を開くことによって降圧され冷却されて切替弁38を通して、トリチウム含有水40として分離槽37に分離される。二酸化炭素は、ガスとして循環して、再度、高圧ポンプと加熱体によって超臨界又は亜臨界の二酸化炭素として利用される。分離槽に分離されたトリチウム含有水は、図8に示すように、再利用されて超臨界又は亜臨界の二酸化炭素と混合されて除染処理に用いられる。このとき、トリチウム含有水のトリチウム濃度が高くなった場合は、トリチウム濃度の低い水やバージンの軽水と交換して超臨界又は亜臨界の二酸化炭素と混合する。
【0054】
このようなプロセスに基づいて、超臨界又は亜臨界の二酸化炭素に含まれる水を300℃300時間、350℃200時間又は400℃50時間の条件で加熱することによって除染処理された後に得られたSS316ステンレス鋼は、表面ならびに内部ともトリチウム濃度が0.1MBq/cm未満となっており、SS316ステンレス鋼の表面ならびに内部についてトリチウム濃度の低減を図ることができた。
【0055】
以上のように、本発明は、トリチウム除染処理用加熱水として、臨界水、亜臨界水、水を含む超臨界の二酸化炭素、又は水を含む亜臨界の二酸化炭素の何れかを本発明の効果を奏するトリチウム除染方法及びその除染システムに適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明のトリチウム除染方法及びその除染システムは、トリチウム汚染物の表面ならびに内部に分布しているトリチウムの除去を効率的に安価で、且つ確実に行うことができ、安全性と安心性に優れているため、原子力施設や放射性取扱施設等からの汚染廃棄物処理とその再利用の分野への利用が期待できる。また、本発明のトリチウム除染方法及びその除染システムは、金属材料に限らず、除染処理時の温度と処理時間を調整することによって、プラスチック、セラミック又は無機ガラス等の材料への適用が可能であるため、有用性が高い。
【符号の説明】
【0057】
1…密閉容器、2…外部ジャケット、3…内部容器、4…トリチウム汚染物、5…軽水、6…トリチウム除染室、7…トリチウム汚染材料の搬入出用容器、8…配置台、9…トリチウム除染設備、10…耐圧容器、11…耐圧容器扉、12…締具、13…加熱体、14…トリチウム除染設備電源、15…ドレン処理設備、16…トリチウム汚染水の水量モニタ、17…トリチウム汚染水の排出管、18…トリチウム含有水貯蔵タンク、19…軽水貯蔵タンク、20…トリチウム含有水の供給管、21…軽水供給管、22…トリチウム除去設備、23…負圧維持機能、24…精製ガス供給管、25…汚染ガス排出管、26…ガス流量調整用装置、27…冷却装置、28…トリチウムモニタ、29…排気、30…温度・圧力モニタ、31…電気分解濃縮装置と繋がる配管、32…貯蔵タンクと繋がる配管、33…除染槽、34…高圧ポンプ、35…冷却器、36…膨張弁、37…分離槽、38…切替弁、39…除染用の軽水又はトリチウム含有水、40…トリチウム含有水、41…高圧ポンプ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリチウムが材料の表面ならびに内部に分布しているトリチウム汚染材料と軽水(HO)とを密閉容器中に封入した後、温度50〜400℃で加熱処理することにより、前記トリチウム材料表面に存在するトリチウムの水蒸気中への移行を促進させると同時に、加熱により前記トリチウム材料内部に存在するトリチウムの材料表面への拡散と表面での水蒸気への移行を促進させることを特徴とするトリチウム汚染物の除染方法。
【請求項2】
請求項1に記載のリチウム汚染物の除染方法において、前記トリチウム汚染材料と軽水とを封入した密閉容器を温度50〜400℃で加熱処理後、前記密閉容器を前記加熱処理温度未満の温度に冷却し降圧させて前記密閉容器中にトリチウム含有水を凝結させる方法、及び/又は減圧手段を用いて前記密閉容器中の水蒸気を前記密閉容器外に取り出し冷却トラップしてトリチウム含有水を凝結させる方法、によってトリチウム含有水を前記トリチウム汚染材料から分離して回収することを特徴とするトリチウム汚染物の除染方法。
【請求項3】
前記のトリチウム汚染材料と軽水とを封入した密閉容器を温度50〜400℃で加熱処理する操作が2回以上の多段で行われることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のトリチウム汚染物の除染方法。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかに記載のトリチウム汚染物の除染方法において、除染処理に使用した後回収したトリチウム含有水を再利用することによって、二次廃棄物となるトリチウム含有水ならびにその固化処理物の汚染廃棄物の発生を低減させる方法を特徴とするトリチウム汚染物の除染方法。
【請求項5】
トリチウムが材料の表面ならびに内部に分布しているトリチウム汚染材料を含む密閉容器中で、超臨界水、亜臨界水、水を含む超臨界の二酸化炭素、又は水を含む亜臨界の二酸化炭素の何れかを循環させると共に、前記トリチウム汚染材料を含む密閉容器を温度50〜400℃で加熱処理することにより、前記トリチウム汚染材料表面に存在するトリチウムの水蒸気中への移行を促進させると同時に、加熱により前記トリチウム汚染材料内部に存在するトリチウムの材料表面への拡散と表面での水蒸気への移行を促進させることを特徴とするトリチウム汚染物の除染方法。
【請求項6】
請求項1〜5に記載のトリチウム汚染物の除染方法において、除染処理に使用したトリチウム含有水は、軽水で希釈して廃棄されるか、又はトリチウム含有水又はその固化処理物の汚染廃棄物として隔離保管又は隔離保存されることを特徴とするトリチウム汚染物の除染方法。
【請求項7】
(A)加熱機能を有する密封容器、除染用及び/又は洗浄用としてトリチウムを含まない軽水を前記密封容器中に供給するための設備、及び除染処理後のトリチウム含有水及び/又は密封容器洗浄後の洗浄水をドレン水として回収するための設備を有するトリチウム除染設備、(B)トリチウム汚染物を前記の密封容器に供給するために、前記の密封容器に隣接して設けられたトリチウム除染室、(C)トリチウムを含む水蒸気及び/又は汚染ガスを前記トリチウム除染設備及び/又は前記のトリチウム除染室から排出するための設備、(D)トリチウムを含まない精製ガスを前記トリチウム除染設備及び/又は前記のトリチウム除染室に供給及び/又は排出するための設備、及び(E)前記密封容器内の温度及び/又は圧力、前記密封容器内に存在する前記軽水及び/又は前記ドレン水の量、前記前記トリチウム除染室の内部圧力、前記ドレン水のトリチウム濃度、及び前記トリチウム除染室内及び/又は配管中のトリチウム濃度、の少なくとも何れか1つを計測又はモニタリングするための装置、から構成された設備を用いて、トリチウムが材料の表面ならびに内部に分布しているトリチウム汚染材料と軽水とを含む前記密封型容器を温度50〜400℃で加熱処理することを特徴とするトリチウム汚染物の除染システム。
【請求項8】
前記の除染処理後のトリチウム含有水を、前記トリチウム汚染物を含む密封容器に1回若しくは2回以上繰り返し供給して再利用することによってトリチウムの除染処理を行うことを特徴とする請求項7に記載のトリチウム汚染物の除染システム。
【請求項9】
トリチウムが材料の表面ならびに内部に分布しているトリチウム汚染材料を含む密封容器内に、高圧ポンプと加熱によって得られる超臨界水、亜臨界水、水を含む超臨界の二酸化炭素、又は水を含む亜臨界の二酸化炭素の何れかを循環させると共に、前記トリチウム汚染材料を含む密閉容器を温度50〜400℃で加熱処理してトリチウム汚染物の除染工程を経た後、前記の超臨界水、亜臨界水、水を含む超臨界の二酸化炭素、又は水を含む亜臨界の二酸化炭素の何れかを膨張させる処理を経ることによってトリチウムを含む水だけを分離回収することを特徴とするトリチウム汚染物の除染システム。
【請求項10】
トリチウム除染処理に使用した後のトリチウム含有水を、軽水で希釈して廃棄するための設備、又はトリチウム含有水又はその固化処理物の汚染廃棄物として隔離保管又は隔離保存するための設備を有することを特徴とする請求項7〜9の何れかに記載のトリチウム汚染物の除染システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−158374(P2011−158374A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−21111(P2010−21111)
【出願日】平成22年2月2日(2010.2.2)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年9月18日 日本原子力学会主催の「日本原子力学会 2009年秋の大会」において文書をもって発表
【出願人】(305060567)国立大学法人富山大学 (194)
【出願人】(000140627)株式会社化研 (27)