説明

ドラム式洗濯機の防振装置

【課題】ドラム式洗濯機における洗濯槽ユニットの多方向の振動を効果的に低減することのできるドラム式洗濯機の防振装置を提供する。
【解決手段】回転する内槽としての回転ドラムと、回転ドラムを内側に収容する外槽としての水槽206とを備え、洗濯機本体200の内部に配置された洗濯槽ユニット202を防振するドラム式洗濯機の防振装置において、ダンパマスとダンパマスを弾性支持するゴム弾性体とを有するダイナミックダンパ10を、その主振動方向であるQ1方向の固有振動数を脱水時における回転ドラムの450rpm以上の高回転域の加振周波数にチューニングした上、Q1方向が垂直方向に対して30〜60°の範囲の角度となるように水槽206に傾斜して取り付けておく。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、回転ドラムの回転軸線が垂直方向に対して傾斜した所謂斜めドラム式の洗濯機に適用して特に好適なドラム式洗濯機の防振装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ドラム式洗濯機として、垂直方向に対して傾斜した回転軸線回りに回転する内槽としての回転ドラムと、回転ドラムを内側に収容する外槽としての水槽とを備えた洗濯槽ユニットを有し、回転ドラム内に洗濯物を入れて回転ドラムを回し、洗濯,すすぎ,脱水の各工程を行う所謂斜めドラム式洗濯機が従来公知である。
この斜めドラム式洗濯機では、洗濯槽ユニットと洗濯機本体との間に介在させたコイルばねと、振動減衰部材としてのダンパとを含む支持装置にて洗濯槽ユニットを支持するようにしている。
【0003】
図9及び図10はこの斜めドラム式洗濯機を、洗濯槽ユニットの支持構造とともに模式的に示している。
図において200は洗濯機本体、202はその内部に納められた洗濯槽ユニットで、この洗濯槽ユニット202は、図10に示しているように斜めに傾斜した回転軸線回りに回転する内槽としての回転ドラム204と、これを内側に収容した外槽としての水槽206とを有している。
水槽206には駆動モータ208が設けられており、この駆動モータ208により、回転ドラム204の回転軸210が回転駆動される。
【0004】
図9において、212は支持装置の一部をなす上部の吊りばねで引張コイルばねから成っており、この吊りばね212によって洗濯槽ユニット202が弾性的に吊持されている。
214は下部の支持ユニットで、洗濯槽ユニット202は、この支持ユニット214によって下側から弾性的に支持されている。
この支持ユニット214は、ピストン式オイルダンパ220と、圧縮コイルばね222と、上部のゴム製の緩衝部材224,下部のゴム製の緩衝部材226をユニット化したものである。
【0005】
ピストン式オイルダンパ220は、シリンダ216の内部にピストンを摺動可能に嵌合して、そのピストンからロッド218を図中下向きに延び出させ、そしてピストンの図中上下方向の摺動運動に基づいて、シリンダ216内部のオイルを粘性流動させ、その粘性流動に基づいて振動を減衰作用する。
【0006】
尚支持ユニット214は、シリンダ216において洗濯槽ユニット202から延び出した支持金具228に固定され、またロッド218において、洗濯機本体200の底部238に設けられた取付プレート230に固定されている。
【0007】
ところで斜めドラム式洗濯機では、回転ドラムが斜めに傾いていることから、回転ドラム内で洗濯物が偏在し易く、即ち回転ドラムに対して偏荷重がかかり易く、しかも回転ドラムが斜めの回転軸線回りに回転することによって、特に脱水工程の初期の起動時(300rpm程度までの低回転域)に上記の支持装置を構成するばね等と共振を起すことによって、図9(B)に示すように洗濯槽ユニット202が上下,左右,前後の全方向に大きく振れ回り(例えば各方向に25mm程度の振れ)、大振幅で振動を生じる外、450rpmを超えるような高回転域においても、回転ドラム204を回転させる際の加振力による振動が生じ、そしてその振動が支持装置を介して洗濯槽ユニット202から洗濯機本体200に、更に床に伝わって、洗濯機本体200及び床が振動するといった問題を生じていた。
【0008】
以上は斜めドラム式洗濯機の場合であるが、回転ドラムが横向き(略水平向き)をなす横ドラム式洗濯機においても、斜めドラム式洗濯機ほどではないものの回転ドラムの回転に伴って水槽ユニットが上下,左右方向に振れ回る問題があり、斜めドラム式洗濯機と同様の課題を有していた。
【0009】
以上のような振動に対する対策として、従来、洗濯槽ユニット202上に金属製又はコンクリート製の重錘を搭載することで、重心(洗濯槽ユニット202のバランス)を調整し、また重量を増すことで、洗濯槽ユニット202の振動を抑制するといったことが行われている。
【0010】
上記高回転域での振動は、回転ドラム内に洗濯物が偏在することにより生ずる偏心重量、回転ドラム204のドラム径、洗濯槽ユニット202の重量等にて支配されるものであり、洗濯槽ユニット202に重錘を付加することで、またその重錘の重量を増すことで、ある程度振動を低減することが可能である。
しかしながら重錘はバランス調整を担い、その重量は制限されるため、現状では重錘の付加による振動低減を十分には実現できていないのが実情である。
【0011】
上記振動に対する対策として、重錘に代えてダイナミックダンパを洗濯槽ユニット202、具体的には水槽206に取り付けるといったことも考えられる。
この場合のダイナミックダンパの用い方として、その固有振動数を、低回転域で洗濯槽ユニット202が支持装置のばね等と共振を生ずる共振周波数にチューニング(一致)しておくことで、その共振をダイナミックダンパにて解消ないし抑制する用い方が考えられるが、この場合共振時におけるダイナミックダンパの共振振幅が大き過ぎて、ダイナミックダンパが早期に耐久寿命に到ってしまう問題の他、その共振に付随して高周波側に反共振のピークが発現し、その反共振が振動抑制に対して悪影響を及ぼすといった問題が生じ、従ってこのような低回転域の大変位の振動をダイナミックダンパで抑制するといったことは実際上難しい。
【0012】
一方高回転域においては、洗濯槽ユニット202の振動振幅は低回転域ほど大きくはなく、高回転域の洗濯槽ユニット202の振動をダイナミックダンパによって低減することは効果的と考えられる。
【0013】
特に、脱水時において回転ドラムは回転数を次第に高めて最終的に最大且つ一定の回転数に達し、その最大の一定の回転数を維持しつつ定常回転して脱水を行うため、ダイナミックダンパの固有振動数を、その定常回転時における振動を低減するようにチューニングしておけば、他の回転数に比べて長時間持続する定常回転での振動を長い時間に亘って低減でき、ダイナミックダンパによる振動低減を効果的に発揮し得て有利である。
【0014】
尚、下記特許文献1には水平の回転軸線回りに回転ドラムが回転する横ドラム式洗濯機において、洗濯槽ユニット、具体的には水槽にダイナミックダンパを取り付けた点、またそのダイナミックダンパの固有振動数を、回転ドラムの脱水時の高回転域の加振周波数にチューニングした点が開示されている。
【0015】
しかしながらこの特許文献1に開示のものは、ダイナミックダンパを水槽の真下の位置に且つ1つ付加しただけのものであり、洗濯槽ユニットの上下及び左右方向、更には特に斜めドラム式洗濯機における洗濯槽ユニットの前後方向の振動即ち全方向の振動を低減することはできず、振動対策としてはなお十分でない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特許第2966123号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は以上のような事情を背景とし、ドラム式洗濯機における洗濯槽ユニットの各方向の振動を効果的に低減することのできるドラム式洗濯機の防振装置を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
而して請求項1のものは、回転する内槽としての回転ドラムと、該回転ドラムを内側に収容する外槽としての水槽とを備え、洗濯機本体の内部に配置された洗濯槽ユニットを防振するドラム式洗濯機の防振装置であって、ダンパマスと該ダンパマスを弾性支持するゴム弾性体とを有し、該ダンパマスの主振動方向である第1方向に第1の付加振動系を形成するダイナミックダンパを、該第1方向の固有振動数を脱水時における前記回転ドラムの450rpm以上の高回転域の加振周波数にチューニングした上、該第1方向がドラム式洗濯機の垂直方向に対して30〜60°の範囲の角度となるように前記水槽に傾斜して取り付けたことを特徴とする。
【0019】
請求項2のものは、請求項1において、前記ダイナミックダンパが、前記ダンパマスの前記第1方向とは別の主振動方向である、該第1方向と直交する第2方向に第2の付加振動系を形成するものとなしてあり、該第2方向の固有振動数を前記第1方向の固有振動数と同等の固有振動数となした上、該第2方向が前記水槽の前後方向を向くように前記ダイナミックダンパを該水槽に取り付けたことを特徴とする。
【0020】
請求項3のものは、請求項1,2の何れかにおいて、前記ダイナミックダンパの共振に付随する反共振の発生域が前記回転ドラムの最大回転数よりも更に高回転域となるように設定してあることを特徴とする。
【0021】
請求項4のものは、請求項1〜3の何れかにおいて、前記ダイナミックダンパが前記回転ドラムの回転軸線回りに水平方向から45°の角度位置で前記水槽に取り付けてあることを特徴とする。
【0022】
請求項5のものは、請求項1〜4の何れかにおいて、前記ダイナミックダンパを2個以上の複数個前記水槽に取り付けたことを特徴とする。
【0023】
請求項6のものは、請求項1〜5の何れかにおいて、前記ダイナミックダンパは、前記洗濯槽ユニットの重心を通り、前記回転ドラムの回転軸線と直交する軸上に配置してあることを特徴とする。
【発明の作用・効果】
【0024】
以上のように本発明は、第1方向に第1の付加振動系を形成するダイナミックダンパを、その第1方向の固有振動数を脱水時における回転ドラムの450rpm以上の高回転域の加振周波数にチューニングした上、その第1方向がドラム式洗濯機の垂直方向に対して30〜60°の範囲の角度となるように水槽に傾斜して取り付けたものである。
本発明によれば、水槽に取り付けたダイナミックダンパによって洗濯槽ユニットの高回転域の振動を良好に低減することができる。
【0025】
また本発明では、上記の第1方向が垂直方向に対して30〜60°の範囲の角度となるようにダイナミックダンパを傾斜して水槽に取り付けているため、単一のダンパによって水槽の上下方向の振動と左右方向の振動を併せて低減することができる。
【0026】
例えば、上記の第1方向が垂直方向に対して45°となる角度でダイナミックダンパを水槽に取り付けた場合、ダイナミックダンパが第1方向に振動したときのダンパ効果の大きさをPとしたとき、上下方向(垂直方向)にPcos45°(0.71P)の大きさのダンパ効果が、また左右方向(水平方向)にPsin45°(0.71P)の大きさのダンパ効果が得られる。
【0027】
ここで同じダイナミックダンパを2個用い、その1つを水槽の上部又は下部に垂直方向に向けて、即ち上記の第1方向が垂直向きとなる状態に非傾斜状態で取り付け、また他の1つを水槽の左部又は右部に水平方向に向けて、即ち第1方向が水平向きとなる状態に非傾斜状態で取り付けた場合と、本発明に従って2つのダイナミックダンパをそれぞれ上記の45°の角度で傾斜取付けした場合とで比較すると、前者の場合には上下方向(垂直方向)にPの大きさのダンパ効果が、また左右方向(水平方向)にPの大きさのダンパ効果が得られる。
これに対して後者の場合には、上下方向(垂直方向)に2×0.71P=1.42Pの大きさのダンパ効果が、また左右方向(水平方向)に同じく1.42Pの大きさのダンパ効果が得られ、上下方向,左右方向の何れの方向にも前者より大きなダンパ効果が得られるとともに、上下方向及び左右方向のダンパ効果の総和もまた前者に比べて大となる。
【0028】
一方、垂直方向に対して最大角度の60°で傾斜取付けした場合、同様にして左右方向のダンパ効果の大きさはP×2×sin60°(=0.87)=1.74Pとなり、上下方向のダンパ効果の大きさはP×2×cos30°(=0.5)=Pとなり、非傾斜取付けした場合に比べて、上下方向のダンパ効果の大きさを同等としつつ、左右方向のダンパ効果の大きさを大とすることができる。
【0029】
逆に垂直方向に対して最小角度の30°で傾斜取付けした場合、上下方向のダンパ効果の大きさは1.74Pとなり、左右方向のダンパ効果の大きさはPとなり、非傾斜取付けの場合に比べて左右方向のダンパ効果の大きさを同等としつつ、上下方向のダンパ効果の大きさを大とすることができる。
そして何れの場合においても、ダンパ効果の総和を非傾斜取付けの場合よりも大とすることができる。
【0030】
以上のように本発明は、ダイナミックダンパを2個以上の複数個取り付けた場合に効果が大きいが、本発明ではダイナミックダンパを単数で水槽に取り付けることも可能である。
この場合においても、上下方向と左右方向のそれぞれのダンパ効果の総和を、ダイナミックダンパを単数で非傾斜取付けした場合の効果よりも大とすることができ、且つ上下方向,左右方向の少なくとも一方を非傾斜取付けしたダイナミックダンパの半分以上の大きさとなすことができる。
【0031】
ここでダイナミックダンパの上記の固有振動数は、脱水時に回転ドラムが最終に到達する最大且つ一定の定常回転数の際の振動を低減するようにチューニングしておくことが望ましい。
特にその固有振動数を、定常回転数の際の加振周波数と一致するようにチューニングしておくことができる。
このようにすれば、最も長い時間に亘って洗濯槽ユニットの高回転での上,下及び左,右方向の振動を低減し続けることができる。
【0032】
本発明では、従来付加していた重錘に代えてダイナミックダンパを取り付けることができ、この場合、ダンパマスによる洗濯槽ユニット全体の重量を増加させることによる振動低減効果と、ダイナミックダンパにおけるダンパ効果とを併せて発揮することができ、水槽とは別部品を水槽に取り付けることによるコストアップを抑えつつ振動低減効果を高めることができる。
【0033】
次に請求項2は、ダイナミックダンパを上記の第1方向と直交する第2方向に第2の付加振動系を形成するものとなし、そしてその第2方向の固有振動数を第1方向の固有振動数と同等の固有振動数となした上、第2方向が水槽の前後方向を向くようにダイナミックダンパを水槽に取り付けたもので、このようにすれば単一のダイナミックダンパを用いつつも、上下方向と左右方向及び前後方向の3方向の振動、即ち全方向の高回転域の振動を低減することができる。
【0034】
またこの請求項2では、第2方向の固有振動数を第1方向の固有振動数と同等となしてあるため、同じ回転数の下での洗濯槽ユニットの上下方向,左右方向,前後方向の振動を効果的に低減することができる。
特にダイナミックダンパの固有振動数を、脱水時の最大回転時の定常回転数の際の加振周波数にチューニングした(一致させた)場合、長く続く一定の定常回転の際の洗濯槽ユニットの上下,左右,前後方向の各振動を長い時間に亘り低減し続けることができ、効果的である。
尚本発明において、第2方向の固有振動数が第1方向の固有振動数と同等とは、両者が厳密に同一回転数である場合のみならず、前者が後者の固有振動数の±10%以内である場合を含む。
【0035】
本発明は、ダイナミックダンパにて高回転時の振動を低減するものであることから、ダイナミックダンパの共振に付随する反共振の発生域が、回転ドラムの最大回転数よりも更に高回転域となるように設定しておくことができる(請求項3)。
そしてこのようにすることによって、ダイナミックダンパを洗濯槽ユニットと共振させることによって振動低減するようになした場合においても、反共振が実際に出現するのを防ぐことができ、反共振の出現による悪影響を排除することができる。
【0036】
本発明ではダイナミックダンパを、回転ドラムの回転軸線回りに水平方向から45°の角度位置で水槽に取り付けておくことが望ましい(請求項4)。
この位置は洗濯機本体と水槽との間に広いデッドスペースを生ずる位置であり、従ってこのような位置にダイナミックダンパを取り付けることで、デッドスペースを有効に活用して且つ広いスペース内にダイナミックダンパを取り付けることができる。
【0037】
上記のように本発明は、ダイナミックダンパを2個以上の複数個水槽に取り付けた場合に効果の大なるものである(請求項5)。
この場合において、ダイナミックダンパを水槽に対して上記の45°の角度位置の4個所のそれぞれに合計で4個取り付けておくことができる。
【0038】
本発明ではまた、ダイナミックダンパを、洗濯槽ユニットの重心を通り、回転ドラムの回転軸線と直交する軸上に配置しておくことが望ましい(請求項6)。
このようにすることで、回転ドラムに対する加振力にて回転ドラム、ひいては洗濯槽ユニットが不規則振動するのを効果的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の一実施形態である斜めドラム式洗濯機の防振装置に用いられるダイナミックダンパの横断面図である。
【図2】図1のダイナミックダンパの縦断面図である。
【図3】同実施形態の斜めドラム式洗濯機の側面構成を示した図である。
【図4】同実施形態の斜めドラム式洗濯機の正面から見た構成を示した図である。
【図5】同実施形態の斜めドラム式洗濯機の後面から見た構成を示した図である。
【図6】図3〜図5のダイナミックダンパの取付状態を示した図である。
【図7】図1のダイナミックダンパ10を取り付けたときの効果を確認するための試験方法の説明図である。
【図8】その試験結果を示した図である。
【図9】従来公知の斜めドラム式洗濯機の一例を示した図である。
【図10】図9の側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
次に本発明の実施形態を図面に基づいて以下に詳しく説明する。
図1において、10は本実施形態で用いる一例としてのダイナミックダンパで、金属製のケース12を有しており、その内部に金属製のダンパマス14が配置されている。
ケース12は、互いに平行をなす板状の一対の側壁部16と、それら一対の側壁部16に対して直角をなし且つ互いに平行に延びる板状の上壁部18と下壁部20とを有し、全体が図1中上下方向に対して左右方向に長い断面矩形の筒状をなしている。
このケース12は、その内面全体が薄肉且つ肉厚が一様な内面被覆ゴム22にて被覆されている。
ここで内面被覆ゴム22はケース12に対して加硫接着されている。
尚ケース12は、図1の紙面と直角方向(図2の上下方向)の前後方向長さが、図1の左右方向長さよりも長くされている。
ここでケース12は、一対の側壁部16,上壁部18及び下壁部20の何れもが同じ肉厚である。
【0041】
ダンパマス14はブロック状のもので、図1中左右方向寸法が同図中上下方向寸法よりも大きい横断面形状が偏平の矩形をなしており、その前後方向である図1中紙面と直角方向(図2中上下方向)の寸法が、ケース12における同方向の寸法と同等寸法とされている。
この断面矩形をなすブロック状のダンパマス14は、その外面の全体が薄肉且つ肉厚が一様な外面被覆ゴム24にて被覆されている。この外面被覆ゴム24もまた、ダンパマス14に対して一体に加硫接着されている。
尚ダンパマス14は、ケース12の内部の中心部に配置されている。詳しくは、ダンパマス14とケース12の上壁部18との間の間隔が、ダンパマス14と下壁部20との間の間隔と等しくされており、またダンパマス14と一方の側壁部16との間の間隔と他方の側壁部16との間の間隔が等しくされている。
【0042】
このダンパマス14と一対の側壁部16とは、4個所に配置されたゴム弾性体26,28,30,32によって、外面被覆ゴム24及び内面被覆ゴム22を介して連結されており、これら4個所且つ4つのゴム弾性体26〜32が、剪断変形するようにダンパマス14を弾性支持している。
ここで4つのゴム弾性体26,28,30,32は何れも同じ横断面形状で高さの等しい円柱形状をなしており、それらの何れもが、図1中同じ上下方向位置に配置されている。
【0043】
またゴム弾性体26と28とは、同一の前後方向(図2中上下方向)の位置に配置され、またゴム弾性体30と32とは同じ前後方向位置に配置されている。
即ちゴム弾性体26と28とが図1中同一の高さ位置で、且つ図2に示しているように同一の前後方向位置で、図1中の左右方向に互いに対向せしめられている。
【0044】
更にゴム弾性体30と32もまた、同一の高さ位置且つ同一の前後方向位置で、図1中の左右方向に互いに対向せしめられている。
尚これら4つのゴム弾性体26,28,30,32は、何れもがその軸方向を一対の側壁部16と直交方向、即ち上壁部18及び下壁部20と平行方向に向けて配置されている。
【0045】
尚内面被覆ゴム22には、上壁部18及び下壁部20の内側位置において、ダンパマス14に向って突出する断面半円形の突起34が設けられている。
これら突起34は、ダンパマス14が上壁部18又は下壁部20に勢い良く当るときの緩衝用として、即ち勢いを減殺するためのものとして設けられている。
【0046】
この実施形態のダイナミックダンパ10では、円柱状をなすゴム弾性体26〜32が高さ方向と直角方向に剪断弾性変形する図1中のQ1方向(第1方向)、及び図2中のQ2方向(第2方向)が、ダンパマス14が大きく振動する主振動方向となる。
即ちダイナミックダンパ10は、防振対象に取り付けられることでQ1方向の付加振動系(第1の付加振動系)と、Q2方向の付加振動系(第2の付加振動系)の2つの付加振動系を形成する。
【0047】
本実施形態において、ゴム弾性体26〜32はQ1方向のばね定数とQ2方向のばね定数とが等しく、従ってQ1方向の付加振動系の固有振動数と、Q2方向の付加振動系の固有振動数とは同じである。
但し本実施形態において、Q2方向の固有振動数はQ1方向の固有振動数に対して厳密に同一でなくても良く、±10%の範囲内で若干異なっていても良い。
【0048】
図3〜図5は、ダイナミックダンパ10を斜めドラム式洗濯機に取り付けた状態を示している。
これらの図において、36は斜めドラム式洗濯機で、その構成は図9に示したものと基本的に同様である。
図において200は洗濯機本体を、202は洗濯槽ユニットを示している。
洗濯槽ユニット202は、外槽としての水槽206を有し、その内部に内槽としての回転ドラム204が回転可能に設けられている。
208は、その回転ドラム204を回転駆動するモータで、238は洗濯機本体200の底部を示している。
ここで洗濯槽ユニット202は、詳しくはその内部の回転ドラム204の回転軸線は水平方向に対して角度θ傾斜している(ここではθ=20°)。
【0049】
212は吊りばねで引張コイルばねから成っており、洗濯槽ユニット202は、この吊りばね212にて弾性的に吊持され、その荷重が一部この吊りばね212にて弾性的に支持されている。
ここでは2本の吊りばね212が、所定角度をなす状態に配置されている。
尚、38は洗濯機本体200の前壁を、40は後壁を、42は上壁を、更に44は洗濯機本体200の前面側の開口部を、また46は水槽206の前面側の開口部を示している。
【0050】
214は下部の支持ユニットで、洗濯槽ユニット202はこの支持ユニット214によって、下側から弾性的に支持されている。
この支持ユニット214は、ピストン式オイルダンパ220と、圧縮コイルばね222と、上部のゴム製の緩衝部材224,下部のゴム製の緩衝部材226をユニット化したものである。
尚、228は洗濯槽ユニット202から延び出した支持金具を、また230は洗濯機本体200の底部238に設けられた取付プレートを示している。
【0051】
この実施形態では、図1及び図2に示すダイナミックダンパ10が互いに異なった位置の4個所で水槽206の外面に合計4個取り付けられている。この実施形態では、水槽206に取り付けられた合計4個のダイナミックダンパ10にて防振装置が構成されている。
ここで4つのダイナミックダンパ10は、洗濯槽ユニット202の重心を通り、回転ドラム204の回転軸線と直交する軸上に配置してある。
【0052】
また水槽の周方向において、4個のダイナミックダンパ10は図4に示しているように水平方向の左,右位置から角度β隔たった位置、即ち回転ドラム204の回転軸線回りに水平方向からβの角度位置で水槽206に取り付けられている。
本実施形態においてβ=45°とされている。即ち4個のダイナミックダンパ10は、水槽206の円周上の垂直方向の上端,下端位置及び水平方向の左端,右端位置からそれぞれ45°の角度位置で水槽206に取り付けられている。
【0053】
図4及び図5に示しているように、水槽206及びその内側の回転ドラム204は円筒形状、即ち正面視,後面視が円形状をなしており、一方筐体としての洗濯機本体200は正面視及び後面視において4角形状をなしており、垂直方向の上端,下端,水平方向の左端,右端からそれぞれ45°の角度位置において、水槽206と洗濯機本体200との間の部分には広いデッドスペースが生じている。
上記4個のダイナミックダンパ10は、これらデッドスペースにおいて、即ちそれらデッドスペースを利用して水槽206に取り付けられている。
【0054】
各ダイナミックダンパ10はまた、図4及び図6に示しているように上記Q1方向が垂直方向に対して角度αをなす向きで、水槽206に取り付けられている。
本実施形態において角度αは45°とされている。
但し30〜60°の範囲内でαの角度を他の角度となしても良い。
また各ダイナミックダンパ10は、図2のQ2方向を水槽206の前後方向に向けて水槽206に取り付けられている。但しここではダイナミックダンパ10は、その向き(Q2方向)が水平向きとなるように水槽206に取り付けられている。
【0055】
各ダイナミックダンパ10は、図1のQ1方向が垂直方向に対して角度α(ここではα=45°)をなすように取り付けられている結果、上下方向(垂直方向)と左右方向(水平方向)のそれぞれにダンパ効果を発揮する。
詳しくは、単一のダイナミックダンパ10のQ1方向のダンパ効果の大きさをPとしたとき、各ダイナミックダンパ10は上下方向にPcosαの大きさのダンパ効果を、また左右方向にPsinαの大きさのダンパ効果を発揮する。
具体的にはここではα=45°であり、従って各ダイナミックダンパ10は上下方向に0.71Pの大きさのダンパ効果を、また左右方向に0.71Pの大きさのダンパ効果を発揮する。
【0056】
この場合、4個のダイナミックダンパ10の上下方向(垂直方向)のダンパ効果の大きさの和は2.84Pであり、また左右方向(水平方向)のダンパ効果の大きさの和もまた2.84Pとなり、同一の2個のダイナミックダンパ10を水槽206の上端,下端の位置にQ1方向を垂直方向に向けて配置するとともに、更に同一の2個のダイナミックダンパ10を水槽206の左端,右端の位置にQ1方向を水平方向に向けて配置した場合に得られる上下方向のダンパ効果の大きさの和の2P、及び左右方向のダンパ効果の大きさの和の2Pよりもそれぞれ大きなダンパ効果が得られる。
【0057】
加えて本実施形態では4個の各ダイナミックダンパ10が水平前後方向にもそれぞれが大きさPのダンパ効果を発揮する。
【0058】
従ってダイナミックダンパ10のQ1方向及びQ2方向の固有振動数を、脱水時における回転ドラム204の450rpm以上の高回転域の加振周波数にチューニング(一致)しておくことで、高回転時における洗濯槽ユニット202の上下,左右及び前後方向の全方向の振動を効果的に低減することができる。
【0059】
また本実施形態では、従来付加していた重錘に代えてダイナミックダンパ10を取り付けることで、ダンパマス14による洗濯槽ユニット202全体の重量を増加させることによる振動低減効果と、ダイナミックダンパ10におけるダンパ効果とを併せて発揮することができ、水槽206とは別部品を水槽206に取り付けることによるコストアップを抑えつつ、振動低減効果を高めることができる。
【0060】
本実施形態において、ダイナミックダンパ10のQ1方向及びQ2方向の固有振動数を、脱水時に回転ドラム204が最終的に到達する最大回転数且つ一定回転数で定常回転する際の振動を低減するようにチューニングしておくことができ、特にその最大回転の定常回転数の際の加振周波数に固有振動数をチューニングしておくこと(一致させておくこと)によって、長く続く一定回転数の定常回転の際の洗濯槽ユニット202の上下,左右,前後方向の各振動を長い時間に亘り低減し続けることができ、特に効果的である。
【0061】
この実施形態では、ダイナミックダンパ10が洗濯槽ユニット202の重心を通り、回転ドラム204の回転軸線と直交する軸上に配置してあり、このことにより、回転ドラム204に対する加振力にて洗濯槽ユニット202が不規則振動するのを効果的に抑制することができる。
【0062】
<試験例>
水槽206の前端上部(最上部)に質量3kgの重錘(バランスウエイト)を、また下部の真下位置から左,右に45°の位置にそれぞれ質量が1.5kgの重錘を取り付けて振動測定を行った。
また重錘に置き換える形で、図7に示しているようにダイナミックダンパ10-1,10-2,10-3を水槽206の同じ位置に取り付け、振動測定を行った。
【0063】
尚、最上部のダイナミックダンパ10-1については、ダンパマス14の質量が3kgのものを、また下部の真下位置から左,右に45°の位置のダイナミックダンパ10-2,10-3については、ダンパマス14の質量がそれぞれ1.5kgのものを用いた。
【0064】
ダイナミックダンパの取付けについては、最上部のダイナミックダンパ10-1についてはQ1方向が垂直真下向きとなるように、またQ2方向が前後方向(水平方向)の向きとなるように取り付け、左,右の45°位置のダイナミックダンパ10-2,10-3についてはQ1方向が垂直方向に対して45°の向きとなるように、Q2方向が前後方向(水平方向)の向きとなるように水槽206に取り付けた。
ここでダイナミックダンパ10-1,10-2,10-3はそれぞれQ1方向,Q2方向の固有振動数を、回転ドラム204の回転数が780rpmの際の加振周波数(約13Hz)に一致させた。
【0065】
尚測定は室温(約23℃)の雰囲気温度の下で、回転ドラム204の内部の前端下部に200gの質量の偏心マスKを搭載し、脱水モードで洗濯機を運転して行った。
振動の測定は、水槽206の前端上部の位置Rについて行った。
結果が図8に示してある。
【0066】
同図において、破線は重錘を水槽206に搭載した下での振動測定結果を、また実線は重錘に置き換えてダイナミックダンパ10-1,10-2,10-3を水槽206に取り付けた状態の下での振動測定結果を示している。
これらの図から、重錘に代えてダイナミックダンパ10-1,10-2,10-3を取り付けることで振動低減効果が高まることが見て取れる。
【0067】
図8(B)及び(C)の前後方向及び上下方向の振動測定結果において、ダイナミックダンパによる振動低減効果は、ダイナミックダンパ10-1,10-2,10-3による振動低減効果と認められるが、(A)の左右方向の振動測定結果においてダイナミックダンパにより得られている振動低減効果は、主としてダイナミックダンパ10-2,10-3による振動低減効果と認められる。
従って最上部のダイナミックダンパ10-1についても、本実施形態に従って傾斜取付けとした場合には、左右方向においてより一層の振動低減効果が期待できる。
【0068】
尚ダイナミックダンパ10-1,10-2,10-3については、Q1方向及びQ2方向の固有振動数が、ダイナミックダンパの共振に付随する反共振の発生域が回転ドラム204の最大回転数よりも更に高回転域となるように設定してあることから、図8中その反共振のピークは表れていない。
【0069】
以上本発明の実施形態を詳述したがこれはあくまで一例示であり、本発明においてはダイナミックダンパを上例以外の個数で、また上例とは異なった傾斜角度で取り付け、更にはダイナミックダンパとして上例とは異なった他の様々な形態のものを用いることが可能であり、更に本発明は横ドラム式の洗濯機に適用することも可能である等、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において種々変更を加えた形態で構成可能である。
【符号の説明】
【0070】
10 ダイナミックダンパ
14 ダンパマス
26,28,30,32 ゴム弾性体
36 斜めドラム式洗濯機
200 洗濯機本体
202 洗濯槽ユニット
204 回転ドラム
206 水槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転する内槽としての回転ドラムと、該回転ドラムを内側に収容する外槽としての水槽とを備え、洗濯機本体の内部に配置された洗濯槽ユニットを防振するドラム式洗濯機の防振装置であって、
ダンパマスと該ダンパマスを弾性支持するゴム弾性体とを有し、該ダンパマスの主振動方向である第1方向に第1の付加振動系を形成するダイナミックダンパを、
該第1方向の固有振動数を脱水時における前記回転ドラムの450rpm以上の高回転域の加振周波数にチューニングした上、
該第1方向がドラム式洗濯機の垂直方向に対して30〜60°の範囲の角度となるように前記水槽に傾斜して取り付けたことを特徴とするドラム式洗濯機の防振装置。
【請求項2】
請求項1において、前記ダイナミックダンパが、前記ダンパマスの前記第1方向とは別の主振動方向である、該第1方向と直交する第2方向に第2の付加振動系を形成するものとなしてあり、
該第2方向の固有振動数を前記第1方向の固有振動数と同等の固有振動数となした上、
該第2方向が前記水槽の前後方向を向くように前記ダイナミックダンパを該水槽に取り付けたことを特徴とするドラム式洗濯機の防振装置。
【請求項3】
請求項1,2の何れかにおいて、前記ダイナミックダンパの共振に付随する反共振の発生域が前記回転ドラムの最大回転数よりも更に高回転域となるように設定してあることを特徴とするドラム式洗濯機の防振装置。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかにおいて、前記ダイナミックダンパが前記回転ドラムの回転軸線回りに水平方向から45°の角度位置で前記水槽に取り付けてあることを特徴とするドラム式洗濯機の防振装置。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかにおいて、前記ダイナミックダンパを2個以上の複数個前記水槽に取り付けたことを特徴とするドラム式洗濯機の防振装置。
【請求項6】
請求項1〜5の何れかにおいて、前記ダイナミックダンパは、前記洗濯槽ユニットの重心を通り、前記回転ドラムの回転軸線と直交する軸上に配置してあることを特徴とするドラム式洗濯機の防振装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2012−249695(P2012−249695A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−122782(P2011−122782)
【出願日】平成23年5月31日(2011.5.31)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】