説明

トルコギキョウの栽培方法

【課題】秋出し栽培のトルコギキョウの草丈,花蕾数,草姿等の品質を改善する。
【解決手段】
この発明は、トルコギキョウの秋出し栽培を行うに当り、播種後に所定期間種子冷蔵を行った後に定植し、植物体が栄養生長から生殖生長に移行した後、主枝及び分枝を花芽を形成した部分より下位部分より切り戻すことにより再度栄養生長を促すとともに、上記切り下部分から分枝を発生・伸長させ、新たに発生させた分枝に花蕾を形成させるものである。特に、播種時期を4月下旬〜6月中旬とし、種子冷蔵期間を30〜40日間として10月以後に採取する。
また、切り戻し時期を定植後2ヶ月前後に行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はトルコギキョウの草丈や草姿、花蕾の位置や数等の点で品質を改善するための栽培方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トルコギキョウは、一般的に秋播き1年生の草花であり、秋に播種すると、翌年の初夏に開花する。花芽分化・開花は、高温と長日条件下で促進される。そして発芽後、本葉が2〜3対展開するまで茎はほとんど伸長せず、この時期が生育環境に適した条件の場合には、本葉4対以降が展開し、茎が急速に伸長し始める。一方、高温など生育に適さない環境下では、本葉が4対以降も出葉は続くが、茎が伸長しないため、横方向に葉が広がった状態(以下、「ロゼット化」という。)となる。
【0003】
トルコギキョウを10〜12月に出荷する(以下、「秋出し栽培」という。)ためには、育苗期が高温期であるため、上記のロゼット化が問題となり、通常の育苗方法では出荷が難しい。一般的には、「冷房育苗」(茎伸長を開始する生育ステージまで高温に当てずに育てる育苗方法)や「苗冷蔵」(高温下で育苗した苗を低温処理し、ロゼットを打破する育苗方法)が行われている。
【0004】
例えば特許文献1に示す技術では、播種時期を5月初旬頃に行いロゼット苗になる前である6月初旬から9月頃まで100日以上0〜8℃で低温処理(保存)を継続した後に定植する方法が知られている。
その他播種直後から吸水した状態で冷蔵する吸水種子低温処理法(又は種子冷蔵)によりロゼット化を回避し、秋出し栽培(出荷)を実施している。
【特許文献1】特開平9−191761号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1等の「冷房育苗」や「苗冷蔵」には、冷房可能な育苗施設や照明付き冷蔵庫が必要となり、本作型の普及拡大を妨げる要因となっている。
一方、種子冷蔵は、照明等の新たな附帯設備も必要としないため、JA等が所有する既存の冷蔵施設(予冷庫等)が活用でき、多くの生産者が取り組めるが、種子冷蔵だけでは、定植後の高温の影響を受けやすく、草丈や分枝の確保が難しく、低位置での着蕾が多いほか全体としてボリューム感も乏しく、花蕾数も減少する。
以上のような事情から、種子冷蔵による秋出し栽培において、草姿改善・品質向上技術の開発が重要な課題である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための本発明の方法は、第1に播種後に所定期間種子冷蔵を行った後に定植し、植物体が栄養生長から生殖生長に移行した後、主枝及び分枝を花芽を形成した部分より下位部分より切り戻すことにより再度栄養生長を促すとともに、上記切り下部分から分枝を発生・伸長させ、新たに発生させた分枝に花蕾を形成させることを特徴としている。
【0007】
第2に、播種時期を4月下旬〜6月中旬とし、種子冷蔵期間を30〜40日間として10月以後に採取することを特徴としている。
【0008】
第3に、切り戻し時期を定植後2ヶ月前後に行うことを特徴としている。
【0009】
第4に、生殖生長に移行した後、主枝の低節位で花芽を形成し又はさらに開花を開始したすべての主枝及び分枝を切り揃えることにより切り戻しを行うことを特徴としている。
【0010】
第5に、栄養生長から生殖生長への移行時期に近接した時期以後植物体に対して電照,保温,施肥を行い、草丈の伸長及び花蕾数の増加を促すことを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
以上のように構成される本発明の方法によれば、トルコギキョウのロゼット化を防止して、需要が多い10〜1月であっても草丈や花蕾数,草姿の改善等の面で高品質なトルコギキョウを多量に出荷することができ、出荷期間の拡大が実現できるほか、トルコギキョウの栽培農家にとっての収益性の向上が可能となる。
【0012】
また従来の冷房育苗や苗冷蔵に比して、冷房可能な育苗施設や照明付冷蔵庫を必ずしも必要とせず、冷房期間及びそのための管理期間も短縮できるほか、種子冷蔵のみの場合のように定植後の高温の影響を受けることもなく草丈や分枝の確保、花蕾の減少防止が可能となる利点がある。さらに種子冷蔵の処理効果の不安定さや定植時期を遅らせる際の困難性といった問題も発生しない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下本発明の実施形態につき詳述すると、図1は本発明の1実施例を示す播種から出荷までの作業工程を示すダイヤグラムで、図2は播種から定植までの工程を示すイメージ図である。
図示する例では5月中旬頃に従来公知の播種用のトレイ1に床土2を適宜深さ敷き詰めたものに播種を行い、所定の含水状態にして上記トレイ1を重ね合わせ、乾燥を防止するためにシート等で被覆した状態で約5〜10℃の低温下で約1ヶ月間(6月中旬頃迄)種子冷蔵を行う。この種子冷蔵によりロゼット化が防止される。上記トレイ1内は取外し又は分離可能な多数のセル(ポット)4に区切られており、播種はそのセル(ポット)4内に行われる。
【0014】
次いで常温下で灌水その他の管理を行うことによって発芽し、植物体3が形成される。植物体3は発芽後子葉のままで成長するが、約1ヶ月間(7月中旬頃迄)育成することにより、子葉が横方向に出た状態で成長し草丈は殆ど伸びない。
【0015】
上記育苗により植物体(苗)3が子葉のまま成長した7月中旬頃に上記ポット4とともに(苗の直植も可能)ビニールハウス内に形成された圃場に移植され、以後必要に応じ灌水,温度調整,電照等を施しながら育成管理する。この育成は約2ヶ月間(9月中旬頃迄)継続され、植物体3は概ね60〜70cm程度まで成長し、種子植物が発芽後葉や茎等の栄養器官だけを分化・形成する栄養生長から、生殖器官を分化・形成し、開花・結実までの一連の過程である生殖生長期に入る。
【0016】
上記育成期間が経過すると、植物体3は図3(A),(B)に示すように主枝3aに対して側枝3bが1本の場合と2本(複数本)の場合があるが、その端部や途中に花芽又は蕾が形成される。
この例では9月中旬には生殖生長期に移行しており、各側枝(主枝、分枝)には花芽や花蕾あるいは開花を開始した蕾が形成されている。
【0017】
本発明ではこの着蕾時期に前記主枝3a,側枝3bの花芽を形成した部分より下方位置(概ね地表面から25〜45cm高さの位置)の一定高さ部分より切り揃える(例えば20〜30cm位を切り除く)ことにより切り戻しを行う。この切り戻しは、一般の公知技術である生長点周辺部のみを除去する摘芯とは異なり、植物体上位部(生長点周辺部のみならず、植物体の上位部の花蕾・開花部・茎葉を含む。)を除去するものである。また、切り戻し時期は、出荷時期から遡り、品種間格差もあるが出荷開始時期の概ね2ヶ月〜数ヶ月前とする。
【0018】
上記切り戻しは植物体の生殖生長と止めて切り戻し位置からの新たな発芽をさせ、再度栄養生長をさせるためであり、切り戻し位置を揃えるのは新芽が成長して出来る新枝を揃え、全体としての草姿を整えるためである。
【0019】
図4は上記のように切り戻しされて成長した場合と切り戻しを行わずに在来方法で成長させた場合のトルコギキョウのイメージ図であり、切り戻した本発明のものは側枝3bからさらに分枝した多くの花枝3cが形成されて着蕾(6)しているのに対し、切り戻ししないものは発生する側枝3bが少なく蕾6の数も少ない状態を示している。このように本発明方法によれば生殖生長開始後の近接時期に花芽や蕾6が形成された部分を残さず、その下方位置で枝先側を切除することにより、最終的に花数も多く草丈も大きく(約90〜100cm)且つ草姿も優れたものになる。
【0020】
なお、この発明においても播種以後の生育状況,灌水,施肥等の管理は各作業の時期や期間、タイミングを含め気候の変動やトルコギキョウの品種の違い等に応じて適宜変更されるが、特に切り戻し後は、植物体3の栄養生長を再開させて側枝の発生や側枝からの分枝及びこれらの成長と着蕾を促すためには、必要に応じ適時な施肥を行うほか、電照を施す等の対応が求められる。
【0021】
また上記実施例では秋出し栽培として5月中旬に播種し、11月中旬に出荷した例を示したが、例えば1月に出荷時期をずらすためには、播種時期を後方にずらし、早める時には前方に(例えば4月中旬〜6月中旬のように)ずらす等の変更は可能であるが、作業の季節を大きく外れるのを防止するためには、採取時期前にビニールハウス等の温度管理を調節して出荷をコントロールする等の方法が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の栽培方法における作業工程を示すダイヤグラムである。
【図2】本発明の播種作業から定植迄の作業状態を示すイメージ図である。
【図3】(A),(B)はそれぞれ植物体の切り戻し状態を示すイメージ図である。
【図4】植物体を切り戻した場合と切り戻しを行わない場合の成長のイメージ図である。
【符号の説明】
【0023】
1 トレイ
2 床土
3 植物体
3a 主枝
3b 分枝
3c 花枝
4 ポット
6 蕾

【特許請求の範囲】
【請求項1】
播種後に所定期間種子冷蔵を行った後に定植し、植物体が栄養生長から生殖生長に移行した後、主枝及び分枝を花芽を形成した部分より下位部分より切り戻すことにより再度栄養生長を促すとともに、上記切り下部分から分枝を発生・伸長させ、新たに発生させた分枝に花蕾を形成させるトルコギキョウの栽培方法。
【請求項2】
播種時期を4月下旬〜6月中旬とし、種子冷蔵期間を30〜40日間として10月以後に採取する請求項1のトルコギキョウの栽培方法。
【請求項3】
切り戻し時期を定植後2ヶ月前後に行う請求項1又は2のトルコギキョウの栽培方法。
【請求項4】
生殖生長に移行した後、主枝の低節位で花芽を形成し又はさらに開花を開始したすべての主枝及び分枝を切り揃えることにより切り戻しを行う請求項1,2又は3のトルコギキョウの栽培方法。
【請求項5】
栄養生長から生殖生長への移行時期に近接した時期以後植物体に対して電照,保温,施肥を行い、草丈の伸長及び花蕾数の増加を促す請求項1,2,3又は4のトルコギキョウの栽培方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−115144(P2010−115144A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−290188(P2008−290188)
【出願日】平成20年11月12日(2008.11.12)
【出願人】(591282205)島根県 (122)
【Fターム(参考)】