説明

ドアクローザ

【課題】 作動油を封入した油圧式のドアクローザに係るものであって、特に扉の回動区間に自動開扉区間、自動閉扉区間及び回動自在区間を備えた安全性、耐久性に優れるドアクローザを提供する。
【解決手段】 シリンダ室内に作動油を充填し、ピストンを摺動自在に収容し、ピストンにて圧縮されて扉を自動閉扉する圧縮ばねを収容し、扉の回動に連動する回動軸を設け、シリンダ室とピストンに作用油の作動油通路を設け、ピストン内にラック歯が設置され、ラック歯と対応するよう回動軸にピニオン歯が設置され、回動軸とピストンとが歯合してピストンがシリンダ室内で摺動するドアクローザにおいて、扉の回動区間内に、ピストンを摺動させ、圧縮ばねの付勢力を蓄積させる第1制動区間と、圧縮ばねの付勢力が抑制されピストンが所定位置で静止する回動自在区間と、蓄積された圧縮ばねの付勢力でピストンが摺動する第2制動区間とを備えることを特徴とするドアクローザ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作動油を封入した油圧式のドアクローザに係るものであって、特に安全性、耐久性に優れるドアクローザに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、扉の開閉角度に一致するラック歯とラック歯に対応するよう回動軸に設けられるピニオン歯とが歯合してピストンを摺動させ、ピストンによって圧縮ばねを圧縮し、蓄積された付勢力にて扉を自動閉扉する油圧式のドアクローザが公知である。
【0003】
また、当該構成のドアクローザであって、ピニオン歯の一部に欠歯部を設けたドアクローザにおいては、扉が所定の角度に開かれると、欠歯部の回動位置でピニオン歯はラック歯から離れ、回動軸が空転するようになる。これにより、油圧と付勢力が扉に伝達されず、扉を任意の位置に回動自在又は停止させることができるものである。一方、ピニオン歯とラック歯が歯合する回動位置では蓄積された付勢力により自動閉扉することができるものである(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実公平5−33657号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に係る発明では、欠歯部の回動位置で扉は回動自在とされるが、扉を勢いよく開いた際には、壁と衝突し騒音が発生したり、回動の余勢によって扉が跳ね返ってきたりすることもあり、安全性、耐久性を考慮したものではなかった。
【0006】
また、ピニオン歯とラック歯が歯合する回動位置においては、勢いよく開く扉と壁との衝突を回避する為、作動油の流量を調節することにより、回動角度を規制できるものである。しかし、当該規制した角度までは勢いよく回動する為、同様にして安全性に優れたものではなかった。
【0007】
そこで、作動油を封入した油圧式のドアクローザに係るものであって、特に扉の回動区間に自動開扉区間、自動閉扉区間及び回動自在区間を備えた安全性、耐久性に優れるドアクローザを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記問題点を解決するために、本発明の請求項1に記載のドアクローザは、ドアクローザ本体に形成されたシリンダ室内に作動油を充填し、ピストンを摺動自在に収容するとともに、前記ピストンによって圧縮されて扉を自動閉扉する圧縮ばねを収容し、前記扉と連結されて、前記扉の回動に連動して回動する回動軸を設け、前記シリンダ室と前記ピストンの所定位置に前記扉が開閉する際に前記作用油が通過する作動油通路を設け、前記ピストン内に前記扉の開閉角度に一致してラック歯が設置され、前記ラック歯と対応するよう前記回動軸にピニオン歯が設置され、前記回動軸の回動により、前記回動軸と前記ピストンとが歯合して前記ピストンが前記シリンダ室内で摺動するドアクローザにおいて、前記扉の回動区間内に、前記ピストンを摺動させ、前記圧縮ばねの付勢力を蓄積させる第1制動区間と、前記蓄積された圧縮ばねの付勢が抑制され前記ピストンが所定位置で静止する回動自在区間と、前記蓄積された圧縮ばねの付勢力で前記ピストンが摺動する第2制動区間とを備えるものである。
【0009】
また、本発明の請求項2に記載のドアクローザは、請求項1に記載のドアクローザにおいて、前記回動軸は第1ピニオン歯と第2ピニオン歯とを備え、前記ラック歯は第1ラック歯と第2ラック歯とを備え、前記第1ラック歯と前記第2ラック歯は対向するよう前記ピストン内壁に形成され、前記第1制動区間では、前記第1ピニオン歯が前記第1ラック歯に歯合して前記ピストンを摺動させ、前記圧縮ばねの付勢力を蓄積させ、前記回動自在区間では、前記第1ピニオン歯と前記第2ピニオン歯の少なくともいずれか一方が前記ラック歯と歯合しない状態で当接して、前記蓄積された圧縮ばねの付勢が抑制され、前記ピストンが所定位置で静止し、前記第2制動区間では、前記当接状態が解除され、前記蓄積された圧縮ばねの付勢力で前記ピストンが摺動し、前記第2ラック歯が前記第2ピニオン歯に歯合するものである。
【0010】
また、本発明の請求項3に記載のドアクローザは、請求項2に記載のドアクローザにおいて、前記回動自在区間において、前記第1ピニオン歯と前記第2ピニオン歯における歯先円直径の軌跡上に前記第1ラック歯と前記第2ラック歯の逃げ面が位置し、前記ピニオン歯の歯先と前記逃げ面が当接するものである。
【0011】
また、本発明の請求項4に記載のドアクローザは、請求項2又は請求項3に記載のドアクローザにおいて、前記ラック歯より前記蓄積された圧縮ばねの付勢方向側の前記ピストン内壁に、ピニオン歯と当接する当接壁を備えるものである。
【0012】
また、本発明の請求項5に記載のドアクローザは、請求項2乃至請求項4のいずれか1項に記載のドアクローザにおいて、前記第1ピニオン歯と前記第2ピニオン歯との間における回動軸の周面に補助ピニオン歯を備えるものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明のドアクローザでは、扉を開扉させる際において、第1制動区間内では扉の回動に伴い、圧縮ばねの付勢力が蓄積される。これにより、扉に回動力が付与されなくなると、圧縮ばねの付勢力にてピストンが摺動し、回動軸が反転することで扉を自動閉扉させることができる。
【0014】
また、回動自在区間では、蓄積された圧縮ばねによる付勢が抑制されており、扉の回動にかかわらずピストンが所定位置で静止している。これにより、扉をその開き位置で停止保持させることができる。すなわち、当該区間では、扉の回動を自在に行うことができる。
【0015】
更に、第2制動区間では、蓄積された圧縮ばねによる付勢が抑制されないので、第1制動区間内で蓄積された圧縮ばねの付勢力がピストンを摺動させる。これにより、扉に回動力が付与されなくても、圧縮ばねの付勢力にてピストンが摺動し、回動軸が回動することで扉を自動開扉させることができる。
【0016】
このようにして、扉が開扉する過程に自動閉扉となる第1制動区間、回動自在となる回動自在区間、及び自動開扉となる第2制動区間を順番に備えるので、安全性に優れる。また、扉は第1制動区間又は第2制動区間を備えるので、壁等との衝突による開閉時の騒音をなくすことができる。更に、第1制動区間又は第2制動区間において、扉の閉扉又は開扉後であって、圧縮ばねの付勢力が蓄積されない状態では、扉の回動を保持することができる。また、回動自在区間においては、扉を任意の開き位置で停止させることができるとともに、僅かな回動力を付与することで扉を回動させることができるので、子供、高齢者等が安心して通過することができる。
【0017】
また、圧縮ばねにおける付勢力の蓄積は、第1制動区間又は第2制動区間で行われる為、圧縮ばねの小型化を図ることができる。これにより、圧縮ばねの収納スペースを小さくすることができ、ドアクローザ本体の小型化及び軽量化を図ることができる。
【0018】
圧縮ばねの付勢力によりピストンが付勢方向へ押圧され、ラック歯により回動軸は回動される。しかし、ラック歯より圧縮ばねの付勢方向側に位置する当接壁とピニオン歯が当接するので、回動軸は空転することはない。これにより、扉の開扉状態から閉扉させる際においても、ピニオン歯とラック歯を確実に歯合させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施例におけるドアクローザを上枠及びドアに取り付けた状態の正面図である。
【図2】本発明の実施例におけるドアクローザのドアクローザ本体の中央縦断面図である。
【図3】本発明の実施例におけるドアクローザの図1のA−A断面図である。
【図4】本発明の実施例におけるドアクローザを設置した扉の開扉前の説明断面図である。
【図5】本発明の実施例におけるドアクローザを設置した扉の第1制動区間から回動自在区間までの説明断面図である。
【図6】本発明の実施例におけるドアクローザを設置した扉の回動自在区間の説明断面図である。
【図7】本発明の実施例におけるドアクローザを設置した扉の回動自在区間から第2制動区間までの説明断面図である。
【図8】本発明の実施例におけるドアクローザを設置した扉の開扉後の説明断面図である。
【図9】本発明の実施例におけるドアクローザを設置した扉の回動角度を示す説明図である。
【図10】本発明の他の実施例におけるドアクローザのドアクローザ本体の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施の形態におけるドアクローザは、作動油を封入した油圧式のドアクローザである。本発明に係る形態においては、扉の左側端部にドアクローザを設置する場合について説明するが、仕様により扉の右側端部に設置することができるのは勿論である。扉の左右方向をドアクローザ本体の長手方向とし、扉の厚み方向をドアクローザ本体の幅方向とする。また、扉の上下方向をドアクローザ本体の上下方向とする。以下、本発明の実施例におけるドアクローザを図面に基づいて説明する。
【実施例】
【0021】
本発明に係るドアクローザ1の全体構成を図1から図3に示す。図1は、本発明の実施例におけるドアクローザを上枠及びドアに取り付けた状態の正面図である。図2は、本発明の実施例におけるドアクローザのドアクローザ本体の中央縦断面図である。図3は、本発明の実施例におけるドアクローザの図1のA−A断面図である。
【0022】
ドアクローザ1は、図1に示すように、扉Dに設置されるドアクローザ本体2、上枠D1へ取り付ける為のブラケット3、ドアクローザ本体2とブラケット3を連結する2本のアームによって構成される。第1アーム4は、一端がピン6にてブラケット2と回動自在に連結され、他端はピン7にて第2アーム5と回動自在に連結される。第2アーム5は、一端がピン7にて支持され、他端はドアクローザ本体2に連結される。
【0023】
図2及び図3に示すように、ドアクローザ本体2の内部には、長手方向に沿ってシリンダ室8が形成される。シリンダ室8は、ドアクローザ本体2を貫通するように形成される。シリンダ室8には作動油Wが封入され、シリンダ室8の両端には作動油Wが漏洩しないように横蓋9が設置される。
【0024】
ドアクローザ本体2の上下方向には、シリンダ室8を貫通する回動軸10が設置される。回動軸10は、扉Dの回動力をドアクローザ本体2内部のピストン13に伝達する部材である。回動軸10の上端部は、ドアクローザ本体2から突出した状態で第2アーム5に連結される。一方、回動軸10の下端部は、ドアクローザ本体2内部に収納される。ドアクローザ本体2の上端面には、回動軸10を支持する上蓋11が設置され、作動油Wが漏洩するのを防止している。
【0025】
回動軸10の周面には、ピニオン歯が形成される。ピニオン歯は、第1ピニオン歯10a、第2ピニオン歯10b及び補助ピニオン歯10cとから構成される。当該ピニオン歯以外の回動軸10の周面は、欠歯部とされる。
【0026】
第1ピニオン歯10aと第2ピニオン歯10bは、所定の弦歯厚を有してなり、略同形状に形成される。補助ピニオン歯10cは、第1ピニオン歯10aと第2ピニオン歯10bの間の周面に形成される。補助ピニオン歯10cは、第1ピニオン歯10aと第2ピニオン歯10bの弦歯厚よりも小さい弦歯厚で形成される。
【0027】
シリンダ室8内には、圧縮ばね12とピストン13が収容される。圧縮ばね12とピストン13は、両端に設置される横蓋9の間に収納される。このとき、圧縮ばね12は付勢力を蓄積させた状態で収納される。これにより、ピストン13の一端は、圧縮ばね12の付勢力にて横蓋9と当接した状態となる。
【0028】
ピストン13の内部には、収納部13aが形成される。収納部13aには、回動軸10が収納される。収納部13aの内壁には、回動軸10のピニオン歯が当接しないように切欠部13bが形成される。切欠部13bは、ドアクローザ本体2の幅方向であって、収納部13aから連設するようにして形成される。収納部13aと切欠部13bとの境界は、所定状態にて回動軸10のピニオン歯が当接可能な当接壁13fとされる。
【0029】
切欠部13bが形成される内壁の一部には、回動軸10のピニオン歯と歯合するラック歯が形成される。ラック歯は、第1ラック歯13cと第2ラック歯13dとから構成される。第1ラック歯13cと第2ラック歯13dは、ドアクローザ本体2の幅方向において、夫々が対向するようにしてピストン13の内壁に形成される。また、ラック歯の先端部には、ピニオン歯の歯先と摺動可能となる逃げ面13eが形成される。
【0030】
ドアクローザ本体2の長手方向におけるピストン13の両端部には、当該両端部から収納部13aへと連通する作動油Wの作動油通路13g、13hが形成される。圧縮ばね12と当接する側のピストン13の端部には、作動油通路13gが形成される。一方、横蓋9と当接する側のピストン13の端部には、作動油通路13hが形成される。また、作動油通路13h側のピストン13の端部には、突部13iが形成される。作動油通路13hと突部13iの間には、作動油通路13hを塞ぐことのできる球状の弁体14が離着自在に設けられる。
【0031】
ドアクローザ本体2の側面には、ドアクローザ本体2の長手方向に沿うようにして挿通孔2aが設けられ、調節バルブ15が挿通される。挿通孔2aの先端部には、シリンダ室8へと連通する作動油通路2bが形成される。挿通孔2aの中央部には、シリンダ室8へと連通する作動油通路2cが形成される。調節バルブ15により作動油Wの流量を調節し、扉Dの開閉速度を調節することができる。
【0032】
このようにして構成されるドアクローザ1は、図4から図9に示すようにして作動する。図4は、本発明の実施例におけるドアクローザを設置した扉の開扉前の説明断面図である。図5は、本発明の実施例におけるドアクローザを設置した扉の第1制動区間から回動自在区間までの説明断面図である。図6は、本発明の実施例におけるドアクローザを設置した扉の回動自在区間の説明断面図である。図7は、本発明の実施例におけるドアクローザを設置した扉の回動自在区間から第2制動区間までの説明断面図である。図8は、本発明の実施例におけるドアクローザを設置した扉の開扉後の説明断面図である。図9は、本発明の実施例におけるドアクローザを設置した扉の回動角度を示す説明図である。
【0033】
図4に示すように、扉Dの開扉前においては、圧縮ばね12の付勢力にてピストン13は押圧され、横蓋9と当接した状態となる。当該状態において、第1ラック歯13cは、回動軸10の第1ピニオン歯10a及び補助ピニオン歯10cの間に位置し、ピニオン歯とラック歯は歯合した状態となる。
【0034】
その後、扉Dが開扉されると、回動軸10が時計回りに回動する。これにより、第1ピニオン歯10aが第1ラック歯13cを押圧し、圧縮ばね12の付勢力を蓄積させる方向へピストン13が摺動される。ピストン13が摺動されると、弁体14が作動油通路13hを開き、弁体14は作動油Wの流れによって突部13i側へと移動する。
【0035】
第1ピニオン歯10aが第1ラック歯13cを押圧する状態は、図9に示す扉Dの第1制動区間Pとされる。第1制動区間Pにおいて、扉Dに回動力が付与されなくなると、蓄積された付勢力にて圧縮ばね12はピストン13を付勢方向へ押圧する。これにより、第1ラック歯13cは第1ピニオン歯10aを押圧して、回動軸10を反時計回りに回動させる。これに伴い、作動油Wの流れによって弁体14が作動油通路13hを塞ぎ、弁体14側の作動油Wは図2に示す作動油通路2cから挿通孔2a、作動油通路2bを通り、シリンダ室8へと戻される。扉Dは、調節バルブ15により閉じ速度が調節された状態で閉扉される。すなわち、第1制動区間Pでは、ドアクローザ1は自動閉扉する。
【0036】
第1制動区間Pから扉Dが開扉されると、図5に示すように、第1ピニオン歯10aと第1ラック歯13cの歯合状態が解除される。当該状態において、第1ラック歯13cの逃げ面13eは、第1ピニオン歯10aの歯先円直径の軌跡上に位置するとともに、回動軸10を回動中心とする歯先円直径と同寸法の円弧によって形成されているので、第1ピニオン歯10aは逃げ面13eに対して摺動可能となる。
【0037】
同様にして、第2ラック歯13dの逃げ面13eも第2ピニオン歯10bの歯先円直径の軌跡上に位置するとともに、回動軸10を回動中心とする歯先円直径と同寸法の円弧によって形成されている。これにより、更に扉Dが開扉されると、図6に示すように、第2ピニオン歯10bが第2ラック歯13dの逃げ面13eに対しても摺動可能な状態となる。
【0038】
ピニオン歯の歯先とラック歯の逃げ面が摺動する状態は、図9に示す扉Dの回動自在区間Qとされる。回動自在区間Qにおいて、扉Dに回動力が付与されなくなると、蓄積された付勢力にて圧縮ばね12は、ピストン13を付勢方向へ押圧する。しかし、ピニオン歯の歯先とラック歯の逃げ面が当接した状態となるので、圧縮ばね12の付勢力が抑制され、ピストン13は摺動することなく所定位置で静止する。これにより、回動軸10は、ピストン13によって回動することはない。すなわち、回動自在区間Qでは、扉Dを自在に開閉させることができるとともに、当該回動位置で扉Dを停止保持させることができる。
【0039】
回動自在区間Qにおいては、第1ピニオン歯10aと第2ピニオン歯10bの少なくともいずれか一方が摺動可能な状態であってもよいし、第1ピニオン歯10aと第2ピニオン歯10bの双方が摺動可能な状態であってもよい。すなわち、ピニオン歯の歯先とラック歯の逃げ面が当接して、蓄積された圧縮ばね12の付勢力によっても、ピストン13が静止した状態にあればよい趣旨である。
【0040】
回動自在区間Qから扉Dが開扉されると、回動軸10の回動により、図7に示すように、第2ピニオン歯10bの歯先と第2ラック歯13dの逃げ面13eの摺動状態が解除される。その後、図8に示すように、第2ラック歯13dは、回動軸10の第2ピニオン歯10b及び補助ピニオン歯10cの間に位置し、ピニオン歯とラック歯は歯合した状態となる。これにより、圧縮ばね12の付勢力は抑制されなくなる。結果として、蓄積された付勢力にて圧縮ばね12はピストン13を付勢方向へ押圧するとともに、第2ラック歯13dが第2ピニオン歯10bを押圧する。扉Dは開扉された状態となる。
【0041】
第2ラック歯13dが第2ピニオン歯10bを押圧する状態は、図9に示す扉Dの第2制動区間Rとされる。第2制動区間Rにおいて、扉Dに回動力が付与されなくなると、蓄積された付勢力にて圧縮ばね12はピストン13を付勢方向へ押圧する。これにより、第2ラック歯13dは第2ピニオン歯10bを押圧し、回動軸10を時計回りに回動させる。これに伴い、作動油Wの流れによって弁体14が作動油通路13hを塞ぎ、弁体14側の作動油Wは図2に示す作動油通路2cから挿通孔2a、作動油通路2bを通り、シリンダ室8へと戻される。扉Dは、調節バルブ15により開き速度が調節された状態で開扉される。作動油Wが調節された状態で扉Dは開扉される。すなわち、第2制動区間Rでは、ドアクローザ1は自動開扉する。
【0042】
第2制動区間Rにおいて、圧縮ばね12の付勢力によりピストン13が付勢方向へ押圧され、第2ラック歯13dは回動軸10を回動させる。蓄積された圧縮ばね12の付勢力が残存している場合には、第2制動区間Rの回動後においても回動軸10は回動されることになる。しかし、第2ピニオン歯10bは、切欠部13bの当接壁13fと当接するので、回動軸10は空転することはない。これにより、扉Dの開扉状態から閉扉させる際においても、ピニオン歯とラック歯は確実に歯合される。扉Dを閉扉する場合は、ドアクローザ1は上記と逆に作動するので、その説明は省略する。
【0043】
本発明に係るドアクローザ1においては、例えば第1制動区間Pは扉Dの回動角度0度から20度、回動自在区間Qは扉Dの回動角度20度から70度、第2制動区間Rは扉Dの回動角度70度から90度とされる。各区間の回動角度は、ピニオン歯の形状によって、適宜変更することができる。
【0044】
本発明に係るドアクローザ1の回動軸10のピニオン歯は、次に示すように変更することもできる。図10は、本発明の他の実施例におけるドアクローザのドアクローザ本体の断面図である。図10に示すように、補助ピニオン歯を設けなくてもよい。
【0045】
上記実施例では、補助ピニオン歯を設けることで、第1制動区間Pから回動自在区間Qへの切換角度、回動自在区間Qから第2制動区間Rへの切換角度、これらの角度を調節することができる。
【0046】
以上、説明した本発明に係るドアクローザ1によれば、扉Dの回動区間であって、開扉される過程に自動開扉となる第1制動区間P、回動自在となる回動自在区間Q、及び自動閉扉となる第2制動区間Rを順番に備えるので、安全性、耐久性に優れたものとすることができる。
【符号の説明】
【0047】
1 ドアクローザ
2 ドアクローザ本体
2a 挿通孔
2b、2c 作動油通路
3 ブラケット
4 第1アーム
5 第2アーム
6、7 ピン
8 シリンダ室
9 横蓋
10 回動軸
10a 第1ピニオン歯
10b 第2ピニオン歯
10c 補助ピニオン歯
11 上蓋
12 圧縮ばね
13 ピストン
13a 収納部
13b 切欠部
13c 第1ラック歯
13d 第2ラック歯
13e 逃げ面
13f 当接壁
13g、13h 作動油通路
13i 突部
14 弁体
15 調節バルブ
D 扉
D1 上枠
W 作動油

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドアクローザ本体に形成されたシリンダ室内に作動油を充填し、ピストンを摺動自在に収容するとともに、
前記ピストンによって圧縮されて扉を自動閉扉する圧縮ばねを収容し、
前記扉と連結されて、前記扉の回動に連動して回動する回動軸を設け、
前記シリンダ室と前記ピストンの所定位置に前記扉が開閉する際に前記作用油が通過する作動油通路を設け、
前記ピストン内に前記扉の開閉角度に一致してラック歯が設置され、
前記ラック歯と対応するよう前記回動軸にピニオン歯が設置され、
前記回動軸の回動により、前記回動軸と前記ピストンとが歯合して前記ピストンが前記シリンダ室内で摺動するドアクローザにおいて、
前記扉の回動区間内に、
前記ピストンを摺動させ、前記圧縮ばねの付勢力を蓄積させる第1制動区間と、
前記蓄積された圧縮ばねの付勢力が抑制され前記ピストンが所定位置で静止する回動自在区間と、
前記蓄積された圧縮ばねの付勢力で前記ピストンが摺動する第2制動区間と、
を備えることを特徴とするドアクローザ。
【請求項2】
前記回動軸は第1ピニオン歯と第2ピニオン歯とを備え、
前記ラック歯は第1ラック歯と第2ラック歯とを備え、
前記第1ラック歯と前記第2ラック歯は対向するよう前記ピストン内壁に形成され、
前記第1制動区間では、前記第1ピニオン歯が前記第1ラック歯に歯合して前記ピストンを摺動させ、前記圧縮ばねの付勢力を蓄積させ、
前記回動自在区間では、前記第1ピニオン歯と前記第2ピニオン歯の少なくともいずれか一方が前記ラック歯と歯合しない状態で当接して、前記蓄積された圧縮ばねの付勢力が抑制され、前記ピストンが所定位置で静止し、
前記第2制動区間では、前記当接状態が解除され、前記蓄積された圧縮ばねの付勢力で前記ピストンが摺動し、前記第2ラック歯が前記第2ピニオン歯に歯合する請求項1に記載のドアクローザ。
【請求項3】
前記回動自在区間において、前記第1ピニオン歯と前記第2ピニオン歯における歯先円直径の軌跡上に前記第1ラック歯と前記第2ラック歯の逃げ面が位置し、前記ピニオン歯の歯先と前記逃げ面が当接する請求項2に記載のドアクローザ。
【請求項4】
前記ラック歯より前記蓄積された圧縮ばねの付勢方向側の前記ピストン内壁に、ピニオン歯と当接する当接壁を備える請求項2又は請求項3に記載のドアクローザ。
【請求項5】
前記第1ピニオン歯と前記第2ピニオン歯との間における回動軸の周面に補助ピニオン歯を備える請求項2乃至請求項4のいずれか1項に記載のドアクローザ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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