説明

トロポニンIの測定方法及び測定用試薬キット

【課題】トロポニンIを認識する特定の抗体を用いて、生体試料中のトロポニンIを検出する際に、より高感度にトロポニンIを検出できるサンドイッチイムノアッセイによる方法を提供することを目的とする。
【解決手段】生体試料に由来するトロポニンIを、トロポニンCの存在下で、該トロポニンIの41〜49番目のアミノ酸配列をエピトープとして認識し且つ標識物質で標識された第1抗体と接触させて、前記トロポニンIと、前記トロポニンCと、前記第1抗体との複合体を形成させ、前記複合体を形成した第1抗体の標識物質を測定することを含む、トロポニンIを測定する方法により、上記の課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体試料中のトロポニンIの測定方法、並びに該方法に用いることができる試薬キットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
心筋梗塞などの心筋疾患を診断するために、心筋細胞に含まれる筋肉タンパク質であるトロポニンを生体試料中で検出することが行われている。
トロポニンは、心筋疾患により引き起こされる心筋細胞の破壊により、心筋細胞から放出され、血液中に放出される。トロポニンは、血液中で、トロポニンI、トロポニンC及びトロポニンTの3つのサブユニットが単独、又は2つ若しくは3つの異なるサブユニットからなる複合体を形成して存在する。つまり、トロポニンIは、トロポニンC及び/又はトロポニンTと複合体を形成し得る。
これらの中でも、トロポニンIは、正常なヒトの血液中にはほとんど存在せず、心筋疾患に罹患したヒトの血液中に特異的に存在するので、トロポニンIを検出することにより、早期に心筋疾患を検出することができる。
【0003】
トロポニンIを検出する方法として、トロポニンIを認識する抗体を用いるイムノアッセイ法が知られている。
【0004】
例えば、特表平9−503050号(特許文献1)は、血液中のトロポニンIを測定するために、トロポニンIに特異的な抗体と、トロポニンCとを用いるサンドイッチイムノアッセイを用いることを提案している。
【0005】
また、特表平11−505605号(特許文献2)は、トロポニンの遊離のサブユニット及び/又はこれらのサブユニットの少なくとも2種からなる複合体を認識する抗体を用いるサンドイッチイムノアッセイにより、血液中のトロポニンを測定する方法を開示している。
【特許文献1】特表平9−503050号公報
【特許文献2】特表平11−505605号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、トロポニンIを認識する特定の抗体を用いて、生体試料中のトロポニンIを検出する際に、より高感度にトロポニンIを検出できるサンドイッチイムノアッセイによる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、トロポニンCの存在下で、生体試料中のトロポニンIを検出するサンドイッチイムノアッセイにおいて、所定のトロポニンI認識抗体を用いることにより、トロポニンIの検出感度が向上することを見出して、本発明を完成した。
【0008】
よって、本発明は、生体試料に由来するトロポニンIを、トロポニンCの存在下で、該トロポニンIの41〜49番目のアミノ酸配列をエピトープとして認識し且つ標識物質で標識された第1抗体と接触させて、前記トロポニンIと、前記トロポニンCと、前記第1抗体との複合体を形成させ、前記複合体を形成した第1抗体の標識物質を測定することを含む、トロポニンIを測定する方法を提供する。
【0009】
また、本発明は、トロポニンCと上記の第1抗体とを含むトロポニンIの測定用試薬キットも提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の方法、及び試薬キットを用いることにより、生体試料中のトロポニンIを高感度にかつ短時間で測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の方法における生体試料は、ヒト対象から採取された心臓型トロポニンIを含む可能性がある試料である。生体試料は、全血、血清、血漿を含む血液試料などを含む。生体試料が採取される対象は、通常、心筋梗塞、心不全などの心筋疾患を有することが疑われる患者であるが、このような患者以外の対象であってもよい。
【0012】
上記のトロポニンIは、配列番号1に示すアミノ酸配列を有することが知られている。このアミノ酸配列は、National Center for Biotechnology Information (NCBI)によるEntrezデータベースからP19429のアクセッション番号により入手される配列から、第1番目のメチオニンを除いた配列である。
【0013】
本発明において用いられるトロポニンCは、哺乳動物に由来するものであれば特に制限されない。例えば、骨格筋型トロポニンCや心臓型トロポニンCが挙げられ、特に心臓型トロポニンCが好ましい。上記の哺乳動物は、ヒト、ウサギ、ラット、マウス、イヌ、サル、ウシ、ブタなどが挙げられ、より好ましくはヒトである。トロポニンCは、配列番号2に示すアミノ酸配列(上記のEntrezデータベースからTPHUCCのアクセッション番号により入手される配列)を有するものが好ましい。トロポニンCは、哺乳動物の心筋細胞から精製したもの、遺伝子工学的手法により得られた組換えトロポニンC、又は化学的に合成された合成トロポニンCであり得る。また、トロポニンCは、市販で入手可能なものを用いることもできる。
【0014】
本発明の方法においては、トロポニンCの存在下で、上記の生体試料に由来するトロポニンIを、第1抗体と接触させて、トロポニンIと、トロポニンCと、第1抗体との複合体を形成させる。
本明細書において、「生体試料に由来するトロポニンI」とは、生体試料中に存在しているトロポニンI、及び生体試料から単離されたトロポニンIの両方を意味する。また、トロポニンIには、遊離型のトロポニンI、トロポニンC及び/又はトロポニンTと複合体を形成したトロポニンIが含まれる。
【0015】
本明細書において、「トロポニンCの存在下」とは、反応系に添加されたトロポニンCが、生体試料に由来するトロポニンIと結合しているか、又は反応系に添加されたトロポニンCが遊離の状態であることを意味する。好ましくは、トロポニンCが、トロポニンIと結合している。生体試料中には、生体試料に由来する遊離のトロポニンCが存在し得るが、本明細書で用いる場合、「トロポニンC」とは、生体試料中に元来存在し得るトロポニンC以外の、反応系の外部から添加するトロポニンCを意図する。
【0016】
本明細書において、「トロポニンIと、トロポニンCと、第1抗体との複合体」とは、トロポニンI、トロポニンC及び第1抗体を少なくとも含む複合体であり、その他の成分、例えば、トロポニンT、並びに下記の第2抗体及び固相がさらに結合していてもよい。
【0017】
上記の複合体の形成は、生体試料に由来するトロポニンI、第1抗体及びトロポニンCを同時に接触させるか、又は該トロポニンI及びトロポニンCを接触させた後に、第1抗体を接触させることにより行うのが好ましい。このような順序で各成分を接触させることにより、生体試料に含まれ得る遊離のトロポニンIと、混合されたトロポニンCとがI/C複合体を形成し、該I/C複合体のトロポニンI部分に第1抗体が結合して、トロポニンIと、トロポニンCと、第1抗体との複合体が形成される。
【0018】
本発明において用いられる第1抗体は、配列番号1で表されるトロポニンIの41〜49番目のアミノ酸配列をエピトープとして認識し且つ標識物質で標識されている。第1抗体は、上記のエピトープを認識するものであれば、抗体フラグメント(Fabフラグメント、F(ab')2フラグメント、Fab'フラグメント、sFvフラグメントなど)であってもよい。
上記のエピトープを認識する抗体は、市販で入手可能であり、Hytest社からの19C7抗体が好ましい。
【0019】
標識物質は、通常のイムノアッセイにおいて用い得る標識物質であれば特に限定されない。例えば、酵素、蛍光物質、放射性同位元素、不溶性粒状物質などが挙げられる。
酵素としては、アルカリホスファターゼ、ペルオキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、チロシナーゼ、酸性ホスファターゼなどが挙げられる。
蛍光物質としては、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、グリーン蛍光タンパク質(GFP)、ルシフェリンなどが挙げられる。
放射性同位元素としては、125I、14C、32Pなどが挙げられる。
【0020】
上記の標識可能な物質で抗体を標識する方法は、当該技術において公知である。
【0021】
本発明の方法において、トロポニンCは、生体試料中に含まれると考えられる遊離のトロポニンIに対して、1〜10倍(モル)量で存在させることが好ましく、より好ましくは、2〜5倍(モル)量で存在させる。
第1抗体は、抗体の種類にもよるが、生体試料中に含まれると考えられる遊離のトロポニンIに対して、過剰量で用いることが好ましい。より好ましくは、該トロポニンIに対して、2〜10倍(モル)量程度で用いることができる。
上記の「生体試料中に含まれると考えられる遊離のトロポニンI」は、心筋疾患を発症していると考えられるヒトに由来する生体試料に含まれ得るトロポニンIの量であればよく、通常、0.01〜200 ng/ml程度であることが知られている。
【0022】
次いで、上記のトロポニンIと、トロポニンCと、第1抗体との複合体を形成した第1抗体の標識物質を測定する。
このために、上記の複合体を形成した第1抗体を、複合体を形成していない第1抗体から分離する方法は、当業者に公知である。好ましくは、固相と、第1抗体が認識するエピトープとは異なるトロポニンIのエピトープを認識し且つ該固相に結合可能にされた第2抗体とを用いることにより、上記の複合体を分離する。例えば、固相が磁性粒子の場合、トロポニンIと、トロポニンCと、第1抗体と、第2抗体と、磁性粒子との複合体を形成させる。そして、この複合体を磁石により集積した状態で、洗浄する。また、例えば、固相がマイクロタイタープレートの場合、マイクロタイタープレート上に第2抗体を介して、トロポニンIと、トロポニンCと、第1抗体との複合体を結合させる。そして、この複合体が結合したマイクロタイタープレートを洗浄する。これらの操作により、固相に結合していない、複合体を形成していない第1抗体から、複合体を形成した第1抗体を分離することができる。これにより、複合体を形成していない第1抗体の標識物質による影響を抑え、複合体を形成した第1抗体の標識物質を正確に測定することができる。
【0023】
上記の固相は、当該技術において通常用いられるものを用いることができる。固相の材料としては、例えば、ラテックス、ゴム、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、スチレン−ブタジエン共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリアクリルアミド、ポリメタクリレート、スチレン−メタクリレート共重合体、ポリグリシジルメタクリレート、アクロレイン−エチレングリコールジメタクリレート共重合体、ポリビニリデンジフルオライド(PVDF)、シリコーンなどのポリマー材料;アガロース;ゼラチン;赤血球;シリカゲル、ガラス、不活性アルミナ、磁性体などの無機材料などが挙げられる。これらの1種又は2種以上を組み合わせてもよい。
また、固相の形状としては、マイクロタイタープレート、試験管、ビーズ、粒子、ナノ粒子などが挙げられる。粒子としては、磁性粒子、ポリスチレンラテックスのような疎水性粒子、粒子表面にアミノ基、カルボキシル基などの親水基を有する共重合ラテックス粒子、赤血球、ゼラチン粒子などが挙げられる。
【0024】
より好ましくは、固相は、磁性粒子である。
磁性粒子は、磁性を有する材料を基材として含む粒子である。このような磁性粒子は当該技術において公知であり、基材として例えばFe23及び/又はFe34、コバルト、ニッケル、フェライト、マグネタイトなどを用いたものが知られている。磁性粒子の表面へのタンパク質などの結合を目的として、基材の表面をポリマーなどで被覆したものなどがより好ましい。
【0025】
上記の第2抗体は、第1抗体が認識するエピトープとは異なるトロポニンIのエピトープを認識する。すなわち、第2抗体が認識するトロポニンIのエピトープは、配列番号1の41〜49番目のアミノ酸配列以外のエピトープである。
第1抗体が認識するエピトープとは異なるトロポニンIのエピトープは、従来公知である。第2抗体は、好ましくは、配列番号1の15〜25番目、16〜20番目、18〜28番目、23〜29番目、25〜40番目、26〜35番目、31〜34番目、56〜61番目、83〜93番目、85〜92番目、87〜91番目、88〜94番目、117〜126番目、122〜139番目、130〜145番目、143〜152番目、148〜158番目、169〜178番目、186〜192番目、又は190〜196番目のアミノ酸配列をエピトープとして認識する。
【0026】
上記の第2抗体も、第1抗体と同様に、上記のエピトープを認識するものであれば、抗体フラグメントであってもよい。
また、第2抗体も市販で入手可能な抗体を用いることができる。例えば、Hytest社から市販されている、23C6抗体、10B11抗体、M18抗体、4C2抗体、3C7抗体、228抗体、414抗体、560抗体、16A12抗体、8E10抗体、16A11抗体、84抗体、415抗体、M46抗体、581抗体、441抗体、625抗体、458抗体、596抗体、267抗体、C5抗体及びMF4抗体などが挙げられる。
【0027】
本発明の第1抗体及び第2抗体は、市販で入手可能な抗体を用いることができるが、従来公知の方法に従って作製することもできる。具体的には、これらの抗体は、それ自体公知の方法を用いて作製したハイブリドーマから得ることができる。すなわち、所望により適切なアジュバントと混合したトロポニンIで適切な哺乳動物(例えばマウス、ラットなど)を免疫する。そして、該動物の脾臓細胞、リンパ節細胞、Bリンパ球などの抗体産生細胞を、適切な哺乳動物(例えばマウス、ラットなど)由来の骨髄腫細胞と融合させることにより、ハイブリドーマを得ることができる。通常、抗体産生細胞と骨髄腫細胞は、同種の動物に由来する。
細胞融合は、例えば適切な培地中で抗体産生細胞と骨髄腫細胞とをポリエチレングリコールなどの存在下で融合させるPEG法などにより行うことができる。細胞融合後、HAT培地などの選択培地でハイブリドーマを選択し、ハイブリドーマのトロポニンIを認識する抗体を産生する能力について、常法(例えば酵素免疫測定法(EIA))に従ってスクリーニングを行う。次いで、適切な抗体を産生するハイブリドーマを常法(例えば限界希釈法)に従ってクローニングし、モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを選択する。
得られたモノクローナル抗体がトロポニンIのどのエピトープを認識するかは、常法(エピトープマッピング)により行うことができる。
【0028】
上記の第2抗体は、上記の固相に結合可能である。第2抗体を固相に結合可能にする様式としては、当該技術において公知の様式を用いることができる。好ましくは、第2抗体に固相結合部位を結合させ、固相に該固相結合部位に結合可能な結合物質を固定化し、該固相結合部位と結合物質との結合により、第2抗体が固相に結合可能となる。
【0029】
上記の固相結合部位と結合物質は、本発明の方法の反応条件下で特異的に結合できる物質の組み合わせであれば特に限定されない。これらの組み合わせは、例えばビオチンとアビジン類、ハプテンと抗ハプテン抗体、ニッケルとヒスチジンタグ、グルタチオンとグルタチオン−S−トランスフェラーゼなどが挙げられる。
ハプテンと抗ハプテン抗体としては、例えば、DNPと抗DNP抗体が挙げられる。好ましくは、ビオチンとアビジン類との組み合わせである。より好ましくは、固相結合部位がビオチンを含み、結合物質がアビジン類である。固相結合部位と結合物質との組み合わせの各々の物質は、どちらを第2抗体又は固相に結合させてもよく、特に限定されない。なお、本明細書において「アビジン類」は、アビジン及びストレプトアビジンを含むことを意味する。
【0030】
固相結合部位を第2抗体に結合させる方法は、当該技術において公知である。例えば、固相結合部位がビオチンを含む場合、例えば、抗体中のアミノ基やチオール基などと反応性を有する基を介してビオチンを抗体に結合させることができる。アミノ基と反応性を有する基としてはNHS基が挙げられ、チオール基と反応性を有する基としてはマレイミド基などが挙げられる。
【0031】
上記の結合物質を固相に固定化する方法は、当該技術において公知である。該固定化は、例えば物理的吸着法、共有結合法、イオン結合法、これらの組み合わせなどにより行うことができる。
結合物質がアビジン類である場合、例えば、物理的吸着によりアビジンを固相に直接固定化することができる。また、アビジン類と結合可能な物質、例えばビオチンが結合した固相にアビジン類を結合させる方法により、アビジン類を固相に固定化することができる。また、特開2006−226689号公報に記載の方法により、アビジン類を固相に固定化することも可能である。
また、アビジン類を結合させた固相は、例えばJSR株式会社やダイナルバイオテック社などから購入することもできる。
【0032】
上記の第2抗体を、トロポニンI、トロポニンC及び第1抗体と接触させる順序としては、特に限定されない。すなわち、第2抗体は、トロポニンIと、トロポニンCと、第1抗体との複合体が形成される前、又は形成された後にトロポニンIと接触し得る。
【0033】
すなわち、本発明の方法における好ましい反応順序は、次のものを含む。
(1)まず、トロポニンIを含む生体試料と、トロポニンCと、第2抗体とを接触させる。適切なインキュベーション時間、例えば1〜5分後に、固相を加える。インキュベーション後に固相を洗浄して、固相に結合していない成分を除去する。次いで、第1抗体を加える。適切なインキュベーション時間、例えば1〜5分の間に、固相表面に結合した第2抗体に結合したI/C複合体に第1抗体が結合し、トロポニンIと、トロポニンCと、第1抗体との複合体が形成される。そして、再度固相を洗浄して、固相に結合していない第1抗体を除去する。次に、該第1抗体の標識物質を測定する。
【0034】
(2)まず、トロポニンIを含む生体試料と、第2抗体とを接触させる。適切なインキュベーション時間、例えば1〜5分後に、固相を加える。適切なインキュベーション時間、例えば1〜5分後に固相を洗浄して、固相に結合していない成分を除去する。洗浄後、トロポニンC及び第1抗体を加える。適切なインキュベーション時間、例えば1〜5分の間に、固相表面に結合した第2抗体に結合したトロポニンIに、トロポニンC及び第1抗体が結合し、トロポニンIと、トロポニンCと、第1抗体との複合体が形成される。そして、再度固相を洗浄して、固相に結合していない第1抗体及びトロポニンCを除去する。次いで、該第1抗体の標識物質を測定する。
【0035】
(3)まず、トロポニンIを含む生体試料と、トロポニンCと、第1抗体とを接触させて、適切な時間、例えば1〜5分間インキュベーションする。この間に、トロポニンIと、トロポニンCと、第1抗体との複合体が形成される。次いで、固相及び第2抗体を混合する。適切なインキュベーション時間、例えば1〜5分の間に、固相と、第2抗体と、上記の複合体とが結合する。次いで、固相を洗浄して固相に結合していない成分を除去し、該第1抗体の標識物質を測定する。
【0036】
なお、固相及び第2抗体は、固相と第2抗体との複合体の状態で、上述の反応に用いることもできる。すなわち、
(4)まず、トロポニンIを含む生体試料と、トロポニンCと、固相と第2抗体との複合体とを接触させる。適切なインキュベーション時間、例えば1〜5分後に固相を洗浄して、固相に結合していない成分を除去する。次いで、第1抗体を加える。適切なインキュベーション時間、例えば1〜5分の間に、固相表面に結合した第2抗体に結合したI/C複合体に第1抗体が結合し、トロポニンIと、トロポニンCと、第1抗体との複合体が形成される。そして、再度固相を洗浄して、固相に結合していない第1抗体を除去する。次に、該第1抗体の標識物質を測定する。
【0037】
また、(5)まず、トロポニンIを含む生体試料と、固相と第2抗体との複合体とを接触させる。適切なインキュベーション時間、例えば1〜5分後に固相を洗浄して、固相に結合していない成分を除去する。洗浄後、トロポニンC及び第1抗体を加える。適切なインキュベーション時間、例えば1〜5分の間に、固相表面に結合した第2抗体に結合したトロポニンIに、トロポニンC及び第1抗体が結合し、トロポニンIと、トロポニンCと、第1抗体との複合体が形成される。そして、再度固相を洗浄して、固相に結合していない第1抗体及びトロポニンCを除去する。次いで、該第1抗体の標識物質を測定する。
【0038】
また、(6)まず、トロポニンIを含む生体試料と、トロポニンCと、第1抗体とを接触させて、適切な時間、例えば1〜5分間インキュベーションする。この間に、トロポニンIと、トロポニンCと、第1抗体との複合体が形成される。次いで、固相と第2抗体との複合体を混合する。適切なインキュベーション時間、例えば1〜5分の間に、固相と第2抗体との複合体、及びトロポニンIと、トロポニンCと、第1抗体との複合体とが結合する。次いで、固相を洗浄して固相に結合していない成分を除去し、該第1抗体の標識物質を測定する。
【0039】
さらに、上記の反応順序において、トロポニンIと、トロポニンCと、第1抗体と、第2抗体と、固相との複合体を形成し、固相を洗浄して固相に結合していない成分を除去した後に、再度第1抗体を混合することもできる。そして、適切なインキュベーション時間、例えば1〜5分後に固相を洗浄して、固相に結合していない第1抗体を除去する。これにより、固相上に存在する可能性がある、トロポニンIと、トロポニンCと、第2抗体と、固相との複合体に、第1抗体を結合させることが可能となる。結果として、より高感度に、生体試料に含まれるトロポニンIを測定することができる。なお、再度第1抗体を混合する際に、トロポニンCも混合することもできる。
【0040】
これらの反応は、トロポニンIと、トロポニンCと、第1抗体との複合体が形成され得る条件下で行うことができる。このような条件は、好ましくは、pH6〜10、30〜45℃の温度である。
【0041】
本発明の方法において、第2抗体の量は、用いる抗体の種類や、磁性粒子の種類及び量に応じて適宜設定することができる。より具体的には、第1抗体の量:第2抗体の量(重量比)は、1:1〜1:100であり、特に1:5〜1:20程度が好ましい。
【0042】
本発明の方法において、上記の標識物質を測定する方法は、当該技術において公知であり、標識物質の種類に応じて適宜選択できる。
例えば、標識物質が酵素である場合、該酵素に対する基質を用いて発色又は発光反応を行うことにより、標識物質を測定できる。例えば、酵素がアルカリホスファターゼである場合、基質としては、CDP−star(登録商標)(4−クロロ−3−(メトキシスピロ{1,2−ジオキセタン−3,2'−(5'−クロロ)トリシクロ[3.3.1.13,7]デカン}−4−イル)フェニルリン酸2ナトリウム)、CSPD(登録商標)(3−(4−メトキシスピロ{1,2−ジオキセタン−3,2−(5'−クロロ)トリシクロ[3.3.1.13,7]デカン}−4−イル)フェニルリン酸2ナトリウム)などの化学発光基質;p−ニトロフェニルホスフェート、5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−リン酸(BCIP)、4−ニトロブルーテトラゾリウムクロリド(NBT)、ヨードニトロテトラゾリウム(INT)などの発色基質を用いることができる。
これらの基質による発光又は発色を、ルミノメータ又は分光光度計により測定できる。
【0043】
本発明は、さらに、上記のトロポニンIの測定方法に用いることができる、トロポニンCと、第1抗体とを含む、トロポニンIの測定用試薬キットも提供する。
トロポニンCと、第1抗体とは、同じ試薬に含まれていてもよいし、別々の試薬に含まれていてもよい。より好ましくは、トロポニンCと第1抗体とは、同じ試薬に含まれている。
【0044】
上記の試薬キットは、上記の固相と、上記の第2抗体とをさらに含むことが好ましい。固相と第2抗体とは、同じ試薬に含まれていてもよいし、別々の試薬に含まれていてもよいが、好ましくは、別々の試薬に含まれている。また、固相及び第2抗体は、それぞれ、トロポニンC及び第1抗体のいずれか又は両方と同じ試薬中に含まれていてもよいし、別々の試薬に含まれていてもよい。
【0045】
また、固相及び第2抗体は、固相と第2抗体との複合体として、試薬に含まれていてもよい。この場合も、固相と第2抗体との複合体は、トロポニンC及び第1抗体のいずれか又は両方と同じ試薬中に含まれていてもよいし、別々の試薬に含まれていてもよい。
【0046】
より具体的には、上記の(1)の反応順序における試薬キットとしては、トロポニンCと、第2抗体とを含む第1試薬と、固相を含む第2試薬と、第1抗体を含む第3試薬とを含む試薬キットが挙げられる。
【0047】
また、上記の(2)の反応順序における試薬キットとしては、第2抗体を含む第1試薬と、固相を含む第2試薬と、トロポニンCと、第1抗体とを含む第3試薬とを含む試薬キットが挙げられる。
【0048】
また、上記の(3)の反応順序における試薬キットとしては、トロポニンCと、第1抗体とを含む第1試薬と、固相と、第2抗体とを含む第2試薬を含む試薬キットが挙げられる。
【0049】
また、上記の(4)の反応順序における試薬キットとしては、トロポニンCと、固相と第2抗体との複合体とを含む第1試薬と、第1抗体を含む第2試薬とを含む試薬キットが挙げられる。
【0050】
また、上記の(5)の反応順序における試薬キットとしては、固相と第2抗体との複合体とを含む第1試薬と、トロポニンCと、第1抗体とを含む第2試薬とを含む試薬キットが挙げられる。
【0051】
また、上記の(6)の反応順序における試薬キットとしては、トロポニンCと、第1抗体とを含む第1試薬と、固相と第2抗体との複合体を含む第2試薬を含む試薬キットが挙げられる。
【0052】
なお、上記の(1)〜(6)の反応順序において、トロポニンIと、トロポニンCと、第1抗体と、第2抗体と、固相との複合体を形成し、固相を洗浄して固相に結合していない成分を除去した後に、再度第1抗体を混合する場合、上記の試薬キットは、第1抗体を含む別試薬をさらに含むことができる。この別試薬は、トロポニンCをさらに含むことができる。
【0053】
本発明の試薬キットに含まれる各試薬は、液体であってもよいし、用時に水などを加えて用いるための固体であってもよい。
【0054】
液体の形態の試薬は、適切な溶媒中に、少なくとも上記の各成分を溶解したものであればよい。適切な溶媒としては、水、pH6〜10の緩衝液などが挙げられる。該緩衝液としては、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、トリエタノールアミン塩酸塩緩衝液(TEA)、トリス塩酸緩衝液(Tris−HCl)、2−モルホリノエタンスルホン酸(MES)などを用いることができる。該緩衝液は、界面活性剤、保存剤、血清タンパク質などの公知の添加剤を含んでいてもよい。
【0055】
上記の固体の形態の試薬は、上記の成分が溶解された適切な溶媒を、凍結乾燥などに付すことにより得ることができる。
【0056】
本発明の試薬キットの試薬に含まれるトロポニンC、第1抗体及び第2抗体の量は、生体試料に含まれると考えられる遊離のトロポニンIに対して、大過剰量であればよく、好ましくは、該トロポニンIに対して2〜10倍(モル)量である。
【実施例】
【0057】
以下の実施例により、本発明をより詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例により限定されるものではない。
実施例1
心臓型トロポニンCを生体試料に添加することによる、遊離型の心臓型トロポニンI及び心臓型トロポニンIと心臓型トロポニンCと心臓型トロポニンTの複合体(TnI-C-T複合体)における、心臓型トロポニンIの測定に対する効果を確認する実験を、以下の条件で行った。
【0058】
以下の手順において、抗体は、抗体緩衝液(pH 6.0、0.1M 2−モルホリノエタンスルホン酸(MES)、1mM MgCl2・6H2O、0.1mM ZnCl2、0.1%ウシ血清アルブミン、0.15M NaCl、0.1%サンアイバック(三愛石油社製))を用いて希釈した。
生体試料の代わりに、コンセーラ ニッスイ(日水製薬社製)に、心臓型トロポニンI(Fitzgerald社製) 1及び10 ng/ml、並びにTnI-C-T複合体(Hytest社製) 10 ng/mlをそれぞれ溶解したものを用いた。また、コントロールとして、心臓型トロポニンI及びTnI-C-T複合体のいずれも含まないものを用いた。
ここに、第1抗体として、アルカリホスファターゼ(ALP)活性を基準にして0.1U/ml のALP標識抗トロポニンIモノクローナル抗体(19C7抗体のIgG抗体;Hytest社製)及び100ng/mlの心臓型トロポニンC(Hytest社製)を含む混合液100μlを加え、37℃にて2.5分間インキュベートした。
【0059】
次いで、ストレプトアビジン磁性粒子(平均粒子径2μm、20 mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.5)中に10 mg/ml) 30μlを加え、42℃にて3.5分間反応させた。
第2抗体として、トロポニンIの87〜91番目のアミノ酸配列をエピトープとして認識するビオチン標識抗トロポニンIモノクローナル抗体(16A11抗体のFab'フラグメント、Hytest社製)を5μg/ml含む第2抗体溶液30μlを加え、42℃にて3.5分間インキュベートした。
【0060】
磁気分離を行って、固相に結合した第2抗体に結合したトロポニンIとトロポニンCと第1抗体との複合体を分離した。
洗浄液(0.01M MES、pH 6.5、0.1%アジ化ナトリウム) 100〜700μlを加えて撹拌し、磁気分離を行った。この洗浄操作を、計4回行った。
【0061】
分散液(0.01M MES、pH 6.5、0.1%アジ化ナトリウム) 50μlを加えて撹拌し、固相を分散させた。
発光基質液(CDP-Star、Applied Biosystems社製) 100μlを加えて撹拌し、42℃にて5分間反応させ、ルミノメータで発光強度を測定した。得られた発光強度のカウントを、表1に示す。
【0062】
比較例1
実施例1において、トロポニンCを加えずに実施例1と同じ手順を繰り返して、発光強度を測定した。得られた発光強度のカウントを、表1に示す。
【0063】
なお、表1における上昇率は、心臓型トロポニンCを添加した場合の特異的発光強度のカウントを、心臓型トロポニンCを添加しない場合の特異的発光強度のカウントで除した値を示す。
【0064】
【表1】

【0065】
表1の結果から、トロポニンCの存在下で、トロポニンIを第1抗体と接触させる本発明の方法によると、トロポニンCの非存在下で測定する場合に比較して、発光強度のカウントが、遊離型の心臓型トロポニンIで約10倍、TnI-C-T複合体で約2倍上昇したことがわかる。ここで、TnI-C-T複合体の発光強度のカウントが上昇した理由は、トロポニンCの添加により、TnI-C-T複合体に含まれるトロポニンIが遊離型の心臓型トロポニンIとなった場合でも、すぐにトロポニンCと複合体を形成することが可能となったためと考えられる。
【0066】
実施例2
固相に結合する第2抗体の違いによる、心臓型トロポニンIの測定に対する影響を確認する実験を、以下の条件で行った。
【0067】
第2抗体である、ビオチン標識抗トロポニンIモノクローナル抗体として、16A11抗体のFab'フラグメントの代わりに
(1)560抗体のIgG抗体(5μg/ml)
(2)M18抗体のIgG抗体(5μg/ml)
(3)MF4抗体のIgG抗体(5μg/ml)
を用いた。なお、560抗体は、トロポニンIの83〜93番目のアミノ酸配列を、M18抗体は、18〜28番目のアミノ酸配列を、MF4抗体は、190〜196番目のアミノ酸配列を、それぞれエピトープとして認識する。
【0068】
上記の第2抗体を用いた以外は、実施例1と同様の操作で得られた結果を表2に示す。なお、表2における上昇率は、心臓型トロポニンCを添加した場合の特異的発光強度のカウントを、心臓型トロポニンCを添加しない場合の発光強度のカウントで除した値を示す。
【0069】
【表2】

【0070】
表2から、第2抗体は、第1抗体がエピトープとして認識する41〜49番目のアミノ酸配列とは異なるエピトープを認識する抗体であれば、16A11抗体に限らず利用できることが分かる。また、第2抗体として、Fab'フラグメントに限らず、IgG抗体も利用できることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体試料に由来するトロポニンIを、トロポニンCの存在下で、該トロポニンIの41〜49番目のアミノ酸配列をエピトープとして認識し且つ標識物質で標識された第1抗体と接触させて、前記トロポニンIと、前記トロポニンCと、前記第1抗体との複合体を形成させ、
前記複合体を形成した第1抗体の標識物質を測定する
ことを含む、トロポニンIを測定する方法。
【請求項2】
第1抗体が、19C7抗体である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
複合体の形成が、固相と、第1抗体が認識するエピトープとは異なるトロポニンIのエピトープを認識し且つ前記固相に結合可能な第2抗体とをさらに用いることにより、トロポニンIと、トロポニンCと、第1抗体と、第2抗体と、固相との複合体を形成させる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
第2抗体が、配列番号1の15〜25番目、16〜20番目、18〜28番目、23〜29番目、25〜40番目、26〜35番目、56〜61番目、83〜93番目、85〜92番目、87〜91番目、117〜126番目、122〜139番目、130〜145番目、143〜152番目、148〜158番目、169〜178番目、186〜192番目、又は190〜196番目のアミノ酸配列をエピトープとして認識する請求項3に記載の方法。
【請求項5】
トロポニンIと、トロポニンCと、第1抗体との複合体が形成される前、又は形成された後に、第2抗体をトロポニンIと接触させる請求項3又は4に記載の方法。
【請求項6】
標識物質が、酵素である請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
トロポニンCと、
配列番号1で表されるトロポニンIの41〜49番目のアミノ酸配列をエピトープとして認識し且つ標識物質で標識された第1抗体と
を含む、トロポニンIの測定用試薬キット。
【請求項8】
固相と、
第1抗体が認識するエピトープとは異なるトロポニンIのエピトープを認識し且つ前記固相に結合可能にされた第2抗体と
をさらに含む、請求項7に記載のキット。

【公開番号】特開2010−107363(P2010−107363A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−279817(P2008−279817)
【出願日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【出願人】(390014960)シスメックス株式会社 (810)
【Fターム(参考)】