説明

トルクリミッタ

【課題】加工コストを削減できるトルクリミッタを提供する。
【解決手段】トルクリミッタを構成するヒステリシス材は、所定の幅Wおよび両端部を有する長手の金属の板材31を曲げて両端部33a,33bを当接して相互に接続することによって円筒形状とされ、両端部33a,33bの幅方向の端部32a〜32dにはR加工が施されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば複写機やプリンター・ファクシミリ等の給紙分離装置等に用いられるトルクリミッタに関し、特に、製造の容易なトルクリミッタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のトルクリミッタにおいては、たとえば、永久磁石の外周部に対向してヒステリシス材の円筒体が設けられる。このヒステリシス材の円筒体は、通常、所定の幅を有する長手のヒステリシス板を所定の長さで切断し、それを円筒状の曲げツールに当接させて所望の曲率とし、その端部を接続することによって形成されている。
【0003】
図6は、従来のヒステリシス板を曲げる方法を示す図である。図6を参照して、曲げツール50にヒステリシス板51を当接させ、曲げツール50に沿って所望の曲率に曲げていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の、トルクリミッタにおけるヒステリシス材は、上記のように製造されていた。ヒステリシス板51の中央部は上記の方法で所望の曲率が得られるが、端部、特にヒステリシス板51の幅方向の両端部52a,52bは、曲げツール50と当接する面が少ないため、十分曲がらないという問題があった。そのため、このように形成されたヒステリシス板の端部同士をたとえば、溶接で接続していたが、そのために、溶接のはがれが生じたり、加工時間がかかるという問題もあった。また、端部が長手方向に対して垂直につなぎ目が発生し、その部分でトルク変動が生じるという問題もあった。
【0005】
このような問題を解決するために、端部を長手方向に対して傾斜させて、傾斜させた端部同士を接続することが行なわれたが、この場合は、幅方向の端部の鋭角を有する部分は、曲げツール50と当接する部分が以前より減るため、所望の曲率を得ることが困難になり、かつ、このように成形されたヒステリシス板を後工程で樹脂ケースへ圧入する際に、両端が跳ね上がり、うまく圧入できないとともに、圧入の際に樹脂ケースに傷をつけたり、所定の真円度を満たさない、という問題があり、そのため、トルクリミッタの製造コストが高くなるという問題があった。
【0006】
この発明は上記のような問題点に鑑みてなされたもので、加工コストを削減できるトルクリミッタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に係る、トルクリミッタは、円筒状外周部を有する第1回転体と、円筒状外周部に対向する円周面を有し、第1回転体と同軸状で互いに対して相対的に回転可能に設けられた第2回転体とからなり、円筒状外周部および第2回転体のうちのいずれか一方は永久磁石で、いずれか他方はヒステリシス材である。ヒステリシス材は、斜めに切断された、所定の幅および両端部を有する長手の金属の板材を曲げて両端部を当接して相互に接続することによって円筒形状とされ、斜めに切断されることによって生じる前記ヒステリシス材の鋭角となる部分を切除した。
【0008】
ヒステリシス材を構成する長手の金属の板材の、斜めに切断されることによって鋭角となる部分は切除されているため、突出部が存在しない。したがって、板材の加工時に所望の曲率を有するように曲げられ、後工程で樹脂ケースへ圧入する際に、両端がうまく圧入でき、かつ、所定の真円度を満たすことができる。
【0009】
その結果、加工コストを削減できるトルクリミッタを提供できる。
【0010】
好ましくは、ヒステリシス材は樹脂ケースに保持される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、この発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。図1はこの発明の一実施の形態に係るトルクリミッタ10を示す要部断面図である。図1を参照して、トルクリミッタ10は、図示のない駆動用のシャフトに止めネジ(図示なし)を介して一体的に回転するようにされた、円筒状外周部を有する第1回転体11と、第1回転体11の円筒外周部に対向する円筒円筒状内周部を有する第2回転体20とを含む。
【0012】
第1回転体11は、合成樹脂円筒体12と、合成樹脂円筒体12の外周部に設けられた円筒状の永久磁石14とを含む。
【0013】
第2回転体20は、円筒状の永久磁石14の外周部に対向する円周面を有する、円筒体であるヒステリシス材(半硬質磁石)21と、ヒステリシス材21の両端部において、ヒステリシス材21を合成樹脂円筒体12に対して回転可能に支持するための、一対の円板状の蓋体23,25とを含む。一対の円板状の蓋体23,25は、第1回転体11と第2回転体20と共に空間を形成する。
【0014】
蓋体23と合成樹脂円筒体12とは、合成樹脂円筒体12の外周部12aに軸摺動部13aを有し、蓋体25と合成樹脂円筒体12とは、合成樹脂円筒体12の外周部12bと、端面12cに軸摺動部13b,13cを有する。
【0015】
図2は、ヒステリシス材21を構成するヒステリシス板30を示す平面図である。ヒステリシス板30は、圧延されたヒステリシスを有する板材からそれぞれが、所定の幅Wおよび長さLを有するように斜めに打ち抜かれて、個々のヒステリシス板31a,31b,31c等が形成される。ヒステリシス板31の幅方向寸法Wは、図1に示したトルクリミッタ10のヒステリシス材21の幅方向寸法Wに対応する。なお、円周方向には、複数のヒステリシス板31が連続して接続されてもよい。
【0016】
この実施の形態においては、このように個々のヒステリシス板31を斜めに切断することによって鋭角となる部分を切除した。すなわち、斜めに切断された幅方向の端部32a、32b,32cおよび32dのうち、鋭角となる部分32bおよび32dは、ヒステリシス板31を打ち抜くときに、同時に、R加工または面取りによって、平面的に見て、突起を有さないように加工されている。この結果、図6において52aで示したようなコーナ部分がなくなるため、ヒステリシス板31において、曲げツール加工時に所望の曲率を有するように曲げられる。なお、鈍角となる部分32aおよび32cにも加工をしてもよい。
【0017】
図3は、このようにして形成されたヒステリシス板31の両端を合わせて円筒状のヒステリシス材21を形成したときの、接続部の平面図(A)と図(A)においてB−Bで示した部分の正面図である。図3を参照して、図2に示したヒステリシス板31の両端部33a,33bの合わせ面がきれいにつながり、その部分が溶接で接続される。
【0018】
図4は、図3(A)において、IVで示した鋭角部分32aの拡大図である。図4に示すように、R加工または面取りは、ヒステリシス板31が円筒形状とされたときに、ヒステリシス板31の円周方向に対して交差する面を形成する任意の形状にしてもよい。すなわち、この加工された部分は、ヒステリシス板31の円周方向(図3において矢印Aで示す方向)に対して図4(B)において、角度αが90°をなす面を形成してもよいし、鋭角(図4(A)に示す)としてもよいし、鈍角(図4(C)で示す)としてもよい。もちろんR加工と組み合わせてもよい。
【0019】
図5は、樹脂ケースとそこに挿入されたヒステリシス材21を示す斜視図である。図5を参照して、樹脂ケース40は、上部が開放され、下端の中央に、回転軸が貫通する孔41を設けた形状である。この中に上記のように加工されたヒステリシス材21を圧入する。この場合、斜めに切断されることによって生じた鋭角部分の突起が切除されているため、樹脂ケースへの圧入は容易である。その後、上部の開口部に、中央部に孔を有する蓋をして、図1と同様の構成にする。
【0020】
なお、このヒステリシス板30の材質としては、Fe−Cr−Co系、Fe−Co系合金製が好ましい。
【0021】
なお、上記実施の形態においては、ヒステリシス板を樹脂ケースに圧入する場合について説明したが、これに限らず、単に、両端部を溶接で接続するだけでもよい。
【0022】
以上、図面を参照してこの発明の実施形態を説明したが、この発明は、図示した実施形態のものに限定されない。図示された実施形態に対して、この発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0023】
この発明に係るトルクリミッタは、加工コストを削減できるため、コストダウンが可能なトルクリミッタとして有利に使用される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】この発明の一実施の形態に係るトルクリミッタの断面図である。
【図2】ヒステリシス板を示す図である。
【図3】円筒形状にされたヒステリシス材を示す図である。
【図4】鋭角に切除された部分の拡大図である。
【図5】樹脂ケースに圧入されたヒステリシス材を示す図である。
【図6】ヒステリシス材の製造方法を示す図である。
【符号の説明】
【0025】
10 トルクリミッタ、11 第1回転体、12 合成樹脂円筒体、13 軸摺動部、14 永久磁石、20 第2回転体、21 ヒステリシス材、25 蓋体、30,31 ヒステリシス板、32 端部、33 両端部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状外周部を有する第1回転体と、前記円筒状外周部に対向する円周面を有し、前記第1回転体と同軸状で互いに対して相対的に回転可能に設けられた第2回転体とからなり、前記円筒状外周部および前記第2回転体のうちのいずれか一方は永久磁石で、いずれか他方はヒステリシス材であるトルクリミッタであって、
前記ヒステリシス材は、斜めに切断された、所定の幅および両端部を有する長手の金属の板材を曲げて前記両端部を当接して相互に接続することによって前記円筒形状とされ、
斜めに切断されることによって生じる前記ヒステリシス材の鋭角となる部分を切除した、トルクリミッタ。
【請求項2】
前記ヒステリシス材は樹脂ケースに保持される、請求項1に記載のトルクリミッタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−239922(P2007−239922A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−64566(P2006−64566)
【出願日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【出願人】(000114710)ヤマウチ株式会社 (82)