説明

トロコイド型オイルポンプ

【目的】 高回転時におけるキャビテーション現象を減少させることを目的とするものである。
【構成】 歯間室9と吸入ポート6及び吐出ポート7との連通が、歯間室9の容積が最大となる位置からインナーロータ5の回転方向に偏角された位置で遮断されるようにし、アウターロータ4の偏心方向側に位置する吸入及び吐出ポート6,7の端部6a,7aが内側に窪まれた外周形状であることを特徴とするトロコイド型オイルポンプ。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、エンジン潤滑用のトロコイド型オイルポンプに関するものである。
【0002】
【従来の技術】本発明に関する従来技術としては、図4に示されるものが知られている。図4は、この公知の従来例のポンプカバーを取り除いた平面図を示している。
【0003】同図に示すように、ポンプボデー1と図示しないポンプカバーとによって区画された円筒状密閉室3内に、トコロイド噛み合いする一組の内歯アウターロータ4と外歯インナーロータ5とが納められている。インナーロータ5はエンジン動力に応じて回転される駆動軸8に固着されており、その回転によってアウターロータ4を回転させる。これらのロータ4,5が回転すると、トロコイド噛み合いする両ロータ4,5の歯により区画される歯間室9容積の変化によって、吸入ポート60よりオイルを吸入し、吐出ポート70より吐出して、オイルを所定の潤滑箇所へ圧送する。
【0004】歯間室9が最大容積時において吸入ポート60から遮断されるようになっており、吸入ポート60及び吐出ポート70内のアウターロータ4の偏心方向側に位置する端部60a,70aは偏心方向に対して平行になっている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】ところが、この種のポンプは、エンジン動力によって駆動されるものであるから、広範囲の回転数域で使用されるものであるが、性質上、歯間室9が最大容積に近づくに連れて吸入ポート60の開口面積が減少し、歯間室9が最大容積時において吸入ポート60から遮断されるために、歯間室へのオイルの吸入効率が低下し、高回転時においてキャビテーション現象を生じることになる。
【0006】更に、この種のポンプは、吸入ポート60内のアウターロータ4の偏心方向側に位置する端部60aが偏心方向に対して平行になっている為に、歯間室9が最大容積になる直前において、急激に通路が狭くなるので、高回転時のキャビテーション現象を生じる恐れがある。また、吐出ポート70内のアウターロータ4の偏心方向側に位置する端部70aが偏心方向に対して平行になっている為に、歯間室9が最大容積になった直後において、急激に通路が狭くなるので、高回転時のキャビテーション現象を生じる恐れがある。
【0007】高回転時のキャビテーション現象により、吐出油圧の脈動が増加することになる。このために、吐出量が低下したり、異常摩耗や騒音を発する恐れがある。
【0008】故に、本発明は、上記の問題点を解決することをその技術的課題とするものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】上記の技術的課題を解決するための第1の技術的手段は、歯間室と吸入及び吐出ポートとの連通が、歯間室の容積が最大となる位置からインナーロータの回転方向に偏角された位置で遮断されるようにしたことである。
【0010】また、第2の技術的手段は、アウターロータの偏心方向側に位置する吸入ポート及び吐出ポートの端部が内側に窪まれた外周形状にされたことである。
【0011】
【作用】高回転時におけるオイルの慣性力を考慮に入れて、歯間室の容積が最大となる位置からインナーロータの回転方向に偏角された位置で、歯間室と吸入,吐出ポートとの連通を遮断したことにより、歯間室へのオイルの吸入効率を向上させ、高回転時におけるキャビテーション現象を減少させている。
【0012】また、アウターロータの偏心方向側に位置する吸入ポートの端部が内側に窪まれた外周形状にされたことにより、歯間室が最大容積になる直前まで、広範囲のオイルの供給路を形成している為に、歯間室へのオイルの吸入効率を向上させ、高回転時のキャビテーション現象を減少させている。更に、アウターロータの偏心方向側に位置する吐出ポートの端部が内側に窪まれた外周形状にされたことにより、歯間室が最大容積になった直後にも、広範囲のオイルの吐出路が形成される為に、高回転時のキャビテーション現象を減少させている。
【0013】以上のことのより、吐出油圧の脈動が低減できるので、吐出量が向上し、異常摩耗や騒音の発生を減少することができる。
【0014】
【実施例】以下、本発明における実施例を図面を用いて説明する。
【0015】図1は、本発明によるトロコイド型オイルポンプのオイルカバーを取り除いた平面図を示し、図2は、図1のA−A要部断面図を示し、図3は、図1のB−B要部断面図を示している。
【0016】これらの図面に示すように、ポンプボデー1とポンプカバー2とによって区画された円筒状密閉室3内に、トロコイド噛み合いする一組の内歯アウターロータ4と外歯インナーロータ5とが納められている。これらのロータ4,5の端面に臨んで弓形の吸入ポート6と吐出ポート7とを開口させている。インナーロータ5はエンジン動力に応じて回転される駆動軸8に固着されており、その回転によってアウターロータ4を回転させる。これらのロータ4,5が回転すると、トロコイド噛み合いする両ロータ4,5の歯により区画される歯間室9容積の変化によって、吸入ポート6よりオイルを吸入し、吐出ポート7より吐出して、オイルを所定の潤滑箇所へ圧送する。
【0017】本発明においては、高回転時におけるオイルの慣性力を考慮に入れて、図2に示す如く歯間室9と吸入ポート6との連通及び歯間室9と吐出ポート7との連通が、歯間室9の容積が最大となる位置からインナーロータ5の回転方向に所定の角度θ偏角された位置で遮断されている。尚、θの範囲は5°〜20°が望ましい。何故ならば、θが5°以下では、歯間室9へのオイルの吸入効率が小さく、20°以上では、歯間室9内の圧力が上昇しすぎて逆に吸入効率が低下してしまう為である。本発明は、高回転域においては、オイルの慣性力により、歯間室9の容積が最大となった直後でも歯間室9にオイルが供給される為に、従来例よりも多量のオイルが歯間室9に供給されることになり、高回転時におけるキャビテーション現象を減少させている。
【0018】また、本発明においては、アウターロータ4の偏心方向側に位置する吸入ポート6の端部6a及び吐出ポート7の端部7aが内側に窪まれた外周形状すなわち、鳥の嘴のような形状になっている。吸入ポート6の端部6aが内側に窪まれた外周形状にされたことにより、歯間室9が最大容積となる直前にまで広範囲のオイルの供給路が形成される為に、歯間室9へのオイルの吸入効率を向上させ、高回転時のキャビテーション現象を減少させている。また、吐出ポート7の端部7aが内側に窪まれた外周形状にされたことにより、歯間室9が最大容積になった直後においても、広範囲のオイルの吐出路が形成される為に、高回転時のキャビテーション現象を減少させている。
【0019】図5及び図6は、本実施例と従来例とにおいて、高回転域での吐出油圧の脈動を比較したものである。
【0020】図5において、ポンプの回転数が高くなるにつれて、吐出油圧の脈動全振幅が、従来例においては急激に増加しているのに対して、本実施例においては少しずつ増加しているにすぎない。従って、本発明は、従来例に比べて高回転時における油圧脈動を低減させたことになる。つまり、本発明においては、高回転域におけるキャビテーション現象が減少することが実証されたことになる。
【0021】図6において、吐出圧が高くなるにつれて、油圧の脈動全振幅が、従来例においては50kgf/cm2 まで増加しているのに対して、本実施例においては、20kgf/cm2 までしか増加していないことが分かる。従って、本発明は、吐出圧を高くしても、あまり油圧脈動を増加させないことが分かる。つまり、本発明においては、高回転域におけるキャビテーション現象が吐出圧に関係なく減少することが実証されたことになる。
【0022】
【発明の効果】本発明は、歯間室と吸入,吐出ポートとの連通が、歯間室の容積が最大となる位置からインナーロータの回転方向に偏角された位置で遮断され、アウターロータの偏心方向側に位置する吸入ポート及び吐出ポートの端部が内側に窪まれた外周形状にさせることにより、以下の如く効果を有する。
【0023】歯間室に供給されるオイルの吸入効率が向上し、高回転域でのキャビテーション現象が減少する為、吐出油圧の脈動を低減することが可能になる。このことにより、吐出量が向上し、騒音や異常摩耗の発生を減少することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明によるトロコイド型ポンプのポンプカバーを取り除いた平面図である。
【図2】図1のA−A要部断面図である。
【図3】図1のB−B要部断面図である。
【図4】従来例のポンプカバーを取り除いた平面図である。
【図5】本実施例と従来例において、油温80℃,油種SAE#30,吐出圧3kgf/cm2 の条件下でのポンプの回転数と油圧の脈動全振幅との関係を示す説明図である。
【図6】本実施例と従来例において、油温80℃,油種SAE#30,ポンプ回転数5000rpm の条件下での吐出圧と油圧の脈動全振幅との関係を示す説明図である。
【符号の説明】
1 ポンプボデー
2 ポンプカバー
3 円筒状密閉室
4 内歯アウターロータ
5 外歯インナーロータ
6,60 吸入ポート
6a,60a 吸入ポートの端部(端部)
7,70 吐出ポート
7a,70a 吐出ポートの端部(端部)
8 駆動軸
9 歯間室

【特許請求の範囲】
【請求項1】 ポンプボデーとポンプカバーとで区画される円筒状密閉室にトロコイド歯型の外歯インナーロータと内歯アウターロータとが噛み合い状態で収納され、前記ロータ端面の吸入側及び吐出側に位置する前記ポンプボデーにそれぞれ吸入ポート及び吐出ポートが形成され、前記円筒状密閉室内に前記外歯インナーロータと前記内歯アウターロータとで区画された歯間室を備えたトロコイド型オイルポンプにおいて、前記歯間室と前記吸入,吐出ポートとの連通が、前記歯間室の容積が最大となる位置から前記インナーロータの回転方向に偏角された位置で遮断されることを特徴とするトロコイド型オイルポンプ。
【請求項2】 ポンプボデーとポンプカバーとで区画される円筒状密閉室にトロコイド歯型の外歯インナーロータと内歯アウターロータとが噛み合い状態で収納され、前記ロータ端面の吸入側及び吐出側に位置する前記ポンプボデーにそれぞれ吸入ポート及び吐出ポートが形成され、前記円筒状密閉室内に前記外歯インナーロータと前記内歯アウターロータとで区画された歯間室を備えたトロコイド型オイルポンプにおいて、前記アウターロータの偏心方向側に位置する前記吸入ポート及び前記吐出ポートの端部が内側に窪まれた外周形状であることを特徴とするトロコイド型オイルポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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