説明

トルクリミツタ

【目的】 トルクリミッタにおいて、復元時に交換部品が不要で、簡単な作業で復元する。
【構成】 軸部材11に開放部材25を取付け、筒部材12と軸回りの位置が変化したとき開放部材25で筒部材12の油圧通路13fの開放口13bを開放する。復元時には、軸部材11と筒部材12の軸回りの位置を変化前の位置に合わせれば、開放口13bを再び閉じることができる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、トルクリミッタの改良に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、トルクリミッタとしては、図7に示すように、軸部材1の外周面に筒部材2の内周面を嵌入し、筒部材2の油圧通路2aに圧油を供給してシャーチューブ3でシールする一方、上記軸部材1には、シャーチューブ3の端部を係止する係止部材4を固定してなるものがある(特公昭63−30527号公報参照)。
【0003】上記油圧通路2aの圧油で筒部材2の内周面が縮径して軸部材1の外周面に押付けられる。これにより、軸部材1と筒部材2が結合されてトルクが伝達される。そして、軸部材1または筒部材2に所定値以上の負荷がかかって、筒部材2の内周面がスリップし、軸部材1と筒部材2の軸回りの位置が変化したとき、上記係止部材4でシャーチューブ3の端部が切断され、油圧通路2aの圧油が外部に排出される。これにより、筒部材2の内周面が軸部材1の外周面に押付けられなくなり、軸部材1と筒部材2の結合が解かれてトルクが伝達されなくなる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記従来の構造では、シャーチューブ3を切断するものであるから、復元時にはシャーチューブ3を交換する必要があるので、部品コストが高くつき、交換作業も煩わしいという問題がある。また、筒部材2の油圧通路2aからエアーを抜くための機構を別に必要とするという問題もあった。
【0005】そこで、本発明の目的は、復元時に交換部品が不要で、簡単な作業で復元することができ、かつエアー抜き機構を別に必要としないトルクリミッタを提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために、本発明は、軸部材と、この軸部材の外周面に内周面を押付ける油圧通路を有する筒部材と、上記軸部材に取付けられ、上記筒部材と軸回りの位置が変化したとき上記油圧通路の開放口を開放する開放部材とを備えたことを特徴としている。
【0007】
【作用】本発明のトルクリミッタによれば、軸部材に開放部材を取付け、筒部材と軸回りの位置が変化したとき開放部材で油圧通路の開放口を開放して、油圧通路の圧油を外部へ排出する。そして、復元時には、軸部材と筒部材の軸回りの位置を変化前の位置に合わせれば、開放口を再び閉じることができる。これにより、交換部品なしに簡単に復元できる。また、開放口を開閉操作すれば、エアー抜きもできる。
【0008】
【実施例】以下、本発明を図示の実施例により詳細に説明する。図1〜図3は第1実施例である。筒部材12にスリーブ13が一体的に嵌着され、このスリーブ13の内周面が軸部材11の外周面に嵌入される。
【0009】上記スリーブ13の一端部には半径方向の外方へ立上るフランジ部13aが設けられ、このフランジ部13aの外周面に、半径方向の開放口13bが形成されている。この開放口13bは、上段が大径孔13c、中段がめねじ孔13d、下段が小径孔13eになっている。
【0010】上記スリーブ13には、軸方向に長いスリットで環状の油圧通路13fが形成され、この油圧通路13fは、上記開放口13bの小径孔13eに連通している。上記スリーブ13には、上記油圧通路13fに圧油を供給するための注入口(図示しない。)が設けられている。
【0011】上記スリーブ13の開放口13bにはバルブ15が取付けられている。このバルブ15は、図3に詳細に示すように、第1スリーブ16と第2スリーブ17とを有し、第1スリーブ16の上部おねじ16aと第2スリーブ17の下部めねじ17aとが螺合されて一体的に連結されている。
【0012】上記第1スリーブ16の下部には、上記開放口13bの小径孔13eに嵌合する筒部16bと、上記開放口13bのめねじ孔13dに螺合するおねじ部16cとが設けられている。上記筒部16bの外周には、上記小径孔13eとの間を油密にシールするシールリング18が嵌められている。
【0013】上記第1スリーブ16の中心穴16dには、ボール(弁)19が上下動自在に嵌入され、この中心穴16dの上部には、上動したボール19が当接する弁座16eが形成されている。上記中心穴16dの下部には、油通孔20aを有するプラグ20が螺着され、このプラグ20と上記ボール19との間に縮装したスプリング21で、ボール19が弁座16eに当接する上動方向に付勢されている。
【0014】上記第2スリーブ17は、上記解放口13bの大径孔13cに遊嵌する。この第2スリーブ17の中心孔17bにはロッド22が昇降自在に嵌入され、このロッド22が下降したとき、ロッド22の下部22aで上記ボール19を下方へ押し下げ可能になっている。上記ロッド22のツバ部22bと第2スリーブ17の中心孔17bの上壁17cとの間に縮装したスプリング23で、ロッド22がボール19に当接する下降方向に付勢されている。上記第2スリーブ17の側壁には、開放口13bの大径孔13cに臨む油抜き孔17dが形成されている。なお、24はロッド22の抜け止めリングである。
【0015】上記第2スリーブ17のスプリング23は、第1スリーブ16のスプリング21よりも強く設定されている。また、第2スリーブ17のスプリング23は、上記スリーブ13の油圧通路13fの圧油で第1スリーブ16のボール19が弁座16eに当接しているときには、ロッド22でボール19を下方へ押し下げない強さに設定している。
【0016】上記軸部材11の外周面には、半径方向の外方へ立上る押し板25がボルト26で固定され、この押し板25には、上記バルブ15のロッド22の上部を、僅かの隙間を隔てて挟み込むフォーク部25aが設けられている。そして、上記筒部材12のスリーブ13と軸部材11の軸回りの位置が変化したとき、フォーク部25aでロッド22が下方へ押し下げられるようになる。
【0017】上記第1実施例の構成によれば、軸部材11の押し板25のフォーク部25aがバルブ15のロッド22の上部を挟み込む位置にあり、かつ上記スリーブ13の油圧通路13fに圧油が供給されている状態では、油圧通路13fの圧油でバルブ15のボール19が弁座16eに当接し、バルブ15が閉じられている。
【0018】そして、上記油圧通路13fの圧油でスリーブ13の内周面が縮径して軸部材11の外周面に押し付けられるので、軸部材11と筒部材12が結合されてトルクが伝達される。
【0019】一方、軸部材11または筒部材12に所定値以上の負荷がかかって、スリーブ13の内周面がスリップし、軸部材11と筒部材12の軸回りの位置が変化したとき、軸部材11の押し板25のフォーク部25aでバルブ15のロッド22が下方へ押し下げられる。
【0020】そして、油圧通路13fの圧油に抗してボール19がロッド22で強制的に下方へ押し下げられて弁座16eから離れると、油圧通路13fの圧油は、プラグ20の油通孔20a、第1スリーブ16の中心孔16d、弁座16eの孔、第2スリーブ17の中心孔17b及び油抜き孔17dを通って外部へ排出される。これにより、スリーブ13の内周面が軸部材11の外周面に押し付けられなくなるので、軸部材11と筒部材12の結合が解かれてトルクが伝達されなくなる。このとき、ボール19のスプリング21よりもロッド22のスプリング23の方が強く、かつ油圧通路13fから圧油が外部へ排出されてゆくので、ロッド22でボール19を弁座16eから僅かに離すだけで、それ以後はスプリング23の付勢力でボール19が下動され、弁座16eの孔が大きく開かれる。
【0021】次に、復元時には、軸部材11と筒部材12の軸回りの位置を変化前の位置に合わせると、軸部材11の押し板25のフォーク部25aがバルブ15のロッド22の上部を挟み込む位置に移動する。このとき、油圧通路13fに圧油が供給されていないので、バルブ15のロッド22でボール19が下動された状態である。
【0022】ついで、油圧通路13fに圧油を供給すると、この圧油でバルブ15のボール19が弁座16eに当接し、バルブ15が閉じられる。ロッド22はボール19に作用する圧油により、スプリング23の付勢力に抗して上昇位置に保持される。上記油圧通路13fの圧油でスリーブ13の内周面が縮径して軸部材11の外周面に押し付けられるので、軸部材11と筒部材12が再び結合されてトルクが伝達される。
【0023】このように、復元は、軸部材11と筒部材12の軸回りの位置を変化前の位置に合わせて、油圧通路13fに圧油を供給するだけで繰り返して行えるので、従来のような交換部品は不要であり、復元作業も簡単かつ迅速に行える。また、油圧通路13fのエアー抜きは、ボール19と弁座16eとの隙間を利用して行うことができ、別のエアー抜き機構は不要である。
【0024】図4〜図6は第2実施例である。筒部材30の内周面が軸部材11の外周面に嵌入される。なお、31,31はベアリング、32,32はオイルシールである
【0025】上記筒部材30には、軸方向に長いスリットで環状の油圧通路30aが形成され、この油圧通路30aには、半径方向外方に連なり、筒部材30の外周面に開口する油注入通路30cが設けられている。また、この油注入通路30cの途中から軸方向に連なり、筒部材30の外端面に開放口30dが開口する開放通路30eが設けられている。
【0026】上記油注入通路30cはプラグ33で開閉可能に閉塞されている。また、上記開放通路30eの開放口30dにはオイルシール(またはOリング)34(図6参照)が設けられている。
【0027】上記軸部材11の外周面には、半径方向外方へ立上る油栓板35がボルト36で固定され、この油栓板35は、図6に示すように、上記開放口30dのオイルシール34に当接して開放口30dを油密にシールする。そして、上記筒部材30と軸部材11の軸回りの位置が変化したとき、油栓板35がオイルシール34から離れて開放口30dを開放する。
【0028】上記第2実施例の構成によれば、軸部材11の油栓板35が筒部材30の開放口30dをシールする位置にあり、かつ筒部材30の油圧通路30aに圧油が供給されている状態では、油圧通路30aの圧油で筒部材30の内周面が縮径して軸部材11の外周面に押し付けられているので、軸部材11と筒部材30が結合されてトルクが伝達される。
【0029】一方、軸部材11または筒部材30に所定値以上の負荷がかかって、筒部材30の内周面がスリップし、軸部材11と筒部材30の軸回りの位置が変化したとき、油栓板35がオイルシール34から離れて開放口30dを開放するので、油圧通路30aの圧油は、注入通路30cから開放通路30eの開放口30dを通って外部へ排出される。これにより、筒部材30の内周面が軸部材11の外周面に押し付けられなくなるので、軸部材11と筒部材30の結合が解かれてトルクが伝達されなくなる。
【0030】次に、復元時には、軸部材11と筒部材30の軸回りの位置を変化前の位置に合わせると、筒部材30の開放口30dが軸部材11の油栓板35で閉じられる。その後、プラグ33を外して油注入通路30cから油圧通路30aに圧油を供給して、プラグ33で再び油注入通路30cを閉塞する。上記油圧通路30aの圧油で筒部材30の内周面が縮径して軸部材11の外周面に押し付けられるので、軸部材11と筒部材30が再び結合されてトルクが伝達される。
【0031】このように、復元は、軸部材11と筒部材30の軸回り位置を変化前の位置に合わせて、油栓板35で開放口30dを閉じた状態で油圧通路30aに圧油を供給するだけで繰り返して行えるので、従来のような交換部品は不要であり、復元作業も簡単かつ迅速に行える。また、油圧通路30aのエアー抜きは、開放口30dを僅かに開くことにより行うことができ、別のエアー抜き機構は不要である。
【0032】
【発明の効果】以上の説明より明らかなように、本発明のトルクリミッタは、軸部材に開放部材を取付け、筒部材と軸回りの位置が変化したとき開放部材で筒部材の油圧通路の開放口を開放するようにしたものである。したがって、復元時には、軸部材と筒部材の軸回りの位置を変化前の位置に合わせれば、開放口が再び閉じれるようになるから、従来のような交換部品なしに簡単に復元できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の第1実施例のトルクリミッタの断面図
【図2】 図1の押し板の背面図
【図3】 図1のバルブの拡大断面図
【図4】 本発明の第2実施例のトルクリミッタの断面図
【図5】 図4の油栓板の背面図
【図6】 図4のA−A線拡大断面図
【図7】 従来のトルクリミッタの断面図
【符号の説明】
11…軸部材、12,30…筒部材、13…スリーブ、13b,30d…開放口、13f,30a…油圧通路、15…バルブ、25…押し板、35…油栓板。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 軸部材と、この軸部材の外周面に内周面を押付ける油圧通路を有する筒部材と、上記軸部材に取付けられ、上記筒部材と軸回りの位置が変化したとき上記油圧通路の開放口を開放する開放部材とを備えたことを特徴とするトルクリミッタ

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開平5−87149
【公開日】平成5年(1993)4月6日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−247406
【出願日】平成3年(1991)9月26日
【出願人】(000001247)光洋精工株式会社 (7,053)