説明

ドラムのワイヤロープ乱巻防止装置

【課題】 簡単な構成でドラムの巻付面の径の変化に対して押さえローラ間の距離を変化させることを可能とし、ワイヤロープに張力の変動があっても常に正常に巻き取りを行うことができるようにする。
【解決手段】 ドラム支持部材を取付けているフレーム11に設けた支持ブラケット4と、回転自在な押えローラ22を有し、支持ブラケット4に回動自在に枢支された第1支持アーム2と、回転自在な押えローラ33を有し、第1支持アーム2に対し回動自在に枢支された第2支持アーム3と、押えローラ22、33がワイヤロープ9をドラム8側へ押圧するよう第1支持アーム2及び第2支持アーム3を付勢するスプリング5とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クレーン等におけるウインチのドラムのワイヤロープ乱巻防止装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
クレーン等のウインチでワイヤロープを巻き上げるときには、ワイヤロープをドラムに順序正しく巻き付ける必要がある。
正常な状態では、ワイヤロープはドラムに層状に巻き付けられ、下層の隣接するワイヤロープ間に形成される谷部に収まるように、その上層のワイヤロープが順次巻き付けられて行く。
【0003】
ところが、巻き上げの際に何らかの原因でワイヤロープの張力が一瞬緩められる現象が発生すると、ドラムに巻き付けられるワイヤロープの谷部にずれが生じ、そのずれた部分に上層側で巻き付けられるワイヤロープが食い込んだり、あるいは本来巻き付けられる谷部から外れたりすることによって、正常な巻き付けが行われず乱巻が発生する。乱巻が発生するとワイヤロープの素線切れが生じる。
【0004】
このような事態を防止するため、ウインチのドラムの巻付面に接近する方向へばねで付勢された一個の押えローラを設け、この押えローラでワイヤロープをドラムの巻付面へ押し付けることで乱巻を防止する乱巻防止装置が提案されている(特許文献1参照)。
しかし、この乱巻防止装置は、押えローラが一個しか設けられていないので、十分な乱巻防止効果を発揮することができない。
【0005】
即ち、ワイヤロープに作用する張力に変化が生じて緩みが起こると、それによって生じるワイヤロープの弛みがドラムの幅方向に発生する。
押えローラが一個だけでは、これを抑えることができず、ワイヤロープが下層の谷部に収まらないで浮き上がり、ずれた状態で巻き取られるのを阻止できない。
従って、その上層に巻き取られるワイヤロープは、正常でないずれた部分に食い込んで乱巻が発生する。
そこで、複数の押えローラを支持体で支持し、支持体を付勢手段で巻付面の方向に押すことにより、押えローラでワイヤロープを押し付けて浮き上がりを防止するようにした乱巻防止装置が提案されている(特許文献2参照)。
【0006】
この乱巻防止装置は、二個の押えローラでワイヤロープを押し、ワイヤロープに作用する張力に変化が生じても、ワイヤロープの繰り出し側から遠い位置にある押えローラが常時ワイヤロープを巻付面に押し付けて浮き上がりを防止するので、押えローラが一個のものに比べれば乱巻防止効果は大きくなる。このワイヤロープの浮き上がり防止の効果は、一方の押えローラと他方の押えローラとの間の距離が十分大きく、ドラム軸と各押えローラの軸とを結ぶ線の夾角が広角である方が大きい。
【0007】
しかしながら、この乱巻防止装置では、二個の押えローラが一つの支持部材に設けられているため、一方の押えローラと他方の押えローラとの間の距離が支持部材の長さで限定され一定となっている。
ドラムへのワイヤロープの巻層数が増加すると、巻付面の径が大きくなる。このため、一方の押えローラと他方の押えローラとの間の距離が一定であれば、ワイヤロープの巻層数が増加するにつれてドラム軸と各押えローラの軸とを結ぶ線の夾角が狭角となり、ワイヤロープの浮き上がり防止の効果が低下する。
【0008】
ワイヤロープの巻層数が最多の状態におけるドラムの巻付面の径に合わせて一方の押えローラと他方の押えローラとの間の距離を大きく設定すれば、ワイヤロープの巻層数が最多の状態に対応できるが、その場合支持部材の長さを長くしなければならず、装置が大型化する。また、巻層数が減少すると押えローラでワイヤロープを適切に押し付けることができなくなる。
【特許文献1】特開昭64−34896号公報
【特許文献2】特開2003−12279号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、ワイヤロープ乱巻防止装置についての上記問題を解決するものであって、簡単な構成でドラムの巻付面の径の変化に対して押さえローラ間の距離を変化させることを可能とし、ワイヤロープに張力の変動があっても常に正常に巻き取りを行うことができるようにするドラムのワイヤロープ乱巻防止装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のドラムのワイヤロープ乱巻防止装置は、ドラム支持部材又はドラム支持部材を取付けているフレームに設けた支持ブラケットと、回転自在な押えローラを有し、支持ブラケットに回動自在に枢支された第1支持アームと、回転自在な押えローラを有し、第1支持アームに対し回動自在に枢支された第2支持アームと、押えローラがワイヤロープをドラム側へ押圧するよう第1支持アーム及び第2支持アームを付勢するスプリングとを備えている。
【0011】
このワイヤロープ乱巻防止装置では、第2支持アームが第1支持アームに対し回動自在に枢支されており、押えローラがワイヤロープをドラム側へ押圧するよう、スプリングが第1支持アーム及び第2支持アームを付勢する。
このため、ドラムへのワイヤロープの巻層数が増加して巻付面の径が大きくなっても、一方の押えローラと他方の押えローラとの間の距離が増加して、ドラム軸と各押えローラの軸とを結ぶ線の夾角が広角な状態で維持されるので、浮き上がり防止の効果が低下することはなく、ワイヤロープに張力の変動があっても常に正常に巻き取りを行うことができる。
第2支持アームを第1支持アームと共通の枢支ピンで枢支すると、部品点数が少なくなり、構造がより簡素化される。
【発明の効果】
【0012】
本発明のドラムのワイヤロープ乱巻防止装置によれば、簡単な構成でドラムの巻付面の径の変化に対して押さえローラ間の距離を変化させることが可能で、ワイヤロープに張力の変動があっても乱巻を生ずることなく常に正常に巻き取りを行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1は、本発明の実施の一形態を示すドラムのワイヤロープ乱巻防止装置の正面図、図2は巻層数が1層の状態を示すワイヤロープ乱巻防止装置の正面図、図3は図1のA−A線断面図である。
図1に示すように、ウインチのドラム8はドラム軸88によってフレーム10に立設されたドラム支持部材(図示略)に、回動自在に支持されており、このドラム8にはワイヤロープ9が巻き付けられている。
【0014】
このドラム8のワイヤロープ乱巻防止装置1は、フレーム10に設けた支持ブラケット4と、支持ブラケット4に枢支ピン7で回動自在に枢支された第1支持アーム2と、第1支持アーム2に枢支ピン6で回動自在に枢支された第2支持アーム3とを備えている。
第1支持アーム2の先端部と第2支持アーム3の先端部には、それぞれ押えローラ22、33が回転自在に取り付けられている。
【0015】
枢支ピン6にはスプリング5が装着されている。このスプリング5は、一端が第1支持アーム2の中央下面側のストッパプレート24に押止めされ、他端が第2支持アーム3の中央上面側のストッパプレート34に押止めされており、押えローラ22、33がワイヤロープ9をドラム8の巻付面8F側へ押圧するよう第1支持アーム2及び第2支持アーム3を付勢している。
【0016】
このワイヤロープ乱巻防止装置1は、ドラム8へのワイヤロープ9の巻層数が1層の場合には、巻付面8Fの径が小さいので、図2に示すように、押えローラ22、33がドラム軸88に接近して、ワイヤロープ9を押圧している。
このとき、押えローラ22、33間の距離はやや小さくなるが、ドラム軸88と各押えローラ22、33の軸とを結ぶ線の夾角θは広角な状態となっている。
【0017】
ウインチの巻き上げでドラム8へのワイヤロープ9の巻層数が増加して巻付面8Fの径が大きくなると、図1のように、押えローラ22、33がドラム軸88から離隔するように移動する。このとき、第1支持アーム2と第2支持アーム3とは、互いに先端部が離隔するように回動するので、一方の押えローラ22と他方の押えローラ33との間の距離が増加して、ドラム軸88と各押えローラ22、33の軸とを結ぶ線の夾角θが広角な状態で維持される。従って、浮き上がり防止の効果が低下することはなく、ワイヤロープに張力の変動があっても乱巻の発生を抑え常に正常に巻き取りを行うことができる。
【0018】
ここで、スプリング5には、巻ばねを使用しているが、押えローラ22、33がワイヤロープ9をドラム8の巻付面8F側へ押圧するよう第1支持アーム2及び第2支持アーム3を適切に付勢できるものであれば、板ばね等、他のスプリングを使用しても差し支えない。
また、押えローラ22、33は、第1支持アーム2及び第2支持アーム3の先端部でなくても、ワイヤロープ9をドラム8の巻付面8F側へ適切に押圧できるように取り付けてあれば良い。
【0019】
図4は、本発明の他の実施の形態を示すドラムのワイヤロープ乱巻防止装置の正面図、図5は巻層数が1層の状態を示すワイヤロープ乱巻防止装置の正面図、図6は図4のB−B線断面図である。 このドラム8のワイヤロープ乱巻防止装置11では、フレーム10に設けた支持ブラケット4に、第1支持アーム2と第2支持アーム3とが共通の枢支ピン17で枢支されている。
【0020】
枢支ピン17にはスプリング5が装着されている。このスプリング5は、一端が第1支持アーム2の基端部上面側のストッパプレート25に押止めされ、他端が第2支持アーム3の基端部上面側のストッパプレート35に押止めされており、押えローラ22、33がワイヤロープ9をドラム8の巻付面8F側へ押圧するよう第1支持アーム2及び第2支持アーム3を付勢している。
【0021】
その他の構成は図1のものと同様であるので、同一部材には同一の符号を付し、詳細な説明は省略する。
このワイヤロープ乱巻防止装置11は、ドラム8へのワイヤロープ9の巻層数が1層の場合には、巻付面8Fの径が小さいので、図5に示すように、押えローラ22、33がドラム軸88に接近して、ワイヤロープ9を押圧している。
このとき、押えローラ22、33間の距離はやや小さくなるが、ドラム軸88と各押えローラ22、33の軸とを結ぶ線の夾角θは広角な状態となっている。
【0022】
ウインチの巻き上げでドラム8へのワイヤロープ9の巻層数が増加して巻付面8Fの径が大きくなると、図4のように、押えローラ22、33がドラム軸88から離隔するように移動する。このとき、第1支持アーム2と第2支持アーム3とは、互いに先端部が離隔するように回動するので、一方の押えローラ22と他方の押えローラ33との間の距離が増加して、ドラム軸88と各押えローラ22、33の軸とを結ぶ線の夾角θが広角な状態で維持される。
【0023】
従って、浮き上がり防止の効果が低下することはなく、ワイヤロープに張力の変動があっても乱巻の発生を抑え常に正常に巻き取りを行うことができる。
このワイヤロープ乱巻防止装置11では、一方の押えローラ22と他方の押えローラ33との間の距離の増加量は、図1のものより更に大きくなっているので、浮き上がり防止の効果がより確実に発揮される。
また、第2支持アーム3を第1支持アーム2と共通の枢支ピン17で枢支しているので、部品点数が少なくなり、構造がより簡素化されている。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施の一形態を示すドラムのワイヤロープ乱巻防止装置の正面図である。
【図2】巻層数が1層の状態を示すワイヤロープ乱巻防止装置の正面図である。
【図3】図1のA−A線断面図である。
【図4】本発明の他の実施の形態を示すドラムのワイヤロープ乱巻防止装置の正面図である。
【図5】巻層数が1層の状態を示すワイヤロープ乱巻防止装置の正面図である。
【図6】図4のB−B線断面図である。
【符号の説明】
【0025】
1 ワイヤロープ乱巻防止装置
2 第1支持アーム
3 第2支持アーム
4 支持ブラケット
5 スプリング
6 枢支ピン
7 枢支ピン
8 ドラム
8F 巻付面
9 ワイヤロープ
10 フレーム
11 ワイヤロープ乱巻防止装置
17 枢支ピン
22 押えローラ
33 押えローラ
88 ドラム軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドラム支持部材又はドラム支持部材を取付けているフレームに設けた支持ブラケットと、回転自在な押えローラを有し、支持ブラケットに回動自在に枢支された第1支持アームと、回転自在な押えローラを有し、第1支持アームに対し回動自在に枢支された第2支持アームと、押えローラがワイヤロープをドラム側へ押圧するよう第1支持アーム及び第2支持アームを付勢するスプリングとを備えたドラムのワイヤロープ乱巻防止装置。
【請求項2】
第2支持アームを第1支持アームと共通の枢支ピンで枢支した請求項1記載のドラムのワイヤロープ乱巻防止装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−168874(P2006−168874A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−361277(P2004−361277)
【出願日】平成16年12月14日(2004.12.14)
【出願人】(000165974)古河機械金属株式会社 (211)